「国民の読書推進に関する協力者会議」(第2回)議事概要(案)

1.日時 

平成22年10月26日(火曜日)
13時00分から15時00分

2.場所 

文部科学省省議室

3.出席者

【委員】福原座長、肥田副座長、秋田委員、織茂委員、鎌田委員、岸委員、中田委員、新山委員、溝口委員、松岡委員、山田委員、横田委員
【意見発表者】慶應義塾大学文学部 糸賀教授 

4.議事要旨

(1)議題1「第1回会議での主な意見等について」

 事務局より資料1に基づき、第1回会議で出された主な意見とその後各委員から寄せられた主な提言等について報告した。

(2)議題2「今後の進め方について」

 福原座長より、今後は、第1回会議で出されたいくつかの論点ごとに各分野の有識者や実践者から意見発表していただき、それを基に議論を深め、今後の読書活動の推進に向けた報告をまとめていってはどうかとの提案が行われ、了承された。

(3)議題3 意見発表「読書推進と図書館の役割」

1. 岸委員より、「デジタル化時代の国立国会図書館」について、資料に基づいて意見発表

 ○国立国会図書館におけるデジタル化の作業は1994年から開始しており、既に20年程度の歴史がある。
 ○国立国会図書館のデジタル化のポイントとなる事業は、「公共的書誌基盤」、「インターネット資料収集・保存事業」、「オンライン資料の収集検討」、「近代デジタルライブラリ」、「NDLサーチ」とこれらを見ることのできる「NDLホームページ」である。
 ○国会図書館の資料を検索する時に、これまでは、本の題名等がはっきりしていれば、NDL-OPACや総合目録ネットワークで、その資料が国会図書館の本館、国際子ども図書館、関西館のうちどこにあるかを検索できた。
 ○最近は、調べたいことははっきりしているがどんな本があるかわからないという時のための検索機能も充実してきている。「NDLサーチ」という名称で、今年8月から実験版を公開している。これは、国会図書館以外の公共図書館、大学図書館、専門図書館等々の所蔵資料も対象とし、レファレンス事例からも検索できる。さらに、オンライン書店へのリンクもあり、非常に画期的である。資料がデジタル化されていれば中身も見ることができる。今後、日中韓の相互で自動翻訳をしながら検索できるシステムも搭載する予定。国会図書館に来館しなくても日本全国に資料提供できるようにするというのが国会図書館の今掲げている一番大きな目標である。
 ○国立国会図書館の納本制度について、小冊子、逐次刊行物、楽譜、地図、映画フィルムは戦後以来免除になっている。ただし、CDROMやDVDなどは収集している。納本制度には含まれないが、デジタル時代に必須なものとして浮上しているのがオンライン資料である。今まで日本の出版物とされていたものとほぼ同等の内容を持つと思われるので、これは引き続き集めたいということで検討し、今年6月7日、「オンライン納本制度審議会」から、今の納本制度とは別に規定を設ける必要はあるが、他の資料と同様に収集した方がよいという答申を頂いている。この答申の内容として、収集の目的は「文化財の蓄積・利用」であり、民間の出版物を含めて集めるという方向である。国等のウェブサイトの収集については、既に国立国会図書館法で規定されており、例えば文科省のHPのデータも許諾なくコピーしている。ただし、それを閲覧に供したりインターネットに掲載するにはそれぞれ著作権者の許諾が必要である。
 ○オンライン資料の制度的収集についての資料(資料20頁)は、こんな形で実現すればいいというイメージであり、このとおり制度化するというものではない。
 ○次に、「公共的書誌情報基盤」というものについて、昨日(10月25日)プレスリリースし、明日(10月27日・文字活字文化の日)から開始する。これまでは、納本された資料をデータベース化するのに時間がかかり、公共図書館や学校図書館の選書等に間に合わず、必要な時に使えないという批判を受けていた。このため、出版物の書誌情報をできるだけ早くお知らせするための仕組みづくりということで、今年3月に検討会議を開催するとともに、8月には有識者から意見をいただき、まずは「新着図書情報」の提供を開始した。いずれはNDLサーチの中で新着図書情報の検索や配信を開始するよう準備中である。
 ○次に、資料そのもののデジタル化について説明する。国会図書館で資料のデジタル化を行う一番大きい理由は保存のためである。納本していただいた資料を未来の読者に伝えるため、デジタル化したものを閲覧し、紙のものは大事に保存するというのが、保存のためのデジタル化という仕組みである。平成12年度以降毎年約1億の予算で実施していたが、平成21年度の補正予算では127億円付けていただいた。明治、大正時代の図書の画像データは既にホームページで公開しており、その先の1968年までのもののデジタル化が進行中である。
 ○デジタル化の作業は、1枚ずつめくってガラスを置いて上から撮るという、かなりレトロな作業である。今既に現存しない出版社のものや傷んでいるもの、もう市販されていないものがほとんどであり、そういったものを後世に伝えられる有効な手段であると思っている。
 ○デジタル化されているのは画像データであり、写真と同じ。文字列を識別してそこにある単語で検索するということはしていない。検索は、タイトルと著者名、目次や章を、いわゆる本のデータとして職員が付与し、そこから引いてきている。全文から引ければもっとニーズに合ったものがヒットするはずであると思っている。利用者のニーズにぴったり合ったものをヒットさせるためにもテキスト化が必要である。今、2、30の出版社の協力を得て、サンプルデータを頂戴し、全文検索したらどうなるか、どんな向上が見られるかということをテストしている。
 ○著作権法が改正され、国立国会図書館では、資料が入った時にデジタル化作業(画像データ)ができることになったが、館外で閲覧等するには、著作権者の許諾が必要。関係者協議を経て、現段階では、紙の本と同様に1冊だけしか見られないというやり方で合意をしているが、是非こちらとしてはデジタルデータについても公共図書館等々に貸し出すという今までと同じ枠組でやらせて欲しいと調整しているところ。
 ○市場性のある領域の資料の提供には、国会図書館の側から見ると著作権処理には割合限界があると思う。「読書」、今読みたい本というような時のニーズと、国会図書館のデジタル化ということとはまだなかなか直結しないが、こういった取組をすることで少なくとも今までの出版物のデジタル化というのは着実に行われるだろうという見通しを持っている。

