3.専修学校の今後の在り方について

3‐1.現行制度における専修学校の改善・充実について

 専修学校の改善・充実を進めていくためには、専修学校の制度的位置付けとその特徴を踏まえた検討を行うことが必要である。
 専修学校については、通学定期の指定基準等において、いわゆる1条校と異なる取扱いがされているとの指摘があり、その相違が適切かどうかについて議論がある。
 これらの取扱いについては、それぞれの制度ごとに個別に精査した上で関係府省庁等と協議を行う等、その改善に努めていくことが必要である。

 また、専修学校がその柔軟な制度的特徴を生かし、企業の求める有為な人材を多数輩出してきたという高い社会的評価を確立していることを踏まえ、その更なる振興方策について、通信教育制度の導入等の議論がなされた(参照:別添資料1)。これについては、今後、後述する新たな学校種等の重要課題と併せて、総合的に議論を深めていくことが適当である。

 加えて2.に述べた社会環境の変化に対応した専修学校の振興を図るため、社会的要請の高い課題に対する教育内容・方法の研究開発や高校生等に対する職業意識を醸成するための取組を進めるとともに、ニート・フリーター等の就職困難者に対する就業支援といった専修学校の職業教育機能を活用した取組を推進していくことが必要である。さらに、高度な人材の受入れとともに留学生が日本で就職し地域へ定着することができるよう留学生に対する就学支援を行う等、新たな課題に対する取組についても併せて推進することが重要である。

 この他、高まる社会人の学習需要に対応して学習機会を提供するため、例えば、昼夜開講や科目等履修制度の活用、産業界と連携した教育プログラムの開発の促進、専ら社会人を対象とする教育課程の提供等といったこれまでの取組をより一層促進することにより、専修学校が地域に根ざした学習需要に応える職業教育機関としての役割を果たすことも、重要な課題として引き続き検討を行うことが重要である。

3‐2.学校教育体系における専修学校の新たな位置付けについて

 本検討会議においては、前述の2.で指摘した社会環境の変化や新たな学校教育システムの在り方の必要性に照らし、専修学校の特徴・特色を踏まえた専修学校の更なる振興方策の一つとして、職業教育を専らの目的とする新たな学校種を創設することについて、問題提起がなされた。

 我が国の教育システムは、小学校・中学校・高等学校・大学という系統を基本としており、複線的に高等専門学校といった制度が設けられてはいるが、実際には、義務教育修了者のうち高等学校への進学率は約97パーセントを占め、高等専門学校への進学率は約0.9パーセントとなっている。また、高等教育機関への進学率(注1)は76.8パーセントであり、このうち大学への進学率は49.1パーセント、短期大学への進学率は6.3パーセント、高等専門学校4年次への進学率は0.9パーセント、専門学校への進学率は20.6パーセントとなっている(注2)。
 このような教育システムの中で、高等教育においては、キャリア教育・職業教育は、大学(注3)、短期大学(注4)、高等専門学校(注5)及び専修学校(注6)それぞれにおいて展開されている。変化する社会環境と社会から求められる人材の高度化や、学生の職業教育に対する要望の高まりから、今後も、高等教育機関において、多様な形で職業人の養成を目指した教育が展開されることが考えられる。このため、それぞれの学校の特徴を生かした取組が期待されるとともに、キャリア教育・職業教育を一層推進していくために、高等教育段階全体を俯瞰した視点からの総合的な検討が必要となっている。
 また、高等学校においては、高等教育機関と同様にその実態が多様化しており、社会の変化に適切に対応し、生徒の将来の人生設計に繋がる有用な教育機会を提供しているかについては、キャリア形成の支援という視点からすると不十分な面もあるのではないかとの指摘もある。

 このことから、キャリア形成の支援のための方策を検討していくに際しては、1既存の学校制度においてキャリア形成支援のための教育の更なる充実を図るのか、それとも、22.に見たような職業教育の改善・充実の必要性を受けて、職業を明確に意識した教育に特に重点を置き、学校教育の再構築に向けた方策をとるのか、という異なった考え方があり得るが、ここでは、後者の観点を含め、広く検討を行った。

