資料2 社会環境の変化を踏まえた専修学校の今後のあり方について(仮称)(素案)

はじめに

  専修学校は、昭和51年の制度創設以来、我が国の中核的な職業教育機関として着実に進展を遂げ、現在約66万人の生徒を擁し、特に専門課程には、約58万人が在籍し、高等教育機関の一翼を担うものとして定着している。

  また、平成18年に改正された教育基本法においては、教育の目標として、「職業及び生活との関連を重視し、勤労を重んずる態度を養うこと」(同法第2条第2号)が新たに規定され、職業教育の重要性が明らかにされた。このことにより、職業及び実際生活に必要とされる能力を育成し、又は教養の向上をを目的とする教育機関である専修学校の果たすべき役割は、今後益々大きくなるものと考えられる。

  このような状況の下、社会の変化に即応したキャリア教育や実践的・専門的な職業教育の充実など、専修学校に対する社会的要請に対応して、専修学校の教育制度の改善や今後の振興方策などについて研究・検討を行うために、本検討会議は設置され、昨年11月の初会合以来これまで、まる回の会合を重ねてきたところである。

  本会議では、専修学校の現状について概観した上で、主に、現行の専修学校制度の更なる充実方策と学校教育体系における専修学校の新たな位置づけについて検討を行った。その議論は、専修学校にとどまらず日本の教育システム全体のあり方にまで及ぶ広範なものとなったが、特に専修学校の今後のあり方の観点から、ここに、これまでの議論を整理し、とりまとめる。

1.専修学校に関する現状等

1-1.現状

  専修学校は、学校教育法の改正により昭和51年に制度が創設されて以来、「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図る」ことを目的として、中堅職業人の養成など我が国の教育において重要な役割を担ってきている。
  専修学校制度は、実践的な知識及び技術を修得するための実用的かつ専門的な教育を幅広い分野にわたって行い得るように、修業年限、設置者、教員資格、施設・設備等の基準が、比較的緩やかで弾力的な設計となっている。
  また、専修学校には、その入学資格応じて、高等学校を卒業した程度の学力を有する者等を対象とする専門課程(専門学校)、中学校を卒業した程度の学力を有する者等を対象とする高等課程(高等専修学校)、及び特に入学資格を問わない一般課程の3つの異なる課程を置くことができるという特徴を有している。

  平成20年5月現在、専修学校は3,402校、生徒数は657,406人となっている。そのうち専門課程については、2,967校(全体の約87パーセント)、生徒数は582,769人(全体の約89パーセント)を占めている(注1)。

  専門課程の特徴をその8つの教育分野それぞれの生徒数の割合から分析すると、全生徒数に対する割合は、医療分野が約34パーセントと最も多く、次いで、文化・教養分野が約19パーセントとなっている。
  制度発足時からの推移で見れば、約50パーセントを占めていた服飾・家政分野は、平成19年度には、約3.4パーセントにまで大きく減少している。工業分野及び商業実務分野は、制度発足以来堅調に生徒数の割合は増加し、それぞれ平成3年、平成5年にピークを迎えたが、景気動向等と連動して近年は減少している。これらと対照的に平成3年以降、生徒数の割合が増加しているのは、医療分野や衛生分野である。

  医療や衛生分野における看護師・理学療法士・作業療法士等の指定養成施設の総定員に占める専修学校定員の割合は、看護師で約65パーセント、介護福祉士で約70パーセント、柔道整復師で約92パーセントと、当該分野の担い手養成に大いに貢献していると言える。

  また、文化・教養分野においては、グラフィックデザイナーや写真家・漫画家・画家・書道家・通訳等、日本文化を支える幅広い人材を養成している。
  このように、専門課程は、その柔軟な制度的特徴を十分に活かして、産業社会の変化等を踏まえた人材ニーズを適切に反映した教育を行い、職業資格の取得を第一義的な目的とするものや、文化・教養分野のように必ずしも資格取得を目的としないものなどへ多様な発展を遂げてきた。
  また、高等課程については、503校に8,730人の生徒が在籍し、一定の基準を満たした課程を卒業した者には大学入学資格が付与されるなど、大学や専門課程等への進学を前提として実質的に高等学校と同等の教育を行うものがある一方で、高等学校中退者や不登校の児童・生徒に対してきめ細やかな職業教育を行うことにより、彼らの自立を支援する役割を果たしているものもあり、特色ある教育を展開している。

