2002/08/05
中央教育審議会
平成14年8月5日
中央教育審議会
「制度を活かすもの,それは疑いもなく人である」。平成13年6月に内閣へ提出された司法制度改革審議会意見(以下「審議会意見」という。)はこのように説き起こして,司法試験という「点」のみによる選抜ではなく,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度を新たに整備し,その中核を成すものとして法科大学院を設けるべきことを宣言した。政府においても,同月,この審議会意見を最大限尊重して司法制度改革に取り組む旨が閣議決定されている。
文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会は,以上のような流れを受けて,大学分科会に法科大学院部会を設置し,審議会意見で平成16年4月からの学生受入れ開始を目指して整備されるべきであるとされた法科大学院に関し,大学院としての制度設計に直接かかわる設置基準,学位,入学者選抜等の課題を中心に検討を行ってきた。この間,司法制度改革推進法が公布・施行され,昨年12月には司法制度改革推進本部が発足した。平成14年からは,同推進本部を中心として,法科大学院の第三者評価(適格認定)の在り方や新たな司法試験・司法修習の設計など,審議会意見の内容を踏まえた法曹養成制度の具体的な検討が進められてきた。また,本年3月19日には,司法制度改革と基盤の整備に関し,措置内容,実施時期等を定めた司法制度改革推進計画が閣議決定された。
このような中にあって,これまでの審議の結果を本年4月18日に「中間報告」として取りまとめて公表し,国民各位の御批判,御叱正を仰ぐとともに,法科大学院の設立に向けた準備や制度設計に関する論議の参考に供した。
その後の更なる審議により,ここに「答申」として公表するに及んで,法科大学院の実りある実現のためには未だ道半ばとは言え,当審議会として些かの感慨を禁じ得ない。と言うのも,法科大学院構想は,大学改革と司法制度改革に関するそれぞれの関係者の長い努力と労苦の積み重ねが,司法制度改革審議会という「時」と「場」を得て交錯し,実を結んだものととらえることができるからである。
21世紀の司法を担う法曹に必要な資質としては,審議会意見が端的に指摘するように,「豊かな人間性や感受性,幅広い教養と専門的知識,柔軟な思考力,説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて,社会や人間関係に対する洞察力,人権感覚,先端的法分野や外国法の知見,国際的視野と語学力等が一層求められる」。このような資質を備えた人材を数多く養成するために,「点」のみによる選抜から,「プロセス」としての新たな法曹養成制度への転換が求められたのは必然的とも言える。
一方,人々の知的活動・創造力が最大の資源である我が国にとって,優れた人材の養成と独創的な学術研究の推進等の役割を担う大学における教育研究の振興は,今後の発展に欠くことのできない「未来への先行投資」である。内閣総理大臣の諮問機関である臨時教育審議会の提言を受けて昭和62年に大学審議会が設置されて以来,高度化・個性化・活性化を柱として高等教育制度の大綱化・弾力化が進められ,教養教育改革,大学院の整備充実,自己点検・評価の導入など,様々な取組がなされてきた。その中で,我が国高等教育の国際的な通用性の向上を視点とする「競争的環境の中で個性が輝く大学」の一つの姿として,高度専門職業人養成に特化した実践的教育を行う大学院(プロフェッショナル・スクール)の設置促進が提言された。その後,教育改革国民会議(内閣総理大臣の私的諮問機関。平成12年)の提言でも,ロースクールなどの高度専門職業人養成型大学院の整備が新しい大学・大学院システムとして位置付けられている。
以上のような文脈の中で法科大学院構想を見ると,その意義も自ずから明確に浮かび上がってくるように思われる。ここで,審議会意見に掲げられた法科大学院の目的・理念を,長くはなるが引用したい。
「
」
当審議会としても,このような法科大学院の目的・理念に全面的に賛意を表するものであり,以下に掲げる答申の内容もこれに沿って理解されるべきものであることを確認しておきたい。
以上のような意義と内容を有する法科大学院は,中央教育審議会からすれば,大学(大学院)が社会との対話の中で自らを変革し,国民の期待に応えて「知の再構築」を図っていくことができるか,今後の大学改革の行方を展望する上でも重要な試金石と言うことができる。まして,そのような取組が,社会科学分野の教育研究における「理論と実務の架橋」を目指す法科大学院構想として結実しつつあることの意義は計り知れない。
