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資料2
資料2  「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要
原点回帰
―ダイバーシティ・マネジメントの方向性―


  平成12年8月、企業・団体の若手人事・労務担当者等30名で構成するダイバーシティ・ワーク・ルール研究会が発足して以来、ダイバーシティについての研究を行い、昨年8月に中間報告を発表した。その後、研究会では、経営トップへの意見聴取、また、ダイバーシティという考え方のもとに先進的な取り組みを行う日本企業や外資系企業の事例を聴取しながら議論を重ね、このたび報告書をとりまとめた。

<報告書のポイント>
1.ダイバーシティとは「多様な人材を活かす戦略」である。
  従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略。  

2.ダイバーシティは、企業の成長と個人のしあわせをもたらす。
  新たな価値・発想の導入によって、企業にとっては、優秀な人材の確保、変動するマーケットへの対応力強化、グローバル化への対応、他社との差別化を図ることができ、個人にとっては、自らの価値によって働き方、ひいては生き方を選択し、決定できる。

3.人事の原点に立ち戻る施策を考える。
  人は本来、多様であり、また変化に対応できる存在である。人材活用についても、このことに立ち戻り、多様な属性や価値・発想をとり入れていくという施策が必要となる。具体的には、新しい人材ポートフォリオの形成、多様性を高めるトライアル雇用の導入、特定のライフスタイルに偏重しない視点から福利厚生施策を見直すこと、従来以上にコミュニケーションを図ること、などが考えられる。

4.経営トップは意識を変え、ダイバーシティにより「攻めの戦略」を行う。
  打ち出す戦略が後手にならないように、不確実な時代に対応するための“先行投資”としてとらえる意識が必要である。そのためには、経営トップ自らが意識を変え、リーダーシップを発揮する必要がある。   
<報告書の構成>
・ ダイバーシティの概念やその必要性を説く「ダイバーシティ・マネジメントの重要性」(第1部)と、概念を踏まえて企業での具体的な展開例を示す「ダイバーシティの具体的展開」(第2部)の二部構成。
(第1部)
・ ダイバーシティの概念を説明した上で、ダイバーシティ・マネジメントの方向性を提示。
・ 奥田碩日経連会長をはじめ、経営トップがダイバーシティについての考えを語る。
・ ダイバーシティの理解が深まるように、Q&A方式による解説を掲載。
(第2部)
・ 第1部で述べたダイバーシティのコンセプトを実現するために、企業の人事・労務管理がどのように変わっていくべきかについての試論を展開

<報告書の概要>
【第1部】
1.ダイバーシティとは何か
○ダイバーシティの概念
  ダイバーシティ――日本語に訳すと「多様性」である。人事用語としても「多様性」と訳されることが多いものの、正確な内容については必ずしも明確に表現されてはいない。しかも日本ではまだ耳慣れない言葉であり、その概念も確立されていないために適切な日本語に置き換えることは難しい。しかしながら、アメリカをはじめ欧米ではすでにその考え方が浸透しており、企業でも取り組みが始まっている。
  昨年8月にまとめた本研究会の中間報告では、ダイバーシティを日本の企業や社会に適応させるべく、ダイバーシティの概念を暫定的に定義していた。同報告発表後、研究会では、ダイバーシティという考え方のもとに先進的な取り組みを行う日本企業や外資系企業の事例を聴取しながら、議論を重ね、定義を以下のように再整理した。
ダイバーシティとは、「多様な人材を活かす戦略」である。
従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず、多様な属性(性別、年齢、国籍など)や価値・発想をとり入れることで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し、企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略。   
  ダイバーシティは、既存の価値観や方法論にとらわれることのない発想を起点とした人材活用戦略である。
  人は本来、多様であり、また変化に対応できる存在であるにもかかわらず、これまで企業においては、一定の型にはめた人材活用を行ってきた。具体的には、社会にある「男は仕事、女は家庭」といった性別役割分担意識や、皆と同じ所定労働時間は働くべきといったような「○○でなければならない」という発想に基づいて、日本人男性を主な対象にした終身雇用・年功序列を中心とする画一的な人事制度を整備してきた。このような画一的な発想と制度が日本における従来のスタンダードであった。
  企業を取り巻く経営環境が安定し、経済が右肩上がりに成長していた時代には、このスタンダードをもとに企業内の人材活用が行われることによってもたらされる画一的な価値・発想が、企業の成長にとって非常に有効であった。しかし、現在は、経済成長が鈍化するとともに、マーケットの多様化・複雑化など経営環境が激動し、労働市場も変容しつつある。こうした中、不適応を起こしている従来のスタンダードを打破し、新たな価値・発想を導入しなくてはこの状況を突破できない、という重大な危機意識が経営者に芽生えている。
  さらには、従来のスタンダードを個人生活に当てはめることが、必ずしも個人のしあわせにつながるものではなく、各自固有の価値・発想を重視したいという傾向が強まっている。
  そこで、これまでの社会の風潮、あるいは、仕方がなく、または疑うことなく受け入れてきた企業内のさまざまな考え方を払拭し、考え方・発想の合理性を個別具体的に検証した上で、多様な属性や価値・発想をとり入れていくという「戦略としてのダイバーシティ」が必要となる。企業と個人双方のニーズをうまく結びつけ、雇用(企業)と労働チャンス(個人)を戦略的に活かすことによって、結果として、企業にとっては成長を、個人にとってはしあわせをもたらすのである。  

