令和7年10月22日(水曜日)13時~15時
文部科学省内及びオンライン
議題1:令和7年度成年年齢引き下げを踏まえた効果的な消費者教育実践モデル構築事業
事務局より事業の説明を行った後、株式会社a.schoolより御説明いただいた。説明及び委員からの意見等は以下のとおり。
【株式会社a.school】 本事業では、インターネットでの購入トラブルをテーマとした中高生向けのゲーミフィケーション教材の開発を行っている。背景として、中高生がインターネット上で商品やサービスを購入することが日常化しており、特にスマートフォンを通じて手軽に利用できることから、周囲の大人がその実態を把握しづらい状況にある。また、中高生自身も購入に関する十分なリテラシーを備えているとは言いがたく、経験不足からトラブルに巻き込まれたり、相談しづらい状況に置かれたりすることで、問題が深刻化するケースが多く見られる。
こうした状況を踏まえ、本教材では、中高生が自ら消費者リテラシーを高め、トラブルの予防・回避、早期発見および相談・解決ができるよう支援する教育プログラムの開発を目的としている。
特に今回は「ゲーミフィケーション」を取り入れた教材としている。社会問題への関心が低い、または理解が難しいと感じる層ほどトラブル被害を受けやすい傾向にある。そのため、誰もが関心を持ちやすい「ゲーム」を入口とし、楽しみながら学べる構成とすることで、効果的な学習を促すことを意図している。単なる娯楽で終わらず、体験を通じて主体的に理解を深められる教材を目指して開発を進めている。
プログラムは1コマ(50分)完結型で、学校現場で教員が自ら実施できる形式としている。教材および運営ガイド等は弊社で開発・提供する。授業の前半(約20分)は、シミュレーション型のゲームを実施する。生徒自身がトラブルに巻き込まれる状況を疑似体験し、選択や判断を重ねることで学ぶ構成とする。誤った判断をすると被害が拡大する一方、適切な判断により問題を解決できるなど、リアリティのある展開を通じて理解を深めることを狙いとしている。
ゲーム終了後は、なぜトラブルが発生するのか、なぜ誤った判断をしてしまうのかといった点を、クイズやスライドを用いて学ぶ。だまされる心理や問題行動の背景を、できるだけ平易な言葉で整理しながら伝える構成とする。また、聞くだけでは記憶に残りにくいため、対話や思考を通じて理解を深められるよう、後半のクイズ・解説パートでは生徒同士の対話を取り入れる予定である。最後には、学んだ内容を踏まえ、どのようなトラブルに巻き込まれやすいか、今後どのような点に注意すべきかを自分事として考え、行動指針を定めて授業を締めくくる構成としている。
教材内で扱う消費者トラブルは、全てを網羅することは難しいため、中高生が巻き込まれやすい代表的な3種類 1.フィッシング詐欺、2.美容サービスにおける高額請求、3.フリマアプリの取引トラブル を選定した。また、金融リテラシーに関する要素(ゲーム内課金や投資関連など)は、クイズパートで補足的に取り扱う予定である。
いずれのトラブルも、スマートフォンやSNSが接点となっている点が重要であり、実際に本物そっくりのサイトや広告表現を見抜けず、誤った理解や行動をしてしまうケースが多い。教材では、そうした誤認を防ぐための「気づき」を促す設計としている。
教材のイメージとしては、キャラクターが登場するゲーム画面を通じてリアリティを演出し、その後にクイズ・対話・ワークシートを組み合わせる構成である。制作にあたっては、消費生活センターへのヒアリングを実施し、専門的な知見を反映している。同センターからは、「中高生の消費者トラブルの大半はゲーム課金とネット購入に関するものであり、本教材の方向性は妥当である」との意見を得た。また、心理的・経験的未熟さがだまされる要因であるとの指摘を踏まえ、その克服を目指す内容としている。
さらに、事業者の典型的な手口を理解することが被害防止につながるとの観点から、証拠を残させないようにする行為や、記録を残す重要性についても学べる構成とした。中高生は日常的にスクリーンショットなどで記録を残す習慣があるため、その行動を肯定的に活用し、トラブル時にも証拠を残す意識を育むことを狙いとしている。
また、「未成年だから守られる」といった誤解を正し、契約上のリスクを正しく理解することも重視している。加えて、相談の習慣化、小さな失敗体験の重要性など、実際の教育現場で求められる観点も取り入れる。特に、電子マネーやクレジットカードなど「見えないお金」の利用が進む中で、金銭感覚の希薄化を防ぐことの必要性が指摘されている。ゲームを通じて「小さな失敗体験」を安全に経験できる構成とすることで、現実のトラブル予防につなげたいと考えている。
