急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(諮問)

5文科高第930号
令和5年9月25日
中央教育審議会

次に掲げる事項について,別紙理由を添えて諮問します。

 

急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について

 

令和5年9月25日

文部科学大臣    盛山  正仁

 

(理由)
 今、学校で学んでいる子供たちが社会の中心になって活躍する21世紀半ばの社会は、あらゆる側面において、これまでの日本社会の仕組みの延長線上では対応できない事態に直面することが想定され、我が国の高等教育は、今まさに歴史の転換点に立っています。
 とりわけ、少子化は、我が国が直面する最大の危機です。2022年の出生数は77万759人となり、統計を開始した1899年以来、最少の数字となっています。このままでは、100万人の大都市が毎年1つ消滅するようなスピードで人口減少が進むことも予想され、我が国は、まさに社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際と呼ぶべき状況に置かれていると言えます。こうした状況に歯止めをかけ、2030年代に入るまでに少子化の流れを反転させるために、政府を挙げて少子化対策に取り組んでいるところです。
 少子化の進行の中で、我が国の高等教育機関への進学者数の推移を見ると、主たる進学者である18歳人口が、ピーク時である1966年の約249万人から2022年には約112万人へと半分を大きく割り込む中で、大学進学者数は約29万人から約64万人へとその規模を拡大し続けてきました。しかし、仮に急速な少子化に伴う18歳人口の減少が推計どおりに進行すれば、今後の大学進学率の伸びを加味しても、2040年の大学入学者数は約51万人に、さらには2050年までの10年間は50万人前後で推移すると推計されています。
 
 少子化の進行以外にも、高等教育を取り巻く状況は大きく変化しています。
 コロナ禍を契機として遠隔教育が急速に普及し、その可能性と課題が明確になったことは、学生や教職員がキャンパスに集まって行われてきた従来の高等教育の在り方を抜本的に変えることも予測されます。また、ウクライナ情勢をはじめ国際情勢が不安定化し、世界経済の停滞や国際的分断の進行の懸念も高まっている中で、留学生交流や高等教育機関の国際交流も大きな転換期を迎えています。加えて、我が国の研究力低下が指摘されている中で、研究力の強化が喫緊の課題となっています。
 このような状況の中、文部科学省では、2018年の答申「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」(以下「グランドデザイン答申」という。)以降、学修者本位の教育への転換を図り、教学マネジメント指針の策定や大学設置基準等の改正等を行うなど高等教育の質を高めるための取組を行ってきました。また、教育と両輪である研究についても、国際卓越研究大学制度や地域中核・特色ある研究大学強化促進事業などの仕組みを創設しています。一方で、初等中等教育段階においては、GIGAスクール構想による1人1台端末等のICT 環境の整備の進展や、高等学校での「総合的な探究の時間」等における問題発見・課題解決的な学習活動の充実など、今後高等教育機関へ進学する生徒の学びにも変化が見られます。
 また、教育費負担の軽減策として、高等教育の修学支援新制度が導入され、低所得者世帯の進学率が着実に上昇しつつあります。加えて、2023年5月のG7富山・金沢教育大臣会合では国際教育交流が重要な取組として位置付けられています。さらに、政府全体では、デジタルの力を活用した地方創生や、リスキリングによる能力向上支援などの労働市場改革も進められています。
 そのような中で、一人一人の実りある生涯と我が国の持続的な成長・発展を実現し、人類社会が調和ある発展をしていくためには、人材育成と知的創造活動の中核である高等教育機関が一層重要な役割を果たすことが求められます。とりわけ、今後の複雑に変化する社会においては、基礎的で普遍的な知識・理解と汎用的な技能に加えて、その知識を活用でき、ジレンマを克服することも含めたコミュニケーション能力を持ち、自律的に責任ある行動をとれる人材を育成することが特に重要となっています。学生が文理横断的にこうした知識、スキル、態度及び価値観を身に付け、AIには果たせない真に人が果たすべき役割を十分に考え、実行できるよう、高等教育機関においては、初等中等教育段階における取組も踏まえ、そのような人材の育成に取り組むことが必要となります。また、社会に出た後も、新たに必要とされる知識、スキル、態度及び価値観を身に付け、またそれを更新していくためのリカレント教育も一層求められています。そして、このような人材の育成が、ひいては個人及び社会のウェルビーイング(Well-being)の実現につながるものと考えます。
 
 このような要請に応え、高等教育機関が求められる役割を真に果たすことができるようにするためには、今後の高等教育全体の適正な規模を視野に入れた地域における質の高い高等教育へのアクセス確保の在り方や、国公私の設置者別や機関別等の役割分担の在り方の明確化などを図りつつ、各機関の教育研究の質の一層の向上を図ることが必要です。また、これらを実現するための方策についても検討する必要があります。
 
 以上のような問題意識の下、中長期的な観点から、概ね 2040年以降の社会を見据えて、目指すべき高等教育の姿やそれを実現するための方策などの高等教育の在り方について、次の事項を中心に御審議をお願いします。
 
 第一は、2040年以降の社会を見据えた高等教育が目指すべき姿についてであります。
 グランドデザイン答申では、2040年の展望と高等教育が目指すべき姿が提示され、同答申等を受けて、入学から卒業まで一貫した教学の改善・改革の取組や大学教育や学生生活に関する学生調査の結果を活用した教学IRの充実など、学修者本位の教育の実現に向けた積極的な取組が進展しつつあります。グランドデザイン答申で示された高等教育が目指すべき姿を前提としつつも、同答申以降の社会的、経済的な様々な変化を踏まえ、これからの時代を担う人材に必要とされる資質・能力の育成に向けた高等教育機関の役割の一層の発揮のために、今後更に取り組むべき具体的方策について検討をお願いします。その際、デジタル化、脱炭素化等の世界的な潮流に伴う産業構造の変化を見据えた成長分野をけん引する人材の育成や、知の生産、価値創造を担う「知のプロフェッショナル」を育成する大学院教育の改革、社会人や留学生等の受入れによる「多様な価値観が集まるキャンパス」の重要性も念頭に置きつつ検討をお願いします。
 
