我が国の高等教育の将来像(審議の概要)<ポイント>

2004年9月6日
中央教育審議会

日本の高等教育 5つの方向性
-2004年「我が国の高等教育の将来像」が描く姿-

  2015~2020年頃までを想定した我が国の高等教育の将来像(言わば「グランドデザイン」) とそこに至る施策の方向性(言わば「ロードマップ」)を示す

21世紀は「知識基盤社会」→
物質的経済的側面と精神的文化的側面のバランス、他文化理解尊重・コミュニケーション能力の重要性
新時代の高等教育と社会……
双方向の関係(高等教育の危機は社会の危機)

18歳人口の低位安定(120万人規模)、社会人・留学生の増加
2007(平成19)年には大学・短大の収容力が100%に
エリート段階→マス段階→ユニバーサル段階(進学率50%超)への発展
各高等教育機関の個性・特色の明確化と機能別分化

事前・事後の評価の適切なバランスによる質の保証
国の質保証システムと各機関の自主的努力が相まって信頼確保
情報開示、経営状況の悪化した機関への対応

世界的研究教育拠点の形成、各種専門職大学院の創設・拡充、
体系的な教育課程の実施による充実した大学院教育
学位を与える「課程」中心の考え方への再整理

多様で質の高い学部教育、総合的教養教育型(学部3年修了の積極的活用、主専攻プラス副専攻、教養教育と専門基礎教育の充実)や専門教育完成型(4~6年)などに分化、多様な短期高等教育

多様な機能に応じたきめ細やかなファンディング・システム
 → 国公私の緩やかな役割分担と適切な競争条件の確保
高等教育への公財政支出の抜本的拡充と民間資金の積極的導入


我が国の高等教育の将来像(審議の概要)
〈要旨〉


  2015~2020年頃までを想定した我が国の高等教育の将来像(言わば「グランドデザイン」)とそこに至る施策の方向性(言わば「ロードマップ」)を示す

21世紀は「知識基盤社会」→
物質的経済的側面と精神的文化的側面のバランス、他文化理解尊重・コミュニケーション能力の重要性
新時代の高等教育と社会……
双方向の関係(高等教育の危機は社会の危機)
方向性1:誰もがいつでも学べる高等教育(ユニバーサル・アクセスの実現)

 18歳人口が減少を続ける中、大学・短大の収容力は2007(平成19)年には100%に達するものと予測される(従前の試算より2年前倒し)。また、IT技術の発展等に伴い履修形態の多様化と大学の国際展開が加速すると考えられる。こうした様々な変化を背景に高等教育は万人に開かれたものとなり、誰もがいつでも学べる高等教育=「ユニバーサル・アクセス」が実現される。競争的環境の中での各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層重要となる。
 同時に、18歳人口が120万人規模で低位安定する一方で社会人学生・外国人留学生やパートタイム学生が大幅に増加することにより、「進学率」の指標としての有用性は減少し、18歳人口の増減のみに依拠した高等教育政策の手法は終焉を迎え、「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来像の提示と政策誘導」の時代へと移行する。
 ユニバーサル段階の高等教育は、各学校種ごとの個性・特色を一層明確にしなければならない。
 高等教育機関のうち大学は、全体として
 1世界的研究・教育拠点、2高度専門職業人養成、3幅広い職業人養成、
 4総合的教養教育、5特定の専門的分野(芸術や体育等)の教育研究、
 6地域の生涯学習機会の拠点、7社会貢献機能(地域貢献・産学官連携等)
等の各種の機能を併有するが、各大学ごとに保有する機能や比重の置き方は異なる。その比重の置き方が各機関の個性・特色の表れとなり、各大学は緩やかに機能別に分化していくもの考えられる。
 各大学は、入学者受入方針を明確にし、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、適切に入学者選抜を実施していく必要がある。
 また、高等教育機関間の連携協力による各機能の充実強化も、必ずしも設置形態の枠組みにはとらわれずに促進されるものと考えられる。

方向性2:誰もが信頼して学べる高等教育(高等教育の質の保証)

