今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第8回)議事録

1.日時

令和5年10月20日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

WEB会議と対面による会議を組み合わせた方式

3.議題

  1. 諸外国の動向等について
  2. その他

4.議事録

【天笠座長】  皆さん、よろしいでしょうか。定刻になりましたので、ただいまから第8回今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会を開催いたします。大変御多忙の中、御参加いただきまして誠にありがとうございます。
 本有識者検討会につきましては、報道関係者より撮影及び録音の申出があった方につきましては、これを許可しておりますので、御承知おきください。
 前回になりますけれども、第7回の会議では「学習指導要領の実現をめぐる諸課題について」をテーマに意見交換を行ってまいりました。
 本日は、「諸外国の動向等について」をテーマに、国立教育政策研究所、OECDの教育スキル局の皆さんから御発表をいただきたいと思います。その後に、例によって意見交換を行いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、本日の議題に先立ちまして、まず事務局より本日の流れについて御説明をお願いいたします。
【石田教育課程企画室長】  失礼いたします。事務局でございます。資料1の共有をお願いいたします。
 こちらでございますが、第4回検討会におきまして、委員の先生方から議論する必要があるとお示しいただいたものを課題として整理したもの、これに沿って御議論を進めさせていただいているところでございます。
 今回ちょっと見にくいんですけれども、右端のほうです。我が国が直面するカリキュラムのリデザインとエコシステムの確立に向けて、諸外国はどのような戦略を取っているのだろうかと、国内に参考となる知見はあるかということに関連しまして、今回は諸外国の動向等についてということをテーマに意見交換をお願いいたします。
 冒頭、座長からもお話がございましたように、今回は国立教育政策研究所、OECDの教育スキル局の皆様に御参加をいただきまして御発表をいただいた後、意見交換をお願いするということでございます。
 まず、国立教育政策研究所より、西野総括研究官と研究協力者でいらっしゃる下村先生、福本先生から、カナダとニュージーランドの事例を交えて諸外国の動向を30分程度で御発表いただきます。その後、OECDの教育スキル局の皆様、田熊様と八田様から、OECDにおける近年の議論や取組の動向について御説明いただき、また共同研究プロジェクトを行っておられます東京学芸大学の松田恵示副学長、西村圭一教授、荻上健太郎プロジェクトリーダー、事例報告は荻上リーダーからお願いいたしますけれども、20分程度で御発表いただきました後、残りの時間で意見交換をお願いしたいと考えてございます。
 事務局からの説明は以上でございます。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。毎回の御案内になりますけれども、本有識者検討会は、現行の学習指導要領の実施状況を検証する中で、今後の教育課程、学習指導、学習評価等の在り方について検討する際に考えられる論点を整理し、まとめることをその役割としております。したがいまして、今回のテーマに関する議論も、有識者検討会としての考え方を論点としてまとめる形での運営を行いたいと思っておりますので、御理解、御協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、本日の議題に入ります。まず、国立教育政策研究所より、資料1から資料3を提出いただいております。西野総括研究官、御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
【西野総括研究官】  おはようございます。国立教育政策研究所の西野です。本日は貴重な機会を設定していただいてありがとうございます。
 国立教育政策研究所では、教育課程の基準の改訂に向けた参考資料として、諸外国の教育課程の動向に関する調査を継続的に実施しています。本日の発表は、令和3年度に実施した調査に基づいて報告いたします。