  さらに、一般課程については、198校に35,907人の生徒が在籍しており、語学、文化芸術等の幅広い学習内容について多様な教育の機会を提供する等、生涯学習社会における教育機関として重要な役割を担っている。

  (注1) 平成20年度学校基本調査速報値

1-2.専修学校に対する企業からの評価

  職業に直結した教育の行われている専修学校においては、特に産業界からの評価は重要な意味を有することから、ここでは、直近に行われた企業へのアンケート調査等を基に、専修学校、とりわけ専門課程に対する企業からの評価や要望を概観する。

  まず、専修学校の大部分を占める専門課程については、産業界との接続や地域社会からの要請を踏まえ、体系的かつ実践的な教育訓練を行っている。このため、専門課程の卒業者の就職率は約80.4パーセントと他の学校種に比して高いレベルにあり、そのうち履修内容と直接的に関連した分野に就職した者の割合は、平均7割を超えている(注2)。

  この高い就職率は、専門課程に対する企業の高い評価の一端を示すものであるが、より詳細な調査を行ったものとして、専門課程の修了者に対する企業の評価に関する文部科学省調査(注3)がある。
  本調査によれば、新卒者の人材の水準に対する評価としては、10年前と比べて、「質が高くなった・やや高くなった・変わらない」と答えた割合が約55.9パーセントとなっており、専門課程は過去と同等以上の教育水準を保持していると評価されていることが窺える。
  また、同調査によれば専門課程卒業者の採用理由として「専門の職業教育を受けている」(57.8パーセント)、「仕事に必要な資格を持っている」(42.6パーセント)ことを挙げる企業が多い。これは、前述のように専修学校が高い就職率を維持していることと併せて考えれば、専門課程における教育は、社会環境の変化を踏まえた実践的な教育を行い、職業に必要とされる技術・技能といった専門性を身につけていることについて産業界から一定の評価を得ていることを示すものと言える。

  一方で、同調査では、専門課程卒業者を活用する上での課題として、「専門家意識が強く、他の分野の仕事に就きたがらない」(20.5パーセント)、「期待されるほど即戦力として役に立たない」(20.1パーセント)、「基礎的な能力に弱く、幅広く活用することが難しい」(19.6パーセント)を挙げている。
  調査結果を踏まえると、より一層専門的な教育機能を充実するとともに、職業分野を通じて必要とされる基礎的な能力にかかる教育機能の向上について、更なる改善の余地があると言える。

  (注2) 平成19年度学校基本調査

  (注3) 「専門学校教育の評価に関する現状調査報告書」(平成19年度文部科学省委託調査)

1-3.社会人に対する学習機会の提供

  専修学校における社会人に対する学習機会の提供については、私立専修学校専門課程における社会人受入数(公的職業訓練機関からの委託訓練数(注4)を含む)は、約4万2千人(全生徒数は約25万人)となっている(注5)。他方、国公私立の大学院における社会人学生数は約5万1千人(全学生数は約26万人)である(注6)。

  社会人を対象とした職業教育・訓練は、大学・専修学校等の教育機関以外に、民間教育事業者・公益法人・NPO法人・他省庁所管の大学校等の様々な主体によっても提供されており、市場規模は、事業収入ベースで1兆3千億円とも言われる。ただし、組織形態別の市場に占める割合については、専修学校は事業収入ベースで約5パーセント程度に止まっている(注7)。

  中央教育審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」(平成20年2月)においても、各個人の職業能力や就業能力を向上させるためのニーズに応える必要があることから、専修学校と職業訓練校との制度的な役割分担を踏まえつつ、職業能力開発行政と連携して教育訓練を提供することが適切としている。

  また、平成19年12月の学校教育法等の改正により、社会人等に対する多様なニーズに応じた体系的な学習機会の提供を促進することを目的として、大学・専門学校等における履修証明制度が創設されたが、本制度の適切な活用の推進による専門学校における社会人の一層の受け入れのための環境整備は、今後の重要課題となっている。

