3.住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境の整備

政策目標:

 住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境を整備するため、総合型地域スポーツクラブの育成やスポーツ指導者・スポーツ施設の充実等を図る。

 住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境を整備することは、地域社会の再生において重要な意義を有するものであるとともに、生涯を通じた住民のスポーツ参画の基盤となるものである。このような観点から、総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)を中心とする地域スポーツクラブが、地域スポーツの担い手としての重要な役割を果たしていけるよう、さらなる育成とその活動の充実を図る。また、ライフステージに応じて住民が安心して地域でスポーツ活動に取り組んでいくためには、その基盤として、住民のニーズに応えつつ、スポーツ指導者やその活動の場となるスポーツ施設等を充実させる必要がある。さらに、地域の企業や大学は、人材や施設、研究能力等、スポーツについて豊富な資源を有しており、地域スポーツにおいて、これらを積極的に活用していくため、企業や大学等との連携を図る。

(1)コミュニティの中心となる地域スポーツクラブの育成・推進

1.施策目標:

 総合型クラブを中心とする地域スポーツクラブがスポーツを通じて「新しい公共」を担い、コミュニティの核となれるよう、地方公共団体の人口規模や高齢化、過疎化等に留意しつつ、各市区町村に少なくとも1つは総合型クラブが育成されることを目指す。
 さらに、総合型クラブがより自立的に運営することができるようにするため、運営面や指導面において周辺の地域スポーツクラブを支えることができる総合型クラブ(「拠点クラブ」)を広域市町村圏(全国300箇所程度)を目安として育成する。

2.現状と課題:

 総合型クラブは、地域の人々に年齢、興味・関心、技術・技能レベル等に応じた様々なスポーツ機会を提供する、多種目、多世代、多志向のスポーツクラブである。
 国においては、平成7年度からこのような理念による総合型クラブづくりのモデル事業を展開し、平成16年度以降は、公益財団法人日本体育協会(「日体協」)を通じて総合型クラブに支援を行っているところである。
 文部科学省の「平成23年度総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」によると、総合型クラブの設置率は平成23年7月現在、市(東京23区含む)のみの場合は90.9%であり、町村を加えると75.4%と低くなる。この地域差の背景には、各市区町村の人口規模や高齢化、過疎化等の要因が存在すると考えられる。
 スポーツ振興基本計画(平成12年策定、平成18年改訂)では、全国の各市区町村において少なくとも1つは総合型クラブを育成することを目標に掲げている。他方、これが標準と受け止められ、複数の総合型クラブを育成できる市区町村でも1つしか育成されていない原因となり、結果として、総合型クラブの育成の鈍化に繋がっていると考えられる。
 総合型クラブの自主性・主体性を支える重要な要素である財源については、平成23年7月現在、総合型クラブのうち、自己財源率が50%以下のクラブが半数以上(57.65%)を占めており、財政基盤が弱い総合型クラブが多い(文部科学省「平成23年度 総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(平成24年2月))。
 また、多様な財源の確保が期待できる法人格を取得した総合型クラブは11.4%、地方公共団体から指定管理者として委託された総合型クラブは3.7%といずれもまだ少ない。これらのことから、総合型クラブにおける自己財源の確保に向けた取組の充実が大きな課題となっている。
 さらに、総合型クラブの認知度については、公益財団法人笹川スポーツ財団の「スポーツライフ・データ2008」(平成20年)によると、総合型クラブを知らない者が約7割にのぼり、総合型クラブの理念・趣旨、特徴、地域住民の関与の仕方等に関わる情報が広く行き渡っていない。
 総合型クラブの創設や運営、活動を効率的に支援することが期待される広域スポーツセンターについては、全都道府県に設置されているものの、広域スポーツセンターに相談したことがある総合型クラブは全体の約3割に過ぎず、総合型クラブの期待に十分応えているとは言い難い状況にある。また、広域スポーツセンターについては、会費収入等の恒常的な収入基盤がないことが課題となっている。
 文部科学省の「平成22年度 総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(平成23年2月)によると、総合型クラブの設立による地域の変化として、「世代を超えた交流が生まれた」、「地域住民間の交流が活性化した」、「地域の連帯感が強まった」等の意見も掲げられており、総合型クラブは、様々なスポーツ活動を行う場を創出することはもとより、地域スポーツ活動を通して、地域の絆や結びつきを再発見するなど、官だけでなく、市民、NPO、企業等が積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」を担うコミュニティの核となることが期待されている側面もある。

