2.若者のスポーツ参加機会の拡充や高齢者の体力つくり支援等ライフステージに応じたスポーツ活動の推進

政策目標:

 ライフステージに応じたスポーツ活動を推進するため、国民の誰もが、それぞれの体力や年齢、技術、興味・目的に応じて、いつでも、どこでも、いつまでも安全にスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会の実現に向けた環境の整備を推進する。
 そうした取組を通して、できるかぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実施率が3人に2人(65%程度)、週3回以上のスポーツ実施率が3人に1人(30%程度)となることを目標とする。また、健康状態等によりスポーツを実施することが困難な人の存在にも留意しつつ、成人のスポーツ未実施者(1年間に一度もスポーツをしない者)の数がゼロに近づくことを目標とする。

 人々がライフステージに応じてスポーツ活動に取り組むことは、生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営むために不可欠である。このような観点から、国民の誰もが、各人の自発性のもと、各々の興味・関心・適性等に応じて日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、スポーツを支え、スポーツを育てる活動に参画できる環境の整備を図る。その際、障害者が自主的かつ積極的にスポーツ活動に取り組めるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をすることが必要である。
 また、スポーツを行う者の安全性を確保するため、医学・歯学・生理学・心理学・力学をはじめ経営学や社会学等を含めたスポーツ医・科学(「スポーツ医・科学」)の研究成果を活用しつつ、スポーツ事故その他スポーツによって生じる外傷、障害等の防止及びこれらの軽減を図る。

(1)ライフステージに応じたスポーツ活動等の推進

1.施策目標: 

 年齢、性別を問わず人々がスポーツを行うようにするとともに、既にスポーツを行っている者についてはさらなる実施頻度の向上を目指し、ライフステージに応じたスポーツ参加等を促進する環境を整備する。

2.現状と課題:

 内閣府の「体力・スポーツに関する世論調査」(平成21年9月)によると、週1回以上運動・スポーツを行う成人の割合は45.3%と概ね2人に1人、週3回以上は23.5%と概ね4人に1人となっている。世代別に見ると、週1回以上、週3回以上ともに20歳代、30歳代が他の世代と比べて低くなっている。
 一方、運動・スポーツを年に1回も行わない成人の割合は、平成12年度には全体で31.9%であったものが、平成21年度には22.2%まで低下しているが、これを男女別に見ると概ね女性の方が高く、また年齢別に見ると、年齢が高くなるほど高くなっている。
 次に、運動・スポーツを行った理由を見ると、「健康・体力つくりのため」、「楽しみ、気晴らしとして」、「友人、仲間との交流として」という動機が強い傾向としてうかがえるため、このようなニーズにあった運動・スポーツを行える機会や環境を整備することが運動・スポーツを行う成人の割合を増やすために重要となると考えられる。
 運動・スポーツを行わなかった理由を世代別に見ると、「仕事(家事・育児)が忙しくて時間がない」が20~60歳代で最も多く挙げられ、70歳以上では「体が弱いから」、「年をとったから」等の理由が大きな割合を占めており、運動・スポーツを行う際の阻害要因は世代によって異なる。また、スポーツ推進についての国や地方公共団体への要望の上位に「年齢層にあったスポーツの開発普及」が挙げられている。
 これらのことから、多くの国民は、国や地方公共団体に年齢による生活の変化に対応してスポーツ活動を行える環境を整えることを期待していると考えられる。
 また、「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」(平成12年~平成24年)の最終評価においては、意識的に運動を心がけている人の割合は増加したが、運動習慣者の割合は変化がなく、運動・身体活動の重要性を理解しているものの行動に移せない状況にあることから、行動変容を促すことが求められている。
 スポーツを「支える人」の重要な要素であるスポーツボランティアは、地域スポーツクラブ等のスポーツ団体において、日常的に運営やスポーツ指導を支えたり、国際競技大会や地域スポーツ大会等の運営を支えるなどしており、スポーツ推進のために一層の活躍が期待されている。
 公益財団法人笹川スポーツ財団の「スポーツライフ・データ2010」(平成22年)によると、スポーツボランティア活動に携わる成人の割合は、平成13~平成22年の10年間、7~8%前後で推移しており、直近の平成22年は成人の8.4%、すなわち約870万のスポーツボランティアが存在すると推計されるが、スポーツ推進のためには、その数がさらに増加することが望まれる。
 また、年間の活動状況については、『日常的な活動』の「スポーツ指導」(平均38.6回)が最も多く、次いで「団体・クラブの運営や世話」(平均24.6回)、「スポーツの審判」(平均17.9回)と続き、スポーツボランティアは日常的なスポーツ活動に主として取り組んでいる。地域スポーツ推進の観点から、このような日常的・継続的な活動に対する評価・顕彰を行うことも考えられる。
 スポーツ基本法の規定において、スポーツは、障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類や程度に応じ必要な配慮をしつつ推進することが求められている。障害者スポーツについては、例えばスペシャルオリンピックス等さまざまなスポーツ活動を通じた障害者の自立や社会参加を促す取組も進められている。公益財団法人日本障害者スポーツ協会による障害者スポーツ指導員については、人数は増加しているものの、活躍の場所や機会が少ないとの指摘がある。一方、地域スポーツにおいては、障害者のスポーツ活動に知見のあるスポーツ指導者の確保や障害者に配慮した施設・設備の整備が課題となっている。