 この調査は、ここでお示ししている国や地域、そして国際バカロレアの教育課程について、それぞれの研究者の方に御協力いただいて実施したものです。調査の詳細については報告書を刊行しておりますので、こちらのリンクから、当研究所のウェブサイトに掲載している報告書で御確認ください。本日の発表ではこの調査実施後の動向も含めて、特にこれまでのこの検討会で議論されてきた幾つかの論点に焦点を当てて、諸外国や地域の特徴的な取組に注目して報告いたします。
 ただ、特徴的な取組と申しましても、諸外国の教育課程は、その国や地域の歴史とか文化、伝統の下で開発されています。そのため、その取組の一部を取り出しただけでは、背景や趣旨を理解しにくいのではないかと思います。そこで、本日は、最初に私から調査結果の概略をお示しした上で、特に興味深い取組が見られるカナダとニュージーランドについて、それぞれの国の教育課程の研究者である下村先生、福本先生にその国の実情を踏まえて具体的に御報告いただきます。最後にお2人にお示しいただいた課題について、アジア諸国の動向も確認したいと思います。
 では、次のスライドをお願いします。皆様もよく御存じのように、2000年代以降、コンピテンシー・ベースの教育改革が世界的な潮流となってきました。今回調査を実施したほぼ全ての国や地域で、学校教育で育成を目指す資質・能力が教育課程の基準に示されています。さらに、それらの資質・能力を市民像や人間像として教育目標に示している国もあります。特に自立した学習者とか生涯学習者といった学び方やメタ認知を含む主体的な学習者の姿が描かれているということが特徴です。また、非認知能力とか社会・情動的能力を広い意味での学力、あるいはそれを学力のベースと捉えて全人教育的なアプローチが進んできたことも、各国に共通する特徴の一つです。
 次のスライドをお願いします。このように資質・能力ベースの教育課程改革が進んできた中で、特に近年顕著になってきた動向として、次の4点が挙げられます。
 1つ目は育成を目指す資質・能力に関してですが、教育課程全体で目指すいわゆる汎用的な資質・能力だけでなく、各教科等で育成を目指す資質・能力を示すといった形で、資質・能力の一層の具体化や整理が進んでいることです。
 2つ目は、各教科の内容構成や示し方について、その教科の学習の中核となる概念の下で再整理する動きが見られることです。ここでは概念と示しましたが、その教科の本質的な原理や考え方、思考のプロセスも含むもので、ビッグアイデアとかキー・コンセプトなどとも呼ばれています。
 3つ目は、伝統的に学校裁量が大きい国において、学校や教員のカリキュラム開発を支援するような様々な仕組みが一層充実してきていることです。
 そして、4つ目は、この学校裁量に関して、これまであまり自由度がなかったアジアの国や地域において、より柔軟なカリキュラム編成を支援する傾向が見られていることです。
 では、これらの、特に最初の3点について、カナダやニュージーランドの取組をそれぞれの先生方から具体的に紹介していただきます。
 それでは、下村先生、福本先生、よろしくお願いいたします。
【下村氏】  失礼いたします。三重大学の下村と申します。本日はよろしくお願いいたします。
 私のほうからは、カナダの教育課程ということで、2つの州を取り上げて御報告させていただきます。
 まずはスライドの数枚を使わせていただきまして、カナダの基本情報をまとめております。時間の都合もあると思いますので、特にカナダの特色と言えるところについて言及させていただきながら、本題であるカリキュラムの話をさせていただきたいと思います。
 カナダは、皆さん御存じのように移民が非常に多く、今もどんどん人口は増えている国でございます。最新の情報でやっと4,000万人を突破したということが近年の大きな話題であったんですけれども、人口的にもそうですし、国内で話されている言語ですとか文化の多様性が一つ大きな特色として挙げられるかと思います。
 教育に関しましては、憲法に基づいて10の州と3つの準州それぞれに教育に関する権限が委ねられております。そのため、日本のように文部科学省のような国全体の教育政策を管轄しているような省庁はございません。各州に、また準州に教育省が置かれており、それぞれの教育政策、教育制度というのが組み立てられているような状況です。なので、国の中にたくさんの制度が混在しているわけなんですが、共通する課題や問題等についての情報共有の機関として、カナダ教育担当大臣協議会というのが置かれています。OECDですとかユネスコですとか国際的な機関へのカナダ代表として出されるのは、ここに参加している大臣の代表が、国の代表として出るという形になっております。
