デジタルミュージアムに関する研究会(第8回) 議事要旨

1.日時

平成19年3月27日(火曜日)10時~12時5分

2.場所

文部科学省省議室

3.出席者

委員

(有識者)原島主査、池内委員、大井委員、田中委員、田良島委員、水谷委員、谷岡委員

文部科学省

(文科省)
田中大臣官房政策課長、生川計画官
(総務省)
藤本情報流通高度化推進室長

オブザーバー

その他関係官

4.議事要旨

(1) 主査から議題について説明があった後、事務局から配付資料について確認を行った。

(2) 国立天文台の福島登志夫副台長から、同天文台で進められている「4次元宇宙プロジェクト」について紹介があった。「4次元宇宙プロジェクト」は、空間的にも時間的にも膨大で実感しにくい宇宙を立体映像で表現することにより、宇宙の理解を進めようとする、国立天文台による科学プロジェクトであり、スーパーコンピュータや専用計算機によるシミュレーションデータや、すばる望遠鏡などの最新の観測データを基に、科学的な宇宙像を4次元デジタルコンテンツとして描きだすものである旨の説明があった。その後、質疑応答が行われた。主な内容は以下の通り。
(○説明者、●構成員)

構成員 大変興味深いプロジェクト。全体でどれくらいの人が関与しているのか。

説明者 中心になっているのは4人くらいで、総勢10名程度。常勤職員とプロジェクト研究員の両方がかかわっている。

構成員 将来的に家庭でもコンテンツが見られるようにするのを目指しているとのことだが、どこまで可能になるのか。

説明者 今でも2次元のムービーファイルであれば、国立天文台のホームページで自由にダウンロードできる。インタラクティブになっているコンテンツもある。もとのデータは天文台のスーパーコンピュータの中に入っており、最終的には映像のファイルに直した段階で提供している。

構成員 インタラクティブといっても、映像はもう既に作られており、その場で作っているわけではないのか。

説明者 一部はその場で作っている。オンメモリーでデータは全部持っていて、それをスケールに応じてリアルタイムでレンダリングする。宇宙を見るためのデータは、実はそれほど大きな容量ではなく、最近はCPUの性能も上がってかなり難しい計算もオンラインでできるようになっているので、家庭でも十分ダウンロードできる。

説明者 このコンテンツの製作にはどれくらいの費用がかかるのか。

構成員 すばる望遠鏡の制作費までを考えると相当な額になってしまうが、学術研究目的のデータなので基本的には費用がかからないし、他にも自由に使えるデータを世界中から集めて作っている。制作費は科学振興調整費の範囲内で収めていて、研究として実施しているためそれほど費用はかかっていないが、民間で作るとすれば、数百万から数千万円かかるのではないだろうか。5人の天文台スタッフと二つの民間企業から各二人ずつ参加してもらい、半年で3本のコンテンツを作成している。

説明者 このコンテンツを見せるのに、ドームシアターがあるのは大切だとは思うが、移動して使うときには、どれくらいの広さの場所があれば適当なのか。

構成員 学校の教室くらい。可動式のドームシアターにすることも原理的にはできるが、現段階ではドームで立体画像をうまく映し出せるよう調整するのに大変な時間がかかる。現在、もっと自動的に調整できるようなツールを次段階のものとして作っているところ。

説明者 このプロジェクトの成果は、三鷹でしか公開するつもりはないのか。

構成員 現在、国立天文台では13灯で投影するコンテンツを持っているが、それを2灯でも5灯でもそれに応じた映像が作られるようなマスターを作成中であり、将来的にはいろいろなところに供給するつもりでいる。

説明者 このプロジェクトの開発費と人手に関することは、本研究会の議論にとっても大変参考になると思う。民間とのコラボレーションという観点からも、どれくらいの人手と費用をそれぞれから出し合えばひとつの事業として成り立つのか、という点でためになる話だった。

