新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について(答申概要)

2003年3月20日
中央教育審議会

第1章 教育の課題と今後の教育の基本方向について

1 教育の現状と課題

  • 我が国社会は大きな危機に直面。自信喪失感や閉塞感の広がり、倫理観や社会的使命感の喪失、少子高齢化による社会の活力低下、経済停滞の中での就職難。
    このような危機を脱するため、政治、行政、司法、経済構造等の抜本的改革が進行。創造性と活力に満ち、世界に開かれた社会を目指し、教育も諸改革と軌を一にする大胆な見直し・改革が必要。
  • 教育は危機的な状況に直面。青少年が夢を持ちにくく、規範意識や道徳心、自律心が低下。いじめ、不登校、中途退学、学級崩壊が依然として深刻。青少年の凶悪犯罪が増加。家庭や地域の教育力が不十分で、家族や友人への愛情をはぐくみ、豊かな人間関係を築くことが困難な状況。初等中等教育段階から高等教育段階まで学ぶ意欲が低下。初等中等教育における「確かな学力」の育成と、大学・大学院における基礎学力、柔軟な思考力・創造力を有する人材の育成、教育研究を通じた社会貢献が課題。
  • この半世紀の間、我が国社会も国際社会も大きく変化。国民意識も変容を遂げ、教育において重視すべき理念も変化。
  • 直面する危機の打破、新しい時代にふさわしい教育の実現のため、教育の在り方の根本までさかのぼり、普遍的な理念は大切にしつつ、今後重視すべき理念の明確化が必要。その新しい基盤に立ち、各教育分野にわたる改革が必要。

2 21世紀の教育が目指すもの

  • 「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を目指すため、これからの教育は、以下の5つの目標の実現に取り組むことが必要。
    1. 自己実現を目指す自立した人間の育成
    2. 豊かな心と健やかな体を備えた人間の育成
    3. 「知」の世紀をリードする創造性に富んだ人間の育成
    4. 新しい「公共」を創造し、21世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成
    5. 日本の伝統・文化を基盤として国際社会を生きる教養ある日本人の育成

3 目標実現のための課題

  • 教育関連法制の見直しにまでさかのぼった改革の中で、教育の諸制度・諸施策の見直しとともに、具体の施策を総合的、体系的に位置付ける教育振興基本計画の策定による実効性ある改革が必要。
  • 教育は未来への先行投資であり、教育への投資を惜しまず、必要な施策を果断に実行することが必要。

第2章 新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について

1 教育基本法改正の必要性と改正の視点

  • 現行法の「個人の尊厳」「人格の完成」「平和的な国家及び社会の形成者」などの理念は今後も大切。
  • 21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から、重要な教育の理念や原則を明確にするため、教育基本法を改正する。
    1. 信頼される学校教育の確立
    2. 「知」の世紀をリードする大学改革の推進
    3. 家庭の教育力の回復、学校・家庭・地域社会の連携・協力の推進
    4. 「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養
    5. 日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養
    6. 生涯学習社会の実現
    7. 教育振興基本計画の策定

2 具体的な改正の方向

教育基本法関係条文 改正の方向
前文
  われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。
われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。
ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の目的を明示して、新しい日本の教育の基本を確立するため、この法律を制定する。

(前文)

  • 教育理念を宣明し、教育の基本を確立する教育基本法の重要性を踏まえて、その趣旨を明らかにするために引き続き前文を置くことが適当。
  • 法制定の目的、法を貫く教育の基調など、現行法の前文に定める基本的な考え方については、引き続き規定することが適当。

(教育の基本理念)

  • 教育は人格の完成を目指し、心身ともに健康な国民の育成を期して行われるものであるという現行法の基本理念を引き続き規定することが適当。

(新たに規定する理念)

  • 法改正の全体像を踏まえ、新たに規定する理念として、以下の事項について、その趣旨を前文あるいは各条文に分かりやすく簡潔に規定することが適当。
    • 個人の自己実現と個性・能力、創造性の涵養
    • 感性、自然や環境とのかかわりの重視
    • 社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養
    • 日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養
    • 生涯学習の理念
    • 時代や社会の変化への対応
    • 職業生活との関連の明確化
    • 男女共同参画社会への寄与

教育の基本理念

第一条(教育の目的)教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。

第二条(教育の方針)教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所において実現されなければならない。この目的を達成するためには、学問の自由を尊重し、実際生活に即し、自発的精神を養い、自他の敬愛と協力によつて、文化の創造と発展に貢献するように努めなければならない。

■ 教育の機会均等

第三条(教育の機会均等)すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであつて、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない。

2.国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によつて修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。

  • 教育の機会均等の原則、奨学の規定は、引き続き規定することが適当。

■ 義務教育

第四条(義務教育)国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。

2.国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。

  • 義務教育期間9年間、義務教育の授業料無償の規定 は、引き続き規定することが適当。

■ 男女共学

第五条(男女共学)男女は、互に敬重し、協力し合わなければならないものであつて、教育上男女の共学は、認められなければならない。
  • 男女共学の趣旨が広く浸透し、性別による制度的な教育機会の差異もなくなっており、「男女の共学は認められなければならない」旨の規定は削除することが適当。

■ 学校、教員

第六条(学校教育)法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。

2.法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂行に努めなければならない。このためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。

(学校)

