6.ドーピング防止やスポーツ仲裁等の推進によるスポーツ界の透明性、公平・公正性の向上

政策目標:

 スポーツ界における透明性、公平・公正性の向上を目指し、競技団体・アスリート等に対する研修やジュニア層への教育を徹底するなどドーピング防止活動を推進するための環境を整備するとともに、スポーツ団体のガバナンスを強化し組織運営の透明化を図るほかスポーツ紛争の仲裁のための基礎環境の整備・定着を図る。

 スポーツ界の透明性や公平・公正性を向上させることは、誰もが安全かつ公正な環境の下でスポーツに参画できる機会を充実させるための基礎条件である。また、このことは、次代を担う青少年が、スポーツを通じて、他者を尊重しこれと協同する精神、公正さと規律を尊ぶ態度等を培っていくためにも重要である。
 ドーピングについては、アスリートに重大な健康被害をもたらすことに加え、フェアプレイの精神に反し、青少年に悪影響を及ぼすなどの問題があるため、その撲滅に向けて国内外で取組が進められてきたが、国際連合教育科学文化機関(「UNESCO」)の「ドーピング防止に関する国際規約」やスポーツ基本法でも、国はドーピング防止活動の推進に必要な施策を講じることとされた。このような観点から、国際的な水準のドーピング検査やドーピングに関する教育・啓発等の防止活動の充実を図る。
 さらに、スポーツ界の透明性、公平性・公正性を高めるためには、その主体であるスポーツ団体が、社会的な責任に応える組織運営を行うことが必要であり、スポーツ基本法では、スポーツ団体が、運営の透明性を確保するとともに、スポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決に努めることとされ、国はスポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決に資するために必要な施策を講じることとされた。このような観点から、ガイドラインの策定等によりスポーツ団体のガバナンスを強化し、組織運営体制の透明度を高めるとともに、スポーツ紛争の解決のための基礎的な環境整備を図る。

(1)ドーピング防止活動の推進

1.施策目標:

 国際的な水準のドーピング検査・調査体制の充実、検査技術・機器等の研究開発の推進、情報提供体制の充実、教育・研修、普及啓発を通じた、ドーピング防止活動を充実させる。

2.現状と課題:

 今後、我が国における競技会外検査(いわゆる「抜き打ち検査」)の実施数の増加や検査技術の向上が求められると予想され、こうした状況に対応するためには、現状の検査体制のままでは十分とはいえない。
 さらに、UNESCOの「ドーピングの防止に関する国際規約」締約国会議や、世界ドーピング防止機構(「WADA」)の常任理事会・理事会において、各国におけるドーピング防止規則違反の刑事罰の法制化について議論されている。
 また、禁止物質等のインターネットでの販売や栄養補給剤等への混入が疑われる状況も見られることから、競技団体・アスリート等のドーピング防止活動に関する知識がさらに必要となってきている。学校教育においても、高等学校学習指導要領にドーピングに関する記述が盛り込まれ、平成25年度から実施されることとなっている。
 これらに加え、前述のとおり、我が国は、WADAのアジア代表常任理事国として、アジアで大きな地位を占めており、ドーピング防止活動への貢献を通じて、さらに存在感を発揮していく必要がある。
 ドーピング防止に関する取組は、競技団体の健全なガバナンスのあらわれの一つであり、競技団体は確実に取り組む必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(「JADA」)においては、国際的な水準を踏まえ、検査数の拡充、とりわけ抜き打ち検査の割合の増加や、ドーピングの高度化に対処するため、検査・調査体制の充実、検査技術・機器等の研究開発(血液採取によるドーピング検査等を含む)、ドーピング防止活動の効果や効率性を高める上での情報提供体制の充実、ドーピングに関する社会科学的なアプローチによる研究等の推進に努める。
 また、UNESCO及びWADAにおける、ドーピング防止規則違反の刑事罰法制化の議論を踏まえつつ、世界各国の取組も含め、今後の規制の在り方について調査・研究を行う。

○ 国は、JADAと連携しつつ、ドーピング防止に関する情報検索システムを構築するなど情報提供体制の充実を図るほか、例えば、競技団体・アスリート等に対する競技会場での教育(アウトリーチプログラム)を一層充実させるなど、ジュニア層からトップアスリートまでの教育・研修活動を一層推進する。また、学習指導要領改訂の趣旨を踏まえ、学校におけるドーピング防止教育を充実させる必要がある。

○ 国は、これらに加え、国際スポーツ界へ貢献し、存在感を発揮するために、JADAと協力し、WADAの常任理事国として、WADAの理事会・事務局・地域事務所の各レベルにおける連携を維持・強化する。また、アジア代表常任理事国として、WADA地域事務所と協力し、UNESCOの「ドーピングの防止に関する国際規約」の未締結国への働きかけをはじめとしたアジア地域におけるドーピング防止活動の推進や、アジア諸国との連携・貢献を図る。

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、ドーピング防止活動への支援を図る。

(2)スポーツ団体のガバナンス強化と透明性の向上に向けた取組の推進

1.施策目標:

