令和4年度子供の読書活動推進に関する有識者会議(第2回)議事録

1.日時

令和4年7月26日(火曜日)14時00分~16時00分

2.場所

WEB会議(Webex利用)

3.議事録

令和4年度子供の読書活動推進に関する有識者会議(第2回)
令和4年7月26日(火曜日)14時00分~16時00分

【秋田座長】  それでは、定刻でございますので、ただいまから第2回令和4年度子供の読書活動推進に関する有識者会議を開催いたします。
 本日は、お忙しいところ御参加いただき、誠にありがとうございます。
 なお、本日は、鎌田委員、中野委員のお二方は御欠席です。また、堀川副座長は途中より御参加の御予定でございます。また、本日は東京大学大学院教育学研究科発達保育実践政策学センターの佐藤様に御発表のために御出席いただいております。ありがとうございます。
 それでは、事務局から人事異動の報告と配付資料の確認をお願いいたします。
【工藤専門官】  事務局でございます。事務局におきまして人事異動がございましたので、御報告させていただきます。7月1日付で総合教育政策局の審議官に里見朋香、地域学習推進課長に黄地吉隆が着任しておりますので、御報告させていただきます。
 里見審議官、一言お願いいたします。
【里見審議官】  それでは、私、このたび総合教育政策局担当の審議官を拝命いたしました里見でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【黄地課長】  7月1日に地域学習推進課長を拝命いたしました黄地と申します。どうぞよろしくお願いいたします。次の子供の読書活動推進に関する計画に向けまして、様々な論点があると思いますので、ぜひ先生方から忌憚のない御意見を頂戴できればと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【工藤専門官】
 それでは、本日の配付資料になりますけれども、議事次第にありますとおり、資料1から4までが本日発表される方の資料になっております。資料5につきましては、今後の日程(案)ということでお配りしております。また、参考資料1として、第1回会議の主な発言をまとめた資料がございます。さらに、参考資料2といたしまして、第1回の会議でもお話に上がりましたけれども、「OECD生徒の学習到達度調査2018年調査のポイント」を御用意させていただいておりますので、適宜参照いただければと思っております。また、発表者の佐藤様より委員の皆様に配付を希望される参考資料がございましたので、そちらも事前にお送りいたしております。
 以上、よろしくお願いいたします。
【秋田座長】  ありがとうございます。
 本日の流れですが、本日は4名の皆様に御発表いただくこととしております。発表は前半2名、後半2名に分けて行いたいと思います。まず、前半は東京大学発達保育実践政策学センターの佐藤様より、デジタルメディア時代における子供と絵本・本との関わりについて、次に、島委員より、公共図書館における読書活動支援について御発表いただきます。
 前半お二人の御発表が終わりましたら、質疑や議論を深める時間を25分程度取りたいと思っております。
 続いて、後半は野口委員から、多様なニーズに応える読書環境・読書活動の現状について、次に、白井委員とNPOブックスタートの三上様から、全ての赤ちゃんに届けるブックスタートの取組を御発表いただきます。
 後半の発表が終わりましたら、同様に質疑や議論を深める時間をまた25分程度取りたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 なお、佐藤様より、本日の資料の一部に未発表データが含まれるため、非公開にしたいとの申出がございましたので、発表の際の共有資料ではその該当部分を非公開としておりますことを御了承願います。
 それでは、最初に佐藤様から御発表いただきます。よろしくお願いいたします。
【佐藤賢輔氏(東京大学発達保育実践政策学センター)】  
 では、資料を共有させていただきます。資料を御覧いただけていますでしょうか。
 では、改めまして、東京大学の佐藤賢輔です。本日は、「デジタルメディア時代における子どもと絵本・本の関わりについて」というタイトルで、私ども発達保育実践政策学センターと株式会社ポプラ社との共同研究のプロジェクトの成果の一部を紹介させていただければと思います。
 本日、発達保育実践政策学センターからは、私と野澤祥子先生も会議に出席されていますが、発表は私、佐藤が担当いたします。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、本日の御報告の目的ですが、1つは、幼児の読書環境、デジタルメディア環境の現状を調査結果から明らかにするということ、そして2つ目が、絵本における紙とデジタルの違いについて、実験結果を基に考察するということです。それらを通じて、本会議の論点でもある発達段階や多様な特性に応じた読書習慣の形成、また読書とICTのベストミックスについての手がかりを得られればと考えております。そのエビデンスとして、私どもが実施した調査であったり、実験の結果を御紹介していきたいと思います。
 私どもが取り組んでいるプロジェクトからは本会議で御紹介したい結果がたくさんあるのですが、時間の都合上、ごく一部を紹介するのみとなりますので、その他の成果の多くはスライドにお示ししているようなリーフレットのような形で広く公開されていますので、このスライドにQRコードも掲載しておりますが、私どものセンターのウェブサイトから、その他の研究成果も含め、詳細を御確認いただけます。また、今後も随時更新してまいりますので、よろしければ御参考にしていただければ幸いです。
 まず、私どもが昨年、年少、3歳児クラスから年長、5歳児クラスの未就学児の母親を対象に実施したウェブ調査の結果から御紹介いたします。この調査では、幼児の家庭での過ごし方、読書やテレビといったスクリーンの視聴、またほかの遊びや学習にどの程度時間を割いているのかという実態について詳しく調べました。このスライドは、それら種々の活動に費やす時間と非認知能力及びリテラシー、仮名の読みで測っていますが、それらの関連について分析した結果を示しています。
 ここから分かることは、読書のみが非認知能力とリテラシー双方にポジティブな影響を与えているということ、読書時間が多いほどということです。また一方で、スクリーンタイムが長過ぎると、負の影響が大きいのではないかという懸念も大きいかと思いますが、この調査では、スクリーン視聴が長いと、リテラシーの発達に若干負の効果はありましたが、そこまで大きな効果はなく、負の効果は限定的であるということも分かりました。
 こういったこの時期の子供の発達にとって非常に大事な絵本・本との触れ合い、読書の時間ですが、実態としては、家庭での読書自体は非常に短いということがこの同じ調査から分かっています。平日は平均12.7分、休日は15.2分ということで、15年ほど前にNHKが実施した調査では、3~5歳児の読書時間は平均25~28分程度という記録がありますので、この15年、読書時間の減少傾向にある可能性が高いのかなということが示唆されます。
 読書時間は平均すると短いながらも、個人差も大きかったのですが、同様にこの家庭での読書環境というものにも大きな個人差、格差があるということが分かりました。左側は、家庭にある子供の絵本・本の冊数を示したグラフですが、平均すると37冊なんですが、10冊以下、20冊以下という御家庭も多いですし、一方で50冊、100冊以上とたくさん絵本・本がある御家庭も一定程度ありました。大人が子供と一緒に絵本・本を読む、読み聞かせるという習慣についても個人差が大きく、「全くしない」、「めったにしない」という家庭が相当程度ある一方で、「毎日欠かさず読んでいます」という家庭も2割程度あるということで、こういった家庭における読書環境の格差には大きいものがあるということが分かりました。
 子供は、家庭で絵本・本と接するだけでなく、それぞれが通う保育園・幼稚園でも絵本と接しています。私どもは保育・幼児教育施設における絵本環境実態調査も実施しています。子供たちが通う園では、家庭における読書環境・読書習慣の格差を埋める役割といったものも期待されると思いますが、実態としては、園による絵本環境の格差というものも非常に大きなものがありました。もちろん、園の規模も影響するのですが、絵本の蔵書数や絵本購入のための予算が非常に少ないといった園もかなりの割合であり、家庭によるこの環境の格差を補完するには園の環境も不十分であるということが分かります。
 このような環境の格差というものが子供たちの読書習慣の形成にも影響しているということも分かります。上段は、家庭における絵本の冊数だったり、読み聞かせ、共同読みの頻度と子供の読書時間の相関関係を表した表です。赤で囲んだ部分が、家庭にある絵本・本が多いほど、また読み聞かせ、共同読みの頻度が高いほど読書時間が長くなるということが分かります。当然といえば当然ですが、まだ文字を流暢に読めない未就学の子供ですので、保護者など大人が読むことをサポートする必要性が高くなっています。
 左下は、子供が絵本・本を大人と一緒に読んでいる時間と、一人で読む時間、どちらが多いかということを表にしたものです。8割弱の子供は、大人と一緒に読む時間のほうが多く、大人のサポートがこの時期の読書習慣の形成に非常に大事であるということが分かります。一方、既に一人で読む時間のほうが多いというお子さんも3割程度いることから、未就学児の読書イコール完全に読み聞かせというわけでもないということも分かります。
 幼児が絵本・本と触れ合う時間が非常に限定的である一方で、テレビやタブレットなど、スクリーン・デジタルメディアと接する時間は非常に長いということも調査から分かりました。平日は平均すると2時間程度、休日は3時間程度、幼児は何らかのスクリーンを視聴して過ごしています。
 15年ほど前の先ほど紹介したNHKの調査と比べると、スクリーンタイム自体はそれほど変化していませんが、例えばテレビでも、ユーチューブをはじめとする動画視聴配信サイトの閲覧が簡単になっています。子供たちが接するデバイスもスマホ、タブレットと多様になっている中で、コンテンツも多様化していると考えられ、こういった変化については考える必要があるかなということはあると思います。
 また、私どもの調査では、幼児が様々な活動に費やす時間について、平日と休日とで変化があるかという点にも注目しています。休日は、家で過ごす時間が長くなりますので、当然、活動時間は延びるのですが、中でもこのスクリーンタイムであったり、活動的な遊びの時間が休日に長くなっているのが分かります。読書や勉強・学習は休日になってもほとんど延びず、保護者や子供たちにとって何らかの意味で魅力が乏しかったり、またはこういった活動に取り組むハードルが高いということが示唆されます。それは、家庭によって、例えば家にほとんど絵本がないとか、子供がテレビばかり見たがるとか、そういった事情もあると思いますし、保護者が忙しかったり疲れていたりして読み聞かせをしてあげられないなど、様々な影響が想定されます。