<質疑応答>

 ○ デジタル化したものを国会図書館で読むことは法律上できるのか。
 岸委員: 館内での閲覧はできるよう定義している。

 ○ もともと本があって読めるので、デジタル化しても同様に可能ということか。
 岸委員: そういうことである。

 ○ 国立国会図書館と関連のある図書館では、端末上で読めるのか。
 著作権課: 本館と関西館、国際子ども図書館では、端末での閲覧も可能だが、それ以外の図書館では公衆送信権が及ぶため直ちに可能とは言えない。

 ○ 館内閲覧における、デジタル化されたものと紙の本の利用の比率は。
 岸委員: 比率は調べていないが、デジタル化済みのものについては、デジタルで見ていただくというのが利用の主流である。現物を見るには別途申請をしていただく必要があり、デジタル資料の利用をアシストする人員を配置するという形で対応している。

 ○ 国立国会図書館では、点字データと音声の資料がどこに所蔵されているか検索できるが、その保存に関しては手を付けていないと思う。そういったことに関して、全文テキストデータ化と絡めて、今後何か考えていることや見通しがあれば教えていただきたい。
 岸委員: テキスト化の実証実験には、点字、録音図書の担当部門も参画するが、それらを保存していく、一括していくというところまでの具体的な見通しはついていない。ご指摘はその通りだと思う。

 ○ マイクロコンテンツ化されたデジタル資料を検索して見ることも、国立国会図書館では読書として推進していくのか。
 岸委員: 本単位での検索とするか、章ごとにバラして使えるようなインデックスを付けるのかという議論を今行っているところ。デジタル化しただけの書籍形態のものは読書だろうと考えている。

