今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第1回)議事録

1.日時

令和4年12月22日(木曜日)15時30分~17時30分

2.場所

WEB会議と対面による会議を組み合わせた方式

3.議題

  1. 新しい学習指導要領の下での学校における教育課程、学習指導の実施状況等について
  2. その他

4.議事録

【石田教育課程企画室長】 それでは、時間となりました。ただいまから第1回今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会を開催いたします。
委員の皆様におかれましては、大変御多用の折、御参加いただき誠にありがとうございます。
本部会につきましては、報道関係者の方々から撮影及び録音の申出を頂戴しております。そのように対応しておりますので、御承知おきいただければと思います。
それでは、早速でございますけれども、まず初めに、初等中等教育局担当の大臣官房審議官をしております安彦広斉から、開会の御挨拶を申し上げます。
【安彦大臣官房審議官】 皆さん、こんにちは。今、御紹介いただきました、初等中等教育局を担当しております審議官の安彦でございます。本有識者会議主催の初等中等教育局長ですが、本日国会のため出席できませんので、私のほうから一言御挨拶申し上げたいと思います。
まず、本日、お忙しい中御参加いただき誠にありがとうございます。本年4月から、高等学校を含めた全ての学校段階におきまして、新しい学習指導要領がスタートしたということでございます。
本検討会ではこの新しい学習指導要領の下での、学校における教育課程や学習指導の実施状況をしっかり踏まえつつ、子供たち一人一人に必要な資質・能力の育成を図ることができるよう、今後の教育課程や学習指導、学習評価等の在り方について、多様な視点から御検討いただきたいと考えております。
折しも中央教育審議会のほうでは、「令和の日本型学校教育」の実現に向けて、初等中等教育分科会の特別部会の下に義務教育と高等学校教育に関するワーキングをそれぞれ設置しまして、義務教育の意義や学びの多様性、また高等学校教育の在り方などについて御議論いただいているところでございます。本検討会での御議論も、こうしたワーキングの議論も踏まえながらお願いしたいと考えております。
委員の皆様におかれましては、それぞれの御専門の立場から、忌憚のない、また精力的な御議論をいただきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。
それでは、私からの挨拶に代えさせていただきます。
【石田教育課程企画室長】 続きまして事務局より、本検討会の趣旨の御説明とともに、委員の御紹介を申し上げたいと思います。資料共有をお願いします。
こちら、資料1の設置要項でございますけれども、まず1ページ目、1の趣旨でございます。最初の段落2行でございます。
審議官の挨拶にもございましたけれども、本年4月から高等学校を含めた全ての学校段階におきまして新しい学習指導要領が実施に移され、全ての学校段階において定着に向けた取組をいただいているところでございます。
2つ目の段落、中央教育審議会では、「令和の日本型学校教育」の実現に向けた議論が、初中分科会の下に設置された義務教育、高等学校教育の在り方ワーキンググループにおいて行われているところであります。
3つ目の段落、このような現状に鑑みまして、本検討会では、現行の学習指導要領の下での子供たちや学校の状況等を踏まえつつ、今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方について、必要な検討をお願いするものでございます。
これを踏まえまして、2に(1)から(4)にわたる検討事項をお示ししてございます。
また、3の実施方法の(1)としまして、別紙の者の協力を得ること、また(2)として、本検討会に座長、座長代理を置くこととしております。
2ページ目に検討会の委員名簿がございますので、お名前の御紹介を申し上げたいと思います。名簿順ということでございます。
まず、学習院大学文学部教授の秋田喜代美委員でいらっしゃいます。本検討会の座長代理をお願いしてございます。
千葉大学名誉教授の天笠茂委員でいらっしゃいます。本検討会の座長をお願いしております。
独立行政法人教職員支援機構理事長の荒瀬克己委員でいらっしゃいます。
京都大学大学院教育学研究科准教授の石井英真委員でいらっしゃいます。
東京大学名誉教授、帝京大学中学校・高等学校校長の市川伸一委員でいらっしゃいます。
千葉大学教育学部教授の貞広斎子委員でいらっしゃいます。
戸田市教育委員会教育長の戸ヶ﨑勤委員でいらっしゃいます。
上智大学総合人間科学部教授の奈須正裕委員でいらっしゃいます。本検討会の座長代理をお願いしてございます。
また、本日は御欠席でございますけれども、お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授の冨士原紀絵委員にも就任をいただいております。
事務局からの説明は以上でございます。
ここからは司会を天笠座長に交代させていただきたいと思います。座長、よろしくお願い申し上げます。
【天笠座長】 今ありましたように、ここからは私、天笠が進行をさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
ただいま事務局から説明がありましたように、本検討会では、現行の学習指導要領の下での教育活動の実施状況や、子供たちへの学習指導のフォローアップをしっかり行うことを軸に、中央教育審議会における今後の議論も注視しながら議論を進めていきたいというふうに思っております。
そこで、第1回目となります本日は、現在の学習指導要領の下での学校における教育課程・学習指導の実施状況についての意見交換の機会としたいと思っております。
意見交換に先立ちまして、事務局から参考資料として資料2を準備していただいておりますので、事務局から説明をお願いいたします。
【石田教育課程企画室長】 資料2について御説明申し上げます。資料共有をお願いします。
新しい学習指導要領、この4月から全学校種において実施に移されたところでございます。本日は、この学習指導要領の下での実施状況について意見交換をいただきたいと考えております。御議論の参考として、事務局におきまして、この新しい学習指導要領と、また、それを後押しする形でおまとめいただいた「令和の日本型学校教育」答申を中心に資料を作成してございます。
次のスライドをお願いします。こちらは、今の学習指導の改訂を提言いただいた中央教育審議会の答申の記述を整理したものでございます。
答申では、「生きる力」の理念の具体化といたしまして、「生きる力」とは何かを資質・能力として具体化すること。具体化した資質・能力の育成に向けて、各学校における教育課程の検討・改善と指導の充実を図ることができるよう、学習指導要領の示し方を工夫するよう提言を頂戴したところでございます。
具体的な提言事項といたしましては、全ての教科等の目標・内容を「資質・能力の3つの柱」で再整理すること、カリキュラム・マネジメントの充実を図ること、「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を図ることなどの提言を頂戴したところでございます。
次のスライドをお願いします。こちらが学習指導要領の全体構造でございます。
「何を学ぶか」だけではなく、「何ができるようになるか」「どのように学ぶか」「何が身についたか」も重視しながら、資質・能力の3つの柱のバランスのとれた育成、主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善、学習評価の充実、カリキュラム・マネジメントの充実、社会に開かれた教育課程の実現など、提言をいただきました。
次お願いします。こちらは、中央教育審議会の答申を受けまして、実際に改訂した学習指導要領の改訂内容につきまして、事務局において便宜的に整理したものでございます。
左側に学習指導要領の構成、右側に主な改訂事項を整理してお示しをしてございます。詳しくは先生方のほうで後ほど御確認をいただければと思いますけれども、少しだけ御紹介を申し上げます。
例えば、学習指導要領の構成では、一番上でございますけれども、今回は中央教育審議会での御議論を踏まえ、新たに「前文」を位置づけまして、学習指導要領改訂の理念を明記してございます。
具体的には、右側にございますように、教育基本法に定める教育の目的・目標を確認した上で、新学習指導要領では豊かな人生と持続可能な社会の創り手の育成を目指して、社会に開かれた教育課程の実現を目指すこと、幼児教育から高等学校教育という初等中等教育段階全体を見据えて学校段階間の接続を図ることや、小学校学習指導要領の役割などについて示してございます。
このほか、学習指導要領の改訂事項について、総則、各教科等にどのような内容が位置づいているのかについて整理をしてございますので、この後の議論の参考にしていただけましたら幸いでございます。
ここからは簡単に、総則と各教科等の改訂事項について御紹介したいと思います。
次のスライドをお願いします。今回、学習指導要領の総則につきましては、学校のカリキュラム・マネジメントを支える観点から、その全体構造について見直しを図ってございます。
今提示しているスライドは、中央教育審議会答申でお示しいただいた資料でございます。教育課程の編成、実施、評価、改善という一連の教育課程のPDCAサイクルと、それを支える学校運営、そして真ん中に、学習者である児童生徒の発達の支援を位置づけてはどうかというものでございました。答申でいただいた方向に沿って、総則の規定を整理してございます。
次のスライドをお願いします。こちらは参考でございますが、それを受けて、実際に総則の規定を整理したものでございます。
次のスライドをお願いします。次に、学習指導要領に示したカリキュラム・マネジメントの規定でございます。
各学校は、児童や学校、地域の実態を適切に把握して、①、②、③の3つの側面を通して、教育課程に基づき、組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと。これをカリキュラム・マネジメントと位置づけまして、各学校においてその充実を図るよう努めていただいているところでございます。
また、教科等横断的な視点からの教育課程の編成を求めるものとして、新学習指導要領では、学校の教育目標、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力などの学習の基盤となる資質・能力、現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を示し、それぞれの資質・能力の育成をお願いしているところでございます。
次のスライドをお願いします。次に、「主体的・対話的で深い学び」についてでございます。こちらが答申で整理いただきましたそれぞれの学びの定義でありまして、学習指導要領の解説でも、これをそのまま用いてお示ししているところでございます。
次お願いします。こちらは実際の「主体的・対話的で深い学び」に関わる学習指導要領の規定でございます。
総則におきまして、単元や題材など内容や時間のまとまりを見通しながら、児童の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善を行うことを明記しますとともに、各教科等の特質に応じた、物事を捉える視点や考え方(以下、「見方・考え方」)というものが鍛えられていくことに留意し、充実を図ってほしい学習過程を記載してございます。
次のスライドをお願いします。こちらは、新学習指導要領での各教科等の目標・内容でございます。それぞれの教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせて、資質・能力の3つの柱をバランスよく育成することを規定してございます。
次のスライドをお願いします。こちらは学習評価の基本構造を整理したものでございます。指導と評価の一体化の観点から、資質・能力の3つの柱を踏まえまして、観点別学習状況の評価も、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3つに整理をいただきました。
以上が、学習指導要領の改訂事項の主なものでございます。
現在、この学習指導要領の下で、各学校におきまして教育課程の編成や学習指導、学習評価に取り組んでいただいている状況にあると考えてございます。
