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資料2

スウェーデンの教育バウチャー制度

聖心女子大学助教授 澤野由紀子

1. スウェーデンにおける教育バウチャー制度導入の経緯

(1) 教育行財政の地方分権化
1970年代からの教育行財政の地方分権化:教育に関する権限を中央政府からコミューンへ委譲
1980年代末に学校改善のための学校選択制導入に関する議論が活発化:社民党は学校内の教育プログラムの多様化により選択の幅を拡大する方向を提案
1991〜1994年 中道保守連合政権下における教育改革:さらなる地方分権化の推進、各学校の教育活動と組織、教職員人事に関する規制緩和
1994〜2006年 社民党政権下においても地方分権・規制緩和の方針を維持しながら中央からの質保証のシステムを確立:目標による管理、全国学力調査の実施、視学官による学校監察

(2) 学校選択の自由化:競争の原理導入による学校改善
1991年   義務教育段階の私立学校に対する公費補助の開始(国の定める教育課程規準の遵守等を条件に、費用の85パーセント以上)
1992年 「選択の自由と私立学校」法により基礎学校(義務教育)に「教育バウチャー制度」を導入→学区内における公・私立学校の選択を自由化
1994年 高等学校にも「教育バウチャー制度」を導入

政党による考え方の相違
穏健党 すべての学校を独立学校ないしは私立学校とし全国共通の教育バウチャー制度を導入することによって、居住地に関係なく学校選択を自由化することを主張
社民党 公立学校と私立学校を同等に扱う「真の学校選択制」を目指す

2. スウェーデンの「教育バウチャー制度」の特色

利用券は発行されない。児童生徒一人当たり教育費を児童生徒数で算定した金額が地方政府から学校に支給されるシステム。
私立学校にも支給される:私立学校へのバウチャー額は、一時は公立学校の75パーセントにまで削減されたものの1997年以降は原則として同額(100パーセント)となった。ただし、教育バウチャーによる公費補助を受けている私立学校が授業料を徴収することは教育法により禁じられている。(授業料以外の収入を得ることは可能。)
基礎学校の児童生徒一人当たり教育費は、各コミューンの議会が0〜5学年と6〜9学年に区分して定める。義務教育段階の教育費には、1)通常の学校教育費、2)特別支援が必要な児童生徒のための追加費用、3)スウェーデン語以外の母語教育のための費用の3つにより構成される。(表はストックホルム市の例)

表1. ストックホルム市の児童生徒一人あたり年間教育費配分額
  2003年1月1日
(クローナ)
2004年1月1日
(クローナ)
私立義務教育学校教育 0〜5学年 52,190(注2) 52,769(注2)
私立義務教育学校教育 6〜9学年 66,310(注2) 67,110(注2)
母語教育 0〜9学年(注1) 10,960 11,180
インターナショナル・スクール 0〜3学年(注1) 14,400 14,400
インターナショナル・スクール 4〜6学年(注1) 15,920 15,920
インターナショナル・スクール 7〜9学年(注1) 22,060 22,060
高等学校 75,100 70,900
特殊教育学校 270,000 270,000
学童保育において介護も受ける特殊教育学校の児童生徒 151,600 151,600
課外で短時間指導を受ける特殊教育学校の児童生徒 151,600 151,600
移民のためのスウェーデン語講座 22,920 22,920
(注1) 6パーセントの補助金付加価値税を含む
(注2) 6パーセントの補助金付加価値税を除く
 公立義務教育学校の児童生徒一人当たり教育費と同額
(資料) ストックホルム市教育委員会提供

3. 「教育バウチャー制度」の効果と問題点

(1) 効果
多様な教育実践を行う私立学校が着実に増加し、在籍者数も増えている(基礎学校約6パーセント、高等学校約10パーセント)
競争の原理により、公立学校の教育の質も高くなっている。とくに私立学校のある地域では、周辺の公立学校のパフォーマンスも向上する傾向がみられる。
父母、児童生徒の大半は、学校を自由に選べること、学校の質が改善されることを歓迎している。
教員組合からも支持を得ている。1991年の教育の人事権の地方への委譲に続き、1996年から教員給与が個別化したことから、教員自身にとっても勤務先の選択の幅が広まり、より待遇の良い学校を選ぶことができるようになったため。
貧しい家庭の子どもも質の高い教育を行っている学校を選択できるようになり、階層間格差の是正に貢献している。

(2) 問題点
大都市に住む高学歴の親ほど子どもに質の高い教育を受けさせることに熱心であるという傾向が認められ、学歴格差の再生産が危惧されている。
私立学校の普及により、宗教・民族による分離が助長される傾向がみられる。
公立学校と私立学校の間に学力格差が生じている。(資料2、3)



(資料) Skolverket
 スウェーデンの私立基礎学校数(種類別)

<参考>
  スウェーデンの学校系統図



  表2.2002/3年度第9学年の生徒の成績(PDF:67KB)
表3.2002/3年度私立学校第9学年の生徒の成績(PDF:67KB)


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