外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議(令和7年度)(第2回)議事録

1.日時

令和7年4月25日(金曜日)10時~12時

2.場所

対面・Web会議の併用

3.議題

1.資質・能力の育成のための新たな日本語指導について
2.外国人児童生徒等の教育の充実について(報告)を踏まえた進捗状況について
3.外国人児童生徒を包摂する教育、指導内容の深化・充実について(ヒアリング)
4.その他

4.議事録

【佐藤座長】 
 皆さん、おはようございます。定刻になりましたので、ただいまから外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議、第2回目になりますけれども、開催いたします。委員の皆様には御多用のところお集まりいただき、誠にありがとうございます。
 また、今回からこども家庭庁にオブザーバーとして御参加いただいております。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日、盛りだくさんなんですけれども、議題が主に3点ございまして、議題3では、徳永委員、小島委員、齋藤委員に御発表いただきます。発表時間、大変短くて恐縮ですけれども、どうぞよろしくお願いいたします。
 議事に入ります前に、本日2回目の会議でございます。第1回を御欠席された委員もおられますので、その方々に一言ずつ、簡単に2分程度で自己紹介をお願いしたいと思います。名簿の順で、まず、小島祥美委員からお願いします。
 
【小島委員】 
 皆様、おはようございます。東京外国語大学の小島祥美でございます。本日報告させていただきますので、後ほどどうぞよろしくお願いいたします。
私自身はもともとは小学校教員をしておりまして、そのときに外国籍児童を担当したというところから現在に至ります。外国につながる子供たち、不就学の問題ですとか、また、外国人学校の課題ですとかということも取り組んでいます。子供が子供らしくいられるように私自身何ができるか、そんなことを考えながら活動している状況です。本日もどうぞよろしくお願いいたします。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。次に、工藤委員、お願いできますでしょうか。
 
【工藤委員】 
 それでは、東京都葛飾区立青葉中学校校長の工藤和志と申します。どうぞよろしくお願いいたします。第1回は欠席いたしまして、失礼いたしました。この後どうぞよろしくお願いいたします。
 私自身中学校の教員として、東京都内3つの区で17年間勤務した後、教育行政職として教育委員会等で15年勤務した経験がございます。教育委員会のときにも市教育委員会、区教育委員会、また、東京都教育委員会も勤務させていただきながら、指導主事から課長まで経験した経歴がございます。ですから、学校と教育委員会での勤務を経て、その経験を生かしながら今、中学校の校長として勤務をしているところでございます。
 第1回では現状のお話もあったと思いますが、現在本校においても日本語指導が必要な生徒が在籍しておりますし、また、私自身も日本語指導が必要な生徒を担任したこともございます。本会議で議論される内容というのは、学校現場にとってまさに喫緊の課題でございます。本区本校、また東京都の実態も踏まえながら、学校の立場から皆様とともに議論に参加させていただければと思っております。児童生徒にとってよりよい施策につながればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。よろしくお願いいたします。それでは、次にバトラー委員、お願いいたします。
 
【バトラー委員】 
 バトラー後藤裕子です。よろしくお願いいたします。
 背景は富士山なんですけれども、現在はアメリカのペンシルバニア州フィラデルフィアに住んでおります。今日もフィラデルフィアからZoomで参加させていただいています。私はペンシルバニア大学の教育大学院でプロフェッサーをしています。そのほか、TESOLというプログラムでのディレクターもしています。TESOLというのは、御存じの方もいらっしゃるかと思いますが、英語を家庭でしゃべらない、ないしは英語を主たる言語として家庭で話していない子供たち、英語学習者とよく言われますが、その英語学習者に英語を教える教員養成のプログラムです。そのTESOLのディレクターをしております。
 私は日本語教育の専門家ではありませんし、日本に住んでいないということで、日本の外国につながる子供の事情には疎いので、皆様といろいろ議論をしながら、おいおい、私も勉強させていただきたいなと思っています。ただ、皆さん御承知のとおり、アメリカは移民大国でありまして、英語学習者がたくさんいます。そういった学習者に対してどういった言語教育をしていくのか、英語教育をしていくのか、その他様々なサポートをしていくのか、そういったことに関して非常に長い、ある意味では試行錯誤の歴史があるわけです。その中から日本が参考にできるものがもしあるとするならば、皆さんと共有して議論していけたらいいなと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。それでは、次に、平田委員、お願いできますでしょうか。
 
【平田委員】 
 平田でございます。前回はどうしても出ることができなくて本当に失礼いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は群馬県教育委員会の教育長を務めて今年で5年目が始まったところでございます。群馬県はとても外国籍の子供たちが多く、学校によっては、例えば3割近くが外国籍の子供というようなところも、もちろん地域によりますが、あります。あと一方で、そういう集住地域のことと、それからもう一つは、散在地域でそれぞれ、今まで本当に外国籍の子供を受け入れたことのない学校に1人、例えば2人なのだけれども、違う言語の違う文化の子供というような散在地域のところの課題も大きくなってきたところです。
 群馬県、昔から外国人の子供たちがたくさん在籍してきたところから、特に集住地域を中心にした知見はいろいろ持っております。例えば、日本語、群馬の外国につながる子供たちのための学びの応援サイト、ハーモニーというようなものを運営して、ネット上で外国人の子供に必要となる情報を子供、保護者、教員または関係者が一元的に、そこを見れば分かるというような形のサイトをつくったりとか、それぞれ母語支援員、集住地域なら母語支援員等の配置、散在地域だと日本語指導の係るスーパーバイザーを巡回させて送るというような様々な仕組みをしながらサポートをしているところです。
 ただ、一生懸命やっています。一生懸命やっているのだけれども、特に散在地域のところ、母語対応が、本当に言語が物すごく多種類になってきた対応の難しさであったりだとか、子供の学びにくさがどこから来ているかというところのいわゆる見取りのところですか、そこのところが母語でカウンセリングをして、言語の問題なのか、それとももしかしたら特別支援的な問題なのか、母語習得はどうなっているかというようなことというのは、母語によるカウンセリングが必要なんですけど、そこがそんなに人がいるわけではなくて、きちんと見取れない状態で、本当に手探りで、しかも慣れていない教員がやらなくてはいけない、幾らスーパーバイザーとかを支援したとしても、そんなような問題に直面しているところです。
 そんなわけで、ここで学ばせていただくのはとてもありがたいと思います。私、前は大学の教員をしていて、そこで外国籍の学生たちにたくさん会ってきました。彼らが多言語を操るということだけじゃなくて、多文化に本当に寛容で、そして心が本当に開かれていて、どんなにすばらしい学びの日本人の学生にとってもキーとなるかということを実感してきました。一方で、例えば外国による両親が、特に片方の親御さんのほうが、言葉ができないので学校を休んで、例えば病院に一緒に行くというような、そうした家庭的な大変さであったりとか、学び初めのところのつらさとか、あるいは友達づくりのつらさを小さいときに経験してきたという話もよく聞いてありました。もちろん大学生になるというのは、とても裕福なというか、恵まれた学生たちであったとは思いますが、そうしたことも聞いているので、他人事ではなく思っているところであります。たくさん学ばせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 以上です。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。今回、新たに御出席いただいた4人の委員の方々に御挨拶いただきました。
 それでは、議題1、資質能力の育成のための新たな日本語指導についてです。第1回で本会議の主な検討事項について御議論いただきましたが、その際、多様性を包摂する教育であるとか、日本の子供も含めた多文化共生等外国人児童生徒等教育の全体に関して、皆様からいろいろな意見をいただきました。今回、事務局において、外国人児童生徒等教育に関する充実に向けたイメージを作成いただきましたので、まず、その点について御説明いただきたいと思います。
 また、それに関連して、先日、中教審の教育課程企画特別部会で、日本語指導が必要な児童生徒を含む多様な子供たちの包摂に向けて、柔軟な教育課程編成の促進についての審議が行われました。本会議において、その審議の経緯や状況の全体像を把握することは大変重要だと思いますので、その全体像について、教育課程課教育課程企画室の栗山室長に御説明をいただきたいと思います。
 それでは、事務局より説明をお願いします。
 
【岡嶋補佐】 
 国際教育課課長補佐の岡嶋でございます。私のほうから資料1について御説明させていただきます。
 前回の会議におきましては、委員の皆様から多文化共生、そして多様性を包摂する教育という観点から、外国人児童生徒教育全般に関する大変重要な御意見をいただきました。また、前回検討事項として項目を4つに分けて御提案させていただきましたけれども、各事項のつながりを意識する重要性についても御指摘いただいたところでございます。頂戴いたしました御意見を踏まえまして、このたび、外国人児童生徒等の支援の充実に向けた全体像のイメージを作成させていただきました。本会議での検討を通じて、どのような未来を目指していくべきなのか、どのような視点、考え方を大切にすべきなのかといった点をまとめたものになっております。
 まず、上の部分でございますけれども、グローバル化や少子化が進む中、一人一人が自分の良さや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重する共生社会の実現が不可欠であるということ、また、そのような中、多様性を包摂し、一人一人の意欲を高め、可能性を開花させる教育を実現することが喫緊の課題であるとともに、誰一人取り残されず、相互に多様性を認め、高め合い、他者のウェルビーイングを思いやることができる環境を整備することが求められていること、これらが外国人児童生徒等教育を考えるに当たって基盤となる背景事情であると考えております。
 そして、下の図のとおり、3つの視点に立って整理させていただきました。全ての子供が豊かな可能性を開花できるように、そして、子供たちを支える大人が子供たちの可能性を引き出せるように、そして、学校全体が多様性を包摂し、多様性を強みにできるようにということで、こちらは子供たちが安心して過ごせる多文化共生、インクルーシブな学校づくりという副題をつけさせていただきました。
 2ページ目には、各視点において重要となる考え方をまとめております。1つ目の子供に関しましては、就学機会の確保と促進、そして子供たちの多様な力を引き出しながら、一人一人の豊かな可能性を育む教育の実現を掲げております。そして、具体的な項目といたしまして、子供たちの多様性の把握、困り事や悩みに寄り添う姿勢、長所、強みを引き出す視点、また、子供たちの資質能力を育むための母語の力の活用も含めた日本語で学ぶ力の育成、そして、在籍前の経験、学習歴の活用や学校外の日常生活等の接続を記しております。加えて、希望する進路、生き方を自ら選択できるためのキャリア教育支援、幼少中高の学びの連続性、学び続ける生涯学習の視点を掲げております。本日は、こちらの子供の視点における2つ目以降の事項について、検討を深める趣旨からこの場を設けさせていただきました。先生方に御発表をお願いする運びとなっております。
 そして、このうち、子供の資質能力を育むための日本語で学ぶ力の育成に関しましては、先日の教育課程企画特別部会におきまして、日本語指導のための特別の教育課程の在り方について、考えられる論点や方向性を教育課程課と連携の上、我々事務局のほうで検討させていただき、お示しさせていただきました。こちらについての具体的な検討は本会議において御議論いただきたいと考えております。
 続きまして、2つ目、大人につきましては、各地域の実情を踏まえた子供たちの受入れ、支援体制の整備、各専門分野の知見の活用、外国人児童生徒等教育の専門性の向上、そして、校内の連携、共通理解の調整、最後に、家庭、地域、関係機関との連携を掲げております。
 最後に3つ目、学校全体につきましては、子供たちが共に学び合える環境づくりとして、具体的に、異文化理解、多文化共生の考え方に基づく教育のさらなる推進を記しております。また、多様性をポジティブに捉え、日本と世界のかけ橋となるグローバル人材育成の視点、外国人児童生徒等教育で培われた知見と他の児童生徒への教育で培われた知見の相互の応用を掲げております。
 簡単ではございますが、私からの説明は以上となります。
 
