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青少年の野外教育の振興に関する調査研究者会議

野外教育の現状と課題  
2.野外教育の現状と課題

(1)野外教育プログラム
  野外教育プログラムは,ややもすると,自然の中で行われる各種の活動種目の選択や,その活動種目を時系列に並べた日程と考えがちである。しかし,野外教育プログラムは,単に活動種目や日程を指すものではなく,教育目的,指導方法・指導形態,活動種目等が一体となったものとして考えるべきである。すなわち,プログラムは,単に何をするかだけではなく,何のために,どのような方法で行うかという視点が必要である。したがって,同じ活動種目であっても,ねらいや指導方法等が異なれば,全く違ったプログラムとなる。
  また,プログラムをさらに広く捉えれば,そこには,評価や成果の活用といった視点を持つことも大切である。

1  野外教育プログラムの現状
  従来から,学校,地方自治体,青少年教育施設,民間団体等で,様々な野外教育プログラムが展開されてきた。ここでは,野外教育プログラムを実施している学校,地方自治体,青少年教育施設,民間団体という実施主体別に,その現状を取り上げてみる。

ア,学校が実施する野外教育プログラム
  学校教育においては,集団宿泊学習,林間学校などの野外教育プログラムが,学校行事の一環として実施されている。これらの多くは,通常,1泊か2泊の宿泊を伴い,学年単位で,青年の家・少年自然の家等の施設・設備が比較的整った青少年教育施設等を利用して行われている。  昭和59年度から開始した文部省の国庫補助事業である「自然教室推進事業」(5泊6日程度)の創設を契機に,小中学生の長期の野外教育プログラムが,学校において実施されている。長期間のプログラムとしては,この自然教室以外に,兵庫県の「自然学校」(県下の全小学校5年生を対象にした4泊5日),東京都江戸川区の「セカンドスクール」(小学校6年生を対象にした6泊7日)などがある。
  このような期間の長期化とともに,野外教育プログラムの実施形態などにも工夫が見られるようになってきた。例えば,参加者全員の一斉指導による活動だけでなく,小グループによる選択活動や,個人別の自由選択活動,複数学年が参加し,異なる学年の児童生徒の縦割りグループによる活動などである。    また最近では,理科や社会などの教科との関連に留意し,活動種目によっては,それぞれの教科に位置付けた取り組みも見られる。

イ,地方自治体が実施する野外教育プログラム
  地方自治体では,教育委員会の生涯学習・社会教育担当部局や首長部局等において,青少年を対象とした各種の野外教育プログラムが実施されている。
  昭和63年度から開始した文部省の国庫補助事業である「自然生活へのチャレンジ推進事業」は,10泊程度の長期にわたる原生活体験や冒険活動を中心にしたものであった。また,この事業の成果を踏まえ,平成5年度から開始された「青少年自然体験活動推進事業」は,原生活体験や冒険活動に加え,環境教育の視点に立った野外教育プログラムや,登校拒否児童生徒,障害のある児童生徒を対象にしたものへと野外教育プログラムの拡大を図ったものであった。
  これらのモデル事業の全国展開を契機に,教育委員会が実施する冒険的活動,環境学習活動,登校拒否児童生徒への対応など,青少年の現代的課題を捉えた野外教育プログラムが増加した。
  また,首長部局においても,青少年対策や環境対策の観点から,自然と触れ合う活動などが行われている。

ウ,青少年教育施設が実施する野外教育プログラム
  青年の家,少年自然の家といった青少年教育施設は,青少年を対象に,集団活動を通して,その健全育成を図るための教育施設であり,自然環境の豊かな場所に設置されているものが多い。
  青少年教育施設は,学校,地方自治体,青少年団体等の野外教育プログラムの場として活用される一方,施設自らが企画・実施する主催事業として,その立地条件を生かし,青少年を対象とする様々な野外教育プログラムを提供している。
  また,平成4年9月の学校週五日制の導入に伴い,休みとなる土曜日に親子の野外教育プログラムなども積極的に実施されている。

