資料44 |
大学等における社会人受入れの推進方策について(答申)(抄) |
平成14年2月21日
中央教育審議会
具体的な方策
1 |
学生が個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得する仕組み(長期履修学生)の導入 |
現在,我が国の大学においては,職業等を有しながら学習を希望する人々の様々な学習需要に対応し,多様な履修形態で卒業・修了要件を満たし,学位等を取得できるよう,夜間において教育を行う学部等及び通信による教育を行う学部等が設置されているほか,昼夜開講制により授業を行うことができることとされている。
また,大学等が提供する授業科目等を学生が自らの希望に応じて適宜選択し単位を修得することができる制度として,科目等履修生制度が設けられている。科目等履修生は非正規の学生であり,科目等履修生としての単位修得のみをもって学位を取得することはできないこととされている。
このように様々な履修形態上の工夫が行われているものの,正規の学生として卒業・修了要件を満たし学位等を取得するためには,大学等が編成する教育課程を修業年限に応じて履修することが必要であり,個人の事情に応じて修業年限を超えて履修を行う場合は,現状では一般的に留年や休学として取り扱われている。
一方,諸外国においては,個人の事情に応じて修業年限を超えて履修を行い,学位を取得する正規の学生(いわゆるパートタイム学生)が制度的に存在しており,平成12年の大学審議会答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」においても,このような制度の導入についての検討が求められている。
学生が留年や休学として取り扱われることなく,個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修し学位等を取得できるようにすることは,職業等に従事することにより日常的に様々な制約を抱える人々の学習を容易にし,各大学等におけるこれらの人々の受入れを一層活発化すると考えられる。
また,このことにより,通常の修業年限で卒業・修了することを予定していたものの,在学中に起きた何らかの事情で勉学意欲がありながら予定していた学習が困難となった学生が,留年,休学,退学をすることなく,学習を継続することも可能となると考えられる。
さらに,昨今,自らの進むべき道を模索する若年層が増加しつつあるが,これらの人々が学問を通じて教養を身に付けたり専門的知識に触れたりする機会を拡大し,自らの社会的な役割を認識する契機の一つとなるとも考えられる。
以上のことを踏まえ,職業等に従事しながら大学等で学ぶことを希望する人々の学習機会を一層拡大する観点から,個人の事情に応じて柔軟に修業年限を超えて履修を行い学位等を取得できる新たな仕組みを,各大学等が各々の判断で導入できることとすることが必要である。
その際,学生個人の事情に応じて柔軟な履修を可能とする観点から,できる限り弾力的な仕組みとすることが適切である。
(1) 対象となる学生の位置付け
上記のような新たな仕組みの導入を各大学等において積極的に推進していくに当たっては,対象となる学生の位置付けを明確にしておく必要がある。
当該学生は,職業等との兼ね合いにより,通常の修業年限在学する学生よりも1年間又は1学期間に修得可能な単位数が限定されるため,修業年限を超えて在学することを予定し,それを各大学等があらかじめ認めた上で在学し,各大学等の定める単位の修得等の要件を満たして卒業・修了することにより,学位等を取得する正規の学生(以下「長期履修学生」という。)と定義することができる。
(2) 長期履修学生を受け入れる高等教育機関
人々の多様な学習需要に対応し,高等教育機関における学習機会をできるだけ拡大する観点から,各機関の特性を踏まえつつ,それぞれの機関の判断により長期履修学生を柔軟に受け入れることができることとすべきである。
大学の学部においては,高等教育に対する多様な学習需要に幅広くこたえるために,長期履修学生を積極的に受け入れていくことが期待される。
また,大学院においては,職業上必要な高度専門的知識・能力を修得することを目的として入学を希望する社会人が今後一層増大し,これに伴い,学習時間等の制約により標準修業年限を超えて学習することを求める者が今後増大することが考えられることから,大学院においてもこのような需要に適切に対応して長期履修学生を受け入れていくことが望まれる。なお,現在でも大学院修士課程においては,社会人の多様な学習需要にこたえるため,あらかじめ長期の教育課程を編成し,標準修業年限を2年を超えるものとすることができることとされている(大学院設置基準第3条第2項に基づくいわゆる長期在学コース)。一方,長期履修学生は,学生個人の事情により,大学等が標準修業年限に従って編成する教育課程の期間を超えて在学するものであり,いわゆる長期在学コースとは趣旨を異にするものである。
短期大学においては,地域に密着して生涯学習機会を幅広く提供することが期待されるところであり,長期履修学生を積極的に受け入れることが望まれる。例えば,社会人を含めた地域の学習需要にこたえるために,多様なコースを設定した総合的な学科等を設け,長期履修学生を積極的に受け入れることも一つの方法である。