【栗山室長】 
 失礼いたします。初等中等教育局教育課程課で教育課程企画室長をしています栗山と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 現在、今御説明もありましたように、国際教育課と連携して日本語指導の在り方についても検討しているところでございますけれども、私からはその背景にある学習指導要領の改訂に係る中央教育審議会への諮問の内容、あるいは、中央教育審議会は現在、野口委員の御参画をいただいておりますけれども、教育課程企画特別部会で検討を進めておりますが、そこでの審議の状況について、僭越ではございますが、私からまとめて御説明をさせていただければと思っております。
 まず、資料2を御覧ください。こちらが昨年12月25日に中央教育審議会に対して文部科学大臣から諮問した諮問内容の概要をまとめたものでございます。その中で、まず前提でありますけれども、右下を御覧いただければと思います。その前提の中で、今回の諮問におきましては、子供一人一人に目を向けたときに見えてきた課題、その中で多様性を包摂し、可能性を開花させる教育の必要性ということを非常に大きな検討の前提の柱として指摘をしております。その中でも左に御覧いただけるように、日本語を家であまり話さないという子供たちも確かに存在するということを前提として、私どもの検討も進めるということでございます。こうした課題を背景といたしまして、具体の検討事項、大きくは4本の柱となっておりますけれども、そのうちの2番目、右上の柱を御覧いただければと思います。
 2番目の検討の柱として、多様な子供たちを包摂する教育課程の柔軟な対応ということを諮問の大きな柱として掲げているということでございます。その中で、右下にありますけれども、不登校児童生徒や特定分野に特異な才能のある児童生徒を包摂する教育課程上の特例の在り方というものを検討事項にしておりますけれども、これと関連して、日本語指導を必要とする児童生徒についても、合わせて特別部会で検討をさせていただいているという状況でございます。
 その具体について御説明させていただきたいと思います。こちらは4月10日の教育課程企画特別部会、第5回に当たりますけれども、その特別部会で、文部科学省として、事務局として提案をさせていただいた内容でございます。ですので、こちらは現在、まさに御議論いただいている途中のものでございますけれども、まずは文部科学省の提案内容ということで御説明をさせていただきたいと思っております。テーマは柔軟な教育課程編成の促進についてということで、各学校が編成する一つの教育課程では対応が難しい子供の包摂というテーマであります。こちらは前提でございます。こちらのページ、2ページ目を御覧いただければと思いますが、教育課程の観点から見た場合、仕組みから見た場合、上のほうの前提というところにございますけれども、教育課程の編成というものは、学校教育法施行規則という法令がございますが、そこに示す総授業時数及び各教科等ごとに決まっている時数、そして、学習指導要領に示している各教科等の目標や内容に基づく必要があるというのが基本的な仕組みであります。しかしながら、丸1、学校として編成する教育課程の特例というものが存在しておりまして、それが左下、丸1のブルーの部分で幾つか御紹介をしているものであります。各種特例校や研究開発学校、あるいは学びの多様化学校が該当しているというものであります。
 それのみならず、例外としては、緑の部分にありますように、個々の児童生徒に着目した教育課程の特例というものが現行制度においても既に存在します。代表的なものとして、日本語指導が必要な児童生徒に対する特別の教育課程の仕組みが存在しており、今回、この特別部会では、仕組みの拡充、アップデートについて御議論いただいたということがございます。また、丸3、学級として編制する教育課程の特例、これは特別支援学級のことを主に言っておりますけれども、こうした様々な教育課程上の特例が存在しているということで、不登校、特異な才能、日本語指導について、とりわけ個々の児童生徒に着目して御議論いただいたというのが4月10日の特別部会でございました。
 御参考として、日本語指導を必要とする児童生徒以外の不登校児童生徒や特異な才能のある児童生徒に関する議論についても、簡潔に御説明をさせていただきたいと思います。不登校児童生徒につきましては、左側、現状と課題のところの生じている課題の部分を御覧いただければと思いますが、問題意識といたしましては、校内外の教育支援センターは居場所機能のみならず、学習意欲を高めて資質・能力の向上につながる指導の充実が課題であるという現場の方々のお声をいただいております。遅れを取り戻したり、進学や原籍級の復帰につなげるためにも非常に重要な部分です。また現状、個別の指導計画がないために、組織的、計画的な指導を確保されていないケースもままあるという指摘をいただいております。
 現在、不登校児童生徒については、少なくとも一人一人については、特別の教育課程の仕組みがありませんので、他学年、例えば小6に在籍している子が小3の内容を学んでいても、原籍級、小6の教育課程に基づく評価を行わざるを得ない。結果として、例えば評定に1がついたり、バーがついたり、そういった実態があるわけでございます。そういった課題も踏まえて、右側、方向性と具体的論点をお示しさせていただいたというのが、内容であります。一番上にございますように、個々の不登校児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程を必要に応じて編成、実施可能とする仕組みを新設するということを御提案させていただきました。これは学校単位で教育課程の特例を編成、実施する学びの多様化学校とは別途、個々の児童生徒に着目して新設を御提案したものでありまして、具体的な内容については、丸1から丸4でございますけれども、お時間の関係で省略をさせていただきますので、御参照ください。
 また、次のページ、特定分野に特異な才能のある児童生徒についてでありますけれども、左側、現状と課題を御覧いただければと思います。特異な才能のある児童生徒は、認知、発達の特性等から学習上、生活上の困難を抱えていることがままございます。こうした状況に対して、文部科学省といたしましても令和5年度以降、主に教育課程課で様々な事業で支援を実施してきておりますけれども、生じている課題として、一番下の部分でございますが、こうしたプログラム、つまり様々開発している、こうした子供たち用のプログラムでは、どうしても通常の教育課程とは大幅に異なる高度な内容、例えば小6の子供が数学について大学レベルの内容を学ぶようなことも実態として存在しております。そうした内容が想定されるけれども、特別の教育課程の仕組みというものがございませんので、当然、学校では小6の内容を学ばなければいけない。こうしたことが学習上の困難になることもあるという実態がございます。こうしたことを踏まえまして、右側、方向性と具体的な論点でありますが、一番上、学校外、主に大学や研究機関などを想定しておりますが、とも連携して、特性等に応じた高度な内容を取り扱う場合等において、特別の教育課程を必要に応じて編成、実施可能とするという仕組みの新設について御提案をしたところでございます。詳細は丸1から丸3でございますけれども、また参照いただければと思っております。
 そして、丸3、日本語指導が必要な児童生徒でありますけれども、簡単に御説明させていただきたいと思います。令和6年度の取組状況でございますけれども、これはもう釈迦に説法でございますけれども、在籍校での学校生活や教科学習に必要な日本語の取り出し指導等を行うために、既に特別の教育課程の仕組みが存在し、御活用いただいているところでございます。生じている課題としては、現在の日本語指導は、漢字や文法等の初期指導にとどまることがどうしてもいろいろな制約で多く、日本語と教科の統合学習によって資質・能力を効果的に育成する取組は御尽力をいただきつつありながらも道半ばであると認識をしております。特に児童生徒の実態によっては、意味理解や概念の獲得、例えば理科であれば光合成といった概念、数学であれば関数といった概念、こうした概念や意味の獲得においては、特に母語の力を効果的に活用する必要もあると考えておりますが、その在り方については様々な制約が明確化されていない状況があると考えております。また、現行の特別の教育課程の規定、これは学校教育法施行規則という法令に規定をしておりますが、日本語指導に重点が置かれている規定より、点線の中の「日本語に通じない児童のうち、当該児童の日本語を理解し、使用する能力に応じた特別の指導」という規定ぶりでございますけれども、どうしても資質・能力の育成が目的になっているということや母語の力も活用するといったことが読み取りにくい、明確ではない規定ぶりになっている現状がございます。また、母語の力を引き出す上では、少数言語も含めて母語支援員を配置することは困難が伴う場合もございますので、生成AI等のデジタル技術の活用でありますとか、また、バトラー委員が御専門と承知しておりますが、教科学習で鍵となる学習語彙の習得、例えば日常生活では使わないものの教科学習ではよく使う概念、例えば比較や分析といった学習語彙の習得を含めて、指導方法の知見はまだ不足していると考えているところでございます。
 こうした現状と課題を踏まえまして、右側、方向性と具体的論点でございますけれども、言わば、現在の、ともすると表面的な部分がある日本語指導を脱却していくために、資質・能力の育成のための新たな日本語指導というものを再定義し、特別の教育課程に位置付け、質の向上を図ってはどうかという御提案をさせていただいております。具体的には、丸1、日本語と母語の力を活用した知識及び技能、思考力、判断力、表現力等の一体的な育成というものが特別の教育課程の目的であるということを明確化する方向で法令の規定等を改正すべきかどうかということ。丸2、資質・能力の育成のための新たな日本語指導を、これは法令の規定を改正するだけでは実質化が困難でありますので、体系的、専門的に実施できるように考え方や指導内容、方法等を含めて国が全体像を示すことを検討するべきかどうかということ。加えて、学校では対応困難な母語の力を引き出すことを含めて、会話、翻訳、読み上げ、ルビ振り等での生成AI等のデジタル技術の活用についてどう考えるかということ。また、学習語彙については、将来的な日本語指導が必要な児童生徒への応用も含めて、具体的推進方策等をどう検討すべきかという論点を提示させていただきました。こうしたことについて、担当の国際教育課と私ども教育課程の全体を見る教育課程課が密接に連携して、共に検討を進めていくことが必要ではないかということを現在、考えているわけでございます。
 参考資料について若干の補足をさせていただきたいと思いますが、この辺りは不登校児童生徒や特異な才能のある児童生徒の関係でございますので、本日は割愛をさせいただきますが、ぜひ御参照いただければと思っております。
 先ほど申し上げた資質・能力の育成のための新たな日本語指導に向けてということでございますけれども、若干の補足をさせていただきますと、日本語指導のための特別の教育課程については、先ほど申し上げたような課題がございます。2つ目の部分で、このため、日本語、母語の力を活用しつつ、日本語と各教科等の指導を通じて、知識及び技能と思考力、判断力、表現力等の一体的な育成ということに言及をさせていただいております。この2つの資質・能力に加えて、学びに向かう力、人間性等という3つの資質・能力を育んでいくということが学習指導要領上に掲げられた全ての子供たちに身に付けるべき資質・能力という形で整理をさせていただいているものでございます。国際教育課の御検討におかれましては、この資質・能力の育成について、母語の力も活用しながら、デジタル技術や学習語彙など、様々な知見も活用しながら取り組んでいこうということを非常に前向きに御検討いただいていると認識しておりまして、私どもとしても、共に検討をさらに進めていきたいと考えているところでございます。
 少しそれを分かりやすくイメージにしたものがこの図でありまして、左側、現状も大変御尽力をいただいていることを前提として、課題をあえて申し上げれば、母語では理解できても日本語では授業に参加できないことがままあると思っております。母語でなら分かるのに、日本語だとどうしても出てこない。日常会話ができるかもしれないが、とにかく先生とすれば、漢字や文法を教えてあげなきゃいけないといったこともよくあるのではないかと思っております。結果として、自己肯定感や日本語教科を学ぶ意欲が、なかなか資質・能力が十分に身に付かない中で低下することがある。そのことが、例えば不登校につながる場合、あるいは高校に進学したとしても中退につながるような場合、このことが子供たちにとって壁になっているような場合もあるのではないかということを、私ども、総合教育施策課のみならず、初等中等局としても課題だと考えているわけでございます。
 これについて、右側、資質・能力を育成する指導として、母語の力も活用しながら日本語で各教科等を学ぶことができる在り方、例えば図にありますよう、日本語で書くのはまだ苦手だけれども、算数における「等しい」とかという意味、あるいは分数の概念ということが分かるようになった、そうした理解を踏まえて次に進んでいこう、母語も翻訳ツールなどを活用しながら、さらに進んでいこうということが質力・能力の育成につながり、自己肯定感や日本語・教科を学ぶ意欲の向上につながるのではないか。こういったイメージを描いているわけでございます。一足飛びにはいかない非常に困難な課題であるとも認識しておりますが、文部科学省一体として検討を進めていきたいと考えておるところでございます。また、この点については、デジタル技術の活用例やバトラー委員が御専門とする学習語彙について、簡単な御説明をされたところでございます。
 最後に、補足をさせていただきますと、全体の話に戻らせていただきますけれども、柔軟な教育課程の編成の促進ということで、全体像をお示ししたものがこちらでございます。分かりやすく1階、2階という表現を使わせていただいておりますけれども、1階については、本日申し訳ありません、詳しい御説明ができておりませんが、学校として編成する教育課程の柔軟化ということで現在、文部科学省として御提案させていただいている内容でございます。詳細は割愛いたしますけれども、一部の調整授業時数という形で、各教科の標準時数を下回って授業時数を捻出した上で、他教科に上乗せすること、あるいは裁量的な時間といった一人一人の個性や特性、背景を踏まえた学習支援などの学びに活用できるような在り方を現在、御提案させていただいているというところでございます。
 それを踏まえて、2階というふうに表現しておりますけれども、日本語指導が必要な児童生徒を含めて、個々の児童生徒に着目した特例の新設、拡充について御提案を併せてしているという状況でございます。一番上の箱にございますように、多様な個性や特性、背景を有する子供に対応するため、1階部分とも言える学校と2階部分とも言える個々の児童生徒単位の柔軟化を組み合わせて、言わば2階建てで複層的に包摂できる柔軟な教育課程の仕組みの構築に向かうことが重要であると考えております。また、補足しますと、1階、2階、決してこれらは離れているわけでありませんで、言わば階段やエレベーターがあるといった形でありました。例えば日本語指導を受けている児童生徒も、下の裁量的な時間では一緒に学んでいくようなことがあり得るという前提で御提案をしているものでございます。こうした構想について、教育課程課、国際教育課と連携しながら引き続き検討を進めていきたいと考えております。
 教育課程課からは以上でございます。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。全体的に、かつ本質的に関わる点まで提案していただきました。今後の方向性、具体論については、これから議論を行っていきたいと思いますけれども、今、岡嶋補佐、栗山室長からの御説明について何か御意見、御質問がございましたら、限られた時間ですけれども、お受けしたいと思います。齋藤委員、お願いします。
 