 次のスライドをお願いいたします。教育の行政としては、3つのレベルで捉えられます。まずは州のレベル、そして教育委員会のレベル、学校のレベルという3段階です。州や準州の教育省においては、大きな政策枠組ですとか、そういった政策の内容、あと財政に関する責任を有しております。具体的な教育活動の根幹となるような目標ですとか、あと予算の配分、教育プログラムに関しては、教育委員会が多くの権限を有しております。
 この教育委員会も日本のような教育委員会と少し違っておりまして、委員は選挙によって選出をされています。民意が反映されやすい仕組みというのが、この教育委員会一つ取っても特徴として挙げられるかと思います。また準州や州の状況によっては、言語や宗教別の教育委員会が複数設置されているというところもカナダの特徴ではないかと思います。
 次のスライドをお願いします。こちらのスライドにはブリティッシュ・コロンビア州とオンタリオ州、本日御報告させていただく2つの州における概要をまとめております。今日の内容に関して申し上げるとすると、これら2つの州においては、年間の最低授業時間数は規則によって決められているんですが、各教科の授業時間数に関する規定はなされておりません。ですので、これからカリキュラムのことも説明させていただきますが、かなり学校現場ですとか教育委員会のレベルで決められていないことが多いところは、特徴の一つとして挙げられるかと思います。
 では、次のスライドをお願いします。教育改革の動向についてはまた御参照いただけたらと思うんですが、先ほど西野先生からも言及がありましたように、カナダにおいても2000年を境にして、様々なコンピテンシーという概念の定義化ですとか、それに伴うカリキュラムの改革が行われてまいりました。
 本日御報告させていただくブリティッシュ・コロンビアを例にして挙げさせていただくと、2010年よりカリキュラム改革の議論が始まりまして、2016年に現行のカリキュラムが導入されております。その過程において特徴的と言えるのが、カリキュラムの草案作成段階や草案策定後において、公聴会等を通して広い範囲での市民からの意見聴取が重ねて行われております。例えばこの13年に出されたカリキュラムの草案の公開に当たっては、約10万人の人からのパブリック・コメントが寄せられていたりとか、書簡等でのやり取り、公聴会等の開催がなされています。このように、これはブリティッシュ・コロンビア州だけではなくて、ほかの州でも同じようなプロセスが取られることが非常に多いんですが、多様な社会ですので、できるだけ合意形成をしていくというところが非常に重視をされているのではないかなと思います。
 カリキュラムだけではなく、卒業要件の見直しなども進められておりまして、ブリティッシュ・コロンビア州は、最新の状況としては通知表、いかに評価をするかというところについて、まさにこの9月から新しい仕組みが動き始めたところです。この後、少しそれについては御説明させていただきます。
 次のスライドをお願いします。本日は2つの州の教育課程について幾つかの焦点に絞って御報告をさせていただきます。1つ目の共通点として、2つの州いずれにおいてもコンピテンシー概念を基盤としたカリキュラムとなっているというところが一つの特徴として挙げられます。ブリティッシュ・コロンビア州のコア・コンピテンシーについては、このコンピテンシーの概念そのものについても公開協議等で議論された内容から構築をされております。ですので、多くの保護者や教師、管理職など多くの市民の声を吸い上げながら概念化されたものです。
 次のスライドをお願いします。オンタリオ州については、カリキュラムの改訂とともにコンピテンシー概念も変わり続けているような状況にあります。2020年以降のカリキュラムにおいては、このTransferable Competencyというものがかなり前面に出して示されるようになってまいりました。2010年には、学習スキルと学習習慣が中核にあったんですけれども、2018年の21世紀型コンピテンシーの議論をふまえ、それら二つのコンピテンシーがしばらくカリキュラムは示されてきました。カナダ教育担当大臣協議会でのグローバル・コンピテンシーの議論も踏まえながら、現在ではこの転移可能なコンピテンシーを中心としたカリキュラムというところを編成されているような状況かと思います。