  今後は、技術水準の高度化への対応や退職後の高齢者の社会参加の道を開く機会として、社会人に対する学習機会の提供の必要性はより高まると考えられることから、専修学校がその柔軟な制度的特徴を生かし、より積極的に学習機会の提供主体としての役割を担うことが必要である。

  (注4) 職業能力開発促進法第15条の6第3項に基づき、国及び都道府県が行う公共職業訓練について、緊急の雇用対策の展開に当たり機動的に訓練を行う等の必要性が生じた場合に、その一部を専修学校等の民間教育訓練機関に委託して実施するものをさす。

  (注5) 文部科学省専修学校教育振興室調べ

  (注6) 平成19年度学校基本調査

  (注7) 「日本の職業能力開発と教育訓練基盤の整備」独立行政法人労働政策研究・研修機構

2.社会環境等の変化に対応した個人の自立を促す教育のあり方

  社会的な要請に応える実践的な職業教育・専門技術教育機関としての性格を有する専修学校の今後のあり方の検討に当たっては、1.の専修学校の現状等を踏まえ、以下のような社会環境の変化を勘案することが必要である。

1.人口減少・少子高齢化

  人口の自然減は、労働力人口への影響も不可避であり、労働力人口は、2005年から2030年の間には年率マイナス0.9パーセント、2030年から2055年の間には、年率マイナス1.5パーセントと、より急速に減少する見通しである(注8)。

  (注8) 国立社会保障・人口問題研究所調査

2.企業内職業訓練の規模の縮小

  1990年代以降の経済活動、企業の経営財務状況の悪化等を背景に、労働費用(現金給与を除く)に占める教育訓練費の割合は、平成18年度においては約1.8パーセントとなっている(注9)。前回の調査(約1.5パーセント)より改善しているものの平成3年の規模(2.2パーセント)にまでは回復しておらず、企業内における教育・訓練の規模は依然として低調である。

  (注9) 厚生労働省「就労条件総合調査結果」(平成18年度)

3.就業構造の変化

  労働市場においては、パート・派遣・契約社員等の非正規雇用の割合が年々増加し、被雇用者に占める非正規雇用の割合が3割を超えるなど、就業形態の変化が進んでいる。特に、若年層における非正規雇用の割合は、過去20年間で、男性で約5倍、女性で約3倍となっており急激な増加が見られる(注10)。

  (注10) 総務省統計局「労働力調査」

4.厳しい若年者雇用状況

  ニートの数は、ピーク時(平成14年から平成17年の間)の64万人に比べて2万人減少したものの高止まりしている状況であり、フリーターの数は、平成15年度の217万人をピークとして4年連続減少し181万人(平成19年度)となっているが、同年齢人口に対する比率は平成14年度以降6パーセント前後で高止まりしており、依然として厳しい状況にある。
  また、中卒の7割、高卒の5割、大学の3割が就職後3年以内に離職する等、若年者の離職率が非常に高い。

2-1.社会から求められる今後の職業教育のあり方

  企業においては、労働力人口の減少期にあって、労働者一人ひとりの能力を高めることにより労働生産性を向上させ国際競争力を高めていくことが必要であり、基礎・基本、汎用的能力に裏打ちされた専門性を有する人材を求めている。
  企業が学生等に求める能力と大学・専修学校等が学生等に身につけさせる能力のミスマッチが従来から指摘されており、近年では産業界が求める能力として、単に即戦力だけではなく汎用性のある基礎的な能力が挙げられており、「就職基礎能力(注11)」や「社会人基礎力(注12)」などの指針も示されている。

  近年は、一部の企業を除いては、かつてのように企業内において人材を育成・研修していくことのできる余裕がなくなりつつあるといわれており、企業外における教育・訓練の比重が相対的に高まる傾向が見られる。
  さらに、ニート、フリーターの数や非正規雇用の割合も依然として高く、こういった就業形態で働く期間が長期化すればするほど労働生産性が低下し、個人の能力形成や自立も一層困難となることが予想される。