【齋藤委員】 
 最後の全体のイメージの図で、日本語指導が必要な児童生徒の拡充とありますが、拡充というのは、具体的にはどういうことを指しているのか御示唆いただけますか。お願いします。
 
【栗山室長】 
 御質問ありがとうございます。私からお答えをさせていただきます。
 拡充という趣旨でありますけれども、これについては、先ほど御説明をさせていただきました、こちらの内容のことをとらまえて拡充と言わせていただいております。5ページの内容です。すなわち、ともすると表面的な指導にとどまりがちな日本語指導を脱却して資質・能力の育成ということもしっかりと射程に置いた日本語指導に質的向上を図っていくと。このことをしっかりと位置付けた日本語指導の特別の教育課程にしていくということをとらまえて、拡充というように御説明させていただいたところです。
 
【齋藤委員】 
 分かりました。ありがとうございます。時数を調整するということではないということですね。
 
【栗山室長】 
 必ずしもその趣旨ではないと考えております。ありがとうございます。
 
【佐藤座長】 
 それでは、平田委員、お願いします。
 
【平田委員】 
 2点質問させていただきたいのです。
 まず、最初に御説明いただきました、資料1のところの、最初の今出していただいている絵のところなのですが、この外側に社会があるのかなあと思うんです。2のところに社会との連携という形で御表現いただいているのですけれども、実際には、例えば首長部局の様々なところとの連携というものがなくては動かないことですし、また、卒業した後に彼らが例えば職に就く、あるいはどこかに進学するという意味でも、外の世界という中に学校があるので、学校だけで全部ということは、今の現状ではコミュニティースクールという概念もあるわけなので、その外側に社会があってもいいのかなというように、概念図として思ったところです。
 2点目が、資料2について質問をさせていただきたいのです。それで、本当に本質的なところから教えていただいて、ありがとうございました。特に資料8のところ、資料3のほうの参考資料8、この絵がとても私にとっては分かりやすかったのですが、もう一つ先かな、もう一つ次ですか。もう一つ次、次、これです。これが日本語指導のところを一生懸命やってしまうと、実際に外国人の子供を支援している若者のNPOから聞いた話ですが、取り出し指導というのが実は少しつらかったと。ずっと日本語ばかりで自己肯定感が下がってしまって、それだったら、もしかしたら、ありがたかった、先生はすごくよくやってくれてありがたかったんだけど、授業の中で教えてもらえないからというほうが勉強になったときもあったという意見もありました。だからこれってすごくすてきな、理想的な姿だなあと思いました。
 一方で、教育委員会の立場からいうと、今でも先生がとても大変な状態なんです。特に散在地域においては、もともとインクルーシブな環境の中で、本当に担任の先生が多言語に対応しながらということになっています。なので、これは本当にすてきな考え方で、これでこそ伸びていくと思うのですが、一方で、これを教える教員のちゃんとこれに関わる教員、あるいは支援する人をきちんとつけていかないと、結局、理念だけに終わってしまうと思ったので、そこのところについて、お考えをお聞かせいただけたらありがたいです。よろしくお願いいたします。
 
【佐藤座長】 
 事務局から答えありますか。御意見ということでもありますけれども、特に2番目の質問は、体制整備をするためには条件整備が必要だという話だと思いますけれども、何かお答えはありますか。
 
【岡嶋補佐】 
 平田委員、ありがとうございます。まさに2点目、おっしゃるとおりだと思っておりますので、先生方が、また支援の方々も含めまして、安心して指導に当たれるように今後、御議論いただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 
【平田委員】 
 ありがとうございました。よろしくお願いします。
 
【佐藤座長】 
 時間もございますので、簡潔にお願いできますか。浜田委員、それから横溝委員が上がっていますか。浜田委員からお願いします。
 
【浜田副座長】 
 失礼いたします。今、御説明の中に資質、能力、全ての子供に求められる資質、能力を少数派の子供たちにも養うのだというようなこととか、あるいは包摂というキーワードが出てきまして、大変心強く伺った次第です。
 スライドの17のところになるかと思うんですけれども、柔軟な教育課程編成の全体イメージというところで、2階建てにすると。ですので、包摂的な部分が1階で、スペシャルなニーズに対応する部分が2階ということなのかなと理解をしたんですけれども、包摂、インクルージョンという基本からいうと、通常のカリキュラムを特別なニーズを持つ子供たちが学べるようにするために、様々な支援ですとか配慮をするとなっていて、今おっしゃってくださった2階の部分も大事なんですけど、もう一つは、今、奇しくも、2階にいても裁量的な時間にははいれるということだったんですけれども、本来的にはというか、理想的には教科A、教科B、Cの部分、あるいは教科D、Eの部分にも、こういったスペシャルなニーズを持つ子供たちというのが入っていて、そこで相互に学び合いができるという、もともとの本来的なカリキュラムのほうについても、ある程度何かいろいろな配慮が必要ではないかと思っているんですけれども、その辺りどのようにお考えになっているのか教えていただければと思います。
 
【佐藤座長】 
 文科省のほうからお答えがありますか、こうしたイメージで我々理解していいかどうかということにもにもつながってくると思います。
 
【岡嶋補佐】 
 国際教育課課長補佐、岡嶋でございます。今いただいた御指摘についてですけれども、まさに取り出しの特別な教育課程以外の時間でも、在籍学級における子供たちの配慮についても大変重要だと思っておりますので、そちらについても、今後の会議のほうでもぜひ御検討いただきたいと思っております。
 
【佐藤座長】 
 では、時間の関係で最後、横溝委員お願いします。
 
【横溝委員】 
 ありがとうございました。現場の先生が、日本語指導が必要な児童生徒への指導支援を本当に非常に頑張ってくださっているという前提の上で、今後、教員の考え方を変えていく必要があるかなと思っています。子供たちは、外国につながる子供たちも1階部分で支援を受けたいと思っている子が非常に多い中で、1階部分での支援とか柔軟さをどのように先生方がつくってくださるかということが、今後非常に重要になってくるかなと思っています。その上で、その子のさらなる可能性を踏まえた上で、2階をどのようにつくっていくかということが今後もっともっと必要になると思いますし、それぞれの学校で柔軟に教育課程を編成できることに子供たちのさらなる可能性を広げる期待をしたいなと感じました。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。これは課長ですか、お答えいただけますか。
 