 また、このような活動時間の背後にある保護者の遊びに対する考え方、遊び観についても調査では調べています。このグラフは、身体的遊び、創作遊び、様々な活動をペアにして、「今のお子様にとってどちらがより大事だと思いますか」という質問を繰り返すことで、どの遊びが特に重要だと考えられているかを得点化したものです。年少から年長クラスの子供の保護者にとっては、総合的にはこの体を動かす身体的遊びが最も重要だと考えられていて、創作遊びであったり、読書というのもそれに続く第2集団という位置づけになっています。学習・勉強はほかの活動より若干重要度が落ちるのですが、断トツで重要でないと考えられているのが、テレビ番組や動画を見たり、デジタルデバイスを操作して遊ぶというデジタル遊びです。子供たちは実態としてはスクリーン、デジタルメディア視聴に非常に多くの時間を割いているわけで、保護者はその活動はあまり子供のためにならないと考えながらさせているということが実態として浮かび上がります。子供が動画を見たがるからとか、スクリーンを見ていてくれると楽だからといった、必要悪としてのデジタルという意識が保護者の中には強くあるのかなという結果になっています。
 このデジタルに対するネガティブな意識というものは、デジタルデバイスを使った読書活動にも及んでいまして、子供が絵本・本と接するなら、「紙のほうが好ましい」、「どちらかといえば紙のほうが好ましい」という保護者は合わせて9割を超えています。絵本は紙で読んでほしいという意識が非常に強いことが分かります。実際、幼児はデジタル絵本や電子書籍にはほとんど触れていなくて、93%のお子さんはデジタルデバイスを使った読書を一切していないという結果になっています。
 ここまでの御紹介した調査結果をまとめますと、まず絵本・本との触れ合い、読書は幼児の発達にとって非常に大切な活動であるという一方で、読書や読み聞かせの時間は多くの家庭で短い傾向にあるということが明らかになりました。様々な要因が影響していると考えられますが、子供・保護者にとって、スクリーン視聴などのほうが魅力的という可能性もありますし、読書・読み聞かせに対する物理的・心理的な障壁、本がないとか、読み聞かせが苦手、時間を取れないということもあるかなと思います。また、先行研究と同様に、幼児のスクリーンタイムは長いという傾向はあるのですが、それが子供の発達に明確に大きな負の影響を与えているという結果は得られていません。スクリーンで子供たちが何を見ているかという点については、コンテンツが多様化していると考えられるものの、現時点では、デジタルデバイスを通した読書や学習といった活動は一般的ではないということが分かりました。
 このデジタルで絵本・本を読むという活動について、ネガティブな印象を持つ保護者が多い中で、実際に紙とデジタルはどのような違いがあるのかというデータはあまり広くは知られていません。私どもは、幼児と保護者を対象として、紙とデジタル絵本を比較する実験も実施していますので、その結果も一部御紹介いたします。実験は2種類ありまして、東大の実験室で行った実験室実験と、コロナ禍を受けて実験室で実験ができないということで、御家庭からZoomで参加いただくオンライン実験の2種類の実験を行っています。使った絵本は共通でして、紙の絵本はふだんどおりに読み聞かせていただき、デジタル絵本はより一般的な形式ということでナレーションがついているものを用意しまして、保護者は読み聞かせはせず、ページめくりなどをして、その間はもちろん自由に会話していただいたりということで、2つの実験を行いました。
 まず、この絵本の内容理解、子供がどの程度内容を理解しているかという結果なんですが、実験室実験、オンライン実験ともに、内容理解において紙とデジタルには差がないという結果が得られました。表にある「けんか」と「さき」というのは、「けんかのきもち」、「さきちゃんのくつ」という使った2冊の絵本のタイトルですが、異なる2冊の絵本をそれぞれ紙とデジタルで比較したのですが、絵本の種類や質問のタイプによらず、紙とデジタルとで子供の内容理解に差は見られませんでした。
 次のスライドは、子供と保護者の発話についての分析なんですが、この分析については未発表データを含むため、画面上は非公開としております。出席者の先生方にはデータを記載したスライドをお送りしていますので、そちらを御参照ください。
 まず1枚目のスライドですが、絵本を読んでいる際の子供と保護者の発話で、絵本の地の文以外の発話全てを御覧のようなカテゴリーに分類し、紙とデジタルとで発話の数や種類が異なるかを調べました。結果、紙とデジタルで発話の数や種類に大きな差はありませんでした。実験で用いた絵本は2冊ありましたが、この2冊の絵本の間には大きな差があって、会話がとても出やすい絵本と出にくい絵本に分かれましたが、この絵本の内容による差と比べると、紙かデジタルかという差は本当にごく僅かで、紙かデジタルかよりも、どんな絵本かというほうが発話の量には大きく影響しているということが分かりました。
 続いて、非公開2枚目のスライドですが、紙とデジタルとで発話の量に大きな差は見られなかった一方で、1点だけ大きな違いが見られた箇所があり、それが子供の理解レベルと発話数の関連でした。表の赤字でお示ししている点ですが、子供の内容理解得点が低い、内容をあまり理解していない子供ほど、保護者や子が物語の内容について言及したり、質問したりするという傾向が、紙の絵本では強く認められましたが、デジタルではほとんど認められませんでした。これは、保護者が自ら読んでいるかどうかという紙の絵本の特徴が大きいと思いますが、紙の絵本において、子供の理解力に合わせたより丁寧な相互調整が行われているということが示唆されます。つまり、保護者側が、子供が理解していなさそうだな、少し難しいかなというポイントで説明や質問を付け加えたり、また子供自身も、ちょっと難しいなと感じるときに自ら質問しやすかったりということが紙では起こりやすい、デジタルでは起こりにくいということがあるのかなと考えられます。これと関連して、集中度・没入度という点でもやや紙に分があるかなというところも見られました。
 実験の最後に、子供がどの程度課題に集中して取り組んでいたかということを保護者に尋ねたのですが、紙の絵本に取り組んだお子さんのほうの集中度の評定が高かったのです。また、お子さんのほうでも、一部「紙の絵本のほうが楽しかった」と答えるような傾向も見受けられました。また、実験室実験はアイトラッカーで視線を計測していたのですけれども、絵本を読んでいる最中に紙の絵本のほうが子供の視線が絵本から外れにくいという傾向も見られました。
 紙の絵本とデジタル絵本の比較については、先行研究も比較的多くあるのですが、紙かデジタルかというだけでは理解に差が生じるわけではないという点は、多くの研究に共通して報告されています。Busらによるメタ分析でも指摘されていることですが、紙とデジタルの違いのみで生じる結果ではなくて、デジタル絵本にどのような機能を実装するかというところが大きなポイントかということが考えられます。例えば、ストーリーを強調するアニメーションをつければ内容理解が促進されるし、辞書機能をつければ言語理解が獲得されるといったところが大きいと。
 一方、紙の絵本の確かなメリットというものも明らかになりつつあって、実験結果からも示唆されることですが、紙のほうが、読み聞かせを途中で休止したり再開したり、難しい言葉を言い換えたり、一気に数ページ戻って前のシーンを確認したりといった、小回りが利くというか、自由度が高いところがあり、その結果、より繊細な相互の読みの調整であったり、集中・没入というところにつながっているということが考えられます。
 一方、デジタル絵本は、実装できる機能のバリエーションなど、紙にない特徴を持っています。特に、視聴覚障害を持つ子供への対応であったり、多言語対応などの多くのアクセシビリティー機能を付加しやすいという点が大事かなと考えます。
 私どもは公立図書館を対象とした調査も行っているのですが、バリアフリー対応が一つ大きな課題となっている実態が確認できます。点字や外国語の絵本、子供向け書籍が十分に整備されていない状況で、このデジタルデバイス、電子書籍の活用には大きな可能性があると考えられますが、子供向けサービスとしての図書館におけるタブレット端末の活用とか、電子書籍の子供向け書籍の貸出しというのはほとんど始まっていないということが課題と考えられます。
 最後です。ここまで御報告した調査や実験結果に基づき、提言をまとめました。読書習慣形成の基盤となる幼児期の読書・読み聞かせの推進ということを考えたときに、紙、デジタルそれぞれの特徴を生かして、読書をもっと楽しく、楽に、伸び伸びとできるような施策が必要であると考えられます。現在、子供たちの余暇の時間でも多種多様なコンテンツを奪い合うという時代になっていると思いますが、テレビや動画サイトなど、多様かつアクセス容易なコンテンツがあふれる中で、まず全ての子供と保護者が動画と同じくらい絵本・本にアクセスしやすいという環境の構築が大事かなと考えます。これには、家庭だけでなく、園、図書館等を含む多層的な視点が必要になってくると思いますし、ICT活用によるメリットとして、また読書の多様化というところもポイントになるかと思います。
 多言語対応、障害者対応など、バリアフリーの観点からもデジタルの活用は重要ですし、例えば一人読みをするお子さんとか、読み聞かせが苦手な保護者、なかなか読み聞かせに時間を取れない保護者にとっては、例えばナレーションがついているデジタル絵本が大いに役立つ場面もあるかもしれません。こういった個別最適な読書環境の整備を考える上では、紙とデジタルそれぞれの特徴を生かした活用が重要になると考えられます。
 その上で、現状の課題として、子供にとって魅力的な電子書籍コンテンツや利用しやすいプラットフォームの整備が挙げられますし、それらを踏まえて、子供本位、そして障害があったり、家に本が少なかったり、忙しかったりという個々の事情を抱えた保護者にとってもフレンドリー、つまり取組のハードルが低くなるような読書推進が必要になってくると考えます。
 私どもセンターでは、これから読み聞かせから一人読みへの移行期間を含めた子供の読書・メディア経験に関する研究や、より魅力的な子供向け電子書籍プラットフォームの整備につながるような研究も計画しておりますが、本日の報告は、少し長くなりましたが、ここまでとさせていただきます。ありがとうございました。
【秋田座長】  どうもありがとうございました。
 それでは引き続きまして、島委員から御発表いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
【島委員】  日本図書館協会児童青少年委員会の島でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、画面の共有をさせていただきます。
【秋田座長】  画面をスライドショーにしていただくとよろしいかと思います。
【島委員】  スライドショーになっていますが……。
【秋田座長】  それで進めてください。こちらの画面では、オーケーです。これで直りました。
【島委員】  それでは、公立図書館における読書活動の支援について、事例報告をさせていただきます。
 報告の柱は3つです。1つ目といたしまして、コロナ禍での公立図書館の子供の読書活動の取組。2つ目といたしまして、デジタルを活用した公立図書館の子供の読書活動の取組です。特に、電子書籍をどう考えるかを中心に報告したいと思っております。3点目が、多様な特性の子供に対する支援です。
 まず1点目、コロナ禍での公立図書館の子供の読書活動の取組ですが、令和2年(2020年)3月から学校一斉休業が行われました。4月からの緊急事態宣言も受け、公立図書館ではサービスの縮小、自治体による全面休館、おはなし会など、行事の中止などの対策が行われました。
 ここからは、児童図書館研究会が令和2年(2020年)6月から7月に行いました調査結果を簡単に紹介したいと思います。各図書館では、本の利用のため、いろいろな工夫をいたしました。例えば貸出冊数10冊を20冊に、貸出期間2週間を3週間に変更を加えたり、ドライブスルー方式による予約の受渡しを行った図書館もございました。3密を避けるため、ほとんどの図書館でおはなし会などの行事が中止になりました。資料の貸出しをウェブ予約に限定した図書館も多かったと思います。併せて、デジタルの活用も積極的に行っています。休館中はユーチューブの公式チャンネルの開設、電子書籍のPR、録画しておはなし会を発信するなど、多様な取組が行われていました。