  このような厳しい状況を背景として、自立した職業人として生きるためには、社会の変化や技術の高度化に対応するために、個人の知識・技能を社会で必要とされるものへと向上させることが必要である。単に職業に必要な固有の技能や技術を身に付けるだけではなく、身につけた知識・技能を、社会の変化に対応したものとなるように進化させていく力を身につけることが必要である。
  また、自ら得意とする領域や分野における専門性を深化させ、その分野を切り口として関連する領域へとその能力を展開させていくことも考えられる。
  個別の職業に必要とされる専門的な能力に加えて、職業を通じて必要とされる基礎的・汎用的な能力の習得が必要であるといえる。

  (注11) 厚生労働省において、企業が若年者に求める就職基礎能力を5つの領域(1コミュニケーション能力、2職業人意識、3ビジネスマナー、4基礎学力、5資格取得)に分け、それぞれについて修得の目安を提示している。(平成18年)

  (注12) 経済産業省において、企業が社会人に求める基礎的な能力を3つに分類しそれぞれの能力要素を提示している。(平成18年)

2-2.職業人としての自立を促す今後の教育のあり方

  社会環境が複雑化・高度化し、雇用や職業にかかわる人生設計に関して様々な変化がみられる現状において、生涯にわたって自立した職業人として生きることは、より困難となっている。
  このような困難な状況を反映して、職業意識の低下や自らのキャリアの目標を持てない若者が多く見られる現状において、個人が職業または働き方に関する目的意識を明確に持ち、自立した個人として職業生活を安定して営むとともに、将来にわたる生活基盤を確保することが重要である。こういった観点からも就業意識の変化や多様化に対応した教育システムの整備が必要とされている。

  また、現行の教育システムにおいては、職業教育は、将来の社会生活に必要とされる基礎的・汎用的な能力を身につけることから始まり、その基本の上に専門性を身につける段階に進むという考え方をとっている。このような方法をとることで、具体的な職業とのつながりは見えにくくなり、教育を受ける側の職業観や職業意欲を育てることが困難であるという面も指摘できる。
  これに対して、特定の職業との結びつきを明らかにした職業教育を行い、その職業に必要とされる専門的能力を深めていくなかで、基礎的・汎用的な能力を身につけていく方法も考えられる。より実践的な教育を行うことを通じて職業への意欲を持続させつつ、高度な専門性と基礎的・汎用的な能力を有し社会の変化に対応していく能力をもった人材を育成していくことが可能となるのではないかと考えられる。
  職業を明確に意識した教育システムを整備することにより、職業選択の時期を遅らせることで生じているモラトリアムを防ぎ、個人の職業人としての自立を促すことが重要な課題となっている。

  そのためには、初等中等教育から高等教育にかけて、様々な段階において「キャリア教育」や「職業教育」として行われている自立した職業人の養成を目的とした教育が、どのように展開されているのかを十分に全体像として把握し、総合的に検討していくことが必要である。

2-3.専修学校と新しい「職業教育」

  高度化・複雑化といった社会環境の変化に伴い、個人に求められる職業に関する能力が変化している中で、専修学校のあり方についても、社会の変化との関わりの中で見つめ直すことが必要である。

  具体的には、キャリア教育によって培われた職業観等の上に立ちながら、専門教育を通じて職業に必要な知識・技能の習得等を目指す教育イコール職業教育についての新しいあり方が必要となっている。

  すなわち、高等学校段階から高等教育を通じて特定の専門的能力を身につけるとともに、それを支える基礎的・汎用的能力を習得し、社会の変化に対応できる職業人を養成するためには、個人がキャリアに対する目標を明確に持ち、将来にわたって自立した職業人として職業生活を営み、社会環境の変化に柔軟に対応することができるよう、個人に対するキャリア形成の支援を適切に行うことが課題となっている。

  もとより、専修学校は、多様な社会からの要請に応えることができるように、柔軟な制度設計の元に多様な教育が行われているところであるが、専修学校の教育内容自体についても、社会からの要請に対応し自立した職業人を育てていくため、より一層充実させていくことが必要である。
  さらに、今後、2-1.2-2.で述べたような教育のあり方・課題を踏まえて職業を明確に意識した教育システムの現代的な役割・あり方に向けて、専修学校のみではなく、大学・短大・高等専門学校・高等学校等の教育全体を俯瞰して、必要な見直しを図り、新しい「職業教育」のシステムを形成していくことが課題となっている。