3.今後の具体的施策展開:

(地域スポーツクラブの育成・支援等)

○ 国は、地方公共団体やスポーツ団体、大学・企業等と連携し、市区町村の人口規模や高齢化、過疎化等各地域の実情に応じて、望ましい総合型クラブの在り方や支援策について検討を行うとともに、その成果に基づき総合型クラブの支援策の改善を図り、各地域の実情に応じたきめ細やかな総合型クラブの育成を促進する。

○ 国は、総合型クラブへの移行を指向する単一種目(多世代・多志向)の地域スポーツクラブや、周辺の拠点クラブ・スポーツ少年団等と連携することにより総体として総合型クラブと同等の役割を果たす地域スポーツクラブ等についても支援を行うなど、総合型クラブ育成に向けた支援の対象範囲を拡大する。

○ 国は、総合型クラブを含む地域スポーツクラブの財源の拡充のため、会費収入の増加につながる会員募集の広報活動や、認定NPO法人制度の積極的な活用、地元企業とのパートナーシップの確立により幅広く寄附を集める取組、公共の施設の指定管理者となることによりその収入を運営財源にするための取組等の優良事例を収集・検討し、地方公共団体や各地域スポーツクラブに対して普及・啓発を図る。

○ 国及びスポーツ団体は、現行の「クラブ育成アドバイザー」を一層充実させ、総合型クラブの創設から自立・活動までを一体的にアドバイスできる「クラブアドバイザー(仮称)」について協議・検討し、スポーツ団体は、「クラブアドバイザー(仮称)」を育成する。

○ 国は、地域におけるスポーツ活動の推進に関し、特にその活動の功績が顕著な総合型クラブに対する顕彰の在り方を検討する。

○ 国は、広域スポーツセンターについて、拠点クラブや各都道府県総合型クラブ連絡協議会等のスポーツ関係団体・組織等との間の、地域スポーツ推進に係る役割分担を含め、その在り方を見直す。

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、総合型クラブの活動等への助成等を通じ、スポーツによる地域や世代間の交流の基盤の整備を図る。

○ 地方公共団体においては、地域スポーツクラブに対して、地域スポーツの推進という公益的な活動への一層の貢献に資するため、NPO法人格を取得することを促すことが期待される。

(地域スポーツクラブと地域との連携による課題解決等)

○ 国は、地域コミュニティの核として総合型クラブが充実・発展するよう、スポーツ・レクリエーション活動を含むスポーツだけでなく、文化・福祉活動等も展開することに資する先進事例等を収集し、情報発信する。

○ 地方公共団体においては、育成された拠点クラブが周辺の学校や地域スポーツクラブ等と効果的に連携できるよう、拠点クラブやスポーツ指導者に関する情報の提供を充実することが期待される。

○ 地方公共団体においては、総合型クラブと連携し、学校の体育に関する活動の中で総合型クラブでの体験等の機会を提供し、子どもに対する総合型クラブの認知度を向上させることが期待される。

○ 地方公共団体においては、総合型クラブが幼稚園や放課後児童クラブ(学童保育)等と連携し、スポーツ教室における運動や外遊び等の機会を増やす取組を支援することが期待される。

○ 地域スポーツクラブにおいては、地域の課題(学校・地域連携、健康増進、体力向上、子育て支援等)解決への貢献も視野に入れ、会員はもとより、広く地域住民が主体的に取り組むスポーツ活動を推進することにより、地域スポーツクラブがスポーツを通じて「新しい公共」を担うコミュニティの核として充実・発展していくことが期待される。

(総合型クラブ間のネットワークの拡充)

○ 国は、総合型クラブを世代間又は地域間の交流や様々なスポーツ活動を実践する場として充実させるため、「総合型地域スポーツクラブ交流大会(仮称)」の開催を検討する。

○ 地方公共団体においては、スポーツ団体と連携し、各都道府県にある総合型クラブ連絡協議会を支援し、総合型クラブの総合型クラブ連絡協議会への加盟を促進し、総合型クラブ間の情報共有やスポーツ交流大会等の中核となるよう組織体制を充実させるとともに、総合型クラブ連絡協議会の自立化を促すことが期待される。

○ スポーツ団体においては、総合型クラブ全国協議会の活動の充実を支援することが期待される。総合型クラブ全国協議会においては、総合型クラブの創設活動の支援、社会的な認知度向上のための広報活動、総合型クラブ育成に関する調査研究等を実施することが期待される。

