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3 義務教育制度の改革の方向

(4)学校の区分,学校間の連携

 現行の義務教育制度においては,児童生徒は,6年間の小学校教育,その後の3年間の中学校教育により9年間の普通教育を修了することとなっている。6−3制と称されるこの制度は,我が国の基本的な学校教育の仕組みとして戦後広く社会に定着している。
 一方,近年,学校教育,とりわけ義務教育をめぐって,本まとめの1においても述べたような課題が生じる中で,その要因の一端は,児童生徒の心身の発達に現在の学校教育の在り方,とりわけ小学校高学年における指導の在り方が適合していないことにあるのではないかとの指摘もある。

 有識者からのヒアリングによれば,脳科学や発達心理学の分野における研究成果からは,子どもたちの発達は,年齢の区分ごとにいくつかの段階があるとされる。その区切り方や具体的な発達の内容については論者によって様々な見解があるが,基本的に,小学校4年生に相当する年齢を中心にその前後1年くらいが大きな区切り目の一つとされることが多い。
 実際の学校教育の場においても,経験的に小学校4年生を区切りとして子どもたちの発達段階が大きく変化するとの意見が強い。

 一方,現行の制度下では,小学校6年間を一つのまとまりとする教育活動が行われており,小学校1年生にも6年生にも,学級担任制を中心に,同様の原理に基づく指導が行われることが通常である。このような中で,身体的な発達のスピードが速まり,思春期の到来も早まっていると言われる小学校高学年の児童に対する指導においては,従来どおりの小学校的な指導では限界があるのではないかとの指摘がなされるようになっている。

 また,学校間の連携や接続の不十分さについても指摘がなされている。
 例えば,文部科学省の調査結果では,いじめや不登校,校内暴力の件数は,中学校に入った途端に急激に増加している。また,学習内容に対する理解度も,小学校段階と中学校段階とでは大きな落差がある。これは,学習内容が難しくなるためだけではなく,思春期の難しい時期に,卒業や入学などを経て学習方法や指導原理の異なる新しい環境に入る際の移行が円滑に行われていないことも背景の一つではないかと考えられる。幼稚園と小学校との接続に関しても,両者間の連携の不足が,いわゆる「小1プロブレム」と呼ばれるような小学校低学年での問題を解消できない要因の一つとなっているとも言われている。
 教員自身も自らの属する学校種への帰属意識が強すぎ,他の学校種との交流が少ないことや,学校間での充分な情報交換が行われる機会が不足しており,前の学校での状況を踏まえて新しい学校に適応させていくための指導が不十分であることなども指摘されている。

 こうした課題の解決に資するため,文部科学省の指定する研究開発学校においては,小学校と中学校とを一貫した教育に関する研究が行われているところであり,それらの学校では,例えば,小学校高学年からの教科担任制の導入,小・中学校にまたがる多様な区分によるカリキュラム編成など,発達段階を踏まえた教育活動の改善や小学校,中学校双方の教員による一貫した指導によって,児童生徒の教育に大きな効果を上げている例も見られる。また,これら一連の研究の成果について,どこで区切り目をつけるべきかの判断は,地域によって異なるケースがあるとの分析も行われている。

 本分科会では,こうした現状と課題を踏まえつつ,望ましい学校の区分の在り方,学校間の連携の在り方について議論を行った。その中では,以下に示すように,学校の区分について,6−3制そのものについて見直すべきだとする意見もあったが,その改正は学校現場に与える影響が大きく,慎重であるべきとの意見もあった。また,幼・小,小・中の接続を改善する観点から,幼小,小中の一貫教育や,カリキュラムを中心とした連携の強化を図るべきとの意見が多く出された。

(学校区分の見直しに関する意見)

  •  義務教育の区分については,4−5制が望ましい。この制度の方が,精神発達面で難しくなる時期であり,かつ,個人差も出やすい時期に対応しやすい。
  •  まずは現行の学校体系の枠組みの中で,幼小連携や小中連携などの実践を積極的に進め,将来的な学校の区切りの変更につなげることを模索すべきである。
  •  小学校5年生を境に心身が大きく変わり,難しい時期。この時期の学校を5年制とすると更に対応が難しくなるのではないか。
  •  小学校が6年制であることによって,5,6年生が低学年の面倒をみるという現状があり,そうした機会が減ることは問題。中学校は縦社会が弱い印象があり,何事も学年のまとまりになってしまいがちなだけに心配。また,小学校に比べ問題行動等が多い中学校の期間が長くなるとそれだけ問題が複雑化するのではないか。中学校を5年制にすると生徒数も増えるが,収容能力はあるのか。
  •  最近の子どもたちの発達を見ると,5年生を区切りに大きく変わると思うが,それは学校の区分の変更まで求めるものなのか。不安定だからこそ,同じ学校で同じ先生と過ごし,低学年の面倒をみたりしてリーダーシップをとらせることが重要なのではないか。
  •  人間は段階的に,スパイラルに成長するものであり,行きつ戻りつの余裕がないと健全に育つことができない。小学校5年生・6年生に大きな課題があることは事実だが,これはむしろ運用で対応すべきで,制度を変えるのは慎重にすべき。

(学校間の連携,接続に関する意見)

  •  現行の学校体系の枠組みの中で,幼小連携や小中連携などの実践を積極的に進め,将来的には学校の区切りの変更につなげることを模索してはどうか。
  •  住民の意識としては,現行の6−3制を大きく変更することには抵抗感が強い。児童の身体的・精神的発達段階を見ると,10歳前後で大きな違いがあり,現行制度を前提に小中の接続をスムーズにすることによってより良い制度を構築するために,4−5というカリキュラムの区切りが適当である。
  •  教員についても,小学校と中学校では学習指導観が異なる部分が多く,相互の交流・理解が必要。4年までは従来の学級担任制,5〜7年までは教科担任制で,生徒ごとに個別対応可能な体制をとり,8,9年は高校受験も視野に入れつつ,自発的な課題学習の設定等の応用を行う取組が有効と考える。
  •  実態として4年生と5年生は本当に違いが大きく,自分の学校でも5年生から教科担任制を導入しているが,子どもにも保護者にも好評。また,副担任をつけるのも指導が困難な児童に効果がある。
  •  幼稚園では当初,早生まれと遅生まれで大きな差があるものの,やがて年長組になると年少組を指導するようになるなどの「年長効果」がある。ところが,小学校に入ると1年生になり,また年少さんのようになってしまう。中学校についても同じことが言える。これを解消するために思い切って,幼小,小中一貫教育を行ってみてはどうか。
  •  家庭と地域の教育機能の低下傾向は止められない。その対策として,国としても幼小連携を進めるべき。
  •  幼稚園と小学校は連携ができるようになってきたが,保育園と小学校には課題が残る。
  •  義務教育は小学校で一区切りをつけるべき。わかることに感激する年代と,わかることの目的を認識する年代とがあり,小学校と中学校を一緒に考えるのは難しい。むしろ幼小連携を強化した方が良い。
  •  3歳でもオムツが取れない子どもが多い現実を考えると,幼小の連携は難しいのではないか。
  •  小学校と中学校の接続に問題があるのは痛感するが,転勤も多い狭い日本で多様な区切りを認めてよいのか。
  •  学校間連携を円滑にするため,教員免許状をフレキシブルにする必要がある。
  •  学校間連携については,縦だけでなく横のつながりも考えるべき。その際,特別なニーズを持つ児童生徒との連携も念頭に置くべき。
  •  学校間連携の強化だけでは不十分であり,何のために何を接続するのかの視点を明確に打ち出すことが必要。

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