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資料1
資料1   学習の成果を幅広く生かす
               −生涯学習の成果を生かすための方策について−   (答申)(抄)
平成11年6月9日
生涯学習審議会


第1章   新しい社会の創造と生涯学習・その成果の活用

(いつでもチャレンジ可能な社会の創造に向けて)
   21世紀の我が国社会は、誰もが自らの能力と努力によって自分の未来を切り開いていくこと、夢や志を実現することが可能であると信じられるような、柔軟で活力ある社会にしていくことが大切である。
   誰もが、社会の中で生き生きと自分を生かすことができるようにするためには、いつでもどこでも学ぶことができ、その成果を生かすことができるような社会でなければならない。そして、ただ自分の責任だけを担保に、自分の本当に望むところを選択できるようになっていなければならない。一度の選択でその後のすべてが決まってしまうのではなく、回り道や道草などいつでもやり直しのきく、ゆとりのある社会のシステムでありたい。
   学校でうまく勉強できなかった学生も、別の仕事で自分を試したいと思っている勤労者も、再び社会で働きたいと思っている主婦も、定年後の新しい人生を模索する高齢者も、決して遅くない。やる気で学んで、力をつけて、そしてチャレンジできる。明るく楽しく学んで、元気に社会の中で自己実現を図っていくこと、それが生涯学習である。そうしたことが可能となるように、学校や社会の学習・教育に係るシステムを変えていこうとするのが生涯学習の理念なのである。
   一方で、今日、高度で複雑に発展を遂げた日本の社会が、引き続きこれまでの繁栄を維持・発展させてゆくためには、これまでと同じやり方ではうまくいかなくなってきている。
   肩書きや学歴で、一生安定的に過ごしてこられたかのように思われてきた職業生活も、産業構造の変化や雇用の急速な流動化により、勤労者自らが、より高い職業上の知識や技能を獲得し、サバイバルを図っていかなければならない状況に至っている。また、少子・高齢化の一層の進展に伴い、女性や高齢者が就労する機会も増大することが予想される。
   地域社会での様々な課題を解決するためには、国や地方の行政に依存するばかりでは効果的できめ細かな対応は難しい。住民の一人一人が、それぞれのニーズに応じて、問題解決を目指して学習し、積極的に地域社会に関わっていく姿勢を持つことが必要になっている。住民が個人として、また、非営利での公益的なグループ・団体の一員として、行政や企業等とも良好な連携・協力の関係を作りながら活動を進めることが必要になっている。そのことにより、結果として、行政に効率的で質の高い施策の推進をもたらすこととなるし、企業にも、地域住民の信頼を得て、円滑な経済活動や社会的な貢献活動を行う上での貴重な契機をもたらすことにもなろう。
   生涯学習の成果を活用して社会の諸活動に参加することは、個人の喜びであると同時に、社会の発展にとっても必要なこととなってきている。

(中略)

(生涯学習成果の活用の促進を)
   我が国は、生涯のいつでも自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が社会で適切に評価されるような生涯学習社会の実現を目指しているが、これからはさらにその学習成果が様々な形で活用でき、生涯学習による生きがい追求が創造性豊かな社会の実現に結びつくようにしていかなければならない。
   そのような社会は、人々が画一的な組織の中でのナンバーワンを目指して競うのではなく、青少年から高齢者まで、障害者を含めて一人一人が、社会にその人ならではの貢献ができるような、お互いの良さを認めあう社会である。

