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新しい時代における教養教育の在り方について(答申の要旨)

1 今なぜ「教養」なのか

2 新しい時代に求められる教養とは何か

3 どのように教養を培っていくのか

1 幼・少年期における教養教育

  • ◇ 幼児期からおおむね12,13歳ごろまでの「幼・少年期」は,一人一人の成長のための「受容体」ともいうべき基盤を培うべき時期。
  • ◇ 核家族化,少子化,都市化などに伴い,家庭や地域の教育力が低下。我が国の伝統的な生活習慣などの「生活文化のかたち」を積極的に子どもたちに伝え,基本的な社会道徳,豊かな情緒等をはぐくむことが必要。
  • ◇ 生涯にわたる教養の基盤の形成に向けて,基礎的・基本的な知識や技能,自ら進んで学び考え,物事に挑戦していこうとする意欲や態度,社会の一員としての規範意識や豊かな人間性などを培うことが必要。
  • 1 家庭や地域で子どもたちの豊かな知恵を育てる
    •  家庭での絵本や昔話の読み聞かせ,年中行事や地域行事への参加,テレビやゲームの時間の制限などの「我が家の決まり」づくり
    •  善悪を区別する力や我慢する心,社会の中で生きていくための基本的な決まりなどを身に付けさせるしつけの充実
    •  美術館や博物館での子供向けの館内ツアー,参加・体験プログラム,学校図書館の土日開放
  • 2 確かな基礎学力を育てる
    •  基本的な事項の徹底のための反復練習,個別の家庭学習課題の設定,放課後の個別指導,社会人や大学生等のティーチングアシスタントの活用,中学校・高校の教員の小学校・中学校での指導への参加
    •  国語教育における素読や暗唱,朗読など言葉のリズムや美しさを体で覚えさせるような指導,「朝の10分間読書」等の読書指導
    •  学校の教育活動の自己点検・評価,全国的な学力調査の実施とその結果を踏まえた改善策の実施
  • 3 学ぶ意欲や態度を育てる
    •  実験やものづくりの実習,各種の体験活動,地域の人材の活用,地域の学習資源の活用,メディアの活用の推進など子どもの知的好奇心を高める取組の推進
    •  発展的な学習や補充的な学習の充実,発展的な学習の指導方法の開発,子どもがつまずきやすい事項を分析し指導の改善に生かすための実践的研究,子どもの長所を見付け適切に褒める指導の重視
  • 4 豊かな人間性の基盤を作る
    •  豊かな人生経験を持つ社会人,一つの道を究めた専門家の参加による道徳教育の充実,文学作品や映像作品の活用,自然体験や社会奉仕体験などの体験活動の推進
    •  音楽や演劇などの文化芸術活動や様々なスポーツ活動等を通じた,豊かな感性,たくましく生きるための体力・精神力など知・徳・体の調和のとれた育成
  • 5 教員の力量を高める
    •  研究活動や読書を通じた教員の自己研鑽の奨励,教員用の図書や映像資料の充実
    •  社会体験研修,ボランティア体験研修,青年海外協力隊等への派遣の大幅拡充など教員研修の抜本的充実
    •  保護者や地域住民への授業公開,勤務評定方法等の工夫,表彰制度や特別昇給の実施など評価の推進

2 青年期における教養教育

  • ◇ おおむね14,15歳から社会に出るまでの「青年期」は,自らのアイデンティティを確立するとともに,自然や人間,文化,社会とのかかわりを深める中で,人生観,世界観の基礎を培うべき時期。

(1)高等学校における教養教育

  • ◇ 高等学校においては,生徒の多様な進路を前提とした特色ある教育を推進するとともに,将来の職業や学問の基礎となる知識・技能や自らの人生に向き合う態度や能力をすべての生徒に身に付けさせることが必要。
  • 1 論理的に粘り強く考える訓練を行う
    •  「思索の記録」,「卒業論文」のように生徒が特定の課題について情報を集め,論理的に考え,表現する一貫した学習の機会の充実
    •  各高等学校で学校としての「必読書30冊」を選定
    •  科学技術の最新の研究成果も生かした教材の開発や,科学者等による指導の機会の充実など科学への関心を高め,科学的なものの見方や考え方の基礎を身に付ける教育の充実
  • 2 「将来」との結びつきから学ぶ意欲を引き出す
    •  進路指導におけるガイダンス機能の充実,インターンシップの推進,「高大連携」の推進,専門高校における職業教育の充実
    •  死や病,挫折など喪失感をもたらすような人生の側面を学び,考える機会の充実
  • 3 「体験」を通じて大人となる基礎を培う
    •  学校内外でのボランティア活動,多様な芸術文化活動やスポーツ活動など地域や社会での体験活動の推進
    •  高校での海外留学の奨励,宗教を含めた諸外国の文化を理解するための指導事例集の作成,高校卒業時点で外国人と日常の会話ができる程度の力を身に付けることを目指した外国語教育の指導の充実

