2002/08/05
中央教育審議会
平成14年8月5日
中央教育審議会
○ 中央教育審議会「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」(答申)
(1) 今後の国際社会においては,社会や経済など様々な面でボーダレス化が進み,国家間の相互依存・相互協力が進展して諸制度等の国際標準化が進む一方,競争も一層激しくなることが予想される。
このような中,諸外国では自らの知的基盤を整備充実させ,それによって生み出される「知」の積極的活用を図っていこうとしている。そこで,大学が優れた人材の養成と独創的な学術研究の推進といった,言わば「知の創造と継承」という極めて重要な役割を果たしていることにかんがみ,各国とも国際的通用性の向上,国際競争力の強化等の観点から大学の教育研究水準の維持向上を目指しており,積極的に大学改革に取り組んでいる。
この中で多くの国の共通の施策としては,大学評価を挙げることができる。先進主要国はすべて大学評価を改革の重要テーマとしている。アメリカでは,伝統的に,大学や専門職団体が組織した様々なアクレディテーション(適格認定)団体が自発的に大学を機関単位あるいは専門分野単位で評価し,当該団体への加盟判定を行ってきたが,1990年代に入り,大学の質の一層の確保を図るため,これらの団体に対する連邦政府の認定制度が導入された。また,イギリスでは1986年から大学の研究評価を実施し,1993年からは大学の教育評価も行われるようになっており,フランスでも1984年に行政委員会として大学評価委員会が設置されている。ドイツにおいても1998年の高等教育大綱法改正により,国際的通用性の確保の観点から,学士・修士の学位を新設するとともに,これらの課程について,大学に定期的な第三者評価とその結果の公表を義務付けている。さらに,EU諸国において,各国に共通する指標を定め,ヨーロッパレベルの大学評価を行い,全体の高等教育の質を向上させようとする取組も始まっている。(2) 我が国においても,諸外国と同様,自己点検・評価の充実や大学評価・学位授与機構の創設等の大学評価に関する施策も含め,これまで様々な施策を通じて大学改革に取り組んできており,現在なお進行途上にある。特に,「知の時代」とも言われるこの21世紀において,人材以外に資源の乏しい我が国が国際社会の中でリーダーシップを発揮し発展していく上で大学の果たすべき役割は極めて大きいものがあり,我が国における知的源泉として,その質的水準の確保を図っていくことが不可欠である。このため,大学が今後一層,人材養成や学術研究などの面で求められる責務を果たしていけるよう,恒常的にその質を社会に保証していくシステムを構築する必要がある。
(1) 大学の教育研究の質の保証については,現在,国による厳格な設置認可と各大学における自己点検・評価や第三者評価機関の評価の活用などの自己努力に負っている。
(2) 大学,学部等の設置に当たっては,国が大学設置基準等を基に審査し認可を行っているが,この設置認可制度は,我が国の大学が教育研究水準や学位等の国際的な通用性などを確保する上で,一定の役割を果たしている。
(3) また,大学設置基準等において,大学はその教育研究活動等の状況について自ら点検・評価を行い,その結果を公表することが義務付けられているほか,その結果について当該大学の職員以外の者による検証を行う努力義務が課せられている。この自己点検・評価は,各大学が自らの教育研究の理念・目標に照らして評価し,その結果を踏まえて大学が改善を図っていくものであり,大学の自主的・自律的な質の充実に資するものである。
なお,文部科学省の調査によれば,平成13年10月現在,すべての国公私立大学のうち92%の大学で何らかの形で自己点検・評価を実施し,75%の大学でその結果を公表しているが,学外者による検証は32%の大学にとどまっている。