エ,民間団体が実施する野外教育プログラム
  野外教育プログラムを実施している民間団体の例としては,第一に,青少年団体があげられる。青少年団体では,青少年の健全育成を図るため,キャンプなどの野外教育プログラムを中心に実施している団体が多い。これらの団体のいくつかは,野外教育に関して,長い歴史と実績を持ち,指導者養成のための独自のプログラムや施設を有して,先駆的な野外教育プログラムを実施しており,これまでの我が国の野外教育に多大な影響を与えてきた。
  次に,キャンプ,ホステリング,バードウォッチングといった各種の自然体験活動の普及・振興を図る民間団体も数多くある。このような団体では,それぞれ専門とする活動の特色を生かした野外教育プログラムを実施している。
  さらに近年は,野外教育プログラムの提供や指導者養成を専門とする民間教育事業者も生まれてきた。これらの民間教育事業者の特徴は,年間を通して,様々な野外教育事業を恒常的に実施するとともに,事業者の中には,学校や地方自治体の要請を受けて,その野外教育プログラムの企画や実施に積極的に参画しているところもある。
  また,企業がその社会貢献の一つとして,近年,交通遺児のための自然体験キャンプや親子の自然教室など,野外教育プログラムを実施しつつある。

2  野外教育プログラムの課題
  野外教育プログラムについて,実施主体別にその現状を簡単に紹介したが,全国的観点で,現在の我が国における野外教育プログラム全体を見渡すと,様々な問題点や課題がある。

ア,実施期間の短かさ
  第一の問題点は,実施期間の短さである。文部省の社会教育調査(平成5年度)によれば,全国の公立青少年教育施設の宿泊期間別利用者数は,1泊が全体の約70%,2泊が全体の約22%で,1〜2泊の利用が全体の9割以上を占めている。青少年教育施設の利用状況をもって,野外教育プログラムの実施期間をすべて表しているとは言い難いが,全体的傾向として,短期間に止まっているのが現状である。
  ゆとりある充実した野外教育プログラムを実施するためには,期間の長期化が必要である。

イ,一貫したプログラム作りの欠如
  第二の問題点は,ねらいの曖昧さ,指導方法・指導形態の画一性である。先にも述べたように,プログラムは,単に活動種目や日程を指すものではなく,目的,指導方法・指導形態,活動種目が一体となったものとして考えるべきである。しかしながら,一般的には,子どもたちが喜べば良いとか,単に体験することが大切であるとして,どのような種目の活動ができるのかという点だけが先行してしまい,何のために,どのような方法でという点が軽視されがちである。すなわち,プログラムが,活動種目の羅列になってしまうのと同時に,実際の指導の場面でも,時間内に次々と活動をこなすことに力が注がれるきらいがある。
  プログラム全体の大きなねらいがあり,それに基づいて個々の活動のねらいがあってしかるべきであり,そのねらいを達成するのに最も適した指導方法・指導形態を考えるべきである。実施可能な活動種目を羅列するだけのプログラムであってはならない。
  また,野外教育のプログラムは,単発的,行事的な活動と考えられがちである。しかし,その事前準備や事後の学習等も重要であり,今後は,これら前後の学習等も視野にいれたプログラム作りが必要である。

ウ,プログラムの開発の不足
  第三の問題点は,野外教育プログラムに対する認識の固定化であり,プログラム開発の不足である。例えば,キャンプ活動は,総合的で最も親しまれている野外教育プログラムであるが,依然として,テントを張り,寝袋で宿泊し,飯盒で自炊することがキャンプであると考えている人々が多い。さらに,夜は,キャンプファイアーをしなければならないと考えている人々も多い。野外教育プログラムに対するこうした固定観念は,多様なプログラムの開発を阻害するものである。
  また,我が国には,四季というすばらしい自然の営みがあるにもかかわらず,夏季のプログラムが多い。年間を通した恒常的なプログラムをもっと開発すべきである。さらに,大自然の中だけでなく,都市部の公園等でも実施可能なプログラムや,青少年の心身の発達段階に応じたプログラムなども今後開発していく必要がある。