○先進事例からみたダイバーシティの促進要因
  ダイバーシティという考え方を人材活用の戦略にとり入れている企業、ダイバーシティ・マネジメントを行う企業の事例から、以下のとおり、ダイバーシティの促進要因をあげることができる。
1外部にダイバーシティを誘因する環境がある。
  顧客に近い企業、「川下の製品群を多く持っている企業」にとっては、顧客を理解し、ビジネスに反映させることが必須なため、例えば、女性や高齢者の雇用・活用に積極的であるなど、ダイバーシティが進展しやすい環境にあると言える。
2ダイバーシティが求められるケースがある。
  事業の拡大や海外進出などに伴って、新しい人材ポートフォリオの形成や各国に適合するビジネスの仕組みが求められる。
3日本に進出した外資系企業もダイバーシティが進展しているケースが多い。
  促進要因とは別に、日本に進出した外資系企業は、既にダイバーシティの理念が確立していることが多いため、日本において取り組むべきダイバーシティ上の課題にフォーカスできることから、比較的スムーズにダイバーシティが導入され、進展する。輸入型ダイバーシティあるいはダイバーシティの黒船到来ともいえるのかもしれない。
  促進要因がない企業においても、絶えず経営環境を革新させ、グローバルな視点で競いあっていかざるを得ない。これからの企業社会においては、ダイバーシティに積極的に取り組む必要が出てくる。

2.ダイバーシティ・マネジメントの方向性
○多様な人材に合わせた仕組みづくり
  ダイバーシティの本質は、異質・多様を受け入れ、違いを認め合うことである。それによって、「同質」だけでは実現することが難しい労働力の量的な確保や、従業員の働きがい・生きがいの向上、さらには、思いもつかなかった発想、新たな価値の創造などが実現できると考える。ただし、何をもって同質か、何をもって異質と定義するかは、社会、文化、時代により異なる。特定の企業や社会でダイバーシティと呼ばれる内容が、別の企業や社会ではそうでないこともあり得る。つまり、すべての企業や社会にとって、時代を超えて変わることのないダイバーシティは存在しないのである。
  さまざまな価値観を企業内に共有するには、異なる価値、発想、能力を持つ多様な属性からなる人材が企業内に存在していることが望ましい。多様な人材を活かし、個人の持つ能力を最大限発揮させるには、それまで企業内で大多数であった属性にとって有利であった働き方やそれを支える人事システムの見直しが必要になる。多様な人材は、能力面だけでなくその家庭環境や生活環境など、個人としてのバックグランドも多様であるからだ。したがって、企業は能力主義を前提として、従業員が自分の持つ価値観やニーズに合った働き方を選択することができるよう、多様な働き方の選択肢を用意することが求められる。また、ライスフタイルは、現実の人生のさまざまな状況によって変化するため、働き方は選択できるだけでなく、変化や状況に応じてできる限り変更できるような仕組みにすることも必要であろう。そして、従業員の能力発揮を促しながら公平な評価を行い、経営効率の向上やコスト削減を図っていく。それが、ダイバーシティを積極的に意識したマネジメントの姿である。

○コストをどう考えるか
  ダイバーシティ・マネジメントは、多様な価値観や発想にあわせて多様な制度を準備するため、かつて発生しなかったコストを生む可能性がある。したがって、どのようなコストが発生するか、それにもかかわらず実行する場合のベネフィットとは何か、について、当然、議論されなければならない。議論により、これまで当たり前とされていた制度やシステムのおかしさ、見過ごしてきた過ちなどを改めて検証する機会ともなり、これまで何もしなかったことにより発生していた無駄をなくす可能性もある。

○より重要になるコミュニケーション
  日本社会には、望ましいコミュニケーションのあり方として「以心伝心」という考え方がある。考え方や価値観の大半を共有することで、お互いが言葉にしなくとも、それぞれの求めるところを察知し、行動することを評価するものである。今後も「以心伝心」の重要性は変わらないものの、これまで機能してきたような「以心伝心」の仕組みは通用しなくなる。フレックスタイム制のほか、在宅勤務やサテライトオフィスなど別の場所で働く人や、さまざまな勤務時間で働くパートタイマーなどが増加し、雇用・就業形態がより多様化することで、従来に比べて、意志疎通や情報の共有は難しくなるであろう。これをいかに克服し、多様な価値観と調和する新しいコミュニケーションの仕組みを構築できるかが、ダイバーシティ・マネジメントの成否を決めるポイントの一つとなる。

