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1章  序

1  検討の経緯

  いわゆるIT基本法の制定など社会全体の情報化が急速に進展しつつあるが,公立図書館についても,九州・沖縄サミットで採択されたいわゆるIT憲章において図書館のオンライン化が提唱されるなど,情報化に対応した新たな在り方が,「電子図書館」の構想等との関係で議論されてきている。
  また,生涯学習審議会社会教育分科審議会計画部会の図書館専門委員会の報告「図書館の情報化の必要性とその推進方策について」(平成10年10月27日)(以下「図書館専門委員会報告」という。)においては,主として既存の図書館資料を電子化・データベース化して「地域電子図書館」を構築することを念頭に置いて,「地域の図書館においては,郷土の歴史的資料を教育利用の観点から体系的に電子化し,活用していくことが期待される。 また,歴史的資料のほか,地域の生活にかかわる各種の新しい情報についても,他の公的及び私的機関との連携協力を含め,可能なものから電子化していくことが望まれる。」という提言がなされた。
  さらに,生涯学習審議会の答申「新しい情報通信技術を活用した生涯学習の推進方策について」(平成12年11月28日)においては,情報化に対応した今後の図書館の在り方として次のような方向が示され,新しい情報通信技術の活用により図書館が「地域の情報拠点」としてその機能を飛躍的に拡大する可能性が指摘されている。
(1)  インターネットや衛星通信を活用しつつ,デジタル化された資料・情報を地域住民に提供するなど,情報拠点としての機能を高度化すること
(2)  「地域への情報提供」に加え「地域からの情報発信」という機能を持つこと
(3)  紙媒体等による資料・情報と電子化された資料・情報とを有機的に連携させること
(4)  外部のデータベース等の情報を提供すること
(5)  障害者や高齢者などにとっても図書館の資料・情報を利用しやすくすること
(6)  住民の情報リテラシーの習得を支援すること
   「地域電子図書館構想検討協力者会議」は,このような動きを踏まえ,公立図書館は情報化への対応(地域電子図書館としての機能の整備)によって住民へのサービスの新たな展開を図るべきであるとの視点に立ち,平成11年2月から調査研究を行ってきた。この協力者会議での検討においては,各公立図書館がそれぞれ地域電子図書館機能の整備を目指す上で指針として活用できるものの作成等を目指し,図書館関係者・民間団体等からのヒアリングを実施するとともに,これらを踏まえた地域電子図書館像について討議を重ねてきた。この報告書は,この調査研究の結果を「2005年の図書館像〜地域電子図書館の実現に向けて〜」としてとりまとめたものである。

2  この報告書の構成

  この報告書は,次の各章によって構成されている。第2章は,将来における地域電子図書館の具体像を例として示したものである。図書館の情報化に関する方策やその効果に関する記述は,ともすれば抽象的なものになりがちであるが,ここでは,将来における地域電子図書館の「具体的なイメージ」を分かりやすく提示するため,西暦2005年ごろの「あるひとつの公立図書館」を想定し,その状況やサービスの内容を具体的に描写する形をとった。
  したがって,描写されている公立図書館は架空のものであるが,西暦2000年時点での市立図書館の平均像を前提とし,職員数や蔵書数が2005年の時点でも大きく変わらないと想定して,平均的な市立図書館が地域電子図書館としての機能を整備した後に想定される姿を描き出したものである。
  第3章は,第2章に具体的に描かれているような地域電子図書館を目指して各地域の公立(市区町村立)図書館が自ら様々な努力を行っていく上で,優先的に取り組んでいくべき課題等についての考え方を示したものである。第2章に示された姿は一足飛びに実現できるものではなく,関係する資料の収集やサービスの展開などを順次実施していく必要があるが,第3章は,各公立図書館自身によるそのような努力に関する指針として活用できるものである。
  第4章は,地域電子図書館の実現やその機能の充実を進めていく上で,図書館関係団体など図書館関係者全体が自ら検討・対応を行う必要があると思われる事項を記述したものである。情報化への対応は,個々の図書館による努力のみでは手に余る部分もあり,そうした事項については図書館関係者全体による対応が必要となる。この章はそうした事項について述べたものであり,したがって,図書館関係団体等によるそのような対応に関する指針として活用できるものである。
3  図書館関係者自身による努力の必要
  第2章に「具体的なイメージ」が示されている地域電子図書館は,公立図書館自身の努力によって実現されるべきものである。そのような努力としては,例えば,地方自治体の関係者との交渉等を通じた,経費,職員,設備等の確保などを挙げることができるが,そのためにはまず,住民に働きかけてその理解と支持を得る必要がある。この報告書は,各図書館の関係者自身が,それぞれ住民や地方自治体の関係者に対して必要な働きかけを行うときの参考や根拠となり得るものとして取りまとめられたものである。
  各図書館の今後の整備・運営等について,第2章以下に示された地域電子図書館の具体的なイメージや指針として活用するかどうかということも,各地方自治体の住民の意思にもとづくべきであり,各公立図書館は,図書館の利用者であると同時に各地方自治体の政策を決定する主体である住民との対話を通じて,地域電子図書館機能の整備を図っていくべきであろう。

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