説明者 少し本筋とずれるが、そういうコンテンツ作りにかかわっているポスドクの研究者たちは、どういうキャリアパスが予想されているのか。

構成員 国立天文台であれば、特定契約職員という、任期つきではあるが大学でいうところの助教クラスと同等の扱いをする制度がある。また、大学共同利用機関というそもそもの役目から、国立天文台には天文学の研究者ばかりでなく望遠鏡ディベロッパーをはじめとする工学系研究者や情報系研究者も多くいるので、必ずしも研究論文を書かないとキャリアアップできないかというとそうでもない。また、広報・普及活動にも力を入れているので、そこの部局でのキャリアパスを積むという道もある。

説明者 研究開発プロジェクトで重要なのは、プロジェクトが成功することはもちろん、それによって研究者が育つこと。国立天文台でぜひよい例を作っていただきたい。

説明者 国立の博物館・美術館では、情報工学を専門にしている研究職員はほとんどいないので、インターネットやデータベースなどを取り上げるときに適当な人材が見つからない。この研究会では、背景の異なる委員どうしで議論ができたので、今後も博物館・美術館と大学の連携・協力を図ることができたらと考えている。

説明者 ミュージアムの中で技術面を担当するスタッフの地位を相応のものにしないと、優秀な人は集まってこないだろう。デジタルミュージアム構想の中でも、「デジタル」を扱う担当者が学芸員やキュレーターのような地位を与えられることが必要。

(3) 資料のうち、研究会における審議の取りまとめ素案に関して事務局から説明し、その後意見交換を行った。主な内容は以下の通り。

説明者 文化財という観点からは、単に技術的なイノベーションが必要というだけではなく、それを文化財に適用する際にどういう条件がつくかについても書き込んでおく必要があるだろう。例えば情報をデータベース化するというにも、文化財自身の希少性に見合って必要になってくる技術があるはずで、一般的な高度技術のことばかりを書いても仕方ない。また、既存技術が応用できる場合が結構な割合であることにも言及すべき。

説明者 例えば、データ収集から展示までを組み込んだプロジェクトを想定して、それを遂行するのに重要なシステム開発やどういう部分で文化財特有な技術が必要かというのを書いてみたらどうか。

説明者 文化財のデータを取るのにきわめて重要な観点としては、保存環境に対する負荷ができる限り小さいこと。余計な負荷をかけずに計測やデータ作成をするための技術的手法にはどんなものがあるか、と考えれば、文化財、デジタルミュージアムにふさわしい情報の作り方、その再構成の仕方がある程度見えてくると思う。

説明者 たとえば文化財の展示であれば、照射に関して国際的なガイドラインがあり、それに沿った撮影が可能となる技術や、そのほかにも作品に負荷をかけない技術というのが必要になるだろう。人の目よりも実効的な感度が高い技術が現在開発段階にあるが、それよりももっと高度な技術を5年、あるいは7年ほどかけて開発を進めるというようなことも書き込めるだろう。

説明者 一方で、確かに既存技術の応用を後押しするような仕組みも必要で、そうした工夫を博物館間で共有すること、あるいは工夫の成果を公開・普及していくための支援策があればなおよいだろう。

説明者 表示という点では、スケーラブル、いろいろなところで活用できる技術というのもひとつの研究開発課題となる。

説明者 研究会としては、どんな文化財や美術品にも適用できる次世代型映像システムを考える上で、何を新しく社会に提示していくのかがポイント。それを開発するための全体の流れと実現のために当面すべきことの二つをそれぞれ明らかにすることが重要だと思う。

説明者 前半の国立天文台のプレゼンテーションの中で興味深かったのは、プロジェクトがエンターテイメントとして成り立つだけでなく、研究にも大きな意味を持っているということ。文化財をデジタル化することによって、研究者でも普段見られないようなものが見られるようになり、研究が進むという効果もあるかもしれない。デジタル化が更に研究を進めるというように、イノベーションへのステップだときちんと説明できれば非常によい。