次のスライドをお願いします。なお、この学習指導要領の下での教育課程の編成・実施を後押しするものとして、中央教育審議会の「令和の日本型学校教育」に係る答申につきましても、簡単に御紹介したいと思います。
今、映しておりますのは、答申の総論を整理いただいたものでございます。左上にありますような急激に変化する時代を踏まえ、右上にありますような子供たちに育むべき資質・能力、これをしっかり育むためには、ただいま御説明しております新学習指導要領の着実な実施が重要であり、そのための基盤的なツールとしてICTの活用が不可欠であること、こうした基本的な考え方を前提にいたしまして、右下の新しい動きを踏まえ、一人一人の子供を主語にする学校教育の実現など、「令和の日本型学校教育」の実現を目指すことについて提言を頂戴いたしました。
次のスライドをお願いします。こちらは「令和の日本型学校教育」の姿として整理いただいたものでございます。
特に子供の学びにつきましては、個に応じた「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を通して、「主体的・対話的で深い学び」を実現することが重要である旨の提言を頂戴したところでございます。
次お願いします。なお、この答申の考え方につきまして、教育課程部会で審議のまとめをいただいたときに、「個別最適な学び」と「協働的な学び」「主体的・対話的で深い学び」のそれぞれの関係につきまして整理いただいた資料がこちらになります。参考にお配りしてございます。
次のスライドをお願いします。なお、この令和答申では、こちらのスライドの下部分にございますように、それぞれの学校段階において目指す学びの姿も提言をいただいているところでございます。
中央教育審議会では、こうした提言を踏まえながら、義務教育の在り方、高等学校教育の在り方についてワーキングでの議論をお願いしているところでございます。
次、最後のスライドでございます。このほか答申では、「令和の日本型学校教育」の構築に向けた今後の方向性、ICTの活用に関する基本的な考え方も示されておりますので、参考としてお配りをしてございます。
事務局からの資料説明は以上となります。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、これから委員の皆様の御発言、意見交換をさせていただきたいと思います。発言がある方は挙手等々をしていただき、私のほうから指名させていただきたいと思います。
それで、およそ今日この後の進め方としましては、委員の方、およそ御意見の発表を2巡させていただくような進め方をさせていただきたいと思っております。
まず1巡目ということにつきましては、それぞれの、先ほどの有識者会議の御紹介がありましたけども、その順に進めてお願いできればと思います。
【石田教育課程企画室長】 失礼いたします。事務局でございます。
大変おわび申し上げないといけないことがございました。冒頭、委員の先生方を御紹介した際に、高橋純先生の御紹介を損ねておりました。
東京学芸大学教育学部教授の高橋純先生にも就任を頂戴しております。大変失礼いたしました。
【天笠座長】 ということで、どうぞ高橋先生を含めまして、よろしくお願いいたします。
今申し上げましたように、委員の方、およそ今日、2巡ということでお願いできればと思っております。
そして、1巡目は先ほどの名簿の順にということで、秋田委員、荒瀬委員、石井委員という、この順に御発言をお願いできればと思いますけども、その際は、御自身の簡単な自己紹介も含めまして、1巡目の話についてはお願いできればと思います。
それで、まず秋田座長代理から発言をお願いできればと思いますので、お願いいたします。
【秋田座長代理】 ありがとうございます。学習院大学の秋田でございます。私のほうは、今、義務教育の部会のほうや、それから架け橋特別委員会というところに出させていただいたりしながら、幼児期から小学校、中学校、高等学校と学校種の間の接続ということなどに関して関心を持ちながら、関わらせていただいているというところになります。
こうしたところから、今回の学習指導要領について、特にすばらしいというか、うまくいっているなというふうに感じる点でございますけれども、まず前文の中に、子供の発達ということで幼児から順につながっていくことが明記され、また、特に小学校低学年等の在り方に関連しましてもかなり丁寧に書かれているというようなところがございまして、これが基盤になりまして、今回、「架け橋期」というようなところの、幼小の接続についてもより一層の議論をすることができています。
これは単に幼児期から児童期というだけではなくて、生涯の学習の基盤を義務教育の始まりの段階でつくっていくというようなところにつきまして求めて書き込まれて、これを基にして議論がなされているというようなところが、大きな意義があろうかと思っています。
この部分、それから発達の支援という4のところでも、小学校の中でも低学年・中学年・高学年をかなりきめ細かく書き込まれ、そして中学校、高校、と教育課程そのものが子供の発達の段階に応じて進んでいくことが明記されております。
こちらは、例えば幼児期から低学年のあたりの在り方というところでございますが、これは現在、脳科学等で言われている知見等とも、ちょうどシナプスの刈り込みが完成するのが8歳ぐらいというようなことが言われていましたり、それから欧米のカリキュラムなどでもゼロから8というようなところが一つの区切りになり、具体的な体験から、さらに思考概念や理解を深めていく中学年以上、そしてさらに、自己を確立し、自分の進路などを決めながらより探究的な学びにつながっていく、もちろん、幼児期から探究ということは行われるんですけれども、その辺りの流れというものが明確に、今回の教育課程では高等学校の在り方まで見据えて書かれているというようなところが、大きなポイントになっているのではないかと思います。
今回、「主体的・対話的で深い学び」、それから「個別最適な学び」と「協働的な学び」というのが一つの大きな柱になっておりますが、今回、架け橋の部会のほうでも、その芽生えを幼児期から培っていき、それが受け継がれていくのだというようなことが述べられておりまして、その意味でも、この大きなポイントで幼小中高をつないでいくというようなことが、これからの新たな学びの姿の実現としてとても意味を持っているのではないかと考えております。
現在、多様な子供たちがいるわけですけれども、定型的な発達以外の子供たちにも目配りを利かせていくということで、新たな在り方についても議論がなされてきましたけど、そうしたことも今後さらに教育課程との関係で考えていくというようなことが重要になってくるのではないかと思います。
本日2巡ということですので、まず1巡目につきましては、このような形で自己紹介を兼ねて発言をさせていただきました。
以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして荒瀬委員、お願いいたします。
【荒瀬委員】 ありがとうございます。独立行政法人教職員支援機構の荒瀬でございます。よろしくお願いいたします。
先ほどの御説明は、主に小中学校の学習指導要領ということで、平成29年改訂のものでありました。私は長らく高等学校におりました関係で、平成30年に高等学校は改訂されておりますけれども、そちらのことも踏まえながらお話ししたいと思っています。
本当に高等学校の学習指導要領もよくできた学習指導要領だというふうに思っております。
3つ申し上げたいことがあるんですけども、その前に、私は学習指導要領を初めて見たときに、新学習指導要領ですが、驚きましたのは、総則の第1款の1で、これは本当に初めに書かれている部分、前文の次に出てくる部分でありますけれども、ここで第1款のタイトルが、「教育課程編成の一般方針」というのが前の学習指導要領のタイトルでありましたが、それが「高等学校教育の基本と教育課程の役割」というふうに変更されているという、ここにまず驚きました。「教育課程の役割」というのは非常に明確なタイトルであるというふうに思った次第です。
また、その中身なんですけれども、基本的には使われている単語は変わらないんですが、中ほどに出てくる言葉が、前の学習指導要領といいますか、まだ高等学校は2年生・3年生・4年生は前の学習指導要領のままであるわけですけれども、そちらのほうに出てくる言葉として、「地域や学校の実態、課程や学科の特色、生徒の心身の発達の段階及び特性等を十分考慮して」という、この部分が逆転しています。新しいほうは「生徒の心身の発達の段階」から書き起こしていまして、順番が変わっているわけです。
これは日本語の特性でいうと、後になればなるほど重みが増すということも言えるわけなんですけれども、まずどこに着目するかということで考えてみると、新しい学習指導要領は、まず生徒の心身の発達の段階や特性等に着目しているという、ここがとても大きな変更点であるというふうに捉えています。
これは小学校も中学校も同じなんですけれども、高等学校の場合、使われている単語の数が多いので、余計その逆転していることがよく分かるということであります。
それでは3点、それぞれ関連もしていますが、申し上げます。先ほど御説明いただきましたスライドの3のところなんですが、この3の部分で前文がついたということで、これは秋田先生も言及なさった点でありますけれども、私はこの前文は非常によい文章だと思っておりまして、いろんなところで紹介をさせていただいています。
とりわけ教育基本法の1条、2条の記述の後、次の段落、第2段落に当たるかと思うんですけども、これが、「これからの学校には、こうした教育の目的及び目標の達成を目指しつつ、一人一人の生徒が」これは高等学校ですので「生徒」となっておりますが、「自分のよさや可能性を認識するとともに」という、このような書きぶりになっています。
一人一人の生徒が自分のよさや可能性を認識するというのは、これはまさに生徒にきちんと視点を当てて、生徒の自己肯定感というのを大事にしていこうということではないかと受け止めています。
その生徒の自己肯定感があってこそ、あらゆる他者を価値のある存在として尊重することができるし、また、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越えることもできる。さらには豊かな人生を切り開く、そして持続可能な社会の創り手となることができるようにするということであります。
その後半の2つの部分が、今お示しいただいているスライドの中には書かれているわけですが、この2つ目で、「豊かな人生と持続可能な社会の創り手の育成」となっています。
教育振興基本計画部会の議論が今進んでいるところですけれども、そちらのほうでは「ウェルビーイング」が非常に重要な考え方であるということが示されていて、その「ウェルビーイング」に向けてどうしていくのか。しかも日本型といいますか、日本発の「ウェルビーイング」というような言い方もされているわけなんですけれども、私はここに書かれている、豊かな人生を切り開く、さらには持続可能な社会の創り手となっていくという、これがまさに学習指導要領が示している日本型の「ウェルビーイング」の姿ではないかなということを思っている次第です。
まずこれが1点目ですが、それから2点目、豊かな人生の部分が「ウェルビーイング」に通じるというところで大事なんですが、その「ウェルビーイング」に関することで言いますと、キャリア教育の充実が、学習指導要領全般に貫かれていますけれども、非常に重要であると考えています。
「キャリア教育」は、ただし残念ながら若干揺れのある言葉になってしまっていまして、あたかも職業の準備教育のような捉え方をしている面がなきにしもあらずです。
2011年の1月の中教審答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」を見ると、職業教育とキャリア教育は非常にはっきりと分かれているし、さらには「キャリア」という言葉の定義もなされています。
改めて紹介することはいたしませんけれども、2016年の12月の中教審答申、まさに学習指導要領改訂のための答申でありますが、その中でキャリア教育の重要性について説明があって、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程をキャリア発達としているんだという記述があります。
ここが私は非常に大事だと思っていまして、学校教育は一体何が重要かというと、これから生きていく子供たちが、自分の見方、考え方を養って、自分らしく生きていく。他者と関わりながら自分らしく生きていくということが非常に重要で、その意味では、学校教育の軸というのはキャリア教育ではないかと考えております。