 以上、コロナ禍での公立図書館の子供の読書活動の取組を紹介いたしました。
 2つ目の柱、デジタルを活用した公立図書館の子供の読書活動の取組について紹介いたします。大きく分けて3つあると思います。
 1点目、本の紹介、読み聞かせなどの動画配信の取組です。図書館のホームページ上に今までの文字情報に加える形で動画配信が行われました。2点目、SNSを利用した取組です。行事のお知らせ、LINEによる乳幼児用おはなし会の予約を行う図書館もありました。画面の資料では「乳児用」となっておりますが、「乳幼児用」の誤りです。訂正をお願いいたします。コロナ禍前ですが、「学校が始まる前に死ぬほどつらい子、図書館へ」というツイートに3万件以上のフォローがあった図書館もありました。
 3点目、電子書籍の導入です。公立図書館の電子書籍の導入は、「すべてまたは一部の公立図書館で電子書籍の貸出を行っている」のが9.8%、「今後公立図書館で電子書籍の貸出を予定している」のが4.7%という報告が出ております。ここ3年ほど、国による新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金制度により、電子書籍を導入する図書館が増加しています。電子出版制作・流通協議会でも毎年調査を実施していますが、昨年の調査でも普及が進んでいるようです。大人はともかく、子供にとって電子書籍はどうかということを考える必要があるのではないかと思っています。
 私は、図書館の現場に30年ほどおりましたが、いろいろな場面に出会うことがありました。子供から「何か面白い本はないか」と言われ、本を薦めたとき、「こんな太い本じゃ嫌だ」と言われたことがありました。初めは、何を言われたのか、分からなかったんですけれども、こんな厚い本は嫌だという意味でした。本の厚さで内容の難易度を判断しているのだと思います。「この本、字がいっぱい」と、1ページを開いて全体の文字の多寡を判断する場合があります。「多過ぎる」なり、「こんな少ないのは子供っぽい」と言われたこともあります。「同じ絵の本を読みたいんだけど」と言われたこともあります。作者ではなく、表紙の絵の画家で本を選ぶ子供もいました。子供は、この本を読めるのか、自分の好みに合うのか、「もの」として本で判断しているのではないかと思います。
 今、児童図書館研究会では、子供がどう本を選び、どう読んでいるのかの事例を集め、分析しています。私もプロジェクトのメンバーですが、アンケートをお願いするときに、事例を幾つか紹介しています。
 例えば、「きかんしゃトーマス」シリーズをテーブルの上に並べ、読み聞かせをしてもらう順番を決める。これは、子供にとっては並べることで選びやすいのだと思います。
 次に、子供文庫の事例ですが、本棚から数冊の本を出し、床に広げ、そのうち1冊を残してあとは元に戻す。また、気になった本を数冊出して、前の本と比較する。それを何度か繰り返して借りる本を決めていくということです。「もの」としての本には、いろいろな情報が詰まっているんだと思います。
 家にある本と同じ本を図書館から借りていくという事例が時々見受けられる。これは、その本に対する愛着というものがあるのではないだろうかと思います。
 次は、子供はどのように本を読んでいるかです。
 地図などを何度も見る。冒険のストーリーでは、今、主人公がどこにいるのかというのがとても大切な情報になります。「エルマーのぼうけん」では、表紙と裏表紙に大きく地図が配置されています。「ツバメ号とアマゾン号」では、冒険をする湖の地図、またヨットの各部の名称などが記載されています。
 登場する人物を確認しながら読む。「ムーミン」のシリーズでは、個性的な登場人物がたくさん出てくるわけですけれども、どのような姿をしているのかを確認しながら読む。「精霊の守り人」のシリーズでは、国籍不明のたくさんの登場人物の名前が出てまいります。
 子供は、本に込められた情報を手がかりに本を読んでいるんだと思います。そのとき、すぐ見たい情報にたどり着くことが大事だと思います。紙の本は、読みを邪魔されずに、すぐにたどり着くことができると思います。
 次は、記憶としての本です。「今日はここまで読み終えたという達成感を目で確認することができます。
 読み終えた本を自分の棚に並べる。これは、達成感だけでなく、背表紙からよみがえる記憶があるのだと思います。
 中学生になって絵本を読み直すという事例がありました。中学生になり、学校で友達とうまくいかなくなり、学校を休む。家で小さな頃に読んだ絵本を読んでいた。「これ、好きだった。こんな話だったのか」などと言いながら読み直していた。険しかった顔がだんだん柔らかくなっていった。4日目には学校に行ったという話があります。「もの」としての本というのは、達成感を感じたり、記憶を助ける役割があるのではないかと思います。電子書籍は記憶に残りにくいのではないかと私は思います。
 子供は「もの」としての本が持つ要素を駆使して読書をしているのだと思います。本の大きさ・形、絵本では表現としての形があると思います。また、ページ数などです。
 まとめますと、子供は、見て、触って、開いて、持ってみて、匂いを嗅いで、本を選び、読んでいる。五感を駆使することで内容を理解し、記憶していく。読書初心者には、大事なことだろうと思います。
 子供にとって読書はハードルだと思います。読み聞かせなどのように、声から内容を理解するものではありません。読書初心者にとっては、ハードルを下げる工夫をしている本を身近に置くことと、アドバイスをする大人の存在が大事だろうと思います。
 紙の本と電子書籍をどう考えるかですが、家庭で乳幼児に読み聞かせをするのには、やはり紙の本がよいのではないかと思います。小学生でも、1冊の本に向き合い、本と対話し、最後まで読みこなすためには、紙の本がよいのではないかと思います。その経験は生涯にわたる大切なものになるのではないでしょうか。
 といっても電子書籍を否定するものではありません。メアリアン・ウルフ氏が「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」という大部の著作を出されています。誤解を恐れずに一言にまとめてみると、乳幼児期には、印刷された媒体。年齢とともに少しずつデジタル媒体を加えていくということだろうと思います。電子書籍は、子供の発達に沿って提供していくことが大事だろうと私は思います。
 次に、3本目の柱、多様な特性の子供に対する支援について報告をいたします。まず、図書館利用に障害がある子供たちへのサービスです。私たち日本図書館協会で行いました2015年の調査結果では、市区町村立図書館で障害がある子供たちへのサービスを実施したのは781館(27.1%)でした。内容は、資料の貸出し、出張おはなし会、資料作成などでした。地方自治体では、読書バリアフリー計画が少しずつ進んでいることだと思います。個々の事例では、特別支援学校、児童自立支援施設、児童相談所などへの読書活動の支援や、「りんごの棚」の設置があります。「りんごの棚」というのは、特別なニーズのある子供たちのために資料を展示した棚です。スウェーデンが発祥で、現在、日本でも設置する図書館が増えております。
 昨年行われました全国図書館大会での川越市立図書館の報告では、「りんごの棚」を設置し、拡大文字資料、点字付き絵本、マルチメディアデイジーなどの資料を展示しているという報告がございました。
 次に、日本語を母語としない子供たちへのサービスです。図書館では多文化サービスという言い方をしますが、同じく2015年の調査では、市町村立図書館で行ったのは1,258館(43.5%)という結果が出ております。コーナーを設置し、各言語の資料を収集しているということになります。また、多言語おはなし会を実施する図書館も増えております。また、日本語を母語としない児童が多い学校への団体貸出しなどもあります。横浜市中央図書館では、9か国語の母語セットの貸出しを行っております。
 今、電子書籍を新型コロナ対策の交付金を活用して導入している図書館が増えています。電子書籍の多くはライセンス契約で、2年すると利用ができなくなります。そのときどうなるのか。今、公共図書館では、資料費の減少が大きな課題になっています。表は、2001年から2021年までの経年変化です。図書館数は2,681館から3,316館と23%ほど増加しています。専任の職員数は1万5,347人から9,459人と大きく減少しています。資料費は、桁数が多いので、1館当たりの資料費に直しますと、2001年1,313万円だったものが2021年842万円と、これも大きく減少しているのが実態です。図書館の現場では、電子書籍を導入すると、数年後、図書費を中心とする資料費がどうなるのだろうかと危惧する所が多いのだと思います。電子書籍の導入には、子供にとってどうなのかということ、また資料費を長期的にどうするかという課題などがあろうかと思います。
 以上で私からの報告として終わりにしたいと思います。御清聴ありがとうございました。
【秋田座長】  どうもありがとうございました。
 それでは、ただいまの佐藤様と島委員の御説明に関しまして、御質問、御意見をいただきたいと思います。御質問、御意見のある方はどうぞ挙手ボタンのほうを押してください。事務局のほうから指名がなされますので、ミュートを解除して御発言ください。お願いいたします。
【工藤専門官】  事務局です。富永委員から挙手がされております。
【秋田座長】  お願いします。
【富永委員】  市川市教育委員会指導課の富永と申します。本日は、お二人の委員の御発表ありがとうございました。お聞きしたいことと、共感したことがあるので、お話しさせていただきます。
 まず、島委員の「もの」としての本というところに非常に共感いたしました。小学校の子供たちは、学校図書館に入ってきて、学校司書さんにいきなり、「ねえねえ、あの赤い本ある」とか、「あのくまさんの本ある」という聞き方をします。本の題名ではなく、その本の装丁で聞くということがよくあるので、「もの」として子供が捉えているというのは、本当にそのとおりだなと思いました。
 また、私の親としての感覚で、親としてはいろいろな本を読み聞かせしたいと思うのですけれども、子供には好きな本があるようで、その好きな本を選ぶということは、主体的に本に関わっているということなので、その先の小学校、中学校の主体的な学びにつながっていくのではないかなということを感じました。ありがとうございました。
 そこで、佐藤委員にお聞きしたいのですけれども、デジタルと紙の本の比較というのはすごく画期的な研究だと思いました。もしもデジタルの本を親御さんが読み聞かせをしていたら、何かまた違うのかなと感じ、そういう研究とか、また今後の予定などがあったら教えてください。ありがとうございました。
【秋田座長】  佐藤委員、よろしくお願いいたします。
【佐藤賢輔氏(東京大学発達保育実践政策学センター)】  御質問ありがとうございます。今回は、より一般的な形ということで、ちまたにあるもので多いものということで、ナレーションつきの電子デジタル絵本を用いましたが、ナレーションがつかないデジタル絵本と紙の絵本の読み聞かせを比較した研究は海外ではありまして、そういったところでは紙とデジタルの差はないということが分かっています。何に対してないかというところも、内容の理解であったり、そこから言葉をどの程度獲得するかということであったりという、いろいろな指標で比べているのですけれども、紙かデジタルかというところで、両方とも保護者が読み聞かせるという形になれば、いずれにせよ大きな違いはないという結果が先行研究の中では多いかなと思います。
