資料1

安全検討会(第1、2回)の議論の概要

1 検討に当たっての留意点

○ 研修会の意義

(第1回)

  • → 研修会休止中も大学生は冬山に現に行っており、事故も実際に起きている。若い人たちがどのように危険を察知し、その危険をどのようにして回避するかについて、実感することのできる研修会にできないか。(北村委員)
     部内での教育機能が低下しており、それを補完するシステムや組織があってしかるべき。登山を通じて将来の日本を背負う人間を教育・育成するという点で、このような研修会に国が関与する意義は非常に高い。(山本協力者)

○ 研修会の理念・目的

(第1回)

  • → 国が主催する研修は、自己責任の機能する通常の登山とは異なるため、安全を第一に考えるべきではないか。(溝手委員)
     安全確保は当然必要であるが、絶対的な安全を確保してしまうと、研修の教育的効果が低くなり、研修の意義が失われかねない。(村越委員)
     研修会は普通の冬山登山とは別なものと考えるべき。納得できる安全対策を一つずつ積み上げていけば、事故を完全に避けることはできないにせよ、リスクはなるべくゼロに近くなるのではないか。(迫田委員)
     リスクを完全にゼロにはできない中で、どこまでの措置を講じれば、許容できる程度の安全と言えるのかということについて共通の理解が必要。(山本協力者)

(第2回)

  • → 安全性と研修の教育的効果とのバランスの線引きについては、委員によって微妙に違うと思われるため、その点をどう考えるかが最終的には一番重要となってくる。(村越委員)
     この研修に関するシラバスを公開してほしい。どのような考え方でもって、何を具体的に指導していくのかという、もう少し細かな話がないと、研修場所等の個別事項について判断のしようがない。(青山委員)
     研修の理念としてどのような研修を目指すのかということも重要。英仏などは、かなりのレベルの高い研修もやっているが、当然危険性も高い。この点をどう考えるかによって、研修時期等も決まってくる。(溝手委員)
     この研修は、講習生が危険を回避する能力を実践的に養う場であって、冒険的なものではないという方針をはっきりさせるべき。そうすれば、安全の確保という問題は自然にクリアしていく。頂上で記念写真を撮ったりして楽しむことが目的ではない(北村委員)
     この研修会の意義は、チャレンジングな山登りというよりも、リーダーを育てる研修ということが目的であるということでよいと思う。(橋本委員)
     何を目的に実際どういう講習をやっているのかということをあるならあるで明確にする。あるいは、ないならないで、まずつくっていくことが大事。それによって、どのような安全対策を講じるかが決まってくる。(村越委員)

2 個別の安全確保対策

○ 研修場所

1 研修山域

(第1回)
  • → 30年間同じ場所で研修を実施しており、蓄積したデータがある。新たな場所で一から研修を始めることは大変。従来どおり、前進基地を使った場所での実施で大丈夫ではないか。(尾形委員)
(第2回)
  • → どの場所でどの程度の事故が発生しているのかという細かい情報をデータベース化した情報を提供していただきたい。(青山委員)
     十分調査が行えて実践的な判断がやれる場所という意味では、大日岳も今までの情報を整理すれば安全にやれると思う。冬山前進基地の価値は非常に大きいと考える。若い人、講習を受ける人にとってふさわしい場所であるかという視点で議論すべき。(北村委員)
     大日岳のコースは厳しいところはないし、雪の状態を別とすれば、技術的にはそれほど難しいところではないので、いいところを選んだと思う。コースにポールを立てたり、気象装置を設置したりすれば、いい会場になるのではないか。(迫田委員)
     今回事故が起こって、いろいろな方面からいろいろなグループが大日岳の調査を行っており、データがかなり積み重なっているので、新たなところを探す必要はなく、大日岳で進めていくのがよいのではないか。(橋本委員)
     登山研修所において、ヒヤリハットの報告書や危険地図を作成したり、上のほうで積雪を観測したり、雪庇を見に行っているなど、大日岳についていろいろな情報が出ているので、その辺の情報が欲しい。(西村委員)

2 具体的なルートの選定

(第1回)
  • → 山の下方で気象観測を行うことにより、山の上における積雪状況、雪崩リスク等が予測できるシステムが開発されつつある。(西村委員)
     一般向けGPSでは5メートルレベルの精緻な山稜確定を求められると難しい。特殊なGPSでは精度1メートルのものがあるが、金額が高い。(村越委員)
     自然公園法の問題があるが、山頂や三角点ピークに目立つポールを設置することを検討してはどうか。(尾形委員)
     むやみに先行者のトレイルを追わないよう、各班でうまく議論できる形が望ましい。(尾形委員)
(第2回)
  • → 高い標高域での気象観測を通じて、積雪状況や雪質の変化を予測することにより、いつどの場所がどの程度雪崩の危険があるのかがある程度予測できるような研究が進んでいる。(西村委員)
     山頂にポールを設置することは認められないとのことであるが、山岳区域にどういうふうに雪が積もっていくかを調べる上では、実際に積雪深を把握する必要があることから、ポール設置の学術的意義は高い。(西村委員)
     GPSは地表面の特徴のない冬山でも一応正確にナビゲーションすることができる。機種の性能、衛生配置、地形、植生、持ち方等の条件がうまくそろえば、誤差は概ね10メートル以下、特に条件がよければ2メートル程度で収まるが、実際に行動する際は、その置かれた条件を把握し、どの程度の誤差が生じるかを事前に予測することが必要。また、正確な利用には、事前にルートのログをとっておくことが望ましい。(村越委員)
     大日岳に行くコースの全コースの中で、どれぐらいの精度で安全度を見ることができるならオーケーなのかどうかについて、具体的に議論していくことが必要ではないか。(青山委員)
     雪崩予測の研究そのものは発展の段階であるため、これは安全であると厳密に言い切れるところはない。しかし、将来的に、大日岳周辺を対象にしていろいろな計算を行う価値はあるとは思う。(西村委員)