(学習成果を社会で通用させるシステムの必要性)
   行政がこれまで行ってきた施策の中心は学習機会の提供にあったが、これからは、生涯学習の成果の活用促進にも力を入れる必要がある。そのためには、活用の機会や場の開発ばかりでなく、そのための社会的な仕組みの構築等が重要な課題になる。
   その仕組みのひとつとして、学習の成果を一定の資格に結びつけていくことが重要である。近年、企業においては、これまでのように学歴・学校歴に偏らず、個人の顕在化した能力を求めてきており、従業員の資格取得が企業の人的資源開発上意味をもつものとして、資格取得を奨励してきている。また、個人が学習した成果を活用して社会参加しやすい環境を整備するためには、社会の誰もが共通して学習の成果を一定の資格取得として確認できることは意義のあることであり、このことにより、学習した個人もその成果を社会に積極的に提供しやすくなるとともに社会も様々な機会に個人の学習成果を活用しやすくなるというメリットがある。
   一方、個人にとっては、学習すること自体が本来楽しいものであるが、学習の成果が社会的に通用する資格という形で認められることは、学習者にとって自己の成長や向上が広く社会的に確認できることから大きな意味をもつ。さらに、個人が資格を活用して社会に関わり、様々な活動に参加することが進めば、自己実現のみならず、新たな学習課題の発見をもたらし、さらなる学習を行うインセンティブにもなるのである。
   行政が、学習成果の活用のための仕組みを構築するにあたっては、資格がこのようなメリットやインセンティブを持つことを十分に考慮する必要がある。
   また、行政が行うべき学習機会の提供にあたっても、従来の文化・教養タイプのものから、社会参加型や問題解決型の学習あるいは学習成果の活用を見込んだ内容のものなど、学習者に活動のために必要な力を養う学習へと重点を移行させるべきであろう。
   本答申では、個人が学習成果を活用して社会で自己実現を図る場として最も緊要な課題となっている、キャリア(職業、職歴ばかりでなく社会的な活動歴をも含む。)開発、ボランティア活動、地域社会での活動をテーマにその振興方策を考察し、できる限り具体的に提言することとした。

1.    個人のキャリア開発に生かす
   第一は学習成果を個人のキャリア開発に生かすという課題についてである。
   産業構造の変化等を背景に、新規学卒者の一括採用、年功序列、終身雇用といった従来の企業等における日本型雇用形態が変化しつつあることなどにより、学歴の持つ意味合いが大幅に減少し、個人の学習成果としての知識や技術、能力が問われるようになってきている。どこで学んだかということ以上に、何を学び何ができるのかということが決定的に問われるようになってきている。
   勤労者にも、職務の円滑な遂行と将来のキャリア・アップを目的に、自己啓発の意欲は一層高くなってきている。人生80年時代を迎え、生涯にわたり自己の職業生活をどう設計し、どう送っていくかについて、将来のキャリア展望を踏まえて、自分自身で職業生活に関しての生涯設計計画を立てたいとする人も多くなってきている。
   職業といっても、企業など組織の中で雇用されて働くことのほかに、自ら事業を起こして働くことへの意欲も高まってきているし、それを支援する社会的なシステムもでき始めている。また、ボランティア活動の延長から非営利での公益的な活動としてではあるが活動継続に必要な最低限の収入が得られるように事業化して、キャリアに結びつける人も出てきている。
   女性については、経済的な自立意欲が一層増大するとともに、近年は、職業を通じて社会的な自己実現を図ることに意義を認める人が増えてきている。また、未婚女性の生涯設計をみると、継続就業や子育て後に再就職することを希望する者が増えている。実際の就業パターンとしては、家事と仕事の両立の負担が重いため、出産、育児等でいったん退職し、家事や育児で忙しい期間は就業を控え、子育てが一段落した後に再就職するケースが多いとみられる。また、豊かな生活体験や人脈を生かして、リサイクル・ショップ、手作りパン屋、情報誌の発行等の起業や、在宅ワーク、仲間との共同出資による経営等を進める人々も決して少なくない。
   高齢社会の到来という状況の下で、高齢者のキャリア開発も大きな課題となっている。日本の高齢者には、どの先進国よりも高い就業意欲があり、定年後の第2、第3の就職等、仕事による生きがいを求める傾向が強いばかりでなく、ボランティア活動等の各種の社会活動への参加意欲も高い。社会的にも将来、少子化等による労働力人口の減少に対応して、高齢者が就労して社会に寄与する機会が増大することが予想される。
   こうしたことから、学習成果を生かすにあたっては、まず、個人のキャリアを開き、発展させていく上で、どのような方策が必要かを明らかにする必要がある。