【富永委員】  ありがとうございました。そうしますと、デジタルだと、デジタル書籍が、タブレット上の本棚に並びますけれども、それを今度「もの」として子供がどう捉えていくのかというのはまた面白い視点かなと思います。ありがとうございました。
【工藤専門官】  事務局です。続きまして、清水委員から手が挙がっております。
【清水委員】  お二人の先生方、ありがとうございました。島委員の御発表は、実例など、本当に私もふだん接している子供たちの現状と重なるものが大変多くて、そうだ、そうだと思いながら伺っておりました。
 それで、「小学生でも1冊の本に向き合い、本と対話し最後まで読みこなすためには、紙の本がよい」という御指摘も、私も本当にそのとおりと思っておりまして、特に1・2年生、低学年の子供たちなどは、自分でも読めた、一冊を読みこなせた、こんな本が読めたんだという満足感を得られるという意味でも、その御指摘は納得いたしました。
 それから、佐藤先生にはちょっとお尋ねしたいことがありまして、調査の具体的なデータをこのように実験結果として示していただいて、大変参考になりました。ありがとうございます。それで一つ御質問なんですけれども、電子メディアが子供の脳の働きとか、それから視力に与える影響というのもやはり少なからずあると思うんですね。特に乳幼児期については、まだ頭の軟らかい時期に関して、小児科の先生方などからも御指摘があると思うんですけれども、その辺りのことはどのようにお考えなのかなというところをお尋ねしたく思いました。
【佐藤賢輔氏(東京大学発達保育実践政策学センター)】  私からお答えいたします。質問をありがとうございます。まず、デジタルメディアについて、例えば電子書籍だったりというものが、動画のほうが影響は大きいと思うんですけれども、視力に悪い影響を与えるというのは、これは確実にそうだということで、当然、見過ぎ、特に暗いところで見たり、近くから見たりというのは目にはよくないということなので、そういう意味では、時間を制限したり、見る環境を整えるということは大事かと思います。
 またもう一つ、例えば食事をしながらテレビを見るなどは、肥満みたいなものに影響が大きいということも海外ではよく指摘されています。
 一方で、例えば、一般向けの書籍などに、小さい頃から動画ばかり見ていると脳の学習能力が不可逆的に損なわれるとか、そういった言説に対しては、私自身としては非常に懐疑的に思っていまして、そういったことはないのではなかろうかと私自身は思っております。当然、テレビというものを非常に長時間見ている子供たちは何十年か前からずっといるわけで、それが現状、テレビを見過ぎた子供が大人になって、そういった学習能力が損なわれているかというところをつぶさに調べれば、その影響というのがそこまで大きくないものであるということは分かるのではないかと私は思うんですが、見ているものが変わっていますので、昔は教育テレビを見ていたのが、今はユーチューブを見るようになってどうなるのかというところもあるかとは思いますが、そういったところは決定的なデータはないので、これから検討しなければいけないとは思うんですが、それは個々の先生方のお考え次第だとは思いますが、私自身は、その大きな、例えば脳の発達に非常に不可逆的なダメージを及ぼすかのような言説にはすごく懐疑的なものを持ってはいます。が、皆様方もどなたか、補足のコメントでもいただけたらありがたいですし、私自身、そこまで脳の発達の専門家ではありませんので、より専門の先生にお話を聞きたいなというところでもあります。
【清水委員】  ありがとうございました。いろいろな御意見が専門家の方々の間でもあるということは知っておりますが、委員の皆様もどのようにお考えなのかなと思いました。
【工藤専門官】  事務局です。続きまして、福田委員から手が挙がっております。
【福田委員】  お二方の貴重な意見を拝聴しまして、本当にありがとうございました。私も、御意見を参考にしながら、発達の段階に即して電子書籍を考えていくということは、とても必要であると思いました。
 本の選び方については、読み方そのものより、本の内容そのもので効果は違うということを佐藤先生がおっしゃっていました。そうすると、どんな本を選ぶかということに関しても、大人のサポートが非常に必要になります。現在、タブレット端末や携帯については、乳幼児期の子供たちの利用が急激に増えていて、さらに、大人と一緒に使用しているというよりも、子供たちが一人で使用しているというパーセンテージが非常に上がってきています。読書というところのスクリーンタイムを読書時間タイムへと移行していったとしても、何をどう選んでいくのかということには大人のサポートが必要になっていくでしょうし、それから、少しの時間ではなくて、日々それがちょっとの差であったとしても蓄積されていったときに一体どうなのかというところをどのように捉えていらっしゃいますか。佐藤先生に少しお聞きしたいと思います。
【佐藤賢輔氏(東京大学発達保育実践政策学センター)】  ありがとうございます。まさにその選ぶところにもサポートが要るというのはおっしゃるとおりでして、それは紙の本であれ、デジタルのものであれ、まずは自分で選ぶということが、まだ拙い子供たちにとっては、選ぶところにもサポートが必要になる。それが電子書籍だからといって、サポートが一切必要がなくなるということではないのはおっしゃるとおりかと思います。
 また、例えば御紹介した実験データでも、紙とデジタルで理解の程度に差はないということをデータとしては申しましたが、それはもっと深い理解だったらどうなんだとか、絵本というのは繰り返し繰り返し一冊を読むという性質のものだと思いますので、一回読んだときに理解できなかったけれども、繰り返し紙、デジタルを読んだら、その紙とデジタルの差が出てくるのかというところも本来であればもっと検討していく必要があるのかなと思います。
 ただ、まず実態としては、電子書籍をほとんど小さな子供たちは活用していないというのが実態としてありますので、それが、活用が長期にわたってくるとどういった影響が出てくるのかというのは、データとしても実態としても調べることがなかなか難しいところはあると思います。ただ、こういったものの活用を始めよう、利用しようというところで、その使い方についても、どんなプラットフォームを使ってどのように選んで、またはデジタルと紙をどのように組み合わせて子供たちに提供するというか、楽しんでもらうかという取組自体がまだ手探り状況というか、電子書籍があると、そのあるものをどうやって活用していくかというところの工夫もまだ全く取組として始まっていないところかなと思いますので、逆に、デジタルでも紙でも、どういった選び方、組み合わせ方、与え方、楽しみ方というのがあるのかなというところをこれからまさに考えながら始めていくところなのかなと、そういった研究にも取り組んでいけたらなということは考えております。
【福田委員】  ありがとうございます。そうすると、もう少し長期の調査研究が必要であると、私は理解いたしました。
 これまで、乳幼児期の読み聞かせは、ただ知識を広げるとか、本の中での体験を広げるということだけではなく、親子の触れ合いとか、それが情緒の安定につながるとか、様々な効用があったと思います。そうしたときに、発達の段階に即して、紙の本、「もの」としての本を島先生がおっしゃったように大切にしていくというのは、重要なことだと思います。
 子守代わりに携帯とか、それからタブレット端末が使われているというのは、様々な場面で見てきました。学校の先生方や司書さんから、年々その影響で子供たちになかなか言葉が入っていかない状況に現実的にはあるということを聞いています。そういうことも含め、あるいは、先ほど出ていました視神経回路が形成されていく乳幼児期ですので、視力は発達する時期であるということを考えても、できるだけタブレット端末の使用自体は少なくしていったほうがいいのではないかと思います。
 私は、紙か電子書籍かという選択ではなくて、1人1台端末が入りましたので、この端末を活用しながら授業が効果的に行われていくということが小学校では大切だと思います。
 見聞きしました例では、1年生の国語の授業で、端末の中に本や図鑑の一部を取り入れて、子供たちに配信して、調べ学習の第一歩をそこで行ったという例もあります。「じどう車くらべ」の単元では、縦書きで習ってきた子が図鑑の横書きをどう読んでいくのか、本のどこに自動車の「つくり」「しごと」のことが書いてあるのか、というように、書いてあることの位置の確認や読み取り方の確認の作業を授業でみんなが1人1台端末を使って行っています。これは本のページを送信しているわけですが、著作権第35条の公衆送信が授業の場合には可能であるとなっています。そして、第2項のところでの補償金をほとんどの自治体がまとめて払ってくれています。このように紙の本とタブレット端末をうまく結びつけて授業で活用していく。授業の中でそういう読み方、電子書籍ではありませんが、電子媒体を活用していくということをもっと考えて、紙か電子書籍かという二者択一ではなくて、もっと内容的に理解を考えていく必要があるのではないかと思っています。
 どうもありがとうございました。
【工藤専門官】  事務局です。今現在、有山委員と桑原委員と稲井委員の3名の方がお手を挙げておられます。どういたしましょうか。
【秋田座長】  それでは、まとめてお三方に御発言いただいてから、一つ一つではなくて、まとめてお返事いただくということでお願いできればと思います。
【工藤専門官】  ありがとうございます。それでは、有山委員お願いいたします。
【有山委員】  御発表ありがとうございました。軽井沢風越学園の有山といいます。日々子供たちと接している中で、貴重なお話を伺うことができたなと思っています。
 私が一番気になっていることは、今お二方の委員の方からもあった、段階に応じて手渡していく、電子書籍と出会わせていくとか、あるいはそれぞれの特性を生かしてというところなんですけれども、本であると、本棚がそこにあれば子供たちはアクセスできるんですが、電子書籍はなかなか、こちらが意図的に手渡していかないと出会えない。今、福田委員がおっしゃったこととも関わってくるんですが、今、子供たちは1人1台になって、いろいろ見たり聞いたり使っている中で、何とかこれをうまい形で電子書籍に出会わせたいなと思っているところなんですが、その辺りの段階的な出会わせ方、うまく表現できないんですけれども、その辺り、お二方はどのようにお考えになっているかなということをお伺いしたくて挙手しました。よろしくお願いいたします。
【工藤専門官】  では続きまして、桑原委員、お願いいたします。
【桑原委員】  ありがとうございます。佐藤様、島様、本当に貴重な分析結果と活動の取組についてのお話をありがとうございました。
 私自身が実際に子供たちを目の前にした現場で感じることなのですが、デジタル絵本というものになかなか触れ合う機会がなく、そういったところから紙の絵本が主として子供たちの手に渡っていることが多いんですけれども、その絵本の中には、動かすと動物が飛び出してくるような立体的に動くという仕掛けがあったり、開くと飛び出してくるといった驚きを経験できるものもあったり、そういった仕掛けを子供たちはとても好む傾向があるのかなと私は感じているんです。園などの集団の場では、先ほど島先生がおっしゃったように、子供は「もの」として本を持つ要素を駆使して読書をするという部分に関して、見て、触って、開いて、持ってみて、匂いを嗅いでというところで、本当に子供たちはそれを実践しているというか、本当に子供たちはそうやって絵本と触れ合っている姿をよく見ます。このデジタルというものに関して、私の認識不足で、もし知っている先生方がいらっしゃったら教えていただきたいのですが、例えばこういった飛び出す絵本とか、動かすと視覚的なもので変わってくる絵本というものが、このデジタルの世界ではどのように表現されているのかなというのを、もしそれを自分たちがちゃんと認識していれば、子供たちにもっとデジタルのよさも伝えていけるのかなと思うんですが、もし知っている先生方がいらっしゃったら教えていただきたいなと思いました。以上です。