エ,効果分析・評価研究の不足
  第四の問題点は,野外教育がどのような成果をもたらすのかといった効果分析や,プログラムのねらいが達成できたか,指導方法や内容は適切であったかという評価研究などが,あまり行われていないということである。
  すなわち,野外教育プログラムの参加者からは,「感動した」「楽しかった」「自分のためになった」などという感想がよく聞かれ,また,指導者からは,「有意義な活動ができた」「子どもがひとまわり大きくなった」などという感想が多く聞かれる。こうした主観的な満足感や経験論的な評価は,野外教育の成果を裏付ける重要な要素の一つではあるが,残念ながら,これ以上の効果分析や評価がなされていないのが一般的である。
  また,野外教育は,客観的な成果の分析が極めて難しい領域であるため,標準化された効果分析・評価研究の手法が必ずしも確立されていないという問題点,さらには,一部の大学等で行われている調査研究の内容や情報の所在が広く知られていないという問題点もある。

(2)野外教育指導者
  野外教育の多くは,非日常的な自然の中で,行動半径の広い活動と1日24時間の生活が伴う。このため,青少年の野外教育の指導者は,青少年が親しめる優れた人間性とともに,様々な役割を担う指導者が数多く必要となる。
  野外教育の指導者の役割は,その実施規模や実施主体等によって異なるが,一般的な例を示してみると,第一に,実施場所の選定,プログラムの作成,人員の配置,広報,会計,渉外,装備や食料の手配など,全体の企画・運営に携わる専門的な能力を有した指導者がいる。第二に,プログラムの進行や生活面の管理などの役割を指揮統括する指導者がいる。第三に,特定の活動種目を指導するための専門的な知識や技術を持った指導者がいる。さらに,子どもを対象とした野外教育プログラムでは,子どもたちと生活や活動を共にしたり,指導・運営の援助を行ったりするグループリーダー,カウンセラーなどと呼ばれる指導者がいる。野外教育指導者として実際の事業に携わっている人は,実施主体によって様々であるが,学校の教員,青少年教育施設の職員,社会教育・体育・スポーツ行政担当者,野外教育関連団体の指導者が多く,場合によっては,各種自然体験活動に造詣の深い社会人が携わることもある。また,グループリーダー,カウンセラーなどと呼ばれる指導者は,大学生等の青年が,ボランティアとして参画している場合が多い。
  このほか,医療や健康管理,資材の運搬,調理に携わる特殊な資格や能力を有した人々の協力を得ている場合もある。

1  野外教育指導者の養成の現状
  現在,大学や青少年教育施設,民間団体などにおいて,それぞれ野外教育指導者の養成・研修が行われている。

ア,大学の指導者養成
  我が国では,一部の教育系・体育系の大学や学部,大学院において,野外運動学,環境教育学などの野外教育に関連する専門分野が置かれており,野外教育の専門的な知識・技術を有した指導者を育成しているが,全体として,野外教育関連の専門コースを設置している大学等の高等教育機関は,極めて少ない。

イ,国や地方自治体,青少年教育施設の指導者養成
  国が実施する野外教育の指導者養成・研修事業としては,文部省の小中学校の教員を対象とした「自然体験活動担当教員講習会」,都道府県教育委員会の野外活動担当者や野外活動団体の指導者等を対象に,民間の野外活動団体と連携した「野外活動指導者研修会」などが行われている。
  さらに,国立オリンピック記念青少年総合センター,国立青年の家,国立少年自然の家などの国立青少年教育施設では,前述した文部省が実施する養成・研修事業の場となっているほか,野外教育や環境教育に関する指導者研修,登山,スキーなどの各種目別の指導者研修など,施設周辺の自然環境や宿泊機能を活用し,数多くの指導者養成・研修事業が実施されている。
  また,都道府県教育委員会や公立青少年教育施設においても,様々な指導者の養成・研修事業が実施されている。

ウ,民間団体の指導者養成
  民間団体が実施している野外教育指導者の養成は,二つに大別できる。一つは,野外教育関連団体が,広く一般の人々を対象に実施する養成・研修事業である。この場合,キャンプ,ホステリング,バードウォッチングといった各団体の特定の種目ごとに実施されていることが多く,また,経験や能力,年齢等に応じて,初心者対象,上級者対象などの段階を設けて実施されている場合が多い。
  もう一つは,主たる活動として野外教育を実施している青少年団体等が,自らの団体活動を担う指導者のために行う養成・研修事業である。この場合は野外教育に加え,各団体の活動目的に沿った研修が実施される。
  また,近年は,野外教育に関連する各民間団体が相互に連携し,合同で指導者の養成に取り組む事例も出てきている。