このように考えれば,法科大学院構想が従来のままの法学部の在り方を所与の前提とするものでは決してないことは,容易に理解されよう。大学関係者にあっては,法科大学院での教育が従来の法学教育の単なる延長ではないことを十分に認識し,厳しい自己改革の努力の上に立ち,その個性や特色を生かした法科大学院を設立されるよう,強く期待したい。取り分け,我が国がグローバル化の進展や社会経済状況等の変化に即応していく上で重要な国際渉外,企業法務,知的財産権等の分野で国際的にも活躍できる法曹の養成を期待するものである。
我が国の大学改革及び司法制度改革の歴史の中でも特筆すべき壮挙とも言える法科大学院が実現段階に差し掛かった今こそ,国民の信頼と期待に応え得る新たな法曹養成制度を構築するために,教育関係者と司法関係者が相互に信頼し合い,共感に満ちたパートナーシップを築くことが不可欠であることを,改めて確認しておきたい。
この「答申」の取りまとめに至るまでの,またこれまでの長い改革の歩みの中で努力を傾注してきたすべての関係者及び関心を寄せていただいた国民各位に対して,深く感謝を申し上げる。また,法科大学院の実りある実現のために,関係者の今後なお一層の尽力と,国民各位の御理解と御支援を衷心より期待する。当審議会も微力ながらその一翼を担うことができれば,これに過ぐる喜びはない。
法科大学院の制度設計に当たっては,「公平性,開放性,多様性」を旨としつつ「プロセス」としての法曹養成制度の中核をなすものにふさわしいものであることを担保する仕組みが必要である。例えば,理論的教育と実務的教育を架橋する法曹養成教育としての教育課程,厳格な成績評価及び修了認定など質の高い充実した教育のための教育方法,実務家教員の参加を不可欠とする教員組織等の教育条件,オープンで公平な入学者選抜などについて基準を設ける必要がある。
その際,規制改革などの観点からは,高等教育における自由な競争環境の整備を図ることとされており,設置認可の在り方の見直し及び第三者評価制度の導入が提言されるとともに,設置基準についても,最低基準であるとの観点あるいは基準の一覧性を高め明確化を図るという観点から整理することとされていることに留意する必要がある。
以下においては,設置基準等に盛り込むべき事項のうち,特に主要なポイントを枠内に示した。
今後,具体的な設置基準の策定に当たっては,これらの観点を踏まえるとともに,第三者評価システムにかかわる国の関与の在り方及び設置基準と第三者評価基準との関係,また,設置基準が設置時のみならず設置後においても恒常的に満たされるべきものであることなども考慮しながら,必要な作業が進められるべきである。
大学院の目的・役割として,学術研究の推進及びそれを通じた研究者の養成とともに高度で専門的な職業能力を有する人材の養成が挙げられるが,特に近年においては,学術研究の進展や急速な技術革新,社会経済の高度化,複雑化,グローバル化等により,大学院における社会的・国際的に通用する高度専門職業人養成に対する期待が高まっている。
このため,現在,従来の修士課程・博士課程に加え,「高度で専門的な職業能力を有する人材の養成」を目的とする大学院の課程として専門職学位課程を新たに設け,この課程を置く大学院として専門職大学院の制度を創設することを検討している。
法科大学院は,審議会意見において「法曹養成に特化した実践的な教育を行う学校教育法上の大学院」として位置付けられているとおり,高度専門職業人としての法曹の養成を目的としているものであるため,このような趣旨を踏まえると,法科大学院もまた専門職大学院の一つとして位置付けることが適当である。
なお,このように法科大学院は法曹養成に特化した教育を行うものであり研究者養成を直接の目的とするものではないが,その修了者が,研究者養成を目的とする課程などに進学することも考えられる。このような法科大学院の修了者については,博士課程(後期)への進学を認めることとし,その場合の博士課程(後期)における修了要件としての在学期間は,学生の法科大学院での履修内容を学生を受け入れる大学院において適切に評価することにより,最低2年とすることも可能となるよう考慮することが適当である。
既存の大学院の課程の修了者については,修士又は博士の学位が授与されることとなっているが,法科大学院は,既存の課程とは異なる目的・要件の下で設置されるものとして位置付けることから,その修了者には,社会的・国際的通用性も勘案し,「法務博士(専門職)」あるいは「法務博士(専門職学位)」などの学位を授与する。
審議会意見の趣旨を踏まえ,標準修業年限は3年とすることを設置基準上明確に位置付けることが必要である。その上で,夜間大学院など教育研究上の必要があると認められる場合には,研究科,専攻又は学生の履修上の区分に応じて,3年を超えることができるものとすることが適当である。