3.専修学校の今後のあり方について

3-1.現行制度における専修学校の改善・充実について

  専修学校はその柔軟な制度的特徴を活かし、企業の求める有為な人材を多数輩出してきたという高い社会的評価を確立している。本検討会議においては、その更なる振興方策について、通信教育の導入等の議論がなされた(参照:別添資料1)。これについては、今後、後述する新たな学校種等の重要課題と併せて、総合的に議論を深めていくことが適当である。

  このほか、教育機関としての信頼性の一層の向上のために、自己点検・自己評価の充実(平成19年5月現在、私立専修学校のうち自己点検・評価を行うものは990校であり、私立専修学校全体の約3割に止まっている。)、第三者評価の実施、社会への情報公開・提供の促進を求める意見が各委員から出されたことに特に留意する必要がある。

  また、専修学校に求められる役割としては、高まる社会人等の学習需要に対する学習機会の提供についても議論がなされた。例えば、昼夜開講や科目等履修制度の利用促進、産業界と連携した教育プログラムの開発の促進、社会人を専ら対象とする教育課程の提供等といったこれまでの取組をより一層促進することにより、地域に根ざした学習需要に応える職業教育機関としての役割を果たすことも重要な課題として引き続き検討を行うことが重要である。

  さらに、今次の新たな学校種の提案の背景となっている、専修学校と1条校との不合理な差別があるとの指摘については、それぞれの制度ごとに個別に精査、関係府省等との協議を行い、その改善に努めていくことが必要である。

3-2.学校教育体系における専修学校の新たな位置づけについて

  本検討会議においては、前述の2.で指摘した社会環境の変化や新たな学校教育システムのあり方の必要性に照らし、専修学校の特徴・特色を踏まえた専修学校の更なる振興方策の一つとして、職業教育を専らの目的とする新たな学校種を創設することについて、問題提起がなされた。

  我が国の教育システムは、小学校・中学校・高等学校・大学という系統を基本としており、複線的に高等専門学校といった制度が設けられてはいるが、現実としては、高等教育機関への進学率(76.3パーセント)のうち、大学への進学率が約47.2パーセントを占め(注13)、高等専門学校4年次への進学率は0.9パーセントとなっている。
  このような教育システムの中で、高等教育においては、自立した職業人の養成を目的とした教育は、大学(注14)、短大(注15)、高等専門学校(注16)および専修学校(注17)それぞれにおいて展開されている。変化する社会環境と社会から求められる人材の高度化や、学生の職業に関する教育に対するニーズの高まりから、今後も、高等教育機関において、多様な形で自立した職業人の養成を目指した教育が展開されることが考えられる。このため、それぞれの学校の特長を生かした取り組みが期待されるとともに、職業に関する教育を一層推進していくために、高等教育段階全体を俯瞰した視点からの総合的な検討が必要となっている。
  また、高等学校においては、高等教育と同様にその実態が多様化しており、社会の変化に適切に対応し、生徒の将来の人生設計に繋がる有用な教育機会を提供しているかについては、特に自立した職業人を養成するためのキャリア形成の支援という視点からすると不十分な面もあるのではないかとの指摘もある。

  このことから、自立した職業人の養成を目指すキャリア形成の支援のための方策を検討していくに際しては、1既存の制度においてキャリア形成支援のための教育の更なる充実を図るのか、それとも、22.に見たような職業教育の改善・充実の必要性を受けて、職業を明確に意識した教育に特に重点を置き、学校教育の再構築に向けた方策をとるのか、という異なった考え方があり得るが、ここでは、後者の観点を含め、広く検討を行ったところである。

  すなわち、実践的かつ専門的な職業人の養成にこれまでも大きな役割を果たしてきた専修学校が、より積極的にその機能を担うことが必要とされており、一定の質の高い教育を行っている専修学校については、我が国の職業教育体系を再検討する中で、専修学校制度とは別個の新しい学校種を創設し、振興策を講じる必要があるか否かを巡って議論がなされた。

  なお、かかる問題認識は、中央教育審議会の答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月)における「職業教育をキーワードとした教育体系の中で、専門学校の中核的な役割や位置づけを明確にする必要がある」との指摘にも通底するものと解される。