説明者 デジタル画像化することで、例えば使用されている顔料の分析が可能になるなど、いろいろな使われ方ができるというのがデジタル情報の長所といえるだろう。

説明者 技術的な革新が新しい視点を生み出すかどうかは、偶然に左右されることも多いので、やはり最初から質の高いデータを取り込むことを考えるべき。したがって、どれくらい質の高いデータが当面取れるかという点と、もっと質の高いデータが取れるのかという点とを検証したい。それに加えて、安全かつ簡易で低費用でデータが取れればなおよい。

説明者 「現場直結型のミュージアムの設置」というものを目指し、情報系の人材が文化財の分野でも活躍できるような仕組みを考えられないか。というのは、開発されたシステムをどう使いこなすかは現場が判断することであり、それには情報工学と電子技術と文化財をわかっている人材を「現場直結型のミュージアム」で育てていくのがひとつの方法だと思うからだ。また、高精細のディスプレイ開発がメインになるのはいいと思うが、それと並行してポータブルでウェアラブルなディスプレイの開発というのも同時に重要だという気がする。

説明者 文化は地域と密接に結びついているものだから、実際にその場所に行ってそこの文化を感ずる、学ぶという視点も重要であり、そのために必要な技術には何があるのか、ということも今後のひとつの方向性かもしれない。

説明者 遺跡の上に昔の建物を復原するやり方もあるが、すべてにそれが適用できるわけではないし、学説が変わってもそれに応じて復原物をすぐに変更できるわけではない。したがって、CGで再現したものをその場所で見ることができれば、感動も大きいに違いない。

説明者 デジタルミュージアムといったとき、本物がやはり重要だという考え方と、本物でなくてもデジタル化されたもので十分ではないかという考え方とで、常に議論になる。むしろ、現地に行かせるような動機づけをデジタル技術ができる、という考え方があってもいいと思うのだが。

説明者 確かに、現在はミュージアムのフィールド化というのと、逆にフィールドのミュージアム化がミュージアム世界における流れなので、そこにIT技術を活用するという話にするのはわかりやすい。

説明者 一番大切なのは、データ作成から公開するまでの魅力的なモデルをどう考えていくかということ。実証については、自分は大学のような研究現場と同時に、既存の、例えば国立博物館等で実施したらよいのではと思う。

説明者 報告書にも研究開発課題をまずあげた上で、どういう体制・仕組みで研究開発を進めていくのかをまとめてみればよいのではないか。

説明者 それよりは、先に研究会として目指すべき将来形をある程度明確にした上で、そこにいたる中間地点として実証モデルを考え、このモデルを実証するためにデジタル化に関するどの技術開発を進めるのか、あるいはいくつかある研究開発課題をどう組み合わせるのか、文化財に適用するときにはどういう配慮が必要になってくるのか、という順序で考えていった方がよいのではないか。

説明者 では、それぞれの委員から、自分の望むプロジェクトについて提案をしてもらってはどうか。将来イノベーションとして、実現してほしいものを想定し、そのためにはどんな研究開発課題が重要か、研究開発を進めていくにはどういう体制をとればよいかについて、単に自分が何をやりたいかだけでなく、フェーズを区切ったり時間を区切ったりして案を提出してもらえればと思う。

説明者 イノベーション25が目指すのは2025年なので、大体そのあたりをメドに考えてもらうといいかもしれない。そして最初の5年、10年でどの辺まで実証するのかも含めて。それは必ずしも一通りでなくてもよい。

説明者 委員からいただいた意見を最終的に研究会としてまとめる際には、メッセージ性のあるものにする必要があるため、まとめ方についてはある程度、主査と事務局に任せてもらいたい。

(4) 事務局から、今後の進め方について説明があり、本日の議論を踏まえた上で各委員からの意見をまとめ、素案を再度改定し、次回会合で議論することになった。次回は日程調整の上、改めて連絡することになった。

(以上)

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