また,従来の大学院修士課程において認められている標準修業年限を1年以上2年未満とするコース(いわゆる1年制コース)など短期の標準修業年限を可能とする制度は,法的思考力を鍛える場であり,教育方法も少人数教育を基本として双方向的,多方向的で密度の濃いものとされている法科大学院については,その必要単位数を勘案すれば当面制度化すべきでないと考えられる。
なお,標準修業年限と関連して,法科大学院において必要とされる法律学の基礎的な学識を有すると認められる者(以下「法学既修者」という。法学部出身者であると否とを問わない。)については,2年以上3年未満での短期修了を認めるものとするが,全体としての多様性を確保する見地からは,審議会意見において「経済学や理数系,医学系など他の分野を学んだ者を幅広く受け入れていくことが必要である」とされている趣旨を十分踏まえることが必要である。また,標準修業年限は3年である以上,法科大学院において2年以上3年未満の教育課程のみを編成することは制度上認められない。
修業年限を超えて在学することが予定される正規学生である長期履修学生については,中央教育審議会において,職業や家事等に従事しながら大学等で学ぶことを希望する人々の学習機会を一層拡大する観点から,学生が個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する仕組みとして,その導入について答申が出され,これを受けて本年3月に大学設置基準等の改正が行われたところであり,法科大学院における公平性,開放性,多様性の確保を図る観点からも,各法科大学院の判断により適切に対応していくことが期待される。
課程の修了要件として,既存の大学院の課程(修士課程と博士課程)については,一定期間の在学及び必要単位の修得に加え学位論文の作成等に対する指導(以下「研究指導」という。)を受け,論文の審査(又は特定の課題についての研究の成果の審査)及び試験の合格が必要であるが,法科大学院の課程については,法曹養成に特化した実践的な教育を行うことにかんがみ,修了要件としては研究指導を要しないこととし,一定期間の在学及び必要単位の修得のみで足りるとすることが適当である。
すなわち,法科大学院の課程の修了要件として,必要在学期間については,標準修業年限に即して3年以上(標準修業年限が3年を超える場合には,当該標準修業年限以上)とし,必要修得単位数については,法律基本科目群,実務基礎科目群,基礎法学・隣接科目群,展開・先端科目群の標準的なカリキュラムを想定し,93単位以上とすることが適当である。ただし,法学既修者については,審議会意見において短縮型として2年での修了を認めることとすべきとされていることを踏まえ,30単位を超えない範囲で単位を既に修得したとみなすとともに(すなわち,63単位以上の修得が必要),在学期間を1年以下短縮できるもの(すなわち,2年以上在学が必要)とする。
入学前の他の大学院における既修得単位の認定及び他の大学院との単位互換については,現行制度上,大学院修士課程においては,修了に必要な30単位のうちそれぞれ10単位を超えない範囲(3分の1を超えない範囲。ただし,転学,編入学等の場合を除く。)で認めることができることとされている。
法科大学院においては,カリキュラム編成等において独自の運営が確保されることが必要であるが,各法科大学院間の交流と協力を促進し,教育内容の充実を図る観点及び入学前の学習成果を適切に評価する観点から,法科大学院が教育上有益と認めるときは,入学前の既修得単位の認定及び単位互換を認めることとするのが適当である。また,多様なバックグラウンドを持った法曹を養成する観点から,法科大学院以外の大学院や海外の大学院において履修した単位についても,同様に法科大学院における単位の修得として認めることが適当である。
ただし,各法科大学院が学生に対する教育を責任を持って実施すべきものであることから,修了に必要とされる93単位に算入することのできる単位数の上限は,入学前の既修得単位の認定及び単位互換に係る単位数並びに法学既修者について既に修得したとみなされる単位数も含め,合わせて30単位とすることが適当である。
なお,単位互換については,多様な教育を確保するなどの観点から,各法科大学院において93単位を超える単位数を修了要件としている場合は,その93単位を超える部分について,上記の30単位という上限にかかわらず,単位互換を認めることとするのが適当である。
審議会意見でも述べられているように,社会人等として経験を積んだ者を含め,多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため,法科大学院には学部段階での専門分野を問わず広く受け入れ,社会人等にも広く門戸を開放する必要がある。
このため,法科大学院の入学者選抜に当たり,公平性,開放性,多様性の確保を旨として,各法科大学院においては,アドミッション・ポリシー(入学者受入方針)を明確化し,入学試験のほか,幅広い分野における学業成績や学業以外の活動実績,社会人としての活動実績等を総合的に考慮する。
