戻る

3章  地域電子図書館構想の実現に向けての指針

  第2章では,一つの架空の図書館を描写することによって,地域電子図書館構想が目指す方向性を提示した。本章では,その実現に向けて,各公立図書館自身が,2005年までを目途に検討を行い,地方自治体の関係者との交渉等を通じて実施していくべき事項を挙げる。なお,以下では検討,実施すべき事項をその順序(優先順位)とともに示すが,一つの事項を完全に検討,実施してから次の事項を検討,実施する,というものではなく,実際には複数の事項を並行して検討,実施することとなろう。また,ここに示す事項(順序)は,あくまでも一般的なものであって,実際には,これをもとにして,各図書館において,地域住民(図書館利用者)のニーズ(潜在的,将来的なものを含む)に応じ,検討及び実施の方法や手順を柔軟に判断決定していくことが必要である。

1  職員等の養成・確保

  地域電子図書館構想の実施にあたっては,まず各公立図書館が職員等の人的資源を養成・確保することが最優先である。
  なかでも,現職職員の情報リテラシー等の習得・向上のための研修等の機会を確保することが必要であり,具体的には,次の順序で検討,実施していくことが考えられる。
(1)  外部で実施される研修等に参加できる体制を構築する。
(2)  外部研修参加者等による館内研修を実施する。
(3)  衛星通信ネットワークやインターネット等の利用によって,外部の研修を館内で受講できる設備を整備する。
  さらに,新たに職員を確保する場合,新しい図書館サービスを遂行できる専門的知識・技能を有する職員を確保していくことが必要である。
  また,特に新しい図書館サービスの実施については,職員だけでは多くの利用者にきめ細かなサービスをすることまではできないため,情報ボランティアによる協力を得ることが適切である。これについては,次の順序で検討することが必要だと考えられる。
(1)  ボランティアに依頼する職務内容・範囲について検討し,明確にしておく。具体的には,コンピュータ利用における利用者支援(操作法についての援助・案内),デジタル資料の作成への協力,ホームページの作成への協力など
(2)  図書館広報誌やホームページなどを使ってボランティアを広く募集する。図書館がネットコミュニティを運営する場合は,そこへの呼びかけなど
(3)  ボランティアに研修の機会を提供し,図書館サービスを提供する際の補助や講座等の講師・講師補助等の担当を依頼すること
2  施設・設備等の整備・拡充等
  1に次いで,地域電子図書館構想に対応した「情報通信環境」を各公立図書館が整備・拡充していくことが必要である。施設・設備等の整備・拡充等については,次のような順序で検討することが考えられる。
(1)  当該図書館で提供する資料・情報(外部情報を含む)の蓄積・提供に必要なもの例えば,インターネットの接続に必要な設備,LAN,OPACなど
(2)  当該図書館で提供する資料・情報(外部情報を含む)の公開・発信に必要なもの例えば,Web用サーバ,ネットワーク接続用コンセント(情報コンセント)など
(3)  利用者の自由な利用に必要なもの
  例えば,遠隔学習等のための利用者用のコンピュータ端末(ワープロなどの利用を含む),プリンタなど
  また,資料・情報の蓄積・提供以外に,講座等の実施に必要な施設・設備等の整備・拡充も必要である。例えば,研修室・学習室等のコンピュータ端末やインターネット接続回線の整備,エル・ネットなど衛星通信ネットワークの整備などが考えられる。
3  情報通信技術を利用して図書館が提供する新しいサービス
1及び2を受けて,利用可能な資料・情報を拡充するという観点から,図書館が提供する新しいサービスについては,各公立図書館においてホームページを開設した上で次の順序で実施を検討することが考えられる。
(1)  蔵書データベース(WebOPACを含む)の提供
(2)  デジタル媒体(CDROM等や,インターネットからダウンロードし,図書館サーバに蓄積するものを含む)の図書館資料の収集・提供
(3)  図書館で製作するデジタルコンテンツの提供