 すなわち、実践的かつ専門的な職業人の養成にこれまでも大きな役割を果たしてきた専修学校が、より積極的にその機能を担うことが必要とされており、一定の質の高い教育を行っている専修学校については、我が国の職業教育体系を再検討する中で、専修学校制度とは別個の新しい学校種を創設し、振興策を講じる必要があるか否かを巡って議論がなされた。

 なお、中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」(平成17年1月)においても「職業教育をキーワードとした教育体系の中で、専門学校の中核的な役割や位置付けを明確にする必要がある」と指摘されているところである。

 具体的には、本検討会議において、職業教育を専らの目的とする新たな学校種(「新しい高等専修学校」(後期中等教育機関)及び「新しい専門学校」(高等教育機関))を創設し、学校教育法第1条に位置付けるべきとの提言(参照:別添資料2)について検討を行った。
 また、この提言においては、本制度設計に当たっての前提方針として、以下の3点が挙げられている。

  1. 現行の専修学校制度はそのまま残し、一定の基準を満たすもの(現行の専修学校に限定されない)が新たな学校種に位置付けられること
  2. 現行の他の学校種と棲み分けることのできる独自の目的規定を検討すること
  3. 新しい学校種に係る設置基準については、教育の質の保証、国際的通用性等に留意しつつ、独自の基準・要件の具体化を検討すること
  • (注1)大学・短期大学への入学者、高等専門学校4年次在学者、専修学校(専門課程)入学者を18歳人口で除した比率。
  • (注2)平成20年度学校基本調査(速報値)
  • (注3)学校教育法は大学の目的を、「学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させること」としている。
  • (注4)学校教育法は短大の目的を、大学の目的に代えて、「深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成すること」としている。
  • (注5)学校教育法は高等専門学校の目的を、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」としている。
  • (注6)学校教育法は専修学校の目的を、「職業若しくは実際生活に必要な能力を育成し、又は教養の向上を図ること」としている。

3‐3.専修学校の新たな位置付けに関する論点

 社会環境の変化に対応した人材育成の必要性やキャリア教育・職業教育の重要性を踏まえ、新たな学校種に関する提言について検討するに当たっては、以下のような論点を踏まえて検討を進めることが必要である。
 また、その際には、2.で述べたように学校教育全体の中での職業教育の意義・在り方についても総合的な検討が必要である。

(1)高等教育関係

 高等教育段階では、大学のキャリア教育重視の傾向が、従来から、きめ細かな職業教育を施してきた専門学校の機能・役割に近接してくるものと考えられることから、職業教育における大学と専門学校の本質的な相違をどこに求めるのか、高等教育が職業教育に果たすべき役割を踏まえながら、改めて議論する必要があると考える。
 すなわち、大学においては、平成3年の大学設置基準の大綱化以降、ユニバーサル化と言われる高い大学進学率を背景として、初年次教育や資格取得支援等を教育課程内外に位置付ける例が増えつつあること、就職支援を念頭に職業資格を意識した新しい学科が作られていること、基礎教育においてスキルの訓練に関する教育の比重が大きくなっていること等、学生の要望を反映した教育が大学の重要な役割として定着しつつある実態が指摘されている。
 他方、専門学校においても、4年制の課程の設置、修業年限の長期化や、一定の要件を満たす専門学校修了者への大学院入学資格の付与が行われるなど、教育の高度化が図られているといった実態がある。

 短期大学は、「深く専門の学芸を教授研究し、職業又は実際生活に必要な能力を育成すること」を目的とする短期の高等教育機関として、保育・幼児教育、家政、経営・実務、看護等の分野を中心に、職業教育や実際生活に必要とされる能力を身に付ける教育を行い、職業人の養成を目指した教育を行ってきたところである。今後、キャリア形成の支援の観点を踏まえた教育の推進が期待されるところであり、その在り方との関係を含めて今後議論していくことが必要である。

 高等専門学校は、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」を目的として、工業分野を中心に高等学校段階を含めた5年一貫の職業教育が行われてきた。しかし、工業分野及び商船分野以外の学科は、情報系や経営系の4学科に止まっているところであり、分野の拡大や高等学校等を母体とする新たな高等専門学校の設置の可能性等についても議論されている。新しい「職業教育」の在り方を考える上では、高等専門学校を巡る議論の動向や高等専門学校と高等学校等との関係も視野に入れて議論を進めることが必要である。