いろんな、「○○教育」とよく言われるものがあるわけですけれども、例えば性教育にしても主権者教育にしても、そういったものも全てキャリア教育に収れんしていくのではないかというふうに思っています。
人は、物の見方、考え方、人生観とか価値観とかという、その観を養いながら、それでもって自分らしく生きていくというものだというふうに思っています。
これが、スライドの3に関わって思った2つの点であります。
3点目は、スライドの12番目のところで御説明をいただいた、「個別最適な学び」と「協働的な学び」なんですけれども、ここのところも、現場の先生からよく伺ったのは、「個に応じた指導」をとても重視するんだということでやってきが、学習指導要領が始まったばかり、また高等学校においてはまだ始まってないという、そんな段階で「個別最適な学び」「協働的な学び」と言われるととても困るんだ、というような御指摘を受けた経験が少なからずあります。
ただ、しっかりと理解をしていただく必要があると思うんですが、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実を通して、「主体的・対話的で深い学び」を進めるということが一つ文脈としてあるということと、その「個別最適な学び」というのは、実は「個に応じた指導」を指導者視点でなく学習者視点で述べたもので、視点の転換によってこういった表現をしているんだということ。「個に応じた指導」には2つの側面があって、1つは指導の個別化、もう1つは学習の個性化、これは令和答申に述べられていることです。
こういったこととともに「協働的な学び」を一体的に充実していく中で、「主体的・対話的で深い学び」を進めていくんだということで、「個に応じた指導」は令和答申の中でもとても大事だということが何度も何度も出てきていて、「個に応じた指導」を捨てて新しいものに動いたということでは決してないということも、改めて学習指導要領の着実な実施を図っていく中で広く定着していく必要があるだろうと思っています。
これに関連して、スライドの7です。「個別最適な学び」をやっていく上で、もちろん「協働的な学び」もそうなんですけれども、このスライド7の中に書かれている「主体的・対話的で深い学び」が実現することが非常に大事だということをあらためて思いますが、実際に教室の中で子供たちはどういう状況かということです。
例えば一番上の「主体的な学び」を見てみると、「学ぶことに興味や関心を持ち」という、こういう表現は学校関係者が非常に見慣れた表現であるので、すっと読み飛ばしてしまいそうな内容かと思うんですけれども、「学ぶことに興味や関心を持ち」というのは、本当に子供を一人一人見たときに興味や関心を持っているんだろうか。持っていないとしたらなぜなんだろうか。どんなものには関心があるんだろうか。あるいは、どうすればこういったものに興味や関心を持てるようになるんだろうか。
そういうことをいろいろと考えていく中での授業の工夫・改善ということが、実は非常に重要になってくるんだろうと思っています。
そんなふうに考えるとこの「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」というのが、本当に見慣れた、聞き慣れた言葉が並ぶことによって説明されているわけなんですが、それを一つ一つしっかりとこだわって見直していく中で、授業改善を図っていく必要があると思います。
当然のことながら、授業改善を図るということは学習評価にも関わってくることで、学習評価は観点別でやるということなんですけれども、その観点がちゃんと、評価を受ける子供たちに共有されているかどうかといったことも大事だし、学習評価というのはあくまでも生徒に対する応援、児童生徒に対する応援でなければならないと思っています。気づきを生んで学習の改善が図れるような評価になっているか。教師側からいうと、それが授業の改善につながるような評価になっているか、そこのところも考える必要があるだろうと思っています。
すみません、長くなりました。
【天笠座長】 どうもありがとうございます。2巡目の時間も使っていただいて、今、御発言いただいたのではないかと思っておりますけども、あとはまた時間のやりくりでということで、もう一度、荒瀬先生に御発言をお願いすることになるかと思いますけども、どうもありがとうございました。
それでは、続きまして石井委員、市川委員、貞広委員、この順で、まずは石井委員、お願いいたします。
【石井委員】 それでは、少しスライドを共有させていただいてもよろしいでしょうか。少しメモみたいなものを作ってきましたので、これを共有させていただけたらと思います。
改めまして、石井と申します。よろしくお願いします。私はカリキュラムであるとか授業とか評価、教育方法学というのが専門なものですから、教育の中身に関わるところですね、それについて研究してきました。
そういった教育方法学、特に一番マニアックにやっているのはアメリカのカリキュラム研究みたいなものではあるんですけれども、今回の新しい学習指導要領というのは、国際的なカリキュラム改革の動向から見ても、それに即した展開になっているかなというようなことをずっと思いながら見ていたところがあります。
それは、ここにも書きましたけども、コンピテンシーベースというようなカリキュラム改革運動、各国において形の違いはあれ、展開しているところがありますけども、それの日本バージョンが今回の新しい学習指導要領であろうと思います。
それぞれ、秋田先生、荒瀬先生がおっしゃったように、今回の学習指導要領は非常に、学びというか教育改革の設計図としては、中身の設計図としてはよく考えられてつくり込めたものだろうと思うわけです。
今回、それの確実な定着、それから成熟に向けて、私が様々に教育現場に足を運んだりする中で感じている課題、さらに定着と成熟に向けてこういったところが大事になってくるんじゃないかということを、この辺りでまとめたところがあります。
1点目は、今お二人の先生方がおっしゃってくださったことと重なるところもありますがつまりこのコンピテンシーベースとか資質・能力ベースという、今回の新しい学習指導の趣旨の再確認が改めて必要かなと思っています。
令和答申というのはそれを後押しする形で出てきたものであるんですけども、やはり今、様々に時代が動いている中において、「〇〇な学び」みたいなものがたくさん出てきたりしますと、やはり軸がぶれがちなところが出てくると思うんです。
改めて、このICT活用、観点別評価、あるいは探究への対応とか、様々に形をつくっていこうというところがあって、それなら最終的にその先に何を目指していたんだろうと。どんな学びの姿を目指していくのかなというあたりが、この辺がもう一度確認が必要なのかなと思っています。
様々な設計図としてはよくできていると思うんですけども、ただ、それは誤解をかなり生み出しがちなところもいろいろとあって、しかし、その誤解も含み込みながら、トータルに教育実践にはかなりのインパクトを与えているのは間違いないなと思います。
少なくとも言葉の上ではというか、議論の上では「内容だけではなくて」とか、あるいは「学習者主体で」というような、そういった意識はかなり高まってきているというか、その議論を抜きに進めるということは少なくなってきたかなと思うんですが、でも、それが実際に教室の実践であるとか、あるいは子供たちの学びにおいて具体化されているかどうか、この辺が非常に重要なのかなと思います。
当然、時間もかかってくるわけですが、やはり、概してお忙しい先生方が、忙しい中において形式的な対応になっていないかというあたりですね。例えばカリマネに関しても、総合的な学習、探究の時間の充実であるとか、あるいは個別の教科課程経営というか、これとこれを組み合わせたら時数削減とか、何かそういった形式的な対応になってはいないかということです。
カリマネというのは大まかに言ってしまえば、この辺りは天笠先生が御専門ですけども、教科課程経営を超えて教育課程経営であると。だから、カリキュラム全体を学校教育目標、目指す子供の姿に向けてトータルにどうデザインしていくのか、これを現場主語でやっていくということがポイントかと思うんです。
高校のスクールミッション云々というふうなことも、この辺りも一つのきっかけになってくると思うんですが、それを絵に描いた餅に終わらせるのではなくて、きっちりと目的・目標の議論についてもそれでベクトルを合わせて、それで教育課程経営としてトータルに、先ほど荒瀬先生がおっしゃったように、学びの先に成長を保障していく。
これはキャリア教育、生き方の教育ということにつながってくるわけですが、成長保障のカリキュラム改革というのが、これがもともと日本のよさを生かしていくということでもあったし、コンピテンシーベースの核心はそこにあったんだろうというふうに思うわけです。
だからこの辺り、改めてコンピテンシーベースとか資質・能力ベースって何だったのか、何を目指しているのかということを、もう一度再確認しておくことが重要かなというふうに思います。
それで、それが教科においてポイントになってくるのは、「Less is more」という発想、これをもう一度再確認することなのではないかなと思います。
コンピテンシーベースは必ずしもコンテンツフリーではなくて、教科の学びの質の問い直しというのが重要になってくるわけです。多くの場合、現状の小学校、中学校、高校を見ておりますと、小学校はやはり内容論を飛ばして、活動主義というか、活動的な授業をこなすという形になってはいないかなということです。
もう一つは、中高はやはり網羅主義的、やっぱり教科書とかコンテンツをなぞるということになっていないか。共に実は「授業をこなす」みたいな形になってしまうわけです。
そうではなくて、「主体的・対話的で深い学び」というのはまさに深さ志向で、そのためには、実は内容を重点的に絞り込む、重点化してそれを深く学んでいく。つまり概念ベースで教科のカリキュラムを考えていくということが重要かと思います。それがいわゆる「Less is more」、つまり重点化された内容であるとか主題をじっくり深めることによって、より多くを学べるということかと思います。その考え方をいかに現場において実装していくのかということが、実は教科の学習によっては大事であろうということです。
その時には、実はこれは観点別評価とも関係するわけですけども、観点別というのは、要はそのように委ねて、でも最終的にしっかりと中身というか豊かな学びが保障されたかどうかということを確かめていく。そのための、ある種教科の学びの豊かさの歯止めみたいなものなわけです。
それをやっていくときには、単元単位というので考えていく。つまり、子供主語といったときにも、子供に任せる、その思考の問いと答えの間の長さを担保するということが大事かなと思います。ただ動かすじゃなくて、そこで子供がしっかりと、問いと答えの間が長くなるように思考していく。
ただ、そのためにはまず単元というような単位で考えていくことが必要ですし、そこで知識・技能とかの裏づけを持って思考力であるとか主体性が育っているか、これを確かめていくのが観点別評価ですが、その時に、それがしっかりと最終的に知識を使いこなす力といったものが、さらに学び続けていく力が育っているかどうかというあたりを、「豊かなタスク」と書きましたが、パフォーマンス課題等ですね、そういったものも活用しながら、「豊かなタスク」に向けて単元を設定する。
これは例えるなら、部活とか行事とかというのは節目節目で試合がありますよね。その試合に向けて、それぞれが自分たちのペースで練習したりとか、大きな舞台とかゴールがあることによって逆に学びの自由度が生まれてくると。そういう形の、学びの舞台とか山場を軸にした単元設計ということになってくるんじゃないかなと思います。
そういう中で、自主トレ・自主ゼミみたいな形で、「個別最適な学び」とか「協働的な学び」というのは自然と入ってくる。部活とか行事とかそういったものを考えるとよく分かると思うんです。
そういう形で、「Less is more」といったもの、深さ志向といったものを、改めて現場においてしっかりと展開していけるといいのかなと思います。
そのようにいっても、最終的にカリキュラムが豊かになればなるほど、やはりそれは条件整備が必要で、特に、やはり教員の余裕と待遇の改善、これはおそらく並行して進められていると思うんですが、ここが肝になってくるだろうと思います。
幾らいい地図も、やはり担い手が理解して、納得して、それで腹落ちして、余裕を持ってしっかりと学んでいくということがなければ実装されない。だから、教員とカリキュラムは、これはセットだと思います。