監修者として、秋田大学教育文化学部の堀江准教授(家庭科教育専門)に参画いただいている。堀江准教授からは、「ゲームを活用すること自体は有効であるが、楽しいだけで終わらないようバランス設計が重要である」「知識の一方的な伝達ではなく、対話を通じた学びが有効である」との助言を得ている。また、羞恥心や不安から友人・家族に相談できず問題が深刻化する実態を踏まえ、「気軽に相談してよい」というメッセージを含めることの重要性も指摘されている。
現在、教材は制作中であり、11月末までにゲーム、スライド、ワークシート、運営ガイド等の基本パッケージを完成させる予定である。12月から翌年1月にかけて学校現場での実証を行い、その結果を基に教材の改善を図る。また、アンケート調査等を通じて効果を検証し、分析結果を今後の教材開発に生かしていく予定である。
【上村委員長】 1点確認だが、お話されていた「消費者教育センター」は「消費者教育支援センター」とは別の団体か。
【株式会社a.school】 大阪府の高槻市立消費生活センター。
【あんびる委員】 ターゲット層に沿った形で、現在、実証校の調整を行っているのか。
【株式会社a.school】 そのとおりである。まだ確定していないが、実証は幅広く実施する予定である。ターゲット以外の学校も含めて実施するが、ターゲット層を含む学校を必ず対象に含めたいと考えている。
【あんびる委員】 効果測定の際には、学校の背景なども含めて整理しておくと、より分かりやすくなると思う。また、ターゲット層を想定した場合、発問の工夫が極めて重要であると考える。ワークの時間の「問いかけ」はもちろん、とりわけ10分の振り返りの時間での発問が重要である。この発問が、ターゲット層にとってやや難しい印象を受けた。ここを工夫されると、より良い教材になると考える。
【株式会社a.school】 先生方向けのガイドにおいて、問いの例ややり取りのイメージなどを提示し、実践に生かしていただけるようにしたい。
【柿野委員】 導入段階でプログラムの狙いを明確にし、その上で発問を設定してからゲームを進める構成が望ましいのではないか。
【あんびる委員】 学習指導案を念頭に、学習活動の流れを整理するとよい。導入で狙いを確認し、展開でゲームやクイズを行い、最後に振り返りを行う構成となるだろう。この各段階で適切な発問を設定することで、生徒の理解が深まると考える。
【白上委員】 授業を行う際には、先生方が日頃接している生徒の実態をどれほど理解しているかが重要である。授業の狙いや目的を明確にし、まずは生徒の経験や認識を把握する時間を設ける必要がある。例えば、「トラブルに遭ったことがある人」「見聞きしたことがある人」などを尋ね、クラスの状況を把握した上で授業を進めると、単なるゲーム体験ではなく、現実感を持った深い対話へとつながるのではないか。。
【株式会社a.school】 先生方が生徒の状況を把握した上で授業を行うことは非常に意義深い。一方で、インターネットトラブルの経験を尋ねた際に、生徒が率直に回答できるかどうかは、クラスの心理的安全性や学校文化にも左右される。この点を踏まえ、現状把握の方法やアプローチについて検討したい。
【須黒委員】 ターゲット層には、特別支援学校も含めるのか。
【株式会社a.school】 本教材は現時点では普通学校を主な対象としている。特別な配慮を要する教材設計には追加の検討が必要であり、今年度内に対応することは難しいが、今後の課題としたい。
【須黒委員】 ターゲットとしている「社会問題への関心が薄い層」や「学力・思考力の面で構造理解が難しい層」層をどのように選定するのか。
【株式会社a.school】 学力面については、偏差値や進学率などの指標で一定程度把握可能である。社会問題への関心の度合いについては、学校へのヒアリングを通じて把握する。
【須黒委員】 教材の中で決済方法に関する内容も扱うのか。
【株式会社a.school】 クレジットカードを用いた支払いに関しては取り上げる予定である。未成年が保護者のカードを使用して購入した場合、契約違反となり、補償が受けられないケースが多い。そうしたリスクを明確に伝える教材としたい。
【神山委員】 中高生が利用する場合、保護者のクレジットカードを使用することは問題となる可能性がある。実際に中高生が利用している支払手段について、消費生活センター等への確認を経て再検討していただきたい。支払方法が現実的でないと、子供たちはリアルな体験として受け止めにくく、単なる娯楽的な内容に終わるおそれがある。
例えば、保護者のクレジットカードを使用した場合に生じるトラブルや責任なども、中学生には教育的な要素となるだろう。また、高校生であれば18歳以降にクレジットカードを取得可能であることを踏まえ、その段階での利用を想定した学習設計も考えられる。