 この転移可能なコンピテンシーは、全ての科目において習得可能なものとして位置づけられています。そのようなコンピテンシーの育成のために重視されているのが、安心できる学習環境の整備です。安心して自分の意見が言え、相手の意見を聞くことができる、思考を深められるような環境をまずは確保することこそが、こういったコンピテンシーを育成していく全ての基盤にあるということも強調されています。
 次のスライドをお願いします。このコンピテンシー概念については、各州で様々な形で概念化をされております。下半分に示されているものが、このオンタリオ州やブリティッシュ・コロンビア州も含む他州のコンピテンシー概念の図です。2020年には、各州での議論を踏まえながら、カナダ教育担当大臣協議会では全国に共通したグローバル・コンピテンシーが定義されております。
 これは先ほど申し上げましたカナダ教育担当大臣協議会、CMECが出したものなんですが、この2020年以降、各州でこれを踏まえたコンピテンシー概念の見直しも進められています。オンタリオ州では、Transferable Competencyと併せてグローバル・コンピテンシーというのを学校現場にどう入れていくかというのが、今まさに教育委員会レベルで議論がされている過程にございます。
 次のスライドをお願いします。教育課程について、幾つか共通して見られる特徴について御紹介させていただきたいと思います。先ほどもビッグアイデアについて御説明していただいたように、ブリティッシュ・コロンビア州においてもオンタリオ州においても、ビッグアイデアを掲げて、それらを最終的には身につけるということを目指したカリキュラムが構成されています。
 ビッグアイデアは、非常に抽象化された概念や理論を指します。ブリティッシュ・コロンビア州ではここに示されているように、各学年のビッグアイデアが教科ごとに、これは社会科のものなんですけれども、一覧できるような形になっていて、その関連性も教員は確認をしながら、それぞれの教育活動を組み立てることができるような資料上の工夫もなされています。
 次のスライドを願いします。また、2016年のこのブリティッシュ・コロンビア州の教育課程の改革においては、教科内容の焦点化、整理が行われました。それについては、オンタリオ州も同じような状況かと思うんですけれども、教科内容としてはビッグアイデアに沿った形で、児童生徒が知るべき内容というのが箇条書でカリキュラムに示されています。
 社会科が今最新のカリキュラムですので取り上げさせていただいたんですけれども、4年生の社会科で身につける内容というのがこの6つの内容に集約をされ、非常にシンプルな形で出されています。例えば先住民族とヨーロッパの人々の間の早い時期での接触であったり、貿易、協力、紛争についてという、いわゆるテーマのような形で示されています。
 次のスライドをお願いします。オンタリオ州のカリキュラムにおいては、ブリティッシュ・コロンビア州のような内容が箇条書きにされているような形ではなく、4年生の社会科では2つのストランド、教科領域について幾つかのトピックが策定されていて、そのトピックの下で具体的にどういったところを学習していったらいいかというところが内容とともに示されています。カリキュラムにおいては、その内容について、教員はどのように発問をしたらいいかという発問の例等も挙げられています。具体的な内容というのは、こういった形でかなりシンプルに、2つの州の教育課程の中では示されているという現状です。
 次のスライドをお願いします。習得した内容をどの程度理解し、何ができるようになったらいいのかというところについてはかなり細かく設定がされています。
 これはオンタリオ州では達成チャート(Achievement chart)という言葉で、またブリティッシュ・コロンビア州ではカリキュラム・コンピテンシーという用語で示されています。いずれの州においても、例えば社会科ですと、幾つかのカテゴリーについて各学年において何がどの程度分かっていたらいいか、何ができるようになったらいいのかが一覧表になっております。オンタリオ州の場合は4つのレベル分けにされていますが、ブリティッシュ・コロンビア州の場合は7つのカテゴリーについて示されております。
 次のスライドをお願いします。これは、ブリティッシュ・コロンビア州の社会科のカリキュラムです。このように、ビッグアイデアはこの4つで、学習の内容は、例えば右側の下の四角の内容で、それについてできるようになってほしいことは左側に示してある項目という形で、全てが一覧できるような形で非常にシンプルにまとめられている状況です。