2点目は、この令和答申に関しては、先ほど荒瀬先生のお話にもありましたように、言ったら後押しすると。だから、「〇〇な学び」が加わったということではなくて、学びの中身に関しては学習指導要領のほうが主だと思いますので、それをサポートするための、一人一人の多様性に対応するシステムとか体制の整備と再編と。要はその質の高い学びを誰がどのような形で保障していくのかというような、システムと体制の問題として、実はマネジメント面の問題として捉えていくことが重要ではないかなと思っています。
最近は「個別最適な学び」の評価をどうしたらいいかとか、そんなことを聞かれることもあるんですが、「個別最適な学び」を評価するというのはちょっとおかしな話なんですよね。そういう目的ではないので。
一人一人に応じた評価ということはあり得ます。「個別最適な学び」を生かした評価、あり得ます。しかし、「個別最適な学び」の評価という、その言葉遣いに表れているように、「○○な学び」といったものが、「個別最適な学び」が授業づくりレベルみたいな形で、手法みたいに捉えられてしまうのはちょっと具合が悪いなと思っているところがあります。
すみません、長くなりましたが以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして市川委員、お願いいたします。
【市川委員】 市川です。私はスライド10番に関連いたしまして。このスライド10は国研から出された学習評価のハンドブックの中に出ていますけれども、学習評価のワーキンググループの主査を務めましたので、その立場から、これに関連した話をさせていただきたいと思います。
私も話がちょっと拡散し過ぎなので、スライドを作ってきました。簡単なスライド6枚ですがまとめてあります。
1枚目をお願いします。この「指導と評価の一体化」ということですが、もともとどういう意味であったか。指導と評価が一体となったサイクルにしていこうというのが、もともとの意味だったはずです。つまり、指導したことを評価しないとか、評価するのに指導はしないとか、そういうことはまずいということです。教育目標というのがあるわけですから、それに沿って指導して、そして指導したことは評価する。指導内容と教科内容の齟齬がないようにしようということです。
このスライド10番の意味ですけれども、学習指導要領が掲げる目標、それと観点別評価の対応関係を示しています。
目標があって、それに応じた指導をして、それに即した評価をする。こういう目標・指導・評価の一体化を示すものと思っていただければいいのかと思います。
ただ、それぞれの項目の意味というのが十分明確化されて具体的に浸透していないという面もあるかと思います。これは大きな今後の課題だと思います。
2番目をお願いします。特に観点別評価、今回3観点に変わったわけです。高校にもこれが導入されると。
改めて、今回の3観点でどういうことが強調されているかということですが、「知識・技能」についてです。断片的な知識をただ暗記しているというだけではなくて、意味理解とか行動を伴った知識になっているかをきちっと評価していく。そこには記述式問題を入れるとか、基礎技能というのがパフォーマンス、つまり実演としてちゃんとできるかどうかというようなことも含めていくということが望まれます。
「思考・判断・表現」は、与えられた知識を活用して、さらにその先、より高度な知的な活動にしていくということです。そのためにどういう方法かということになりますけれども、応用・発展的なテスト課題、これは従来もあったと思いますけれども、発表とか討論とかレポート、作品とか、こういったものを活用して評価していこうということになります。
「主体的に学習に取り組む態度」、これが一番、解釈も揺れがあって、どうやって評価していったらいいのか、今でも非常に混乱もあるし、議論もあるところかと思います。
ここには、「粘り強い取組」ということと「学習の自己調整」ということが、ワーキンググループの報告書の中でも盛り込まれています。この2つの側面から成る。
どうやって評価していくかというと、授業内外でどれくらい積極的な行動を示しているかということもありますし、また、学習プロセスにおける内省とか改善ということを行っていこうとしているかということも評価の対象になってきます。
次のスライドをお願いします。これが、国研が出された学習評価の在り方ハンドブックとホームページにも出ていまして、いろんなところでも引用されているものです。もともとはワーキンググループ報告書の中に入っています。
横軸にあるのが粘り強い取組を行おうとする側面。それだけではなくて、縦軸の自らの学習を調整しようとする側面、これの両方がいい場合には「十分満足できる」と。途中に「おおむね満足できる」状況(B)というのがあって、「努力を要する」状況が(C)。どちらかの側面一方だけではやっぱり困りますということがこの中に表れています。
ただ、「学習を調整しようとする」という、この言葉遣いが少し難しいところもあります。教育心理学などではもう30年、40年言われていることではありますけれども、これがちょっと伝わっていない面もあるというあたりが問題ではないかと思います。
次をお願いします。実際に、これが出されてから、学校現場でいろいろな研修などもされています。一つの例を紹介したいと思います。
これは一つの中高一貫校ですが、どんな教員研修を行って、どのような学習評価計画をつくって実施しようとしているかという例です。
まず、学習評価に関する一般研修。この中で、学校教育法が改正になったときから、「学力の3要素」というのが言われていますが、それが今回の指導要領の改訂で、「資質・能力の3つの柱」という形に発展してきていると。その先に観点別の評価というのもできたわけです。その趣旨を講師から説明しています。
それを聞いた上で個人メモというのを教師たちが作成する。一体その3観点、どういうところに重点を自分は置いていきたいか。どんな方法で評価していくのかということを、まず個人メモとしてつくる。
それを教科ごとに突き合わせてグループ討論をする、全体発表してもらうというようなことを、一般研修としてやっています。
その次に評価計画というのを、その討論を経て、人の意見も聞いた上で作成して提出する。各教員が作成して、それぞれの教科主任に提出します。
教科主任のほうは、教科ごとのまとめをつくる。そのまとめと全教員の評価計画というのを校内のネットで共有します。ほかの人も見てくださいということです。
まとめを、教科主任が作成はするんですけれども、完全に教科ごとに統一しないといけないという強い縛りをしているわけではありません。受け持っている学年によって、教科や教員によって、多少の違いが出てくるということはあり得るだろうと。
それを1年間、実際に試みて評価計画を再修正する。それをまた校内ネットで共有する。
保護者に対しても、観点別評価というのがどういう趣旨なのかということをしっかりと連絡する。学年初めには、それぞれの科目を受け持っている各教員から、一体何を評価に加味していくのかということを、生徒に対してしっかりと説明するというようなことを行っています。
次をお願いします。これが、その時の評価計画のテンプレートです。縦に「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という3観点があります。横には何を重視するのか、主たる評価方法はどういうことか。これは最初、個人メモとしてつくって、そしてさらに修正した上で教科主任に提出するというようなものです。
各観点のウエートですけれども、これは文科省としてはバランスよく3つの観点を考慮してくださいということは言っていますが、必ず3分の1ずつにしないといけないとか、そういうことを文科省が制約しているわけではありません。それは現場裁量でもあるんですが、一応各教員から聞いた上で、お互いのものを見て、教科の中でも話合いをするというようなことにしています。
次をお願いします。これが最後のスライドですが、こういう研修をやってみて、教員がどう変化していくかということです。
こうした具体案を作成して、そして討論もして、実際にやってみて、だんだん理解が進化していく。
もともとは、この評価の話を聞いたときに、従来どおりの授業をやって、そこに新たな評価方法を適用すればいいんだ、ぐらいに考えていた先生もいるようなんですが、やっぱり今度の指導要領に則して授業も変わっていくと。授業が変わっていくことによって、そこに新しい評価方法を適用していくというのがもともとの趣旨なのだということが、かなり理解として浸透していったようです。
どのような資質・能力を育てるかに向けての指導と評価ということで、特にこの「主体的に学習に取り組む態度」というのは、非常に最初分かりにくかったと。特にこの自己調整ということが、最初ぴんとこなかったけれども、自己調整を意識した学習を促す指導を入れるようになってきた。
教育心理学のほうで、自己調整の中でかなり大事なキーワード、これが「メタ認知」と「学習方略」なんですが、「メタ認知」として自分の学習状況を自己分析する、自己評価するということが求められます。
「学習方略」では「学びの進め方」。この言葉は文科省でも使っていますが、この学びの進め方を自分で工夫していくというようなことを促すようになってきた。
授業内外で、生徒からいろいろなデータが得られます。それを評価や指導にも活用していく。特に自己調整に関連してですが、中学校ですと定期テストがあります。その後に、生徒が振り返りレポートを提出する。答案が返却された後、正解も先生が説明してくれますので、どこを間違えたか。その誤答をなぜ間違えたかの理由とか、この問題はどういうところが解法のポイントだったか、そのためにはどういう学習方法をこれから取っていかないといけないかという、学習法の改善などを生徒自ら考察してレポートにする。
これをやってみると、中には非常によいレポートも出てきます。そのよいレポートを例にして、また教師から、どういう点がこのレポートはいいのかというような指導も入れていくということをやるようになっています。
スライドは以上です。最初なかなか分かりにくいと言われた今度の観点別評価なんですけれども、次第にこういう校内研修などを通じて浸透しつつある、それが現状かと思っています。
私からは以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして貞広委員、お願いいたします。
【貞広委員】 千葉大学の貞広と申します。よろしくお願いいたします。
私は委員の皆様方とはちょっとカラーが違いまして、教育活動そのものというよりも、お金であるとか人の配置であるとかといったようなリソースを用いて、教育の質保証、今回の学習指導要領の中でいうと「児童生徒の発達支援の実現」ということになろうかと思いますけれども、その質保証をいかに行っていくかという研究をしています。
その点からしますと、やはりリソースはできるだけ潤沢であるほうがいいわけです。徹底的に足りないんじゃないかという御指摘も石井先生からありましたけれども、もちろん潤沢であることが理想であるということをまず前提に置きます。
ただ、今、手持ちで持っているリソースをいかに有効に使うことによって質保証していくかということも同時に考えなければいけない。これは恐らく両輪になってくるんだと思います。この後者の、いかにうまくリソースを活用してという部分が、スライドでいうと4枚目辺りになるんでしょうか、PDCAサイクルを導入して、教育課程の編成・実施・評価・改善を行っていく、このプロセスを学校の中でサイクルを回すことによって、子供たちの発達支援をしていくという考え方なんだと思います。
ただ、このPDCAの考え方について、学習指導要領の定着であるとかフォローアップという観点からして、前学習指導要領のときまで続いてきた思考で美しく精緻につくり込まれたPDCAサイクルでは不十分だということを、2点、注意したほうがいいのではないかと考えていることを基に申し上げたいと思います。

これを石井先生は「形式的対応」とおっしゃっていたように思いますが、これまでの思考を断ち切らないと今回の学習指導要領の教科活動が実現できないので、これまでの思考をいかに断ち切れるかということを意識するべきだと思います。
一つ目です。今まで日本の教育はそれなりにうまくいってきているので、そうしたうまくいってきた成功体験の経路依存を断ち切る必要があります。そのためには、一度だけPDCAサイクルのPをつくり出して、その計画遂行を狙っていくというような形では難しいんだと思うということです。何回もつくり替えてブラッシュアップしていかないと、今回の学習指導の哲学の実現というのは難しいであろうということです。
もう一つは、精緻に一度つくり込まれたPDCAサイクルを、精緻にひたすら回していこうとすると、教育における偶然性というものが過剰に排除されてしまうのではないかという危惧です。
ごく簡単に考えても、子供たちというのは思ってもみなかったこともしますし、思ってもみなかったような発達も遂げたり、世の中、思ってもみなかったようなことも起きるわけです。