入学者選抜方法のうち入学試験に関しては,法学既修者と法学未修者との別を問わずすべての出願者について,適性試験(法律学についての学識ではなく,法科大学院における履修の前提として要求される判断力,思考力,分析力,表現力等の資質を試すもの)を実施し,それに加えて,法学既修者として出願する者に対しては,各法科大学院の自主性に基づき,法律科目試験(法科大学院の基礎的な法律科目の履修を省略できる程度の基礎的な学識を備えているかどうかを判定するもの)を実施する。なお,法学部・法学科出身者が3年修了予定者として出願することはもとより可能であるとともに,他方,法学既修者は法学部出身者であると否とを問わないことから,非法学部・法学科出身者が2年修了希望者として出願することも認められる。
法律科目試験については,法律学の基礎的な学識を有しているかどうかの判断は各法科大学院が行うべきものであるが,各法科大学院が,独自の法律科目試験に代えて,若しくは独自の法律科目試験と併せて,又は第一段階選抜の方法として,共同で法律科目試験を実施し,その成績を法学既修者としての判定資料として用いることも考えられる。なお,法学未修者の選抜において,法律科目試験を実施することは認められない。
また,審議会意見の趣旨が十分活かされるよう,各法科大学院が,多様性の確保のために必要な具体的な措置を提示することが必要であり,入学者選抜においても,法学部・法学科以外の学部・学科の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置を講じる必要がある。どの程度の割合が適切かについては,入学志願者の動向等に応じて不断に見直されていくべきものと考えられる。
これらを踏まえ,入学者選抜手続のイメージとしては,例えば以下のように考えられる。
![]() |
![]() |
|||
![]() |
・最低限必要な専任教員数は12人。 ・専任教員1人当たりの学生の収容定員は15人以下。 |
![]() |
||
![]() |
![]() |
法科大学院は,法曹養成に特化した実践的な教育を行う新しい大学院であり,また研究指導を修了要件とはしないものとするなど従来の大学院とは異なるものである。このような法科大学院の理念を実現するためには,教員資格に関する基準についても,法科大学院独自の観点からのものが必要となる。具体的には,教育実績や教育能力,実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとするとともに,その資格の審査に当たっては,現行の大学院設置審査基準における研究指導教員(いわゆる「○合」)と研究指導補助教員(いわゆる「合」)の区別は設けないこととすることが適当である。なお,このような教員資格の内容を踏まえると,資格審査手続においては,法曹関係者など実務に精通した者の参加が必要である。
その際,後出の実務家教員については教育に係る研修を行ったり,それ以外の教員については実務に接する機会を設けるなどの工夫をすることが適切である。
必要専任教員数等の算定に当たっては,次のとおりとすることが適当である。
さらに,このほかにも,各大学院毎に開設授業科目に応じた必要な担当教員を置くことが必要となる。
また,専任教員の在り方に関し,現行制度上は,大学院には,研究科及び専攻の種類及び規模に応じ,教育研究上必要な教員を置くものとされており,教育研究上支障を生じない場合には,学部・研究所等の教員等がこれを兼ねることができることとされている(大学院設置基準第8条)が,法科大学院の独立性の確保の必要性にかんがみ,専任教員(必要数分)は,他の学部等の専任教員の必要数に算入しないものとすることが適当である。(法科大学院の教育に支障を生じない場合には,法科大学院の専任教員が他の学部等の授業の一部を担当することが妨げられるものではない。)
ただし,制度発足当初は,他の学部等における教育との関連性を考慮し,優秀な教員を確保する観点から,専任教員のうち,3分の1以内については,法科大学院及び他の学部等の教育研究上支障を生じない場合には,他の学部等の専任教員の必要数に算入できることとすることが適当である。この措置は,10年以内を目途に解消されることを前提に,当面の措置として認めるものとすることが適当である。(専任教員の数の3分の1以内を他の学部等の専任教員の必要数に算入する場合であっても,飽くまでも上記により算定される教員数が法科大学院に必要な専任教員数であることに変わりはない。)
なお,このような措置を認めるものではあるが,法科大学院の運営においては一定の独立性を確保することが必要であり,その際,大学院レベルにおける法曹以外の人材養成との関係等にも留意しつつ,カリキュラムや人事等で法科大学院としての独自の運営ができるようにすることが重要である。