【釜井国際教育課長】 
 ありがとうございます。横溝委員の御指摘の柔軟性という点についても、ぜひ国際教育課と教育課程課と連携しながら検討していければと思っております。
 それから、平田委員のほうから御指摘ありました社会との関係、それから働き方改革の関係、いずれも非常に重要な課題だと考えております。社会との関係におきましては、そもそも外国人児童生徒の教育が、文科省は文科省で学校教育段階に入ってきたときの責務はあるんですけど、それだけの問題ではないところがございまして、今日から、こども家庭庁のほうにも入っていただきましたが、各省との連携というのも非常に重要になってくると思いますので、そこも検討していければと思います。
 それから、教員の先生の負担という点では、どこの職種もそうだと思うんですけれども、全体的に社会のほうが働き方改革のほうにどのように直面していけるかというのがありますので、今日、岡嶋補佐、それから栗山室長から御説明のありましたようなデジタル、それからAIのほうを使っていくというのもございますし、あとはタスクシフトとかタスクアウトのようなものを総合的に組み合わせながら、複合的に考えていくことが重要だと思っていますので、ぜひその辺りは本会合のほうで進化させていただきながら、共に前向きな視点で、ぜひ建設的な解決策というのを議論させていただければと思っております。
 以上でございます。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。かなり重要な提案がありましたので、まだ御意見がおありだと思いますけれども、質問等がある場合には前回同様、会議終了後に事務局宛てにメール等でお送りください。
 次の議題に移らせていただきます。議題2、「外国人児童生徒等の教育の充実について」を踏まえた進捗状況についてです。前回の会議で、前の有識者会議の報告の後の達成状況について、エビデンスを踏まえた効果検証の重要性について、私からも申し上げました。これを踏まえて、事務局において進捗状況を整理いただきましたので、これについて議論を行っていきたいと思います。
 資料については事前の説明を受けておりますので、時間の関係上、事務局からの説明を省略させていただきます。何か御意見、御質問等がございましたらお受けしたいと思いますが、いかがでしょうか。挙手ボタン等でお願いできればありがたいんですけれども、事務局のほうで、これ画面に写すことできますか。
 
【岡嶋補佐】 
 佐藤先生、すいません、議題1について、1点補足させていただきたいと思います。
 
【佐藤座長】 
 どうぞ。
 
【栗山室長】 
 申し訳ありません。教育課程課、栗山でございます。短く1点だけでございますけども、教育課程企画特別部会の御議論でまさに関連する御指摘はたくさんございました。御指摘も踏まえて、中央教育審議会でも検討すべきだと思っておりますし、また、補足的に申し上げれば、不登校の子供たちや、あるいは特異な才能のある子供たちについても、特に校内の教育支援センターに行って、通常の学級にも行くような子も当然想定しておりますし、また、特異な才能の、高度な内容以外の教科については、当然、他の子供たちと共に学ぶということも想定しております。
 また、我々が認識しなければいけないのは、今も1階部分で、現行制度の中でも多様な子供たちのために多くの先生方が御尽力いただいているという実態があり、その先生方にさらに現在の御議論の考え方や趣旨、また方向性を御理解いただくということも努力しなければいけないという御指摘を中央教育審議会でもいただいています。こうしたことも踏まえて、日本語指導も含めて全体として、包摂的なより良い教育課程になっていくように、私どもとしては議論を進めていきたいと考えております。
 1点補足でございました。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。それでは、資料幾つでしたか、進捗状況の画面を共有していただけますか。これに関していかがですか。この取組状況について、数は出ているんですけれども、具体的にどこまで進んでいるかについてこれを見れば分かりましたか。例えば、速やかに解決すべき課題の中の、ICTを活用した教育支援等については、71自治体から197自治体になったということですが、具体的にどのようなことが行われているかというまでわかればありがたいです。
 
【岡嶋補佐】 
 佐藤先生、ありがとうございます。本日につきましては、取組状況ということで、文字のほうで御説明をさせていただいているところでございますけれども、その点の関係、今、取り組んでいる内容の具体的な関係性については、改めて事務局のほうで整理させていただきたいと思っております。
 本日は先ほどまさにおっしゃっていただきましたとおり、令和2年3月の報告書を踏まえた取組状況ということで、今まさに文科省のほうで御提言いただいた内容を踏まえて取り組んでいるものを列挙させていただいております。また、エビデンスベースという御指摘を踏まえておりますので、幾つか前回の会議と比べまして、具体的な数値のほうも盛り込んでおりますけれども、本日、時間の関係上もあると思いますので、説明のほうは省略させていただいたんですが、いただいた御提言がどのように取り組んでいくのか、今後の会議のほうでも引き続き御説明させていただきたいと思っております。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。令和2年度の報告、取組状況について報告をいただいていますけれども、令和2年度に提案したものと今回も少し重なる部分ありますので、ぜひ、これを御覧いただきながら、ここは一体どうなっているんだろうかというようなところがあれば、これも合わせて、必要があればメール等で質問してください。
 例えばICTの活用については、生成AIなどが出てきており、どのような活用が可能か、それが実際にどのように活用されているかを踏まえて、これから何が課題なのかというところを我々が議論していく点だろうと思いますので、何かありましたら、ぜひメールでお知らせいただければと思います。
 
【岡嶋補佐】 
 ありがとうございます。小島先生よろしければ、お願いいたします。
 
【小島委員】 
 ありがとうございます。
 
【佐藤座長】 
 どうぞ、お願いします。
 
【小島委員】 
 こちらの2枚目のほうになるんですけども、3枚目か、すいません。就学状況の把握と就学の促進というところで、ぜひこの会議の中で議論できたらなというところが、1つ目が速やかに実施すべき施策というところで挙がっている学齢簿の編成のところがあったかと思います。そこが一体化されていくというところを推奨していく、されているという今の取組の現状という情報の中で、そうなりますと、いわゆる就学というところの考え方というのを正確に持っていかなきゃいけないんじゃないのかなと思うんです。
 とりわけ、その中で外国人学校の子供たちの就学把握というところの在り方というところも一緒に地域と、また、各自治体なんかとも連携しながらできるような取組というところも考えることができたらいいのかなと思いながら、また、そして、実施に向けて取り組む課題というところで、外国人の子供の保護者の就学義務を課すことについてというところでございますけども、この点についても、同時に会議の中で議論できるような場ができたらいいなと考えます。
 以上でございます。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。ぜひ、この中でできれば、議論が積み重ねればいいなと思います。
 ほかはいかがでしょうか。オチャンテ委員ですね、どうぞ。
 
【オチャンテ委員】 
 すいません、3ページのところなんですけど、外国人の子供や保護者に対しての学校生活についての動画を作成されたということなんですけど、この作成された動画について、より多くの外国人家庭や当事者の方々が使ってもらうように、どのような普及をしてきているのかなと。恐らく知らない人たちも多いんじゃないかなと思うんですけど、そういう現場の先生がしているかもしれないけれど、いろいろ話を聞くと、文科省が作っているものがあるにもかかわらず、それがうまく活用されていないということは気になる点ではあります。
 あと、すいません、不就学の可能性のあると考えられる子供たちの数が載ってはいるんですけど、最近、不登校になっている、いろいろ不適応になってきて、なかなか学校に通えない子供たちも増えてきているので、そういうことも視野に入れておかなければならないのかなと思っています。
 以上です。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。そうですよね。取組状況の中で、なかなか難しいんですけども、エンドユーザーの視点から一体これがどの程度活用されているのかというところまでの検証というのが必要だと思いますので、これはこれからの課題でもあると思いました。ありがとうございます。何かありましたら、繰り返しになりますけれども、メール等で質問、問合せしていただければと思います。
 それでは、3人の委員の方々の発表に移りたいと思います。外国人児童生徒を包摂する教育指導内容の深化、充実のところでの、徳永委員、小島委員、齋藤委員から御発表いただきます。
 それでは、徳永委員からお願いします。
 
