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第3章 盲・聾・養護学校制度の見直しについて

1.障害種別を超えた学校制度について

(1)基本的な考え方

 今後、障害のある児童生徒等一人一人の教育的ニーズに応じて適切な指導及び必要な支援を行う特別支援教育を進めていくうえで、現在の盲・聾・養護学校の制度を様々な教育的ニーズに適切に対応し得るものとする必要がある。
 特に、第1章で述べたように、現在、盲・聾・養護学校に在籍する児童生徒のうち、半数近く(肢体不自由養護学校においては約4分の3)の児童生徒が重複障害学級に在籍するなど、障害の重度・重複化への対応が喫緊の課題となっている。
 このような課題に対応するため、各都道府県等では、複数の障害に対応する併設型養護学校の設置や、児童生徒数の推移等を踏まえた盲・聾・養護学校の配置見直しなどに関する検討が進められている。現在推進されている地方分権の進展も踏まえれば、国の制度をより柔軟なものとすることによって、こうした工夫や努力を促進することも重要である。
 このため、協力者会議最終報告で提言されているとおり、現在の盲・聾・養護学校を、障害種別を超えた学校制度(「特別支援学校(仮称)」)とすることが適当である。
 これにより、各都道府県等において、複数の障害に対応した学校を効果的に設置することが容易となることから、地域の実情に応じたきめ細かい教育の一層の充実に資することが期待される。

(2)特別支援学校(仮称)の内容

    • 1 対象となる障害種別について
       特別支援学校(仮称)は、基本的には現在の盲・聾・養護学校の対象となっている5種類の障害種別(盲・聾・知的障害・肢体不自由・病弱)及びこれらの重複障害に対応した教育を行う学校制度とすることが適当である。
       特別支援学校(仮称)の制度は、各都道府県等において、複数の障害に対応した教育を行う学校の設置を可能とするものであるが、これまでのように特定の障害に対応した学校を設けることも可能である。具体的にいかなる障害に対応した教育を行う学校とするかについては、地域における教育に対するニーズ等に応じて弾力的に判断されることとなる。
       これに関連し、協力者会議最終報告では、特別支援学校(仮称)において、例えば、「視覚障害部門」、「知的障害部門」等の「教育部門」を設けることが提言されている。この「教育部門」は、各障害種別ごとの専門性を確保する観点から、これを設けることが有効であると考えられる。複数の障害に対応した併設型養護学校の中には、固定的組織としての部門を設けることなく柔軟な運営を行っている例があり、特別支援学校(仮称)では児童生徒等の障害に応じた弾力的な教育課程や指導方法による教育の実施が求められることも踏まえると、その具体的内容はできる限り設置者等に委ねることが適当である。
       対象とする障害種別に関し、LD・ADHD・高機能自閉症等については、小・中学校等における特別な指導内容・方法が十分に確立されていない現状にかんがみ、これらの児童生徒等に対する適切な指導や必要な支援の在り方についても、特別支援学校(仮称)が、後述のセンター的機能の発揮等を通じて先導的役割を果たすことが期待される。
       なお、自閉症については、その特別な指導内容・方法に着目し、知的障害養護学校において自閉症のある児童生徒等の学級を設ける運用も行われており、また、平成16年度から筑波大学附属久里浜養護学校が自閉症のある幼児児童を受け入れる学校に転換したところである。今後、これらの実績も踏まえ、知的障害と自閉症を併せ有する児童生徒等に対し、この2つの障害の違いを考慮しつつ、障害の特性に応じた対応について、引き続き研究を進める必要がある。
    • 2 配置について
       いかなる形態の特別支援学校(仮称)をどのように配置していくかについては、都道府県等において、地理的な状況や各障害種別ごとの教育的ニーズの状況など、それぞれの地域の実情に応じたきめ細かい検討に基づいて判断されることになるが、その際、次のような視点についても十分考慮される必要がある。
      • ア.一人一人の教育的ニーズに対応する特別支援教育の理念や、障害の重度・重複化に対応するという特別支援学校(仮称)の趣旨に照らし、特別支援学校(仮称)は、可能な限り複数の障害に対応できるようにするべきとの視点
      • イ.障害のある児童生徒等が、できる限り地域の身近な場で教育を受けられるようにするべきとの視点
      • ウ.障害の特性に応じて、同一障害の児童生徒等による一定規模の集団が学校教育の中で確保される必要があるとの視点
      • エ.学校の形態に応じて、各障害種別ごとの専門性が確保され、専門的指導により児童生徒等の能力を可能な限り発揮できるようにする視点
      • オ.特別支援教育のセンター的機能が効果的に発揮されるようにする視点
      3 名称について
       特別支援学校(仮称)が制度として発足した場合、特別支援学校(仮称)の名称が普及・定着するまでには一定の期間を要すると考えられる。一方、これまでの各障害種別における専門的指導の蓄積や、私立の学校が建学の精神に基づく特色ある教育活動を展開していることなども踏まえれば、主として特定の障害に対応する形態の特別支援学校(仮称)については、引き続き「盲学校」、「聾学校」又は「養護学校」と称することができるようにすることを含めて検討することが適当である。
    • 4 教育課程について
       特別支援学校(仮称)においては、障害のある児童生徒等一人一人の教育的ニーズに対応した効果的かつ弾力的な教育課程編成が期待される。特別支援学校(仮称)の学習指導要領等は、現在の盲・聾・養護学校の学習指導要領等の内容を見直して定められることとなるが、障害種別を超えたグループ別の教育課程編成の可能性や、平成17年度までに策定することとされている「個別の教育支援計画」との関係を検討することも必要であり、引き続き検討を行うことが適当である。

