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教育バウチャーについて(説明メモ)

2006年3月10日
神戸大学 小塩隆士

1. 教育と市場原理

 
正当化される教育への政府の関与
  外部効果、情報の非対称性、成果の不確実性
その一方で、消費者の選択の自由も最大限尊重すべき
さらに、教育が持っている特徴にも注意する必要
  ピア効果
  消費者による生産への関与
  公平性から見た問題点
⇒単純な市場競争をイメージして議論するのは不適当

2. 教育バウチャーに期待される役割

 
教育に対する政府の財政的支援
教育をめぐる選択の自由の拡大 この2つの狙いを両立させる
しかも、学校間競争による教育サービスの効率化も期待される

しかし、公立校の自由選択制を超える、追加的な意義はあるか
地方(過疎地)ではそもそも競争が成立しないではないか

⇒私立校との選択が重要なポイント

3. バウチャー制度の効果:簡単なモデルによる思考実験(小中学校を想定)

 
(1)  前提
  4人の子供:学力と親の所得の組み合わせで4つのタイプ
  親の所得:高い 親の所得:低い
学力:高い 1 2
学力:低い 3 4

 
学校: 公立校   授業料なし学力に無関係に入学できる
私立校 授業料あり学力が高くなければ入学できない
  教育費 1人当たり年間100万円 単純化のため、公立・私立で同じと仮定公立校の授業料は税金で賄う

(2)   バウチャー導入前

234 公立校に通う
1 私立校に通う
 親1人当たり税金 75万円かっこイコール100万円かける3人わる4人)
   政府の教育予算 300万円
  (この税額・予算規模は、バウチャー導入後も変化しないとする)

  ピア効果 34:学力の高い2からよい影響を受けている

(3)   バウチャー導入後

1 私立校に通い続ける
34 公立校に通い続ける(バウチャーを受け取るが、私立校に不合格)

2はどうか

1 バウチャーの額が低すぎる場合 公立校に通う
  公立校に通う子供は、導入前と同じく、234の3人
⇒教育予算300万円はこの3人の公立校での教育にすべて使われ、バウチャーは供給できず

2 バウチャーの額が十分高い場合 私立校に通う
  公立校に通う子供は、34の2人
12は私立校に通い、バウチャーの額面分だけ負担軽減
⇒教育予算300万円のうち、公立校での教育費は200万円(2人分)
バウチャーの価値は1枚当たり50万円かっこイコールかっこ300万円ひく200万円とじかっこわる2人とじかっこ
(※34にも額面50万円のバウチャーが渡されるが、公立校に通うので授業料は無料であり、彼らにとって50万円という金額は実質的に無意味)

  結局、バウチャー導入がもたらす変化は…
学力は高いが、親が低所得であるために公立校に通っていた2が(経済的な支援を受けて)私立校に通うようになること

(4)   各人にとっての効果を比べてみる
1 私立校に通い続けるが、バウチャーの50万円だけ得をする
34 公立校に通い続け、所得面の影響はなし
学力の高い2がいなくなり、良好なピア効果をもはや享受できず
2 所得面では不利になったが(授業料からバウチャーを差し引いた分)、ピア効果の改善がそれを上回る(だからこそ私立校に移った)
要するに、バウチャー導入は、学力の高い12に有利に働く(さらに、所得の高い1のほうが、低い2より有利になっている可能性も)

4. モデルが示唆すること

  このモデルでは、学校間の競争がもたらす効率化などのメリットを無視しているので、教育バウチャーの効果を総合的に評価するものではない。しかし、制度導入に当たって、次のような点を留意することが示唆される。

 
(1)   制度導入のメリットが一様には働かないこと
学力の高い子供に有利に働く
しかも、学力が高くて所得面でも余裕のある子供ほど有利になる可能性も

(2)   子供の行動変化により、学校や子供の階層化が進む可能性があること
さらに、ピア効果が格差を広げる可能性もある

←こうした問題は、教育に何を求めるか(例えば、エリート教育の是非)、とか、税などほかの所得再分配の仕組みをどう設定するかにも依存する。

(備考) 経済学サイドからの教育バウチャーの基本的な考え方については、各種学術論文のほか、Johnes, G.(1993), The Economics of Education, Macmillan; Belfield, C. R.(2001), Economic Principles for Education, Edward Elgar; Hoxby, C. M. ed.(2003), The Economics of School Choice, The University of Chicago Press; Levin, H. M. ed.(2001), Privatizing Education, Westviewなどの関連章を参照。


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