それを、ピンチをチャンスとして活かしていくためにも、あらかじめ作成した計画遂行や目標達成の必然性を過剰に追及するような、偶然性を排除するようなPDCAの在り方というのは望ましくないと思います。
例えば例として、今回ちょうど小学校はコロナ禍の休校と新しい学習指導要領の実施というものがかなり重なってしまったわけですが、その中でも、そこをうまく使った学校とそうではなかった学校というのは、恐らくその偶然性というものにどう向き合っていったのか、思いもよらなかったことにどう向き合っていったのかというところに依存していたのではないかと思います。
つまり、この2点からしますと、やはりPDCAサイクルというのは、短期のPDCAサイクルも含めて、試行錯誤が必要だということ。そしてそれゆえに、学校での小さな失敗を許容して新たなものにトライしていくことを支援するということ、そういうことが必要だと思います。
そのためには2つ、さらに重要なことがあろうかと思います。一つは学校長の役割です。
先ほど失敗も許容すると言いましたけれども、失敗も許容して、新しいことをやってみていいよと。責任は私が取るから、というようなマインドセットを持っている校長先生でなければ、そうした新たな物事へのトライはできません。
また、教育委員会にとっても、管理主義的というよりも、支援をして学校のもろもろの失敗も含めたトライアルを許容して、認めて支援をしていくような形にならないと、なかなかそういうところにたどり着かないと思います。
学校現場に、こうした偶然性や、これまでと違った在り方を追求しなければいけないという物事があるということを前提に、PDCAサイクルを回して編成・実施・評価・改善のサイクルを回していく。これが学習指導要領の定着に必須であると思われます。
恐らく2巡目は回ってこないと思いましたので、2巡目の内容もコメントさせていただきました。お時間いただきましてありがとうございます。
【天笠座長】 どうもありがとうございます。
それでは、続きまして戸ヶ﨑委員、その次に高橋委員、奈須委員という順で、まず戸ヶ﨑委員、よろしくお願いいたします。
【戸ヶ﨑委員】 戸田市教育委員会の戸ヶ﨑でございます。学校現場に近い立場におりますので、そこから授業等を見て感じていることを中心にして申し上げたいと思います。
まず、学習指導要領の改善及び必要な方策等についての答申が出されて、昨日でちょうど6年が経過しました。しかし、答申の趣旨、つまり現在の学習指導要領改訂の背景の理解が、学校現場に十分定着しているとは言い難いのが正直なところではないかと思います。この点、特に私からは、少々ネガティブな話になってしまいますが、「教師のマインドセット」をめぐる現状や課題について、大きく5点ほど、お話させていただけたらと思います。
1点目は、確かに、従来から批判されているチョーク&トークの教師主導型の授業は、数年前に比べると随分少なくなってきている印象はあります。しかし、特に中学校において、GIGAの端末を使ってICTは使用していたとしても、いまだに教師がよくしゃべり指示をしている「教師主導型ICT授業」が、まだまだ見られます。
また、「対話的な学び」とは名ばかりで、単に向かい合って、一部の子供だけがぼそぼそと話をしている旧態依然とした姿も見られます。理念的にはきらびやかな、よく言われる「定食屋型からビュッフェ型に変える、主体的で深い学びの場」を目指していても、極論すると「ICTが文具化ではなく玩具化して、主体的という名の放置と対話もどきの雑談で不快な学び」が横行することを危惧しています。
2点目は、これも従来から機会あるごとに言っていますが、総合的な学習の時間における探究的な学びは、現在においても、小、中、高と学年が上がるに従って、教師主導の、言うなれば予定調和的な授業が増えてしまい、探究的な学びの熱量や質が下がってくる傾向にある点です。
3点目として、これらの課題の背景にあるのは、学習指導要領が求めている「主体的・対話的で深い学び」とはどのような学びなのか、自らの言葉で説明したり、実践の場で示したりすることが、まだまだ十分にできない教師が少なくないという現状があることです。
4点目に、ベテラン教師の中には、「主体的な学び」や「対話的な学び」の授業は、これまでも取り組んできているため、今更という意識が強い教師もいないわけではありません。しかし、本当に本質に迫る授業になっているのか、通り一遍の指導に陥っていなかったかなど、改めて、子供の学びの姿を指標にするなどして、教師自らが問い直してみる必要があると強く感じています。
最後5点目として、「主体的・対話的で深い学び」の実現のための授業改善は、どうもイメージ的にプレゼンテーションやディベートなどの新たな授業の型に変えていくこと自体を目的としていると勘違いしている教師もいなくはないということです。
以上5点をざっくり申し上げましたが、これらの解決策の一つとして、これは先ほど石井先生が述べられていましたが、単元という内容のまとまりの中で、目の前の子供たちの実態に応じて、どう授業を組み立てていくのかという戦略をしっかりと持っていくことが大切だと思います。学校訪問等では指導主事からそういうことを盛んに投げかけていますが、まだまだ定着は薄いと思っています。
また、「深い学び」の鍵となっていくのは、各教科固有の「見方・考え方」であり、この「見方・考え方」こそ、その教科の学びを行う理由であるという認識も改めて持つべきだと考えています。
さらに、解決策の2つ目で考えられるのはカリキュラム・マネジメントです。教科等横断的な視点によるカリキュラム・マネジメントは盛んに言われてきて久しいわけですが、現実は、「充実」以前に、まだまだ「定着」に向けた努力が必要だと思います。特に中学校については、教科担任制ということもあるのか、その傾向が強くあると思います。これは考えてみると、自らの教科を深くどんどん掘り下げていったり、ほかの教科の教師などとT.T.授業をやってみたり、その気になればすぐにでもできることは幾らでもあるのに、なかなかそういうものは進みません。資料4に関わるカリキュラム・マネジメントについては、後ほど意見を申し上げたいと思います。
以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして高橋委員、お願いいたします。
【高橋委員】 高橋でございます。よろしくお願いいたします。私は東京学芸大学の教育学部に所属しておりまして、教育学講座におります。教育学講座の中で、教育の情報化であるとかICT活用、そういったことを研究しております。
情報科学とか情報の立場からICT活用を考えるというよりは、教育学講座に所属しておりますので、教育方法とか教育学のほうからICT活用を考えていこうと。東京学芸大学の本当に懐の広さというか、こういうふうに置いていただけていることも本当にありがたいなとに思いながら、日々、研究させていただいています。
私からは、スライドに関係すると大きく2つについてお話をさせていただきたいと思います。
まず、スライド11にある「令和の日本型学校教育」の答申の中で、基盤的なツールとしてのICT活用、これが不可欠だということについて、これはまさにそのとおりだなと思っております。
言うまでもなく現在は、社会人も、あらゆる人が社会経済活動とか日常的な生活の中で情報機器を用いるというのは当たり前の世の中ですから、そういった中で学校だけが紙と鉛筆で学び続けるというのは不可能ですので、そういった意味でも僕は1人1台PCが整備されてきたと思っておりますし、本当によかったなと思っております。
現在の学習指導要領は、そういった意味でICT活用が前提で書かれている記述もたくさんあると感じておりますので、今の指導要領が一層充実して実現するためにも、1人1台の整備が間に合ったということは本当に喜ばしいことだなと思っています。
具体的に1つか2つぐらい、例えばということで申し上げますと、「個別最適な学び」とか「協働的な学び」とか、こういったことを一層充実して実現させていこうと考えていけば、少なくとも、これまで以上に子供一人一人の様子を先生がしっかり把握して、適切な指導を行っていくことが欠かせないんだなと感じています。
ただ、多くの子供を抱える先生が、今までのように紙と鉛筆だけで指導するというのはやはり困難で、子供一人一人、それぞれ別々のことを考えているはずですから、そういった子供たちの考え、それを情報と言わせていただくと、子供一人一人の多くの情報を瞬時に、あるいは蓄積された情報も絡めながら処理していかなければいけないとなると、やはり情報を取り扱う道具であるICTというものを上手に使っていくということが非常に重要になっていくと思います。
この11枚目や、ほかのスライドにおいても、「一人一人」という言葉が何度も出てくる。これは非常に重要なことだと思います。教室に35人いれば35通りの活動が想定される。つまり一斉では無理だと。しかし、今までは一斉しかできなかったんだと。このPCの力を借りて、何とかやっていけないかというように考えているんだと思います。
比較的うまくいっているんじゃないのかというような実例を見ますと、教科内容を直接教えるような、理科や社会を直接教えようと思ってPCを使うというよりは、子供の考えをアウトプットするような道具として、そういった成果を他者と共有したり、先生と共有したりして助言を受けたりするような道具として活用していると。こういうことでも、少しコンピューターの使い方の観みたいなものも変わってきているなと思います。
もう一つ例を申し上げますと、1人1台PCによって、「知識・技能」の中でもいわゆる個別の知識技能というんでしょうか、先ほどの市川先生のお話だと「断片的な知識・技能」と言ったらいいのか、比較的低めな、穴埋め問題的な知識・技能のレベルですが、こういったものは動画で学ぶとか、AIドリルで学ぶほうが効率がいいのではないのかということを、中学生ぐらいであればかなり気がつき始めている生徒も多くなってきているなと思っております。
これまでのような手作りの穴埋めプリントでのんびり授業を構成していく、そういったことはかなり厳しくなるんじゃないのかと。
子供自身の振り返りを見ても、「後でYouTubeを見て復習しておきます」なんていうことを平気で書く生徒も現れておりますので、そういったことを考えていくと、ますます「思考・判断・表現力」をいかに授業等で育成していくのかという、このコンピテンシーベースとか今の指導要領が目指すような学習指導を、もっともっと本質的に、本格的に目指していく必要があるんだろうなと思っております。
このように考えていきますと、1人1台PCがうまく活用できているところというのは、学習指導要領の示すような授業観への転換のみならず、PCの活用も、従来の古い活用観から新しい活用観に変わって、両者の転換があって初めて授業も大きく変わっているな、コンピューターの力を借りながら変わっているなというふうに私は感じております。
旧来の枠組み、先ほどから、旧来の枠組みは崩したほうがいいというお話がございましたが、その通りだと思います。旧来の枠組みの授業のままでICTを活用すれば、当然役に立たないというような意見があったり、その枠組みのままなのにICT活用の効果を検証すべきだというような意見もあります。それはICTが役立たないのではなくて、そもそもそういった観 、使い方や考え方が異なっているなというふうに思います。
これまでの枠組みで考えれば、紙と鉛筆で指導していく、黒板で指導をしていくことが最も効率がいいと考えられます。指導要領の新しい観の部分をしっかりと受けとめて、1人1台PCを上手に使いながら、指導要領をより一層充実して実現していく、こういった取組が重要じゃないかなと思っております。
2つ目ですが、スライド6に関連してです。カリキュラム・マネジメントの説明の中での情報活用能力に関してです。
先ほどから申し上げているような1人1台PCをしっかり活用するためにも、一層高度化した情報社会、デジタル社会に対応するためにも、学習の基盤となる資質・能力としての「情報活用能力」が、今、学習指導要領に位置づいているということは大変意義が大きいというふうに思っております。
教科等の学習の道具としてや、将来の自分自身のために、もっと本格的に活用できるレベルでしっかりした「情報活用能力」をつけるということは、非常に重要だというふうに思っております。
こうしたことが積み重ねとしてできていた地域は、既に1人1台コンピューターを使い、新指導要領の目指すような、今の指導要領が目指すような「主体的・対話的で深い学び」であるとか、そういったものがかなり高度に実現して、実際に資質・能力が育まれているかなというふうに感じております。