○人事の「投資」として
  ダイバーシティは、単に人事「管理」にとどまるものではなく、人事についての「投資」でもある。たとえば、「この先起こるであろう労働力人口の減少に対応するために、いかに多様な人材を確保するか」と言うように、問題が起こる前に対応していくものである。また、きっと良い結果をもたらすだろうと信じて取り組むのであって、その結果、成功するか失敗するか、対応する段階では判断しかねるところもある。その意味から、ダイバーシティは不確実な時代に対応するための人事についての先行投資であると言えよう。通常、投資であれば、それまでのストックと融和しながらも、疲弊した部分に対しては新陳代謝を促すものとなるが、ダイバーシティはこの点において大いに様相が異なる。
  また、とりわけ長年にわたってある価値観を堅持してきた人にとっては、必ずしもダイバーシティを進めることは容易ではない。しかし、そうした人たちも多様性の一つとして包含することができなければ、真の意味でのダイバーシティとは言えない。そうした人の活用方法をどのように行っていくのかは、ダイバーシティ・マネジメントの重要な一部分でもある。

○ダイバーシティを進めるための提案
  企業を取り巻く環境が変化する中で企業が成長し続けていくには、問題が起きてからでなく、予想される変化や問題を先取りして迅速かつ柔軟に対応することが必要となる。そして、その際には、発想を変えることによって、マイナス要因と考えられているものをプラスに転換していくことが不可欠である。また、今後、労働力人口が減少していくことから、ますます人材は多様化していくだろう。
  そうであるならば、日本企業においても、戦略的に多様な人材を活かすダイバーシティを導入することを考える必要があるのではないか。
1意識改革のツール
  前述のとおり、ダイバーシティの本質は異質・多様を受け入れることである。それは同時に、日本の社会や企業においてこれまで意識的あるいは無意識に形成されてきた同質的な発想や価値観を見直すことでもある。つまり、これまでのスタンダードからの脱却である。特に経営戦略の一環とするならば、経営トップ層がそのことを従業員に説明し、ダイバーシティを共通の目的として位置づける必要がある。
2要員管理の目標
  日本人男性正社員を中心とする人材活用の考え方では、これまでのような企業の成長は望めない。そのため、今まで必ずしも活かされてこなかった人材をいかに活用していくかがポイントとなる。ポジティブ・アクションなどを実施することにより、積極的な活用を図ることが必要となる。また、多様な人材に対応するために、諸制度の見直しや新しい仕組みづくりなど、働く上での環境整備が求められる。
3双方のニーズに合致
  多様な人材に合わせて多様な働き方も用意することになるため、企業にとっては質・量両面での確保が可能となり、働く側にとっては働き方の選択肢が増える。つまり、企業と個人双方のニーズに合致したものとなる。

【第2部】
○ダイバーシティの具体的な展開
  第1部で示したダイバーシティの考え方を具体的に展開するには、企業の人事・労務管理がどのように変わっていくべきか。人事の機能別に論じれば、以下のとおり。
1人事制度は乗り換え可能な複線型人事制度で
2個人の主体性と企業ニーズを踏まえた戦略的人材育成を
3少数厳選採用の中でも多様性を高めるトライアル雇用の導入を(大卒文系・中途採用)
4企業・学生双方の多様化するニーズに対応するオープン採用の促進を(大卒理系・短大・高校卒採用)
5特定のライフスタイルに偏重しないフリンジ・ベネフィットを
6はっきり伝えしっかり受け止める明確なコミュニケーションを
7労働組合は情報収機能と調整、政策立案機能の一層の強化を

○人事・労務担当者や従業員に必要なもの、求められるもの
1人事・労務担当者に与えられたミッションは、人間として普遍的な理念をベースに、働く人たちが、一人ひとりの選んだライフスタイルを実現し、自分の選んだ働き方の中で持てる力を伸ばし、最大限に発揮している状態を実現することである。そして、それは、企業の生産性向上と矛盾するものではなく、むしろそれに資するものと信じて推進していくべきである。
2ダイバーシティで重視され、尊重されるのは個人の価値観である。したがって、従業員は、自分はいかに生き、働きたいのかという価値観、人生観について、常に考え、意思を持とうとすることが、ダイバーシティの前提条件である。
  多様化は社会の大きな流れであり、新しい働き方、生き方を選ぶ従業員はこれからも増えるだろう。その中では、価値観も生き方も違う他者と比較し差別することは意味がない。モノサシは「自分」しかない。昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分が成長し、進歩していくことを大切にすべきである。そうすれば、ダイバーシティを通じ、より豊かな未来が実現できるに違いない。

以上



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