また,高等専門学校においても,専攻科については大学と同様に単位制を採用していることから,長期履修学生を受け入れることが可能であると考えられる。
さらに,専門学校においても,その自由で弾力的な制度によって,多様な学習需要に対応できるという利点を生かして,数多くの社会人を受け入れていることから,長期履修学生を積極的に受け入れることが期待される。
なお,長期履修学生を受け入れるか否かの判断は,各機関が,各々の教育課程の目的や教育方法・内容等を考慮して自主的に行うことは当然である。
(3) 在学年限及び年間修得単位数
大学等は,本来,学生が計画的に履修を行い学位等の取得を目指す場であることにかんがみれば,長期履修学生が在学できる最長年限については,各大学等において学則等で定め,各学生の在学期間はその範囲内で,学生の希望を考慮しつつ定めることが適当である。なお,期限を定めないで在学し履修することを希望する者については,科目等履修生制度を活用することが適当である。
また,長期履修学生の年間修得単位数については,より柔軟に履修できるようにする観点から,各大学等が定める上限の範囲内において学生が毎年自由に登録できることとすることが適当である。その際,実験・実習を行う課程においてはある程度継続的な学習が必要であること等を踏まえ,各大学等においては,その教育内容や学生の要望等を考慮して適切な履修が行われるよう配慮することが必要である。さらに,通常の修業年限在学することを予定していた学生が,何らかの事情により,在学中に,より長期の履修への切替えを希望することや,その逆の場合もあると考えられる。したがって,これらの状況に柔軟に対応できるよう,学生の希望に応じて,通常の修業年限在学することを予定する学生と長期履修学生の履修形態の切替えを可能とすべきである。ただし,履修形態の変更に当たって相応の理由がないと判断される場合にまで,この取扱いを認める必要はない。
もとより,学生の卒業時における質の確保を図ることは,大学等の社会的責任であり,長期履修学生に対しても,厳格な成績評価を実施するなど,安易な単位認定や卒業を抑制することにより,教育水準の維持向上を図ることが必要である。
(4) 配慮事項
長期履修学生は修業年限を超えて在学することから,その授業料については,通常の修業年限在学する学生との均衡に配慮しつつ,学生の負担軽減を図る観点から,修業年限分の授業料総額を学生が在学を希望する年限で分割して納めることができるようにしたり,単位制授業料制度を導入するなど,設置者の判断により適切な方法で徴収することが求められる。
設置基準の適用上や私学助成の算定上の収容定員の取扱いについては,長期履修学生は正規の学生として受け入れる以上,定員内の扱いとすることが適当であるが,長期履修学生の受入れを促進する観点から,通常の修業年限在学する学生よりも1年間又は1学期間の修得単位数が少ない当該学生数の算定方法については,その履修形態を反映させるため,その実員に一定係数(例えば,修業年限を長期履修学生の在学期間で除して得られた数)を乗じて算定するなど,適切な対応が必要である。
なお,職業等に従事しながら大学等で学ぶ長期履修学生に対しては,通常の修業年限在学することを予定する学生とは異なる,よりきめの細かい履修上の指導が必要となると考えられることから,各大学等が各々の実状に応じて,アドバイザーの配置,教員の教育能力を向上させるためのファカルティ・ディベロップメントの実施など適切な配慮を行うことが適当である。
3 通信制博士課程の制度化
自宅や職場から通学できる範囲に必ずしも希望する大学院がないことや,職場環境によって通学可能な時間帯が限られることなど,地理的・時間的制約等から大学院レベルの学習を希望しながら,その実現に困難を伴う社会人が少なくないと考えられる。通信制大学院は,このような学習需要に,より適切にこたえていくために,授業による比重が高い修士課程について,専攻分野によっては通信教育による十分な教育効果を得ることが可能であるとの判断の下,平成9年の大学審議会答申「通信制の大学院について」の提言を受けて,平成10年に制度化されたものである。平成13年度現在,7大学9研究科22専攻が設置されている。
通信制博士課程の設置については,上記答申において,博士課程は研究課題に即した研究指導と学生自身の自発的な研究活動が中心であるため,通信教育により十分な教育効果が得られるか否かについては慎重な検討が必要であり,修士課程の開設・運営状況,実績等を見ながら判断することが適切であるとされたため,制度化が見送られ,現行制度上認められていない(大学院設置基準第25条)。
平成12年の大学審議会答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」においても指摘されているように,今後,インターネット等の情報通信技術を大学教育において一層活用していくことは,教育内容を豊かにし,教育機会の提供方法を変え,大学教育へのアクセス拡大に資するものであり,教育研究活動を革新していく上で重要なことである。