2  野外教育指導者の課題
  野外教育は,先に述べたように,組織的,計画的に,一定の教育目標を持って行われるものである。そのため,野外教育の実施には,指導者の存在が不可欠であり,当然のことながら,指導者の資質や量は,野外教育の成果を大きく左右するものである。また,これら指導者の養成,確保も重要な課題である。我が国における野外教育指導者に関しては,以下のような問題点・課題がある。

ア,専門的な能力を持った指導者の不足
  現在,各種自然体験活動の高度な知識・技術を有した指導者はいるものの,野外教育の総合的な専門性を持った指導者が,量的に不足しているという問題点がある。ここでいう専門性とは,野外教育の意義や特性をよく理解し,対象者の年齢,経験,関心,実施場所の自然環境,施設・設備,指導者の資質や人数などの様々な条件に応じて,適切かつ安全に野外教育プログラムを企画,運営し,的確な評価ができる経験に裏打ちされた能力である。
  我が国には,こうした能力を持ち,野外教育の総括的な企画運営ができる指導者が少ない。

イ,体系的な指導者養成・研修事業の不足
  総合的な能力を持った指導者の不足は,現在行われている指導者養成・研修事業のあり方にも問題がある。
  野外教育指導者の養成・研修事業は,全国各地で実施されているが,全体的傾向としては,知識・技術の習得や各種活動の体験が中心になっていることが多い。それは,例えば,野外教育の意義,自然環境の理解,青少年の発達課題などの講義であり,テントの立て方,野外炊事の仕方,キャンプファイアーの進め方,天体観察の仕方などの実習である。これらの研修内容は,総じて,これから指導者になろうとする人々,あるいは,指導者として活躍し始めた人々にとって,重要なものである。
  しかし,先に述べた野外教育の総括的な企画運営ができる指導者の育成を図る事業はあまり実施されていないのが現状である。

ウ,専門家の活躍の場の不足
  野外教育の専門家の不足という問題点がある一方,専門家であっても,その専門性を十分に生かし,年間を通じて活躍できる場や機会に恵まれていないという問題点もある。この問題は,野外教育の専門家を求める社会の潜在的な需要があるものの,広く社会一般が,その専門性を職業として認めるまでには至っていないということでもある。
  しかし,野外教育の重要性が広く社会に認められつつあり,各地で野外教育プログラムが実施されつつあることは,先に述べたとおりであり,野外教育の専門家が必要とされる機会や場は,今後さらに多くなると思われる。
  したがって,専門的な能力を持った指導者の養成とともに,その指導者が活躍できる場の確保にも目を向けなければならない。

エ,教員の資質
  学校の教員は,学校が実施する野外教育プログラムの指導者であり,同時に,野外教育の専門的な指導者となり得る素養を持った人材でもある。しかし,今日の青少年だけでなく,教員を目指す大学生や教員自身に,豊富な自然体験や生活体験が不足していると指摘する教育関係者が少なくない。
  野外教育の指導を担う者は,指導者となる以前に,自ら自然体験活動の楽しさや喜びを数多く経験していることが必要である。こうした体験があってこそ,その重要性や意義が理解でき,指導者として,青少年にその楽しさや喜びを伝授することができると言える。
  また,青少年が野外教育プログラムに参加する機会は,圧倒的に学校が多い。これは,学校の実施する野外教育プログラムの質的向上が,我が国全体の野外教育の振興に大きな役割を果たすことを意味する。
  教員や教員を目指す大学生の自然体験活動等の充実は,野外教育を振興する上で重要な問題点である。

オ,青少年教育施設職員の資質
  青少年教育施設は,青少年の健全育成を図ることを目的に,国や地方自治体が設置している施設であるが,豊かな自然環境に恵まれた場所に設置されていることが多く,各種の野外教育プログラムが行われている場である。
  したがって,青少年教育施設には,野外教育に関する様々な専門的指導者が数多く配置されるべきであるが,現状は,教員等との人事異動によって,数年で交替する場合が一般的である。
  青少年教育施設は,我が国における青少年の野外教育の拠点施設として,さらにその充実が期待される。こうした観点から,特に,青少年教育施設における指導系職員として,今後野外教育に関する専門的な能力を持った職員が配置されるよう配慮する必要がある。また,同時に,この養成のためのシステムを確立することが大切である。