 競争的環境の中での各高等教育機関の個性・特色の明確化が一層進む中では、国際的通用性、学習者保護、学習者や社会の信頼の保持の観点から、事前・事後の評価の適切なバランスによる高等教育(機関)の質の保証が極めて重要となる。そのため、設置認可の役割を明確化(例えば大学教員の質の審査等)し、的確に運用するとともに、事後評価のシステムを発展させるべきである。
 また、学習者が各機関にアクセスするに際しては、当該機関がその教育内容・方法や財務状況等に関する情報を開示し、説明責任を果たすことが期待される。また、情報開示だけでなく外部からの評価も併せて提供されることが学習者の便宜のために重要であることから、認証評価機関による機関別評価に加えて分野別の評価が定期的に実施されることが望ましい。
 少子化の影響やこれらの評価等の結果により、学生数が大幅に減少して経営が困難となる機関も生ずることが予想される。中には、様々な手立てを講じてもなお経営が好転せず、学校としての存続自体が不可能となることもあり得る。その際には、特に在学生の就学機会の確保を最優先に対応策が検討されるべきであり、そのために関係機関の協力体制を作っておくことが必要である。

方向性3:世界最高水準の高等教育

 世界最高水準の質を誇る大学院を拡充・整備すべきである。また、教育の充実のため、学位を与える「課程」中心の考え方に再整理していく必要がある。
 大学院教育に関して、修士課程は、1研究者等養成(の第1段階)2高度専門職業人養成3「21世紀型市民」の高度な学習需要への対応の3つの機能を担う。体系的な教育課程が編成される。
  博士課程は、創造性豊かな優れた研究開発能力を持ち、産学官を通じたあらゆる研究・教育機関の中核を担う研究者等/確かな教育能力と研究能力を備えた大学教員を養成する。体系的な教育課程が編成される。博士号取得者の多様な場での中核的人材としての活躍が期待される。
  専門職学位課程は、法曹、MBA・MOT(技術経営)、公共政策、教員養成等をはじめとして多様な分野での創設・拡充が期待される。理論と実務を架橋する実践的教育や職業的倫理の涵養が充実され、社会人等多様な学生を受け入れて各種の高度専門職業人が養成されることを通じて、社会全体の流動性の向上と活性化に大きく貢献することが期待される。

方向性4:「21世紀型市民」の学習需要に応える質の高い高等教育

 学部教育に関し、学士課程は、「21世紀型市民」の育成を目的としつつ、教養教育と専門基礎教育を中心に主専攻・副専攻を組み合わせた総合的教養教育型や専門教育完成型など、様々な個性・特色を持つものに分化し、多様で質の高い教育を展開することが期待される。教育の充実のため、分野ごとにコア・カリキュラムが作成されることが望ましい。また、コア・カリキュラムの実施状況は大学評価と有機的に結び付けられることが期待される。
 修業年限については、従前通り学士課程を4年かけて卒業する経路のほか、修士・博士・専門職学位課程との関係では、学習経路が多様化し、特に総合的教養教育型において学部3年修了による大学院進学を積極的に活用することが考えられる。また、専門教育完成型においては、4~6年の間で分野の特性に応じて修業年限が定められる。
 企業採用に向けた就職活動は、大学と産業界の連携の下、学士課程教育に実質的に支障のないよう配慮が必要である。また、修了・卒業直後の1年間での様々な活動体験や短期在外経験等を重視することも期待される。
 大学・短大・高専・専門学校等は、各学校種ごとの位置づけや役割を活かした多様な教育を展開することが期待される。

方向性5:競争的環境の中で国公私それぞれの特色ある発展

 高等教育への財政的支援は、競争的環境の中で高等教育機関が持つ多様な機能に応じた形にシフトし、機関補助と個人補助の適切なバランス、基盤的経費助成と競争的資源配分の有効な組み合わせにより多元的できめ細やかなファンディング・システムが構築されることが期待される。これにより、国公私それぞれの特色ある発展と緩やかな役割分担、適正な競争条件の確保が目指されるべきである。
 具体的には、2004年当時との比較で言えば、1国立大学運営費交付金等は、教育研究の特性に配慮した経営努力を求めつつ、政策的課題(地域再生への貢献、新たな需要を踏まえた人材養成、大規模基礎研究など)への各大学の個性・特色に応じた取組を支援できるよう所要額を確保する必要がある。2私学助成は、基盤的経費の確保を図りつつ、傾斜配分の考え方に基づいて特別補助や高度化推進特別補助に相当する部分を中心に拡充する必要がある。3国公私を通じた競争的・重点的支援は、大幅な拡充が期待される。4企業向け研究費補助金を大学へ開放するとともに、競争的な研究資金の間接経費を充実する必要がある。5奨学金等の学生支援を充実する必要がある。
 高等教育への公財政支出の抜本的拡充と民間資金の積極的導入が必要である。

(高等教育局高等教育企画課高等教育政策室)