3.今後の具体的施策展開:

(スポーツ実施率の向上)

○ 国は、各年齢層や性別等ライフステージに応じたスポーツ活動の実態を把握する調査研究を行い、ライフステージに応じたスポーツ活動を促進するための方策を検討する。

○ 国は、独立行政法人、地方公共団体、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携を図りながら、スポーツ医・科学の研究成果を活用し、心身の健康の保持・増進のために各年齢層、性別等ごとに日常的に望まれる運動量の目安となる指針・基準の策定を行い、その普及・啓発を図る。  

○ 独立行政法人日本スポーツ振興センターは、助成等を通じ、総合型地域スポーツクラブ(「総合型クラブ」)や地方公共団体等が行う地域におけるスポーツ活動を支援する。

(多様な主体のスポーツ参加の促進)

○ 国は、スポーツ実施率の低い比較的若い年齢層(20歳代、30歳代)のスポーツ参加機会の拡充を図るため、これらの年齢層のスポーツ参加が困難な要因を分析する。地方公共団体やスポーツ団体においては、スポーツに身近に親しむことが出来る交流の場を設定するなど、スポーツ活動に参加しやすい機会を充実させることが期待される。            

○ 国は、独立行政法人、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携し、仕事や家事・育児とのバランスを図りながら日常的に気軽にスポーツに親しめるよう、仕事や家事・育児の合間に行える運動等について開発を行い普及・啓発を図る。    

○ 国は、高齢者に対するスポーツ参加機会の拡充を図るため、環境・嗜好・適性に応じて高齢者が無理なく日常的に取り組むことのできる、日常生活動作を活かした運動等の多様なスポーツ・レクリエーションプログラムを開発し、その普及・啓発を図る。

○ 国は、総合型クラブ等において行われる、スポーツが苦手な人でも楽しく、気軽にスポーツに親しめるスポーツ・レクリエーション活動を支援する。

○ 国は、旅行先で気軽に多様なスポーツに親しめるスポーツツーリズムを推進し、ライフステージに応じたスポーツ機会を向上させる取組を推進する。

○ 国及び地方公共団体は、地域のスポーツ施設やスポーツ指導者に対する障害者のニーズを把握する。また、障害者スポーツ団体等と連携を図りつつ、地域のスポーツ施設が障害者を受け入れる際に必要な運営上・指導上の留意点に関する手引きや、新しい種目、用品・用具等の開発・実践研究を推進する。