第2章   生涯学習の成果を「個人のキャリア開発」に生かす

1. なぜ、今、学習成果を個人のキャリア開発に生かすのか
(1)   個人のキャリア開発意欲の増大
   人生80年時代を迎え、将来のキャリアを展望しながら、生涯にわたる自己の職業生活を自分自身で設計しようとする人々が多くなっている。また、職業を通じて社会的に自己実現を図ろうとする傾向が強まっている。
   個人のキャリア開発に対する意欲増大の社会的背景として、年俸制の導入など企業において個人の能力・実績を重視した処遇を講じようとする傾向や、通年採用の広まり、転職・出向等の企業間の勤労者の流動性の増大があげられる。新規採用においても、学歴や学校歴を問わないとする企業が増えるなど、全般に学歴以外の個人の様々な資質・能力を多様に評価しようとする傾向が拡大しつつある。
   こうした傾向は今後とも進んでいくものと予想され、このことに伴い、個人のキャリア開発の意欲もさらに拡大していくものと思われる。
   女性も、経済的自立と職業を通じての自己実現を図ろうとする意欲が増大しており、特に、職業能力を身に付けることや、それを活用して自ら事業を起こすための学習プログラムについてのニーズが高まっている。また、未婚女性の生涯設計をみると、継続就業や子育て後に再就職することを希望する者が増えている。実際の就業パターンとしては、家事と仕事の両立の負担が重いため、出産、育児等でいったん退職し、家事や育児で忙しい期間は就業を控え、子育てが一段落した後に再就職するケースが多いとみられる。
   超高齢社会を間近に控えた現在、平均余命が長期化することに伴って高齢者の社会参加意欲には強いものがある。各種のボランティア活動のほかに、特に、定年後の第2、第3の就職など仕事による生きがいを求める傾向も他の国の高齢者と比べて顕著に高くなっている。また、近い将来、労働力人口の減少に対応して、高齢者の雇用・活用が現実の社会・経済的な課題となることも予想されている。
   また、最近、地域でのボランティア活動などが民間非営利団体の公益的事業につながる例も見られるようになっている。学習成果を社会的に意義のある事業に生かすことができて、しかも活動継続に最低限必要な収入が得られる事業として成り立つようになっている。今後、こうした形でキャリア形成が行われることも多くなるものと考えられる。

(2)   企業における人材養成の仕組みの変化
   近年の科学技術の進歩、情報化・国際化の進展等を背景に、産業の高付加価値化、新しい分野の産業の創造が企業の大きな課題となっている。このため、企業では、技術水準の向上、創造的技術の創出、新分野への進出等を果たすため、勤労者の能力のより一層の向上が喫緊の課題と認識されるに至っている。
   従来、ジョブ・ローテーションと結びついたオン・ザ・ジョブ・トレーニングなどの企業内訓練が行われてきた。このやり方は、多くの職を経験し、社内に蓄積された知識や技術、ノウハウを継承し、社内の人間関係を円滑にし、全体に均質で高い能力のゼネラリストを育成するという面での大きな効果があったが、新たな戦略を立て、新事業を生みだし、それを展開させる能力が必要となっているときには、それだけでは十分な対応ができないという状況になる。また、ローテーションによる人材育成では時間がかかり、変化のスピードに対応しにくいという状況もある。さらに、勤労者の創造性を培ったり、自律的な向上心を育む観点からは、企業が主体となって行う人材育成事業だけでは必ずしも十分な効果をあげられないという側面もある。
   こうしたことから、企業としては多様なOff−JTの実施、外部の教育機関等への教育研修の委託を進めるとともに、勤労者個人の自己啓発活動を積極的に支援するようになってきている。

