資料1. 国民の読書推進に関する協力者会議(第4回)議事概要(案)

1.日時

平成23年1月14日(金曜日)
13時30分から16時00分

2.場所

文部科学省16階特別会議室

3.出席者

【委員】 福原座長、肥田副座長、秋田委員、磯崎委員、小田委員、織茂委員、鎌田委員、
岸委員、きむら委員、堀委員、溝口委員、山田委員、横田委員

【意見発表者】
和洋女子大学教授 鈴木みゆき氏
児童書を楽しむ会つくしんぼ代表 山田節子氏

4.議事要旨

(1)議題1 意見発表「就学前の読書環境づくり」

1.服部男女共同参画学習課家庭教育支援室長より施策説明

家庭教育とは全ての教育の原点であり、子どもの豊かな情操や基本的な生活習慣等を身につける上で重要な役割を担うものである。家庭教育の担い手は保護者であることを前提に、行政は、保護者が自主性を持って家庭教育を行うことを支援するための政策を講じている。家庭教育手帳は子育てのヒント集であり、乳幼児編では、少ない時間でも毎日本を読み聞かせをしたり、読み聞かせ会に参加しましょうといったことが書かれている。また、小学校低中学年編では、例えば食事の時間と同様に読書の時間を設ける、あるいは親子で図書館に行くなど、親子一緒に本を読むことが大事だと書かれている。また、読書を通じて子どもが感じたり考えたりしたことについて話し合ったり、親子の会話をしたら良いということも書かれている。全国各地で家庭教育支援チームが形成されており、現在133チームある。様々な活動をしている中で、読書や読み聞かせも行われている。また、家庭教育の一環として実施している「早寝早起き朝ごはん運動」では、就寝時間をいかに早めるかが課題となっているが、入眠儀式、あるいは親子のふれあい1つとして、夜寝る前に読み聞かせをすることも奨励している。

2.大木参事官(青少年健全育成担当)より施策説明

「子どもの読書活動の推進に関する基本計画」において、家庭教育の中で就学前の読書活動を支援していくことが位置付けられている。主に保護者、幼稚園・保育所の先生等に対する普及啓発が非常に重要である。毎年4月23日は子ども読書の日であり、文科省でフォーラムを実施するほか、全国各地で自治体や団体が様々なイベント活動を行い、この日を盛り上げている。また、「子ども読書の情報館」というホームページを作成し、保護者や幼稚園、保育所の先生方、あるいは読み聞かせをされるボランティアの方々に様々な情報を提供している。乳幼児期の読書の意義や読み聞かせをする際のポイントなどについての資料を現在作成しており、出来上がったら、このホームページにアップする予定。また、子ども夢基金でボランティア団体の助成を行っているが、読書の分野は官民共同でやっていくことが重要であり、ボランティア活動を応援するような政策を講じていきたい。

<文科省からの説明に対する質疑応答>

委員:「早寝早起き朝ごはん」と同じような読書の言葉を探している。この会議が終了するまでには、いい文章を是非みんなで考えたいと思う。

大木参事官:参考までに、国立青少年教育振興機構では、「早寝早起き朝ごはん、読書手伝い外遊び」とPRしている。

委員:家庭教育手帳の小学校低中学年編では、「1人で子どもが本を読む、親が読む姿を見せる」となっているが、乳幼児期で親が読み聞かせを辞めてしまうのではなく、小学校低学年においても継続的に行うことが重要ではないかと言われており、今後改正があれば修正していただきたい。

服部室長:家庭教育手帳は、印刷物としての配付は昨年版で最後だが、昨年配付したCD-ROM 版については部分差し替えが可能なので、早速確認して、必要があればできるだけ早く修正したい。

委員:勧めている活動を実践できている家庭はほんの一部であり、多くの子どもは放ったらかしにされていると思う。実際にどのくらい達成されているのか。

服部室長:家庭における読書や読み聞かせがどの程度行われているかというデータは無いと思う。家庭の教育力が低下していると思うか一般に聞いてみたところ、6割の人が低下してきていると回答したというデータもある。