一方で、「情報活用能力」というのは大変広い概念で、しかも教科ではないですので、学習指導要領の言うところのカリキュラム・マネジメントというものをしっかり行って、体系的・系統的に指導していく必要があるなというふうに思っております。
単にPCの操作を覚えるだけでも、情報モラルを育むだけでもなく、問題解決活動等における情報の取扱いや、情報科学的なことも学ぶなど、高度なデジタル社会に対応していくんだということをしっかり考えながら指導していくんだなと思っております。
「情報活用能力」という用語が生まれた当時の臨教審の記述を振り返りますと、高度化する情報社会の中で、人々が精神的・文化的に豊かに生活していくために、こういう「情報活用能力」というものが重要なんだということ。当時の言葉で言えば「光と影の両者を適切に学んでいく」ことが大事なんだと書かれております。
この光と影の両方をしっかり学んでいくということを、今のさらに一層高度化されたデジタル社会に対応して、教科等横断的な視点から、様々な校種で「情報活用能力」をしっかり指導していくことが、結果的に指導要領の一層充実した実現につながるのではないのかと私は思っています。
長くなりました、私からは以上です。ありがとうございました。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして奈須委員、お願いいたします。
【奈須座長代理】 上智大学の奈須でございます。私のほうからは、石井先生が丁寧にもう整理してくださいましたけど、やはり学力論ということが今回の指導要領の中では大きかったかなと思うんです。いわゆる資質・能力を基盤とした学力ということですが、これが何だったかというところに、また何度でも戻っていかないといけないのかなと思っています。
というのは、伝統的な学力論というのは個別的な知識、心理学で言う領域固有知識の所有それ自体を学力とみなすというような考え方が中心だったと思うんですが、何であんなに膨大な知識を僕らが教えてきたのかという問いに戻る必要があるんだろうと思うんです。
知識というのは、それ自体ももちろん持っていていけないことはないですが、多くの人にとって、知識というのは問題解決とか自分自身がよりよく生きていくための武器や道具や材料だと思うんです。
人生は問題解決の連続ですが、その時に、知識をたくさん持っていれば問題解決がうまくいくということが多いだろうと思います。だから知識をたくさん教えてきたんだろうと思うんですが、それでは、知識を少しでも多く持っていればよりよい問題解決ができるかというと、そんな簡単ではないんです。その持っている知識の質であるとか、知識を問題解決に現実に使ってみた経験であるとか、あるいは複数の知識がどのように関連づいて意味理解、概念理解になっているかということ。あるいは、その知識を足場にして新たな知識を獲得していけるような、そういう足場になっているか。
つまり、知識の質ということや関係構造ということが大事だと思うんですけど、ちょっとそのことを度外視して、どんどんどんどん知識の量を競争的に高めてきたということがあったんだろうと思うんです。
資質・能力のもともとの言葉、「コンピテンシー」という言葉は、かつては「有能さ」と訳されていました。有能さというのは、環境や場面と適切に効果的に関われるということですよね。関われるということは、つまりうまく操作して問題解決ができる、取り扱えるということですけど、そのための武器や道具や材料が本当は知識だったと思うんですが、武器や道具や材料は多いほうがいいじゃないかということで、道具自慢みたいに知識を増やしてきてしまったんだと。使ったこともないような道具をいっぱい持ち歩くようなことになってしまったんだという。
むしろ、限られた道具をよく使い慣れて巧みに使える人にしたほうがいいんじゃないか。「Less is more」はこのような発想だと思うんですが、そういう授業とかカリキュラムに移行したほうがいいんじゃないか。
つまり、知識は有能さという目的のための手段で、その有能さを実現するのに必要十分な程度、あるいは必要十分な質で備わっていればいいんじゃないのかということが、カリキュラムの編成方針になると思うんです。
また、さらに今回、「ウェルビーイング」という議論が進んでいますけど、これはもっと大事で、つまり有能さは最終目的ではないんです。ただ何でもできるぞというのを放置してしまうといわゆるマキャベリズムになりますから、有能さは何のために使うのかということが大事で、これが個人的・社会的な「ウェエルビーイング」の実現だというふうに据えられたんだと思いますし、今回の資料では「持続可能な社会の担い手」というものも出ましたが、そういう「入れ子構造」の学力論だと思うんです。
そうなってくると、知識の質ということが中核的な問いになってくるかと思いますし、今回の指導要領はそういう方針で進んできたと思います。幾つも仕掛けがあると思うけど、私自身は、先生方も御発言があった「単元」ということを大事にしようということ、そして「見方・考え方」ということを柱にして内容編成をやっていこうという、この2つがとても可能性があるし、今後さらに教育課程の実施の上で進めていかなきゃいけないことかなと思います。
「単元」という言葉は、昭和22年・26年の学習指導要領(試案)の時代には中心的な概念でした。「単元」というのは「内容」と「方法」の間にあって、内容と方法を結節するもの、内容の方法的組織化の中核をなす概念ですよね。
だから、ただ内容があっても、それをどういった活動を通して具体的に授業として仕立て上げていくのかということが単元だったわけで、だから昭和20年代にはとても大切にされていましたけど、昭和33年の指導要領のときに、どうも何か消えてしまうんです。
それが今回、総則部会、天笠先生の御尽力によってきちんと復刻されたというのはとても大きなことだと思いますが、まだまだ現場にはその意味が浸透していない。「単元」というのがどういうものか。「まとまり」という説明をしていますけど、あれは子供にとって意味のあるまとまりであるということが大事なんです。
それがちょっと伝わっていないから、子供にとってこの単元を8時間やっていることが自分事になって、今日2時間目にやっていることが3時間目に自分の問いとしてつながっていくというようなことが大事なんですけど、単なる内容や時間のまとまりというような教師都合、教材目線でしか語られていない部分があるんだろうなと。これはしっかりとやっていかなきゃいけないなと。これは本当に昭和22年・26年の試案や関連文書に学ぶべきことが膨大にあるような気がします。また、学んで何かやっていきたいなと思います。
実際に教育課程という場合に、学習指導要領は教育課程の基準であって、各学校で編成する教育課程、つまり年間指導計画には単元名が入るわけですね。するとやはり、単元がどういう質のものになるかということが子供の学びの質ということを規定しますし、特に先生方の計画という意味では、これがとても大事になってくるかなと思います。まずこれが1点。
それから「見方・考え方」という言葉、これもなかなか定着しないんですけど、内容がばらばらにあるのではなくて、構造化され、子供にとって、なるほど、この教科はこういうことなんだな、これが大事なんだな、だから自分が問題解決をするときにこうやって使っていけばいいんだということが子供に分かるようにしていくということが大事だと思うんです。
つまり、現状では子供たちは、社会科で何を勉強したの、理科で何を勉強したのといったら、多くのことを語ってくれますが、じゃあ結局社会科って何なのということを説明できる子供がどのぐらいいるだろうかと思うわけです。
それができるような子供にしたいなと。もっと言うと、先生方にこれを聞いたら答えられるだろうかということがちょっと私は心配なんですが、この辺りをしっかりやっていくために「見方・考え方」というのが生まれたんだと思います。
「見方・考え方」って、一言で言えばエピステモロジー、認識論だと思うんですが、各学問や科学、芸術にはその背後に、知識や価値や美を創造する独自にして一貫した体系というか根拠があるはずで、そこをしっかりと打ち出していこうと。
すると、子供たちは膨大に知識を学んでいきますが、膨大に学んだ知識がばらばらなものではなくて、それがこういう世界の見方・考え方、知識や価値や美の生成方法との関係で出てきているんだということが分かるんです。すると訳が分かるというんですかね。
また、そこが見えてくると、新たに学んでいくことが過去に学んだこととつながってくると。だから、「見方・考え方」をしっかり教えていらっしゃる先生のクラスでは、子供たちが「今日も同じことをやっている」と言い出すんです。表面的には違うこと、新しいことをやっているんですが、原理的には変わらないと。
例えば小学校の高学年なんか随分難しいことを、算数なんかやっているように思いますけど、基準量×割合という構造でずっとやっているんですよね。
それが見えるようにしてあげると、表面的に違っている内容が全部同じ原理の異なる現れというように見えてくる。これがとても大事かなと。
理科なんかは、例えば粒子だとかエネルギーとかというとても明確なものを出してくださって、それに沿って随分進んでいるかなと思いますけれども、教科によってはまだまだ弱いかなと。この辺りをさらにしっかりやっていく必要があるし、教科書にまだ強く表れていないことがとっても気にはなっております。
もう一つ思っていますのは、高橋先生がおっしゃったことと関連があるんですが、ICTの技術が進んで、学校にも入ってきた、特にGIGA端末が入ってきたことで、もう、本当に状況が変わってきた。外部リソース、コンピューターを日常的に手に持っているわけで。これからの子供も大人も。
すると、その外部リソースを使って学ぶ・考える・暮らすということを、もう前提に学校も考えないといけないんだろうと思うんです。まさにGIGA端末が授業改革のエンジンになっていくんだろうと思います。
逆に言うと、私は免許教科は社会科ですけど、ただ知識を伝達するだけだったら、もう僕らは失職すると思いますね。穴埋めプリントを渡して、1時間かけて、ある個別的な知識を教えるということを、僕らはどうしてもやってきましたけれども、もうそれは、高橋先生がおっしゃったようにコンピューターを使えばあっという間に終わってしまうわけで、そこを出発点に、その先をどうやるかという話を進めていきたい。GIGAが本当にこれはさせてくれると思います。
もう一つ、GIGAの可能性は、「個別最適」と「協働」だろうと思います。多様性に関する認識や、現実の多様性がどんどん高まってきていて、また、ICT環境の変化も大きく、知識を学ぶだけだったらわざわざ学校に行かなくてもいいやということを見切った子供たちが出ていると思います。従来型の学校制度から逃げ出す子供、あるいはこぼれ落ちる子供が増えているかと思います。
これに僕らがどう対応するかということが今問われているんだろうと思いますし、令和答申はそのことを見据えて議論したんだと思いますが、その出発点として、よく北欧で言われますが、「全ての子供は幸せになる権利を持って生まれてくる」ということを、僕らは共通認識として据える必要があると思います。基本的人権としての学習権・発達権の十全な保障というのを、本気で目指す学校教育になるべき段階だろうと思います。
そう考えたときに、僕らがこれまで想定していた以上の多様性が存在するし、そしてまた、その多様性に十分対応できるようないろいろなインフラやスキームができてきているということを前提に、授業改革やカリキュラム編成に臨むという段階に来ているんだろうと。
大変ですけど喜ばしい状態だし、挑戦しがいのある状態だろうと思っています。そんなことを考えておりました。
以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
それでは、委員の方それぞれ御発言いただきましたということで、私から、1巡目の最後になりますけども、6枚目のスライドの部分ですね、カリキュラム・マネジメントに関わって、少し発言をさせていただきます。
3つ、おおよそ申し上げたいと思います。まず1つ目ですけども、既にそれぞれ委員の方から御発言ありますように、今回の場合に、コンピテンシーベースのカリキュラムというカリキュラムの改革ということ、それから「主体的・対話的で深い学び」の実現という授業の改革、そしてカリキュラム・マネジメントという学校の改善。この、カリキュラムと授業と、そして学校の組織運営の改善、この3つの柱を立てて、学校教育全体のモデルチェンジを図っていこうというのが、今回の学習指導要領改訂の全体的なグランドデザインということになるのではないかと思っております。その一つの柱としてカリキュラム・マネジメントということが位置づけられたんだと捉えたいと思っております。これが1つ目です。
