教育行政機関と民間教育事業者との連携の促進について (報告の要旨)

平成11年3月
 

   教育行政機関と民間教育事業との連携方策に関する調査研究協力者会議(主査  菊池龍三郎  茨城大学教育学部長)では,多様化する学習需要に応じた学習機会を拡充し,生涯学習の振興を図るため,教育行政機関と民間教育事業者との相互の具体的な連携の進め方について,平成8年7月以来,合計10回の審議を重ね検討してきたが,この度,報告をとりまとめた。その要旨は以下のとおり。


はじめに

○  生涯学習行政のキーワードは,「連携」,「情報」,「企画」であると言われる。特に,教育行政機関にとって様々な民間教育事業者との「連携」は,生涯学習に関する「情報」を幅広く収集・提供し,住民のニーズに応える優れた施策・事業を「企画」していくために不可欠なものとなってきている。
○  実際にも,先進的な地域では,既にそれぞれの特色に応じ,工夫を凝らした連携・協力の実践が進み,大きな成果をあげつつある。しかしながら,生涯学習・社会教育行政担当者が民間教育事業者との連携・協力を進める方法や手順について不慣れであったり,理解が不足していたりということもあって,連携が進まない地域もまたかなり多い。
○  今後,住民の多様なニーズに応え得る学習環境を整備するためには,教育行政機関と民間教育事業者との連携を一層密接なものとしていく必要がある。


1  生涯学習をめぐる動向と連携の実態

(1)人々の学習需要の多様化
○  総理府の「生涯学習に関する世論調査」によれば,
  i)   成人の学習率は着実に増加している。
  ii)   今後学習してみたい内容は多様化している。
  iii)  生涯学習の方法としては,公的なものに加えて,カルチャーセンターや個人事業者等民間教育事業者による学習の機会を望んでいる者もかなりの割合にのぼっている。

(2)民間教育事業の活発化
○  近年,都市部を中心に,民間による教育・文化・スポーツ事業が盛んになってきており,カルチャーセンターや社会通信教育事業者は,民間の柔軟な発想による多様で創意にあふれる学習の機会を提供している。
○  地域による程度の違いはあるものの,民間教育事業者は住民の多様な生涯学習活動を支える上で極めて大きな役割を果たしている。

(3)教育行政機関と民間教育事業者との連携の実態
○  実態調査の結果等によれば,民間教育事業者との連携の必要性についてはほとんどの教育行政機関が認識しているものの,日常的・具体的な連携はまだまだ不十分であり,特に学級・講座実施の業務委託等については,先進的な事例が見られる程度である。


2 教育行政機関と民間教育事業者との連携についての考え方
(1)連携の意義
i)  連携の効果
○  教育行政機関と民間教育事業者の両者が有する施設・設備,人材,情報,ノウハウ等それぞれの特色を生かし,補い合いながら組み合わせていくことにより,1足す1が2ではなく,3以上の効果を得ることができる。
○  具体的には,住民の学習ニーズを多角的に把握できる,事業内容が充実し多様な学習ニーズに応えることができる,住民に提供しうる学習情報が豊富になる,などの多くの効果がある。
○  連携の効果は,学習者の立場から,学習環境がどれだけ整備されたかという尺度で判定されることが重要である。

ii)  行財政改革と連携
○  近年,行財政改革が推進される中で,行政をスリム化し「自己責任」を原則とする社会へと変革していくことが求められている。
○  これまで,社会教育行政はともすれば行政主導の意識が強いために,住民に対するサービスを全て行政で行おうとしがちであった。しかし,本当に重要なのは行政が提供する事業量の確保ではなく,学習環境全体の中で生涯学習を支援するサービスを向上させ,住民の満足度を上げていくことである。
○  厳しい時代だからこそ,教育行政機関は,住民サービスの向上のため絶えず民間教育事業者との連携その他の工夫を積極的に模索していく必要がある。