【株式会社a.school】 実は、当初の設計では、フィッシング詐欺の場面でクレジットカード番号を入力してしまい、個人情報流出につながるケースを提示する構想であった。
しかし、監修者の先生方から「保護者のクレジットカードを使う行為自体が不適切であり、教材内で扱うべきではない」との意見をいただいた。そのため、現在はゲーム内では扱わず、解説文において「実際にはこうしたトラブルがある」という形で触れる方向で検討している。
【神山委員】 例えば、対象を「現実の中高生」ではなく、「将来、クレジットカードを利用できる大人になった自分」とすることで、教育的に扱いやすくなるのではないか。18歳以降の適切なカード利用にもつながると思うので、御検討をお願いしたい。
【樋口委員】 実施の授業時間帯について確認したい。家庭科の授業内で実施することを想定されているのかと思うが、一方で特別活動(ホームルーム等)の時間で実施すれば、汎用性・展開性が高まるのではないかと考える。
【大久保委員】 総務省が高校1年生を対象に実施したインターネット調査によれば、不正取引や電子商取引に関するリテラシーが、プライバシーや誹謗中傷に関する理解に比べて低いという結果が出ている。私たちは現金を使う世代であり、その延長でデジタル決済を捉えているが、現在の高校生の中には紙幣にほとんど触れず、スマートフォン決済が日常という者も多い。大人の見立てと子供たちの感覚には差がある可能性があるため、当事者である生徒たちの視点を取り入れることで、教材の実効性がさらに高まると考える。
【島田委員】 資料5ページの「振り返り」パートのワークシートを見ると、授業の中で3テーマのゲームを一通り行う想定のように見受けられる。しかし、全てを実施するのは時間的に難しく、通り一遍の浅い授業になるおそれがある。したがって、教員がテーマを取捨選択できるよう、柔軟に対応可能な設計とすることを提案する。
また、高校生の場合は「なぜだまされるのか」という深い考察を促す学習が重要である。
中学生用と高校生用で授業案を分けるなど、年代別に対応できる構成とすることが望ましいと考える。
【松葉口委員】 本モデル事業は「効果的な」という語を冠していることから、効果測定の方法が重要である。資料の最終ページに効果測定の項目があるが、具体的な測定方法を今後明確にしていただきたい。
また、教科横断的・特別活動的に扱うことにより、総合的な学習への展開が可能になる。この教材を入口として、児童生徒が自ら調査・情報収集・発信を行う「探究のループ」へと発展させる構成が望ましい。
議題2:令和7年度消費者教育フェスタについて
事務局より事業の説明を行った後、奈良国立大学機構奈良女子大学、公益財団法人消費者教育センターより御説明いただいた。説明及び委員からの意見等は以下のとおり。
【河村男女共同参画共生社会学習・安全課課長補佐】 消費者教育フェスタにつきましては、今回、奈良女子大学及び消費者教育支援センターにそれぞれ事業を委託し、実施をお願いすることとしている。
【奈良国立大学機構奈良女子大学】 タイトルは「若者が起点となりすべての世代をつなぐインクルーシブな消費者教育の豊かなつながりを求めて-大学生による『共に学ぶ』消費者教育プロジェクトを全国へ―」とした。本事業は学生が中心となることを最大の特徴として実施しており、今回のフェスタも学生の活躍を重視して企画している。
日時は12月6日午後13時から16時45分、奈良公園内春日野国際フォーラム甍にて実施する。主催は文科省及び奈良女子大学、共催は奈良県、後援は消費者庁ほか複数機関に現在手続中である。想定来場者は対面100名、オンライン200名を目標としている。
主催者挨拶は当機構理事長榊裕之が行う。行政説明は文科省及び消費者庁から各5分程度実施する。上村先生には、主催者挨拶を兼ねて奈良女子大学の取組について趣旨説明をお願いする。
基調講演(30分)は大阪教育大学大本久美子教授による「ウェルビーイングの視点から考える消費者市民教育」とする。ウェルビーイングの観点から、消費者市民教育のあり方について示唆を得ることを目的とする。
パネルディスカッション「若者が繋げる地域連携とインクルーシブな多世代型消費者教育モデルの構築へ向けて」では、奈良県のNPO、行政、大学、教育機関の連携事例を紹介し、連携の特徴やシナジーを抽出する。パネリストにはNPO理事長で弁護士の北條正崇氏、県消費生活センター神澤氏、市町村担当者福山氏、奈良教育大学村上先生及び松浦先生、BEACS学生等が参加する。
