4.国際競技力の向上に向けた人材の養成やスポーツ環境の整備

政策目標:

 国際競技力の向上を図るため、競技性の高い障害者スポーツを含めたトップスポーツにおいて、ジュニア期からトップレベルに至る体系的な人材養成システムの構築や、スポーツ環境の整備を行う。
 そうした取組を通して、今後、夏季・冬季オリンピック競技大会それぞれにおける過去最多を超えるメダル数の獲得、オリンピック競技大会及び各世界選手権大会における過去最多を超える入賞者数の実現を図る。これにより、オリンピック競技大会の金メダル獲得ランキングについては、夏季大会では5位以上、冬季大会では10位以上をそれぞれ目標とする。
 また、パラリンピック競技大会の金メダル獲得ランキングについては、直近の大会(夏季大会17位(2008/北京)、冬季大会8位(2010/バンクーバー)以上をそれぞれ目標とする。

 アスリートは、不断の努力の積み重ねにより、人間の可能性の極限を追求している。また、同時に、その活躍は、国民に誇りと喜び、夢と感動などをもたらすものである。スポーツ基本法では、アスリートが、オリンピック競技大会やパラリンピック競技大会等の国際競技大会等において優秀な成績を収めることができるよう、スポーツに関する競技水準の向上に資する諸施策について、相互の有機的な連携を図りつつ、効果的に推進されなければならないと定められている。
 こうしたことを踏まえ、国際競技力の向上を図るためには、ジュニア期からトップレベルに至る戦略的支援の強化や、スポーツ指導者等の養成・研修、強化・研究活動等の拠点構築といった育成プログラム、人材、拠点という三つの観点から取り組むことが必要である。

(1)ジュニア期からトップレベルに至る戦略的支援の強化

1.施策目標:

 トップアスリートを発掘・育成・強化するため、スポーツ団体や強化・研究関係機関、地域等との連携により、ジュニア期からトップレベルに至る体系的かつ戦略的な支援を強化する。

2.現状と課題:

 国際競技大会等における我が国のアスリートの活躍は、国民に日本人としての誇りと喜び、夢と希望をもたらし、国民意識を高揚させるとともに、社会全体に活力を生み出し、国際社会における我が国の存在感を高めるものである。我が国のアスリートによるメダル獲得は、その一つのあらわれである。
 しかしながら、アスリートによるメダル獲得の状況、とりわけ金メダルの獲得状況は、強豪国と比較しても、世界のトップクラスであるとは言い難い。直近5回のオリンピック競技大会を見ても、我が国の金メダル獲得ランキングは、最高で夏季大会は5位(2004/アテネ)、冬季大会は7位(1998/長野)であるものの、直近の夏季大会は8位(2008/北京)、冬季大会は20位(2010/バンクーバー)にとどまっている。また、直近5回のパラリンピック競技大会を見ると、最高で夏季大会は10位(1996/アトランタ、2004/アテネ)、冬季大会は4位(1998/長野)であるものの、直近の夏季大会は17位(2008/北京)、冬季大会は8位(2010/バンクーバー)にとどまっている。
 これらについては、トップアスリート層(オリンピック競技大会直前の世界選手権大会等において好成績を収めているアスリート層)のオリンピック競技大会におけるメダル獲得率が強豪国と比べて低く、また、そもそも我が国のトップアスリート層が強豪国と比べて厚くないこと、競技性の高い障害者スポーツに関しては、統括団体及び中央競技団体の組織が、健常者の団体に比べてさらに脆弱であり、アスリートの発掘・育成・強化が困難な状況にあること等が原因であると考えられる。
 さらに、オリンピック競技大会においては、女性が参加できる競技数(メダル数)が増加しており、特に、近年の夏季大会で我が国の女性アスリートのメダル獲得率は男性アスリートより高い。こうした分野における競技力の向上は、重要な課題となってきているが、女性アスリートに対する効果的な支援の在り方についてはいまだ研究・開発の途上にある。
 また、中央競技団体及び強化・研究関係機関においては、競技水準の向上を図るための情報その他のスポーツに関する国内外の情報の収集やその活用・発信が十分とはいえないという課題も見られる。

3.今後の具体的施策展開:

○ 各競技において、優れた素質を有するアスリートが、一貫した指導理念に基づいて、トップアスリートへと育成されるシステムが重要であり、個人の特性等に応じた最適な指導を受けることができるような仕組みが求められる。このため、国は、中央競技団体において、中・長期的なプランに基づいて、効果的にアスリートの強化を図ることができるよう、強化活動全体を統括するナショナルコーチ等の専門的なスタッフの配置を支援する。

○ 国は、メダルを獲得できる潜在的な能力を有するアスリートの発掘・育成・強化を図り、トップアスリート層を厚くしていくような育成システムを構築していくため、独立行政法人日本スポーツ振興センターと連携し、公益財団法人日本オリンピック委員会(「JOC」)又は中央競技団体等に対し、システム構築全体に関わる戦略を統括するスタッフや、指導方法、情報戦略等の専門分野から助言等を行う専門スタッフチーム等の配置を支援する。

