1.スポーツ基本計画の策定について(諮問), 2.学校安全の推進に関する計画の策定について(諮問)

 
 

23文科ス第518号
中央教育審議会

次に掲げる事項について、別紙理由を添えて諮問します。

  1. スポーツ基本計画の策定について
  2. 学校安全の推進に関する計画の策定について 

平成23年9月22日

文部科学大臣 中川 正春

(理由)

1.スポーツ基本計画の策定について

 スポ-ツは、世界の人々に大きな感動や楽しみ、活力をもたらすものであり、言語や生活習慣を超え、人類が共同して発展させてきた世界共通の文化の一つであるとともに、人格の形成、体力の向上、健康長寿の礎であり、明るく豊かで活力に満ちた社会形成に欠かせない存在である。

 スポーツの振興については、昭和36年に「スポーツ振興法」が制定され、平成13年度から約10年間にわたり、同法の規定する「スポーツ振興基本計画」に基づき、施策が推進されてきた。この結果、例えば、体力水準が高かった昭和60年頃と比較すると依然低い水準であるが、ここ10年間をみると、概ね子どもの体力の低下傾向に歯止めがかかるとともに、成人のスポーツ実施率やオリンピックにおけるメダル獲得率が上昇するなど、一定の成果が認められる。しかし、なお計画に掲げる目標には達していないなどの課題が残されている。

 その間、我が国では、少子高齢化や情報化の進展、地域社会の空洞化や人間関係の希薄化が進んだほか、グローバル化に伴い国際的な協力・交流が活発になる一方で国際競争も激化するなど、我が国を取り巻く社会環境や価値観は急激に変化を遂げている。また、平成23年3月11日に東日本大震災が発生し、被災地に未曾有の被害をもたらし、被災地の復旧・復興が急がれているが、その際、社会全体の絆を大切にして、復旧・復興に取り組むことの重要性も指摘されている。

 他方、スポーツ界では、ガバナンスの向上やドーピング防止、スポーツ仲裁等のスポーツ界の透明性、公平・公正性に対する要請が高まるとともに、プロスポーツの発展や国際化の進展など、スポーツ界を取り巻く環境にも大きな変化が生じている。こうした状況に対応し、文部科学省においては、一層のスポーツ振興に取り組む指針として、平成22年8月、今後概ね10年間のスポーツ施策の基本的な方向性を示す「スポーツ立国戦略」を策定したところである。

 「スポーツ立国戦略」においては、「新たなスポーツ文化」の確立を目指し、「人(する人、観る人、支える(育てる)人)の重視」と「連携・協働の推進」を基本的な考え方とし、ライフステージに応じたスポーツ機会の創造、世界で競い合うトップアスリートの育成・強化、スポ-ツ界の連携・協働による「好循環」の創出、スポーツ界における透明性や公平・公正性の向上、社会全体でスポーツを支える基盤整備を5つの重点戦略と位置づけている。

 このような中、「スポーツ振興法」が50年ぶりに全面改正され、新たに「スポーツ基本法」が、平成23年8月24日に施行された。同法は、スポーツを取り巻く現代的課題を踏まえ、スポーツに関する基本理念を定め、国・地方公共団体の責務やスポーツ団体等の努力等を明らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を定めたものである。

 その中では、スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利であるとされているとともに、スポ-ツは、青少年の健全育成や、地域社会の再生、心身の健康の保持増進、社会・経済の活力の創造、我が国の国際的地位の向上等国民生活において多面にわたる役割を担うとされている。

 また、同法においては、文部科学大臣が、スポーツに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、スポーツの推進に関する基本的な計画(以下「スポーツ基本計画」という。)を定めることとされている。「スポーツ基本計画」は、「スポーツ基本法」の理念を具体化し、今後の我が国のスポーツ政策の具体的な方向性を示すものとして、国、地方公共団体及びスポーツ団体等の関係者が一体となってスポーツ立国を実現していくための重要な指針となるものである。

 以上のことを踏まえつつ、「スポーツ基本計画」の策定に当たり、計画に盛り込むべき内容として、主に次の事項を中心にご審議をお願いしたい。

 第一に、平成12年9月に策定された「スポーツ振興基本計画」に基づき、これまで約10年間にわたり講じられてきた諸施策の達成状況や、昨今の社会情勢の変化を踏まえつつ、諸課題を検証・評価していただきたい。

 第二に、「スポーツ基本法」の考え方を踏まえ、年齢や性別、障害等を問わず、広く人々が、関心、適性等に応じてスポーツに参画することができる環境を整備することが基本的な課題と考えられるが、具体的には、次のような課題について、今後のスポーツ振興のための基本的な方針及び諸方策をご検討いただきたい。