法科大学院は,法曹養成に特化して法学教育を高度化し,理論的教育と実務的教育との架橋を図るものであるから,狭義の法曹や専攻分野における実務の経験を有する教員(「実務家教員」)の参加が不可欠である。このため,専任教員のうち相当数は,実務家教員とすることが必要である。
実務家教員の具体的範囲は,担当する授業科目等との関係において判断されるべきものであるが,実務家として認められる具体的な職種や実務を離れてからの期間を一律に定めることは技術的に困難であるばかりでなく,一律に定めることが逆に法科大学院における多様性の排除につながることも考えられることから,少なくとも当面は個別に判断することとし,その判断の積み重ねを待つことが望ましい。
実務家教員の数については,法科大学院は,法曹養成の「プロセス」の一環として,その修了後に(新司法試験を経て)行われる新司法修習との間で適切な役割分担が期待されており,高度専門職業人として直ちに活動を開始するために必要な知識・技能のすべてを教育するものではないことなどを踏まえ,専任教員(必要数分)のうち概ね2割程度以上とすることが適当であると考えられる。
実務家教員としては,5年以上の実務経験を求めることとし,必要とされる専任の実務家教員のうち,少なくとも3分の1程度は常勤とするが,その余は,年間6単位以上の授業を担当し,かつ,実務基礎教育を中心に法科大学院のカリキュラム編成等の運営に責任を持つ者とすることで足りるものとする。ただし,この措置は,将来的に法曹資格を持つ担当教員が増えるなどにより実務家教員とそれ以外の教員の区別が相対化していくのに応じて,適宜見直すことが適当である。
なお、法科大学院は,法曹養成に特化した教育を行うことから,そこにおける教育も法曹経験を有する実務家が,法曹三者のバランスを保ちつつ,教員として関与することが望ましい。弁護士の兼職制限については,これを緩和する方向で立法措置を講ずる旨が閣議決定されているが,現行制度の下では,現職の裁判官・検察官等の教員派遣が極めて困難であることから,これを可能とするための所要の措置を講ずる必要がある。
大学は,当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究の実施に努めなければならない(大学設置基準第25条の2)こととされている。
法科大学院は,法曹に求められる高度の専門的知識の習得など実践的な教育を行うことから,その教育水準を確保する上で,直接の教育活動を行う教員の質を確保することが重要であるため,法科大学院については,ファカルティ・ディベロップメント(教育内容等の改善のための教員の組織的な研修等)を義務として位置付けることが必要である。例えば,学生による授業評価や教員相互の評価(ピアレビュー)などを通して,それぞれの教員が切磋琢磨して互いに授業内容・方法の向上を図ったり,実務家教員とそれ以外の教員が協力して,教材の選定・作成を行ったり,法曹関係者・大学関係者が協力して,教育能力を高めるための研修や実務研修などを継続的に行うことなどが重要である。
なお,これらについては,法科大学院制度の創設に向けてより早期から実施することが必要であり,関係者等における具体的な検討が急務である。
法科大学院では,法理論教育を中心としつつ,実務教育の導入部分をも併せて実施することとし,実務との架橋を強く意識した教育を行うべきとされていることを踏まえ,法曹養成に特化した教育を行うという法科大学院の理念を実現するのにふさわしい体系的な教育課程を編成すべきことを基準上明確にする必要がある。
(主な科目の例)
なお,既存の大学院の教育は,授業科目の授業(講義,演習,実習等)及び研究指導によって行うものとされているが,法科大学院の教育は,法曹養成に特化した実践的な教育であるため,授業科目の授業によって行うものとし,研究指導は,修了要件としては要しないこととすることが適当である。
授業とそれに必要な学習時間との関連で,単位制度上は,「教員が教室等で授業を行う時間」及び「学生が事前・事後に教室外における準備のための学習(以下「準備学習」という。)を行う時間」の合計で,標準45時間の学修を要する教育内容をもって1単位とすることとされており(例えば,「講義及び演習については,15時間から30時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもって1単位とする」とされている。(大学設置基準第21条)),教員は学生に対して適切に準備学習の指示を与えるなどにより,教室外の学習時間を確保することが必要である。
