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2 義務教育の目的,目標

(1)義務教育の目的

 義務教育は,国民が共通に身に付けるべき公教育の基礎的部分を,だれもが等しく享受し得るように制度的に保障するものである。

 本分科会の審議においては,義務教育の目的について,主に以下に示すような意見があった。

  •  義務教育は欧米の発想で,教育が庶民にまで行きわたっていなかった時代に,国の力でどの子どもも学校に行くことを保障しようというもの。社会が豊かになった現在,その概念を考え直すことが必要だが,その際も,1国家・社会の構成員としてふさわしい最低限の基盤となる資質の育成(社会の統一性・水準維持),2国民の教育を受ける権利(学習する権利)の(最小限の)社会的保障という2つの目的は維持されるべき。
  •  義務教育の意義は,1国として,国民としての統一性や水準の維持,2多様な変化の時代に生きていく子どもたち一人一人の個性や特性の基礎づくりの2点。
  •  義務教育においては,1社会の良き形成者を育てるという「社会の側からの教育」と,2人生をより良く生きるための土台をつくるという「個人の側からの教育」の両方のバランスが重要。「我」の世界と「我々」の世界を生きることのできる人間を育てることが必要。
  •  義務教育の目的,目標は,憲法,教育基本法,学校教育法,世界人権宣言,国際人権規約,子どもの権利条約,障害児関係法などに規定された市民権としての教育への権利を保障すること。
  •  義務教育の目的,目標は,高度に発達した複雑な現代社会において,生涯を人間としてとにもかくにも生きていけるだけの資質能力を体得させること。
  •  義務教育には,「国家として,あるいは国民としての統一を目指す」という側面と,「子どもや学校の持ち味,個性,独自性を育てる基礎づくり」という側面とがあり,この両者をバランスよく維持していくことが重要であり使命である。
  •  義務教育の目的とは,「人間力」を備えた市民となる基礎を提供すること。つまり,社会に生きる市民として,職業生活,市民生活,文化生活などを充実して過ごせるような力を育むことと言える。これは,「生きる力」として文部科学省が教育改革の中で提唱してきたことと軌を一にするもの。

 これらの意見を大づかみに集約すると,義務教育の目的については,次の2点を中心にとらえることができるものと考える。

  • 1国家・社会の形成者として共通に求められる最低限の基盤的な資質の育成
  • 2国民の教育を受ける権利の最小限の社会的保障

 義務教育を通じて,共通の言語,文化,規範意識など,社会を構成する一人一人に不可欠な基礎的な資質を身に付けさせることにより,社会は初めて統合された国民国家として存在し得る。このように,義務教育は国家・社会の要請に基づいて国家・社会の形成者としての国民を育成するという側面を持っている。
 また,一方で,義務教育には,憲法の規定する個々の国民の教育を受ける権利を保障する観点から,個人の個性や能力を伸ばし,人格を高めるという側面がある。子どもたちを様々な分野の学習に触れさせることにより,それぞれの可能性を開花させるチャンスを与えることも義務教育の大きな役割の一つであり,義務教育の目的を考える際には,両者のバランスを考慮する必要がある。

(2)義務教育の目標

 こうした義務教育の目的を実現するためには,具体的にどのような目標を掲げることが求められるのであろうか。
 憲法や法令では,義務教育について「普通教育」という言葉が用いられているものの,現行の法令には,「普通教育」の具体的な内容や義務教育そのものの具体的な目標を直接的に示した規定は存在しない。学校教育法においては,小学校及び中学校の目的やその教育の目標がそれぞれ示されており,これらの規定に従って,学習指導要領などの教育課程に関する事項が定められ,各学校における教育活動が実施されている。
 現行の学校教育法における各学校の目標に関する規定をめぐっては,小学校については,比較的詳細な規定が置かれている一方,義務教育の終了地点である中学校については,例えば,「小学校における教育の目標をなお充分に達成して」のような相対的な表現が用いられるなど,具体的に何をどこまで達成することが求められているのかが必ずしも明確でないとの指摘がある。
 このことについては,戦後,現在の学校教育制度が発足するに当たり,戦前から義務教育期間として確立されていた6年間の小学校教育に比べ,新たに設けられた3年間の中学校における教育については,制度発足までの時間的な制約等から,十分な検討を行うことができなかった事情があるのではないかと言われている。

 新しい時代に求められる義務教育とは何か,その実現のための制度はどうあるべきかを考えるに当たっては,まず,その目標について,将来に向けた視点も踏まえつつ,改めて明確化する必要がある。
 そのための検討に当たっては,中央教育審議会が平成15年3月の答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」において示した,教育基本法の改正の視点や教育の基本理念についての提言を十分に踏まえることが必要と考える。
 併せて,教育の目標や実際の教育活動において小学校と中学校とが分離され,それぞれの中での完結が強く求められるあまり,義務教育9年間全体を通しての目標や達成すべき水準が充分に意識されず,また,小学校と中学校との間の連携や教育の一貫性が弱くなりがちとなっていることなどの反省を踏まえ,義務教育9年間を見通した目標について検討を行う必要がある。

 以上のような視点から,本分科会においては,今後の義務教育の目標として具体的に何を求めるべきかについて,幅広く議論を行った。現時点では,その最終的な集約には至っていないが,主に次のような意見があった。

(目標についての基本的な考え方に関する意見)

