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6.今後の展開について
6.5 生涯学習事業企画者のための生涯学習情報の内容と分類
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はじめに |
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本検討会における数回にわたる検討を通じ、今後、国が体系的な生涯学習情報提供の体制整備を図っていく上での学習情報の分類の枠組が示された。すなわち、生涯学習情報提供を誰が利用するのかという利用主体と、誰が情報を保有しているかという情報の保有主体という2つの分類のための視点である。ここでは、利用主体については「学習者」「学習者兼企画者(提供者)」「企画者(提供者)」の3者を設定し、情報の保有主体については「国」と「地方」とした。ここで示された生涯学習情報の分類のための枠組は、今後、具体的な体制整備の状況を把握することにおいて、さらには具体的な整備を図っていく際にも有効に活用できるものと思われる。
この枠組の中の利用主体には、学習者とともに「企画者(提供者)」が設定されている。生涯学習情報の利用は、これまで学習者(学習希望者も含める)に主眼が置かれていた。これは、今後も変わることはないだろう。しかし、学習者の生涯学習支援を念頭においた生涯学習情報提供が、学習者による利用だけでなく、学習機会を企画する立場の者、あるいは学習情報を提供する立場の者も利用し、かつこれらの者にとって有益であるという点を取り上げ、企画者(利用者)を利用主体の一つに設定した点は意味があることである。従来からも、実際上は他の地域の事例を参考にした学習事業の企画が広く行われ、経験上、生涯学習情報の有用性は誰もが認めている。学習者の立場に立った生涯学習情報提供の内容・方法等の検討は数多くあるが1)、企画者の側から具体的に分析・検討している例はほとんどみられない。
そこで、ここでは、生涯学習情報が企画者(提供者)によってどのように利用されるかについて検討をしてみたいと思う。具体的には、生涯学習事業の企画・展開のプロセスにそってどのような生涯学習情報が必要とされるかを考え、企画者向けの生涯学習情報提供の課題を示そうと思う。
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1 |
企画者向けの生涯学習情報 |
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(1) |
事業展開のプロセス |
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生涯学習事業の企画者が生涯学習情報提供を利用する主な目的は、入手した学習情報を参考にして、自らの生涯学習事業の展開に生かすことといえる。本稿のねらいは、そのような場合にどのような学習情報を参考にするのか、あるいはどのような学習情報が参考になるのかを検討することである。これまでの学習者向けの学習情報については、学習者の学習プロセスにそって必要と思われる情報が検討されてきているので、そのような情報の中で企画者にも参考になる情報は何かという検討では十分ではない。今後、企画者向けの学習情報提供の充実を図っていくとすれば、学習者とは別に、企画者の立場から必要な生涯学習情報を検討していくことが重要ではないだろうか。
そこで、先にも述べたように企画者の場合は生涯学習情報を生涯学習事業の展開に生かすので、学習者の場合の学習プロセスと同様に考えれば、生涯学習事業の展開プロセスにそった生涯学習情報を検討してみてはどうかと思う。生涯学習事業の展開には、企画、実施、評価のプロセスがある。さらに、企画の段階は、事業テーマの設定、事業プログラムの編成、広報の具体的な段階が考えられる。このプロセスにそって、具体的にどのような生涯学習情報が必要となるか検討してみよう。
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(2) |
企画者向けの生涯学習情報 |
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表6.5−1は、事業展開プロセスにそって、企画者に必要と思われる生涯学習情報の例を示したものである。表の左の欄が事業展開のプロセスを示している。事業展開は、企画、実施、評価の3つにわけられているが、それらすべてにかかわる生涯学習情報もあり得るので、プロセス全般に関わる内容、あるいは企画、実施、評価の3つに共通する内容についてはこの欄を活用する。
表に示した生涯学習情報について、主なものについて説明しておきたい。プロセス全般に関わる内容として、生涯学習・社会教育行政情報がある。これは国全体の生涯学習・社会教育行政の現状、方向性に関わる情報だけでなく、都道府県、市町村等の行政情報も含んでいる。生涯学習・社会教育の動向を把握した生涯学習事業の展開が必要なことから取り上げたものである。