○ 国は、障害者の競技大会への参加や旅行先でもスポーツに親しめる機会を充実するため、民間事業者等と連携し、障害の有無にかかわらず移動・旅行ができる環境整備に取り組む。

○ 地方公共団体においては、職業人・社会人として経験を積み、生活が安定し、子育ても一段落するなど、余暇時間を自分のために使える年齢層や定年退職を迎え、仕事中心の生活から地域における生活に比重が移行していく年齢層が、スポーツボランティア等のスポーツ活動を通じて、地域社会に参加し積極的な役割を得ることができるよう、スポーツプログラムやスポーツイベント等様々な機会を提供することが期待される。

○ 地方公共団体や総合型クラブ等のスポーツ団体においては、親子や家族がともに参加できるスポーツ教室やスポーツイベントの開催等を通じて、スポーツ未実施者やスポーツが苦手な人に対するスポーツへの参加のきっかけづくりに取り組むことが期待される。

○ 総合型クラブ等の地域スポーツクラブにおいては、若者デーやレディースデーを設けるなど特定の年齢層・性別等をターゲットに、スポーツプログラムやスポーツ教室、スポーツイベント等を開催することが期待される。  

○ 職場において、「スポーツのためのノー残業デー」を設けたり、社内報でスポーツの重要性を広報するなど積極的な取組が期待される。

(スポーツボランティア活動の普及促進)

○ 国は、地方公共団体、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携を図りつつ、スポーツボランティア活動に関する事例の紹介等の普及・啓発活動を通して、スポーツボランティア活動に対する国民の関心を高める。

○ 地方公共団体においては、スポーツボランティアとして大きな貢献がある者を、例えば「スポーツボランティアマスター」(仮称)として認定しその功績を称えること等により、スポーツボランティア活動を奨励することが期待される。

○ 地方公共団体やスポーツ団体等においては、地域住民が、日常的に総合型クラブをはじめとした地域スポーツクラブやスポーツ団体等の運営に参画できたり、校区運動会や地域スポーツ大会等のスポーツイベントの運営・実施やスポーツの指導に参画できる環境を整えることが期待される。

(2)スポーツにおける安全の確保

1.施策目標:

 安心してスポーツ活動を行うための環境を整備し、スポーツによって生じる事故・外傷・障害等の防止や軽減を図る。

2.現状と課題:

 スポーツ事故その他スポーツによって生じる外傷、障害等の防止及びこれらの軽減を図ることは、安全な環境のもとで日常的にスポーツに親しむために不可欠である。
 現在、スポーツ事故・外傷・障害等の全般的な状況を示すデータは存在しないが、財団法人スポーツ安全協会の「スポーツ安全保険」では、平成21年度に18万7,763件の傷害保険支払の実績があり、この他にもスポーツ事故・外傷・障害等が非常に多く発生していることが推測されるため、地域スポーツにおける事故・外傷・障害等の実態を把握し、軽減することが喫緊の課題となっている。
 また、スポーツ活動中の事故・外傷・障害等の防止や軽減を図るためには、スポーツ用具の安全性を確保することや、実技指導にあたるスポーツ指導者が、必要な知識・技術を習得して指導に活用することが重要となる。
 スポーツ用具の安全性の確保については、施設管理者がスポーツ用具の定期的な点検や保管管理について一層の配慮を行うことが必要である。
  また、スポーツ指導者の育成については、公益財団法人日本体育協会及び公益財団法人日本レクリエーション協会等による公認スポーツ指導者の資格取得課程のカリキュラムでは、心肺蘇生法や外傷・障害等に対する救急処置等のスポーツ外傷・障害等の予防や対処法、熱中症の予防等が必修とされている。しかし、現場のスポーツ指導者の全てがスポーツ指導者資格を有しているわけではなく、また、資格を有している者についても、常に最新のスポーツ医・科学に関する知見を習得し続けることは容易ではない。  
 さらに、スポーツを行う際には、特に生死にかかわる急な心肺停止等についても十分対処できるようにしておくことが重要である。
 現在、スポーツ実施中に限定した心肺機能停止傷病者の発生数や除細動の実施による救命率等のデータは存在しないが、総務省消防庁の「救急統計活用検討会報告書」(平成22年3月)によると、公共の場所における自動体外式除細動器(「AED」)の設置台数の増加により、早期除細動が実施され、心肺機能停止傷病者の社会復帰率の増加に寄与したという結果が報告されている。このため、スポーツ施設にAEDを設置することは人命救助に大きく寄与する喫緊の課題である。
 現在、様々な施設にAEDが設置され、地方公共団体や医療機関、スポーツ団体等によりAED設置状況の公開や、利用方法等の研修会が行われ、人命救助のために大きな力となっている。しかし、現状では、必ずしも全てのスポーツ施設にAEDが配置されているわけではなく、また施設利用者側も十分意識していなかったり、自らAEDを携行したりすることが少ないという問題もある。