委員:子どもが放ったらかしにされている家庭をいかに救い上げるかが問題である。行政でどのように継続的にフォローしていくのか。

服部室長:家庭教育や子育てに無関心、あるいはやり方がわからないという保護者や、核家族で近所からも孤立してしまっている家庭を家庭教育という面から支えるため、家庭教育支援チームの活動を推進している。既に全国各地でチームができており、これらの活動を応援している。

3.和洋女子大学教授 鈴木みゆき氏より、「絵本と子ども 就学前に必要なこと」について、資料に基づいて意見発表

○2009年に、平先生(現東京医科歯科大学教授)が、子どもに読み聞かせをした時に脳のどの部分が動いているのかという研究結果を発表された。前頭前野の部分が動いているだろうと仮説を立てていたが、実はそうではなく、情動や記憶を司っている大脳辺縁系が非常に活発に活動していた。つまり、心に響いているということがわかった。これは非常に新しい発見だったと言われている。一方、読み聞かせをしている保護者の脳は、コミュニケーションを取ろうとする前頭の連合野という部分が活発に動いていることがわかった。つまり、読み聞かせでは、読んでいる側も読んでもらっている側も脳が動いていることがわかった。

○次に保育の場での調査結果について、3歳から5歳、1071人のアンケート調査したところ、寝る前に絵本を読んでいる家庭は限られており、読んでいる家庭では読んでいるが、読まない家庭では全く読んでおらず、両極端であった。子守唄にいたっては、ほとんど行われていなかった。「早寝早起き朝ごはん運動」の委託調査研究で、保育の場において語彙の発達検査をし、併せて子どもの寝る時刻も調査したところ、言葉の発達は、早寝の子ども達のほうが遅寝の子ども達よりも早いということがわかった。知識、理解力、集中力、思考力、表現力、コミュニケーションといった様々な力というのは、環境の中で、体験を通して身につくものである。保育園児は幼稚園児よりも園で過ごす時間が長く、寝る時間も遅いため、保育園でこそ豊かな言語環境が必要ではないかという提言を行った。

○また、別の調査では、都内で最も生活保護受給率が高いA区において、絵本を何冊持っているかという調査をしたところ、11冊から30冊という中間層が多く、それに次いで10冊以下の家庭が多かった。それに対し、同じ調査を、区の財政としても余裕があり商業地域を抱えているB区で実施したところ、31冊以上持っている家庭が半分以上あった。保護者の経済状況によって、絵本の所持数が変わり、学習雑誌や図鑑でも同様の結果であった。図書館の利用を比較すると、A区では「ほとんど行かない」「行ったことがない」家庭が多いが、B区では月1回、週1回という割合が多い。図書館利用に関しても、保護者の意識がかなり影響しているということがわかる。ここで1番問題にしたいのは、A区の保育園では絵本が買えないこと。区の財政が厳しいため、絵本にお金を投じられない。例えばきむらゆういち先生の絵本はとても人気があり、子どもが引っ張り合いをして破れてしまったが買い換えられず、何度もテープで貼り直して使っている。絵本を貸し出すと園で読む絵本が無くなってしまうという現状である。保護者の経済状況の格差が、財政状況の格差となり、文化や教育にかけられる費用の格差となっている。

○最近、お茶の水女子大学の内田伸子教授が、読み書き能力や語彙力には経済格差要因の影響があるという研究結果を出されている。この研究結果では、リテラシー(読み書き能力)の習得に関しては、経済格差要因の影響は加齢に伴い徐々に見られなくなるが、語彙力では、加齢に伴い影響が顕在化している。ただ、しつけスタイルとして、親子のコミュニケーションが非常に豊かな家庭(共有型のしつけスタイル)では、低収入層であっても語彙能力は低下していかないという研究結果が発表になった。

○財政の格差が教育費の格差となってしまっているのは非常に残念であるが、このような状況の中で、保育や教育に関わる人の研修が大変重要になってくると思う。先生方を見ていて、絵本を子ども達に読み聞かせる時に、例えば先生の背後で人がバタバタ動いていると子ども達が集中できないといった細かい配慮が不足している人も多く、研修が必要であると感じている。また、1冊の絵本を読んで、そこから遊びを深めていくという努力が乏しいと思う場面に出会うこともあるので、多読と共に精読ということで、保育者や教育者の研修が大切なのではないかと思う。

