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デジタルミュージアムに関する研究会(第6回)議事概要

1. 日時
平成19年2月27日(火曜日)14時〜16時

2. 場所
文部科学省総務課会議室

3. 出席者
【構成員】 (有識者)
原島主査、池内委員、大井委員、田中委員、田良島委員、水谷委員、谷岡委員
(文科省)
田中大臣官房政策課長、勝野情報課長、生川計画官、関根美術館・歴史博物館室長
(総務省)
藤本情報流通高度化推進室長
【事務局】 その他関係係官

4. 議事等
(1) 立命館大学情報理工学部知能情報学科教授の田中委員から「有形文化財の3次元物体モデリングと可視化」に関する研究について発表があった後、意見交換を行った。主なやりとりは以下の通り。(●発表者、○構成員)
発表者 将来的にはより解像度が上がると考えている。再現性の高いディスプレイが出てくれば、より本物の色に近く高解像度で表示することも可能になるだろう。だからと言って、本物を越えられるとは思っていない。なるべく身近に見せることで本物に興味を持ってもらうための「途中のメディア」とも言うべきものになってほしいと思っている。

構成員 例えば織物や衣装のように、仮想的でありつつもうまくビジュアライズしていくにふさわしい情報には、どんなものがあると考えるか。

発表者 たとえば音楽を楽しむときには、CDのようなメディアだけではなく、本物を聞きに行きたいと思うもの。今日発表した技術は、そういう中間的なメディアとして人々にいろいろな情報を提供したり楽しませたりするような形で、独立した役割を果たせるものと考える。

構成員 やはり、実物と、最先端技術で見せる美術館と、家庭でもインターネット上で見られる状態というのと、三者が渾然一体となったコンテンツができる方向に向かうという気がする。美術館や博物館では最先端の映像技術を通して見られるようになり、一方でインターネット上では少し廉価ながらも高精度の表示が可能なディスプレイの表示方法なり技術なりの開発、ということが進むのではないだろうか。

構成員 美術館での展覧会のカタログは、どういう位置づけと考えたらよいか。あれも本物を越えられるものではない。

構成員 カタログには、展覧会に来た人が追体験をするための、また一方では展覧会を見ていない人が追体験するための、両方の意味がある。それが立体物になるのであれば、カタログとしてはより進化した形といえるのだろう。カタログは博物館・美術館にとっての定番ツールではあるが、それが例えばデジタルデータによる何らかのコンテンツに置き換えられてそちらがメインになるということはありうるかもしれない。

(2) 独立行政法人国立美術館情報企画室長の水谷委員から、国立美術館におけるデジタル・アーカイブの取組みについて発表があった後、意見交換を行った。主なやりとりは以下の通り。(●発表者、○構成員)
構成員 収蔵品検索サービスについては、一般の検索エンジンが入り込めないようにしてあるとのことだが、外部から、収蔵品すべてのデータベース化を含めた検索システム整備のようなオファーはないのか。例えば、今グーグルは、大学の図書館にある本すべてをデータベースにのせようとしており、各大学がどう対応するかで大変なことになっている。

発表者 共同のシステム開発とかノウハウ共有に関するオファーはあるが、美術館の収蔵品すべてを対象とするような検索システム整備に関しては、今のところ話はない。

構成員 文化財保護の観点から言うと、作品撮影の危険というのは具体的にどんなことか。

発表者 例えばライトの横転など、作品撮影の環境は常に危険なもの。強い光や熱などの問題もある。

発表者 旧ハイビジョンのプロジェクトの反省から言うと、その時はせっかくデータを集めたものの、フォーマットが特殊で応用が利きにくかったこと、その後技術が更に進化したことから、非常に閉じたシステムになってしまった。同じことを繰り返すべきではない。

構成員 近現代美術館は、基本的に作家のコントロールを前提にしたあり方になっているので、作家自身が鑑賞環境にも非常に関心が強いところで、第三者がデジタルミュージアムを作るというのはなかなか難しいだろう。そういった意味で、近現代美術はデジタル化に一番乗りにくいといえる。デジタル化には、どこからも文句の出ないような素材を使うのがやりやすく、また知的な面白さという点でも大いに可能性があると思う。

