資料4.「国民の読書推進に関する協力者会議」報告書素案(「はじめに」「第1章」)

はじめに

 読書のもたらす恩恵は、知的で心豊かな国民生活と活力ある社会の実現に欠くことのできないものである。
 読書をめぐっては、平成13年に「子どもの読書活動の推進に関する法律」が、また、平成17年には「文字・活字文化振興法」が制定されるとともに、平成19年の「学校教育法」の一部改正において、義務教育の目標に関する規定に「読書に親しませ、」との文言が新たに盛り込まれるなど、近年、その重要性に関する社会的意識が高まってきている。
 このような中、平成20年6月の国会決議により、平成22年を「国民読書年」とすることが定められた。決議では、読書推進に向けた気運を高めていくため、政官民が協力し、国をあげてあらゆる努力を重ねていくことが宣言され、図書館をはじめ、さまざまな場所で、国民読書年にちなんだ行事や取組が推進されることとなった。
 本協力者会議は、こうした国民読書年の取組の一環として、今日の国民の読書や読書環境に関する現状や課題を把握・分析し、読書への国民の意識を高める効果的かつ効率的な取組の検討を行うため、文部科学省生涯学習政策局に設置されたものである。
 平成22年7月の設置以降、読書をめぐる様々な論点に関し、本協力者会議委員や外部有識者からの意見発表も踏まえながら 回にわたって議論を重ねてきた。その中で、単に本を読むだけの読書ではなく、本を選ぶ、勧める、読み合う、本を並べる、贈り合うといった、いわば、「共読」にまで視野を広げて捉えることの必要性についても認識を共有した。
 議論の過程で、我が国社会は、平成23年3月11日の東日本大震災を経験することとなった。この未曾有の災害を受けて、今我々は、人としていかに生きるか、どのようにして社会を再生するのかといったかつてない大きな課題に直面している。この危機的な状況から立ち上がり、新しい未来を築いていく力を得るために、我々はもう一度先人の遺してくれた知恵の結晶である書物に立ち返る必要があるのではないか。このような時だからこそ、すべての人に読書が必要であるとの認識のもと、この報告書をとりまとめた。
 本報告が、国民読書年の精神を更に発展させ、我が国における読書活動の一層の振興を図るための、また、新たな共読社会のための、ひいては、我が国社会再生の基盤づくりに向けての一助となることを切に願っている。

1 なぜ今読書推進が必要なのか

 読書は、人に知識を与えるとともに、想像力や思考力を鍛え、判断力や創造性を培い、個人の自立の基盤をつくる。技術の発展により、生活全般が非常に便利で快適なものとなり、何事もが人為的に制御可能で予測可能な方向へと向かう中にあって、読書は、いわば数少ない「未知との遭遇」の場である。それは、先人とのコミュニケーションの場であり、未知の世界への道案内となり、また、悩みの解決へのヒントを示唆し、自分の頭で徹底的に考え抜く訓練の機会を与え、個人の内面を広げ、深めてくれる。本を読むことで我々は先人の知を吸収し、人生をより厚く、深く生きることができる。
 また、読書は社会とも密接な関係にある。社会は、人が人とつながり、ともに支え合うことで成り立っている。他者との関係を築き、自ら納得のできる幸福な人生を切り拓いていく上で不可欠なのは言葉であり、より豊かな言葉やイメージによるコミュニケーションの力を養ってくれるのは読書である。21世紀の社会は、自ら考え判断できる個人の連帯により支えられるものであり、そうした個人と共同性の育成のために、読書は欠くことできないものである。
 特に近年、様々な社会的課題を「官」だけに任せるのではなく、国民、企業やNPO等の事業体など社会の様々な当事者が自発的に協働し、解決する「新しい公共」の実現が求められるようになる中で、一人一人に、自立し、かつ他者と協働しつつ、「新しい公共」を担っていく力を育てることが求められている。そうした力は、様々な考え方に触れる中で、健全な批判的精神を身に付けながら養われるものであり、読書はその重要な修練の場となる。また、実際の課題解決に当たっては、課題に係る専門的知識・技術やノウハウの習得が必要であり、読書はその獲得の主要な手段となるべきものである。
 いつの時代も、先人の知恵の多くは読書を通じて継承され、さらに発展させられてきた。特に、知識が社会・経済の発展を駆動する「知識基盤社会」が到来する中で、個々人の「知」の総和こそがその国の力であり、国の在り方自体も規定するようになっている。読書は、個人が自己の能力を磨き、生活や職業に必要な知識・技術等を生涯にわたって継続的に習得するとともに、社会が新しい価値を創造することを可能にするための不可欠の国のインフラと位置付けられるべきである。
 さらに、読むことは、それ自体が人に大きな喜びを与えてくれる。子どもの頃に絵本を読んでもらった幸せな記憶は次世代を慈しむ心を育て、共通の本について語りあう「共読」経験は人の気持ちを結びつける。高齢期の読書はその日々の生活の質を高める。読書は、いずれの世代にとっても、かけがえのない人生への贈り物である。
 平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う未曾有の災害は、我が国社会に計り知れない打撃を与えるとともに、多くの人生を大きく変えることとなった。今、我が国全体が大きな悲しみと喪失感の中にある。しかしながら、我々は、この危機的な状況の中から立ち上がり、もう一度未来を創造していく力を持たなければならない。
 その際、目指すべき社会観や幸福観、科学技術と自然との調和についての考え方は、従前のそれから大きな変更を余儀なくされることにもなろう。どう生きるのか、どんな社会を目指すのか。その問いに対する答えを探すために、今ほど一人一人に、また社会全体に読書が求められている時代はないと考える。

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