  具体的には、第2回会議において、職業教育を専らの目的とする新たな学校種(「新しい高等専修学校」(後期中等教育機関)及び「新しい専門学校」(高等教育機関))を創設し、学校教育法第1条に位置付けるべきとの提案がなされた(参照:別添資料2)。
  また、この提案においては、本制度設計に当たっての前提方針として、以下の3点が挙げられている。

  • 1. 現行の専修学校制度はそのまま残し、一定の基準を満たすもの(現行の専修学校に限定されない)が新たな学校種に位置付けられること
  • 2. 現行の他の学校種と棲み分けることのできる独自の目的規定を検討すること
  • 3. 新しい学校種に係る設置基準については、教育の質の保証、国際的通用性等に留意しつつ、独自の基準・要件の具体化を検討すること
  • (注13) その他の機関の進学率は、短大が6.5パーセント、専門学校が21.7パーセントとなっている。(「学士課程教育の構築に向けて(審議のまとめ)」中央教育審議会大学分科会制度・教育部会)
  • (注14) 学校教育法は大学の目的を、「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること」としている。
  • (注15) 学校教育法は短大の目的を、大学の目的に代えて、「深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成すること」としている。
  • (注16) 学校教育法は高等専門学校の目的を、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」としている。
  • (注17) 学校教育法は専修学校の目的を、「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ること」としている。

3-3.専修学校の新たな位置づけに関する論点

  社会環境の変化に対応した人材育成の必要性やキャリア教育・キャリア形成の重要性を踏まえ、新たな学校種に関する提言について検討するにあたっては、以下のような論点を踏まえて検討を進めることが必要である。
  また、その際には、2.で述べたように学校教育全体の中での職業教育の意義・あり方についても総合的な検討が必要である。

(1)高等教育関係

  高等教育段階では、大学のキャリア教育重視の傾向が、従来から、きめ細かな職業教育を施してきた専修学校専門課程の機能・役割に近接してくるものと考えられることから、キャリア教育における大学と専修学校専門課程の本質的な相違をどこに求めるのか、高等教育がキャリア教育に果たすべき役割を踏まえながら、改めて議論する必要があると考える。
  すなわち、大学においては、平成3年の大学設置基準の大綱化以降、ユニバーサル化と言われる高い大学進学率を背景として、初年次教育や資格取得支援などを教育課程内外に位置付ける例が増えつつあること、就職支援を念頭に職業資格を意識した新しい学科が作られていること、基礎教育においてスキルの訓練に関する教育の比重が大きくなっていること等、学生ニーズを反映した教育が大学の重要な役割として定着しつつある実態が指摘されている。
  他方、専門学校においても、4年制などの修業年限の長期化や、一定の要件を満たす専門学校修了者への大学院入学資格の付与が行われているなど教育の高度化等が図られているといった実態がある。

  短期大学は、「深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成すること」を目的とする短期の高等教育機関として、保育・幼児教育、家政、経営・実務、看護等の分野を中心に、職業教育や実際生活に必要とされる能力を身につけさせる教育を行い、職業人の養成を目指した教育を行ってきたところである。今後、キャリア形成の支援の観点を踏まえた教育の推進が期待されるところであり、そのあり方との関係を含めて今後議論していくことが必要である。

  高等専門学校は、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」を目的として、工業分野を中心に高等学校段階を含めた5年一貫の職業教育が行われてきた。しかし、工業分野及び商船分野以外には情報系や経営系の4学科に留まっているところであり、分野の拡大や公立高校等を母体とする新たな公立高等専門学校の設置の可能性等についても議論されている。新しい「職業教育」のあり方を考える上では、高等専門学校を巡る議論の動向や高等専門学校と後期中等教育との関係も視野に入れて議論を進めることが必要である。

  自立した職業人の養成を目指した教育を、高等教育段階において全体として推進していくために、大学・短大・高等専門学校・専門学校といった高等教育機関それぞれの学校種の目的・機能を踏まえた考え方の整理を行うことが必要である。
  その上で、職業教育機能に重点を置く新たな学校種の創設の検討に当たっては、当該学校種の目的について、他の学校種との関係で十分に検討を加えることが必要であり、さらに、入学資格、修業年限、他の学校種との接続等についても、議論を深めることが求められる。