(1) 学校と地域における子どものスポーツ機会の充実

(2) 住民が主体的に参画する地域のスポーツ環境の整備

(3) ライフステージに応じたスポーツ活動の推進

(4) 国際競技力の向上に向けた人材養成・スポーツ環境の整備

(5) オリンピックなど国際競技大会等の招致・開催等を通じた国際交流・貢献の推進

(6) ドーピング防止やスポーツ仲裁等の推進によるスポーツ界の透明性、公平・公正性の向上

(7) スポーツ界における好循環の創出

 なお、その際、「スポーツ基本法」においては、地方公共団体は、「スポーツ基本計画」を参酌して、地方の実情に即した「地方スポーツ推進計画」を定めるよう努めることとされており、地方公共団体が計画を策定するに当たっての指針となるよう、国と地方公共団体が果たすべき役割についてもご留意いただきたい。

2.学校安全の推進に関する計画の策定について

 子どもが心身ともに健やかに育つことは、国や地域を問わず、時代を越えて、すべての人々の願いであり、子どもの育つ環境が安全なものとして整えられ、また、子ども自身や保護者その他の人々が安心感を持って日々の生活を送ることができるような社会を築いていくため、必要な取組を進めていかなければならない。

 その中で、学校は、児童生徒等が集い、人と人との触れ合いにより、人格の形成をしていく場であり、児童生徒等が生き生きと学び、運動等の活動を行うためには、学校という場において、児童生徒等の安全が確保されることが不可欠となる。

 また、児童生徒等は守られるべき対象であることにとどまらず、学校において、その生涯にわたり、自らの安全を確保することのできる基礎的な素養を育成していくことが求められる。

 学校における教育活動が安全な環境において実施され、児童生徒等の安全の確保が図られるよう、学校における安全管理に関し必要な事項を定めた「学校保健安全法」では、国は、各学校における安全に係る取組を総合的かつ効果的に推進するため、学校安全の推進に関する計画を策定するとされている。同計画は、国と地方公共団体が相互に連携を図り、各学校において安全に係る取組が確実かつ効果的に実施されるようにするための重要な指針となるものである。

 以上のことを踏まえつつ、学校安全の推進に関する計画の策定に当たり、計画に盛り込むべき内容として、主に次の事項を中心にご審議をお願いしたい。

 第一に、本年3月11日に発生した東日本大震災では、これまでの想定をはるかに超えた巨大地震・津波によって広範な地域で甚大な被害が発生し、多くの児童生徒等の人命が失われ、学校施設についても多大な被害が発生した。また、我が国においては地震や津波だけでなく、台風などによる風水害や火山活動等による自然災害の発生も引き続き懸念される。さらに、未曾有の原子力災害により児童生徒等の安全が脅かされる事態が発生しており、これを受けて、原子力災害発生時に児童生徒等がとるべき行動など原子力災害一般に係る安全措置等も改めて検討することが求められている。

 特に、東日本大震災を受けて、児童生徒等が主体的に自らの生命を守り抜くための行動につなげる態度を身に付け、被災後の復旧・復興を支えるための支援者となる視点を取り入れた新たな防災教育を含む災害安全(防災)が求められるとともに、今回の大震災の教訓を次代を担う児童生徒等に伝え、児童生徒等の危険予測・危険回避能力を高めることが我が国の安全教育にとって極めて重要であり、その具体的な方策についてご議論いただきたい。

 第二に、災害安全に加え、学校における安全に関する課題としては、近年、学校に不審者が侵入して児童生徒等や教職員の安全を脅かす事件や、通学路で児童生徒等に危害が加えられる事件が発生し、大きな社会問題となっていることがあげられる。児童生徒等の交通事故についても、それによる死亡者数は減少しているものの、通学途上における死亡事故も発生しており、負傷事故もいまだ多数に上っている。本年4月からは、政府全体の取組として第9次交通安全基本計画が策定されたところである。こうした状況を踏まえ、防犯を含めた生活安全、交通安全の領域に関する安全教育の具体的な方策についてもご議論いただきたい。その際、第一の災害安全と共通する課題である「正常化の偏見」(自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人間の心理的特性)の克服など、三つの各領域を超えた安全教育を効果的に行うことにもご留意いただきたい。  

 第三に、学校において、これらの事件・事故災害から児童生徒等を守るための取組を進めていくためには、事件・事故を未然に防ぐとともに、事件・事故災害が発生した場合においても児童生徒等の安全が確保できる体制を整備する必要がある。学校安全を担う教職員が一定水準の知識や資質を持つための研修などの人材養成、学校安全に関する専門的知見の活用、外部人材や地域との連携促進による学校安全の充実、学校安全に関する科学技術の活用等、安全管理や組織活動の面から取り組む体制を整えるための具体的な方策についてご議論いただきたい。

  以上の点について、自由闊達にご審議いただき、今後のスポーツ施策及び学校安全の推進施策について、基本的方針及び諸方策をご提示いただきたい。これが今回の諮問を行う理由である。

お問合せ先

スポーツ・青少年局 スポーツ・青少年企画課

代表:03-5253-4111(内線:2673)

(スポーツ・青少年局 スポーツ・青少年企画課)