(2)大学入学者選抜の在り方

  • ◇ 大学生の学力問題にも,大学入試は大きな影響。大学入試の在り方を,高等学校段階までの生徒一人一人の教養の涵養を促進し,大学で学ぶ姿勢や意欲を引き出すものへと改善することが必要。例えば,論文試験においてあらかじめ課題図書を指定し,それらの読書を前提に出題することや,面接試験において高等学校時代の課題研究や地域活動等を踏まえた討論をさせるなどの工夫を行うべき。
  • ◇ 社会人の積極的な受け入れを進めるため,各大学が入試において,社会人として培ってきた能力や意欲を適切に評価するための方法を工夫すべき
  • ◇ 様々な評価機関による評価等を通じて,入試改善の取組を促していくことが重要。

(3)大学における教養教育

  • ◇ 専門性の向上は大学院を主体に行うという今後の高等教育の方向を踏まえれば,学部では教養教育と専門基礎教育を中心に行うことが基本。各大学は,グローバル化や科学技術の進展など社会の激しい変化に対応し得る統合された知の基盤を学生に培うことを目指し,教養教育の再構築に取り組むことが必要。
  • ◇ 国内外でのボランティア活動,インターンシップなどの職業体験,留学や長期の旅行などを通じて得られる教養も重要。大学を休学しての長期間のボランティア活動や職業経験後に大学に入学し直すなどの「寄り道」の意義を積極的に評価すべき。
  • 1 カリキュラム改革や指導方法の改善により「感銘と感動を与え知的好奇心を喚起する授業」を生み出す
    •  各大学における教育理念・目的に基づく教養教育のカリキュラムの構築,教養教育の理念の教職員・学生への明確な提示
    •  学際的なテーマを複数教員で担当する,実験や実習を取り入れる,和漢洋の古典を中心とした「グレートブックス」の読破を求める,50分授業を週に複数回実施するなどの授業内容・方法の改善
    •  新入生に対する導入教育,科目履修時の詳細なガイダンス,チューター制度などきめ細やかな指導の推進
  • 2 大学や教員の積極的な取組を促す仕組みを整備する
    •  国公私立大学を通じて教養教育の改善充実に先導的に取り組む「教養教育重点大学(仮称)」への重点的支援
    •  授業内容や指導方法の改善の調査研究に取り組む教員に対する支援の充実,教育面での実績評価の学内経費配分や人事への反映,新任教員等に対する研修の実施
    •  複数の大学の共同による教育プロジェクトへの積極的な支援
  • 3 各大学において教養教育の責任ある実施体制を確立す
    •  全学的な教養教育の実施・運営に当たるセンター等の強化
    •  リベラル・アーツ・カレッジのような教養教育を中心とした大学や地域との連携協力を重視した短期大学等への改組転換の促進
    •  放送大学を含めた複数の大学間の単位互換等,大学間の連携・協力の促進
  • 4 学生の社会や異文化との交流を促進する
    •  社会貢献活動やボランティア活動のカリキュラム化,長期間のインターンシップの奨励,留学や海外派遣等の機会の充実,このような活動の促進のための窓口の大学への設置
    •  各大学において,留学や休学,転学等の制度をより柔軟なものとし,やり直しのきく教育システムづくりを推進。「寄り道」による「履歴書の空白」を企業をはじめ社会全体で積極的に評価

3 成人の教養の涵養

  • ◇ 子どもたちの学ぶことや将来への意欲の低さには,大人社会の現状が反映。
  • ◇ 今後の高齢化社会において,だれもが一生の間「完成」を目指して研鑽を積むという生涯学習の考え方が一層重要。大人自身が生涯にわたって学び自己実現に努めるような社会であってはじめて,子どもたちは目指すべき目標を得ることができ,社会としての品格も生まれる。
  • 1 教養を尊重する社会の実現に向けた気運を醸成する
    •  大人自身が自らの責任を自覚し,生涯にわたって教養を高める努力を実践
    •  社員の学習活動や地域貢献活動を支援するための各企業の休暇制度の整備や勤務形態の柔軟化等の促進,インターンシップの受入れや学校への講師派遣など企業の教育への積極的な協力を奨励
    •  書評や論壇時評などの評論機能の重視,専門的な内容を分かりやすく解説した新書の発刊などマスコミにおける取組の要請。多様な主体による優れた書籍,雑誌,映像作品等への助成や顕彰の奨励
  • 2 大人が教養を高めるために学ぶ機会を充実する
    •  親としての心構えや役割を学ぶ,老いや死などについて学ぶ,地域活動の在り方について学ぶ,社会生活に必要な経済知識を身に付ける,社会人が学位取得を目指して学ぶなどの多様な学習機会の充実
    •  大学や専修学校等における社会人の受入れの大幅な拡充や情報通信技術の活用,奨学金事業の充実などだれもが学びやすい環境の整備,情報提供の仕組みの整備
    •  学習の成果を生かして,住民がまちづくりや学校の教育活動の支援などに取り組むことを奨励,学校や公民館等を地域の学習グループやNPOの活動拠点として積極的に位置付け

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