社会的な要請に応える実践的な職業教育を行う機関としての性格を有する専修学校の今後の在り方の検討に当たっては、1.に述べた専修学校の現状等を踏まえ、以下のような社会環境の変化を勘案することが必要である。
企業においては、労働力人口の減少期にあって、労働者一人一人の能力を高めることにより労働生産性を向上させ国際競争力を高めていくことが必要であり、基礎・基本、汎用的能力に裏打ちされた専門性を有する人材が求められている。
企業が新規学校卒業者に求める能力と、大学や専修学校等における教育内容や学生等が実際に身に付ける能力とのミスマッチが従来から指摘されている。近年では産業界が求める能力として、単に即戦力だけではなく多様な局面に対応できる基礎的な能力が挙げられており、「就職基礎能力(注8)」や「社会人基礎力(注9)」等の指針も示されている。
また、近年は、一部の企業を除いては、かつてのように企業内において人材を育成・研修していくことのできる余裕がなくなりつつあると言われており、企業外における教育・訓練の比重が相対的に高まる傾向が見られる。
さらに、ニート、フリーターの数や非正規雇用の割合も依然として高く、こういった就業形態で働く期間が長期化すればするほど労働生産性の向上が危ぶまれ、個人の能力形成や自立も一層困難となることが予想される。
このような厳しい状況を背景として、社会的・職業的に自立して生きるためには、社会の変化や技術の高度化に対応するために、個人の知識・技能を社会で必要とされるものへと発展させることが必要である。単に職業に必要な固有の技能や技術を身に付けるだけではなく、身に付けた知識・技能を、社会の変化に対応したものとなるように進化させていく力を身に付けることが必要である。
また、自ら得意とする領域や分野における専門性を深化させ、その分野を切り口として関連する領域へとその能力を展開させていくことも考えられる。
個別の職業に必要とされる専門的な能力に加えて、職業を通じて必要とされる基礎的な能力の習得が必要であると言える。
社会環境が複雑化し、様々な変化が見られる現状において、若者が雇用や職業に関して生涯にわたっての人生設計を立て、社会的・職業的に自立していくことは難しくなってきている。
このような状況を反映して、職業意識の低下や自らのキャリアの目標を持てない若者が多く見られる現状において、個人が職業又は働き方に関する目的意識を明確に持ち、職業生活を安定して営むとともに、将来にわたる生活基盤を確保することが重要である。こういった観点からも就業意識の変化や多様化に対応した社会からの支援や教育システムの整備が必要とされている。
また、現行の教育システムにおいては、職業教育は、将来の社会生活に必要とされる基礎的な能力を身に付けることから始まり、その基本の上に専門性を身に付ける段階に進むという考え方をとっている。このような方法をとることで、具体的な職業との繋がりは見えにくくなり、教育を受ける側の職業観や職業意欲を育てることが困難であるという面も指摘できる。
これに対して、特定の職業との結びつきを明らかにした職業教育を行い、その職業に必要とされる専門的能力を深めていく中で、基礎的な能力を身に付けていく方法も考えられる。より実践的な教育を行うことを通じて職業への意欲を持続させつつ、高度な専門性と基礎的な能力を有し社会の変化に対応していく能力を持った人材を育成していくことが可能となるのではないかと考えられる。
職業を明確に意識した教育システムを整備することにより、職業選択に係るモラトリアムの長期化を防ぎ、個人の職業人としての自立を促すことが重要な課題となっている。
そのためには、初等中等教育から高等教育にかけて、様々な段階において行われている「キャリア教育」や「職業教育」(注10)について、その全体像を把握し、その考え方と具体的な在り方について総合的に検討を行うことが必要である。
社会環境が多様化することに伴い、特定の知識や技能だけでは十分に対応できず、多面的な能力が必要とされる等、個人に求められる職業に関する能力が変化している中で、専修学校の在り方についても社会の変化との関わりの中で見つめ直すことが必要である。
具体的には、キャリア教育によって培われた職業観等の上に立ちながら、専門教育を通じて職業に必要な知識・技能の習得等を目指す教育イコール職業教育についての新しい在り方が必要となっている。
すなわち、個人がキャリアに対する目標を明確に持ち、将来にわたって職業生活を安定して営むためには、高等学校段階から高等教育段階を通じて特定の専門的能力を身に付けるとともに、それを支える基礎的な能力を習得することができるよう個人に対するキャリア形成の支援を適切に行うことが課題となっている。
もとより、専修学校は、社会からの多様な要請に応えることができるように、柔軟な制度設計の下に多様な教育が行われているところであるが、専修学校の教育内容自体についても、社会からの要請に対応し職業人を育てていくため、より一層充実させていくことが必要である。
さらに、今後、2‐1.2‐2.で述べたような教育の在り方・課題を踏まえ、専修学校のみではなく、大学・短期大学・高等専門学校・高等学校等の教育全体を俯瞰して、必要な見直しを図り、新しい「職業教育」のシステムを形成していくことが求められる。
総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室