【徳永委員】 
 御紹介くださり、ありがとうございます。私、徳永のほうからは外国につながる子供の強みを生かす教育、エンパワーメントの視点について、短く紹介させていただければと思います。前回、自己紹介もさせていただきましたけれども、私自身は日米の移民の子供、若者の教育支援やエンパワーメントの研究をしております。複数の文化や言語の狭間を生きる子供や若者が、その強みを発揮できるような教育や社会の在り方を研究しています。移民の子供、若者が包摂される教育環境づくりに向けて、研究や実践、アドボカシーに取り組んでおります。
 エンパワーメントの視点に入る前に、現在、外国につながる子供たちの教育状況、教育課題について少しお話ができればと思います。これは文科省の日本語指導が必要な児童生徒の受入れ状況等に関する調査の中で、日本語指導が必要な高校生等の中退や進路状況を表しているものです。いまだにかれらの高校中退率は全高校生と比較したときに非常に高くなっていますし、大学等の進学率というのも低くなっており、非常に厳しい状況にあると思います。そういった中で日本学術会議のほうでも、こういった高校進学率や中退率をめぐる全国平均と日本語教育が必要な生徒の間の格差というのが大きな問題で、この解消に向けて、様々な対策がなされるべきであると提言がなされています。
 こういった格差の背景には、マイノリティーに不利に働く仕組みがあると思います。例えば言語や文化の壁ですとか、家庭の経済状況ですとか、法制度、在留資格、特に家族滞在などの壁もありますし、やはり同調圧力というのも、いまだに非常に根強いと思いますし、差別や偏見など本当に様々な障壁があって、しかもその障壁が非常に複雑に絡み合いながら存在している中で、どのように障壁を取り除いていけるのかということを考える必要があると思います。その上で、日本で生まれ育つ子供だったり、あるいは小学校とか青年期に来日した子供など、非常に多様な背景を持つ外国につながる子供たちが今後、進学や就職をして、将来社会で活躍できるようにするためにはどういう支援ができるのか、どのような視点を持って私たちが関われるのかということを考えていく必要があると思います。
 そこで、今回エンパワーメントの視点というのをお伝えしようと思います。外国につながる子供と聞いてどういうイメージを持ちますかと聞くと、日本語ができないとか、授業についていけないとか、学力が低いとか、親が教育熱心でないとか、問題行動が多い、そのような声がよく聞こえてきます。これはマイノリティーの子供に問題とか欠陥があるというように捉える視点だと思います。マジョリティーの言語や文化を普通とみなしているために、子供たちや家庭に問題があるとみなしてしまう。これは、例えばアメリカの文化欠陥論という考え方にも通じると思いますが、マイノリティーの子供の言語や文化は劣ったものとされてしまって、学校で成功するにはマジョリティーの言語や文化を習得する必要がある、そういった考え方です。まだまだこの考え方が強いのではないかと思ったときに、視点の転換というのがとても重要だと思っています。ここでストレングス・アプローチという言葉を出していますが、子供の強みをどう生かして、どう伸ばしていけるのかということです。子供に問題、個人に問題や欠陥がある。それをどう取り除いて補完していくのかではなくて、そういった子供たちには本当にいろいろな能力とか資質、知識があって、そういった強みを引き出して伸ばしていく視点、子供の強みが発揮されることで自己肯定感が高まってエンパワーメントにつながるのではないかと思います。
 こういった子供たちの強みを伸ばせるように周りの環境を改善していくということが非常に重要で、なかなか現状では、こういった子供たちの強みを発揮できるような教育、社会になっていないのではないか、強みを発揮できていないのではないかと思っています。この視点は、多文化教育とか文化に対応した教育でも言われていることで、マイノリティーの子供や家族の強みを生かすことの重要性や、学校の教師がマイノリティーの子供の文化や、知識や経験を尊重して、それを教育実践に生かしていくことで子供の学びが深まって、エンパワーメントやウェルビーイングにつながるということが多くの研究でも実践でも言われています。そういった中で、どのようにエンパワーメントの視点から外国につながる子供の教育の充実を目指せるのかということを、ぜひここでも皆さんと議論できるといいと思っています。
 子供の強みと言われてみても、なかなか具体的にどういう強みかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは私自身もこれまでいろいろな研究をしたり、あるいは子供たちと関わる中で、外国につながる子供たちの強みとして考えてきたことです。1つ目は、制度の中で生き抜く力と書きましたが、移住だったり、あるいは新しい文化に適応する中で大きな試練や困難を乗り越えてきた、そういった経験を持つ子供たちが多いと思います。その中から、たくましさとか前向きさなどを身に付けている、そういった力もあるのではないかと思います。2つ目は複数言語文化の力ということで、1つ、2つ、あるいは3つ、4つと複数の言語や文化を理解して、日本社会、そして、家族のために通訳とか翻訳ができる、そんな子供たちもいると思うので、そういった力も捉えていく必要があると思います。
 あとはコミュニティーの力ということで、自分自身の家族や同じ国籍を持つ人たちとのつながりとか、そういった中からお互いが助け合ったり支え合うような力を持っている子供たちもいると思います。高い適応能力ということで、いろいろな国や文化を行き来する中で文化への高い適応能力や柔軟力を持つ子供たちもいると思います。場に応じて、新しい文化的な習慣とか行動、外見などを変えて溶け込む特性、それもすばらしい力なのではないかと思います。
 そういった中で子供の母語や文化、生い立ちや家族の歴史などを教育活動の中に取り入れて、子供が安心して過ごせる居場所のある学校風土を育むということ、そうした環境の中で、こういった子供たちは自らの背景に誇りを持って、肯定的なアイデンティティーも形成していけると思います。アイデンティティーの形成というのは非常に重要なテーマではないかと思います。しかし、子供はそれぞれ異なる言語や文化、経験を持っているので、外国につながる子供を一くくりには絶対できなくて、一人一人違うので、一人一人に寄り添いながら子供の強みを引き出し、伸ばしていくということが重要だと思っています。
 それをするために、2点、私のほうから提案したいのですが、1つ目は子供の声を聞く仕組みづくりということです。外国につながる子供や若者に何かを教えたりとか支援するという一方的な見方ではなくて、彼らから何を学べるのかという大人側の姿勢ということがすごく問われていると思います。こういった子供たちや若者たちは自らの経験を通して、本当にまさに外国につながる子供の教育課題に関する深い理解と視点を持っている専門家だと思っています。そういった彼らの声を尊重して傾聴して、私たちが彼らから何を学べるのか、そういった視点を持つということが求められていると思います。
 大人の役割としては、子供、若者のパートナーとして対等な関係性を目指して、彼らと一緒に課題を考えていく、一緒に政策を考えていく、一緒に学校の運営について考えていくことが必要だと思います。そういった中でアドボカシーという子供、若者の声を反映させていくということ、こども家庭庁の方々もいろいろ取り組んでいらっしゃると思いますけれども、そういうところと連携をしながら、当事者不在ではなくて、こういった外国につながる子供、若者の声を聞く仕組みをつくっていくということが重要です。例えば日本の学校運営とか、あるいは教育行政においてもこういった外国につながる子供、若者の声に耳を傾けて、それを施策や方針に反映させるような仕組みを整えることが必要だと思っています。海外では多くの事例があると聞いております。
 2つ目は外国につながる子供だけではなくて、一人一人の子供たち、マジョリティー自身が変容する必要があるということで、学校全体で多文化共生の教育に取り組んでいく必要があるのではないかと思います。これは多文化教育とか多文化共生の教育で多くの研究がなされていまして、ここでは一つ持ってきていますけれども、学校教育のユニバーサルデザインを目指して、違いに関わらず全ての子供に公正で平等な教育を提供する試みとか、多文化社会で生き抜く力を持つ市民の育成を目指して学校全体の改革を目指す、そういった多文化教育というのもありますので、どのように日本の、もう既に多くの学校は取り組んでいると思いますけれども、多文化共生をより多くの学校で広げていけるのかということを考えていく必要があると思います。
 そういった中で、多様性を尊重した学校づくりということで、様々な背景を持つ子供たちや、これは教職員も同じだと思いまして、外国籍の教職員がいることで多様性が尊重されていったりとか、後はそういった多文化共生の取組を評価するような仕組みを導入していくですとか、教員養成課程とか管理職、教員研修で異文化理解とか多文化共生に関する科目を必修化して全ての人が学べる、そういった環境づくりというのも強く求められていると思います。
 時間の関係でこれは詳しく説明できないのですが、ストレングス・アプローチに基づいて、外国につながる生徒が多い定時制高校で、部活動を通した多言語交流部というのを学校やNPOと連携してつくって、彼らの強みを引き出してエンパワーメントをするという取組をしたので、関心のある方は、この本も参照していただければと思います。一つ、ここでは連携というのがキーになっていまして、学校だけではできないので、学校やNPOや大学とネットワークをつくりながら子供たちの強みを引き出す取り組みをしました。これは先ほど御説明があった、イメージの案の中でも、もしかしたら強調すべきことなのかと思っています。いろいろな人たちがつながりながら強みを引き出していくというモデルの一つになると思います。
 部活動に関わった高校生にとって複数言語や文化が尊重される居場所になっていたりとか、あるいは、ここで自己肯定感を育み、いつも自信がないと語っていた子たちが自分自身に自信を持ちながら話ができるようになっていました。また、リーダーになっていく、こういった外国につながる子供たちが高校で司会や通訳をしたり部活動の企画を考えたりすることで、その後、どんどん活躍していき、卒業後も今度は地域社会の担い手として、後輩の育成に貢献してロールモデルになっていく、こんなモデルにもなっていると思います。
 繰り返しになりますけれども、エンパワーメントの視点、ストレングス・アプローチという、どのように強みを生かし伸ばしていくのかということと、マジョリティーが変容していく、これは多文化共生の教育は外国につながる子供のためだけではなくて、全ての子供にとって豊かさをもたらしてくれるとても重要なものだと思いますので、その視点が重要だと思います。そして、子供たちが多様性が尊重される社会をつくっていく重要な担い手であるので、多様性の象徴として消費するのではなくて、子供一人一人が市民として将来社会で活躍できるように環境整備をして包摂していく、全ての子供のウェルビーイング実現に向けて私たちが何をできるのかということをぜひ議論できればと思います。
 ということで、私からは以上になります。御清聴ありがとうございました。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。徳永委員の発表について何か御質問ございますか。御意見というより御質問のほうが適切だろうと思いますが、いかがですか。ストレングスのアプローチというのを今日提案していただきました。今回も子供たちの長所や強みを生かすというところがかなり大きな柱になっていますので、それに対する理論的な裏づけ、あるいは具体的な実践事例について報告いただきましたけれどもいかがでしょうか。佐古委員、お願いします。
 
【佐古委員】 
 徳永先生、ありがとうございました。非常に示唆的な内容で勉強させていただきました。2点ほど教えていただきたいところがございまして、質問いたします。
 1点目は、マジョリティーの変容で、学校全体で取り組むということを最後のほうでお示しいただいたんですが、学校全体の改革ということについてのキーとなるファクターみたいなものは、何か先生のほうで把握されているのであれば教えていただきたいということと、もう1点は、同じくそのページの中で、教員養成課程で科目を必修化する方向性も示されておられますが、そういうことについては、どのような内容を含む科目を想定されているのかというのを少し教えていただければと思っております。
 
【佐藤座長】 
 徳永委員、お願いします。ありがとうございました、佐古委員。
 
【徳永委員】 
 ありがとうございます。私自身は多文化共生の教育を学校全体で取り組むときに、とても重要だと思うのがリーダーシップではないかと思っていまして、管理職の先生方がこういった多文化共生の重要性ということを理解してくださると、そこに例えば多文化共生の委員会ができたりですとか、あるいは実際に授業を、学校で設定できるような科目をつくったりですとか、教員を集めてコミュニティーをつくりながらいろいろな先生たちがアイデアを出しながら実践をつくるということもできると思っておりまして、管理職の先生たちの理解がないとなかなか進まないというのは、私自身がいろいろな学校と関わる中でも思っていることです。
 あと、もう一つが、教員養成の中で扱うテーマというのはいろいろあると思いますし、既にモデルプログラムの開発などはなされていると思いますが、私自身は授業の中で、異文化理解や多文化共生ということで、例えば日本にいる外国人がなぜ日本にそもそもいるのかとか、あるいは、どういう経緯で来て、今どんな課題を抱えているのかなど外国人に関することだったりとか、今日、少しお話しをしたような外国につながる子供たちを取り巻く課題ですとか、あるいは、学校の中でやられているいろいろな実践について扱ったりしています。また、日本人の子供たちが、例えば自分自身のマジョリティー性に気づくような、マジョリティーとして持っているいろいろな特権に気づけるようなことを授業や研修の中で入れたりですとか、本当にいろいろあると思います。私自身、整理はできていないのですが、外国につながる子供たちに関わること、マジョリティー側が自分自身の特権に気づくような取組、そして、様々なマイノリティーの子供たちと共通する点もあると思います。広く多様なニーズを持つ子供たちの課題やどのように包摂できるのかというテーマを、こういう授業や研修の中で取り入れていくということも一つかと思います。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。よろしいですか。この後、徳永委員は、この委員として御出席していただきますので、何かまたあれば、そこで議論を重ねていければと思います。ありがとうございました。
 続きまして、小島委員より御発表お願いいたします。
 