3.今後の具体的施策展開:

(スポーツ安全に関する情報分析・研究及び成果の活用)

○ 国は、独立行政法人、大学・研究機関、スポーツ団体、民間事業者等と連携を図りつつ、全国的なスポーツ事故・外傷・障害等の実態を把握し、その原因を分析して、スポーツ事故・外傷・障害等の確実な予防を可能にするスポーツ医・科学の疫学的研究の取組を推進する。  

○ 国立スポーツ科学センターは、開発した高度なスポーツ医・科学の研究成果をスポーツ事故・外傷・障害等の防止等に活用し、人々の日常のスポーツ活動に広く還元する。

○ 地方公共団体においては、スポーツ医・科学の成果を地域スポーツの様々な場面で活用できるよう、スポーツ事故・外傷・障害等に関するデータの整備・提供や、研究者を講師とする研修等において研究成果の普及・啓発を図ることが期待される。

○ 国、独立行政法人、地方公共団体及びスポーツ団体等は、スポーツ指導者やクラブマネジャー、スポーツイベントの主催者、スポーツ施設の管理者等を対象として、スポーツ事故・外傷・障害等に関わる最新のスポーツ医・科学的知見を学習するための研修やスポーツ用具の定期的な点検及び適切な保管管理に関する啓発の機会を設けるとともに、スポーツドクター等地域の医療機関の専門家等との連携を促進するなど、スポーツ事故・外傷・障害等を未然に防止するための取組を推進する。あわせて、スポーツに関する保険制度について普及を促すなど、事故対応に係る意識の啓発を促進する。

(AEDの活用)

○ 国は、地方公共団体やスポーツ団体に対して、スポーツ事業の実施・運営にあたり、AED設置の確認や携行、機器を使用できる者の会場配置等、不測の事態が生じた際に速やかにAEDを使用できる体制整備を図るよう普及・啓発する。

○ 地方公共団体においては、保有する公共スポーツ施設等におけるAEDについて、定期的な点検や適切な保管管理を行うとともに、その設置の有無や、設置の機器のタイプ等を表示して、施設利用者に周知することが期待される。

(スポーツ施設等の安全対策)

○ 国は、国立青少年教育施設・国営公園等におけるハイキング、トレッキング、サイクリングやキャンプ活動等野外活動やスポーツ・レクリエーション活動の場となる施設等の安全確保を図る。

○ 地方公共団体においては、子どもや女性、高齢者、障害者を含む全ての地域住民が楽しく安全にスポーツ・レクリエーション活動を含むスポーツに親しめる環境を創り出すため、バリアフリー化や耐震化等の公共スポーツ施設等の安全確保に努めることが期待される。国においては、地方公共団体が行う公共スポーツ施設等の安全確保対策を支援する。

お問合せ先

スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室

(スポーツ・青少年局スポーツ・青少年企画課スポーツ政策企画室)