○この意見発表の前に保護者や先生にヒアリングしたところ、コンビニや小中学校の図書室等で図書館の本を返せたらいいという意見があった。ある区では、中央館として大きな図書館を建てて分館を減らした。それまで分館を使っていた人は図書館が遠くなってしまい、とりわけ小さい子ども抱えた人は行けなくなってしまったという現状がある。

○最後に「早寝早起き朝ごはん運動」と絡めると、私たちの体内時計は、放っておくと寝ないというリズムを持っているため、寝るための線引きが大事である。読み聞かせは、「これをやったら寝ようね」という就眠儀式としてとてもいいのではないかと思う。その一方で、忙しくて帰宅の遅いお母さんには、「絵本を読まなきゃ」という脅迫観念になると気持ちが萎えてしまうので、「絵本が読めるわ」くらいが必要なのではないかと思う。

4.児童書を楽しむ会つくしんぼ代表 山田節子氏より、「就学前の読書環境づくり」について、資料に基づいて意見発表

○「絵本の力」というものを、講演で母親たちに伝えている。まず、絵本は、言葉を育む良い道具である。年齢が低ければ低いほど関わる大人の数が少ないので、耳にする言葉や語彙が少ない。そんな中、子育てに絵本を取り入れることで、絵本の中にちりばめられている美しい日本語を、お勉強ではなく、楽しみながら獲得することができる。クィンカーの『大きなかぶ』では、おじいさんがかぶを掘っていて、甘い甘いかぶになれ、大きな大きなかぶになれ、次のページをめくると、とてつもなく大きいかぶができました、となっている。3歳児は「とてつもない」という言葉を知らないが、そこを「すごく大きな」という言葉に変えずに読む。3歳児がその言葉をすぐ使えるわけではないが、そのお話を楽しんだことによって、言葉の引き出しが増え、時間をかけて使えるようになるということである。赤ちゃんのうちから、美しい日本語を、絵本の読み聞かせや絵本を取り入れた子育てを通じて獲得していく意義がある。また、絵本は、感じて楽しむことができる道具でもある。見えないものが見えたり、気配を感じることができ、様々なことを感じて心ごと丸ごと楽しめる時期は、小学校入学頃までである。感じて楽しむことが充分できる乳幼児の時期にたっぷり日本のファンタジーの世界を楽しませてあげたい。さらに、絵本は、温かな肌のぬくもりである。ブックスタートの研修会場でも、ボランティア・先輩ママとして私たちが伝えていることだが、抱っこのあたたかさの中で、お父さんのあぐらの中で、お布団の中での読み聞かせで、絵本という道具を介して子育て、愛しふれあい、言葉のかん養をたっぷりしてほしいと思って活動している。

○次に、ブックスタート事業について説明する。子育てに絵本を取り入れて楽しんでいる親と、そうではない親で2極化しているのは、ブックスタートを行う6ヶ月健診の段階でも如実に現れている。ブックスタート事業は、1992年英国で始まったもので、日本では子ども読書年であった2000年をピークに取り入れられた。英国では、絵本をプレゼントするだけではなく、赤ちゃんと一緒に絵本を開く楽しさを分かち合う、そんなひとときを応援するという取組である。絵本を介して子育てを楽しんでくださいということを届ける事業である。ブックスタート事業の取組は、各自治体自治体によって異なるが、図書館、保健センター、ボランティアの三者協働により、主に6カ月の乳児健診会場で行われている。ブックスタートの良いところは、絵本に興味があったり図書館を利用している保護者だけではなく、全ての保護者にしっかり届けられる点である。鳥取市では、6カ月健診に参加できなかった保護者には、保健師がブックスタートパックを持って家庭訪問するというフォローもしており、全ての保護者に絵本や絵本リストをプレゼントできている。読み聞かせというのは、親子で楽しさを分かち合え、共感体験をもつことができる、とてもいい方法だと思う。共感体験を持つことは子どもの自尊心の形成にも役立つし、子育てに悩んでいる親が子どもを愛おしいと思えるような機会にもなる。絵本を読みながら、自分の子が愛おしいと思える親子の共感体験をたくさん持ってもらいたいと、ブックスタートの事業の時に伝えている。母親だけではなく、父親や祖父母もしてくださいと伝えている。

