教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について

22文科初第492号
平成22年6月3日
中央教育審議会

次に掲げる事項について、別紙理由を添えて諮問します。

教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について

平成22年6月3日
文部科学大臣 川端 達夫

 (理由)

 学校教育の成否は幼児・児童・生徒の教育に直接携わる教員にかかっており、その質と数の充実はいつの時代も最も重要な課題の一つであります。
 一方で今日、学校現場ではいじめ・不登校等の生徒指導上の諸課題への対応、特別支援教育の充実、外国人児童生徒への対応、ICTの活用をはじめとする様々な課題が急増するとともに、学力の向上や家庭・地域との連携協力の必要性も指摘されており、これらの課題に応えるためにも、教員の実践的な指導力やコミュニケーション能力の更なる向上が求められています。また、学校現場の多忙化や学校を取り巻く社会状況の変化により、いわゆる「学びの共同体」としての学校の機能が十分に発揮されていないとの指摘もあります。

 このような中で、保護者や地域社会から信頼される学校づくりを進めていくためには、多様かつ優れた資質能力を有する教員を養成・確保するとともに、教員一人一人が資質能力を高めながら自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得られるような環境を整えていくことが重要であり、教職員定数の改善など教員の数の充実に関する施策とともに、教員の質の向上に取り組んでいく必要があります。

 中央教育審議会からは、平成18年7月に「今後の教員養成・免許制度の在り方について」と題する答申において、今後の教員養成・免許制度の在り方とその中で当面改革すべき事項について御提言をいただきました。この答申を踏まえ、教職大学院制度の創設、教員免許更新制の導入等が実現しておりますが、学校現場の抱える課題に必ずしも十分に対応できていないといった指摘もあり、教員一人一人が教職生活の各段階を通じてより高度な専門性と実践的な指導力を身に付けられるよう更なる改革が求められています。このため、これまでの改革の成果と課題も踏まえつつ、教員養成・採用・研修の各段階について改めて点検し、見直すことが今こそ必要であります。

 その際、特に重視すべきは、学校教育における諸課題の複雑・多様化に対応して教員に求められる専門性を今一度見直し、養成段階を含めた教職生活の全体を通じて不断に資質能力の向上や専門性の高度化が図られていくようにするため、教員免許制度と教員養成・採用・研修の各段階を通じた一体的・総合的な取組が行われるようにすることです。

 以上のような観点から、教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について包括的に諮問を行うものであります。

 具体的には、以下の事項を中心に御審議をお願いいたします。

1.教職生活の各段階で求められる専門性の基盤となる資質能力を着実に身に付けられるような新たな教員養成・教員免許制度の在り方について

 第一に、教職生活の各段階で求められる専門性の基盤となる資質能力を着実に身に付けられるような新たな教員養成・教員免許制度の在り方についてであります。
 教員は、養成段階を含めた教職生活の各段階を通じてその時々で様々な課題への対応が求められるため、教職に就いてからも不断に資質能力を向上させ、専門性を高めていくことが極めて重要であります。
 教職生活の全体を通じて基盤となる資質能力は、第一義的には養成段階で培われるべきものであり、学校種ごとの実態を踏まえつつ、教員として教壇に立つために必要な基礎的な資質能力を着実に身に付けられるような教員養成の在り方について御検討いただきたいと思います。
 現在の教職課程は学部4年を基本としておりますが、より複雑・多様化している学校現場の課題に対応するため、学校現場における実習の抜本的な拡充も含め、教職課程の期間や内容の充実を図るべく見直しを行う必要があると考えており、その具体的な在り方についてお示しいただきたいと思います。その際、教員養成の出口であり、また教職に就くための資格でもある教員免許制度については、その在り方自体が教職課程の在り方と深く関わっており、相互に連関させつつ見直す必要があるため、御検討いただきたいと思います。
 また、修士段階での教員養成、とりわけ教職大学院の位置付けを明確化し、これを重視する場合には、教職大学院をはじめ専修免許状の課程認定を受けている大学院について、教員養成に係る科目構成やそれに基づく教員構成等の見直しを含め御審議いただきたいと思います。
 新たな教員養成のしくみを真に実効あるものとするためには、いわゆる教員養成学部に限らず、学部・大学院等における教員養成に係る課程認定審査や設置審査をより厳格化するとともに、事後評価システムも強化する必要があると考えており、それらの在り方についても御検討をお願いいたします。
 さらに、学校現場に多様、かつ適性のある優秀な人材を確保するため、新たな教員養成を経て育成される資質能力を踏まえ、採用の在り方についても御検討いただきたいと考えております。

2.新たな教員養成の在り方を踏まえ、教職生活の全体を通じて教員の資質能力の向上を保証するしくみの構築について

 第二に、新たな教員養成の在り方を踏まえ、教職生活の全体を通じて教員の資質能力の向上を保証するしくみの構築についてであります。
 教員の資質能力は、その基盤こそ養成段階で培われるものですが、その後の教職生活においても適時適切に向上させていくことが重要であります。教員免許制度は、このような資質能力の向上を効果的に保証し得る側面をも有するものであると考えており、その在り方について、新たな教職課程との関係も踏まえつつ御議論いただきたいと思います。その際、教員が教職生活を通じてより高い専門性を自発的に身に付けていくことを支援するため、教員免許状により一定の専門性を公的に証明する制度の在り方についても御検討いただきたいと思います。
 また、教員免許更新制についても、その効果の検証を踏まえ、今後の在り方を御審議いただきたいと考えております。
 さらに、10年経験者研修等の法定研修をはじめ任命権者等が行う様々な研修については、教員免許制度等との関係も考慮しつつ、各教員が教職生活の全体を通じて資質能力の向上を図っていくことを支援するという観点に立って、それらの在り方について御審議をお願いいたします。

3.教育委員会や大学をはじめとする関係機関や地域社会との組織的・継続的な連携・協働のしくみづくりについて

   第三に、教育委員会や大学をはじめとする関係機関や地域社会との組織的・継続的な連携・協働のしくみづくりについてであります。

 上記の諸改革を実効あるものとして着実に進めていくためには、新たな教員養成を通じて育成された資質能力を踏まえた採用の在り方の検討のみならず、教育委員会、大学をはじめとする関係機関や地域社会が一体となって教員を養成し、支援していくことが重要であります。そのような取組は、現在も一部の教育委員会と大学等において積極的に行われておりますが、新たな教員養成・採用・研修のしくみの中で、教育委員会から大学への実務家教員の派遣、大学教員の現職研修への参画などの連携・協働がより広範かつ確実に行われるようなしくみを構築するため、その具体的な方策について御審議をお願いいたします。
 また、地域や企業など学校とは別の分野で活躍している多彩な人材が学校現場に参画しやすいしくみづくりなど、学校現場を活性化していくための方策についても、具体策をお示しいただきたいと考えております。
 以上が中心的に御審議をお願いしたい事項でありますが、このほかにも教員の資質能力の向上のための方策に関し必要な事項について御検討をお願いいたします。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課

政策審議第一係
電話番号:03-6734-3458

初等中等教育局教職員課

企画係
電話番号:03-6734-2456

(生涯学習政策局政策課、初等中等教育局教職員課)