【小島委員】 
 小島でございます。私のほうから画面共有をしながらさせていただきたいと思います。お手元のほうには、参考資料になるものを御提示しているものです。どうしても字が小さいものですから、大きくさせていただいたものに、画面上はさせていただいております。見えておりますでしょうか。よろしいでしょうか。
 東京外国語大学の小島でございます。「文化的言語的に多様な背景を持つ外国人児童生徒等のためのことばの発達と習得のものさし」、略称で、「ことばの力のものさし」でございますけども、考え方と目指すことについて報告させていただきます。
 こちらは、「ことばの力のものさし」のスタンスです。実践ガイドの2ページから抜粋した分をお読みしたいと思います。目の前にいる子供を日本語ができない子供として見ますか、それとも、日本語も母語もできる可能性のある子供として見ますか。どちらの立場に立つかによって、子供の未来は180度違ってきます。私たちは2022年度から計3年間、文部科学省の委託事業としての中で、子供の持つ全ての文化とことばを尊重し、年齢に伴う認知的な発達を支えることばの力を捉えるものとして「ことばの力のものさし」を作成しました。このものさしですけども、どの言語も完璧に習得しているかどうかというものを図るものではありません。複数の言語環境で育つ子供の背景を肯定的に捉える視点を提供するためのものです。
 私、個人ごとになりますけれども、冒頭の自己紹介でお話しさせていただいたとおり、今から30年前になります1994年に小学校教員として着任した学校現場で、初めて外国につながる子供と出会ったというところから現在に至ります。この30年間の中で、これまで非常に多くの日本で小学校、中学校、高校を辞めてしまったり、不就学に置かれた外国籍の子供たちと出会ってきました。こうした子供たちに共通することは、自分に自信が持てないことです。日本語ができないことで、こんなこともできないのかと扱われ、同級生の日本人の子供と比較して、できないことや足りないことを指摘される日々の中で考えること自体を諦めてしまった子供たちです。それによって、何事にもネガティブなってしまい、自分のルーツにも否定的に捉えていく、そんな子供たちの姿をたくさん見てまいりました。
 そして、御縁あって、20年前になりますけども、当時私は外国籍住民が多く暮らす岐阜県可児市の教育委員会に勤めていました。日本語ができないからと学びの機会を制限されていたり、自分の存在が認められない、それによって学校生活も苦しくなってしまい、自ら退学してしまうような、就学義務の対象でないことで不就学状態に置かれた外国籍の子供たちが多く暮らしていた町でした。こうした状況を変えるために、中退者、ドロップアウトが最も多かった中学校で、管理職の先生たちと真っ先に取り組んだことが生徒たちをエンパワーメントし、そして、同級生と比較してできないことを教えるのではなく、一人一人のつまずきを把握しながら教育をしていく、そうした指導体制に変えていきました。先ほど徳永委員がおっしゃった点です。さらに、現役の外国につながる高校生を有償のサポーターとして積極的に雇用したり、正規の授業時間に子供たちの母語や母文化に光を当てる時間をつくりました。こうした子供を取り巻く環境の変化が不就学ゼロにつながってきました。今でも可児市はある種この分野での「先進地域」だと言われておりますが、当時からのスタンスが変わっていないからかもしれません。
 こうした不就学ゼロを目指した取組を進めていく中で成長してきた子供たちですけども、今では家庭を持つ親になっています。納税者となって自立した市民となって活躍しています。こうした子供たちと関わりの中で、ことばについて教えてもらいました。子供たちにとってことばとは、教科などの知識を得るためのものではなく、家庭、そして友達や先生など他者や社会とつながるためのもの、そして、ルーツだったりアイデンティティーを支えるものであり、思考するツールであるということをこの間に教えてもらいました。子供にとって大切なことばを育てるための環境づくりのために何が必要なのか、このことを常に考えながら、「ことばの力のものさし」の作成に取り組みました。
 当然ながら、日本生まれ日本育ちの子であったり、小さいときに来日した子供など、子供自身が抱えている苦しみがとても社会から見えにくい子へのまなざしも大事にしました。ここで、現役の高校生の声をお聞きいただきたいと思います。これまで通った小学校では、外国籍児童生徒とほとんど出会ったことがないという、いわゆる散在地域に住んでいるブラジルにつながりのある子です。一人っ子であることから、家庭内ではブラジル出身の両親とはポルトガル語で話します。家庭以外は全て日本語で生活しているため、聞く、話す力はポルトガル語よりも日本語のほうが得意という子の声です。お聞きください。
 
【生徒】 
 お母さんに聞けないので、それが今までの学校生活でも困っていたんですけど。
 
【聞き手】 
 そっか、そっか。
 
【生徒】 
 聞けないので分からないところを解消できないんですよ。なので、テストも点数も低かったんですけど、国語とかは特に読んで理解しないと答えられないので、数学は答えが一つしかないし、文章題とかは難しいですけど。
 
【聞き手】 
 そうだね。文章題も難しいしね。
 
【生徒】 
 難しいけど、難しいからこそ両親に聞けないという、それが小学校、中学校で一番困りましたね。
 
【聞き手】 
 そっか、そっか、そっか。そういう時はあれ、どういうふうにしていた?
 
【生徒】 
 私はもう分からないままに……。
 
【聞き手】 
 分からないままにしてた。
 
【生徒】 
 答え見て、あ、こういうことかとなったらいいんですけど、どうしてこうなったみたいなのもあったので、そういうときはもう諦めていました。
 
【聞き手】 
 そうか。そうだったんだね。
 
【生徒】 
 もう100点取ることは諦めて、本当に分かるやつだけ解いていこうって、私もよくあるんですけど、日本語のほうが得意なんですけど、それでもポルトガル語しか出てこない言葉だったりとか、そういう語彙力が両方一致しているわけじゃないし、ポルトガル語で知っている言葉を日本語で知っているわけでもないので。
 
【聞き手】 
 そうだよね。それは当然そうだ。
 
【生徒】 
 両方分かっていたほうが聞きやすいというか。
 
【聞き手】 
 そうだね、そうだね。
 
【小島委員】 
 小学生のときに、「ブラジル人には日本人の作者の気持ちを読み取ることなんかできないよ」と国語の授業で言われた、たったその一言が彼女を学習からだけでなく、自尊心までも傷つけられてしまいました。それによって、彼女は学校での学習が分からないことが日常化してしまったのです。しかも、日本生まれでこんな日本語も上手なのに、テストができないのはあなたの努力が足りないからと周囲に決めつけられていくことで、学年が上がるにつれて学習で分からないことが増えていくものの、家庭でも家でも、学校でも家庭でも分からないことを質問できない状況の中で、どんどん、どんどん苦しさを抱えていったのです。
 しかし、ある日、文化的背景を理解してくれた先生が、彼女の強みに光を当てることを学級で行ったことで、クラスの子の目が彼女に自分に自信を少し与えるようになります。その頃に私は出会いました。そこで、私は地域のNPOと連携して、彼女のポルトガル語も日本語もできる力に光を当てたサポートをしました。そしてたった半年です、続けたところ、彼女のやる気スイッチは驚異的にぐーんと伸び、彼女の力を引き伸ばして第1志望の高校に見事合格。それによって、入学した高校の自己紹介ではブラジルにつながりがあることを自らの強みとして話せたということをうれしそうに話してくれた、そのときのインタビューが今のお聞きいただいたものです。
 「ことばの力のものさし」は、こうした日本生まれ日本育ちの子供を含めて、子供が持っている全ての力に光を当てる、その多文化、多言語の子供の言葉の力を育てることのできる環境づくりの貢献を目指しています。
 では、「ことばの力のものさし」について、具体的に紹介したいと思います。まずは目的ですが、3つあります。一つは年齢に伴う認知的な発達を支えることばの力を捉えるためです。子供が成長する中で考える力や表現する力を支える基盤となるのがことばですので、この評価は、年齢に伴う認知的な発達を支える、ことばの力を捉えることを目的としています。2つ目が、個に応じた学習指導計画を立てるためです。子供の強みや課題を明確にし、それに基づいて一人一人に合った学びをサポートするために評価を行います。学習過程を重視し、子供が自信を持って次の段階に進めるように設計された、学習を支える評価です。3つ目が子供の多様な文化的言語的背景を尊重し、可能性を最大限に引き出すためです。多文化多言語の子供はそれぞれ異なりますので、文化的背景を持っていますので、その背景を把握し、子供の最大限の力をしっかりと捉えることで子供の強みを生かしながら、学びの幅を広げる支援につなげることを目的としています。
 次に、対象です。「ことばの力のものさし」は、小学校段階から高校生段階までの子供たちを対象としています。1人でできることでなく、支援を得て発揮できる最大の言葉の力を評価します。年齢に伴うことばの発達と日本語習得の各段階に応じた記述文に基づいて、思考、判断、表現を支える包括的なことばの力、複数言語での力の発達ステージと日本語固有の知識、技能の習得ステップの2つの軸で捉えます。記述の詳細はお手元の資料を御覧ください。ステージ、ステップ、2軸です。子供の力を見える化できるようにしたものがこちらになります。ここでは、横の軸、緑です。思考、判断、表現を支える包括的な言葉の力、複数言語での力の発達ステージを示します。これが横軸になります。
 ここでは、日本語と母語を合わせた全ての言葉のレパートリーで捉え、その発達段階をAからFの6つのステージで分けて評価する枠組みです。日本語と母語により、より高いほうの力を捉えることで、子供が最大限できることを見極めます。例えば、日本語での表現がまだ十分でなくても、母語で高度な思考や表現が可能な場合は、母語の力で包括的なことばの発達ステージの評価を含めます。とりわけ、聞く、話す、読む、書くの技能の中で最も高い力で見とることが大きなポイントです。高い力に焦点を当てて学習過程を設定することで、子供にとって適切な学びの機会を提供できるだけでなく、高い力を活用して学習課題に取り組むことで他の力を効果的に伸ばすことができます。何よりも高い力を認めることで子供が自信を持ち、学びの意欲を高めることにつながります。
 「ことばの力のものさし」の使用方法を解説した実践ガイドでは、実際の学校現場など52か所で検証を行ったんですけども、そのうちの28の実践と学校体制づくりをまとめた2つの実践を掲載しました。また、効果的な授業実践例を納めた学びにつなげる授業実践ワンポイントレッスン動画も作成しました。では、ここでは、実際の実践ガイドで御紹介した実践について、残り時間、少しありますけども、使って御紹介したいと思います。皆様のお手元に、実際の実践例があるかなと思いますので、そちらを御覧ください。
 こちらは、サバイバルの日本語学習として行ったものです。小学生、中学生を対象にした計9名、学習期間が2か月から4か月という、来たばかりの子供たちであることがお分かりいただけるかなと思います。この提示の力を何で見たかというと、日本語では教室での観察、そして、母語については、母語でのDLAと作文課題を取り組み、そこから子供たちの力を捉えました。捉えたものというものが、記述文というものがお手元の資料の子供の力のものさしになります。聞く、話すで捉えました。ここに通ってくる子たちは初期指導が必要な児童生徒のうち、希望する者が通ってきているところですけども、子供たちは日本食の味に慣れていないだけでなく、偏食等により給食を完食できないという子たちがいた。そこで、子供たちがふだん食べ慣れている家庭料理を題材にして栄養のバランスを考え、自己肯定感を高めながら言葉の力を育てるという実践を計画したものです。来日して間もないため、日本語の話す、聞く、読むの力はステップ1です。しかし、母語の力が年齢相当、学年相当、そして高学年以上であるため、書く力が先に伸びていますよね。ですので、その力を生かしながら、母語の母文化の料理を題材にして、同じルーツの子供たちとディスカッションできる時間を確保しながら、自分の食文化、食生活の内省をしていくというところを目指したという授業です。
 五大栄養素を確認しながら、そして、こんな例文を見ながら、自分たちで栄養バランスを意識したメニューを考えるというような授業をしていきました。そんな形でつくったメニューがこんなものです。というのを発表しながら、書く力がある子たちですので、その力を活用しながら、話す、聞く、そして読むという力を伸ばしていったというものです。年齢相当でございますので、その力を、日本語固有の力を縦に伸ばしていく、縦に伸ばしていくということを、持っている力を活用して行っていったという実践がこちらになります。
 また、お手元の資料にございますでしょうか、実践の10番と書いてあるものがございますか。こちらは、全て日本生まれ日本育ちの子供たちです。好きな教科であっても、在籍学級では日本語で表現しなければならないという場面になってしまうと下を向いてしまうような、そんな子供たちです。人前で発表することが苦手な子供たち、そこからです。特に、書く力が嫌い、漢字が苦手だから作文なんて大嫌い、そんな子供たちの力を上げていくところで、図工の選考学習という形で行いました。小集団をつくり、彼らたち、この子供たちは年齢の思考判断表現の支える力については、今ここの段階である。でも、年齢相当はここですので、そこに向けて、そして日本語の力も一緒に伸ばしていきますので、斜めの力、斜めの力を伸ばしていく、そのための授業をつくったものがこちらになります。どのようにこの子たちの力を捉えたかというのは、日常での観察や、また、保護者やNPOの聞き取りから捉えていったというところです。聞く、話すの力が最も高い子ですので、その力を使って、書く力を伸ばしていくということに取り組んだものです。
 図工の授業で、絵から聞こえる音という、そんな単元の先行型学習としてやってきました。実際に自分たちに、ルーツに関わる絵を見ながら、つながりのある国の子供が書いた絵を実際に鑑賞しながら、書く力を高めていくという活動でした。つながりのある国の絵のパワーによって、児童はルーツを考えたり誇りを持ったりすることができたようです。それによって、子供たちの筆はぐんぐん、ぐんぐん走り、終了のチャイムがなるまで手が止まりませんでした。そして、その力を使って、子供たちは実際に授業に参加し、在籍学級では見事にみんなの前で手を挙げ、自ら手を挙げ発表することができたという、そんなものです。横の力、斜めの力を上げていったことです。
 