【工藤専門官】  では最後に、稲井委員お願いいたします。
【稲井委員】  稲井でございます。私は、質問というよりは、お二人の御発表を聞いての意見でございますけれども、佐藤先生のほうでスライドの中に、全ての子供と保護者が絵本や本にアクセスしやすい環境というところを御提案されているところに大変関心を持ちました。また、島委員の、公共図書館の取組が例でありましたけれども、絵本は子供と本をつなぐきっかけになるものだと考えています。絵本はあまり読書経験を持たない子供たちにも本に親しみを持たせることができますし、本への抵抗感やハードルを下げてくれるものだと思います。それで、子供がどのように本と出会うかという視点から、年齢にかかわらず絵本の意味を再評価したり再定位したりしていくことが大切であると考えております。
【秋田座長】  すみません。ちょっと接続環境が悪いので、ちょっと前からもう一度御発言いただけたほうが分かりやすいかと思います。
【稲井委員】  全ての子供と保護者が本にアクセスしやすいということと、島委員のご発言にあったよう絵本がハードルを下げるということに関しまして、子供の視点という御意見が多かったのですが、私は、保護者もまたどのように子供の絵本を選んでいったらいいのか、経済格差が進み、あるいは様々な働き方が進んでいく中で、保護者もまたいろいろと迷ったり悩んだりしている部分もあると思います。公共図書館、あるいは学校や園、様々な場で保護者にしっかり様々な絵本というものを発達段階に応じてしっかり紹介していったり、ガイダンスしていったりできるような場を提供していく、そんなことがこれからの読書推進の活動においては必要だと思います。
 あともう1点、実はある都立高校の事例ですが、高校生に至るまでほとんど読書経験を持たない生徒が在籍していました。しかし、その高校の学校図書館の出入り口近くには多くの絵本が企画展示してありました。生徒たちが幼いの頃に読んだと思われる絵本も多く並べてあり、生徒たちが本と出会う大きなきっかけになっていました。懐かしい思いを持って絵本を再読する生徒が多かったそうです。絵本というのが実は様々なかたちで読書にいざなう公共圏といいますか、そういう場を提供していますので、そういう視点でも絵本というものの意義を考えさせると同時に、本との出会いというものをつくっていく一つの契機になると考えております。
【秋田座長】  ありがとうございます。それでは、お三方のことについて、それぞれから簡単にリプライをお願いいたします。
【佐藤賢輔氏(東京大学発達保育実践政策学センター)】  失礼します。私、佐藤から簡単にお返事させていただきます。
 電子書籍の環境、子供向けということで考えると、まだ今、日本に子供向けの電子書籍がたくさんあるかというと、多分ないと思うんですよね。あるにはあるんですけれども、例えばプラットフォームが整備されていなかったり、絵本でいうと、例えばキャラクターが動くとか、音が、効果音がするとか、そういった機能を付け加えるとか、辞書機能がついているとか、そういった電子書籍の強みを生かしたようなコンテンツが豊富にそろっているかというと、そろっていなくて、まずそういったところの整備が並行して進んでいかないことには、子供たちが使いやすいというところにはまだまだちょっと至らないのかなということは思います。なので、例えば本棚に紙の本が並んでいるように、タブレットにアクセスすると、すごくすてきな本棚みたいなところから楽しく選べるようなプラットフォームというのが徐々につくられてきているところですので、そういったものを使いながら、どういった実践が可能なのかというところを今後、研究と並行して進めていくフェーズかなと思っています。
【島委員】  島です。よろしくお願いします。
 まず、有山委員さんのお話ですけれども、本であれば、本棚から自由に子供は選ぶことができると思います。デジタルの場合は、なかなかそれがうまくいかないと思います。私たちもプロジェクトをつくっていろいろな検討をしているんですけれども、子供たちは本を並べて探すというケースが結構あって、「これはデジタルだったらどうするんだろうね」という話がありました。あるメンバーから「タブレットを5台並べればいいんだよ」という話が出たんです。そうしないと比較ができない。将来的にはデバイスとかIT環境が変われば、タブレットの中でたくさん並べたりできるのかもしれませんけれども、厚さみたいなところはなかなか難しいのかなという、そんな感じもいたしますね。
 それとあと桑原委員の飛び出す絵本といいましょうか、仕掛け絵本がデジタル化するとどうなるかですが、その話を広げていくと、最終的にはアニメの世界になっていくのかなという感じを受けました。
 以上、私の感想です。
【秋田座長】  どうもありがとうございました。お二方、御発表等をありがとうございます。
 それでは、野口委員と白井委員の御説明のほうに進めさせていただきたいと思います。
 それでは、まず野口委員から御発表いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
【野口委員】  皆様、よろしくお願いいたします。では、画面を共有いたします。皆様、見えておりますでしょうか。
 私からは、多様なニーズに応える読書環境・読書活動ということで、既にここまでお話しいただきました佐藤先生、そして島委員からもその視点のお話がありましたけれども、私のほうからは、特に学校図書館に焦点を当てて話を進めていきたいと思っております。
 本日の発表内容ですが、ちょっとスライドの枚数が多いということもありまして、主に1番目のところ、特別な支援が必要な子供のニーズへの対応を中心に話をさせていただきたいと思います。皆様に事前にお配りしている資料、2番、3番のところは、お時間があればお目通しいただければと思います。
 こちらの資料(特別支援教育の現状の図)は、文部科学省が作成された資料で、障害者白書に掲載されているもので、現在、特別支援教育を義務教育段階で受けている子供たちの割合を示しているものです。こちらを見ていただきますと、2009年度で2.3%だった状況が、2019年度、10年後には5%ということで、約2倍以上の増加ということになっております。
 支援が必要な子供たちは、特別支援学校以外にも、小学校や中学校の特別支援学級、そして通常のクラスに学びながら通級指導を受けている子供たちもおります。特に特別支援学級、そして通級指導の子供たちの割合が大きく伸びている状況にあるわけです。こういったことから見ますと、特別支援学校の学校図書館の環境はもちろん重要ですけれども、それだけではなくて、小学校や中学校、そして、ここのデータには入っておりませんけれども、高等学校の学校図書館の読書バリアフリーの環境をどう整備していくのかということが今重要な課題になってきていると思います。
 こちらの表は、文部科学省が令和2年度に実施しました「学校図書館の現状に関する調査」のデータの一部を抜き出したものですけれども、バリアフリー資料がどれくらい小・中・高校の学校図書館に整備されているかというデータになります。表には、点字、拡大文字、録音、マルチメディアデイジー、LLブックと、種類を並べてありますけれども、このうち録音とマルチメディアデイジーは、ICTを活用したメディアの一種ということになります。
 見ていただくと分かりますように、全体的にこれから整備していかなければいけない段階にあると言えるわけですけれども、点字や拡大文字などの紙ベースのものに比べて、録音図書とかマルチメディアデイジー図書など、ICTを活用するメディアの整備がまだ低いという状況にあります。小・中学校ではGIGAスクール構想の進展に伴って1人1台端末が整備されてきておりますけれども、学校図書館にはそういった端末環境がないという学校もあるようでして、「こういったICTを活用したメディアも整備していきたいのだけれども、学校図書館では利用できないんです」というような相談を受けることがしばしばあります。その辺りも課題の一つだと思います。
 それから、こちらも先ほどからもう話題になっております電子書籍の整備状況です。割合を見ていただくとお分かりのように、小・中・高校はまだまだこれからという段階にあることは確認できるかと思います。
 電子書籍に関して、既に佐藤先生からも御指摘があったように、アクセシビリティの機能が、支援が必要な子供たちの読書支援という文脈においては重要になってきます。文字の拡大、音声の読み上げ、それから背景色の白黒の反転といった機能を、子供たちの手元にある1人1台端末を有効に活用することで、特別な支援を必要としている子供たちの読書の利便性向上に生かしていくともできるのではないかと思います。また、こういったアクセシビリティ機能は、実は支援が必要な子に限らず、どんな子供たちでも、読み上げができたらいいなという作品だってあるかもしれませんし、その利用の形態に応じて、有効な場面もあるのではないかと思います。
 続きまして、特別支援学校の学校図書館の現状です。こちらは、全国学校図書館協議会と私の研究室で、これまで6年ごとに3度にわたって調査を行ってきております。2007年、2013年、2019年ということで、全国悉皆の調査を行っているのですけれども、小・中・高校に比べて特別支援学校の学校図書館環境はかなり厳しい状況にあるということが分かっております。
 まず、そもそも「学校図書館がない」と回答している学校も特別支援学校ではあります。設置率を見てみますと、ほぼ9割前後で推移しているという状況になっております。また、特別支援学校の種類の中でも、視覚障害の特別支援学校は100%ですけれども、知的障害の特別支援学校は85.6%ということで、特別支援学校間の差もあるという状況にあります。
 なぜ「学校図書館がない」と回答しているのか、その理由も尋ねていますけれども、ほとんどは「教室が足りない」という回答なんです。特に首都圏や関西圏など都市部の特別支援学校では、知的障害の特別支援学校を中心に、在籍生徒数の増加が顕著でして、学校図書館を教室転用するケースもあるということです。
 それから、職員の状況ですけれども、司書教諭、学校司書の状況を調べております。司書教諭については、小学校や中学校とそれほど大きな開きはないんですけれども、学校司書に関しては、配置率は上がってきておりますけれども、まだ2割ぐらいということです。小・中・高等学校と比べてみると、非常に大きな開きがあるのが現状です。支援が必要な子供たちにこそ、本やいろいろなメディアを手渡していく人の存在というのが非常に大事だと思うんですけれども、そこの配置状況も厳しさがあるという現状にあります。
 それから、様々な資料などを購入するための予算に関しても、小・中・高校と比べたときの差がかなり大きな状況にあります。年間の予算が「全くない」と答えている特別支援学校もありまして、「保護者の方から要らなくなった本を譲ってもらったりして何とか整備している」などという回答も寄せられております。