○次は鳥取県と鳥取市の読書推進について説明する。配布資料(NPOブックスタートからの提供資料)では、都道府県別にブックスタート実施市町村の割合の一覧表をつけている。この資料は、NPOブックスタートを介してブックスタートパックを購入している市町村の割合であり、地元の書店から直接買っている市町村は、この数字には入っていない。例えば鳥取県は実施率84.2%となっているが、実は全市町村で実施している。それでもこの資料を配付したのは、全国で取組状況のばらつき非常に大きく、20%台のところもあれば、84.2%のところもあることを見ていただきたい。ブックスタート事業は、自治体が予算措置をして行うものなので、是非この運動が全国に広まってほしいと思っており、そのことを全国に発信できればと思い紹介した。

○続いて、鳥取県の子ども読書について紹介する。片山前知事が読書に大変力を入れ、現知事も引き続き力を入れている。県立図書館の年間資料費は1億円である。県が実施した子ども読書に関するアンケート調査の結果を配付した。保育所・幼稚園の年長、小学3年・6年、中学3年、高校2年と大学生までアンケートを取ったが、配付資料では公立幼稚園の年長児の保護者のアンケート結果を載せた。結果を見ると、ブックスタート事業で配付された絵本は、ほとんどの家庭で読み聞かせ等に利用されている。読んでいない方に理由を伺ったところ、「子どもが読んでと言わないから」「親自身が読み聞かせをしてもらった経験がないから」という回答であった。小学校までは本好きの子が多いが、年齢が上がると共に読書習慣を手放していってしまう。

○次に、鳥取市の取組について説明する。鳥取市では読書活動推進計画を改定中であり、2月20日からパブリックコメントを募集している。この推進計画の対象は胎児期から18歳以下のすべての子どもである。保健センターが、母子手帳配付時に読み聞かせの大切さを伝えるリーフレットを配ることにより胎児期から読書推進している。鳥取市でアンケート調査をした結果、家庭で読み聞かせする本をどこから入手するかというと、保育園・幼稚園の園文庫から週1回借りるという人が圧倒的に多かった。しかし園文庫はとても狭いスペースに古い本が少しあるだけ。新推進計画には、園文庫の充実と併せて、親子で図書館に行こうということを盛り込んだ。子どもも親も本に親しむ町を目指しているが、中学生のアンケートで「親が本を読んでいる姿を見ますか」と聞いたら、「見る」という回答はとても少なかった。親が本を読んでいる姿を見せていきたい。子どもに対して「本を読むのはいいことだ」と言っても、周りの身近な大人がそのような姿を見せていないというアンケート結果が出たので、子どもも親も本に親しむ暮らしということを進めていこうと、生涯読書の推進にも力を入れている。園文庫で借りるばかりではなく、図書館には園文庫よりはるかにたくさんの数の本が並んでいて、本の専門家である司書がいろんなことを教えてくれる、相談もできるので、是非図書館へ行こう、それから図書館でのルール、マナーというものも小さいうちから教えていこうというのを新推進計画に盛り込む予定である。

○最後に、就学前の読書のこれからということで、ブックスタートが終わってから小学校入学までの間の読書推進も重要ということで、ブックスタートだけでなく、ブックセカンドの事業も全国各地に広めていきたいと思っている。また、公立幼稚園・保育園の文庫の充実について、園と公立図書館が連携し、図書館から園に本や人材を提供するようなシステムが必要だと思っている。それから、生涯を通して本に親しむ暮らしを推進したい。中学3年の家庭科の授業で保育実習があり、事前学習の支援に行っているが、授業の冒頭でたくさんの絵本を並べて「この本知ってる?」と手を挙げさせると、年々手を挙げる子どもが増えている。子ども読書推進は着実に成果を見せており、幼い時に読んでもらう本、読んでもらう人が確実に増えているということを毎年実感している。この授業の後の感想で、小さい頃絵本を読んでもらった時間はとても楽しかった、温かったことを思い出したという、幸せな記憶を振り返れたということや、自分が親になった時絵本を取り入れる子育てをしたいというようなことが述べられていた。中学生に自分の小さい頃、育った幸せの記憶を引っ張り出してもらって次世代に繋げていくというような読書推進を図っていけたらと思っている。