2.特別支援教育のセンター的機能について

(1)基本的な考え方

 今後、地域において特別支援教育を推進する体制を整備していくうえで、特別支援学校(仮称)は中核的な役割を担うことが期待される。特に、小・中学校に在籍する障害のある児童生徒について、通常の学級に在籍するLD・ADHD・高機能自閉症等の児童生徒を含め、その教育的ニーズに応じた適切な教育を提供していくためには、特別支援学校(仮称)が、教育上の高い専門性を生かしながら地域の小・中学校を積極的に支援していくことが求められる。
 これまでも、盲・聾・養護学校の学習指導要領等において、盲・聾・養護学校は、「地域の実態や家庭の要請等により、障害のある児童生徒等又はその保護者に対して教育相談を行うなど、各学校の教師の専門性や施設・設備を生かした地域における特殊教育に関する相談のセンターとしての役割を果たすよう努めること」と規定されており、すでに様々な形で、地域の小・中学校教員や保護者に対する教育相談等の取組が進められている。
 今後、特別支援学校(仮称)の機能として、小・中学校等に対する支援などを行う地域の特別支援教育のセンター的機能を、明確に位置付けることを検討する必要がある。

(2)センター的機能の具体的内容

 いかなる形態の特別支援学校(仮称)をどのように配置していくかについては、各都道府県等において検討されるべきものであるため、センター的機能についても、すべての特別支援学校(仮称)が制度的に一律の機能を担うこととするのは現実的ではなく、各学校の実情に応じて弾力的に対応できるようにすることが適当である。
 なお、盲・聾・養護学校における先進的な事例を踏まえ、特別支援学校(仮称)に期待されるセンター的機能を例示すれば、以下のとおりである。

  • 1小・中学校等の教員への支援機能
  • 2特別支援教育等に関する相談・情報提供機能
  • 3障害のある児童生徒等への指導機能
  • 4医療、福祉、労働などの関係機関等との連絡・調整機能
  • 5小・中学校等の教員に対する研修協力機能
  • 6地域の障害のある児童生徒等への施設設備等の提供機能

 このうち、小・中学校等の教員への支援機能、特別支援教育等に関する相談・情報提供機能、障害のある児童生徒等への指導機能、医療、福祉、労働などの関係機関等との連絡・調整機能については、具体的には以下のような内容が考えられる。
 小・中学校等の教員への支援機能については、個々の児童生徒の指導に関する助言・相談のほか、個別の教育支援計画の策定に当たっての支援などが考えられる。
 特別支援教育等に関する相談・情報提供機能については、地域の小・中学校等に在籍する児童生徒等や保護者への相談・情報提供のほか、幼稚園等における障害のある幼児への教育相談が考えられる。これまでにも、盲学校及び聾学校の幼稚部では、乳幼児期の子どもを対象とした早期からの教育相談を実施している場合があるが、障害者基本計画において乳幼児期からの一貫した相談支援体制の構築を図ることとされていることも踏まえ、今後、それぞれの地域の実情に応じて、こうした取組を広げていくことが期待される。
 障害のある児童生徒等への指導機能については、小・中学校等の児童生徒等を対象とする通級による指導や『いわゆる「巡回による指導」(後述)』が考えられる。これらの実施に当たっては、小・中学校等との十分な連携が必要である。これまでにも、聾学校を中心に、このような指導が実施されている場合があり、今後、それぞれの地域の実情に応じて、こうした取組を広げていくことが考えられる。
 医療、福祉、労働などの関係機関等との連絡・調整機能については、個別の教育支援計画の策定に当たり、医療、福祉、労働などの関係機関等との連絡・調整を行うことなどが考えられる。
 なお、障害者基本法において、障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習を積極的に進める旨が規定されたことを踏まえ、今後、盲・聾・養護学校(特別支援学校(仮称))に在籍する児童生徒と、地域の小・中学校等の児童生徒との交流及び共同学習の機会が適切に設けられることを促進するべきである。

(3)センター的機能が有効に発揮されるための体制整備

 特別支援学校(仮称)がセンター的機能を発揮するためには、特別支援学校(仮称)間での適切な連携が行われるとともに、多くの特別支援学校(仮称)の管理運営を担う都道府県教育委員会と、小・中学校の管理運営を担う市町村教育委員会とが十分に連携し、小・中学校が円滑に支援を受けられるような環境を醸成していくことが重要である。その際、地域の実情に応じて、小・中学校の特殊学級等が特別支援学校(仮称)と連携・協力して、センター的機能の一翼を担う場合もあり得ることに留意する必要がある。
 障害のある児童生徒等の支援については、医療、福祉、労働関係機関等との適切な連携も重要であるが、このためには、関係行政機関等の相互連携の下で広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効である。すでに各都道府県レベルで「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われているが、この中に特別支援学校(仮称)のセンター的機能が適切に位置付けられる必要がある。その際、「新障害者プラン」(障害者基本計画の重点施策実施5か年計画)において、平成16年度までに策定することとされている「地域において一貫して効果的な相談支援を行う体制を整備するためのガイドライン」の内容にも留意する必要がある。
 特別支援学校(仮称)がセンター的役割を有効に発揮するためには、高い専門性を有する教員が適切に養成・配置されることが必要であり、任命権者である各都道府県教育委員会等においては、人事上の配慮が望まれる。また、各学校においては、校長のリーダーシップの下に、それぞれに求められる役割に応じて目的・目標を明確にして、組織や運営の在り方を再構築し、その成果を定期的に評価するなど一層効果的な学校経営が求められる。さらに、センター的機能のための分掌や組織(例えば「地域支援部」など)を設けて校内の組織体制を明確にすることが望ましい。

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