教職員定数に係る緊急提言

平成27年10月28日
中央教育審議会

 中央教育審議会は、教育が、一人一人の人格の完成を目指し、国家・社会の存立・繁栄の基盤を形成するものであるとの自負を持って、将来を支える豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関し、真摯に審議を重ね、累次の答申等を取りまとめてきた。現在も、文部科学大臣の諮問に応じ、初等中等教育における教育課程の基準等の在り方をはじめ、各般にわたる議論を行っている。また、学校現場では、これらの答申等の実現に向け、日々懸命な努力が行われている。
 そのような中、公立学校の教職員定数について、財政制度等審議会において、児童生徒数の減少に合わせて加配定数も含め教職員定数を機械的に削減すべきとの考え方が示されている。
 厳しい財政状況を踏まえ、限りある財源を有効に使うことは必要であるが、教職員定数の機械的な削減という主張は、今後の日本社会の発展のために、子供の実態や学校現場・地方の実情に応じて教育が果たさなければならない役割についての認識が全く窺えないばかりか、各学校の厳しい実態を無視した、あまりにも非現実的なものであり、結果として「一億総活躍社会」や「地方創生」を支える人材育成を不可能とするものである。
 本審議会においては、学校が直面する諸課題に対応しつつ、新しい時代に求められる資質能力を育成するための方策を審議してきたが、これらは全て実際に教育活動を行う教職員の資質能力の向上と教職員数の確保なくしては画餅に帰するものであり、上記の考え方は暴論であると言わざるを得ない。
  国の方針としても、経済成長の源泉は「人」であり、教育を通じた人材育成は、極めて重要な先行投資であると位置付けられているように、教育は、「国家百年の計」であって、長期的な視点に立った制度設計が必要であり、その最も重要な基盤である教育投資を怠れば、国家の未来に大きな禍根を残すことになることを深く憂慮する。

 このため、本審議会は、この緊急提言を行うものである。 


教職員定数の機械的な削減ではなく、多様な教育課題や地域のニーズに応じた確固たる教育活動を行うために必要な教職員数を戦略的に充実・確保すべきである。
 

 
 少子化が進む一方、児童生徒への指導は近年困難化している状況にある。例えば、1.子供の貧困と教育格差の拡大、2.障害の状態に応じた特別な指導を必要とする児童生徒の著しい増加、3.日本社会への適応に課題がある外国人児童生徒の増加、4.いじめ・不登校・暴力行為などの生徒指導上の課題の更なる深刻化など、これらの多様な課題を抱える子供たちが社会で活躍できるようにするための指導体制の整備は一刻の猶予もならない。
 また、今後変化の激しい社会の中で生きていくためには、実社会や実生活の中で知識を活用し、自ら課題を発見しその解決に向けて主体的協働的に取り組む力が求められており、いわゆるアクティブ・ラーニングの視点からの学習・指導方法の革新が必要である。また、学習指導要領の次期改訂では、小学校における英語の教科化に向けて審議を行っている。
 一方で、OECDの国際調査等で示されているように、日本の教員は世界で最も長時間の勤務を行っている。教員業務の質量双方の増加は時間外勤務の増加と研修時間の減少を招いており、学校がこのような新しい改革に機動的に取り組むことを難しくしている。
 本審議会は、このような喫緊の教育課題に対応し、教育改革を学校が真に実行できるようにするため、加配定数を含む教職員定数の充実を強く求める。

   また、効果的な運営を通じて学校が期待される教育機能を最大限発揮するためには、「チーム学校」の取組を進め専門人材を活用するとともに、コミュニティ・スクールを導入し地域の知恵や活力を学校づくりに活かすことが非常に重要となる。それとともに、その中心となり子供たちの教育に一義的責任を負うのは教職員であり、未来を生きる子供たちに適切な教育機会を保障するため、教職員がしっかりとした授業準備や研修を行い授業力を高めながら、個々の児童生徒に対応した充実した指導を行い、保護者や地域の一層の信頼を得ることができるよう、指導体制の充実・確保を含め、文部科学省として全力で取り組むことが必要である。

   なお、エビデンスに基づく教育の成果の検証を重視し、教育政策に関する実証研究を継続的に行うことは非常に重要である。文部科学省は、これまでも全国学力・学習状況調査等を実施し、その結果を学校教育政策の改善のために活用しているが、今後、こうした取組を更に積極的に進め、一層の展開を図るべきである。
 その際、教育活動とその効果の間には複雑な過程が存在することから、その関係を把握・分析するためには、個々の研究成果の集積のみでなく、総合的な評価の形成が必要である。
 これと同時に、生徒指導上の課題や学習上の課題への対応は、子供や保護者たちにとって今まさに直面している問題であり、その解決に向けた学校教育の条件整備は一瞬たりとも立ち止まることなく充実を図る必要がある。

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