企画のプロセスでは、まず事業テーマの設定がある。事業を実施する地域はもちろんのこと、全国的な生涯学習のニーズ、学習の実態をとらえておく必要があるだろう。また、どのようなテーマが事業テーマになり得るかを一覧できるような事業テーマの情報も有効である。学習機会情報とモデル事業の情報は、まさに他の先進的な事例、優良な事例を参考にした事業の企画には有効だと思われる。最後のテーマ設定の課題等についてアドバイスとなる情報には、テーマ設定についての質問事例を集めた情報や、直接、専門家などから得られる情報などが考えられる。
事業プログラム編成の段階は、事業テーマにそって具体的な事業計画を作成する段階である。この段階でも、学習機会情報やモデル事業の情報は有効である。また、実際の事業を実施するには、教育・学習施設の情報、指導者やボランティアなどの人的情報や団体の情報等が必要である。事業プログラム評価についての情報とは、編成したプログラムを事前に評価するための情報で、プログラム評価のためのチェック項目の情報などがあるとより質の高い事業プログラムの編成が期待できる。
企画のプロセスの最後は広報である。どのように事業の広報・PRすればよいのか、効果的な広報・PRの方法はどのようなものかなどの情報は、受講者の獲得には必要不可欠な情報である。
表6.5−1 企画者に必要または参考になると思われる生涯学習情報の例
事業展開プロセス |
事業展開プロセスの具体的内容 |
生涯学習情報 |
プロセス全般 |
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事業展開の全般 |
生涯学習・社会教育行政情報 |
企画 |
事業テーマの設定 |
生涯学習のニーズと実態についての情報
事業テーマについての情報
資格情報
学習機会情報
モデル事業の情報
事業テーマの設定上の課題等についてアドバイスとなる情報 |
事業プログラムの編成 |
学習機会情報
モデル事業の情報
教育・学習施設情報
学習グループ・サークル情報
指導者情報
ボランティア情報
NPO、団体情報
学習資源情報
事業プログラム編成の方法についての情報
事業プログラム編成上の問題等についてアドバイスとなる情報
事業プログラム評価の方法についての情報 |
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広報 |
広報・PRの方法についての情報
広報・PRの課題についてアドバイスとなる情報 |
実施 |
事業運営 |
事業運営の方法についての情報
事業運営上の課題等についてアドバイスとなる情報 |
評価 |
事業評価 |
事業評価事例の情報
事業評価の方法についての情報
事業評価の課題等についてアドバイスとなる情報 |
続く第2の実施のプロセスでは、例えば事業当日の運営方法、会場設営などについての情報は、事業の円滑な運営にとって有効であろう。
第3に評価のプロセスでは、事業評価事例の情報を取り上げている。生涯学習事業においても評価が求められる現在において、具体的な事業評価の事例は自らの事業の評価に大いに参考になると思われる。一方、事業評価の方法についての情報は、事業評価事例とは異なって評価の方法的側面に特化した情報で、評価の手順などを想定したものである。 |
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2 |
成果と課題 |
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以上のように生涯学習事業の企画者のため生涯学習情報提供を検討したことには、次のような成果と課題がある。第1は、これまでは学習者のための生涯学習情報を企画者が副次的に利用するという状況であったが、企画者のための生涯学習情報提供とその体制整備が必要であることを示したことである。
第2は、第1の点の延長にあるものであるが、学習情報の概念の再検討の必要性が感じられることである。従来の学習情報のとらえ方は学習者の立場からのものであるので、今回示した情報を案内情報、内容情報、アドバイス情報といったこれまでの仕方で分類しようとしても的確に行えない、という問題がある。この点は、今後の検討課題であろう。
第3は実践上の問題である。多岐にわたる生涯学習事業の情報が提供されることには、その内容や方法を広く普及するという点においては有意義である。その一方で、生涯学習事業の事例データが多くなることが、却ってそれぞれのオリジナリティを低下させてしまうのではないかという危惧もある。つまり、よいと思われる事例の安易な模倣が広がることへの懸念である。よいと思われる事例を見本として参考とすること自体は決して悪いことではないが、それは個々の特徴を生かした上でのことであることを留意しておく必要があろう。
(注1)生涯学習情報提供の研究の中で本稿と密接に関わるものでは、高橋利行「学習プロセスと学習支援情報」、浅井経子編『生涯学習概論』、2002、理想社、pp.185-191がある。ここでは学習者の学習プロセスにそって、どのような学習情報が必要かを示している。 |
秋田大学教育文化学部助教授 原 義彦
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