<意見発表に対する質疑応答>

委員:小さい子どもを抱えて公立図書館に行けなくて困っている、もしくは読書の大切さに気づいていない人をどうするかということが課題であると思った。以前、区立保育園でボランティアをしていたが、園文庫の本は完全に消耗していたため、区立図書館に交渉して貸出してもらえるようにした。ブックリストも区立保育園、幼稚園に配付するようにした。この活動を通じて、行きやすい場所、雨でも行ける場所に本があることが必要であると痛感した。また、子ども達は本を乱暴に扱ってしまうので、いい本は何度でも、毎年でも買い換える事業費がないと、その本に出会えない年齢の子が出てしまう。長期的な計画もさることながら、今ここにいる子ども達にできることを少しずつでもやらなければと思う。

鈴木先生:A区で調査をした時に最も衝撃だったのは、図書館と本屋の区別がつかない子どもがいたこと。どのようにPRをしていくかということと同時に、同じ都内でありながら地域格差がここまであるということは残念で、本当に自治体任せでいいのかと思う。

山田委員:読書推進が進んでいる鳥取県でも、アンケートで図書館に行っていないという家庭が多い。乳児健診の場で、「図書館では無料で借りられるのですか」と聞かれることが結構ある。図書館ではこんな相談もできるし、無料で本も借りられるというように、もっと積極的にPRしていきたい。図書館に出前講座をしてはどうかと呼びかけもしている。図書館に行かない人は、必ずしも不便だから行かないのではなくて、読み聞かせの意義や、本を借りたいという意識が低いから行かないのではないか。例えばママ同士のランチ会にはベビーカーで電車に乗ってでも出かけるが図書館には行かない。読書を子育てに取り入れたら楽しいと親が思っていないという現状の現れかと思う。ハード面の整備も必要だが、親が意識を持てるようにしていくことが必要。

福原座長:関係者では当然知っていることでも、それ以外の人は全く知らないと言うこともある。このことはいろんな所で考えていかなければいけない。

委員:子どもをわかっていない保育者、幼稚園の先生の教育は行政が担うことが必要だと思う。熊本県内でも幼稚園・保育園の教材格差は顕著で、熊本市内の園では絵本が揃っているが、村部では年間の本の費用が1万円以下のところもある。熊本市では財政的な理由でブックスタートはやっていない。それをカバーするために赤ちゃんのお話し会を実施しており、絵本を読んだりわらべ歌を歌っている。ブックスタートはとても大事だと思う。ブックスタートが絵本に親しむきっかけになる。学童期になっても物語が読めない子がいるが、絵本をしっかり読んでいないと物語を読んでもイメージがつくれない。本を読めない子どもには、絵本を読むことから計画的に進めていくことも大切である。

鈴木先生:行政の力がどんなに大きいかというのは、早寝早起き朝ごはん運動でも身にしみて感じているので、ある程度の基準みたいなものがあればありがたいと思う。経済格差がそのまま図書室に使えるお金の格差になってしまうと悪循環になってしまう。国からある程度力を貸して頂けたらありがたいと考えている。

山田委員:私たちもわらべ歌を様々な場面で若いお母さん達に伝えている。子育て支援センターで、読み聞かせはとわらべ歌を存分に楽しんでもらえるような活動をしている。園文庫の充実は重要だが限界があるので、保育士と図書館司書がタッグを組んで、図書館からの貸出などに取り組めたらと思う。それから、子どものため、子育てに絵本を取り入れる為だけではなくて、親子で図書館に行けば親が楽しめる本もたくさんあり、新聞も読めるし、雑誌も読める。子どもの読書推進をしているようで、実は大人の読書推進をしていくという手立てを持って、子どもに絵本を読み進めようという切り口で、親も図書館に足を向けてもらうことによって、親も本を読む暮らしを是非してもらいたいと思います。