また,1年間の授業を行う期間は,定期試験等の期間を含め,35週にわたることを原則とする(大学設置基準第22条準用)。さらに,各授業科目の授業は,10週又は15週にわたる期間を単位として行うものとし,教育上特別の必要があると認められる場合は,これらの期間より短い特定の期間において授業を行うことができることとする(大学設置基準第23条準用)。なお,法科大学院の場合は,例えば,実務家による講義,クリニック,エクスターンシップなどの実施が考えられるが,これらを特定の期間において行う授業として,夏休みなど学期外に集中して行うことなども考えられる。
授業を行う学生数については,法科大学院において少人数で密度の濃い教育が基本とされていることにかんがみ,授業方法や施設・設備その他の教育上の諸条件を考慮して,教育効果を十分に上げられるような適当な人数とするものとする。この点に関し,授業科目や授業方法に応じた考慮が必要であるが,例えば,法律基本科目群の授業であれば,概ね50人程度を基本とすべきである。
法科大学院における教育方法(授業方式)としては,講義方式や少人数の演習方式,調査・レポート方式などを適宜組み合わせ活用するものとし,双方向的・多方向的で密度の濃いものとすべきとされていることを基準上明確にする必要がある。
また,理論と実務を架橋した教育にふさわしい教材の整備も必要であり,例えば,実務家教員とそれ以外の教員とが協力して事例式のケースブックや演習書を作成したり,司法修習の内容も参考にした適切な教材を作成したりなどの工夫が期待される。
法科大学院の課程において専門職学位にふさわしい質の高い充実した教育を行うためには,その前提として,法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるよう,授業方法や年間の授業計画,科目毎の授業内容,成績評価方法をシラバス等により詳細に明示した上で,厳格な成績評価及び修了認定を行うことが必要である。
単位の授与に関し,大学は,一の授業科目を履修した学生に対しては,試験の上単位を与えるものとする(大学設置基準第27条)とされているが,学期末の試験のみならず学生の授業への出席状況,授業での発言,課題への対応状況その他日常の学生の授業への取組と成果を考慮して,多元的に成績評価を行った上で単位を与えることが望ましい。
また,単位制度の趣旨にかんがみ,大学は,学生が各年次にわたって適切に授業科目を履修するため,卒業要件として学生が修得すべき単位数について,学生が1年間又は1学期に履修科目として登録することができる単位数の上限を定めるよう努めなければならない(大学設置基準第27条の2)とされている。法科大学院においては,学生の準備学習を前提とした双方向,多方向的な密度の濃い授業を行うことが要求されていることや,法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みを設けることが肝要であるとされていることを踏まえ,過剰な科目登録を防ぐために,履修科目の登録の上限を設定するものとすることが適当である。
さらに,成績評価及び修了認定の実効性を担保する仕組みとしては,例えば,各法科大学院において,あらかじめ学生に望まれる到達度を明示し,ある段階(例えば初年度終了時)において履修状況及び学業成績から見てその水準に達していない場合にはその段階以降に配当される授業科目の履修を認めないこととすることや,学生の卒業時における学業成績が一定の水準を満たすことを修了要件とすることなどが考えられる。
大学は,大学の定めるところにより,当該大学の学生以外の者で一又は複数の授業科目を履修する者(科目等履修生)に対し,単位を与えることができると定められており(大学設置基準第31条),法科大学院においても,社会人等に対する学習機会の確保のみならず,現に実務に携わる法曹に対し,先端的・現代的分野や国際関連,学際的分野等を学ぶ機会が与えられるよう,科目等履修生として単位を認めることが適当である。
自宅や職場等から通学できる範囲に必ずしも希望する法科大学院がないことや,職場環境によって通学可能な時間帯が限られることなど,地理的・時間的な制約などがある社会人等のニーズに応えるため,公平性,開放性,多様性の確保を図る必要がある。
そのため,インターネットや衛星通信等を活用したテレビ会議方式などの遠隔授業のような授業方法や,教育上特別の必要があると認められる場合の夜間その他特定の時間又は時期において授業を行う等の適切な方法による教育(いわゆる14条特例)などの工夫が考えられるほか,夜間大学院についても,法科大学院として十分な教育効果が上げられる場合には,教育方法や学生に対する学習指導体制について十分に配慮しつつ,各大学の判断により認められることとすべきである。
なお,通信制法科大学院については,高度情報通信技術の発展等を視野に入れると,これらの技術の積極的活用によりレポート指導や討議,双方向・リアルタイムで行う授業の展開などが今後期待されるものの,他方で,学生に対して法科大学院にふさわしい十分な学習指導を行える体制が確保できるかどうかなどの課題も残っている。したがって,通信制法科大学院については,通常の法科大学院の発足後の教育の展開状況も見定めつつ,その在り方について引き続き検討する必要がある。