○ 研修時期

(第1回)

  • → ここ10年ぐらい、気象や積雪の状況が随分変わってきている。3月上旬が不安定な時期なのであれば、その時期を避けることも検討する必要がある。(北村委員)

(第2回)

  • → たとえば2週間くらいずらして3月20日頃にした場合、各学校の春山合宿など年間行事との絡みで、研修生が参加しにくいということはあるのか。天候的な安定等を考えると、3月初旬より中旬以降に実施したほうがよいと思う。(尾形委員)
     正月から2月にかけてと3月中旬以降とでは、後者の方がずっと安定度を増す。すべての大学を調べたわけではないが、多くの大学は2月の終わり、または3月の頭ぐらいから大体2週間から20日間ぐらいの合宿に入る。4月に入ると新人勧誘とぶつかる。(山本協力者)
     4月は新学期であり、大学の授業の関係からして、長期の研修を行うことは難しい。(飯田座長)
     春分の日ぐらいは、一般の登山者がたくさんこの山域に入るので、過去の情報も含め、情報を集めやすい。気候的にも安定している。(北村委員)
     3月の終わりくらいになると、気温が暖かくなってきており、雪質が随分変わってしまうため、研修の目的が果たして達せられるのかという問題がある。(西村委員)

○ 講師

1 講師の指導方法の標準化

(第2回)
  • → イギリスのプラシー・ブレニンのMLT(Mountain Leader Training)は日本と登山研修所に相当する施設である。7つの研修コースがあり、ML(W)(The Winter Mountain Leader Award)が登山研修所の冬山研修に相当する。研修をどういう形で進めて行くかについて非常に細かいシラバスを作成している。UIAA(国際山岳連盟)では登山用具のほか、指導方法についても「標準化」が進んでいる。(青山委員)
     講師が何をどういうふうに教えるのかということについて標準化するため、教程書なり基準書みたいなものが必要。そういうものがないと、講師は研修生に対して強く指導できず、その場その場で判断してしまう結果、また繰り返し事故は起きる。(北村委員)

2 講師への情報提供

(第1回)
  • → 講師は研修会の要であり、講師に対して雪庇、雪崩などの最新の情報を十分に提供することが重要。(北村委員)
(第2回)
  • → 実際の冬山と異なり、講師はいろいろな情報を持ちすぎても構わない。講師が研修生を守り、途中でギブアップができる研修会が求められている。(北村委員)

○ 研修生の参加資格

(第1回)

  • → 山岳部、ワンゲル、同好会など研修生のレベルに差がある中で、研修の目的としてどの辺を目指すのかをクリアにした方がよい。(西村委員)
     研修生のレベルに応じた指導を行うことは、研修する側にとって幅広い対応が求められる。(山本協力者)

(第2回)

  • → 研修目的をどうするかとも絡んでくるが、参加者の経験、登山実績をさらに細かく出させるなり検討するなりして、参加資格をもう少し厳しく見ていくという方向も考えられる。(山本協力者)
     大学側から申請があれば全部認めるというのはよくない。そのチェック体制をどのようにしていくか。(溝手委員)

○ 安全管理のシステム化

(第2回)

  • → 登山研修所の従来の安全管理体制がどういうものであったのか、それを踏まえてどういう管理体制が望ましいか、について検討が必要。従来の研修は、講師任せで、講師によって安全の考え方が異なるなど、システムとして確立したものがなかった。英仏のシステムを参考にしたい。(溝手委員)
     一つの事故が起きる後ろには、幾つかの隠れたヒヤリハットがあると思う。それをもとに安全について検討していけばよいのではないか。現場の声が一番大事。(橋本委員)
     長期間、同じ場所、同じ時期に研修を実施していたとしても、その情報、データが、1回限りで継続性がなく、データ化されていないということになると、いくら長い間やっても生きてこない。蓄積した情報の共有化のため、ルート上の危険因子に関してテクニカルノートを作成し、研修終了のたびに加筆していていけば、ものすごく生きた情報になる。(尾形委員)

○ 登山研修所の組織体制

(第1回)

  • → 雪崩の研究員等を有する研究機関をあわせ持った形が一番よい。(迫田委員)
     各分野の専門家をきめ細かく集めて、教育機関のような形にしていくのがよい。(橋本委員)

(第2回)

  • → 登山研修所そのものが気象観測や研究ができるような研究機関になることが望ましい。(西村委員)
     安全には事前の準備が大切であり、それに力を入れていくためには、登山研修所に、山の経験も含めた専従の人を数多く配置することが必要ではないか。(橋本委員)