 職業人の養成を目指した教育を、高等教育段階において全体として推進していくために、大学・短期大学・高等専門学校・専門学校といった高等教育機関それぞれの学校種の目的・機能を踏まえた考え方の整理を行うことが必要である。
 その上で、職業教育機能に重点を置く新たな学校種の創設の検討に当たっては、当該学校種の目的について、他の学校種との関係で十分に検討を加えることが必要であり、更に、入学資格、修業年限、他の学校種との接続等についても、議論を深めることが求められる。

 その他、かつての専科大学構想(注7)、諸外国の制度(注8)や改革の動向等も十分勘案の上、議論を進める必要がある。

 なお、大学教育においては、社会や学生からの多様な要望に対応するためには、学部・学科等の組織に着目した整理から、学位を与える課程(プログラム)を中心とする考え方に再整理していくことが必要であるとの指摘があり、その仕組みの導入の是非についても、現在の中央教育審議会の審議事項となっていることにも留意する必要がある。

  • (注7)昭和33年の学校教育法の改正により、入学資格を高校卒業程度、修業年限を2年又は3年(必要がある場合には、3年の前期課程を有する5年制又は6年制とすることができる)とする、4年制大学とは別個の高等教育機関の創設を目指したもの。審議未了・廃案となった。その後、大学審議会において、短期大学又は高等専門学校の在り方に関する議論の中で、修業年限や名称、制度上の位置付け等について様々な意見が出されている。
  • (注8)例えば、ドイツは複線的な職業教育体系を有していること、アメリカのコミュニティカレッジはパートタイム学生の割合が多いこと等を参考とすることも考えられる。

(2)後期中等教育関係

 キャリア教育・職業教育を充実していく観点から学校の在り方を検討するに当たっては、高等学校等、後期中等教育との関係についても留意する必要がある。
 また、その際には、後期中等教育においては、進学率が97パーセントとなっている高等学校の在り方、すなわち、高等学校においては普通科(72パーセントが在籍)、総合学科(同4.5パーセント)、専門学科(同23パーセント)において一定の基準(学習指導要領)の下に多様な教育が展開されているが、このことについて、2.で見たような職業教育の充実の観点から、極めて多様化した生徒に対する教育の在り方としてどう考えるのかということも課題となる。
 さらには、義務教育修了段階から一貫した職業教育を行っている高等専門学校の位置付けについても視野に入れる必要がある。
 また、専修学校高等課程(高等専修学校)の在り方についても、このような後期中等教育段階における学校教育の在り方や高等教育との接続との関係から検討を加えていくことが求められる。

(3)論点のまとめ

 以上に述べてきたように、キャリア教育・職業教育の重要性や、その更なる充実の必要性は十分に認められるところであり、本検討会においては、キャリア教育・職業教育の重要性を踏まえ、新たな学校種の創設が必要であるとの提案について検討を進めてきたところである。
 その中で、1既存の学校制度においてキャリア形成支援のための教育の更なる充実を図るのか、それとも、2職業を明確に意識した教育に特に重点を置き、学校教育の再構築に向けた方策をとるのか、という二つの考え方があるが、後者の考え方をとる場合、以下の論点を踏まえて、今後、更に議論を深めることが必要である。

 現行の各学校種、すなわち大学、短期大学、高等専門学校、高等学校等の目的や機能との関係をどのように明確に整理していくのか
 また、そのことによって、職業教育を一層推進していくという観点から、現行制度に比べて学校教育体系全体としてどのような改善が期待できるのか、再構築を図るとした場合に課題はないのか

 上記についての整理を踏まえて、新たな学校種についての1.校地・校舎・施設設備、2.教員資格・教員数、3.教育方法、等に関する設置基準をどのように設定するのか

 職業教育の一層の推進を図るという観点から、制度的な柔軟性を特徴とする現行の専修学校の役割、機能について、どのように評価し、これを位置付けるのか

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総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室

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