施設及び設備については,法科大学院の目的に照らし,第三者評価(適格認定)を受けつつ十分な教育効果を上げるためにふさわしいものとして整備されていることが必要である。その内容については,各法科大学院の創意工夫によることを基本とし,一律の数量的基準を設けるものではないが,例えば,自習室や模擬法廷などの施設の設置,図書館の夜間開館,コンピュータやマルチメディア教材などの情報機器や参考図書等の充実などが期待される。
自己点検・評価の実施,結果の公表等については,現行制度上,大学院の義務として位置付けられているところ(大学院設置基準第1条の2)であり,法科大学院についても,その教育水準の一層の向上を図る観点から,各法科大学院自らが教育の質的充実を進める責任があることを明確にするとともに,教育活動の透明性を高めるため,自らの教育活動の点検・評価の実施と評価結果の公表を義務として位置付けることが必要である。
また,上記の自己点検・評価の結果の公表とともに,日常的な教育活動等の状況について,刊行物への掲載その他広く周知を図ることのできる方法によって積極的に情報を提供することが重要である。
大学の評価の今後の在り方に関しては,大学の個性化と教育研究の不断の改善に向け,自己評価,外部評価,第三者評価を適切に組み合わせた多元的な評価システムを確立することが必要である。特に法科大学院に関しては,新たな法曹養成制度の中核的機関としての水準の維持・向上を図るため,設立時の設置認可の審査とともに,大学関係者や法律実務に従事する者,法的サービスの利用者等で法科大学院に関し広く高い識見を有する者で構成される機関による継続的な第三者評価(適格認定)を行い,その評価結果やそれに対する社会の反応を踏まえて,法科大学院が自らその改善を図ることとするなど,法科大学院が不断に社会の評価を受けるシステムを構築することが重要である。
まず,法科大学院は学校教育法上の大学院として専門職大学院の一つとされることから,その第三者評価(適格認定)の在り方については大学院評価制度全体の枠組みの中において位置付けられることが基本となる。すなわち,国の示す一定の基準(機関認証基準)を満たす第三者評価機関が,専ら法科大学院の教育水準の維持・向上の観点から,自ら定める評価基準に基づいて大学を定期的に評価することとなるが,他方で,第三者評価(適格認定)の結果が新司法試験の受験資格の付与とも連動することとする司法制度改革審議会意見の趣旨も踏まえつつ,制度設計を行う必要がある。
その際,特に法科大学院においては,真に国民の期待と信頼に応え得る法曹を養成する観点から,第三者評価(適格認定)を継続的に受けることとするのが適当である。
第三者評価機関から適格認定を受けられず設置基準に抵触している疑いがあるなど,必要と認められる場合には,国がその法科大学院の実態について,法令違反状態に陥っていないかどうかを調査し,その結果,法令違反状態が明らかになったものについては,改善勧告,変更命令,認可取消等の措置を講ずることとすることが適当である。
各大学において法科大学院を設置するに当たり,個々の大学では教員や施設設備等必要な教育条件を整備することができない場合や,個々の大学ではこれらの条件を整備できる場合であっても質量ともに十分な水準を確保できない場合などがあり得るが,このような事態に対応し,限られた人的・物的資源を有効に利用し充実した教育を行う観点から,複数の大学が連合して設置する法科大学院(連合大学院)も制度的に認められるべきである。その具体的な形態については,現行制度との整合性も勘案しつつ,検討することが必要である。
設置形態のパターンとしては,複数の大学(学校法人)のうち1校を基幹校として残りの大学が内部組織に参画するパターン,
複数の大学(学校法人)の共同出資により新たな学校法人を設立し,法科大学院を設置するパターン,
複数の大学(学校法人)が協定等により連合組織を設立し,共同で法科大学院を設置するパターン,
(現行制度上は,一つの研究科は一つの大学に置かれることが想定されているが,)一つの研究科が複数の大学に置かれることとするパターン,が考えられる(参考資料3)。
検討に当たっては,独立した法科大学院としての一体的な運営の確保,教育水準の確保,学生の学習の便宜(無理のない履修形態の確保),安定的・継続的な運営の確保などに留意する必要がある。これらの点に照らすと,のパターンは将来的に学校法人の合併につながる可能性があり,
のパターンは連合する各大学が共同で学位を授与することができるという利点を有するものの,いずれのパターンについても経営体制の責任,機動的な大学運営,学生との在学契約や教職員に対する使用者責任,設置認可等各種申請手続きなどに関して問題がある。他方,
