2.社会環境等の変化に対応した若者の社会的自立を促す教育の在り方

 社会的な要請に応える実践的な職業教育を行う機関としての性格を有する専修学校の今後の在り方の検討に当たっては、1.に述べた専修学校の現状等を踏まえ、以下のような社会環境の変化を勘案することが必要である。

  1. 人口減少・少子高齢化
     人口の自然減は、労働力人口への影響も不可避であり、労働力人口は、2005年から2030年の間には年率マイナス0.9パーセント、2030年から2055年の間には、年率マイナス1.5パーセントと、より急速に減少する見通しである(注1)。
  2. 企業内職業訓練の規模の縮小
     1990年代以降の経済活動、企業の経営財務状況の悪化等を背景に、現金給与を除く労働費用(使用者が労働者を雇用することによって生じる一切の費用)に占める教育訓練費の割合は、平成18年度においては1.8パーセントとなっている(注2)。前回平成14年の調査(1.5パーセント)より改善してはいるものの平成3年の規模(2.2パーセント)にまでは回復しておらず、企業内における教育・訓練の規模は依然として低調である。
  3. 就業構造の変化
     労働市場においては、パート・派遣・契約社員等の非正規雇用の割合が年々増加し、雇用者に占める非正規雇用の割合が約3割を超える等、就業形態の変化が進んでいる。特に、若年層における非正規雇用の割合は、過去20年間で、男性で約6倍、女性で約4倍となっており、急激な増加が見られる(注3)。
  4. 厳しい若年者雇用状況
     全年齢層の完全失業率は、3.9パーセントであるが、15歳から24歳の完全失業率は7.7パーセントと他の年齢層に比較して高い水準で推移している(注4)。
     また、若年無業者(いわゆるニート)(注5)の数は、ピーク時(平成14年から平成17年の間)の64万人に比べて2万人減少したものの高止まりしている状況であり、フリーター(注6)の数は、平成15年度の217万人をピークとして減少傾向にあり181万人(平成19年度)となっているものの、同年齢人口に対する比率は6パーセント前後で高止まりしており、依然として厳しい状況にある。
     また、中学校卒の約67パーセント、高等学校卒の約48パーセント、短期大学・専門学校卒の約44パーセント、大学卒の約36パーセントが就職後3年以内に離職しており、若年者の離職率も高止まりしている(注7)。
  • (注1)国立社会保障・人口問題研究所調査
  • (注2)厚生労働省「就労条件総合調査結果」(平成18年度)
     なお、「労働費用」とは、使用者が労働者を雇用することによって生じる一切の費用(企業負担分)をいい、「現金給与額」のほか、「法定福利費」、「法定外福利費」、「退職給付等の費用」、「教育訓練費」、「募集費」等をいう。
  • (注3)総務省統計局「労働力調査」
  • (注4)総務省統計局「労働力調査」
  • (注5)15歳~34歳で非労働力人口のうち家事も通学もしていない者
  • (注6)15歳~34歳で、男性は卒業者、女性は卒業者で未婚の者のうち、1雇用者のうち『パート・アルバイト』の者、2完全失業者のうち探している仕事の形態が『パート・アルバイト』の者、3非労働力人口のうち希望する仕事の形態が『パート・アルバイト』で、家事も通学も就業内定もしていない『その他』の者
  • (注7)「新規学校卒業就職者の就職離職状況調査結果」及び厚生労働省職業安定局調べ
     なお、当調査は、雇用保険被保険者の記録を基に算出しており、新規に被保険者資格を取得した年月日と生年月日により各学歴に区分されている。

2‐1.社会から求められる今後の職業教育の在り方

 企業においては、労働力人口の減少期にあって、労働者一人一人の能力を高めることにより労働生産性を向上させ国際競争力を高めていくことが必要であり、基礎・基本、汎用的能力に裏打ちされた専門性を有する人材が求められている。
 企業が新規学校卒業者に求める能力と、大学や専修学校等における教育内容や学生等が実際に身に付ける能力とのミスマッチが従来から指摘されている。近年では産業界が求める能力として、単に即戦力だけではなく多様な局面に対応できる基礎的な能力が挙げられており、「就職基礎能力(注8)」や「社会人基礎力(注9)」等の指針も示されている。

 また、近年は、一部の企業を除いては、かつてのように企業内において人材を育成・研修していくことのできる余裕がなくなりつつあると言われており、企業外における教育・訓練の比重が相対的に高まる傾向が見られる。
 さらに、ニート、フリーターの数や非正規雇用の割合も依然として高く、こういった就業形態で働く期間が長期化すればするほど労働生産性の向上が危ぶまれ、個人の能力形成や自立も一層困難となることが予想される。