(2)教育行政機関と民間教育事業者の役割分担
○  それぞれの教育行政機関において,地域の実情を踏まえて,行政の役割,民間の役割,住民(学習者)の役割を明確にしていく必要がある。
○  具体的には,教室,講座の実施等の学習機会の提供については,国,地方ともに行財政改革が大きな課題となっていることをも踏まえれば,「民間でできるものは民間に委ねる」ということが原則となろう。
○  教育行政機関自らが企画・運営する学習機会は,学習の内容や対象等に照らして,政策上必要性が高いにもかかわらず,採算性等の面から民間での実施が期待できないようなものに重点をおいていくべきである。
○  公立生涯学習施設の運営委託等に見られるように,民間の活力を導入することにより,効果的・効率的に事業を実施できる場合もある。
○  いずれにしても,役割分担等についての判断は,民間教育事業者によって提供される学習機会の内容・量等を含め,その地域の実情に応じ,住民の意向を十分に踏まえたものとしていかなければならない。

(3)連携に係る誤解の解消
○  実態調査において,教育行政機関から,連携を行っていない理由や連携する場合の問題点として,「営利事業の支援につながる」,「特定の民間教育事業者を支援することになる」といったことがあげられている。
○  しかし,民間教育事業者との連携が結果的に民間教育事業者に一定のメリットを与えることとなっても,それが住民の生涯学習の振興に寄与するものであれば,問題はない。
○  なお,連携事業の実施に当たっては,公平・適切な手続き等を定めるとともに,必要に応じそれらの情報を公開する等の方法により,行政の信頼を確保することが重要である。
○  「住民の生涯学習の振興にとって有益であること」,「公平・適切な手続き等を経ていること」,の2つの条件を満たしているのであれば,教育行政機関は,民間教育事業者との連携を積極的に進めるべきである。


3  具体的な連携方策
(1)連携の形態
i)  連絡協議
○  教育行政機関の職員と民間教育事業関係者等とによる「連絡協議会」を設けて,定期的に協議や情報交換を行っていくこと。
【事例】東京における生涯学習関連機関の交流集会
      ・行政,民間,大学・専門学校等の関係者により,合同セミナー,分科会による討論等を実施。

ii)  学習情報提供
ア  パンフレット等による学習情報提供
○  住民のニーズに応えていくためには,民間教育事業者の情報も積極的に収集し,学習希望者からの求めに応じて提供できるようにしていくこと。
【事例】大阪府立文化情報センター
      ・民間のパンフレット等も含めて展示し,学習情報を提供。
      青森県民間教育事業者協会「学遊トピアあおもり」
      ・青森県民間教育事業者協会が,あおもり県民カレッジの講座一覧
      (民間の講座を含む。)などを掲載したガイドブックを作成・販売。
      岐阜県川島町情報誌「こころのプロムナードL&I」
      ・川島町ほんの家(町立図書館)にて近隣の市町村の美術館展示,
        コンサート等の情報をとりまとめた情報誌を発行・頒布。

イ  コンピュータシステム等を利用した学習情報提供
○  提供した情報に関する責任の所在について住民に明らかにすること,民間教育事業者の情報の入力・更新について民間教育事業者の端末機から直接入力できるような仕組みを設けることなど,運用上の工夫を行うことにより,最新の民間情報が提供できるようにしていくこと。
【事例】神奈川県生涯学習情報システム「PLANETかながわ」
      ・民間の情報を含め,インターネット(まなびネット)を通じて提供。
      ・情報収集については発生源入力を原則としている。

iii)  民間(企業)の協力を得た事業
○  住民に提供する学習機会を充実させ,多様な学習需要に応えるため,民間教育事業者と連携して事業を行うこと
ア  学習機会提供事業における民間教育事業者との協力
【事例】新潟県新発田市生涯学習センター「もしもピアノが弾けたなら」
      ・(株)ヤマハ及び楽器店と連携してピアノ教室を実施。
      静岡県教育委員会「ふじのくにゆうゆうクラブ」開設事業
      ・DIY関係企業と連携して,休業土曜日に工作教室等を実施。