2. 慶応大学文学部糸賀教授より、「地域読書活動と公共図書館」について、資料に基づいて意見発表

 ○読書の概念をどう捉えるかということについて、一つの考え方として、三省堂の『新明解国語辞典』の第5版での「読書」の定義のような捉え方もあるだろうと思う。
 ○一般の方々が読書をどう捉えているのかということの調査を4、5年前に行った(資料「読書振興と図書館」1ページ第1図参照)。その結果、漫画や週刊誌、百科事典で調べる行為を読書だと答える人は少数であった。果たして読書概念の国民的合意というのはどこに置いたらいいのかということの手掛かりとしていただければと思う。
 ○「『体を温める』と病気は必ず治る」という本は言わば実用書と言っていいのかもしれないが、年代によってかなり読書としての捉え方が異なっている(資料2ページの第2図)。
 ○私どもの研究室で、電車の中でどういうメディアを使っているかを過去6年間にわたって継続して調査をしている(資料「今年度の調査結果」参照)。おおよその傾向としては、普通の本を読む人の割合は3年間で大きな変化がない。一方電子メディアの利用率は携帯音楽を含めているので、年を追うごとに着実に高くなっている。各年代を通じて電子メディアを車内で使う人の割合は着実に増えている。
 ○個人のレベルでどういう変化がそのメディアの利用によって起きるのかということを調べたのが、「原作が同じ小説と映画の比較」である。本を読むことと映画を観ることでどういう違いが人間に起きるのかということを調べたものである(資料3~7ページ)。調査の結果から、読書による言語力や想像力の育成ということは読書が持つ重要な特徴、メリットだろうと思う。
 ○そういう意味では、子どもの読書活動の推進に関する法律の第2条基本理念で、「子どもの読書活動は子どもが言語を学び、感性を磨き、表現力を高め、創造力を豊かなものにし」と書かれており、この創造力がクリエイティビティの方の創造力をあてているが、子どもの読書にとってはむしろイマジネーションの方の想像力が豊かになると思っている。読書を通じて子どもはその登場人物、あるいは登場する動物それになりきる。絵本を見ていても、子どもの頭の中ではその登場人物や動物が動いている。そういう意味での想像力、イマジネーションというものを育てる。それは大人にとっても同じことだろうと思う。
 ○読書の目的によって、単純に言うと4つの領域があるだろうと思う(資料7ページ)。ここでは横軸には時間軸を設け、縦軸は公共的な価値と個人的な価値である。それぞれに用語をうち「知識」、「教養」、「娯楽」、「情報」というように仮に割り振ってみた。図書館が提供している読書というのは、時間軸が長時間のものと短時間のものの両方を含んでいるというところに特色があると思う。百科事典の一項目を読むのは読書ではないと受け止めている方は多いだろうが、調べることで図書館を使っていただくというのも大事な図書館利用である。それを読書と呼ぶかどうかはともかくとして、活字に接するいい機会、あるいは物事を調べる、わかる楽しさ、知る喜びを伝える意味では大事な接点だろうと思う。我が国の公立図書館にとって当面の課題は、こういった文化教養志向、長い時間で継続する価値を生み出すような読書と当面の問題を解決するために使われる情報この両立・並存を目指して行くことにある。また、図書館は読書会を前々から開催していた。これはいわば集合学習である。読書会だけでなく、幅広く身近な個人の学習に繋がるような読書にも対応し得るのが公立図書館である。そういう意味では今後も読書振興の観点から公立図書館の整備、充実が一層求められる。

<質疑応答>
 ○ 学校教育では、小説は教科書の中に読書単元、読書教材という形で入っており、教科書の作品でも文学作品については基本的には読書として扱って指導している。学校図書館は、「読書センター」と「学習情報センター」という二つの機能があると言われている。過去には「読書センター」としてのウエイトが高かったが、今は、インターネット等の影響もあり、「学習情報センター」の方に重点が移ってきており、更に発展してメディアセンター、教材センターなどとなっている。
 ○ 地方では公共交通機関を使わず、自家用車での移動がほとんどなので、読書する時間は都心の人より少ないのではないか。地方との読書の比較もやってみたらおもしろいのではないか。
 糸賀教授: 都会の人間の方が通勤時間に読書をすることができ、ある意味では読書に充てる時間は多いと思う。その一方で、書店の数や種類(新古書店など)、在庫状況といった面でも地方と都会ではかなり差があると思う。そういう意味でも、読書環境としては、ある意味で都会の方がはるかに恵まれており、地方の方が読書をする上でのいろいろなハンデがあるのではないかと推測する。