 このように、教育課程としてはかなり緩やかな形で枠組だけが示してあって、例えばどのようにそれについて教えるかという方法については特に示されていません。示されている内容があるとすれば、発問の例や内容などです。具体的な導については、オンライン上で様々な事例やリソースが公開されています。学校の先生方は、そういったものを活用しながら自分たちの授業を組み立てていっている現状です。
 次のスライドをお願いします。最後に評価について御紹介させていただきます。ブリティッシュ・コロンビア州、オンタリオ州、それぞれ学力、いわゆるリテラシーとかニューメラシーと呼ばれる学力をはかる試験が設けられているんですけれども、ブリティッシュ・コロンビア州では、いかにコンピテンシーを身につけているかというところをはかるための評価が導入されている段階にあります。
 次のスライドをお願いします。10年生と12年生に実施される試験については、学習の到達度であるとともに、卒業するための資格を得る卒業要件として試験を受けます。一方、ブリティッシュ・コロンビア州で実施されている4年生、7年生対象の基礎スキル試験は成績とは関わりなく、学習の到達度をはかるものとして設定されている試験がございます。これは学校の授業中に教員が実施し、フィードバックは家庭に対して行われます。日本のようにこれは全員が受けるものですが、結果のランキング等はこの評価の趣旨に合わないということで公表されておりません。学習到達度をはかるために実施されています。
 次のスライドをお願いします。そして最後に、学習の評価について最新の動向も踏まえつつ御紹介させていただきたいと思います。幼稚園から9年生まで、中学校3年生までの評価について段階で評価をされています。点数や例えば「5段階」のような数字での評価は一切行われておりません。これはこの9月から導入されたものです。ただ高等学校の生徒については大学試験との関連もあるので、文字と数字で評価をすることになっております。
 次のスライドをお願いします。これらは、今回導入された通知表です。非常に文字が多いものになっています。全て教師の観察形成的な評価に基づいたフィードバックを記述していく形で評価をすることになりました。具体的にこの児童生徒はこういうふうな能力が高いですとか、こういう活動をしていてこういうところが伸びているとかいう詳しい説明をすることが教師には求められています。また学習のまとめとして、児童によるコア・コンピテンシーの振り返りも評価の中に含まれるような形になりました。
 次のスライドをお願いします。これは教師用のハンドブックに掲載されているもので、児童生徒が作成した成果物について、先生の発問に対して口頭で答えた内容が例として示されています。児童がこの作品についてどういう説明をするか、その内容や作成を通してどういったコンピテンシーが伸ばされているかについて、観察を通して教師がフィードバックを行うことが求められています。
 次のスライドをお願いします。オンタリオ州については、今コンピテンシーの概念がいろいろ変わってきているということを申し上げたんですが、経過報告書、そして通知表、いずれについても2010年に作成された形式がそのまま使用されております。左側のものがいわゆるコンピテンシーの評価、右側が各教科ごとの評価という形になっています。
 このように、カナダの場合は教員には高い専門性が求められるかと思います。最後のスライドをお願いします。教員としての専門性の向上のために、養成段階で長い実習期間が設けられていることは日本との違いとしてあげられるかと思います。また、採用後の研修については、例えば、オンタリオ州トロントの学校教育委員会ですと、平日に年間3日間の研修日が設けられています。その日は学校は休校にして教員の研修や授業準備に充てられます。このほか、教員のネットワークや、オンラインを活用した教員間のコミュニケーションの機会は、教員の指導力向上にも繋がっているかと思われます。
 すみません。大変長くなってしまいましたが、報告は以上とさせていただきます。ありがとうございました。
【西野総括研究官】  下村先生、ありがとうございます。
 では、続きまして、東京学芸大学の福本先生に、ニュージーランドにおける学校カリキュラム開発支援についてお話しいただきます。よろしくお願いいたします。
【福本氏】  東京学芸大学の福本と申します。よろしくお願いいたします。