委員:小学校の学校図書館の経費においても、東京23区内で4.5倍の差がある。ブックスタートを2000年に立ち上げた際、まずは全国の3割に広がればと考えた。ブックスタートは、格差の大きいところの地域の子どもや、外国籍の子ども、障害のある子ども達等に、どうやって本と触れる機会を作れるかということで開始した。今日の話を伺い、格差を縮めていくためには、例えば、0歳から公立図書館のカードを作れるなど、基本的なことをきちんと伝えていくことも必要ではないかと思った。なお、ブックスタートは、イギリスではSureStart(低所得層の家庭への支援策)の一部として、学力を育てていくためのスタート地点として位置付いてきている。幼児教育から小学校へ接続ということをどのように考えていくのか。保育園児や幼稚園児の保護者にボランティアとして文庫等に入っていただければ、将来、学校司書としての活動にもつながるので、そういった連携と、格差是正のために何をしたらいいのかということを、この会議で何らかの形で発信していきたい。

委員:自治体でブックスタートの予算を獲得するには、財務課との交渉に大変な労力がかかる。首長の考え方が非常に重要。出水市では、市長が読書推進に理解があり、そういう組織的なものがないとなかなか拡がっていかない。

(2)議事:意見交換

委員:全国的に見ても、市町村間での公立図書館の格差は非常に大きい。しかし、山田委員の発表を聞き、ハード面の充実も必要だが困難な場合に、ソフト面の充実によりそれをカバーできるのではないかと思った。この会議では、ソフト面に関しての様々な提言を出すことが必要だと思う。以前、鳥取市の図書館長が、市町村合併により非常に市が大きくなったため、広域圏に対してどのように図書館サービスを広げるかが大きな課題だと話していた。図書館数は少ないため、様々な施設を活用して身近にサービスが受けられるようにと考えているが、それも限界があるというという話をした。また、鈴木先生の意見発表にあった、保育に携わる者への研修に関して、大学で幼稚園教員を養成している立場から、もっと充実させなければならないと思った。さらに研修では、本をどのように見極め、選書するのかという内容も充実させたい。

委員:情報提供だが、横浜市青葉区の山内図書館は、今年から指定管理者制度を導入し、開館時間が長くなって評判も良い。今後、有料で各家庭に本を配送するという制度を開始する予定であり、その他にも様々な取組が予定されている。また、従来から返却ポストを区内の全ての駅に設置するなど、頑張っている。予算については、横浜市は他の市町村と比較すれば予算がある方だと思うが、毎年削減が続いている。自分が勤務している中学校のボランティアの方々は、小学校でも熱心に活動していた方々で、よくよく聞くと幼稚園や保育園から活動している。保育園や幼稚園・小学校・中学校と活動が繋がっているということを改めて感じた。中学校の家庭科の保育実習では、近くの幼稚園へ行く。読み聞かせをすると子ども達から「もっと読んで」と言われ、生徒たちは満足げに帰ってくる。自分の学校では、毎年4月23日(子ども読書の日)に朝会を設定して、読書の話をする。校長と各学年の先生一人が各1冊紹介したり、ボランティアが朗読やコンサートをやっている。最後に、昨年は国民読書年だったが、それをきっかけとして、今後もその精神で取組を続けて行けると良い。

委員:地域の図書館を非常に使いこなしている人もいれば、そうではない人もいるということを実感している。また、就学前の読書環境づくりには、ごく小さな地域範囲への対応が必要。図書館は全国に約3000館あるが、市内にせいぜい2館あるかどうか。中学校区に1箇所程度は拠点がないと取組が拡がらないと思うので、ハードの面にも踏み込んだ提言が必要ではないか。

委員:歩いていける距離に図書館があることが大切だと思う。また、正規職員を置くことも大事。朝読書によって読書が広まったというデータがあるが、校長先生によっては、授業時間を増やすために朝読をやめたところもあり、取組状況に大きな差がある。