(4)  商用オンラインデータベース等の「外部情報」の提供
  また,資料・情報の利用を促進し,利用者の便宜を図る観点から,次の点についても検討が必要である。
(1)  次世代の検索システム(OPAC以外のデータベースについても一括して検索の可能となる統合的システムの構築,主題からの検索や論理演算等の検索手法の導入等検索システムの多機能化・高機能化など)の提供
(2)  サーバに蓄積しているデジタル資料のメタデータの作成・提供
(3)  ネットワーク上の情報(有用なサイト等)のリンク集及びメタデータを利用した検索システムの作成・提供
   なお,電子メールを用いたレファレンス・サービス,文献配送サービス,情報リテラシー育成講座等は,環境が整備され次第,随時,導入,実施していくことが考えられる。
4  図書館資料のデジタル化
  公立図書館が優先してデジタル化(データベース化)し,ホームページ等で公開するべき資料として,情報の蓄積と公平な提供,文化の振興・保存などの観点から,次のような順序で検討することが考えられる。
(1)  当該図書館にしか所蔵されておらず,現状のままでは消失の危険性のある資料例えば,劣化・消失の危険性のある貴重書等のうち当該図書館のみが所蔵している資料(他の図書館での保存が見込めないもの)や,継続して提供される見込みのない旧式のフォーマットで作成・蓄積されているデジタル資料など
(2)  当該自治体に固有の情報を扱っており,消失の危険性のある資料例えば,当該自治体における行政資料・情報のうち長期的な保存・公開の予定がないもの(官庁や文書館等で保存の予定のないもの)など
(3)  当該図書館に所蔵されている資料のうち当該自治体に固有の情報を扱っている著作権の消滅したものなど例えば,地域の歴史・文化・民俗等を扱った古文書・古地図等など
(4)  当該図書館に所蔵されている資料のうち著作権の消滅したものや,一括契約などで安価な著作権料で利用可能なものなど例えば,各種の貴重書等や,著作権等の処理契約を結んだ出版者の図書・雑誌等,郷土作家の著作権を放棄した作品など
(5)  インターネット上で発信されている情報のうち,消失が考えられる重要なものなど
  例えば,地域に関する報告書等,地域で発信されているメールマガジン・オンラインマガジン等,政府の審議会答申,報告書,白書等などいずれの場合も,国立国会図書館,県立図書館をはじめ,他の図書館がデジタル化を行うものについては,優先順位を下げるべきので,他図書館及び博物館・文書館や官庁等との連絡・調整を行ったうえでデジタル化する資料を決定していく必要がある。
  なお,デジタル資料については,地域の教育への貢献や文化の振興,日常生活・職業生活の支援等の観点から,特定の利用者を主な対象に想定することも考えられる。例えば,次のような例が挙げられる。
例(1)貴重書や郷土資料等のうち学校教育のカリキュラムに関連するものについては,インターネットで公開することで,学校が教材として利用することが想定される。
例(2)行政資料のうち,市役所や図書館等でのみ閲覧可能なものは,インターネットで公開することで,遠隔地居住者や外出の困難な障害者等が利用することが想定される。
5  「外部情報」の提供等に係る費用負担
  外部情報の提供に伴って発生する費用負担については,図書館専門委員会報告において,その提供に伴う対価徴収は自治体の裁量に委ねられるべき問題とされたところであるが,例えば,他の図書館等と共同でコンソーシアム等を作り外部の商用オンラインデータベースの一括契約を行う等の方法により,安価・定額となる努力を払い,地域住民(利用者)に対しては無料で提供するなどの方策も考えられる。対価徴収については,いずれにせよ,公立図書館の利用者であると同時に各地方自治体の政策を決定する主体である住民の意思に基づくべきである。なお,いわゆるパッケージ型のデジタル資料を含む「図書館資料」については,図書館法第17条において「いかなる対価を.も徴収してはならない」と規定されていることに改めて留意することが必要であろう。

↑ページの先頭へ