 第二に、今後の高等教育全体の適正な規模を視野に入れた、地域における質の高い高等教育へのアクセス確保の在り方についてであります。
 前述のとおり、2040年以降の我が国の大学入学者数は、仮に留学生等の受入れ拡大が相当程度進展したとしても、2022年と比較して大きく減少することが予想され、高等教育機関の機能強化等の観点からも、設置者の枠を超えた、高等教育機関間の連携、再編・統合の議論は避けることができない状況にあります。
 また、地域によって高等教育機関への進学率や進学者収容力が異なるとともに、少子化の中で、地方の私立大学ほど学生数が減少し、厳しい経営状況に陥る傾向にあるなど、高等教育機関の置かれている状況も異なっています。
 こうした状況等も踏まえ、今後の高等教育へのアクセス確保の在り方について考える必要があります。特に、各機関の理念や使命、社会のニーズを踏まえた高等教育の実現に向け、既存の学部・学科等の構成や教育課程の見直しなどの教育研究の充実に関する方策や、高等教育機関間の連携の強化に関する方策、再編・統合等を促進する方策、教育や経営に関する情報の公表に係る方策をはじめ、今後の高等教育全体の適正な規模も視野に入れながら、地域における質の高い高等教育へのアクセスを確保するための抜本的な構造改革の在り方について検討をお願いします。その際、地方の高等教育機関が果たす多面的な役割についても十分に考慮しつつ検討をお願いします。
 
 第三に、国公私の設置者別等の役割分担の在り方についてであります。
 第一及び第二の検討事項を踏まえ、高等教育全体の目指すべき姿を議論していく際には、設置者別や機関別の観点からの議論も必要になります。
  我が国の高等教育機関における国公私の設置者別の在り方については、明治期以来の歴史的経緯や制度上の位置付け等も考慮し、またグランドデザイン答申で再整理された役割等も踏まえた上で、それぞれの高等教育機関が持つ「特色」と「強み」を最大限に生かして、高等教育の在り方を再構築していく必要があります。
 国立大学については、世界最高水準の教育研究の先導、知の多様性・イノベーションの源泉となる学問分野の継承・発展、全国的な高等教育の機会均等の確保等や、全国の知的インフラのネットワーク集積機能を活かした貢献が期待されています。公立大学については、設置者である各地方公共団体の高等教育政策の中心的役割を担い、教育機会の均等や地域活性化の推進、行政課題の解決への貢献といった役割・機能等が期待されています。私立大学については、学部学生の約8割の教育を担い、「建学の精神」に基づく多様な教育研究を通じて我が国の高等教育の中核基盤を支えることが期待されています。特に地方にある中小規模の私立大学は、地域社会の維持に不可欠な専門人材の輩出や、高等教育の多様性や機会均等の維持向上に現に役割を果たしています。
 機関別では、短期大学は、地方の進学機会の確保に重要な役割を果たすとともに、教育・保育、看護、介護等の多様な人材養成機能を担っています。また、高等専門学校は5年一貫の専門的な技術教育による実践的・創造的な技術者養成に、専門職大学は理論と実務を架橋した教育による専門職業人の養成に、それぞれ大きな役割を果たしています。さらに、専門学校も、医療・福祉、工業系、IT系など、地域産業や地域社会の維持に不可欠な専門人材の輩出をしています。
 一方で、例えば、国立大学においても大学ごとにそのミッションの多様化が進んでいることや、デジタルやグリーン等の成長分野への学部再編等支援を通じた大学改革の促進などの政策の進展も重要な変化です。
 こうした期待や変化、さらには少子化の急速な進行やデジタル化・グローバル化の進展など社会が大きく変化している中で、国公私の設置者別や機関別等の役割分担の在り方や果たすべき役割・機能等を明らかにするとともに、その実現のための具体的方策について検討をお願いします。
 
 第四に、高等教育の改革を支える支援方策の在り方についてであります。
 未来を支える人材の育成や学術研究による知の創出等の役割を担う高等教育は国力の源泉であり、高等教育への投資は未来への投資です。各機関においては、その果たすべき役割や機能の強化、教育研究の質の一層の向上を実現するため、各機関内における適切な資源配分や効率化を前提としつつ必要な財源を確保することが求められます。しかしながら、厳しい財政状況の中、各機関においては、十分な人件費や研究費の確保が困難となり、教育研究活動に大きな影響を与えかねない問題が生じているとの指摘があります。また、我が国の高等教育段階に対する教育支出においては、 OECD諸国平均と比べて家計負担の割合が2倍程度と高い現状にもあります。第一から第三までの検討事項も踏まえ、教育研究を支える基盤的経費や競争的研究費等の充実、民間からの投資を含めた多様な財源の確保の観点も含めた、今後の高等教育機関や学生への支援方策の在り方等について検討をお願いします。
 
 以上が中心的に御審議をお願いしたい事項でありますが、この他にも、高等教育の在り方に関し、必要な事項について検討をお願いします。
 

お問合せ先

文部科学省高等教育局高等教育企画課

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