 私のほうからは、学校カリキュラムの開発をいかに支援していくかというところにニュージーランドの特徴があるかと思いますので、その点にフォーカスして報告をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 最初に、ニュージーランドのお話をさせていただくに当たっての前提条件を確認させていただきたいと思います。ニュージーランドは小さな国です。人口522万、学校数2,544校という規模の小さな国になります。1980年代後半に非常に大きな教育改革が行われまして、そこでいろいろなものが変わっております。中でも、教育委員会制度は1989年教育法によって廃止されております。教育委員会制度はないんですが、教育省地方事務所というのが全国10か所に設置されております。
 次、お願いいたします。教育委員会の廃止と同時に、自律的学校経営システムが導入されております。ニュージーランドで言う自律的学校経営システムは、大きく3つ柱がございます。1つはいわゆる学校理事会を媒体とした共同統治。2つ目にはその質を担保していくということで、第三者評価システムができているということ。これらを支えるために、学校支援システムというものが形成されているということです。
 次、お願いいたします。この学校支援システムですが、自律的学校経営が導入されたと同時に、学校支援がシステム化されております。この中で大きな特徴になっておりますのが、教育省とその他の役割が明確に分化されているというところです。教育省は学校支援にどういったことが必要かというその政策の立案、またシステム設計とその運用、そして財政基盤の整備を担当しておりますが、具体的な学校支援の提供は行いません。代わりまして、民間を含めた学校支援機関というものがたくさんあります。この学校支援機関が、いろいろな学校支援を提供しております。
 今申し上げております学校支援は、大別すると3つに類型化されます。1つ目は研修プログラムの提供で、通称PLDと言われています。研修プログラムと申しますと、座学だったりウェビナーだったりというところのみに意識が行きがちですが、研修プログラムという表現はしておりますがもっと多様なものがたくさん提供されております。また、コンサルテーションによる学校開発、そして危機的状況にある学校に関しては学校介入という、この3つがシステム化されております。これからお話をさせていただく学校カリキュラム開発支援というものも、この中に入っていると理解していただければと思います。
 次、お願いいたします。続きまして、簡単にナショナル・カリキュラムのお話をさせていただきたいと思います。現行ナショナル・カリキュラム(2007年版)と書いてありますが、現在、2027年度完全実施予定のナショナル・カリキュラムがようやく少しずつ姿を見せ始めているところになっております。2025年から一部教科で新ナショナル・カリキュラムが導入されることになっているんですが、まだちょっと全容が出ていないのと、数日前に総選挙で政権が交代することが決まりまして、ややこの先の動向は確定的なことが言いづらい状況にあります。ですので、現行の2007年版でお話をさせていただきたいと思います。
 特徴としましては、学習領域は規定されているんですけれども、その学習領域の具体的な教育内容は規定されておりません。あくまで教育と学習の方針を定めたもので、詳細な計画ではなく枠組であるということです。先ほどカナダでもお話がありましたけれども、授業時数も全国共通のものは設定されておらず、各学校の教育方針ですとか教育計画にのっとって設定するということになっております。ただ、この図に示させていただきましたガイダンスという右端の一番下に、学校カリキュラムをいかにデザインし、レビューするかという章がこの2007年版のナショナル・カリキュラムから設定されたというところが一つ特徴になっております。
 次、お願いします。ですので、ニュージーランドではナショナル・カリキュラムを基にして、学校カリキュラムをいかにつくっていくかというところが非常に大きなポイントになってまいります。学校カリキュラムは当然ながらナショナル・カリキュラムの意図に沿ってつくられますけれども、各地域のニーズやリソースを踏まえて、それぞれの学校でどういったことが必要かということを踏まえて学校カリキュラムをつくってまいります。特にニュージーランドは先住民のマオリのニーズをいかに組み込んでいくかというところが、政策的にも非常に大きなポイントになっております。
 次、お願いします。ナショナル・カリキュラム自体は、細かいことは決められておりません。ですので、各学校での学校カリキュラムのゴールがどうなるのかというところが見えにくいお話になっているのではないかなと思います。ニュージーランドでは、全国資格制度(NZQF)というものが規定されておりまして、レベル1からレベル10までのクオリフィケーションが決められております。