 スポーツ団体と協力し、スポーツ団体の組織運営体制の在り方に関するガイドラインを策定すること等により、ガバナンスを強化し、透明性が高い組織運営体制を整備したスポーツ団体を継続的に増加させる。

2.現状と課題:

 スポーツは、次代を担う青少年の人格の形成に大きな影響を及ぼすものであり、公平・公正なスポーツ環境を整備することは、競技スポーツ・地域スポーツを問わず、スポーツ界全体に求められている。また、近年、企業の社会的責任の一環として組織運営の透明化や説明責任を果たすことが社会的潮流として求められるようになっている。これは、スポーツ界においても同様であり、スポーツ基本法は、第5条第2項において、スポーツ団体は、スポーツの振興のための事業を適正に行うため、その運営の透明性の確保を図るとともに、その事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成するよう努めるものとするとしている。さらに、スポーツ団体が新公益法人制度のもとで公益社団法人・公益財団法人に移行していく中で、今後一層、スポーツ団体の自助努力による適切な団体運営が求められている。
 これらのことから、一部のスポーツ団体における不祥事は、スポーツ団体全体に対する国民の信頼を失わせる可能性があり、スポーツ団体の判断や説明には大きな社会的責任が伴うことを踏まえた対処が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、統括団体、中央競技団体等スポーツ団体の代表や学識経験者等による有識者会合を設置し、スポーツ団体の組織運営体制の在り方の指針となるガイドラインを策定する。また、その効果的な活用を図るため、策定したガイドラインに基づく体制整備の状況を国庫補助やスポーツ振興基金・スポーツ振興くじ助成の内容等に反映できる仕組みについて、スポーツ団体に所属するアスリート個人へのセーフティネットも含め、検討する。

○ スポーツ団体においては、スポーツ基本法の規定を踏まえ、その運営の透明性の確保を図るとともに、国が策定したガイドラインに準拠してその事業活動に関し自らが遵守すべき基準を作成するよう自主的に努力する。その際、特に、公益財団法人日本オリンピック委員会(「JOC」)、公益財団法人日本体育協会(「日体協」)、公益財団法人日本障害者スポーツ協会(「JSAD」)においては、統括団体としての役割を踏まえ、加盟・準加盟団体のガバナンスの強化を推進することが期待される。このほか、スポーツ団体においては、団体の運営にアスリートの意見を反映する仕組みの導入や、女性の団体役員等への積極的な登用、外部役員・監査役の登用を図ることが期待される。また、小規模なスポーツ団体におけるガバナンス強化に向けた一方策として、例えば団体間の連携を図りつつ、共通する事務を協働で処理するための取組等を通じ、組織マネジメントの強化を図ることも考えられる。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、スポーツ団体が行う研修会や専門家の配置等のガバナンス強化に向けた取組を支援する。

(3)スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた取組の推進

1.施策目標:

 スポーツ団体と連携し、スポーツ仲裁の自動受諾条項を置くスポーツ団体の継続的な増加等スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた基礎的環境整備を推進する。

2.現状と課題:

 スポーツ基本法では、スポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならないとされており、アスリートのスポーツ活動が不当に妨げられることのないようにする必要がある。また、同法第5条3項において、スポーツ団体は、スポーツに関する紛争について迅速かつ適正な解決に努めるとされており、さらに、同法第15条において、国は、スポーツに関する紛争の仲裁又は調停を行う機関への支援、仲裁人等の資質の向上等スポーツに関する紛争の迅速かつ適正な解決に資するために必要な施策を講ずるとされている。
 競技団体による代表選手選考やドーピング違反による資格停止処分等をめぐる紛争に対し、JOC、日体協、JSADの3団体は平成15年に一般財団法人日本スポーツ仲裁機構(「JSAA」)を設立し、スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた体制整備に自ら取り組んできているが、スポーツ仲裁自動受諾条項の採択状況は、JOC、日体協及びその加盟・準加盟団体の合計では47.1%、JSAD及びその加盟・準加盟団体の合計では13%となっている。これについては、スポーツ団体の財政的余裕が無いために、仲裁申立てに対応する弁護士費用が捻出できないとの指摘もある。
 これらのことから、国とスポーツ団体が連携し、スポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた基礎的体制整備を行うことが課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、JSAAと連携し、統括団体及び競技団体並びにアスリートのスポーツ仲裁・調停に関する理解増進を図るとともに、仲裁人・調停人等スポーツ仲裁に関わる専門的人材の育成を推進する。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、JSAAが行うスポーツ紛争の迅速・円滑な解決のための取組を支援する。

○ JOC及び日体協の加盟・準加盟団体等並びにJSAD及びその加盟・準加盟団体等においては、スポーツ仲裁自動受諾条項を採択し、スポーツ紛争の迅速・円滑な解決のための環境を整備することが期待される。また、JOC、日体協及びJSADにおいては、我が国のスポーツ団体を統括する立場にあることから、JSAAと連携し、加盟・準加盟団体におけるスポーツ紛争の予防及び迅速・円滑な解決に向けた取組を推進することが期待される。

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スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)