  •  義務教育では,次の点が必要。
    • 1日本国民として必要な基礎学力を身に付けさせること。
    • 2公民として必要なルールを身に付けさせること。
  •  「国家・社会の形成者」としての大人になるために具体的に必要な資質とは何かについて具体的に検討する必要がある。
  •  個人としての幸せを追求するために必要な思考力・判断力,国民として,地球市民として,様々に変化する状況の中で自ら判断し行動するために必要な基礎的な力を身に付けさせることが必要。具体的な学習の内容については,その時代の要請によって柔軟に構成されるべき。
  •  義務教育を通じて,一人前の人間としての自立の意識を養うことが必要である。
  •  生涯学習社会における基礎づくりの観点から義務教育をとらえることが必要である。
  •  「普通教育」という言葉の概念について,もっと詰める必要がある。
  •  統合的な意味を持つ「知」の教育と,単なる「知識」の教育とを混同しないようにする必要がある。
  •  人間が,人間として生涯にわたって生き抜く力を育成する基礎教育が義務教育の目的であり,具体的には以下の点が重要。
    • 1知の教育,2知り・分かり・出来る喜びを享受させること,3自分らしさを追求させること,4生き方についての教育,5人間に出会わせること,6個の確立と自己を正しく主張することのできる人間の基礎教育,7コミュニケーション能力の育成,8地域を生きる人間の教育,9学び方の学習,10情報社会を生きる人間の教育,11賢明な消費者として生きることのできる人間の教育,12「市民性」の教育,13共助・共生社会の形成者としての共助・共生意識の教育,14男女共同参画社会を生きる人間の教育,15大人にならせるための教育,親となる教育,16人類が創造し蓄積してきた学術・文化の継承者,創造・発展者として,国家・社会の担い手としての国民教育の基礎教育,17上級学校への進学準備教育
  •  義務教育において学ぶべき基礎・基本については,ある程度画一的になってもすべての子どもに身に付けさせることが必要。その上での多様化を考えるべき。
  •  義務教育の目的を実現するためには,以下のことが必要。
    • 1とりわけ義務教育の間は,国公私を通じて国民として一定レベルの教育を受けられるようにしなければならず,問題が生じる場合は私立学校に対しても教育行政が適切な指導を行うなどの改善策を講じること。
    • 2公立学校において,指導軽視の風潮を改め,基礎基本の徹底,家庭学習を含む学習技能の習得の促進を図るとともに,その上に立った問題解決学習,総合的な学習の時間の充実を図ること。
    • 3教師の研修の充実,教師や学校に対する評価の再検討,処遇や指導への反映。
    • 4通う学校にかかわらず,地域の児童生徒が参加できる教育プログラムを自治体,市民団体,大学,民間企業,地域の施設などが充実させること。

(具体的な教育内容の目標に関する意見)

  •  ミニマムとして必要な内容として考えられるものは,「国語」,「算数」,「社会」(日本で暮らしていく上に必要な地理的知識,日本の社会を成り立たせている歴史,現代の仕組み,国民としての権利や義務の概念など自立に必要な最低限の知識),「理科」(生き物,自然,宇宙,環境の理解に必要な最低限の知識),「家庭」(料理,裁縫,工作),「情報」(情報機器を操作する最低限の知識と実践),「倫理」(なぜ社会にルールはあるか,なぜ人に乱暴してはならないか,なぜ命は大切かなどを考え,身に付ける)。
  •  自学自習の習慣や自ら学ぶ意欲を育てるとともに,「学び方」を学ぶ機会を充実することが重要。
  •  自己決定能力を育成することが重要。
  •  公共性の感覚などの公共の精神を育成することが必要。
  •  生命を大切にする心や,思いやりの心,倫理観などを育てる教育が必要。
  •  義務教育では,学力も大事だが,集団の中での自己トレーニングが重要。
  •  豊かな情操や感性の育成が重要。
  •  知・徳・体に加え,生活に必要な技術を養うことが重要。
  •  義務教育には,その人間の人生の座標軸を決める役割がある。そのためには歴史教育が不可欠。
  •  小学校に英語を導入することは賛成できない。
  •  目的,目標が曖昧なものはできるだけ避け,目的,目標を明瞭にした教科や内容を繰り返し行えるカリキュラムとすべき。
  •  少子化社会では,義務教育において,例えば小学校の高学年になったら小さな子どもの面倒を見させるようにするなど,大人に,親にさせるための基礎を育てていく必要がある。
  •  学校の内外を通じて,子どもがもっと運動をし,生涯スポーツの基礎をつくることのできる環境が必要。

 また,義務教育の目標の在り方については,主に以下のような意見があった。

  •  義務教育で目標を設定して,その目標としての学力をすべての子どもに修得させる教育を構想すべき。
  •  義務教育では「ここまでしかできない」しかし「ここまでは身に付ける」という国としてのはっきりとしたマニフェストを示し,それを実行していくために必要十分な体制を整えるべき。
  •  義務教育で身に付けるべき内容を,最低これだけはというものに絞り込み,選択や補充・発展,総合的な学習の時間,部活動等,それ以上は各学校が特色を出せるようにすべき。
  •  教科学習について,国民全員に義務教育でどこまで教えるかを考えるべき。実態として,今の中学校の教育内容は生徒全員には難しすぎるのではないか。
  •  学校教育法の小学校の目的についてはもう少し具体的に表記すべき。例えば,基礎的・基本的事項の確実な定着,確かな学力,豊かな心,健康な体など。
  •  義務教育の目的,目標はもっと具体的なものであるべき。7、5、3と言われる現象を8、6、4とか,9、7、5に上げていくというような具体的な目標をつくって教育効果を上げていくことが重要である。

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