それから次に、2つ目ですけども、御承知のとおり学習指導要領というのは、ある意味内容を示してきたということで、そして資質・能力への転換ということでありますが、それをどう実践していくのかという意味において、方法上のそれがそこに関わってくるということで、言うならば内容と方法との絡みというんでしょうか、その関連ということで、折々に学習指導要領の改訂が展開されてきたわけですが、実際に学校の教育活動等を展開していく、授業を展開していく場合に、内容と方法が確かに大きな柱であることは言うまでもないんですが、それに、先ほどの石井委員の言葉ですと、条件ということ、組織ということでもいいかと思っておりますが、内容と方法と条件、組織、この3点という絡みの中で、現実の学校の教育活動、授業等々が展開されると。そういう意味において、カリキュラム・マネジメントというのは条件ですから、組織の視点を学習指導要領に位置づけたということであり、しかもそれは個々の教科とか、それぞれというところにとどまらずに、教育課程全体をトータルに捉え、そこのありようを求めていこうということについての提起であるかと思っております。改めまして、内容と方法と組織、この相互の連関、関連を促していく、それを学習指導要領に位置づけたということがカリキュラム・マネジメントの位置づけ、今回の導入の意義ではないかと思っております。
もう一つが、このスライドにありますけども、その手だてとして、いわゆる3つの側面ということで、①、②、③という形で記され、その中に教科横断ですとか、先ほどお話があったPDCAサイクル、②ですね。それですとか資源、リソース、条件等々ということで記されているわけですが、この具体、これの実践、それぞれの学校におけるというところがなかなか進んでいかないという現実、あるいは学校の立場からすると、この辺りをどう実践化していくかどうかということがなかなか進んでいかないと、そういう現実が今あるのではないかなと思っております。
そういう点では、ここのところをどのように、より実践に近づけていくかということが今日的な課題であるのではないかと思っておりますが、学校の組織運営に関わっていく場合に、少し前から組織マネジメントということが問われ、つくばの支援機構中心に、組織マネジメントの研修ということがなされてきたわけであります。ただ、その組織マネジメントというのが、教育課程、カリキュラムを抜かしたような形で学校の組織運営についてということを行ってきたわけですが、今回のカリキュラム・マネジメントというのは、その辺りのところについて教育課程というのをそこにしっかり位置づけ、カリキュラムにしっかり位置づけて、学校のありよう、運用のありようということをそれぞれ習熟していただこうといった、このような問いかけ、投げかけというのも、このカリキュラム・マネジメントカリキュラム・マネジメントについて含まれているわけです。ですからそういった意味において、今後のそれぞれの学校におけるカリキュラム・マネジメントと教員の研修の在り方ということが表裏の関係として、今後問われていかなければいけないのかなと思っております。
そういう点からしますと、現状においては、こういうことについて働きかける指導主事の存在というのが実は大きくクローズアップされるわけですが、その指導主事自体が、どちらかというと従来型の、それぞれの教科を背負った指導主事の域を超えない状況ということが事柄を非常に難しくしている部分があるのではないかと思っております。そういった意味において、学校を指導できる、カリキュラム・マネジメントの視点から指導できる指導主事の研修の在り方ということを併せて、これは問うていくことが今日的課題かなと思っております。
私からは以上ということにさせていただきたいと思いますが、さて、委員の皆さんからそれぞれ御意見を求めて、冒頭申し上げましたように、2回発言をお願いしたいということで、既にもう全てお話しされてしまったという委員の方もいらっしゃるように思いますし、片や、そういうことですと、1巡目はちょっと控えて、2巡目にと思われて1巡目に発言された方もいらっしゃるのではないかと思いますので、それぞれの方、残りおよそ20分から30分弱ぐらいの時間の中でということですけども、お約束どおり、少なくともお一人もう1回御発言をお願いしたいと思っております。
その順としては、先ほど秋田委員から順にということで、今度は逆に奈須委員から順次ということで御発言をお願いできればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、奈須委員、いかがでしょうか。お願いいたします。
【奈須座長代理】 そういう順番だと思わなかったので、すみません。
今回の指導要領全体のことで申し上げると、とてもよくできているし、そういう評価もいただいて進んできたと思うんですけど、難しいということがやっぱりずっと言われ続けたと思うんです。私は、難しいんじゃなくて、貞広先生も言われましたが、従来の枠組み、マインドセットで考えていると、その常識に反する部分があるんだと思うんですね。資質・能力という学力論からそうですし、評価論もそうだと思うんです。
これはもう本当にできた当初からずっと議論というか、難題になっていますが、どのように伝えていくかということです。その戦略をまだまだやっぱり十分練り切れておらず、実際に実行に移せていないということが大きな課題だろうと、つまり、ここにあるものがいけないんじゃなくて、これを伝えるのが難しいと。
かなり今回、心理学とか脳科学とか教育学とか、いろんな学術的な知見を入れていると思うんです。それ自体はむしろまともなことで、欧米では80年代ぐらいから学習理論に基づいてカリキュラムや教育政策をつくるというのが常識だったと思うんです。それが日本は本当に数十年遅れてしまったと、それが現場の先生方や学校関係者、場合によっては地方教育委員会の行政の専門家ですらも、その先生方がお考えになっている常識が、今回の指導要領が前提にしているような学力論や学習観、評価観と相入れないと、だから伝わらないと。
ここが難しいと思うのは、言葉を幾ら弄しても、その言葉をどういう枠組みで理解しようかという枠組みがずれているという、じゃあどうすればいいということも私は浮かびませんけど、このことをもう一度仕切り直して突破する議論をここでまたやっていく必要があるんだなと思います。
以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございます。
続きまして、高橋委員、お願いいたします。
【高橋委員】 ありがとうございます。僕、今の奈須委員のお話を聞いて、本当にそのとおりだと感じました。やはり今回の学習指導要領を字面で、全くそのまま試験勉強的に理解しようと思うと、やっぱり難しい面あると思うんですけども、枠組みが違うんだとか、考え方から理解しようというふうに考えていけば、なるほどと思うところはたくさんあるんじゃないかなと思います。
私、1人1台コンピューターの実践をたくさん見てきておりますので、こちら側で例えてみますと、1人1台コンピューターが本当に毎日の授業に欠かせないような教室、授業になっている、そういうような授業や先生方の様子を拝見させていただきますと、実は校務とか、全部変わっているんですね。先生方の仕事の仕方も変わっている、むしろ仕事の仕方が最初に変わって、こういうのを情報社会というんだとか、1人1台コンピューターというんだという、やっぱりそこから、指導要領もこういうこと言っているんだというふうに理解されていくようなケースが多いなと思います。やっぱり道具とか体験みたいなことが先生にもすごく重要で、その道具とか体験が、今回1人1台で多く誘発されたというか、そういうことが起こったんだなと思います。
ただ、残念なのは、コンピューターさえ使えば新しいわけじゃなくて、古いコンピューターをGIGAで整備してしまったというか、古い考え方で整備してしまったと言ったらいいんでしょうか、そういう地区もたくさんありまして、やはりきちんとした整備、ここも間違えずにやったところ、それを新しい考え方に基づいた制度やルールで運用する、そして校務でも使ってみる、そういったことで本当に今の世の中の変化というものが体験的に、体感的にみんな理解できて、だから指導要領は今、近未来、求められている力というのはこういうことなんだと、本当の意味で心から理解するという、戸ヶ﨑先生で言えば腹落ちするというような状態になるのではないのかななんて思っている次第です。
私からは以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
戸ヶ﨑委員、お願いいたします。
【戸ヶ﨑委員】 先ほどのカリキュラム・マネジメントの話について、できるだけ短めに申し上げます。学習指導要領の求める世界を実現していくということでは、先ほど天笠先生が指導主事のお話をしていましたが、もっと言うと、教育長含め、教育委員会がその鍵であることはもちろんのこと、管理職の力量形成が非常に重要な要素であり、今後進めていかなくてはならないことの鍵だと思っています。学校現場の現状は、教科書会社や、教科等主任などが年度当初に作成した計画を最初からこなしていくことに精一杯になっていて、目の前の子供たちがどのような学びをしているのかを見取って、自分自身の指導を振り返っていくような、本来的な授業改善の視点にまで至っていない教師が少なくないように感じています。
その原因の一つというのは、やはり学校の最高責任者である校長が、どのような学校をつくっていきたいのか、どのような子供を育てていきたいのかを明確に示し、それを全教職員で具体的な姿になるように共有していく流れの中で、厳しい言い方すると、まだまだ抽象的でふわふわした、お題目のような学校教育目標をいつまでも標榜していて、教職員が具体的な子供の姿をイメージできていないことがあると思っています。これでは校長が目指す学校はいつまでも実現されないと思います。具体的には、、次の5つの視点の取組が重要と考えています。
1つ目が、カリキュラム・マネジメントの実質化を阻んでいる教師の壁や、教科の壁といった学校特有のサイロ化した仕組みを打破していく必要性があるということです。そのためには、学校管理職が明確なビジョンを持ちつつも、あえて管理職が隙や弱みを見せていくことが大事であり、教職員同士がお互いの悩みを打ち明けやすくなるような心理的な安全性を醸成し、教師同士が失敗から学び合えるような学校組織文化をつくっていくことが、これからは大切になると思っています。
2つ目に、地域や子供の実態を踏まえて、「自分の学校に応じた」教育活動が展開されていくためにも、学習指導要領で育成を目指している3つの資質・能力に基づいて、地域や学校、また子供の特性を踏まえた学校教育目標を具現化していくことが必要だと思います。そして、その具現化された学校教育目標に基づいて、各教科等の指導内容・育成を図りたいという資質・能力を整理しながら、教科等横断的なものに関連づけていくことが大切だと考えています。
3つ目に、カリキュラム・マネジメントの取組は、学校が担う様々な業務の効率化を伴って充実することができることから、校長はこれまで当たり前と思って行われてきた業務等の目的を改めて問い直しながら、学校の業務改善を図り、体制を整えていくことが求められます。前例を踏襲し、何となく惰性で行っている業務や行事がまだまだ数多く存在しており、その見直しも必要だと思います。
4つ目は、長らく指摘されていますが、そもそもこのカリキュラム・マネジメントは、管理職だけが行うというイメージが強くあります。教師一人一人がカリキュラムデザイナーになる必要があることは、言うまでもありません。そこが徹底されない現状があります。管理職は、校内研修等で教師一人一人が自分事として納得解が得られるように指導していく必要があると思います。ここも厳しい言い方をすると、今、日本中の教育界は、どうもICTに浮足立っているように思います。こういうときだからこそ足元をしっかりと見詰め直していく必要があるのではないかと思います。
最後、5つ目は、さんざん出ていますが、管理職向けのカリキュラム・マネジメント研修の充実も図っていかなくてはいけないということです。カリキュラム・マネジメントは全教師が行うというふうに申し上げましたが、やはりその中心となるのは管理職です。それだけに、勉強している管理職と、そうでない管理職との間には大差が生じてしまうというのは明らかです。そのために管理職に対する研修の時間と質を高めていくことが大事なのだと思っています。
ちょっと長くなりました。以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
貞広委員、お願いいたします。
【貞広委員】 秋田先生にパスします。ありがとうございます。
【天笠座長】 はい。どうもありがとう。