イ  生涯学習フェスティバルなど生涯学習に関する普及活動における協力
【事例】北海道生涯学習フェスティバル
      ・全国生涯学習フェスティバルの翌年から,旭川,函館で実施。
        企業等も出展する生涯学習見本市を行っている。

iv)  公立生涯学習施設の運営委託等
ア  講座等の委託
○  教育行政機関からカルチャーセンター等に対して,教室・講座の実施を委託すること。
【事例】東京都荒川区町屋文化センター
      ・様々な講座の運営を(株)読売・日本テレビ文化センターに委託。
      東京都千代田区「子ども体験教室」
      ・児童生徒を対象とする体験教室の運営を(株)ノッツに委託。

イ  第3セクターによる事業実施
○  民間との共同出資による第3セクターをつくり,そこで教室・講座等を実施していくこと。
【事例】山形県天童市市民プラザ
      ・市民プラザを(株)スポーツクラブ天童に委託し,様々な講座を実施。
      福岡県宗像市宗像文化サークル
      ・公立施設(宗像ユリックス)において,(株)西日本新聞TNC
        宗像文化サークルが,会員制で様々な講座を実施。

ウ  民間教育事業者への公民館の貸出
○  公民館の民間教育事業者への貸出を積極的に進めること。
【事例】青森県十和田市東公民館「民間教育事業者による講座」
      ・公民館において,民間の講師が自ら運営する自主講座を実施。

v)  その他
○  以上のほか,各地域の特色を生かした連携を進めること。
【事例】NHK青森文化センター「ふるさと町村めぐり」講座
      ・青森県内の町村を町村職員の案内で訪問する講座を実施。

(2)連携のための手順・方法等
i)  教育行政機関の職員の意識改革
○  連携を成功させる第一歩は,教育行政機関側が,民間教育事業者をイコールパートナーとして考えること。

ii) 民間教育事業者との連携窓口の設定
○  教育行政機関においては,民間教育事業者との連携窓口を定めて,広く民間教育事業者に広報していくこと。

iii)  情報の収集
○  教育行政機関においては,民間教育事業者との連携窓口が中心となって,高くアンテナを掲げて,連携の種となるような情報を収集・整理していくこと。

iv)  連携の企画の提案
○  連携事業を行政から提案する場合には,民間教育事業者の側にも事業の活性化,広報,イメージアップその他においてメリットがあるような優れた連携事業の企画を立て,それを相手に伝え,理解していただくこと。

v)  連携事業の実施と反省
○ 次の連携への参考とするためにも,常にその成果を評価・反省し,連携に至る手続などまで含めて事業の報告をとりまとめておくこと。


4  関係者への期待
(1)国へ
i)  全国の教育行政機関に対して,民間教育事業者との連携の必要性,効果,具体的方策・手順等について周知徹底するとともに,全国からの相談に応ずる体制を整備すること。

ii)  民間教育事業者との連携の事例を収集・整理した事例集を作成し,広く関係者に提供していくこと。

iii)  民間営利社会教育事業者団体等連絡協議会(民事協)の活動や全国生涯学習フェスティバル等において全国レベルでの連携を一層推進すること。

iv)  住民の学習活動の振興を通じた地域コミュニティの再構成や地域振興を促進することができるよう,民間の事業者等と連携した生涯学習事業を重点的に実施する特定の地域を指定して一定の支援措置を行うモデル事業の実施を検討すること。

(2)全国の教育行政機関へ
i)  民間教育事業者との連携を生涯学習行政の中核に位置づけ,本報告の趣旨や報告内で触れた事例等を参考に,連携施策を積極的に進めること。

ii)  市町村の行政区域を超えた広域的な学習サービスを提供する体制の整備を,民間教育事業者との連携を進めつつ,推進すること。

iii)  民間教育事業者に加えて,行政内の他部局,大学等の高等教育機関,関係団体,NPO等の連携のコーディネーターとしての取組を強化すること。

(3)幅広い民間教育事業者へ
i)  自らが「民間教育事業者」として生涯学習振興の一翼を担っているという自覚をもつこと。

ii)  教育行政機関からの連携の提案に応えるとともに,教育行政機関への要望・提案等を積極的に行い,それらを連携につなげていくこと。

iii)  事業者団体の結成など事業者同士の連携を進め,事業者間での情報交換や適正な契約等についての自主的なルールづくり等を進めること。

-- 登録:平成21年以前 --