(2)地域のスポーツ指導者等の充実

1.施策目標:

 地域住民やスポーツ団体等のニーズを踏まえつつ、スポーツ指導者等の養成を推進するとともに、資格を有するスポーツ指導者の有効活用を図る。

2.現状と課題:

 スポーツ指導者は、スポーツを「支える(育てる)人」の重要な要素の一つであり、大学はもとより、日体協や各競技団体、公益財団法人日本レクリエーション協会(「レク協」)をはじめ、多くのスポーツ団体においても養成や研修が行われており、量的には増加傾向を示している。
 しかし、スポーツ団体によるスポーツ指導者の需要(どのようなタイプのスポーツ指導者がどこにどれだけ必要か)が、詳細に把握できていないため、今後のスポーツ指導者の養成等において、量的・質的な目標が明確でない状況にある。
 さらに、資格を有するスポーツ指導者を地域のスポーツ活動で有効に活用する活動場所や機会が少ないことに加え、マッチングも必ずしも十分に機能していないという問題もある。
 スポーツ指導者を登録しマッチングに活用するための制度として、スポーツリーダーズバンク等が36道府県で設置されているが、過去に設置していたが廃止した地方公共団体もあり、その理由として、制度の周知不足等による低い活用率、活動の機会が少ないことによる登録スポーツ指導者の減少、個人情報保護の観点から公開できるスポーツ指導者情報が限られるなどの問題点が指摘されている。
 次に、総合型クラブや地域のスポーツ団体の組織運営が円滑にかつ効率的に行われるためには、優れた組織運営能力を有する専門的な人材であるクラブマネジャーが不可欠であるが、総合型クラブを含む地域スポーツクラブの増加に対してその養成が追いついていない状況にある。
 なお、総合型クラブのスポーツ指導者のうち、スポーツ指導者として何らかの資格を有する者は全体の42.5%にとどまっており、スポーツ指導者としての資質の面が課題となっている。また、クラブマネジャーを主たる業務とする者を配置している総合型クラブは45.5%と半数を下回っており、そのうち勤務体系が常勤である者は全体の36.0%に過ぎない。このことは、財政的な自立性が低いことが一因と考えられる。
 さらに、スポーツ基本法において地域のスポーツ推進体制の重要な部分を担うこととされている「スポーツ推進委員」(旧体育指導委員)については、平成23年度には52,531人が市区町村から委嘱されており、男女別では女性の割合が少ない。
 また、その活動内容について、同法により、地域住民のニーズを踏まえたスポーツのコーディネーターの役割が追加されたが、現状では、実技指導や市区町村教育委員会が実施するスポーツ事業の企画・立案・運営等の業務は概ね実施されているものの、総合型クラブの創設や運営への参画、スポーツ活動全般にわたるコーディネート等の取組は十分でない面も見られる。スポーツ推進のための事業の実施に係る連絡調整の役割等法律で要請されている新たな役割に対応して、さらなる注力が求められる。
 公益財団法人日本障害者スポーツ協会(「JSAD」)による障害者スポーツ指導員については、人数は増加しているものの、活躍の場所や機会が少ないとの指摘がある。一方、地域のスポーツ施設においては、障害者スポーツに知見のあるスポーツ指導者の配置が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

(スポーツ指導者の養成)

○ 国は、例えば、企業や大学の公開(寄附)講座や講習会等の開催によるスポーツ指導者の資質向上を図るなど、地元の企業や大学と総合型クラブとの連携・協働の取組を支援する。

○ 国は、総合型クラブをはじめとする地域スポーツクラブが、スポーツ指導者や運営者等を確保できるよう、地域スポーツクラブやクラブ会員等のニーズも踏まえつつ、日体協、レク協及びJSAD等が実施する養成事業や総合型クラブ等の運営を担う人材養成のための取組を支援する。

○ スポーツ団体においては、スポーツ指導者の量的・質的な需要に応えるよう、スポーツ指導者の養成事業の定期的な見直しを行うことが期待される。

○ スポーツ団体においては、若者や高齢者、女性、障害者のスポーツ指導を適切に行うことができるスポーツ指導者講習会等を実施するなど、スポーツ指導者の資質向上を図ることが期待される。

(スポーツ指導者の活用促進)

○ 国は、スポーツ団体が実施するスポーツ指導者の養成・活用に関する需要を把握するとともに、スポーツ指導者の効果的な活用方策の検討を行い、その成果を全国に普及・啓発する。