 このNZQFというものは、教育達成度を認証していく全国的な枠組みになります。下にありますレベル1から3までのCertificatesというところが、日本で言う高校3年間で取得するというところになります。このレベル1からレベル3までを取得していくために、NCEAというものがあります。高校に入りますと、ここを生徒たちに受験をさせて資格を取らせていくというところが、学校教育のいわゆるゴールになってくるということになります。
 次、お願いいたします。このレベル1、レベル2、レベル3でそれぞれ必要なクレジットを取得していくということになります。どうしても日本で考えますと大学入試というところに意識が行きがちなんですけれども、レベル3というところがいわゆる日本で言う大学入試、大学に入るために必要な単位を取得するというところに入りますが、ここだけではなくて、レベル1、レベル2、そこも取らせることが非常に大事なことになっております。
 次のスライドをお願いします。カリキュラムの中身自体が詳細に決められてはおりませんので、各学習を進めていく中で、いかにそれを評価していくかというアセスメントの部分がとても大事になってきます。これは一例なんですが、教育省の関連ウェブサイトTKIというものがあります。これは基本的には先生方、教員向けのサイトになるんですが、そのサイトの中でもアセスメント・オンラインというパートがありまして、そこでも非常に細かいいろいろなアセスメントの考え方ですとか、具体的なやり方ですとか、リソースですとか、そういったものにアクセスできるようになっております。
 次、お願いいたします。ナショナル・カリキュラムの話に少し戻らせていただきます。ニュージーランドでは、1993年に改革後の最初のナショナル・カリキュラムが策定されて、現在は2007年版が使われております。先ほど申し上げましたが、この2007年版のナショナル・カリキュラムでは、いかに学校カリキュラムをつくらせていくかということで、school-based curriculumというものが一つのセクションとして、ナショナル・カリキュラムの中に位置づけられたというところが大きな特徴になっております。
 次、お願いいたします。現在、数年後に実施されるという新ナショナル・カリキュラムがようやく姿を見せ始めているんですが、一番大きな特徴は、2番のところにあります、アウトカム・フォーカスからプログレッション・フォーカスへ変えていくというところです。先ほど来、細かい学習内容が規定されていないというところを申し上げているんですけれども、そこのところはニュージーランドの中でも賛否両論あります。今、方向性としては、学習進捗状況を注視してカリキュラムの内容を進めていくためにどうしたらいいかというところで、改革が進められて新たな方向性が示されております。
 次、お願いいたします。ここに書いてある日本語は、現行のナショナル・カリキュラムに書かれている文章を翻訳したものになります。今申し上げたことが文章化されていると捉えていただけたらいいかなと思います。ナショナル・カリキュラムはあくまでフレームワークであって、それと学校のカリキュラムを連動させていく。柔軟性があるんですが、柔軟性、言い換えればそれをどうやって学校で組み立てていくかというところがポイントになるということ。また、評価というところが大事だというところが書かれております。
 次、お願いいたします。これらの学校カリキュラムに関して、学校の中で誰が責任を取るのかということに関しては、学校理事会に明確に位置づけられております。保護者代表を中心にした学校理事会なんですけれども、全ての生徒の学習の質保証をしていくというところが学校理事会の大きな役割になっています。
 次、お願いいたします。ですので、学校でいかに学校経営を進めていくかということ、併せて学校のカリキュラムをいかに開発していくかということ、これは非常に近い強い結びつきで位置づけられております。この資料の中によく分からない言葉が出てくるんですが、これは全てマオリ語と英語を併記するとなっておりますので、若干見にくいと思いますので、英語の部分だけ御覧いただければと思います。
 最初の赤い枠のところに書いてあります学校カリキュラムのデザインとレビューというのは、そこは戦略的な学校経営計画をつくっていく中で必ず組み込んでいくことになっております。また、先ほど申し上げましたように、マオリという先住民、またほかの民族もありますので、コミュニティといかにつながっていくかというところも大事なポイントになってきております。