○ 国及び日本スポーツ振興センターは、中長期的な視点から、将来性の豊かなジュニアアスリートを発掘・育成していくため、その育成システムを支援する。

○ 国、公益財団法人日本体育協会(「日体協」)及び開催地の都道府県は、将来性豊かなアスリートの発掘・育成を念頭に置き、ジュニアアスリートからトップアスリートまで、国際レベルを目指すアスリートが競う国内トップレベルの総合競技大会として、国民体育大会を開催する。また、スポーツ団体においては、国民体育大会以外の場も活用しながら、ジュニアアスリートの発掘・育成に取り組むことが期待される。

○ ジュニア期においては、長期的な視点に立ってアスリートを育てていくことが必要であることから、ジュニアアスリートの育成に関わるスポーツ指導者、スポーツ団体、保護者、地方公共団体及び学校等においては、個々のアスリートの特性や発達段階、学業とのバランスや本人のキャリア形成にも配慮した適切な支援に努めることが期待される。

○ 国は、こうしたアスリートの発掘・育成・強化の体制の充実に加え、我が国のトップアスリートが世界の強豪国に競り勝ち、確実にメダルを獲得することができるよう、医学・歯学・生理学・心理学・力学等のスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)、情報分野等による支援や競技用具等の開発、調査研究等からなる、多方面からの高度な支援、すなわちマルチサポートを戦略的・継続的に実施する。
 特に、女性アスリートに対する支援に関しては、国内外の女性スポーツに関する情報の収集、データベース化を行うととともに、女性特有の課題解決に向けた調査研究を行うなどの取組を推進し、支援の充実に努める。
 また、スポーツ医・科学、情報等の観点から、競技直前のアスリートのコンディションの調整等を行う選手村村外の拠点(マルチサポート・ハウス)は、有効かつ重要な支援であることから、今後、大規模な国際競技大会において、その設置に取り組む。

○ JOC、日本パラリンピック委員会(「JPC」)及び中央競技団体等においては、国際競技大会等の各種機会を活用し、国際オリンピック委員会や国際パラリンピック委員会、国際競技連盟との競技力向上に向けた情報共有の場や国際的ネットワークを構築することが期待される。

○ 我が国のスポーツ界が世界的なスポーツ・コミュニティにおいて活躍し存在感を高めていくことは重要であることから、国は、日本スポーツ振興センターと連携し、JOC、JPC及び中央競技団体による国際的ネットワークの構築が戦略的に進められるよう、その支援に取り組む。

○ 国は、トップアスリートの意欲を高める観点や、トップアスリートの強化活動に多大な貢献をしている企業スポーツを支援する観点から、これらのアスリートや企業等に対する表彰等を引き続き実施する。あわせて、JOC及びJPCにおいても、オリンピックとパラリンピックの関係に留意しつつ、関係省庁や関係団体等と連携して、成績優秀者に対する表彰等トップアスリートの意欲を高める取組を行うことが期待される。
 また、新たなスポーツ種目のうち、競技性が高まってオリンピック、パラリンピック種目になる可能性のあるような種目等も視野に入れて支援していく配慮も望まれる。

○ 国は、公益財団法人日本障害者スポーツ協会及び日本スポーツ振興センター等と連携し、競技性の高い障害者スポーツについて、さらなるメダル獲得に向けたアスリートの発掘・育成・強化や情報分野等による支援、競技用具等の開発、調査研究等を推進する。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、競技性の高い障害者スポーツを含むトップスポーツにおいてスポーツ団体が行うトップアスリートの強化活動を支援する。

(2)スポーツ指導者及び審判員等の養成・研修やキャリア循環の形成

1.施策目標:

 スポーツ指導者及び審判員等トップスポーツの推進に寄与する人材の養成や、トップアスリートからスポーツ指導者等に至るキャリアの形成を行う体制を充実させる。

2.現状と課題:

 これからも国際的な競技水準はさらに向上していくとともに、スポーツを通じた国際交流も一層発展していくと考えられる。
 こうした動きに対応していくためには、スポーツ指導者等には、従来求められてきた戦術・戦略の構築や、スポーツ医・科学等に関する知識等を活用した強化方法の立案・指導を行う能力に加え、国際コミュニケーション等の新たな能力が求められる。また、関係する業務の量も増大することから、スポーツ指導者等の人数も今のままでは厳しい状況になることが予想される。
 中央競技団体等において、必要なスポーツ指導者等が十分に確保されておらず、次世代のトップアスリートの養成が必ずしも円滑に行われていないなど、アスリートがスポーツ指導者等になるためのキャリア循環が十分とはいえない状況である。
 障害者スポーツの統括団体及び中央競技団体の組織については、健常者の団体に比べてさらに脆弱であり、アスリートの発掘・育成のために必要なスポーツ指導者や専門スタッフ等が十分確保されていないことが課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