○ 国は、総合型クラブの運営者やスポーツ指導者の雇用形態の改善を図り、長期間にわたり安定して運営者やスポーツ指導者を配置できる仕組みとすることができるよう、総合型クラブが多様な財源を確保し、財政的な自立を図ることを促す税制上の優遇措置等について周知するとともに、認定NPO法人格の取得を促す。

○ 国及び地方公共団体は、大学、スポーツ団体及び企業等と連携して、スポーツツーリズムや観光によるまちづくりに関する専門的知識を有する人材の育成及びそれらの地域スポーツにおけるコーディネーター等としての活用を促進する。

○ 地方公共団体においては、学校の体育に関する活動において、総合型クラブと連携し、地域のスポーツ指導者を積極的に活用することが期待される。

○ 地方公共団体においては、体育系大学の卒業生やスポーツ指導者の有資格者等の質の高いスポーツ指導者を公共スポーツ施設や総合型クラブの支援策を担当する部署や機関で活用するとともに、指導者の研修の充実を図るなど、地域のニーズに即した人材確保、活用方策を検討することが期待される。

○ スポーツ団体においては、各団体が有するスポーツ指導者情報について、スポーツ指導者が地域スポーツ活動の場面においてより一層活用されるよう、団体間の共有化を図ることが期待される。

○ JSAD等の障害者スポーツ団体においては、障害者のスポーツ活動を支援するため、地方公共団体や他のスポーツ団体と連携を図り、健常者に対するスポーツ指導者が、障害者へのスポーツ指導を行うための講習会等の充実を図ることや、養成された障害者スポーツ指導者の活用を促進することが期待される。

(スポーツ推進委員の資質向上)

○ 国は、スポーツ推進委員について、地方公共団体に対して、熱意と能力があり、地域において効果的に連絡調整を行うことができる人材を委嘱するよう促すとともに、研修の機会の充実を図る。

○ 地方公共団体においては、スポーツ指導者の資格を有し、熱意と能力があり、地域において効果的に連絡調整を行うことができる者を、性別や年齢のバランスに配慮しつつ、スポーツ推進委員に委嘱することや、その資質向上のために研修の充実を図ることが期待される。

○ スポーツ団体においては、スポーツ推進委員の研修会を定期的に開催し資質向上に努める。また、委員として功績が顕著であった者に対する顕彰制度を充実させることが期待される。

(クラブアドバイザーの育成)

○ 国及びスポーツ団体は、現行の「クラブ育成アドバイザー」を一層充実させ、総合型クラブの創設から自立・活動までを一体的にアドバイスできる「クラブアドバイザー(仮称)」について協議・検討し、スポーツ団体は、「クラブアドバイザー(仮称)」を育成する。

○ 国は、地方公共団体と連携し、スポーツ推進委員に対して「クラブアドバイザー(仮称)」と連携を図り、総合型クラブの育成支援への一層の参画を促す。

(3)地域スポーツ施設の充実

1.施策目標:

 地域における身近なスポーツ活動の場を確保するため、学校体育施設等の有効活用や地域のスポーツ施設の整備を支援する。

2.現状と課題:

 地域におけるスポーツ活動の場であるスポーツ施設は、近年、減少傾向にあり、特に、全体の6割以上を占める「学校体育・スポーツ施設」については、ピークであった平成2年度(156,548箇所)から平成20年度(136,276箇所)までの間に約2万箇所を超える大幅な減少となっている。
 施設数が減少した背景には、少子化に伴う学校の統廃合等による学校数の減少や、地方公共団体の厳しい財政状況の下、既存の施設が閉鎖されたり、新たなスポーツ施設の整備が抑制されたこと等が影響していると考えられる。
 こうしたスポーツ施設の減少への対策として、最も身近なスポーツ施設である学校体育施設(※3)を、地域住民がこれまで以上に有効かつ効率的に活用できるようにすることが具体的な方策の一つであると考えられる。
 「学校体育・スポーツ施設」の開放の推進については、屋外運動場の80.0%、体育館の87.3%、水泳プールの26.7%が地域住民に開放されているが、施設開放は行っているものの、定期的ではない、利用手続きが煩雑である、利用方法等に関する情報が不足しているなど、地域住民のニーズに十分に対応しきれていないという指摘もある。
 その一方で、学校が保有する児童生徒に関する情報や金銭の管理、防火・防犯や電気・水道料金の負担等の観点から、学校にこれらの責任を負わせたまま開放することが困難な状況の施設も多い。
 このため、学校体育施設は、学校が地域住民へ場を提供する「開放型」から、「共同利用型」への移行を一層促進し、設置者、学校、地域社会が施設管理の責任・負担や地域住民の利用に係る調整等を協働して担うことで、地域住民の立場に立った積極的な利用の促進を図っていくことが求められる。
 なお、文部科学省「平成23年度 総合型地域スポーツクラブに関する実態調査」(平成24年2月)によると、総合型クラブの活動拠点施設の状況については、「学校体育・スポーツ施設」(54.3%)が最も多く、次いで「公共スポーツ施設」(37.7%)、「休校・廃校施設」(1.7%)、「自己所有施設」、「民間スポーツ施設」(ともに1.3%)等となっており、またクラブハウスを有する総合型クラブは52.3%となっている。総合型クラブ以外の単一種目型の地域スポーツクラブ、スポーツ少年団等の既存のスポーツ団体も、学校開放による学校体育施設と公共スポーツ施設の利用に大きく依存しており、学校体育施設の開放促進は、地域スポーツクラブの活性化の観点からも重要な課題である。
 また、スポーツ施設の耐震化も重要な課題であるが、地方公共団体が設置する体育館のうち耐震化されているものは全体の6割強であり、施設利用者の安全の確保のためには、耐震化を早急に進める必要がある。
 障害者スポーツの施設面の現状については、障害者の健康の保持増進を図り、もって障害者の福祉の向上に寄与すること等を目的とした障害者スポーツセンターは、運営面や指導面、施設面等において障害者が利用しやすいよう様々な面で工夫がなされており、平成22年現在、全国に計23箇所ある。スポーツ基本法の趣旨を踏まえ、今後障害者が、障害者スポーツセンターのみならず、より身近な地域のスポーツ施設においてスポーツに親しむことができるよう、地域のスポーツ施設における障害者に配慮した施設・設備の整備が課題となっている。


※3 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校の体育施設を指す。

3.今後の具体的施策展開:

(既存施設の共同利用・活用の促進)

○ 国及び地方公共団体は、学校体育施設や公共スポーツ施設の夜間照明施設の設置等による利用可能時間の拡大、休校・廃校や空き教室等の積極的な活用による地域スポーツにおける身近な活動場所の拡充を推進する。

○ 国は、学校体育施設の地域との共同利用化について、先進事例を収集し、地方公共団体に対して普及・啓発を図る。

○ 地方公共団体においては、休日におけるグラウンドや体育館の一般開放等の定期的な施設開放の実施や、時間帯・予約方法の工夫等による稼働率の向上を図るとともに、学校体育施設開放に係る責任・負担や利用調整等を地方公共団体・学校・地域が共同して担うことが可能となる施設の運営方法を検討し、共同利用化をより一層推進することが期待される。

○ 地方公共団体においては、学校体育施設や公共スポーツ施設等が「新しい公共」を担う地域コミュニティの核となる機能を充実・強化するため、地域住民の交流の場となるよう、ロッカールーム、温水シャワー、セミナー室、談話室等を備えたクラブハウスの整備を推進することが期待される。

○ 地域スポーツクラブにおいては、子どもを持つ親のスポーツ参加機会を増やすために、クラブハウス等の拠点施設に託児室や授乳室等を設置するように努めることが期待される。

○ 企業及び大学においては、地域住民が広く活用できるよう、休業日等においてスポーツ施設を開放することが期待される。

○ 国は、公共スポーツ施設の指定管理者として、法人格を有する総合型クラブを指定するなどの先進事例を調査し、情報提供を行う。

○ 地方公共団体においては、地域の実情に応じて公共スポーツ施設の指定管理者として総合型クラブを積極的に活用することが期待される。

(スポーツ施設の整備・充実)

○ 国は、国立青少年教育施設・国営公園等におけるハイキング、トレッキング、サイクリングやキャンプ活動等野外活動やスポーツ・レクリエーション活動の場となる施設等の整備を図る。

○ 国は、障害者がより身近な地域のスポーツ施設においてスポーツに親しむことができるよう、健常者も障害者もともに利用できるスポーツ施設の在り方について検討する。

○ 地方公共団体においては、子どもや女性、高齢者、障害者を含む全ての地域住民が楽しく安全にスポーツ・レクリエーション活動を含むスポーツに親しめる環境を創り出すため、バリアフリー化や耐震化、グラウンドの芝生化等の公共スポーツ施設等の充実に努めることが期待される。国においては、地方公共団体が行う公共スポーツ施設等の充実のための取組を支援する。