 そして、資料の状況です。資料総数は2019年で約5,000ですけれども、同じ年の全国学校図書館協議会の学校図書館調査のデータを見てみますと、小学校で1万を超えていますので、大体小学校の半分くらいのコレクション数という実態になっております。こちらでも、視覚障害の特別支援学校と知的障害の特別支援学校を比べてみますと、大きな開きがあるという状況にあります。
 特別支援学校ですので、バリアフリー資料が大部分を占めるのかと思われるかもしれませんけれども、こちらは視覚障害の特別支援学校だけを抜き出しておりますけれども、資料全体に占めるバリアフリー資料の割合は全体の3割ぐらいです。バリアフリー資料が決して充実しているというわけではないと言えると思います。
 ちなみに、文部科学省では、学校図書館図書標準達成を目指そうということで学校図書館図書整備等5か年計画に取り組んでいるわけですが、特別支援学校に関しては達成率が非常に低いという状況にあります。小学部でも15%、中学部ではまだ3.6%という状況で、量的な側面でもまだまだ図書資料が足りないという状況が見えてくると思います。
 こういった状況を補うためにも、地域の公共図書館とか点字図書館などと連携していくことが重要になってくるんですけれども、連携の割合というのを見てみますと、約5割の特別支援学校はどことも連携していないという現状が見えてきております。連携しているところでは、公共図書館が連携先としては多いです。
 その連携先である公共図書館の状況ですけれども、こちらは昨年度、全国公共図書館協議会が全国調査を実施しております。様々なバリアフリー資料の所蔵状況を見ていただきますと、種類によって所蔵率に差はあるのですけれども、様々なバリアフリー資料が公共図書館では整備されつつあるということが確認できるかと思います。こういったものを連携を通して、公共図書館だけではなくて、学校図書館でも利用できる環境をどうつくっていくかということが大切ではないかと思います。
 ということで、まとめですけれども、今後望まれる取組のまず一つは、今あるバリアフリー資料の共有を強化することがまず重要ではないかなと思います。
 学校図書館と個別に公共図書館、点字図書館が連携することも重要ですけれども、近年、取組としては、ICTを活用した全国規模での共有の仕組みもつくられております。特に点字とか録音などのデータ形式でつくられているものに関しては、そのデータをインターネット経由で共有しようという取組がなされています。例えば、「サピエ図書館」とか、それから国会図書館が行っている「視覚障害者等用データの収集及び送信サービス」とか、それから昨年度から文部科学省が始めました学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム事業とか、こういった様々な取組が今動いております。これらの基盤は著作権法の37条という規定でして、これは、原本の著作者の許諾を取らなくても、点字とか録音などの形式に公共図書館や学校図書館は複製、つまり媒体変換することができますし、それをインターネット経由で公衆送信することもできるという規定です。ただし、この規定そのものがあまり学校関係者の中では知られていないという状況もありまして、この規定が有効に活用されているとは言い難いのが現状だと思います。
 こちらは、国会図書館の「視覚障害者等用データの収集および送信サービス」の仕組みがどういうものかを示したものです。全国の各図書館が37条に基づいて複製しましたバリアフリー資料のデータを国会図書館が集めまして、それを送信承認館、つまり利用したい図書館にデータ送信をして、必要とする方に提供していくという仕組みです。この送信承認館には、地域の公共図書館はもちろん、学校図書館もなることができます。ただし、現在のところ、学校図書館でこの送信承認館になっているところは10にも満たない状況です。学校図書館がうまくこういった仕組みを利用していくことで、必要とするものを必要とする子供たちに届けていく、そういった仕組みがうまく回っていくといいなと思っております。
 また、文部科学省の取組ですけれども、「学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアム」ということで、学校間でもやり取りが進んでいったらいいなということで昨年度から動いております。関心がありましたら、ぜひこちらのサイトも御覧いただければと思います。
 それから、そのほかにも、今後望まれるということで、先ほどから触れています1人1台端末でICT、特にアクセシビリティ機能をうまく活用していくことが大事ではないかということ。それから、まだまだバリアフリー資料が限られた状況にありますので、どう増やしていくのか。37条を活用して各図書館等でつくっていくということももちろん重要ですけれども、電子書籍を含め、アクセシブルな資料を出版社にたくさん出してもらえるように働きかけていくことも大切になると思います。
 そして、先ほどの著作権法37条のことなど、まだまだ知られていないこともありますので、司書、司書教諭、学校司書の皆さんへの情報提供とか、研修の機会の充実も必要でしょうし、学校図書館の中でも特に特別支援学校の学校図書館はまだまだ厳しい状況にありますので、一層の整備・充実を図っていくということも必要かと思います。
 ちょっと飛ばしまして、最後ですけれども、一つの学校、一つの図書館だけで何かをしていくことは、特に多様なニーズに応えていくという観点からは、困難な面が多々あります。やはり連携を図って、共有できるものは共有していきましょうということが大事ではないかと思うんです。これまでも、公共図書館から学校図書館への支援は盛んに行われてきております。しかしながら、その支援の枠組みの中に、例えば障害のある子供たちに必要となる資料とか、あるいは、今日は説明を飛ばしましたけれども、外国にルーツのある子供たちへの多言語の資料とか、そういったものが十分共有されてきたのかどうかということを改めて確認していくことが大事ではないかと思います。
 そして最後、アナログとデジタルのベストミックスで多様なニーズにより応えやすくということです。ICTコンテンツ、電子書籍がその代表ですけれども、「one source multi use」とよく言われます。一つのデータでマルチな使い方、つまり拡大、読み上げ、いろいろな使い方ができます。そういった特性をより生かしていくことが大切ではないかなと思うんです。紙か、電子かということではなくて、その両方のメリットをうまく組み合わせていくことで、読書から「誰一人取り残さない」環境がつくれるのではないかと考えております。
 以上、少し長くなりましたけれども、私の発表は終わりたいと思います。ありがとうございました。
【秋田座長】  どうもありがとうございました。
 それでは引き続き、白井委員及び三上様から御発表いただきます。よろしくお願いいたします。
【白井委員】  こんにちは。ブックスタートの白井です。よろしくお願いいたします。
 ブックスタートは、地域の活動です。一人一人の赤ちゃんとその保護者に接触する機会をつくり、そこで絵本を一緒に開く楽しさを体験してもらい、併せて絵本をプレゼントする活動です。ブックスタートが実施されている会場では、自然に赤ちゃんの笑顔が生じます。そして、それが周りにいる皆さんにつながっていき、連鎖していき、20年を経てだんだんと全国に広がってまいりました。本日の報告は、地域の様々な人々が連携して行われるブックスタートの現場に詳しい担当の三上絢子氏から発表いたします。それではお願いいたします。
【秋田座長】  見えています。お願いします。
【三上絢子氏(ブックスタート)】  よろしくお願いいたします。では、ここからは私からお話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、このブックスタートについて簡単に御紹介させていただきます。御存じの方もいらっしゃるかと思うんですが、このブックスタートは、絵本を開く楽しい体験と絵本をセットでプレゼントするという活動です。対象は地域に生まれた全ての赤ちゃんとその保護者です。赤ちゃんの幸せを願い、行政と市民が協働する事業として実施されております。
 多くの自治体では、受診率の高さから、ゼロ歳児の集団健診で実施されております。もともとは1992年にイギリスで始まった活動で、日本では2000年の「子ども読書年」に活動が紹介されました。現在では、これは6月末の集計になりますけれども、6割超の自治体で行われているといった状況にあります。
 グラフにすると、こんな感じです。草の根的ですが、緩やかに伸びてきていることがお分かりいただけるかと思います。
 次に、このブックスタートがどのように行われているのかというのを少しお写真で御紹介いたします。まずは、健診の合間などに行われることが多いんですが、挨拶をして、ブックスタートがどんな活動なのかというところを御紹介してまいります。それから、絵本を赤ちゃんの目の前で開いて、その様子を保護者の方にも見ていただきます。保護者の方にも一緒に絵本を楽しんでいただきます。そして、地域の子育て支援情報なども紹介して、最後に絵本や資料が入ったブックスタート・パックを手渡すといった流れになります。時間にすると、5分かかるか、かからないかですが、大体こんな感じで多くの地域で実施されております。
 運営体制は地域により様々です。図書館や母子保健、子育て支援などの行政各課と市民とが、赤ちゃんの幸せや健やかな育ちを願い、思いを共有しながら実施されております。
 活動の目的は、赤ちゃんと保護者が、絵本を介して心触れ合うひとときを持つきっかけをつくるということにあります。ブックスタートでは、赤ちゃんと絵本を開くことを、本を読むread booksという言葉ではなく、読み手と赤ちゃんとが楽しいひとときを共有するという意味でshare booksという言葉を使って表現しております。
 このブックスタートにはどんな可能性があるのかといいますと、母子保健とか、子育て支援、まちづくり、様々な視点から期待されているのですが、読書という観点で言いますと、本に親しむきっかけづくりとか、図書館の利用促進とか、そういった観点からの可能性が見いだされております。
 時間の兼ね合いで詳しい御紹介は割愛いたしますが、保護者の方からは、読み聞かせを始めるきっかけになったという声がこれまでにも非常に多く寄せられております。
 こちらは、2019年に自治体が行ったアンケート調査の結果なんですけれども、ブックスタートを実施したことによる変化を尋ねたところ、「図書館・図書室を利用する親子が増えた」という回答が65%と最も多く寄せられています。
 このブックスタートは、地域に生まれた全ての赤ちゃんと保護者が対象となります。全ての中には、本当に様々な背景を持つ親子がいらっしゃるかと思います。一組一組の状況に合わせた対応というのが求められますが、今回は、特に特別な支援を必要とされている子供たちや外国籍の子供たちへの方策というのも論点で挙がっておりますので、その点につきまして各地でどのような取組が行われているのかというところをここから御紹介してまいります。
 まず、外国語を母語とする親子へ向けてというところですが、自治体では、広報を工夫したり、参加しやすい場をつくったり、設定したり、多言語の資料を用意したり、あとは手渡す絵本への配慮をしたりといったところが工夫として見られております。
 具体例を御紹介させていただきます。静岡県の浜松市では、英語、中国語、ポルトガル語でブックスタートの趣旨を説明した資料を用意されています。というのは、外国の方は、ブックスタートといっても、会場で何が行われるのかというのが日本の方よりも想像がつきにくい部分があるということで、日本語の資料をそのまま翻訳するというのではなく、会場でどのようなことが行われているのかというのを分かりやすく紹介されるような資料が作られています。