(4) 現行の設置認可は,前述のように大学の質の保証の観点で一定の役割を果たしており,設置認可の際,教育課程,教員組織,校地・校舎などについて審査が行われるが,これらは,これから行われる教育研究の前提としての枠組みについてのものであり,実際にどのような教育が行われるかについて直接的な保証をすることには困難もある。また,自己点検・評価などは教育研究を行う当事者自らの判断である点で,一般社会から見て透明性・客観性の点で必ずしも十分なものとは言えないという問題がある。
(1) 大学の設置認可制度は,その教育研究の質を保証する上で一定の役割を果たしている一方,組織改編には国の設置審査が必要となることから,大学が学問の進展や社会の変化・ニーズに応じて自らより積極的に改革できるよう,設置認可制度を弾力化すべきとの意見がある。
(2) また,我が国の行政システム全体の動きとして,国による規制を可能な限り緩和し,事前規制型から事後チェック型へと移行する方向にある。
(3) こうした流れを踏まえ,国の事前規制である設置認可制度を見直し,学問の自由,大学の自主性・自律性の尊重等を踏まえて国の関与は謙抑的としつつ,設置後も含めて官民のシステム全体で大学の質を保証していく必要がある。
なお,このことは平成13年12月に総合規制改革会議が取りまとめた「規制改革の推進に関する第1次答申」等においても提言されている。
以上のことを踏まえ,国の事前規制である設置認可を弾力化し,大学が自らの判断で社会の変化等に対応して多様で特色のある教育研究活動を展開できるようにする。それとともに,大学設置後の状況について当該大学以外の第三者が客観的な立場から継続的に評価を行う体制を整備する。これらのことにより,大学の自主性・自律性を踏まえつつ,大学の教育研究の質の維持向上を図り,その一層の活性化が可能となるような新たなシステムを構築することとする。
(1) 高等教育全体の規模に関して,これまで大都市部における設置の在り方を含め大学設置に係る審査については抑制的に取り扱ってきており,このことが大学の質の確保を図る面にも寄与してきたと考えられる。しかし,平成13年12月の総合規制改革会議第1次答申でも指摘されているように,高等教育の柔軟な発展や競争を制約する可能性もあることから,こうした方針の見直しが求められているところである。
(2) 大学,学部等の設置に関する審査に当たっては,現在,特定の分野を除いて抑制的に対応する方針が採られているが,大学が社会のニーズや学問の発展に柔軟に対応でき,また,大学間の自由な競争を促進するため,今後は抑制方針を基本的には撤廃することとする。
なお,医師,歯科医師,獣医師,教員及び船舶職員の養成に係る大学,学部等については,過去の高等教育計画において計画的な人材養成が必要とされた分野のうちおおむね必要とされる整備を既に達成したこと,及び,それらの分野についての人材需給に関する政策的要請があることから,現在は全く新増設等を認可していない。このような規模や分野に関する現在の規制を残すことについては,大学の質の保証のために実施するものである設置認可制度の改善の趣旨を徹底する観点からは問題があるが,それぞれの分野における政策展開に密接な関連を有するものであるため,設置認可制度の改善の観点のみから,これらの取扱いを変更することは困難と考えられる。こうした例外分野の取扱いについては,今後,高等教育のグランドデザインの一環として高等教育における人材養成の在り方を検討する中で更に検討する。
(3) 首都圏,近畿圏,中部圏における工業(場)等制限区域・準制限区域内の大学の設置等について抑制的に取り扱っているが,大都市部における大学の自由な発展を阻害している等の批判があり,本年7月に工業(場)等制限法も廃止されたことを踏まえ,抑制方針を撤廃することとする。
(4) なお,こうした抑制方針を撤廃するに当たっては,大都市部における過当競争や地域間格差の拡大などから,教育条件の低下や学生の不安感の増大などを招くおそれもある。このことを踏まえ,例えば各大学における学生定員管理の厳格化を図る等これらの点に配慮した施策の検討が求められ,これらの点についても高等教育のグランドデザインを別途検討する中で検討する。