及び
のパターンについては,現行制度上も可能なものであり,
及び
のパターンにおけるような問題は少ないが,連合する各大学から学位を授与することができないことに留意する必要がある。
これらを踏まえ,又は
のパターンを基本として検討することとするが,その際,
のパターンについては,国立大学のみならず公立大学や私立大学にも認めることとすると,法科大学院としての一体的な運営の確保に留意しつつ,基幹校と参加大学のそれぞれにつき専任教員として算入を認めるなど専任教員の概念の見直し等が必要となる。また,
のパターンについては,更なる緩和措置として,例えば,一定の条件の下に校地・校舎の借用を認めることなどが考えられる(参考資料4)。さらに,国立・公立・私立の枠を超えた連合大学院の在り方については,国立大学の法人化の検討状況等をも踏まえつつ,大学院制度全体の中で更に検討を進める必要がある。
なお,法科大学院の教育の充実を図る観点からは,連合大学院の設置だけではなく,例えば単位互換などによる他の大学との連携や他の機関との連携により,多様な教育を展開することが必要である。
およそ法曹を志す多様な人材が個々人の事情に応じて支障なく法科大学院で学ぶことのできる環境の整備が必要であり,資力の十分でない者が経済的理由から法科大学院に入学することが困難となることのないように,例えば,文部科学省における奨学金事業,関係機関による法曹を目指す者を支援するための奨学金の仕組み,民間金融機関による教育ローンや債務保証の仕組み,各法科大学院における授業料免除の仕組みなど様々な支援の充実方策について,文部科学省をはじめ関係機関等において,具体的な検討が急務である。(参考資料5)
いずれにせよ,その前提として,法科大学院が,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての新たな法曹養成制度の中核になるとともに,高度専門職業人養成に向けた今後の大学院改革の方向性を位置付ける試金石となるものとして極めて重要な意義を有することについて,国民の理解を得る必要があることは当然である。
なお,標準修業年限に関連して既に述べたところであるが,修業年限を超えて在学することが予定される正規学生である長期履修学生の制度もまた,時間的余裕のない学生に対する支援方策として重要であり,各法科大学院において,公平性,開放性,多様性の確保を図る観点から,各法科大学院の判断により適切に対応していくことが期待される。
今後,法曹も含め高度専門職業人を養成するためには,学生に,幅広い知識を身に付けさせた上で,職業上必要な高度の専門的知識・技術を習得させることが重要である。このため,学部段階では広い視野を持った人材の育成を目指す教養教育を中心とした教育プログラムを提供し,大学院段階では高度で専門的な教育プログラムを提供することなどが考えられる。
法学分野においても,法科大学院制度の導入後は,法曹養成に特化した専門教育は法科大学院で行うことになるため,学部段階においては,例えば,法的素養を中心とした教養教育に重点をシフトするもの,米国の主専攻,副専攻のように複数の学部・学科の専門科目を同時に履修できるようなカリキュラム上の工夫を行うもの,法曹以外の法律関係専門職の養成を中心にするものなど,多様な教育プログラムの展開が考えられ,法学部等が従来果たしてきた法的素養を備えた多数の人材を社会の様々な分野に送り出すという機能の一層の充実が期待される。
また,学部段階においては,優れた成績を収めた者に対して,大学院への学部3年次からの飛び入学や学部4年未満での卒業など早期に大学院に入学できるような仕組みが既に開かれている。ただし,これらの者について法科大学院での3年未満での短期修了を一般的に認めると,学部段階において法曹に必要な幅広い教養を身に付けることがおろそかになるおそれがあり,適当ではない。
法科大学院は,従来の法曹養成や法学教育の在り方についての深い反省に基づき,司法が21世紀の我が国社会において期待される役割を十分に果たすための人的基盤を確保することを目的として基幹的な高度専門教育機関たるべく構想されたものであり,法科大学院の具体的な制度設計及びその運用はこれにふさわしいものとならなければならない。したがって,例えば,従来の法学部教育を漫然と持続させつつ,法科大学院をその法学部教育の単なる延長線上にあるものととらえ,法科大学院が屋上屋を架すようなものになるとすれば,法科大学院構想の本来の趣旨に悖るものと言わなければならない。大学関係者は,法科大学院の在り方についてはもちろんのこと,学部段階における法学教育についても,今般の司法制度改革の趣旨・精神を想起しつつ,その趣旨・精神が生かされるよう格段の工夫を凝らすことが望まれる。
-- 登録:平成21年以前 --