【小島委員】 
 16番は横溝委員の実践ですので、また読んでいただけたらと思います。
 こんな形で子供たちの力と強みを捉えたうえで各地の先生方と実践を行ってきました。先生たちが、必ずしも子供たちの母語ができなくても、子供が頭の中で何を考え、何を表現しようとしているかを捉えること、姿勢を持つことで、斜めの力、斜めの力を伸ばすことができています。斜めの力とは、年齢に伴う認知的発達と深く関わる考える力、判断する力、表現をする力を育むためです。学習活動全体を通して、子供が持つ全てのことばの力を活用して行う支援がこのようにできてきました。このことばの力のものさしを活用していただき、ことばを育てる教育活動が広がることを願っております。
 以上になります。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。時間が足らなくて申し訳ありませんでした。とても大事な枠組みだと思いますので、今後も議論ができればいいなと思っています。
 最後に、齋藤委員よりお願いしておりますので、齋藤委員より御発表をお願いします。
 
【齋藤委員】 
 それでは、よろしくお願いいたします。時間が押しているということですので、少し早口になりますし、ところどころスキップしながらお話しさせていただきますが、御了承ください。
 まず、お話しする内容ですけれども、大きく3点です。1点目が、これまでにも日本語指導の考え方があったわけですけれども、それを総合的なことばの教育として改めて確認するということです。2点目が、実施上の現実的な問題、課題を確認します。3点目に、本検討会の議題でもある資質、能力をどのように明示的に示していくかということについて、私から試案を提示させていただきたいと思います。
 日本語の発達のイメージですが、スライド3頁でお示ししたところについては、既にこれまでの議論の中でも共有していらっしゃるかと思います。ここで留意しなければならない点があります。かれらの母語、母文化、あるいは出身国、地域での育んできた力をぜひとも生かしていただきたいわけですけれども、中には、ここまでも議論があったように日本生まれ日本育ちの、母語・母文化の経験や力を獲得できていない子供の場合には、それを求めることが、彼らに欠損があるというような誤った認識を与える可能性もあります。それぞれの子供たちの来日時期、年齢に応じて、かれらの持っている母語、母文化、多様性というものをどのように位置づけ、支えるとして生かしていくのか、あるいは育んでいくのかということを併せて検討する必要があります。
 次に、スライド4にお示ししますのは、文部科学省の『外国人児童生徒の受入の手引き(改訂版)』に示されている内容に、私のほうで、母語、母文化、キャリア教育を含めて描いた図になります。これも皆さん御存じだと思いますが、先ほど小島先生から御紹介のあった実践事例などは、この図では「サバイバル日本語」の中のトピック、それから「日本語・教科の統合学習」の教科の部分をトピックとした「JSLカリキュラム」として、これまで研修などで紹介してきた事例と実践のタイプかと思われます。実践された先生方は長年関連する研修に出られたり、研修の講師をなさったりしている非常に力量の高い先生方で、すばらしい実践事例を提供してくださっていると思います。しかし多くの現場では、日本語の取り出し指導に関しては時間数の制約があり、言葉の発達に関する学校、それから子供たちの親御さんの理解の不十分さの問題、また、学校現場に、言語教育の専門性を十分に有する先生方が多くはないというようなことから、先ほど栗山室長からもお話もあったように、どうしても来日直後の短い時間で行われる「サバイバル日本語」と「日本語基礎」の学習にとどまっているケースが少なくないということが現実としてあります。
 次に、スライド5頁で、私たちが言葉の教育を通して育みたい文化適応、コミュニケーション、学習参加、そしてアイデンティティーや自己実現、キャリア形成、社会参加という課題と、それから「DLA」がモデルにしているカミンズの3つの言語能力のモデル、そして先ほどお示しした日本語のプログラムの関係を、構造化してみたものです。
今所属している学校の日本語指導の体制等の実際、子供の実態に合わせて、ことばの教育課題を具体的な学習課題としてコンテクスト化し、そこでどのような問題、課題解決の力として言葉の力を育んでいくのかを具体化していく必要があるわけです。そのときに経験があり、専門性がある先生方であれば、目の前の子供たちが直面している課題、コンテクストに合わせて言語を抽出し、具体的な言語の力として何を発達させていくかという判断、決定ができるかと思うのですが、現状としてそれができる先生方がまだ十分にいらっしゃらない中で、今、期待されることとしては、どういう力を育むことを目指しながら、教育活動として具体的にはどういう言語項目をピックアップして、どのような学習課題の遂行とともに言語の力を育んでいくのかを示すことだと思われます。 そのときに、今後、議論する学習語彙をどのように取り扱うのかが関わってきます。
では、現状として日本語指導が実際にどのように実施されているのかですけれども、既に大分お話ししてしまいましたので、簡単にお話ししたいと思います。子供の実態を把握して、生かしていくんだということは共有されていると思いますが、目指す子供像がない場合には、目の前の問題である「できないこと」が、学習の課題として設定され、そして、捉えやすい言語形式である語彙や文法や文字などが指導内容として取り上げられ、そちらに偏向してしまう。そうした状況を変えていくには、資質、能力として何を目指すのかという大きなマップに加えて、具体的な指導内容の指標が必要なのではないかと考えます。
 また、現場の状況としましては、先ほど、お話があったように、学校、地域の状況によって取り出しの時間数も異なりますし、教師・支援者の配置の状況も違います。また、学校や地域の子供たちの教育に対する認識も異なっています。そうした中で、どの方向で、どのような力を伸ばしていくのかということと、そのために具体的に何を教えていくことが重要なのかということについて、一定の目安は必要だと、この点からも考えられると思います。
 そうした現状で、子供たちの学びは分節化、分断化されていると考えられます。1点目が出身国・地域からの移動によって、日本でこれまでの力を生かせない。2点目は、家庭と学校との間で価値観や文化が違う中で、それぞれの場で学んだことが結ばれていない。また、皆さん熱心に教育活動に関わってくださっていますけれども、日本語学級・国際学級と在籍学級あるいは学校との間で学びの経験がつながっていない。また、地域での支援と学校の教育がつながっていない。さらには、学校種間の制度的な違いによって教育の仕組みも考え方も違うために、子供たちが培ってきたもの学びをなかなかつなげていけないという問題があります。
 学校間の校種間の連接を考える上では、ライフコースやキャリアという個人の成長、発達というものにも大きく注目をしていく必要があると考えます。そのために、学びの連続性が重要だと考えるわけです。その連続性を実現していくためには3つ、スライド9頁でお示ししたようなことが課題かと思いますが、その中でも青い字のところを強調したいと思います。既に徳永委員から強みとしても出されていましたけれども、非認知能力ということを意識的に教育の目標として、あるいは教育を動かす動力として位置づけていくということが必要かと思います。
 2点目に、移動後の学びをプロセスとして描くこと。目の前の課題だけに執着するのではなくて、プロセスと捉えた上で、今この段階でどういう力を育むべきかということを、先にゴールとして設定した資質、能力、育むべき資質、能力を見通しながら考えていく必要があると思います。それから平田委員からも御指摘がありましたけれども、子供たちが健全に、社会の一員と成長・発達していく上では、社会との相互作用を、カリキュラム・マネジメントの考え方で、横断的な教育課程を編成する中で、実現していくことが必要だと考えられます。
 すいません、時間がもうありませんので、次のスライド13頁の、佐藤先生と松尾先生の多文化教育、多文化共生からの示唆については、御覧いただければと思います。
 次に、Education2030で示されたラーニングコンパスの資質・能力をご覧ください。「変革をもたらすコンピテンシー」として3点、「新たな価値を創造する」「対立やジレンマに対処する」「責任ある行動をとる」が示されています。そのコンストラクトのところに、それを支える資質、能力の要素が示されています。また、その下には発達の基盤となる力を示しました。知識もスキルも大事だというように、これを書かれた白井氏がおっしゃっています。それを考えますと、日本語教育においても文字を学ぶこと、語彙を学ぶこと、文型・文法を学ぶことも基盤となる力として必要なわけです。それがコンピテンシーとしてどういうものと関わりを持ちながら、彼らの力として発達できるように学習をデザインしていくのか、それが今問われていると考えます。
 最後に検討課題について2点述べます。検討課題1としてですけれども、段階的に子供たちの発達に合わせて前景化したり、注力したりするコンピテンシーというものを意識した言語教育、あるいは外国人児童生徒教育ということを検討する必要があるんじゃないかと思います。来日直後からの子供たちの実態、状況に合わせて、その段階で障壁となっていることを乗り越えるために、どういうコンピテンシーに焦点化、その力を高めていくのかを考えるということです。
検討課題2としては、ここまでも議論があったように、それは外国人の児童・生徒、移民タイプの子供だけのためのコンピテンシーであってはならず、学校全体で、あるいは、日本の教育全体で育んでいくべきコンピテンシーとして位置づけることが必要だと思われます。その上で、彼らの移動直後の状況から彼らが発達していくプロセスに応じたコンピテンシーに注力した教育ができるような仕組み、考え方を、国としては大枠と方針を、それから地域、学校としては、その地域、学校の実態に応じた具体的なカリキュラム化を、そして教員はそれを基にした学習環境をデザインし、学習活動を創造していく。それらがいい形で好循環を生んで、より良い教育をしていくということが望まれると考えますし、それを地域全体として、ノンフォーマル、インフォーマルな教育と結びながら、コミュニティーとして、その環境、状況をつくっていくということが大事かと思います。
 以上です。ありがとうございました。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。皆さん、あまりにも時間が短過ぎて大変申し訳ございません。残り、少しありますので、先ほどの小島委員と齋藤委員について御質問があれば、お一人ないしお二人ぐらいお受けできると思いますが、いかがでしょうか。齋藤委員と小島委員の両方、あるいはどちらでも結構ですので、何かございましたらどうぞ。
 吉田委員、どうぞお願いします。
 