2. 学習成果を生かすにあたっての課題と対応方策
(1)   個人のキャリア開発に関する学習機会の拡充
   公民館等の社会教育施設で開設される講座・学級のうち、職業的な知識や技術の向上に関するものの比率は数%程度で、あまり多くない。その内容も、総じて職業の入門的なもの、就職に対する心構えのようなものばかりが多く、技術やノウハウの取得等の実践的なものはごく少ない。
   これは住民の職業に係る学習ニーズが低いということより、従来からこうした学習が社会教育施設では行われてこなかったために、学習ニーズが潜在化したままになっているためと考えられる。こうした現状のままでは、たとえニーズ調査をやっても結果としてニーズが顕在化して現れてこないことが多い。
   むしろ、実際に事業を実施してみて、社会教育施設でもやれることを示してみてからニーズの調査をする方が有効である。まず、地域住民の学習ニーズを先取りして講座等を開設することにより、職業に資するものとすることが考えられる。また、職業に関係する学習の情報を収集して、提供できるようにすることも考えられる。こうした際には、社会教育主事のコーディネイト機能の発揮が重要な要素となろう。
   起業についての学習機会の提供は、最近、地方公共団体や大学などでも少しずつ行われるようになってきているが、その内容については、資金の調達方法、マーケティング、会社設立のノウハウなどの実務的な知識はもちろん、夢や志を実現するため、冷静に事業計画をたてる手法なども必要であろう。
   また、生涯学習センター等が関係行政部局による様々な学習・教育事業に関する情報を収集し、総合的な情報提供を行うことやキャリアに係る学習の相談事業を行うことができるようにする必要がある。
   その際、退職した企業人などキャリア経験が豊かな人を活用して、女性、青少年、高齢者等を対象とした生き方指向のキャリア相談事業等を多様に企画・実施することが望まれる。
   また、個人への学習機会を提供する際、障害のある人にも配慮して、点字資料・図書、パソコン等の整備を図り、学習支援を充実する。
●佐賀県生涯学習センターの「県民カレッジ 夢パレットさが」
   教育委員会関係ばかりでなく、首長部局や市町村及びその関係の施設等の協力を得て、総合的な情報提供システムを運営するとともに、各領域の学習機会を体系化し提供している。これにより、学習者は県内のたくさんの学習メニューから自由に選択でき、簡単な手続きで履修することが可能になっている。    
(女性を対象に)
   我が国の社会での意志決定や政策決定の場への女性の参画の度合いは、国連の調査によると世界38位とされ、女性のエンパワーメント(女性自らが意識と能力を高め、政治的・経済的・社会的・文化的に力を持った存在となること)が大きな課題になっている。このため、ボランティア活動や地域ビジネス等の活動で女性がリーダーになり得るためのリーダーシップの開発などを行い、女性が地域、ボランティア活動、産業等の様々な分野で政策や方針の決定に参画できるようにしていく必要がある。
   社会教育施設で開設される講座は、伝統的に趣味、教養、文化関係のものが多く、エンパワーメントに係る講座等は多くない。これらの講座の受講者には女性が多いことを考えれば、今後社会教育施設等においては、エンパワーメントに係る講座を積極的に開設することが必要であり、このような学習機会がより多く提供されることで、女性がその学習成果を生かして社会の場で活躍する機会が開けていくことになろう。
   また、女性の就業環境を整備することは、男女共同参画社会の実現を目指す観点からも大切なことである。近年は、就業機会の多様化により、自分の適性や志向に適した事業を自ら起こすことを希望する女性も増えつつある。近年の新たな産業創造者の性別構成では、男性が96.5%と大多数を占めているが、最近は女性を対象とした起業への支援も実施されている。
●東京都足立区の女性総合センター「あだち女性起業家支援塾」
   3日間の「入門コース」では事業構想の確認、事業計画づくり等、また、6日間の「実践コース」では財務分析、資金管理、税金、経営上の法務などを学ぶこととしている。
●埼玉県北本市まちづくり観光協会の「女性起業家育成きたもと塾」
   全体を前期・中期・後期の3コースに区分し、前期は5日にわたり生涯学習への理解、女性起業家の現状、経験談などを、中期は10日間にわたり経営計画書作成、会計、労務管理等の実務に必要な知識ノウハウを学習、後期は、卒業に向けて具体的に会社経営をシミュレーションで実施するなどしている。    