委員:学校によって、子どもの読書への意識が全然違う。徳島のある中学校では、朝の朗読を始めてから、生徒たちに人の話を聞く習慣がつき、授業ができるようになったという新聞記事を見た。学校では、勉強は主食、読書はおやつといった意識である。しかし、各教科の学習は、過去を学ぶものであり、それによって歴史や経済等の中での自分の居場所を知ることができるが、自分はどこにこれから歩いていくかということを知るには、読書が必要である。10冊本を読めば、10人それぞれの生き方を知ることができ、その上で自分はどうやって生きようかという未来への模索をする、そういうことが大事なのではないか。そういう意味で、読書は自分の生き方を考える1番大きな学習、未来に繋がる大事な勉強だというように学校全体の意識が変わらなければならない。

委員:地域格差という話があったが、国がいくら施策を打ち出しても、結局は地方自治体がそれを実行しなければ、絵に描いた餅になってしまう。どうしたら自治体に実行させられるかということを考えることが大事だと思う。首長の顔のもとで、各自治体がどんな文化状態にあるかということを、はっきりと住民に知らせるようなシステムができないだろうか。文科省からアンケートを取って公表するなど、自治体にもっとしっかり頑張れよというメッセージを強く打ち出したい。

委員:インターネットを使うことにより、地域格差を緩和できるのではないか。インターネットでの読書にはいろいろ課題があると思うが、道具としてインターネットを活用して情報を伝えていきたい

委員:出水市では、お金をかけなくてもできる取組として、図書館で除籍した本や住民がいらなくなった本等を公民館に集めて、公民館で読み聞かせをやっている。また、「出水の鶴」という冊子を作り、幼稚園・学校に配付したり、地域ゆかりの人である島津家の「山田昌巖」の物語を幼稚園や小学校で読み聞かせするとともに関連の本を公立図書館において、子ども達を図書館へ誘導している。また、アナウンサーを退職して地元に帰ってきた人を朗読ボランティアとして育てるなど、人づくりにも取り組んでいる。また、行政と学校・公立図書館のつながりが大切と考え、今、学校と公立図書館を繋げようとしている。経費がかかるが、粘り強く頑張って取組を拡げていきたい。

座長:読書の推進の主体は国なのか、自治体なのか、あるいは各学校の先生方がもっと士気を持たれるべきなのか、保護者がどうあるべきなのか、こういった役割分担を今後詰めていく必要がある。また、ハードだけではなくて、ソフトやシステム、インフラ等をひっくるめて、鈴木先生の意見発表にもあった、「多読と共に精読」というのを一体どのように進めればよいのか。精読の最も大事な点は意味を読み、しかも自分で意味を作るということであり、これらに向かってこの活動を推進していかなければいけないと思う。

委員:私が所属する会では、毎年10回程度、外部から講師をお招きして読書に関する講座を開いており、アニマシオンを必ず取り上げている。今年度、地域の小学校の2年生と3年生を対象としたアニマシオンの講座も実施した。今後は、先生方に実際の授業の中で取り入れてもらい、ゲーム感覚で読解力を身につけていけるよう考えることも大事だと思う。

座長:ここでPISAの資料について事務局から説明されたい。

塩見社会教育課長:今、お手元にOECD生徒の学習到達度調査(PISA2009)のポイントという資料を配付している。これは国際的な学力調査の結果についての資料であり、対象は義務教育終了の15歳児ということで高校1年生が対象である。読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、3年ごとに調査しており、今回2009年の調査結果について報告した資料である。この中で読解力について様々な調査が行われており、前回の調査結果との比較では、読解力については、平均得点が大幅に上昇した。また、学力調査と併せて実施している「質問紙調査」では、読書活動について調査している。この中で、「趣味で読書をすることはない」という問いに対して、イエス、ノーで回答しており、日本は読書をすることはないと答えた生徒の割合が44.2%であり、前回の2000年調査時から10.8ポイントの減であったが、OECDの平均と比べると日本の方が多いという状況にある。また、「どうしても読まなければならない時しか、本を読まない」と回答した生徒の割合は、日本の方がOECDよりも多いが、「読書は大好きな趣味の1つだ」や「本の内容について人と話すのが好きだ」といった項目については、日本の生徒の方がOECDの平均よりも肯定的に回答している生徒が多い。また「本を最後まで読み終えるのは困難だ」と回答した生徒は、日本のほうが少ない。また、読む本の種類・頻度では、日本の生徒は、雑誌やコミック(マンガ)、フィクション(小説、物語など)と回答した生徒がOECD平均よりも多くなっている。PISAの調査については、本日の議題にも関係する内容であり、参考に使っていただければと思う。