ポスターセッションは奈良県消費生活センター担当により18団体を予定し、来場者間の自由交流を兼ねる。オンライン参加者にはパネルディスカッションまで同時配信を行い、全体映像は収録する。
ワークショップ「エデュテイメント消費者教育に挑戦! ゲームを作ってみよう」では、学生の自由な発想による未完成ゲームを用意し、参加者が完成させる体験を通じて消費者教育に関する理解を深める。ワークショップ終了後、上村先生による総評をもって閉会する予定である。
インクルーシブの概念は、地域格差や世代間の差異、特性を持つ参加者への包摂を含むものである。パネルディスカッションでは、参加者が楽しみつつ学べる場の提示を目指す。
【上村委員長】 奈良女子大学の大塚先生やBEACS の学生さんたちが、令和5年度と令和6年度の2年間にわたってモデル事業をお引き受けくださり、その成果をフェスタで発表いただけることはに感謝したい。パネルディスカッションに登壇する奈良教育大学の村上先生は、2015年に文部科学省の講堂で消費者教育フェスタを行った際に、茨城県立神栖高等学校の家庭科教員として登壇していた先生である。村上先生が、立場を変えて消費者教育フェスタに登壇くださることは嬉しい。
【島田委員】 ワークショップにおけるゲーム制作は、ゲーム内の単一のコマの内容をどうするかの議論に留めず、参加者が持ち寄る知見で教材を拡張する形も考慮すべきである。
【あんびる委員】 ポスターセッションにおいて、モデル構築事業の紹介や相談ブースを設置する予定はあるか。
【大谷係員】 文部科学省ブースにおいて、取組内容を紹介しつつ、言及できるような形でブースを構築する予定である。
【上村委員長】 以前、モデル構築事業を受託していた株式会社omochiさんも、ブースを出展予定だと聞いた。次年度のモデル構築事業に興味・関心をお持ちの方にぜひ参加いただき、情報交換されることを期待している。
【奈良国立大学機構奈良女子大学】 ポスターは18団体まで予定で、文科省からの5団体に加え、近畿財務局奈良事務所、公正取引委員会近畿中国四国事務所、大学生協SDGs関連の出展を検討している。文科省と奈良県消費生活センターで調整中である。
【消費者教育支援センター】 昨年埼玉で金融に関するフェスタを企画した。今回は、金融経済教育と消費者教育の関係性に注目し、「消費者教育と金融経済教育でつなぐお金の学び」というテーマを設定し、栃木県金融広報委員会と連携して企画している。
プログラムは、開会挨拶後に基調講演「未来をつくるお金の学び」、次に文科省、消費者庁、J-FLECによる取組紹介、地方自治体として栃木県の阿久澤氏から事例紹介を行う。教材体験では参加者を小学生に見立て、グループに分かれて体験する。全員参加が困難な場合は、半数が体験、半数が観察し、学びを共有する形式とする。最後に上村先生による講評で終了する。
参加申込状況は一般30名、団体17団体、ライブ配信60名程度、登壇者及び団体参加者を含め80名程度である。
【あんびる委員】 全体の流れは適切であると考えられる。しかし、平日昼間の開催であり、一般の参加者が30名程度に留まっていることから、今後、参加人数をどのように拡大するかが課題である。また、金融経済教育は年齢層により求めるものや、目的が大きくことあるため、グループディスカッションはやや困難を伴う可能性がある。
一案として、対象年齢ごとにグループを分ける方が、議論は円滑に進むと考えられる。
【柿野委員】 申込時点で参加者の詳細を把握していないため、現時点で聞くことは困難である。しかし、あんびる委員の指摘は重要であり、金融経済教育の対象を初期段階で明確化し、グループで調整しながら実施することは可能であると考える。
【萩原委員】 「未来をつくる」とのタイトルであるため、高齢者は参加対象外であると捉えられる。しかし、全国老人クラブ等に働きかけると、若い世代も含め学習の機会が広がる可能性がある。高齢者は人生100年時代において、孫世代を考慮した学習意欲が高く、経済的資源も豊富であることから、参加者を増やす点で重要である。全国老人クラブの本部や各県にも連絡可能である。
【白上委員】 地方都市では祖父母の存在が身近で、進路選択などにも影響を及ぼす場合がある。祖父母層に対する知識・理解を促すことは、教育効果を拡大する上で非常に意義深い。
【消費者教育支援センター】 下野新聞の広告原稿を校正中なので、高齢者の参加を促す方向で調整していく。
【島田委員】 地方開催においては、地域の事業者に資金が回る仕組みを考慮することも金融経済教育の重要な観点であることを踏まえ、関係機関への働きかけを進めるべき。
男女共同参画共生社会学習・安全課
消費者教育推進係
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