○ JOCにおいては、スポーツ指導者等が高度な専門的能力を習得する機会として、ナショナルコーチアカデミーのさらなる充実等に取り組むとともに、国際競技大会や国際競技連盟での活躍が期待される審判員、専門スタッフ等の海外研さんの機会の確保に努めることで、中央競技団体におけるスタッフの充実に取り組むことが期待される。国は、これらのJOCの取組に対する必要な支援を引き続き行う。

○ 中央競技団体においては、JOCや日体協と連携し、ジュニア期からトップレベルに至るまで個々の特性や発達段階に応じた専門的指導が行えるよう指導者の養成及び指導者体系の構築を図るとともに、競技力向上に向けた企画立案、スポーツ科学・医学・情報等の分野に高い専門性を有するスタッフを養成・確保し、競技に関する現状分析力や情報共有の機能の強化に努めることが望まれる。特に、障害者及び健常者の中央競技団体においては、相互に連携を図ることにより、障害者の中央競技団体における、スポーツ指導者等の確保や事務局機能の強化を図ることが期待される。

○ 中央競技団体、JOC、日体協及び大学等においては、養成したスポーツ指導者等が、大学の教員等として国内で活躍する機会を確保することが期待される。また、国及び日本スポーツ振興センターと連携しつつ、国際機関や国際競技連盟、国外の競技団体等、各方面において我が国で養成した人材が活躍できる派遣システムを構築することが望ましい。

○ 国、日本スポーツ振興センター、中央競技団体、JOC及び日体協等は、女性アスリート支援の観点からも、女性のスポーツ指導者の育成方策について検討する。

(3)トップアスリートのための強化・研究活動等の拠点構築

1.施策目標:

 国際競技力の向上を推進する拠点体制として、世界水準に対応したナショナルトレーニングセンター(「NTC」)、国立スポーツ科学センター(「JISS」)、大学等の拠点を整備し、強化・研究関係機関の相互の連携強化を促進する。

2.現状と課題:

 我が国は、日本スポーツ振興センター、JOC及び中央競技団体等と連携し、トップアスリートが高度なトレーニングを行う拠点としてのNTC(競技別強化拠点を含む。)やスポーツ医・科学、情報分野等からの支援を行う拠点としてのJISSを整備してきた。世界の強豪国等における競技水準が年々向上していく中、NTCやJISSは、それぞれ世界トップレベルの拠点として、その役割を果たし、リードし続けていく必要がある。
 また、これまでNTCやJISS、大学等の強化・研究関係機関間における連携が必ずしも十分ではなく、それぞれの機関が蓄積してきた人材・知識・情報等の資源が、トップアスリートに対する強化・支援に十分に活用されていない。
 競技性の高い障害者スポーツについては、強化拠点がなく、研究の充実等も求められている。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、日本スポーツ振興センター及びJOCと緊密に連携し、オリンピック競技大会の結果やメダル獲得上位国の状況等の調査・分析を踏まえつつ、NTC及びJISSを段階的に改善し、機能を強化する。

○ このうち、NTCについては、中核拠点と競技別強化拠点との連携・協力を図り、効果的にアスリートの競技力強化ができる環境を整備する。また、海洋・水辺系競技、冬季競技等への支援やNTCの狭隘化等の課題も踏まえつつ、NTCと大学等が連携した新たな強化・研究拠点の在り方等について検討する。さらに、パラリンピアンのNTC利用については、日本スポーツ振興センター、JOC及びJPC等の関係者間における検討及びそれに基づく取組が期待される。

○ JISSについては、その機能をさらに高めるため、スポーツ医・科学、情報に関する研究の高度化及びその活用・応用を促進するとともに、アスリート支援のさらなる充実に努める。また、国内外の情報収集・活用の能力を高めるため、関係団体への情報提供に関する支援体制を充実させるとともに、国内外の研究機関との交流・連携を強化する。

○ 大学においては、競技性の高い障害者スポーツを含めたトップスポーツについて、これまでの指導・研究活動の実績等を活かしながら、高度な練習施設の活用、今後のさらなる競技力強化へ向けてのアスリート・スポーツ指導者等の人材養成や調査研究活動の充実に取り組むこと等が期待される。また、大学の教職員や学生が、アスリートや指導者等として、国際競技大会等に積極的に参加できるような配慮を行うことが期待される。

○ 国立障害者リハビリテーションセンター(「NRCD」)においては、障害者スポーツのアスリートが安全な環境において競技力の向上が図られるよう、例えばメディカルサポートのための環境整備を図るなど、競技性の高い障害者スポーツに対する支援機能を強化する。

○ NTC、JISS及び大学並びにNRCD等においては、強化・研究関係機関として、相互に連携を進め、強化・研究の活動拠点のネットワークを形成することが期待される。

お問合せ先

スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)