座長:今回の調査で読解力は上がったが、記述式を白紙で出す率は高い。また、科学リテラシーについて、ある本で読んだが、科学雑誌の販売数が日本はアメリカの約10分の1だという。人口の差を差し引いても、科学分野への関心がかなり低いと言えると書いてあった。調査の順位が上がったとはいうものの、さらに質的にも上げる必要があるのではないか。

委員:PISA2009の結果で、読解力の習熟度レベル別の生徒の割合が示されており、日本、韓国、フィンランド、香港でレベル1以下、レベル2という習熟度の低い子ども達の割合が高いということは、経済格差の問題と繋がっていると思われるので、やはりそこに力点を置かなければならないというのが1点ある。また、あまりマスコミ等では取り上げられていないが、この調査において、幼児教育を就学前に長くやっている子どもは読解力リテラシーが高いという結果が出ている。日本は5歳児の98~99%が何らかの施設に行ってリテラシーの教育を受けているので、この部分では上位国であり、幼児教育体制は比較的充実しているという結果であった。

板東生涯学習政策局長:PISAの調査結果では、今まで日本は中の上くらいに非常に大きな塊があって、差が少なかった。それが前回の調査では、学力が下の方の層が増え、一方上の方の層は増えておらず、平均点が下がった。日本の学力構造は、実は下位層が相対的に増えてきているところに大きな問題がある。今回の調査結果では少し改善されているが、最下位層の割合は変わっていない。読解力以上に数学的リテラシーと科学的リテラシーにおいて下位層に変化がみられない。読書環境の問題や、家庭教育への保護者の意識の問題なども含め、学校や公的機関でも様々な要因が影響し、結果としてこういうことに繋がっていくのだと思っている。

座長:つまり、読書推進によって、学力の格差が改善される可能性もあるといえる。私は鳥取県で育った子ども達がこれからどうなっていくか大変期待している。読書推進の結果をこのような調査結果で評価することができる。これが全部ではないが、ある程度の指標にはなると思うので、今後の鳥取県にとても興味がある。

委員:先日、鳥取県立図書館に行ったら、内閣府が視察に来ていた。片山総務大臣の指示で視察に来たということだった。皆さんにも鳥取県の図書館を見ていただきたい。

委員:今日のお話を伺って、懐かしいという感想を強く持った。子どもが寝る前に本を読んであげていたことを思い返していたが、不思議なことに読み聞かせしていると子どもと一緒に親は寝てしまう。このことについて誰かに研究して欲しいと思っている。サラリーマンとしての実感からすると、今日議論されている問題の大半は、実は環境の問題ではないかという気がする。鈴木先生から、絵本が読めるワークライフバランスをという発表を聞き、せめて、自分の会社の小さい子どもがいる部下を残業させないで早く帰そうと思った。若い夫婦はとても忙しい。絵本があるかないかということよりも、本質的にはおそらく環境の問題だと思う。子供は好きな本を何度も読み込んであげることのほうが喜ぶので、定量的な分析ができる部分というよりは、むしろ質的な部分、またさらにはやはり環境を改善しないことには、図書館があっても本があっても、本質的な問題の解決にはならないと改めて思った。

委員:文科省で、読書の時間を週1回設けるというように、義務付けることはできないのか。そうしないとなかなか読書が身につかないのではないか。

座長:今日は、読書とはどういうものか、読書をすることによってどういうことが起きているのかということについての理解が進歩したように思う。今後の議論につなげていきたいと考えている。

以上

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課