市川委員、お願いいたします。
【市川委員】 では、私はICTに関係して、今すごく悩んでいることをちょっと吐露しますと、2つの点です。やっぱり1人1台入ったからには使うようにというように、どうしても教育委員会からもいろんなプレッシャーが来ると。ただ、実際に授業を見ていますと、ICTを使うことによって、明らかに学習の質が劣化してしまうような場面もよくある。今実際に、小学校高学年から中学生を見る限り、手書きよりも早くコンピューター入力ができる、文字入力ができる子は、まずそうはいないわけで、すると、例えば授業の振り返りを書きましょうと、昔は5分あれば10行くらい書いてくる子はたくさんいたんですよね。ところが、コンピューターに入れましょうとなると、もう1行、2行書くのに精いっぱいとなってしまって、あまりしっかりした振り返りは書けない。もう入力するだけで手いっぱい、しかも1、2行とかいうような子がたくさん出てしまう。
それから、先生のほうですが、授業の後の検討会です。昔でしたら、授業を見ながら付箋にメモでも書いて、検討が始まると、小グループの中で模造紙にそれを貼り合って、みんなで意見を言いながらいろいろ書き込んで、付箋を移動したりしながら、かなり密度の濃い討論をやっていた。今これを、じゃあコンピューターに置き換えましょうというところもかなり出てきています。すると、まず入力、授業中にタッチタイプできませんから、両手でないとタッチタイプできないので、片手でメモというようなわけになかなかいかなくなって、うまくメモが取れない。タッチタイプで入れる時間を取っていると、その時間が授業の後に取られて、それからそれをいろいろ貼り合う。貼って移動したりするというソフトもあるんですが、なかなか慣れてなくて、授業後の検討会の質もどうしても低くなる。
ただ、私は、それはあまりいい使い方じゃないからやめましょうとは言わないし、言えないんですね。これは過渡期の現象かもしれないし、慣れてくれば、すごく手書きよりもよくなるのかもしれない。ただ、その間の何年間かというのを一体どうやって過ごしたらいいのだろうかと。時間的な問題もあるし、発達の段階もありますけれども、どこでどういったICTの入れ方をしていくことが望まれるのかというのは、いまだに答えがよく分からないです。取りあえず現場でいろいろな工夫をしていただいて、いい使い方が生き残っていくのだろうと思うのですが、とにかく使え使えという一方的なプレッシャーが来てしまうと、ついついそうなっていて、現場では、少なくともある部分では学習の劣化が起きていると、このことはすごく気になっています。ちょっとそれは一言だけ。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
石井委員、お願いいたします。
【石井委員】 今様々に意見が出てきているわけですが、一つ、やはり今回、学習指導要領の定着であるとか成熟、実施ということでいうと、先ほど貞広先生もおっしゃったように、やっぱり実施フェーズですよね。そこで経路依存性とか云々もあるわけですが、何よりも伝言ゲーム状態の結果、手法主義が強まっている状況を、なぜそのような力学でもって、なぜそんなことが起こっているのかという、この辺をやはり丁寧に見ていく必要があると思うんです。だから、どのようなデリバリーチェーンというか、伝達の構造でもってそうなっているのかと。
手法主義ということは、もう具体的に言ってしまえば、特に小学校において最近顕著かなと思うんですが、いわゆる指導案をつくるときに、教材観、それから子供観、それから指導観という形になるんですが、教材観と子供観がほぼ空洞化しているんです。指導観、つまり手だての話ばっかりが肥大化しているというようなことがありはしないかと思います。教師の成長に合った子供理解、教材理解、この2つがしっかりと深まって、それを結びつけたところで指導観というか、手だての話になると思うんです。事後研においても、子供の話じゃなくて、この手だては有効だったみたいなことになっている傾向も割と見られると。そうすると、長い目で見たときの教師の成長に危うさを感じるところがあるんです。だから、そういった状況が生まれているかなと思いますし、それがなぜそういった方向に、様々なアクターたちの間の伝達の構造の中でなぜそうなっているのかというあたりを丁寧に捉えていく必要があるのかなと思います。
1つは、だから教科書の在り方というのも重要なファクターと思いますし、今どきの教科書は、児童または生徒用図書というよりも、若い先生用図書だと思うので、若い先生が見て、こういう手続でやったらいいんだというようなものが割とうけるみたいで、どんどんマニュアル化している。さらに言うと、教科書を基に組み立てるんじゃなくて、各教育委員会が若い先生向けにということで、一定大事だとは思うんですけど、何とかスタンダードというので、スタンダード、標準指導案みたいなものを提示する。しかも指導主事さんの訪問指導のときに、そのスタンダードのチェック項目でチェックするみたいなことになるんですよね。そういった状況が割と見られるかなと思います。
だから結局、様々なファクターの中でそういう状況が生まれているというあたりを、戸ヶ﨑先生が指摘されていたようなことは私もすごく共有して感じることなんですけども、なぜそれが起こっているのかということをやっぱり冷静に、ここで検討していく必要があるのかなと思います。
すみません。以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。
荒瀬委員、お願いいたします。
【荒瀬委員】 ありがとうございます。私、結構です。どうぞ秋田先生につないでください。
【天笠座長】 御遠慮されなくてもよろしいかと。よろしいですか。
【荒瀬委員】 はい。どうぞ。
【天笠座長】 分かりました。どうもありがとうございます。
それでは、秋田さん。
【秋田座長代理】 皆様、御配慮いただきまして誠にありがとうございます。
まず1点ですけれども、先ほど天笠先生のほうからカリキュラム・マネジメントの話がございました。カリキュラム・マネジメントというのは教育活動の質の向上ということであって、質の確保ではなく向上ということは、要するに変化を捉えていく、それを学校組織が行っていくということが極めて重要になってきているわけです。ところが、今回の学習指導要領は告示で、これが一番要なわけなんですけれども、その直後にコロナが起こり、令和の日本型の学校教育の報告が出て、そしてそれにまた対応するようにGIGAスクールということが起こりました。そのために次々と、先ほど石井委員が言われたように、学習指導要領よりも個別最適と協働をどうしたらいいんだ、それを今度は1人1台端末のコンピューターでは何をすればいいんだというような形で、本来原点にあるべき教育課程、学習指導要領というところが置き去りになっていないだろうか。特に、学習指導要領が告示された直後は皆さん関心が高いわけですけれども、先ほどのお話にありましたように、なかなか実装の段階になってから、それをさらに改善していくフェーズ、貞広委員が言われましたように、大きいPDCAではなくて、OODAプロセスのような、実際に起こっているところでの改善というところがこれからの大きな課題になってくるだろうと思います。
今回の学習指導要領、先ほど私のほうでプレゼンの図のシートを指示しなかったんですが、4枚目のところに学習指導要領総則の構造とカリキュラム・マネジメントという図がございます。私は、この図の重要なところの一つが、子供の発達をどのように支援するかという、第4というところが真ん中に書かれているということでありまして、そしてそれがまさにコンピテンシーベースというところで、教育課程というものを、計画されたカリキュラム、教育課程としてだけではなくて、それが子供においてどうであるのかということを捉えていき、そのために多様な子供の支援を、柔軟にカリキュラムを考えて行っていくことが重要であるというメッセージがここに入っているわけですけれども、先ほどからお話がありましたように、どうしても教育課程が教科書に反映されているということによって、その準拠した教科書を使用すれば、これで新しい学習指導要領に対応しているというような形で、子供の発達や、子供がどのように学び、学習を経験したのかという経験カリキュラムから捉える視点が落ちてきているというところになると思います。
それが実際に、例えば指導と評価の一体化というのが2点目でございますけれども、今回新たに、市川委員が御説明くださいましたように、「主体的に学習に取り組む態度」というものでも、粘り強くということと学習方略というような形で、生徒側がどのように取り組んでいるかをよく見て評価してくださいというような形にしているわけですけれども、その辺りが、GIGAスクールの端末が入ったことによって、学びの履歴というものが子供もお互いに見えやすくなっている。そうした中で、今これが施行されてから、実際に事例を持ち寄りながら、先ほど市川委員が、研修によってこのような形で指導の工夫の研修を行っているというような話がありましたけれども、そのような形で、単元単位で子供の学びのプロセスを見取りながら、もう一度それからカリキュラム・マネジメントでつなげていくというような経路こそが重要になってくるのではないかと思います。
これまでの1時間単位の評価ではなくて、今回特に大事に、例えば指導に生かす評価等と記録に残す評価というようなところで、単元の、ある途中の意味のまとまりごとに評価をしてくださいというようなところも、子供自身がモニタリングでき、学習評価をできる、そうした学び方を学んでいく主体が児童生徒にあるということを明確にしているものだと思いますので、この辺りを指導と評価の一体化というところからもう一度考えていくということが、2点目として必要であろうと思います。
そして3点目ですが、スライドの3にあります学校間の連携ということですけれども、これも深い学びということを考えていくときには、カリキュラムの系統性というものが小中高、幼からつながってですけれども、それがどのようにあるのかということを教師がやはり見通しを持っていくことによって、何が鍵になる概念なのか、何が見方、考え方として重要なのかということを押さえていく、そして専門家同士が対話をしていくということが、教員自身の専門性の開発や、深い学習指導要領の理解につながっていくのではないかと思います。
だからこそ、この前文のところの「ウェルビーイング」という豊かなものと、社会に開かれた教育課程と、そして、ここに学校段階の接続と小学校学習指導要領ということが書かれている、ポイントとして出されていることの意味というのを、もう一度、子供目線の視点から考えてみるというようなことがこれから求められていくのではないかと思います。100万人の教師が、本当にこの「ウェルビーイング」落ちできているのかというと、やはり見方、考え方であったり、カリキュラム・マネジメントなどの新しく入れられた言葉というのが、まだ十分に理解されていないように思います。この辺りを考えていくというのが重要だと。
あと1分で、隣で天笠部会長がマイクを持たれましたので、この辺りで終わりにさせていただきたいと思いますけれども、まだまだ私どもが、学習指導要領、今回のものの普及周知、そして本当に実装のために検討すべきことはまだ残されているのではないかと思います。
以上です。
【天笠座長】 どうもありがとうございました。それぞれの委員の方から様々な御指摘があります。確かに現在の学習指導要領、足りないところも多々あるかと思います。ただ、だから次の学習指導要領なんだと一気に飛躍するような、そういう捉え方ですとか考え方もいかがでしょうかということですが、ある意味で言うと、先ほど委員の中で、何度も戻っていくとか、なぜそうなっているのか丁寧に捉えていくとか、現在の学習指導要領を、私どもそういうスタンスで臨むということの大切さもまたあるのではないかと。そういうスタンスを基にしながら、そこから次のところを開いていくというような在り方も、また一つの在り方ではないかと思いますがそれぞれの委員の方からの知見をこれからも期待したいと思いますし、今日はそれぞれの委員の方の様々な御配慮があってという形で、ここまで進めてくることができました。委員の方にお礼を申し上げたいと思いますし、引き続き次回以降もどうぞよろしくお願いしますということで、今日はここまでということで、終わりにさせていただきたいと思います。
なお、次回以降の日程につきましては、後日事務局から改めて御連絡があるとの旨聞いております。いましばらくということで、日時についてはお待ちいただければとお願い申し上げます。
ということで、本日は以上をもちまして閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――