1   高等教育機関による社会人のための学習機会の拡充
   社会の情報化、国際化の進展や科学技術の進展等に伴い、職業を持つ社会人の再学習の需要は高い。このため、高等教育機関においても、社会人特別選抜の実施、科目等履修生、編入学、聴講生・研究生の受入れ等の社会人のための学習機会が広げられてきている。今後、職業を持つ社会人の再学習の需要は一層高まると考えられることから、高等教育機関においては、これまで以上に社会人の受入れを積極的に進めることが望まれる。
   高度な専門職業人養成を目的とする大学院の専攻・コースが活発な活動を展開するようになった。しかも、従来の学部の新規卒業者ばかりでなく、広く職業を持つ社会人などを対象とするリカレント型の教育コースも珍しいものではなくなった。こうしたキャリア開発に資する大学院の一層の拡充が望まれる。
   また、同時に、社会人には勤務上の様々な制約があることから、こうした大学院については履修形態や修業年限に係る制度的な一層の弾力化が求められる。夜間の課程や昼夜開講制の課程の大学院は既に設けられ、高い教育効果を上げているが、さらに、大学審議会答申において、各大学の選択により修士課程で1年以上2年未満の修業年限でも修了することが可能なコースや、あらかじめ標準修業年限を超える期間を在学予定期間として在学できる長期在学コースを設けることができるようにすることが提言されており、これを受けた速やかな制度改正が望まれる。

(中略)

3   放送大学の拡充
放送大学は、広く社会人等を対象として、幅広い分野で多くの授業科目を開設し、高等教育レベルの教育を提供しており、生涯学習の中核的機関としての役割を担っている。また、平成10年1月から衛星放送を利用した全国放送を開始したことにより、全国津々浦々の自宅で放送大学の授業が視聴できるようになり、一層身近な大学となってきている。今後は、全国放送の運営状況や業績等を踏まえつつ、キャリア開発のための学習機会として、例えば、看護関係職員の資質向上に役立つ授業科目を開設するなど、社会人の再教育のための機会提供の拡充や通信制大学院が制度化されたことから、大学院の実現への取組が期待される。その場合、高度な職業人養成や社会人再教育を主たる目的とするなど、社会的要請に対応した魅力ある大学院を目指すことが望まれる。

(2)学習に対する支援の充実
1   職業に関する学習機会の情報収集・提供
   職業に関する学習機会について幅広く情報が収集・提供されることが必要である。そのため、リカレント教育を実施する高等教育機関をはじめとして、国、地方公共団体、民間による学習機会の提供について、履修の形態・内容・時間等の必要な情報を詳しくしかも一元的に集約し、公表することが求められる。
   さらに、後述の第2章2(5)のインターネット学習情報提供システムにおいて、個人のキャリア形成に必要な学習機会の情報や個人の職業能力開発に関する学習機会の情報等を盛り込み、インターネットを通じて公民館や生涯学習センター等の社会教育施設において即座に検索できるようにすることが望まれる。また、職業に関する学習機会の情報を収集して全国に配信するナショナル・センター機能の整備も望まれる。

2   勤労者に対する学習支援の拡充
   勤労者個人が行う学習活動に対する企業による支援の現状については、平成6年現在で80.0%の事業所が何らかの形で支援を行っているものの、そのうち受講料等への援助を行っている事業所は70.2%で全体の約半数(約56%)にすぎず、就業時間への配慮や教育訓練に関する情報提供については、全体の約42%にとどまっており、具体的な支援内容からみると、企業における学習活動への支援は必ずしも十分な水準にはなっていない。
   また、有給教育訓練休暇制度を有している事業所は平成6年現在で23.1%にすぎず、制度それ自体が必ずしも十分普及しておらず、その活用についても不十分な状況がうかがわれる。休暇取得状況を見ると、勤労者のうち休暇を取得した者は19.4%にすぎず、休暇日数も1日未満が16.6%、1日以上3日未満が62.3%と年間で3日に満たないものがほぼ8割となっている。しかも、取得した休暇のほとんど(68.5%)が一般の有給休暇の消化であり、有給教育訓練休暇によるものは、わずかに13.7%にすぎない。
   このため、国も、こうした有給教育訓練休暇の付与や受講費用の援助を行う企業に対し、その援助費や賃金の一定割合を助成する「自己啓発助成給付金制度」を運用してきているが、勤労者がより学習しやすい環境を整備していくためには、今後一層、有給教育訓練休暇制度の導入の促進、休暇を取得しやすい職場環境づくり、資格取得のための情報提供サービスの充実、受験準備への勤務時間上の配慮、受験費用・受講費用の援助、取得した資格についての奨励金の支給、資格を活かしやすい部署への配置など企業からの支援内容を拡充していくことが求められる。
   一方、産業界が必要とする知識や技能の変化、雇用の流動化等に伴い、企業による支援とともに、勤労者の主体的な自己啓発への取り組みが重視されるようになってきている。このため、国では、平成10年12月から、一定の条件を満たす雇用保険の一般被保険者(在職者)または一般被保険者であった者(離職者)が労働大臣の指定する教育訓練を受講し修了した場合、教育訓練施設に支払った経費の80%に相当する額を支給する「教育訓練給付制度」を開始したところである。この制度は、勤労者が幅広い教育訓練対象の中から講座を選択することができ、主体的な学習を通じて職業能力の開発を行うことができる意義のある制度であり、今後その活用が望まれる。
   なお、企業等においては、勤労者の持っている能力等のリソースを大切にしつつ長期にわたって能力開発を行っていくことが重要であることにも留意してほしい。

