戻る


   5. 生涯を通じたキャリア教育の充実

 
   多様なキャリアにより社会の様々な分野に参画し、能力や個性を発揮できる社会では、一人一人が生涯にわたり主体的に多様な生き方を選択することが重要であり、そのために必要な能力や資質を一人一人が身に付ける必要がある。

   「キャリア」は、個人と「働くこと」との関係の上に成立する概念である。また、仕事や様々な活動、学習と「どのように関わるか」は人により異なるものであり、多様な役割のバランスや葛藤、優先順位、年齢とともに変化していくものである。
   また、変化の激しい時代にあって、予測が不可能な未来に向かって生きるためには、そうした環境の変化や自分自身の変化に柔軟に意思決定していくことが不可欠である。

   このため、生涯を通じて人間関係形成能力、情報活用能力、将来設計能力、意思決定能力等を培うことが必要であり、幼少期から、家庭、学校、地域社会において、子どもを特定の型にはめることなく、個性や興味、関心等を大切にしながら育み、主体的に進路を考え選択できるような能力を育成することが重要である。また、これによって、個々の勤労観、職業観を育てていくことができる。

   こうした観点から個人の発達段階ごとにみると、それぞれの段階での課題に対応して適切な支援が必要である*16

(1)    小学校入学前まで(乳幼児期)
   乳幼児期の教育においては、基本的な生活習慣・態度を身に付け、健全な心身の基礎を培うようにすること、社会生活の基盤となる人への愛情や信頼感を育て、自立と協同の態度を培うようにすること、様々な体験を通じて豊かな感性、創造性を育むこと等が重要な課題である。

  なお、この時期に限らず、家庭における親の勤労観、職業観や養育態度が子どもに及ぼす影響は大きく、とりあえず進学させさえすればいいという意識が強かったり、必要以上に長期にわたり、親への経済的依存を許容したりして、若者の自立を阻害している場合が見られる。

   親自身が多様なキャリアを生かした経験を持っていれば、自分の子どもが社会人になってもフリーターであるような場合に多様なキャリアという視点からバランスのとれた相談相手となり、子どもの自立を促すことも可能になると考えられ、この意味で多様なキャリアへの支援は次世代の子どもたちへの支援ともなり得る。

(2)    小・中学校期
   小・中学校の教育における課題としては、勤労観、職業観や自らの将来像の形成を図るとともに、勤労の尊さや意義を理解すること、見学、調査、発表、討論等を含む様々な学習や、ボランティア活動等の社会体験等を通じて、問題の解決や探究活動に主体的に取組み、自己の生き方を考えること、社会や経済の仕組みについて理解できるようにすること等が挙げられる。

   卒業直前での進学指導、就職指導だけでなく、教育活動全体を通じた組織的・体系的なキャリア教育や職業体験・インターンシップ等の体験活動により、主体的に進路を考え選択できるような能力を育成するとともに、個別相談の充実等により生徒一人一人の実態に応じた配慮を行いつつ、職業人としての資質・能力を高める指導を充実することが必要である。

(3)    高等学校〜大学等(青年期)
   幅広い分野の教育研究に触れつつ、社会意識を深め、社会的要請を的確に認識しながら、自らの興味や能力等に基づいて、修得すべき学問や卒業後の将来を見極めていくことは大切である。このため、教育活動全体を通じて生徒・学生が将来への目的意識を明確に持てるよう、勤労観、職業観を養い、職業に関する知識・技能を身に付けさせ、自己の個性を理解した上で主体的に進路を選択できる能力を、組織的・体系的に育てる必要がある。

   多くの大学では、従来は就職指導に重点が置かれていたが、最近では「大学での学びと職業を繋ぐ教育」「将来の職業生活の土台をつくる教育」としてキャリア教育を捉え、知識伝授型であった大学教育を転換し、学生が大学で何を学び、どのように成長し、それをどのように仕事や生き方に役立てるかといった点を十分考えることができるよう、専門教育、教養教育と有機的に連携し、入学直後から職業や生き方を正しく視野に入れた教育が行われるようになっている例も見られる。

   今後、キャリア形成に関する科目をさらに充実したり、きめ細かなキャリアカウンセリングを実施したりするとともに、実際の企業や地域活動等の現場で活躍している人を大学に招いて講演を行う等、進路を設計する際に参考となるようなロールモデルを広く提供することが必要である。また、職業体験・インターンシップ等の体験活動により、現実的な勤労観、職業観を養い、社会的自立に向けて職業人としての資質・能力を高める指導を充実することが重要である。

(4) 成人期以降
   多様なキャリアは、個人の生活と切り離せないものであり、一人一人が中・長期的視野に立って自分自身の将来像を描き、その実現に向けて生活プラン、職業プラン、学習プランを組み立てることの重要性が高まっている。

   他方、早い段階からキャリア設計をしても、予測不可能なことが起こるのが人生であり、そのような環境の変化や自分自身の変化に柔軟に対応して、それぞれの段階で自ら意思決定していく能力が求められるようになってきている。

   こうした能力は、家庭や学校での教育全体を通じて培われるものである。成人期には、そうした能力を基礎に自ら適切な選択を行うことになるが、より適切な選択が可能となり、多様なキャリアとして様々な学習や活動の成果が評価、活用されるよう、社会としても、本報告書23で述べたように、個人のキャリア形成を支援するキャリアに関する相談の実施等により支援していくことが必要である。




※16   
資料39    職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み(例)−職業的(進路)発達にかかわる諸能力の育成の視点から


ページの先頭へ