  その他、本提案と高等教育との関連での検討に当たっては、1かつての専科大学構想(注18)等、2諸外国の制度(注19)や改革の動向等も十分斟酌の上、議論を進める必要がある。

  加えて、多様なキャリア教育・職業教育ニーズに対応するためには、学部・学科等の組織に着目した整理から、学位を与える課程(プログラム)を中心とする考え方に再整理していくことが必要であるとの指摘があり、その仕組みの導入の是非についても、現在の中央教育審議会の審議事項となっている。こういった考え方を視野に入れた包括的な議論展開にも留意する必要がある。

  (注18) 昭和33年の学校教育法の改正により、入学資格を高校卒業程度、修業年限を2年または3年(必要がある場合には、3年の前期課程を有する5年制または6年制とすることができる)とする、4年制大学とは別個の高等教育機関の創設を目指したもの。審議未了・廃案となった。その後、大学審議会において、短期大学または高等専門学校の在り方に関する議論の中で、修業年限や名称、制度上の位置づけ等について様々な意見が出されている。

  (注19) 例えば、ドイツは複線的な職業教育体系を有していること、アメリカのコミュニティカレッジはパートタイム学生の割合が多いこと等を参考とすることも考えられる。

(2)後期中等教育関係

  つぎに、高等学校においては、高等学校進学率が95パーセントを超え、極めて教育が多様化した現状を踏まえれば、中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(平成20年1月)が指摘するように、同じ義務教育後の教育機関である高等学校と専修学校や高等専門学校との相違、中高一貫教育との関係なども視野に、各学科における高度な普通教育と専門教育の在り方といった高等学校教育の根幹にかかわる事柄等も視野に入れながら、検討を加えていくことが求められる。

(3)現行制度との関係

  また、本提案に関して、キャリア教育・職業教育の重要性や、その更なる充実の必要性は十分認めつつも、検討会において現行制度における職業教育の充実等の観点から、以下のような意見が表明された。制度設計の基本理念やその詳細についても、今後、さらに議論を深めることが必要である。

   新たな学校種の創設が必要なのであれば、これまでの学校体系での対応が不十分である根拠の明示が必要であること、即ち、現行の大学、短期大学、高等専門学校、高等学校といった学校体系では対応が困難であることについて、より説得力のある説明が求められること

  現行制度の下においては、職業教育は各学校種において実施されているところであり、新たな学校種が職業教育をその目的とするのであれば、現行の学校種の行っている職業教育との相違の明確化が必要であること

  新たな学校種の設置基準について、その中核を占める1校地・校舎・施設設備の基準内容、2教員資格・教員数、3教育方法等が明らかになっていないこと

4.今後の検討の方向性等

  以上これまでの検討を踏まえれば、新たな学校種に関しては、今後の我が国における、あらゆる世代における多様なライフデザインやニーズにきめ細かく対応できるキャリア形成・支援に資するキャリア教育・職業教育の在り方の全体像を議論する中で、重要な課題の一つとして、より総合的・多面的で専門的な検討を行いうる場である中央教育審議会において、議論を深めていくことが適当と考える。

  すなわち、専修学校の新たなあり方について、学校教育制度全体の中で整合的に位置づけていくためには、これまで述べたキャリア教育・職業教育もしくはキャリア形成支援のあり方や意義を整理し、専修学校のみならず、大学・短大・高等専門学校・高等学校のあり方についても視野に入れつつ検討を進めていく必要がある。

  その際、現行の学校教育制度におけるキャリア教育・職業教育の沿革、現状及び課題を分析・評価した上で、多様な国民のキャリア形成の実態や産業界、地域の人材ニーズ等の社会動向を踏まえつつ、さらには、諸外国の制度等を視野に置きながら、議論を進める必要がある。

  また、今後の生涯学習社会におけるキャリア教育・職業教育の在り方に関しては、教育面のみならず、我が国の産業構造や労働市場、職業能力開発に関する施策等とも深く関係することから、関係府省、地方公共団体、経済団体等関係機関とも連携しつつ、議論を行っていくことが期待される。

お問合せ先

総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室

(総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室)