  • 学校の基本的な役割について、教育を受ける者の発達段階に応じて、知・徳・体の調和のとれた教育を行うとともに、生涯学習の理念の実現に寄与するという観点から簡潔に規定することが適当。その際、大学・大学院の役割及び私立学校の役割の重要性を踏まえて規定することが適当。
  • 学校の設置者の規定については、引き続き規定することが適当。

(教員)

  • 学校教育における教員の重要性を踏まえて、現行法の規定に加えて、研究と修養に励み、資質向上を図ることの必要性について規定することが適当。

■ 家庭教育

 
  • 家庭は、子どもの教育に第一義的に責任があることを踏まえて、家庭教育の役割について新たに規定することが適当。
  • 家庭教育の充実を図ることが重要であることを踏まえて、国や地方公共団体による家庭教育の支援について規定することが適当。

■ 社会教育

第七条(社会教育)家庭教育及び勤労の場所その他社会において行われる教育は、国及び地方公共団体によつて奨励されなければならない。

2.国及び地方公共団体は、図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他適当な方法によつて教育の目的の実現に努めなければならない。

  • 社会教育は国及び地方公共団体によって奨励されるべきであることを引き続き規定することが適当。
  • 学習機会の充実等を図ることが重要であることを踏まえて、国や地方公共団体による社会教育の振興について規定することが適当。

■ 学校・家庭・地域社会の連携・協力

 
  • 教育の目的を実現するため、学校・家庭・地域社会の三者の連携・協力が重要であり、その旨を規定することが適当。

■ 国家・社会の主体的な形成者としての教養

第八条(政治教育)良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。

2.法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

  • 自由で公正な社会の形成者として、国家・社会の諸問題の解決に主体的にかかわっていく意識や態度を涵養することが重要であり、その旨を適切に規定することが適当。
  • 学校における特定の党派的政治教育等の禁止については、引き続き規定することが適当。

■ 宗教に関する教育

第九条(宗教教育)宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生活における地位は、教育上これを尊重しなければならない。

2.国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

  • 宗教に関する寛容の態度や知識、宗教の持つ意義を尊重することが重要であり、その旨を適切に規定することが適当。
  • 国公立学校における特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動の禁止については、引き続き規定することが適当。

■ 国・地方公共団体の責務

第十条(教育行政)教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。

2.教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。

第十一条(補則)この法律に掲げる諸条項を実施するために必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。

  • 教育は不当な支配に服してはならないとする規定は、引き続き規定することが適当。
  • 国と地方公共団体の適切な役割分担を踏まえて、教育における国と地方公共団体の責務について規定することが適当。
  • 教育振興基本計画の策定の根拠を規定することが適当。

第3章 教育振興基本計画の在り方について

1 教育振興基本計画策定の必要性

  • 教育の基本理念や原則の再構築とともに、具体的な教育制度の改善と施策の充実とがあいまって、初めて実効ある教育改革が実現。このため、教育の根本法である教育基本法に根拠を置く教育振興基本計画を策定することが必要。
  • 計画に盛り込むべき具体的施策については、今後、本審議会の関係分科会等において、より専門的な立場から検討を行う。教育基本法改正後、関係府省が協力して、政府全体として速やかに教育振興基本計画を策定することを期待。

2 教育振興基本計画の基本的考え方

(1)計画期間と対象範囲

  • 計画期間は、おおむね5年間とすることが適当。計画の対象範囲は、原則として教育に関する事項とし、学術、スポーツ、文化芸術教育等の推進に必要な事項も含む。

(2)これからの教育の目標と教育改革の基本的方向

  • 教育振興基本計画では、教育の目標と、その達成のための教育改革の基本的方向を明らかにすることが必要。

(3)政策目標の設定及び施策の総合化・体系化と重点化

  • 計画には、国民に分かりやすい具体的な政策目標・施策目標を明記するとともに、施策の総合化・体系化、重点化に努めることが必要。
    (計画に位置付ける基本的な教育条件整備の例)
    • 「確かな学力」の育成
    • 良好な教育環境の確保
    • 教育の機会均等の確保
    • 私学における教育研究の振興
    • 良好な就学前教育環境の整備
(考えられる政策目標等の例)
  • 全国的な学力テストを実施し、その評価に基づいて学習指導要領の改善を図る
  • いじめ、校内暴力などの「5年間で半減」を目指す
  • 子どもの体力や運動能力を上昇傾向に転じさせることを目標に、体力向上を推進する
  • TOEFLなどの客観的な指標に基づく世界平均水準の英語力を目指す
  • 安易な卒業をさせないよう学生の成績評価を厳格化する

(4)計画の策定、推進に際しての必要事項

  • 教育は、個人の生涯を幸福で実りあるものにする上で必須であると同時に、我が国の存立基盤を構築するもの。計画に定められた施策の着実な推進と、教育投資の質の向上を図り、投資効果を高め、その充実を図ることが重要。
  • 教育における地方分権、規制改革を一層推進するとともに、国・地方公共団体が責任を負うべき施策を明確にした上で、相互の連携・協力が必要。また、行政と民間との適切な役割分担、連携・協力にも配慮が必要。
  • 政策評価を定期的に実施し、その結果を計画の見直しや次期計画に適切に反映することが必要。また、評価結果の積極的な公開が必要。

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生涯学習政策局政策課