【吉田委員】 
 お二人の御発表ありがとうございました。大変勉強になりました。今日は時間がないので、質問というより、御発表の内容に関連して根本的なところで何点か、これから皆さんでこういうことは話していったほうがいいのではないかという点について、今後に向けた提起としてお話しさせていただければと思います。
 まず、齋藤委員が整理してくださったように、文部科学省から示されている検討事項の「外国人児童生徒等の資質・能力を育成するための指導の在り方」の資質・能力とは、外国につながる子供に特別なものではなくて、全ての子供たちを対象に伸長が図られなければならない資質・能力であると、私も考えています。つまり、今、投げかけられているのは、外国につながる子どもたちに、全ての子供たちを対象に求められている資質・能力を伸ばす教育をどう保障するかという問いであって、逆に言えば、外国につながる子供たちにはそれが十分保障されていないという現状があるのだと私は考えています。したがって、この有識者会議では、資質・能力の内容そのものの議論というより、資質・能力をいかに保障していくのかが議論の焦点になるのではないかと思います。 
それを進めようとするときに、今日、齋藤委員のスライドで提示していただきました「日本語」プログラムについては、私は以前から少し疑問を持っています。例えば、なぜ2年なのだろうかということです。主に取り出しなどを想定しているからなのかとも思いますが、資質・能力をどう育成するかという点でいうと、カミンズの3つの言語能力の分類で言えば、教科学習言語能力に注目することが非常に重要になってくると思います。そうであれば、今回、この有識者会議で示していくものは、2年を単位するということではないのではないか。今まで実際に行われてきた学校での日本語指導は、弁別的言語能力の部分に注目する指導で、弁別的言語能力はだいたい2年で身につけて行くことができると言われています。しかし、教科学習言語能力に注目するならば、5年以上かかるわけです。
この問題は、資質・能力の伸長に関わる指導を担うのは誰か、という問題にもつながってくると思います。学校現場には、日本語指導の担当者と教科指導の担当者がいる、それぞれ何をして、いかに連携していくのか。どの時期にどのぐらい、どんな連携の下で何が行われなければならないのか、そういったところが今後の検討のポイントになるのではないか、と齋藤先生の御発表を伺いながら考えておりました。こういった点について、今後、それぞれの専門性がおありになる皆さんから、ぜひ、いろいろな御意見をお聞きしたいなと思っています。
 そして、この問題を考える上で大変参考になると思ったのが、小島委員の出してくださったことばの力のものさしの実践ガイドに掲載されている実践記録集の様々な取組だと思いました。どのように子供のことばの力を見取って、それを踏まえて具体的にどのような指導ができるのかが具体的に示されることが、学校現場にとっては大変重要だと思います。子どもたちの資質・能力を伸ばすのは誰かという点でいえば、今一番焦点をあてなければならないと私が考えるのは、教科指導の先生方の果たすべき役割、そして日本語指導と教科指導の先生の連携です。教科を担当される先生方に、どのような指導の方法や工夫があり得るのか、どのような取組が必要なのか、そこを示していくということがとても大事な部分だと思っています。その点で小島委員の提示された実践記録集の事例がとても素晴らしいと思いました。有識者会議では、それを参考にしながら、学校現場の先生方に伝わりやすいものを示せるように、考えていくことができるのではないかと思ったからです。もちろん教科志向型のJSLカリキュラムは出されていますし、優れたものだと思いますが、理念的なところが大きいので、より実践的なものをどうやって現場の先生方に示していくのかについて、ぜひ皆さんと一緒に考えたいなと思いました。
 以上でございます。ありがとうございました。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。もうお一人ぐらい大丈夫だと思いますが、どうですか。今の吉田委員のように何か全体に関わることでも結構ですけど、いかがですか。よろしいですか。野口委員、どうぞ。
 
【野口委員】 
 全体に関わることでも大丈夫ということで、お話しさせていただけたらと思います。今日まさに教育課程課の栗山室長からあったとおり、1階と2階で整理をするというのを、この会でもやっていけるといいのではないのかなと思っています。
 1階・2階の考え方のベースになっているのは多層型支援システムです。英語だと、Multi-Tiered System of Supports、MTSS。欧米の研究をされている方は御存じだと思いますが、MTSSでは包括的に全ての子供たちに対して1階部分においてユニバーサル、かつ予防的な第1層支援をしていく、それでも難しい子に2層、3層という形で支援を付け足していく支援システムです。1階部分の柔軟性というのは、外国につながりのある子供のみでなく、特別支援の子たち、そしてこれらのカテゴリーに当てはまらないけれど、何等かの困難さのある子どもたちも含めて、かなり共通してできることがあると思っています。本会議においても、通常の学級におけるすべての子どもを対象とした第1層支援として通常の学級でできることは何だろう。その上で2層支援、3層支援はどのような支援を付け足していったらよいのか、という整理をしていくとわかりやすいと思いました。
 その際の重要な視点が、いわゆる医学モデル的な視点ではなく、社会モデル的な視点だと思います。つまり、今の社会、通常の学級がマジョリティー中心にできているから、マイノリティーにとって障壁が生じている。その障壁をいかに除去できるかという視点ですよね。つまり、多様性を前提とした授業や学校を先生がデザインしていくという視点、これをやればいいんだよじゃなくて、1層支援としてできることの選択肢があり、自分が担任をしている集団に対してはどのような1層支援が良いのか、先生たちがデザインしていけるような、そういう視点が重要なのではないのかなと思います。
 先ほどの徳永委員の御発表にもありましたが、どのマイノリティー性のある子供にも共通している点は、「私たち抜きに私たちのことを決めるな」だと思うんです。子供自身の声を聞いて、障壁を解消していくというとが必要です。例えば特別支援教育において通級や特別支援学級を利用している場合は、個別の計画の作成義務がありますがこのような計画に子供の願いを載せる欄を入れるようにするのも良いと思います。子供にとっての障壁が何か、何をどう学びたいかの声を聞きそれを授業や学級づくりのデザインに生かしていくことができます。このような点を含め、段階的な支援のシステムという視点を皆さんで共通しながら議論を深めていけるといいのかなと今日は思いました。
 以上です。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。齋藤委員、どうぞ。
 
【齋藤委員】 
 すいません、齋藤です。お時間いただいて申し訳ありません。今の1層、2層、3層という考え方からすると、ここで議論しているときにも、多分1層と2層の話が混同……。
 
【野口委員】 
 そうなんです。
 
【齋藤委員】 
 混在していたかと思います。例えば、日本語指導が2年間では短いんだというのはそのとおりですけれども、2層として行うのであればどのぐらいのことを行うか、1層の中で実現するのであればどういうことをというように整理した上で検討できると、少し擦れ違っているような議論もうまく融合でき、建設的に具体化できるのかなと思いました。以上です。
 
【佐藤座長】 
 ありがとうございました。今日のテーマが、資質・能力の育成のための新たな日本語指導ということでした。ある程度、資質・能力というようなことについての議論が深まったかなと思いました。ただ、資質・能力とは一体何なのかとか、それから「新たな」という表現が妥当なのかどうかについては検討の余地があると思います。これまでも資質・能力の育成のための日本語教育は進めてきています。新たなという用語を使うことの危惧というのは、これまでの日本語指導を否定的な捉えることにつながる恐れがあるという点です。そうではなくて、これまでの日本語指導と資質・能力育成のための日本語指導をどうつないでいくのかというところが、我々の議論の焦点になっていくと思います。それが1層とか2層とか、そういう議論につながっていくと思いますので、その辺の議論を少し詰めていければなと思いました。
 そして、最後、齋藤委員の中にもありましたけれども、理念の中で多文化共生とか多文化教育とかとありますけれども、これまで外国人児童生徒教育の中で異文化理解、国際理解教育、多文化共生、市民性教育、さらにはグローバル人材育成など、かなり多様な文脈でいろいろな用語が使われているので、これをどう整理していくかは、この教育の理念を考えていくときに重要になってきます。これは資料の最初のポンチ絵の2枚目にも関連してきますので、議論をしていく必要があると思いました。それから、吉田委員が指摘していたように、表面的な日本語指導に陥っているのはなぜなのか、日本語指導そのものに内在する問題だけじゃなくて、それを取り巻く様々な環境的な要因があると思います。それは条件をどう整備していくのかという課題につながります。こうした点を皆さんの意見やお話を伺って感じた次第でございます。
 いずれにしても3人の方々の発表も踏まえながら、議論が深められたかなと思いますし、ここでの議論が実践の改善につながるようにしていきたいと思いました。
 徳永委員、小島委員、齋藤委員、本当にありがとうございました。また、いろいろな御意見いただきまして、本当にありがとうございました。
何か御意見があれば、ぜひメールでお知らせいただければと思います。前回の委員会の議論を踏まえて、今日新たに資料1を出していただきました。今回、的確に整理していただきましたので、皆さんからの意見を踏まえて、また新たなものが出来上がっていくと思います。事務局では今日の議論を踏まえて整理していただければと思います。
 最後に、事務局より連絡事項があればお願いします。どうぞ。
 
【片桐調査官】 
 本日は3名の委員の先生方からの御発表と、皆様からの活発な御意見をいただきまして、どうもありがとうございました。様々な視点から重要な御意見、御指摘をたくさんいただきましたので、私ども、こちらを整理させていただきながら、また引き続き一緒に検討させていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 第3回、次回につきましては、5月26日月曜日の10時から12時になります。第3回においても、引き続き指導内容について扱わせていただければと思います。第4回以降の日程につきましては、調整中ですので、また別途連絡させていただきます。
 本日はどうもありがとうございました。
 
【佐藤座長】 
 それでは、本日の会議をこれにて閉会したいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――


※会議終了後の追加意見
【野口委員】 
<通常の学級における支援や教育活動について>
・バトラー委員や吉田委員の提言の通り、すべての子どもにとって重要な支援を明確にする(例:学習言語の活用、視覚的な支援の利用など)必要がある。そのほかにも、障害のある子どもについては、通常の学級の中でできる教科ごとの配慮について現行指導要領解説に記載されているが、対象を障害のある子どものみとするのではなく、日本語を学んでいる児童生徒も対象とするべきなのでは。つまり、通常の学級において全体に対するユニバーサルな支援及び個別的な支援について両方が学習指導要領解説に書かれるとよいのではないか。
・子どもたちが多様性について学ぶ機会が必要なのではないか。多文化共生や多様性理解について、マジョリティの子どもが学ぶための何かしら学べる枠組みが必要なのでは。
・上記の2点は障害のある子どもにおいても重要。これらが保障されるように、教員養成や育成指標に明確に位置付けることに賛同。
<外国人児童生徒等に対する指導内容や教育活動について>
・本人の意思を踏まえた個別の指導計画の作成ができるようにするのはどうか。その際に本人・環境のストレングスも含めてアセスメント・計画が立てられるようなツールを作成するのはどうか。
・子どもの言語の習得についてはすでにアセスメントツールや教材があるとのことなので、それが確実に活用される工夫が必要なのでは。
・自身の母語や文化と同じ人と出会う機会の保障

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総合教育政策局国際教育課