1.「新高等専修学校制度の在り方(高等専修学校の将来像)」の検討に至る経緯など
- 現行の高等専修学校(以下「高等専修学校」という。)は、昭和50年の学校教育法の一部改正により創設された専修学校制度の1つの課程(高等課程:中学校卒業同程度以上が入学対象)である。
専修学校は、我が国の教育制度において多様な教育機会を提供してきた各種学校に対して適切な振興を図る観点から、各種学校のなかで一定の規模・水準を有するものを別の教育施設として位置づけたものであり、柔軟かつ弾力的な教育等を実施することができるように制度設計されている。
- 高等専修学校は、後期中等教育段階において職業教育を担う重要な教育機関として、また15歳人口の多い時代は、“15の春を泣かすな”の合い言葉の中で、国公私立高等学校に入学できなかった生徒の受け皿としての教育機関でもあった。
昭和60年9月学校教育法第56条「大学入学に関し高等学校を卒業した者と同等以上の学力を認められる者」の規定が一部改正され、それに伴って指定の要件を満たした修業年限3年以上の高等専修学校修了者に対して大学入学資格が認められた。これによって、指定校であれば、卒業後の進路については、高等学校卒業者と同様の道筋が保証された。
しかしながら、高等専修学校(学校教育法第82条の2)は高等学校(学校教育法第1条)とは異なる学校種であることによって、中学校卒業程度以上という入学条件が一般的に認知されていない。また、上記に述べたように大学入学資格が付与されることによって卒業後の進路については高等学校卒業者と同様に保証されているにも関わらず、高等学校卒業資格ではないことを理由に、学習者・保護者・中学校教員にとって中学校卒業後の進路先として認知されにくい事実もある。さらには、JR定期の割引率、高等学校体育連盟への大会参加、独立行政法人日本スポーツ振興センター災害共済給付への加入の問題、公共職業安定所における取り扱いの格差問題等に対して、高等学校と同じ後期中等教育機関として認めてもらえるよう年月をかけて一つひとつを是正のための運動を行ってきた。最近の是正例としては、平成16年3月高等専修学校卒業予定者に対する公共職業安定所の職業紹介業務の取扱が高等学校卒業予定者と同様な対応がなされるようになったことがあげられる。また、大学における入試制度(特に推薦入試・AO入試)についても、高等学校と同様、高等専修学校に対して門戸が開かれてきている事実もあり、高等専修学校という学校種が高等学校同様、後期中等教育機関として認知されてきている面もある。しかしながら、今も尚解決に至らない問題が残存していることも事実である。
新高等専修学校の在り方を検討する上には、高等専修学校で学ぶ学習者が、高等学校で学ぶ学習者と変わらぬ環境・条件の中で学校生活を送れることが根底にあるということを忘れてはならない。
- 中学校卒業後の進路が多様化する中、不登校・高校中退・発達障害等の問題、また近年のニート・フリーターの問題に対して、高等専修学校はこの問題を真正面から受け止め、独自の教育を展開し成果を上げてきている。平成16年度全国高等専修学校協会制度改善研究委員会で実施したアンケート「高等専修学校に在籍する生徒及び情報教育に関するアンケート」(会員校238校中124校の回答)の結果から、不登校生徒は16.7パーセント、発達障害の生徒は2.0パーセントとの結果を得た。また、平成18年度同委員会で実施したアンケート「“フリーター・ニート”問題に対する高等専修学校の教育支援に関する実態調査」(会員校230校中107校の回答)の結果から、不登校生徒は23.7パーセント、既卒・高校中退者は2.8パーセントという結果を得た。不登校生の占める割合が増加している状況は歴然としている。また、少子化という現状の中で高校中退者数の割合が2.1パーセント、不登校生の割合が1.82パーセント(平成16年度文部科学省生徒指導上の諸問題の現状について)との数値からもわかるように確実に高等学校で不適応を起こしている生徒がいるという事実と、そのような諸処問題を抱えて高等専修学校をやり直しの場としてたどり着く生徒たちがいることも事実である。このように学習指導要領に縛られることなく生徒の実態に即して柔軟に対応でき、より実務的、実践的な職業教育と生きる力を育む人間教育に重点を置いた高等専修学校を必要としている学習者がいるということ、そして高等専修学校で大きく変化を遂げている生徒たちがいるということを踏まえると、他の学校種に比べて数としては少ないながらもその必要性や存在価値があるということは明らかである。
- 上記の経緯から、高等専修学校は、同じ後期中等教育機関である高等学校との対比で、より実務的、実践的な職業教育を展開している。また、社会人としての基本的な資質を身に付けることを前提として、あるいは大学や専門学校等への進学を前提として教育課程を編成している学校もあれば、不登校生、高等学校中退者や発達障害の生徒に対してきめ細やかな職業教育を通して自立挑戦を支援する学校もあり、それぞれの学校が独自の特色を活かした教育成果を着実にあげている。よって、教育基本法に定める『職業及び生活との関連を重視』する教育の目標を達成するため、学習者の立場や社会的な要請を踏まえて、新高等専修学校の在り方、いわゆる「高等専修学校の将来像」を明確にし、検討していく必要がある。
- 以上、高等専修学校制度設計作業部会では、「高等専修学校の将来像」について、職業教育にかかる後期中等教育機関としての新たな高等専修学校の位置づけ及び他の学校種との使命や役割の明確な区分とそれに従った教育の推進を目的として、制度面及び教育面での論点について、重点的に検討を行った。