また,メディア教育開発センターが取りまとめた「通信制大学院修士課程に関わる調査研究(中間報告)」(平成13年9月)によると,通信制修士課程在学者のうち9割以上が博士課程の開設を望んでおり,修士課程での研究活動を継続し,より高度な学習を行いたいと考えている。また,現在通信制修士課程を開設している大学院においては,社会人が主な対象であり,学生の多くは明確な目的や強い問題意識を持っており,その学力及び教育効果については通学制課程の学生と比較して遜色がなく,博士課程において研究を行う能力を備えていると考えており,通信制博士課程の制度化を望んでいる。
通信制修士課程を修了した学生が博士課程での学習を行うことを希望する場合,現行制度上,通学制博士課程において学習するほかないが,その授業の方法としては,印刷教材等による授業や放送授業が認められていないことから,当該博士課程においてインターネット等の多様なメディアを高度に利用して行う授業を実施していない場合には,自宅や職場の近くに大学院が存在しない社会人にとって,引き続き学習を行うことが困難な状況にある。また,大学院における研究指導についても,通学制では「直接の対面指導を行うことが原則であること」(「大学設置基準等の一部を改正する省令等の施行等について(平成10年3月31日文高大第36号事務次官通知)」)とされていることから,上記の制約を有する社会人にとっては研究指導を受ける際に困難が生じる場合もある。
今後,我が国の大学院においては,社会人の多様な学習需要への対応を積極的に図っていくことが必要であり,以上のような状況を踏まえ,社会人が,修士課程における学習の成果に基づき,継続してより高度な研究を行う機会を拡大し,社会の多様な方面で活躍し得る高度の能力と豊かな学識を有する人材を養成する観点から,制度的に通信制博士課程の設置を認めることが適当である。
(1) 分野
現行制度上,通信制修士課程においては,通信教育によって十分な教育効果が得られる専攻分野について,通信教育を行うことができることとされている。
現在設けられている通信制修士課程は,多くの場合,実験・実習を必要としない学習内容となっており,一部実験を必要とする専攻においては,併設されている通学制大学の施設を利用して行っている状況にある。
これらを踏まえ,通信制博士課程については,各大学院が専攻分野ごとにその学習内容を考慮し,主に通信手段を活用しながら,必要に応じて実験・実習等を併せ行うことにより,十分な教育効果が得られると判断される場合において,通信教育を行うことができることとすることが適当である。
(2) 教育方法,研究指導
現在設置されている通信制修士課程においては,従来の印刷教材等の郵送による授業や放送授業,面接授業に加え,電子メールを活用したレポート指導やグループ討議,メディア・スクーリング(テレビ会議システムを利用した双方向・リアルタイムで行う授業)を行うなど,教育方法について様々な工夫が行われている。また,研究指導の方法については,スクーリングを行ったり,大学院によっては情報通信技術を積極的に活用したりすることにより,指導教員と学生との接触機会をより多く確保するための努力が行われている。さらに,補助教員やティーチング・アシスタントを配置するなど,個々の学生の学習需要に対応したきめ細かな指導体制を整えている大学院も見られる。
これらを踏まえ,通信制博士課程においては,研究課題に即した適切な研究指導と学生自身の自発的な研究活動が中心であることにかんがみ,情報通信技術の積極的な活用と併せ,必要に応じて,面接指導の機会を適切に設けること等により,教員が学生に対し十分な指導を行える体制を築くことが不可欠である。その際には,学生が目的を持って研究活動を遂行しやすいよう,具体的にどのような成果を求め評価していくのかをあらかじめ明確にし,指導していくことが求められる。
また,各大学院においては,個々の学生の多様な研究需要に対応するため,研究活動に当たっての指導・助言を行うティーチング・アシスタント,チューター,アドバイザー等の適切な配置に努めることが必要である。
さらに,学習過程において,学生間で意見交換や情報交換等の交流を行うことは,相互に刺激を与え合い,研究活動にも好ましい影響をもたらし得ると考えられることから,各大学院においては,学生が交流できるような配慮を積極的に行うことも必要である。
(3) 教育研究水準の確保,評価制度
現在,通信制修士課程においては,入学者選抜において,学力試験(記述試験,小論文),面接・口述試問のほか,研究計画書の提出を義務付けることにより,研究テーマや研究目的,志望動機などが明確な学生を受け入れる努力を行っている。また,授業や研究指導においては,情報通信技術を積極的に活用することにより効果をあげることに努めており,修士の学位を授与するにふさわしい水準の確保が図られている。
このような状況を踏まえ,通信制博士課程についても,きめの細かい入学者選抜や情報通信技術の積極的活用などによる教育研究指導方法の工夫などにより,博士課程にふさわしい水準を確保することが可能であると考えられるところであり,各大学院は様々な工夫を凝らすことにより教育研究水準の確保に努める必要がある。
一方,実質的に教育研究水準を確保し,国際的通用性に配慮しながら教育研究の質を高めていくためには,各大学院において不断の自己点検・評価に努め,その結果を広く社会に公表するとともに,第三者による客観的な評価を行うことが重要であると考えられる。このため,アクレディテーション(適格認定)・システムを導入することが考えられるところであり,その在り方について今後検討する必要がある。
ページの先頭へ
|