 また、フィリピン大使館・総領事館と協働し、対象者が集まる機会、これは、日本で生まれた外国籍の赤ちゃんはパスポートを取得する必要があるんですけれども、フィリピンの方が中心となって活動されているNPOと大使館・総領事館と協働しまして、パスポートの申請受付サービスという機会が設けられているのですが、そこに図書館の方が出向いてブックスタートを行ったということもあったそうです。
 また、「ようこそ」という気持ちを伝えるために、会場にいろいろな国の言葉で「こんにちは」と書かれたポスターを掲示したりとか、あとはブックスタートでお渡しする絵本は日本語のものなんだけれども、様々な言語の絵本を会場に展示して、図書館で無料で貸出しできるということを紹介しているような地域もあります。そもそも、図書館が無料で利用できるということを御存じない方もいらっしゃるからということでこういった工夫をされているということです。
 また、当NPOの取組を御紹介いたします。多言語対応絵本紹介シートというものを御用意しております。現在、ブックスタートで手渡されている絵本は基本的に日本語のものになります。このシートを自治体に提供しているんですが、絵本に書いてある日本語の字、例えば擬音語とか擬態語など、分かりにくい部分を補足した絵本の紹介文を、「やさしい日本語」を意識して紹介する文章を載せております。9言語で表記しているんですが、この9つの言語については、ゼロから2歳のお子さんの国籍を調べて、その公用語の上位を採用しております。また、日本語で読みたい方へのサポートとして、各言語の発音に合わせたアルファベットの表記をこちらのほうに載せています。また、母語でも自由に楽しんでほしいというメッセージも載せております。このシートの作成に当たりましては、東京外国語大学に御協力をいただきました。
 また、多言語版アドバイスブックレット、こちらはブックスタートの趣旨を伝える資料になりますが、8言語で用意しております。希望される自治体に販売提供しております。平仮名の併記もしております。
 次に、障害のある赤ちゃん、保護者に向けてというところですが、自治体での取組といたしましては、点字/拡大文字、音声デイジー版などの資料を用意したり、あとは手渡す絵本への配慮をしたり、一人一人への対応を考えたりといったところの工夫が見られております。
 事例を御紹介させていただきます。こちらは兵庫県の川西市というところですけれども、こんにちは赤ちゃん事業、乳児全戸訪問事業でブックスタートを実施されています。全戸訪問をされる中で、視覚と聴覚に障害があって酸素吸入器をつけている赤ちゃんのおうちを訪ねたということもあったそうです。お母さんに「絵本をちょっと持ってみますか」とお渡ししたところ、お母さんが赤ちゃんに絵本を早速見せてあげようとされたんです。その様子を赤ちゃんも感じた様子だったので、「赤ちゃんはきっと喜んでいると思いますよ。お母さん、読んでみますか」と声をかけたこともあるんですよという話をお伺いしました。訪問を担当されていらっしゃるこども支援課職員の方は、「一人として同じやり方にはならない」と語っていらっしゃいます。本当にそのとおりだなと感じております。
 また、点字/拡大文字版、音声デイジー版のブックスタート事業の説明資料とか、図書館利用案内を用意されているようなところもありますし、点字の絵本や資料を会場の目に留まるような場所に置いているというところもあります。これは、会場に来られた保護者の方は必要とされていなかったとしても、御家族に必要とされている方もいらっしゃるかもしれないので、こういうものがあるんだよということで、見えるところに置いておくということを大切に考えているということでした。
 当NPOの取組といたしましては、さきに御紹介しました事業の趣旨を伝える冊子「アドバイスブックレット」の点字/拡大文字版のものを御用意しております。こちらも、希望する自治体に販売提供しております。
 また、絵本につきましては、文字に点字がついていて、絵の部分も触って楽しめるようになっている「てんじつきさわるえほん」というものが、今、市販で流通するようになってきておりますので、ブックスタートで自治体に提供している絵本タイトルの中にこの「てんじつきさわるえほん」があるものにつきましては、それを自治体に非営利価格で販売提供しております。
 また、そのほかのタイトルにつきましては、大阪のてんやく絵本ふれあい文庫さんに御協力いただいて、手作りの点訳絵本を用意して、交換サービス対応を行っております。実際に、ブックスタートで初めてこのてんやく絵本を手にされて、お子さんと楽しまれたという視覚障害の保護者の方もいらっしゃいました。
 さきにも申し上げましたとおり、このブックスタートでは、自治体の様々な機関が連携しております。それは、全ての赤ちゃんに丁寧にブックスタートを実施するということにとどまらず、子供の成長に応じたその後の活動の充実というものにもつながってきております。
 また、全国では、約7割の自治体で市民の方がこの活動に協力されていらっしゃいます。近年では、ブックスタートを受けられた保護者の方がボランティアとして事業に協力されているという事例も増えてきております。これは、ブックスタートを受けて楽しかったという記憶が保護者の方に残っていらっしゃったからこそ起きていることではないかなと考えております。こうした中で、地域全体で子育てを応援しているというメッセージが親子に届けられているかなと感じております。
 一つ、最近の動きを御紹介いたします。このところ、授業や学校図書館など、学校教育の場でブックスタートを紹介する動きも出てきております。こちらの写真は共に中学校での様子になるんですけれども、中学生ともなりますと、あと数年もすれば親になる人も出てくるかもしれないという中で、現場の先生方は、絵本というものがコミュニケーションツールになるということを知って、将来子供と心を通わせられる大人になってほしいという期待から、こういった取組をされていらっしゃいます。
 このブックスタートでは、share books、つまりは誰かと一緒に絵本を開く楽しさを共有するということが大切にされてきました。この楽しさというものが生涯にわたり読書に親しむ原動力になるのではないかなと考えております。これは、今回の議論の中でも土台となる大切なポイントになるのではないかなと思っております。
 こちらからは以上となります。貴重なお時間をどうもありがとうございました。
【秋田座長】  どうもありがとうございました。
 それでは、野口委員と白井委員及び三上様の御説明に関しまして、御質問、御意見をいただきたいと思います。御質問、御意見のある方は、どうぞ挙手ボタンを押してください。事務局のほう、よろしくお願いいたします。
【工藤専門官】  事務局です。稲井委員がお手を挙げられております。
【秋田座長】  お願いいたします。
【稲井委員】  まず野口委員に御質問なんですが、今の御説明で、特別支援学校の学校図書館の現状に大変愕然といたしましたけれども、都道府県立の学校などでは学級数によって予算配分が行われることが多いかと思うんですけれども、このように予算や蔵書数が少ない状況というのは、そもそも教育委員会から配分される予算の問題なのか、それとも、学校長が自律的に全体の予算の中から学校図書館に割り当てることも可能かと思うんですが、学校図書館のほうが後回しになってしまうのか、実際に調査に当たられた実感でも結構でございますので、御教示いただければと思います。
 ブックスタートに関しましては、スライドを拝見したところ、ちょっと母親の写真などが多くて、あまり父親の写真がなかったんですけれども、多様性といいますか、男女平等の中で、父親の関わりなどは一体どうなっているのかなということをちょっと教えていただければと思います。
 以上でございます。
【秋田座長】  それぞれ、お願いいたします。まず、では野口委員からお願いします。
【野口委員】  ありがとうございました。この予算に関しては、まさに今、稲井委員がおっしゃったとおりで、両者あると思います。特に後者の校長先生がどこに予算を配分するかというところでは、読書活動とか学校図書館活動に熱心な校長先生の支援学校ですと、それらに比較的予算を付けるようにするんですけれども、そうでなかったりすると、やはり厳しい状況になってしまう。これは、支援学校だけではなくて小・中・高校にもある種共通した課題かもしれません。
 以上です。
【秋田座長】  お願いします。
【白井委員】  ブックスタートにおけるお父さんの参加なんですけれども、活動が始まりました2001年の頃は、確かに少なかったんです。その後急速に世の中が変わっていきまして、その頃から「イクメン」というような言葉も出始めて、それから読み聞かせにお父さんが加わることでいろいろバラエティーが出て、子供も喜ぶということが分かって、お父さんも育児に参加する一つの分野ということがだんだん定着してきまして、2007~2008年ぐらいからはもうかなり、ブックスタートの実際の会場でも、乳幼児健診にお父さんが現れることがだんだん多くなりました。
 先ほど紹介した写真では少しお父さんの写真がなかったんですけれども、実はこの20年でお父さんの参加が非常に増えて、読み聞かせがお父さんのレパートリーのうちの一つになったということは言えると思います。
【秋田座長】  どうもありがとうございます。
 それでは続いて、ほかの委員の先生方からも挙手をお願いします。事務局、お願いします。
【工藤専門官】  事務局です。設楽委員、次に桑原委員のお手が挙がっていますので、お願いしたいと思います。
【設楽委員】  全国学校図書館協議会の設楽です。よろしくお願いいたします。
 特別支援学校、それからブックスタートのご発表、ありがとうございました。
 まず野口先生に質問させていただきます。野口先生は、紙とかデジタルというメディアの違いではなく、それぞれの内容、つまりコンテンツが大切だというお話をされていたかと思います。その中で、特にマルチメディアデイジーは、一般的には特別支援学校の子供たちが使うと考えられているように思われがちですが、読解力の向上ということを考えますと、普通学級に通っている子供たちにも、マルチメディアデイジーの効用といいますか、読みを支援するという面で、もっともっとマルチメディアデイジーの機能を活かしたコンテンツを充実していくことが大切ではないかなと思います。このことについて野口先生のお考えをお聞かせください。
 次に、ブックスタートのご発表についての質問です。ブックスタートが全国各地で実施され、非常に盛んになってきたと聞いています。一方、小学校1年生ショックがあるようです。小学校に入ると学校図書館がありますが、そこで本を借りて読むことができないといった現象です。小学校1年生に入る前に、ブックスタートの次に子供たちに本を届けるというような第2次、第3次の活動の現状についてお聞かせいただければと思います。
 この2点です。以上です。
【秋田座長】  それでは、それぞれの委員、お願いいたします。
【野口委員】  では、まず野口から。御質問ありがとうございます。マルチメディアデイジーに関してなんですけれども、まさに設楽委員がおっしゃった効果はあるんですけれども、現状、作られているマルチメディアデイジーが、先ほども御紹介した著作権法37条に基づく複製で作られているんです。この37条での複製で提供できる対象者は、視覚障害者等、もう少し厳密に言いますと、視覚による表現の認識が困難な人に限られています。ですので、支援が必要な子供たちには提供できるんですけれども、そうでない子供たちには提供できないんです。