 ○ 地方と都心部では、本屋の本の量や質が全然違う。このため、地方ではインターネットで購入する人が多い。
 ○ ネットで本を注文するというのはすごく難しいのではないか。タイトルだけでは中身がわからない。
 糸賀教授: 必ずしも今はそんなに難しいことではない。ネット上のバーチャル本屋で買う方は確かに増えている。中身についてもある程度読めるようになっている。地方でなかなか本を買うことが難しい。出版されるもの がせいぜい初刷りで何千部、3000とか4000。学術書はもっと少ないからこれが全国の本屋に行き渡るわけがない。このため、どうしても売れそうなところ、大都市の本屋にたくさん行って地方には配本されないという仕組みになってしまう。それだけに、地方に良質な出版文化を届けるための図書館の整備、あるいは学校図書館の充実というのが必要だと思う。本屋がないだけに図書館が唯一そういう読書する材料を手に入れるところとなっている。
 地方の図書館を見ると、本を選ぶ目利きの職員がいるところにはかなり本が揃っている。しかしそのような職員が配置されていないところでは、形だけの本が並べられていて書架もみすぼらしく、手にとってみたくなるような本があまりないというところもある。明らかに職員の存在とそれから十分な資料費があるかどうかによる。地方に本当に良質な出版文化を育てて読書で知的な基盤を作る、そのためのインフラが出来あがっていない。そういう地域格差、地方格差というのを、地方を回っていると痛感する。

 ○ 調査を行うときに、サンプリングの母集団を決定する段階で、99%は決定されてしまう。東京を母集団としてできたパラメータを地方に当てはめていじってもうまくいかない。ここでの議論すべきことが、本をたくさん読んでもらうにはどうすれば良いか、子どもたちがアクセスするにはどうするかということであれば、先程の話はあまり実りあるものにはならない。表面に出てくるパラメータをいじるのではなく、表に出てきたことの原因を探っていくことが大事ではないか。
 糸賀教授: 本を読んでもらうにはどうすればよいかを検討することはもちろん大事だし、自分としても考えていきたい。ただ、今日の発表では、そのことを委員の皆さんにこの会議でご検討いただくため素材を提供するということで、報告したもの。

 ○ アメリカでも本屋はどんどん潰れていっている。その中で、35年前に一番最初に本屋がやったのは、とにかくアクセスを増やそうということ。UCバークレーでは本屋の中にコーヒーショップを作った。まず人が集まる場所を作らなくてはならないということ。そういう立場で見ると、日本ではそういう努力がまだなされていない。自分たちがやる仕事がこれだと決定されていて、とにかく誰かにそこに来てもらうために何をするかという方法が、まだ生まれていない。
 糸賀教授: 基本的には読書の推進、読書の振興、私は日本の国力を高めて行く上にもそういう知のインフラの整備ということかなり求められているだろうと思う。そういう意味では学校図書館、公共図書館の充実を併せて考えていくことで読書振興が図れるのではないか。

 ○ 優秀な司書がいるかどうかで図書館の状況が全く異なる。良い司書がいれば、予算も確保するし、選書も違ってくる。学校図書館も、人が配置されているか配置されていないかによって利用度が全然違う。国で財政を組んでほしい。職員を確保することが読書の推進になる。
 ○ どんな本を読んだらいいのかわからない人が、本と出会える場が公共図書館であり、学校図書館であると思う。

(4)議題4「その他」

 ○今後の進め方に関して、この会議では、国民読書年をきっかけにして、どのような方法で、地方まですべての日本人の知的水準を上げて行くか、あるいは日本人の国民性を作っていくかということを報告としてまとめていく必要があると考えている。ただ、遠くから参加して1回2時間の会議では短いので、工夫をしてほしい。

以上

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生涯学習政策局社会教育課