カ,青年リーダーの資質
  子どもたちを対象とした野外教育を実施する場合,グループリーダー,カウンセラーなどと呼ばれる大学生等の青年リーダーが,ボランティアとして携わることが多い。若い世代の指導者は,子どもたちにとって最も身近な模範であり,良き相談役であり,その存在は極めて重要である。また,リーダーとして参加する青年にとっても,自らの豊かな人間形成を図る上で,貴重な体験を積むことができる。
  こうした青年リーダーについては,各種自然体験活動の指導技術とともに,カウンセリングやグループワークに関する知識・技術を持っていることが望ましいが,このような知識・技術を学ぶ研修が行われている例は少ない。
  専門的指導者の養成とともに,優秀な青年リーダーの養成・確保も重要な課題である。

(3)野外教育の場
1  野外教育の場の現状
  野外教育が実施される場は,国立公園,国定公園,都道府県立自然公園などの豊かな自然が残された地域や,その近隣に設置された青少年教育施設,キャンプ場などが考えられる。この中でも,青少年を対象とした野外教育は,宿泊や活動のための施設設備が整った青少年教育施設・キャンプ場などで実施されることが多い。
  青少年の野外教育の場として考えられる青少年教育施設は,文部省の社会教育調査(平成5年度)によれば,全国に公立少年自然の家が294施設,宿泊型の公立青年の家が249施設で,宿泊定員は,少年自然の家で平均220人程度,宿泊型青年の家で平均120人程度となっている。また,国立青年の家・少年自然の家は,比較的規模が大きく,300人〜500人の宿泊が可能で,敷地面積等も20万〜100万平方メートルという広大な環境を保有している。
  さらに,キャンプ場については,国立南蔵王青少年野営場のほか,同調査によれば,地方自治体や公益法人等が設置運営するものとして1,219か所ある。

2  野外教育の場の課題
ア,自然環境の保全・活用
  近年の都市化や過度の森林開発等により,豊かな大自然が減少しつつある。国土の保全,動植物の保護という観点からだけでなく,青少年の野外教育のための場を確保するという観点からも,豊かな自然環境作りに目を向けていくことが必要である。特に,青少年教育施設は,豊かな自然環境に恵まれた場所に立地していることが多い。これは,青少年の野外教育を展開するための,数少ない貴重な場であると言ってもよい。現在の施設の自然環境の保全と活用に一層努力する必要がある。
  なお,自然の中で実施される各種の活動自体が,自然環境を破壊する要因の一つであるという指摘があるが,万が一にも,野外教育の各種活動が,自然環境を破壊するようなことがあってはならない。自然環境保全のために,野外教育の指導者は,最大限の努力と細心の注意を払うことが必要である。本来野外教育は,自然に親しみ,自然に対する理解を深めるとともに,自然を守り,大切な自然を次代に引き継ごうとする態度を育てるものであり,このような資質は,子どもの内にしっかりと身に付けることが必要である。

イ,野外教育の場の整備・活用
  野外教育の場を確保するとともに,より積極的に新たな場を整備することも必要である。
  これまで,青少年の野外教育の場は,ややもすると,青少年教育施設に偏りがちであったが,今後は,国立公園のビジターセンターや営林署といった国レベルの施設や機関,自然博物館,動物園,水族館といった各種社会教育施設,さらには,民間のキャンプ場,牧場,農園など,幅広い機関・施設等と有機的連携を図り,実施場所の活用に努めることが必要である。
  また,青少年にとって,豊かな自然が残されている場所への移動には,多くの時間と経費がかかるようになってきている。野外教育の場として,青少年の身近にある空き地や公園,川や池,学校の校庭や寺社の森などを今後一層活用していくことも必要である。

ウ,青少年教育施設の充実
  青少年教育施設は,青少年の野外教育の場として,最も活用されており,今後,青少年の野外教育の拠点施設として,その充実が期待されている。
  青少年教育施設には,それぞれ特色ある自然環境,施設設備,人的条件を活用し,学校や民間団体等が参考となるようなモデル的なプログラムの開発,教材や指導マニュアルの開発,野外教育の啓発,調査研究の充実,各種の情報収集・提供機能の充実などが求められる。