 このような厳しい状況を背景として、社会的・職業的に自立して生きるためには、社会の変化や技術の高度化に対応するために、個人の知識・技能を社会で必要とされるものへと発展させることが必要である。単に職業に必要な固有の技能や技術を身に付けるだけではなく、身に付けた知識・技能を、社会の変化に対応したものとなるように進化させていく力を身に付けることが必要である。
 また、自ら得意とする領域や分野における専門性を深化させ、その分野を切り口として関連する領域へとその能力を展開させていくことも考えられる。
 個別の職業に必要とされる専門的な能力に加えて、職業を通じて必要とされる基礎的な能力の習得が必要であると言える。

  • (注8)厚生労働省において、企業が若年者に求める就職基礎能力を5つの領域(1.コミュニケーション能力、2.職業人意識、3.ビジネスマナー、4.基礎学力、5.資格取得)に分け、それぞれについて修得の目安を提示している。(平成18年)
  • (注9)経済産業省において、企業が社会人に求める基礎的な能力を3つに分類しそれぞれの能力要素を提示している。(平成18年)

2‐2.職業人としての社会的自立を促す今後の教育の在り方

 社会環境が複雑化し、様々な変化が見られる現状において、若者が雇用や職業に関して生涯にわたっての人生設計を立て、社会的・職業的に自立していくことは難しくなってきている。
 このような状況を反映して、職業意識の低下や自らのキャリアの目標を持てない若者が多く見られる現状において、個人が職業又は働き方に関する目的意識を明確に持ち、職業生活を安定して営むとともに、将来にわたる生活基盤を確保することが重要である。こういった観点からも就業意識の変化や多様化に対応した社会からの支援や教育システムの整備が必要とされている。

 また、現行の教育システムにおいては、職業教育は、将来の社会生活に必要とされる基礎的な能力を身に付けることから始まり、その基本の上に専門性を身に付ける段階に進むという考え方をとっている。このような方法をとることで、具体的な職業との繋がりは見えにくくなり、教育を受ける側の職業観や職業意欲を育てることが困難であるという面も指摘できる。
 これに対して、特定の職業との結びつきを明らかにした職業教育を行い、その職業に必要とされる専門的能力を深めていく中で、基礎的な能力を身に付けていく方法も考えられる。より実践的な教育を行うことを通じて職業への意欲を持続させつつ、高度な専門性と基礎的な能力を有し社会の変化に対応していく能力を持った人材を育成していくことが可能となるのではないかと考えられる。
 職業を明確に意識した教育システムを整備することにより、職業選択に係るモラトリアムの長期化を防ぎ、個人の職業人としての自立を促すことが重要な課題となっている。

 そのためには、初等中等教育から高等教育にかけて、様々な段階において行われている「キャリア教育」や「職業教育」(注10)について、その全体像を把握し、その考え方と具体的な在り方について総合的に検討を行うことが必要である。

  • (注10)「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議」(平成16年1月文部科学省報告書)においては、学校における「キャリア教育」とは、「児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリアを形成していくために必要な意欲・態度や能力を育てる教育」であると捉え、端的には、「児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てる教育」と定義付けている。また、「職業教育」は、「キャリア教育の中核をなすものであり、職業に従事する上で必要とされる知識、技能、態度を習得させることを目的として実施される教育」としている。

2‐3.専修学校と新しい「職業教育」

 社会環境が多様化することに伴い、特定の知識や技能だけでは十分に対応できず、多面的な能力が必要とされる等、個人に求められる職業に関する能力が変化している中で、専修学校の在り方についても社会の変化との関わりの中で見つめ直すことが必要である。

 具体的には、キャリア教育によって培われた職業観等の上に立ちながら、専門教育を通じて職業に必要な知識・技能の習得等を目指す教育イコール職業教育についての新しい在り方が必要となっている。

 すなわち、個人がキャリアに対する目標を明確に持ち、将来にわたって職業生活を安定して営むためには、高等学校段階から高等教育段階を通じて特定の専門的能力を身に付けるとともに、それを支える基礎的な能力を習得することができるよう個人に対するキャリア形成の支援を適切に行うことが課題となっている。

 もとより、専修学校は、社会からの多様な要請に応えることができるように、柔軟な制度設計の下に多様な教育が行われているところであるが、専修学校の教育内容自体についても、社会からの要請に対応し職業人を育てていくため、より一層充実させていくことが必要である。
 さらに、今後、2‐1.2‐2.で述べたような教育の在り方・課題を踏まえ、専修学校のみではなく、大学・短期大学・高等専門学校・高等学校等の教育全体を俯瞰して、必要な見直しを図り、新しい「職業教育」のシステムを形成していくことが求められる。

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(総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室)