この答申は,平成14年の中央教育審議会答申「子どもの体力向上のための総合的な方策について」において,学校における食に関する指導を充実する観点から提言した,いわゆる「栄養教諭(仮称)」制度の創設に関し,具体的な審議を行った結果をとりまとめたものである。
近年,食生活の乱れが深刻になってきており,望ましい食習慣の形成は今や国民的課題となっている。子どもたちが将来にわたって健康に生活していけるようにするためには,子どもたちに対する食に関する指導を充実し,望ましい食習慣の形成を促すことが重要である。また,食に関する指導の充実は,「生きる力」の基礎となる健康と体力を育むほか,食文化の継承,社会性の涵養などの効果も期待できる。
現在,学校においては,給食の時間や教科指導,学級活動,「総合的な学習の時間」など広く学校教育活動全体で食に関する指導が行われており,ティーム・ティーチングや特別非常勤講師制度による学校栄養職員の活用も進められているが,その取組は地域や学校ごとに区々であった。
近年の子どもたちの食を取り巻く環境の変化に対応し,子どもたちが望ましい食習慣と自己管理能力を身に付けることができるようにするためには,より効果的な食に関する指導体制の整備が必要である。このため,学校栄養職員の持つ食に関する専門性に加え,教育に関する資質を身に付けた者が食に関する指導を担えるよう,栄養教諭制度を創設すべきである。
栄養教諭は,食に関する指導と学校給食の管理を一体のものとしてその職務とすることが適当である。
児童生徒の食生活の現状に鑑み,偏食傾向や肥満傾向,食物アレルギー等のある児童生徒に対し,個別的な指導・助言を行う食に関するカウンセラーとしての役割が期待される。その際,保護者に対する助言など,家庭への支援や働きかけも併せて行うことが重要である。
教科・特別活動等における食に関する指導については,学級担任や教科担任と連携しつつ,栄養教諭がその専門性を活かした指導を行うことが重要である。
食に関する指導は,給食の時間だけでなく,関連教科等に幅広く関わるため,関係する教職員の連携・協力が必要である。また,啓発活動や保護者への助言等,家庭や地域との連携も重要である。栄養教諭は,その専門性を活かして,学校の内外を通じ,食に関する教育のコーディネーターとしての役割を果たしていくことが期待される。
学校給食に係る栄養管理や衛生管理等は専門性が必要とされる重要な職務であり,栄養教諭の主要な職務の柱として,より一層の積極的な取組が期待される。同時に,情報化の推進などにより管理業務の効率化を図り,食に関する指導のために必要な時間を確保できるよう工夫していくことが求められる。
栄養教諭は,生きた教材である学校給食の管理と,それを活用した食に関する指導を一体的に展開することが可能であり,高い相乗効果が期待できる。それによって,学校給食の教材としての機能を最大限に引き出せるだけでなく,食に関する指導によって得られた知見や情報を給食管理にフィードバックさせることも可能となる。
栄養教諭に求められる資質能力を制度的に担保するため,養護教諭の例を参考にしつつ,次に示す考え方に基づいて栄養教諭の免許状を創設すべきである。
栄養教諭としての一定の在職年数と免許法認定講習等における一定の単位修得により上位の免許状等を取得できる措置を講ずることが必要。
現職の学校栄養職員に関しては,学校栄養職員としての一定の在職年数と免許法認定講習等における一定程度の単位修得により,栄養教諭の免許状を授与することが必要。
他の教員免許を有する学校栄養職員が栄養教諭の免許状を取得する場合には,教職に関する科目を既に修得していることに配慮することが必要。
栄養教諭の配置は義務的なものとはせず,公立学校については地方公共団体の,国立及び私立学校についてはその設置者の判断に委ねられるべきである。なお,共同調理場方式の場合は,栄養教諭の役割にかんがみ,共同調理場における給食管理と受配校における食に関する指導を併せて行うことを前提とすべきである。また,学校栄養職員の配置状況等からみて,栄養教諭が配置されない学校も想定されるが,近隣の学校の栄養教諭の活用などの工夫によって,食に関する指導の充実を図ることが大切である。
公立学校の栄養教諭は,教育公務員特例法の適用を受け,不断に資質向上に努める必要がある。また,国公私を通じ,栄養教諭は学校教育活動全般への積極的な参画が求められる。
-- 登録:平成21年以前 --