構成員 作品を展示するのとウェブやカタログに掲載するのとでは、著作権上の問題はあるのか。

発表者 通常、展覧会のカタログも含め、印刷物、ウェブ上、館内での展示すべてに了解を取る必要がある。展示権は作品所有者に留保されるので、美術館自身が所有している作品については、館内展示までは可能。

構成員 鑑賞と参照は確かに区別されるものだとは思うが、将来的にも分かれて存在するものなのだろうか。一体化してもいいのでは、という議論がありそうな気もするが。

発表者 今後技術が高くなって高精細でもウェブに流したり、比較的簡単にシステム化したりできるようになれば、鑑賞と参照が一体化していく可能性はある。ただ、美術館側からすれば、お客さんにはディスプレイでなく、まずは現物を見てもらいたい。 鑑賞に耐える高精彩のシステムを維持できるほどの体力も美術館は持ち合わせていない。

構成員 仮設か可搬性の要件検討という点について、高精細画像を高解像度で映し出すことの可能なディスプレイがあって、それがブロードバンド・ネットワークで全国的につながっているとすれば、可搬性は大して問題にならないのではないか。

発表者 近い将来、そうなってもらいたいとは思う。これまで高い性能を持ったディスプレイがレンタル可能な状態になっているのを見てきて、ブロードバンドでのネットワーク化が進んでほしいと強く思う。

構成員 鑑賞か参照かを区別する必要はないのではないか。博物館や美術館など収蔵品を保有する側が現物のオリジナリティを重要視するのは理解するが、一方ですべての収蔵品を常設展示することは不可能なのを考えれば、それらをいろいろな方法で見せることを考えるべきだと思う。文化財でいえば、東京に一極集中的に収蔵されているが、そういうものも最先端の技術を使って地方とも共有できるだけのインフラがどんどん整備されている。そうした最先端技術をうまく使っていく、というのを議論するのがこの研究会の趣旨だろう。

発表者 一面としては正しいが、だからと言ってこの研究会の議論の中から、10年あるいは20年後のデジタル画像の作り方のスペックを示すことはできるのだろうか。技術の進歩にあわせてやっていくとは言っても、技術の変わり目ごとに作品撮影をするようなことになると、現場にとっても作品にとっても負担が大きい。そのあたりの指針を示さなければ、現場にとっては受け入れがたい。

構成員 鑑賞か参照かというのは、受け手の感性によるところが大きいので、高精細でなければ鑑賞でない、というわけではなく、むしろ供給者側の理屈といえるかもしれない。鑑賞の代替としてどんな選択肢があり、それが現行の博物館・美術館の持っている技術や予算で可能かどうかというのが一つ、もうひとつは技術面で長いスパンを見越して議論すべきもの、とそれぞれ区別して考えた方がいいと思う。

構成員 現在開発中のスーパーハイビジョンは、2次元画像としては最終形態になる予定で、その後は、像再生型と立体システムの開発を目指している。2次元画像については、いろいろな企画が出てくる可能性があるので、今開発中のものを世界統一規格にするよう関係方面への働きかけを行っているところ。ただ解像度のいい2次元画像というだけでは面白くないので、ライトを動かすような工夫をすれば、テレビ画像を見ている人が本物の絵を見ているのに大変近い感覚を得ることも可能かもしれない。

(3) 原島主査から、資料に基づき、ミュージアムを、デジタル技術によって文化と科学と教育を結ぶメディアへという構想について説明があった。

(4) 事務局から、研究会における審議のまとめについて骨子案が示され、説明があった後、意見交換を行った。主なやりとりは以下の通り。
構成員 そもそもデジタルミュージアムとは、ミュージアムのデジタル化なのか、文化財等をデジタル化したものの集まりを言うのかを整理する必要がある。ライブラリ、ミュージアム、アーカイブというものの連携についてデジタルという局面で議論がかなり進んでいるので、ここでのデジタルミュージアムをきちんと定義しておいた方がよい。

構成員 「ミュージアム」は確かに広い概念なので、現存のある種のミュージアムのデジタル化と捉えるのか、それともデジタルミュージアムと言う新しいミュージアム概念が今までのミュージアムと連携する形で生まれると考えるのか、それによって取りまとめもずいぶん変わってくる。