(4)野外教育の事故と安全
1  野外教育における事故の現状
  近年,週休2日制の普及や学校週5日制の導入等に伴い,自然の中で余暇活動を楽しむ人々が増えてきていると言われている。こうした状況の下,自然体験活動中に,死亡に至るような重大な事故も発生している。
  野外教育の諸活動中に起きた過去の重大事故には,川遊び中に小学生が誤って深みに落ちて溺死した例,河原でのキャンプ中,川が増水し激流に押し流されて中学生が溺死した例,サイクリング中に転倒し,バスにひかれて死亡した中学生の例などがある。特に,河川や海など,水辺での事故,落雷や集中豪雨など,急激な気象条件の変化に起因しての事故等が,生命をおびやかすような重大事故となることが多い。このような事故では,指導者の刑事責任や損害賠償責任等を問われる場合もめずらしいことではない。

2  野外教育における事故対策の現状
  野外教育を実施する際の事故対策には,事故を未然に防ぐための対策と事故の発生に備えた対策に大きく分けられる。

ア,事故を未然に防ぐための対策
  事故を未然に防ぐための対策として,最も一般的に実施されているものは,現地の事前踏査・下見による危険個所等の確認や情報収集である。宿泊地や活動コースにおいて,転落の危険性のある場所はないか,鉄砲水・がけ崩れ・雪崩が発生する可能性はないか,毒ヘビ・ハチ・ウルシなど人体に危害を及ぼすような動植物の存在はないか,さらには,飲料水や食材料の保管などの衛生状況はどうか,などといった確認や情報収集がその例である。
  このほか,参加者の事前の健康診断や体力・運動能力の把握,現地での健康状態の把握,使用する道具の点検・補修,服装や持ち物の点検・指導,事故防止のための体制作り,さらには,落雷や集中豪雨等の前兆の察知,参加者への直接的な注意・指導などが,事故を未然に防ぐための対策として行われれている。

イ,事故の発生に備えた対策
  万一の事故の発生に備えては,無線機・携帯電話などの緊急用連絡手段の確保,緊急連絡網の作成,指示連絡経路の徹底,事故記録の作成といった事故発生時における連絡体制の整備,現地の医療機関・救助機関の確認,医師や看護婦の協力,応急処置ができる指導者の配置といった救急・医療体制の整備などの安全対策が講じられている。
  また,保険制度の活用も事故の発生に備えた対策として重要である。近年,各種の傷害事故に対応した保険の補償制度が整備され,野外教育においても,参加者の傷害保険への加入が一般的になりつつある。

3  野外教育における安全対策の課題
ア,情報収集の不足
  野外教育で実施されている事故対策の事例をいくつか示したが,これらの対策は,どれも欠くことのできない重要なものである。しかし,野外教育事業全体を見渡すと,必ずしもこうした対策が十分に実施されているとは言い難い状況がある。
  特に,現地の下見による事前の安全確認や情報収集は,起こりうる事故を予知するための基本となる手がかりであり,様々な事故対策を講ずるための基礎である。しかし,実際に下見に訪れる者が,部分的な内容の下見にとどまったりしている例が多く見受けられるなど,十分に行われているとは言えず,今後一層の充実が必要である。

イ,指導者の安全確保
  現在の野外教育においては,参加者の安全を守るという観点から,様々な対策が講じられていることが多い。
  しかし,このような参加者の安全対策に加えて,指導者の安全にも配慮することが必要である。特に,指導者の迅速かつ的確な危険予知,迅速な判断,適切な処置などが,参加者の安全を確保する上で重要な要素であることから,指導者の休息など,健康管理への配慮が必要である。
  また,指導者の傷害保険や損害賠償保険の活用も忘れてはならない。

ウ,安全教育への理解の不足
  野外教育における安全について考える場合,ややもすると,事故の未然防止や万一の事故における適切な対処という点に目が向けられがちである。しかし,その一方で,野外教育には,潜在的な危険を予知し,自ら進んで自らの安全を確保するという積極的な行動力や判断力を育成するという成果が期待される。野外教育では,このような安全教育に対する視点が見過ごされることが多い。


(生涯学習局  青少年教育課)




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