現在,大学設置審査の際に適用されている基準は,大学設置基準等の法令のほか,大学設置・学校法人審議会の審査基準や内規など様々な形式によって規定されている。今回,これらの基準が設置審査の最低基準であるとの観点に立って,それぞれの規定の必要性を吟味し,整理を図るとともに,こうした様々な基準の一覧性を高め,明確化を図る観点から,設置審査に係る基準を原則として告示以上の法令で規定することが必要である。
これら設置審査に係る基準のうち,大学設置基準等で定められている校地面積基準(校地が校舎の基準面積の3倍以上)及び校地の自己所有比率規制(原則として基準面積の2分の1以上が自己所有)については,土地利用の現状を踏まえた見直しが求められている。これらの基準は学生等の多様な活動を可能にするとともに学校法人の資産確保の面で一定の役割を果たしていることから,一定の数量的な基準は必要と考えられ,例えば,校地面積基準を校舎面積と連動しない形で定めたり,合理的な理由があれば基準の緩和を認めたりするなどの方法により,新たな数量基準を設定することとする。
より客観的で透明性の高い第三者評価を実施し,その評価結果を大学の教育研究活動の一層の改善に反映させるため,平成12年度に大学評価・学位授与機構が創設され,現在,今後の評価の本格的実施に向けて,国立大学等を対象に,各大学が行う自己点検・評価を基に試行的に評価を実施している。また,財団法人大学基準協会をはじめ様々な機関がそれぞれの観点から評価を実施している。
大学全体を組織体として評価する,いわゆる機関別第三者評価については,大学の質の維持向上のために各大学が自ら定期的に受け,その結果を大学の改善に役立てていくことが重要であることから,各大学は認証評価機関による評価を受けるものとする。
大学は,第三者評価の推進に関する強い社会的要請にかんがみ,自己点検・評価に加えて,より客観性・透明性の高い認証評価機関による第三者評価を受けることにより,その教育研究の質の向上を図る責任を有している。これらの評価は本来,大学が自発的に受けるべきものであるが,自らの教育研究の質を向上させるために定期的に第三者評価を受ける責任を有することを制度上明確にしていくことが必要である。
また,その場合,第三者評価機関の認証制度を導入することについては,第三者評価機関が社会に信頼される評価を行い得る枠組みを備えた機関であるかどうかを確認するものであり,第三者評価を社会的・国際的に通用する制度として育てていく上で必要と考える。
なお,我が国では機関別第三者評価を実施する機関が必ずしも十分育成されておらず,現在,その整備充実に向けた努力が関係方面で進められているという状況にかんがみ,評価の実施スケジュールについては第三者評価機関の整備充実の状況や評価に対する大学側の準備状況を考慮して定めることが必要である。
大学の専門性を様々な分野ごとに評価する,いわゆる専門分野別第三者評価についても,例えば日本技術者教育認定機構(JABEE)が行っているように,将来的には多様な分野で行われることが必要である。しかし,現在直ちに多くの分野で専門分野別第三者評価が実施できる状況にはないところであり,認証評価機関による評価の義務付けは,当面,第三者評価の導入に対する必要性が特に強い法科大学院等の専門職大学院から開始することとする。
大学評価・学位授与機構は,当分の間,私立大学に係る評価を行わないものとすることとされているが,同機構がこれまで蓄積してきた評価に係る能力,機能等を私立大学においても活用できるよう,同機構による評価を受けることを希望する私立大学についてはこれを可能にすることが適当である。
現在,第三者評価機関の整備充実に向けての取組が関係各方面で行われているところであるが,第三者評価機関の果たす役割の重要性にかんがみ,その取組を支援し,円滑な業務の実施に資するため,認証評価機関に対する国の支援方策について検討する必要がある。
e-Learningなど情報通信技術等を用いて国境を越えて提供される高等教育サービスが一層流通する時代が到来しつつあることを見据え,大学の質についての国際的な保証システムを構築していく必要がある。例えば,大学の質の保証に係る国際的な情報ネットワークの構築等に関する検討の必要性に留意することが重要である。