構成員 ミュージアムというからといって、物理的に館を建てることに限定するべきではない。例えば、データをディレクトリするための中心的な拠点が一ヵ所か二ヵ所あって、そこには最先端技術を用いた超高精細ディスプレイを設置しておくとしても、そこから全国津々浦々の公民館や図書館などをネットワークでつなぐことで全国、世界のコンテンツが見られるように、そしてネットワークでコンテンツを運ぶためにデジタル化を進める、そのためのデータの標準化をどうするか、というのも本研究会で議論すべき課題。コンテンツの対象としては、文化財も大事な要素ではあるけれども、現在の科学技術や医学、田中委員の発表にあった3D映像などもあるだろう。独立行政法人の博物館や美術館の予算がそれほど大きくないとしても、5年後、10年後までを見越して考えたらいいのではないか。現状から出発するのではなく、10年後の姿を実現するためにどんなことが問題なのか、という観点で自分としては報告書の中で提言したい。

構成員 ミュージアムというのを、訪れた人が単に見るという受身的なものというのでなく、ユーザーとの積極的なインタラクションをする場として捉えたらよい。ユーザーが積極的に関与できるような方向性が感じられるものとして、それが過去から現在に、現在から未来につながるというような教育と鑑賞を混ぜた新しいデジタルミュージアムを考えてみるのがいいと思う。

構成員 仕組みとしては現存するミュージアムから出るコンテンツをいかにデジタルミュージアム側にスムーズに渡していくかというのが問題だが、これはここ10年くらいのデジタル・アーカイブの議論の中でもなかなかうまく行っていない。したがって、それをクリアできるような方向性を作れればいいと思っている。また、施設にとらわれるのでなく、より幅広い仕掛けや道具立てという視点で考えていった方が生産的だろうし、ディスプレイに展示して見るのではなく、それを打破するというのは、デジタルミュージアムの役目として大変面白い、知的な刺激のある課題ではないかと思う。

構成員 最終形態として家庭をも対象に入れるべき。スーパーハイビジョン技術が当たり前になると、家庭で双方向で絵画を家族で楽しめたり、いろいろな情報があることで様々な角度から見られるようになったりするだろう。障害者の鑑賞機会の拡大や高齢化社会にも対応できるユニバーサルなシステムとして、提案できるかもしれない。

構成員 必ずしも家庭を最終形態と考える必要はないのではないか。現場に人を連れてくるのは観光産業につながるし、存在するミュージアムに人が来ることでインタラクションがあるもの。家庭と現場がつながる必要がやはりあると思う。

構成員 実際のところは、家庭でいいものを見たら本物を見たくなる、という人が多いだろう。例えば、テレビで中国の世界遺産が紹介されたら、そこを訪れる人が増えるというように。

構成員 デジタルミュージアムとして何を考えるのか、事務局の考えも聞いておきたい。現在博物館や美術館にある文化財の次世代型デジタル・アーカイブ化という話と、それらを含めて流通・ネットワーク化させどう見せていくかはそれぞれ異なるもの。後半の方は、文化財だけでなく、システム全体、市民アート的なミュージアムといったものも含めた非常に広い意味での文化のネットワークみたいなのが出てきたときに、その中に位置づけられるようなもの。

構成員 事務局としては、ここではいわゆる国宝や重要文化財だけを対象とするのではなく、例えば学術資料とか自然史資料、書籍や文書なども含めて考えるべきと考えている。

構成員 ここで言うミュージアムが対象とするのは、広く「文化資源」としておいてよいのでないか。昔の大学では文化と科学を同じ学問として捉えていたのだが、それをもう一度融合して、科学も含めて文化資源といった方が広く捉えられてよいと思う。

構成員 デジタルミュージアムとデジタル・アーカイブの関係を明示しておくべき。デジタル・アーカイブはデジタルミュージアムのためのインフラなのか、デジタルミュージアムはデジタル・アーカイブをインフラとしたデジタル化されたりソースの表現のための機能なのか。あるいはデジタルミュージアムはデジタル・アーカイブというインフラの構築も含めた枠組みなのか。

構成員 最先端技術にも注目してもらいたい。例えばフルスペック高感度カメラというものがあれば、撮影の際の様々な危険性を回避することが可能になる。

(5) 事務局から、今後の進め方について説明があり、本日の議論を踏まえて骨子案を再度まとめなおし、主査と相談した上で各委員に意見照会をかけることになった。次回会合は3月15日に開催する予定。

(以上)

(大臣官房政策課)


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