3   女性のキャリア開発のための条件整備
   結婚・出産により、職業を中断して家庭で主婦業に専念する女性については、一定期間後職場に復帰できるような制度的な整備や、託児施設の拡充などが必要であるとともに、中断の期間中、職業能力を維持できるような、何らかの研修・能力維持プログラムの実施(例えば、所属企業による、一定期間ごとの業務内容の変化や新たな課題などについての研修会の開催、業務に係る技能のリフレッシュ研修等)もあわせて望まれる。
   また、後述の第2章2(5)のインターネット学習情報提供システムにおいては、職業中断期間中の職業能力を維持するための学習機会に関する情報についても提供されるようにすることが必要である。
   乳幼児を持つ女性に対しては、必要とされる学習機会を提供するとともに、その機会を実際に活用できるようにするため、保育施設の整備などの社会的な条件の整備もあわせて措置される必要がある。このため、生涯学習センターや公民館等の学習機会を提供する施設において託児室、子どもスペース等の整備を進めるとともに、これらの施設でボランティアによる預かりサービスを受けられるようにすることが必要である。また、最近、幼稚園において、通常の教育時間終了後の預かり保育、専門家による子育て相談、子育て情報の提供、子育てシンポジウムの開催、3歳未満児の受入れなどの取組が行われるようになってきているが、これらの推進のため、今後とも一層の、行政支援も必要である。
●兵庫県伊丹市の女性グループ
   乳幼児の一時預かりをする保育所を運営するとともに、そこから発展して、さらに3歳児交友サークル「わわわくらぶ」を発足させ、保育所付きカルチャー教室講座を実施するまでに至っている。    

(5)   学習した者と学習成果を求める者を結びつけるシステムを作る
   (インターネットによる学習情報提供システム)
   学習者が学習によって得た何らかの成果を地域社会の中の様々な活動に効果的に生かすためには、学習成果を提供しようとする学習者と活用の場・機会が適切にマッチングされることが必要である。これまでも、人材バンクが設けられ、学習成果の活用を図ることが試みられてきているが、必ずしも満足な結果が得られていない。
   このため、活用を促進する新たなシステム作りが求められる。このようなシステムとしては、学習者の生かしたい学習の成果や参加を希望する活動の内容・形態等を登録する「学習成果提供バンク」と、行政機関・企業・民間団体・グループ・個人等が学習者の学習成果を受け入れて実施しようとする事業内容・構想等を登録する「学習成果募集バンク」が整備され、これらがインターネットを通じて全国どこでも検索・活用できることが望まれる。
   現在、全国津々浦々で地域の子どもの体験活動機会や家庭教育支援活動に関する情報収集や提供、相談紹介を行う「子どもセンター」の設置が進められているが、将来的には、この情報収集・提供システムを全国どこでもインターネットを活用してアクセスできるようにすることが考えられる。そのようなインターネット情報提供システムにおいて、それぞれの地域において地域の「学習成果提供バンク」と「学習成果募集バンク」が整備され、学習者の生かしたい学習の成果と学習成果の受入内容に関する情報がインターネットを通して全国津々浦々で即座に手に入れられるようにすることが望まれる。


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