○ 地方公共団体においては、民間の資金や経営手法等の導入による多様な手法を活用し、学校体育施設や公共スポーツ施設等の整備又は管理運営を工夫することが期待される。国は、先進事例等の調査・情報提供等によりこうした取組を支援する。

○ 日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、地域住民のスポーツ活動の拠点となる学校のグラウンドの芝生化等身近なスポーツ施設の整備を支援する。

(4)地域スポーツと企業・大学等との連携

1.施策目標:

 企業や大学に蓄積された人材やスポーツ施設、スポーツ医・科学の研究成果等を地域スポーツにおいて活用するための連携・協働の推進を図る。

2.現状と課題:

 地域のスポーツ環境を充実させるためには、地方公共団体、学校、地域スポーツクラブ、大学、企業等地域における様々な主体が、スポーツ推進に関連し保有する様々な資源を最大限活用しつつ連携・協働して取り組んでいくことが重要である。このことは、スポーツ界の好循環の創出にも必要となると考えられる。
 企業のスポーツチームは、優れたアスリートやスポーツ指導者等が在籍するほか、スポーツ施設を保有しており、こうした人的・物的資源を地域に提供することにより、地域に根ざした企業活動に結びつける取組も行われている。
 今後、地方公共団体において、こうした地元企業による取組を地域の活性化に積極的に活用していくことが必要である。
 また、スポーツ産業による用具等の研究開発については、競技水準の向上や安全なスポーツ環境の確保等、地域におけるスポーツ環境を支えるものであるが、大学や地域スポーツの関係者との連携を深め、地域のニーズにも応えるよう活動を充実させる必要がある。
 他方、大学、特に体育系大学・学部は、アスリート等が知識や技能を獲得する人材育成の場であるとともに、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)に関する高度な研究の場となっている。しかしながら、現状では、これらの活動は、大学で完結するかたちで行われがちであり、地域における他の主体との連携・協働は拡充の余地が大きい。
 また、その保有する高度なスポーツ施設を地域に提供することにより、地域スポーツの拠点となる取組も一部の大学で着手されており、地域のスポーツ環境を充実させるためには、こうした大学の社会貢献活動が広く行われるようにすることも課題である。
 さらに、スポーツ基本法に基づき、障害者スポーツについて、障害の種類に応じて必要な配慮が求められていること、スポーツを健康の保持増進の観点から効果的に活用していくこと、スポーツ事故等に対応した安全なスポーツ環境を整えること等が求められているが、こうした高度な課題に十分に対応できる知見や推進体制が整っていないのが現状である。これらに対応するため、地域スポーツにおいて、企業や大学との連携・協働を推進し、その資源を積極的に活用する必要がある。

3.今後の具体的施策展開:

○ 国は、地域スポーツにおけるスポーツ指導者やクラブマネジャー等の優れた人材を確保するために、例えば、企業や大学による地域スポーツクラブ向けの公開(寄附)講座や講習会等の開催等、地域スポーツクラブと地元の企業や大学との連携・協働の取組を支援する。

○ 国は、健常者と障害者が同じ場所でスポーツを行うための方法や、スポーツ障害・事故防止策、地域の活性化につながるスポーツ・レクリエーションプログラム等について、大学等での研究成果や人材を広く地域スポーツに活用するための取組を推進する。

○ 地方公共団体においては、スポーツを地域振興に積極的に活用するため、スポーツ団体だけでなく、地元企業(地域のスポーツチームを有する地元の企業を含む)や大学と連携・協働することが期待される。また、拠点クラブによる地元の企業や大学との連携・協働を推進することが期待される。

○ 国及び地方公共団体は、例えばスポーツツーリズムによる地域活性化を目的とする連携組織(いわゆる「地域スポーツコミッション」)等の設立を推進するなど、スポーツを地域の観光資源とした特色ある地域づくりを進めるため、行政と企業、スポーツ団体等との連携・協働を推進する。

○ 企業においては、地方公共団体や大学等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、地方公共団体や企業等との連携・協働により、スポーツ医・科学研究や人材の交流、施設の開放、総合型クラブの運営や地元のジュニアアスリートの発掘・育成、スポーツ指導者等の養成等スポーツを通じた地域貢献活動を実施することが期待される。

○ 大学においては、学生によるスポーツボランティア活動を支援することが期待される。

お問合せ先

スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)