 ではそうでない人たちにも手渡すにはどうしたらいいかというと、恐らく民間出版社が出してくれれば、それが一番誰にでも手渡せる方法なんだと思います。その場合は、マルチメディアデイジーというスタイルよりは、読み上げができたりとか、拡大ができたり、反転機能がついているとか、そういったアクセシブルな電子書籍コンテンツを増やしていくということになると思います。そうすることで、マルチメディアデイジーに相当するような電子書籍コンテンツを多くの人が利用できるようになっていくのはないかなと思います。出版社に対して、子供向けのアクセシブルな電子書籍コンテンツを増やしていくように働きかけていくことが重要になってくるのかなと思います。
 よろしいでしょうか。
【秋田座長】  ありがとうございます。
【設楽委員】  ありがとうございました。
【秋田座長】  それでは、白井委員、お願いします。
【三上絢子氏(ブックスタート)】  白井に代わりまして、三上からお答えさせていただければと思います。御質問ありがとうございます。赤ちゃんでブックスタートをして、その後のフォローというところになってくるかと思うんですけれども、今、非常にいろいろな地域でいろいろな工夫がされておりまして、赤ちゃん向けのおはなし会とかも本当に各地で行われています。小学校1年生になる前にもいろいろな取組が行われているんですけれども、最近、中にはブックスタートで絵本をお渡しして、再度絵本をプレゼントするというような予算を取って事業を行われている自治体もございます。ブックスタートを実施されている自治体のうちですと、大体1.5割ぐらいでしょうか、15%ぐらいの自治体で、再度何らかの形で絵本をもう一回お渡しするような機会を就学前とかに、就学時というところもあったりしますけれども、お渡しされているような自治体というのも少しずつ増えてきております。
 以上です。
【秋田座長】  ありがとうございます。
 それでは、あと桑原委員と福田委員がお手を挙げてくださっておられますでしょうか。あと、事務局のほうでどなたでしょう、それぞれ意見を伺ってから、まとめて回答いただければと思います、時間の関係で。それでは最初に……。
【工藤専門官】  福田委員の後に、島委員も手を挙げていらっしゃいます。
【秋田座長】  分かりました。では、お三方、お願いしたいと思います。
 それでは、まず桑原委員からお願いいたします。
【桑原委員】  ありがとうございます。私のほうでは、御質問ということよりも、本当にそうだなと共感したということで、感想ということで述べさせていただければと思います。
 野口先生、ブックスタートの皆様方、大変お世話になりまして、ありがとうございました。
 野口先生のほうの資料に対して、今回の御発表の中ではなかったのですが、電子書籍というものに関して、多言語対応可能なものもあるというように、多言語書籍の整備はこれからの時代に本当に課題になってくるのかなと思っています。
 実際に私どもの園にも中国語を母語とする幼児もおりまして、両親が両方とも中国語をお話しされるので、日本語がなかなか通じないという生活を強いられているというのが現状であったりします。そのお子さんに対し、私どもと会話する際に、どうしても通じないときには、翻訳アプリなどを利用しながら話を伝えていくということもしてはおりますけれども、今何をすべきかという、みんなと一緒に行動するというときに、言葉での意思疎通が難しいときこのようなときは、視覚的な情報からというものになってしまうのかなということを考えると、物事を理解していくこの幼児期では、絵本がどれだけ有効かということが理解できるなと思っています。そういった面からも、デジタルとか紙というものにこだわらず、使い方次第で、保護者にとってもこういったものが有益であるということを知らせていく必要もあるなと考えました。
 また、ブックスタートの先生方のお話を基になんですが、ブックスタートで絵本をもらわなければ読み聞かせていなかったかもしれないという保護者の声であったり、読み聞かせを始めるきっかけになったのがブックスタートであるというお声に関して、乳幼児期から子供たちを預かる身としては、私たちもこのきっかけづくりが大切だなと思っています。乳幼児期の子供たちにとって、絵本という遊びのツールを与えてもらわなければ、手にすることができない。その周囲の大人が与えることで初めて手にして興味を持つことから始まるわけで、その大人が絵本のよさを知ることがまずは一つのきっかけになり得るのかなと思っています。成長していく我が子に対して、「このように成長してほしいな」と願う親への啓発と、具体的にどういった働きかけをしていくべきなのか、子供と関わる際にどんな工夫をすることが効果的なのかということを考えることも一つのきっかけになるのかなと感じました。
 以上です。ありがとうございました。
【秋田座長】  ありがとうございます。
 続きまして、福田委員、お願いいたします。
【福田委員】  私のほうからは、野口先生のご発表と、ブックスタートに関するご発表に関連して、具体的な事例を紹介したいと思います。
 マルチメディアデイジーを使って今インクルーシブ教育が進められていますが、サポートが必要な子は、同じ場でマルチメディアデイジーを使って参加するということが進められてきています。こうしたことは、ツールの有無という違いを許容し、また、ツールを活用することで多様な子が参加できるという、よい教育になっていると思っています。
 それから、ブックスタートについては、ブックスタートのおかげで、読み聞かせの大切さが浸透し、子育てに随分役に立ってきていますし、絵本の読み聞かせへの関心もすごく広がってきたと思います。本当にありがとうございます。
 お話にも出てきましたが、3歳児や小学校入学を機に、次のステージを設けている自治体が増えてきました。例えば、私の住んでいる三郷市でも、小学校入学時に本を20冊の中から選んでいただいて、入学後にプレゼントをしています。名称は「ランドセルブックよもよも」となっているんですけれども、その本をプレゼントするときに、公共図書館の利用券がない子には、利用券も作成して手渡しています。このことで初めて「自分の本がある」「もらえた」と喜んでいる児童が存在します。また、もらった利用券を使って、「初めて図書館に連れて行ってもらえた」と喜んでいる子もいます。「誰と行ったの」と言ったら、「お母さんは忙しいからおばあちゃんと行った。図書館ってすごいんだよ」と話してくれた子もいます。
 このように、ブックスタートがどんどん広がっていますが、さらにセカンド、サードのブックスタートがなされていくことが読書推進になっていると思います。これを両方やっている自治体もあります。そういうところが進んでいくと、さらに乳幼児期の読書活動推進がなされるのではないかと思います。
 以上です。
【秋田座長】  ありがとうございます。
 島委員、お願いいたします。これで一応今回は終わりにさせていただきたいと思います。島委員、お願いいたします。
【島委員】  御報告ありがとうございました。野口先生にちょっとお聞きしたいと思いまして発言させていただきます。
 最後に、アナログとデジタルのベストミックスという言葉がありました。先ほど私の前半の発表のところでも、子供が本棚から本を選ぶという話があったり、また発達段階でのという話がありました。そのベストミックスという言葉が、分かりづらいというのが、正直な感想です。乳幼児とか、例えば小学校1年生、2年生で、一人一人にどうベストミックスが成立するのかイメージが湧かないんです。一人一人の子供はそれぞれ違うから、それぞれの媒体を提供するということなら分かるんですけれども、トータルで子供の読書がベストミックスということになると、何か一人の子供が電子書籍と紙の本と両方を読むみたいな感じになると思います。発達段階とか、そういうところとの関係で、このベストミックスというのがちょっと分かりづらいというのが正直な感想よろしくお願いします。
【秋田座長】  ありがとうございます。それでは、今のお三方のを踏まえて、野口委員、それから白井委員、三上さんからお願いします。
【野口委員】  桑原委員、それから福田委員、感想とか、事例を御紹介いただきまして、ありがとうございました。
 それから、今の島委員の御質問なんですけれども、まさに今回そこを皆さんで検討していくという一つのテーマなのかなと思うんです。島さんがおっしゃったように、私の今回の文脈では、特に多様な特性を持っている子たちに、特性に合わせて、どんなメディアが合うのか。まさにそういった意味では、個別にその子に最適なメディアをどう手渡していくのかというときに、紙かデジタルかという二者択一ではなくて、それらをうまく必要に応じて提供できる、そういった環境をどう構築していくのかという文脈でベストミックスという表現を使っていったわけなんです。一方で島さんがおっしゃるように、ではトータルとしてみたときにそれをどういう意味合いで捉えていったらいいのかというところは、まさにみなさんでこれから検討していくべき部分の話なのかなと思います。
 よろしいでしょうか。
【秋田座長】  ありがとうございます。
 それでは、白井委員、三上様、お願いいたします。
【白井委員】  桑原委員からの御質問で、きっかけづくりの際にどういうやり方が親を啓発することになるのかということでもあったかと思いますが、私どもの経験では、それは案外難しいことではなくて、赤ちゃんと一緒に本を広げると、そこに保護者がいると、赤ちゃんの表情に注目するわけです、自分の子供がどう反応するか。ほぼ何らかのリアクションがあって、にこっとすることが多いんです。手を出す子もいれば、ページをめくろうとしたりとか、いろいろな反応があって、それは子供の個性だと思うんです。そういうところに我が子の個性を発見するというところがあったりして、子供をよく観察して、それから絵本から醸し出されるいろいろな雰囲気とか対話が本の大事さをすごく親に分からせてくれると思うんです。それは家に帰ってからでもできますし、何回も繰り返しても行われますし、そういう絵本がもたらす本当にシンプルな効果といいますか、それを私どもは信じております。
 それからもう一つ、福田委員がおっしゃっていましたように、このブックスタートでいいきっかけがつくられて、その後にいろいろな地域での活動が始まると思うんです。2回目、それから3回目の絵本の手渡しを行うところもありますし、その際に公共図書館が関わったり、あるいは地元の書店さんも関わったり。図書券の利用なども、子供にとってはすごく大きな一つのきっかけになると思うんです。自分で行動して、それから図書館で利用したり、あるいは本を親と一緒に購入しに行ったりとか、つまり地域の読書環境といいますか、そういうものがブックスタートから始まってつくられていく。そこに様々な連携が行われていく。それが私どももそういう可能性を感じております。
 以上です。
【秋田座長】  どうもありがとうございました。
 若干時間が私のほうの司会の不手際で延びてしまいましたけれども、本日の会議の終了時間となってきましたので、最後に今後のスケジュール等について事務局から御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【工藤専門官】  事務局でございます。次回の第3回の会議は8月31日の水曜日、時間は16時からを予定しております。
 また、4回目以降の会議の日程等につきましては、資料5にございますので、そちらを御参照ください。よろしくお願いいたします。
 以上です。
【秋田座長】  ありがとうございます。
 それでは、本日はこれで閉会とさせていただきたいと思います。皆様、お忙しいところを御出席いただき、誠にありがとうございました。御礼を申し上げます。どうもありがとうございます。
―― 了 ――

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