 次、お願いいたします。この学校カリキュラムの開発を支援していくためのツールといいますか、支援方法は幾つか規定されております。一応教育省のほうで示しているのがこの6つになりますが、特に特徴的なものとしては、5番目にあります自己評価ツールの開発・提供というところになるかと思います。
 次、お願いいたします。これは一例なんですが、e-asTTleという、いわゆる学習評価のデジタル化が非常に進化しております。その図の上のところに2012年という表記がなされていますが、このe-asTTleというのは教育省主導で初めて作られた学習評価のデジタルツールになります。このときのポイントというのは、どちらかというと先生方が評価をしやすいように学習評価をデジタル化するというのとともに、いわゆるテストですね。それも簡単に作れるようなツールが組み込まれているというものでした。
 このe-asTTleは多くの学校で使われているんですけれども、近年の傾向としましては、先ほど申し上げましたように学習の進捗状況というところをいかにはかっていくかということ、またそれを教師だけではなくて、生徒と保護者も共有できるようにするということ、それを組み込んだような評価のデジタル化が出てきております。そのような変化も少しあるかなと思います。
 次、お願いいたします。この学校カリキュラム開発に関して教育省が行う支援と申しますと、これは学校理事会もしくは管理職に対して、先ほど申し上げました学校経営計画と併せてカリキュラム開発を進めていくために必要なアドバイスをしていくというところが、教育省が担っている役割と捉えられます。これは一例ですけれども、つい数日前に出た資料です。各学期で学校及び学校理事会が何をしなければならないのかということを事前にアナウンスしているという資料になります。
 次、お願いいたします。またそのときに併せて、どういったポイントを押さえていかなければならないのかというところも示しているものになります。
 次、お願いいたします。ここに書いてありますが、この資料はリーダーシップガイダンス、ティーチングガイダンス、ティーチングリソース、コミュニティガイダンスというふうに分かれております。簡単に申し上げれば、管理職向けにガイダンスをしていくということと、それから実際に先生方に関して手続的なガイダンスをしていくということ。それから、リソースは、教育省が開発するリソースはここから取ることができます。
 また、ニュージーランドでは、コミュニティに対しても情報を提供していくということを非常に重視しております。このコミュニティガイダンスというのは、教育省が直接行うというよりは、学校理事会や学校がコミュニティに対して説明をしていくときに、必要なアイデアですとかリソースとかというものを提供していくというものになります。
 次、お願いいたします。一方、学校支援機関が具体的には学校支援を提供しているという話をさせていただきました。学校カリキュラム開発に関しても全く同じで、これはどちらかというと先生方向けというふうに思っていただいたらいいかなと思います。研修プログラムの提供、それから先ほど申し上げましたようなe-asTTleだけではなく、その他の評価ツールもたくさん生み出されております。
 3つ目のものは、これは日本的に申し上げますと、いろいろな学校で特異な活動をしている先生ですとかアイデアを持っている先生というのが、他校に呼ばれて研修会をやったりとかいうものが日本でもたくさん行われていると思うんですけれども、ニュージーランドではそれをシステム化しております。専門的な知識を持つ、力量を持つ先生方が所属する団体が窓口となって、ニュージーランド全国各地の学校がこういう情報が欲しいとか、こういうアドバイスが欲しいとかいうアクセスをしますと、その窓口から、そういう力を持っている先生方が派遣されたりとか、ウェブでつながったりという形で、これは非常によく使われているものになります。
 今、申し上げておりますように、学校カリキュラム開発ということに関しては、管理職と校長と、それから学校理事会というものが、学校経営計画という中で、大きな方向性ですとか在り方ということを方向づけてはいきます。ですが、実際にどういう中身にしていくのか、どういうツールを使うのか。また、ニュージーランドでは検定教科書がありませんので、どういったテキストを使っていくのか。そういった決定に関しては、各教員の考え方が重視されることになります。ですので、先生方がそういう情報をいかにキャッチするかということは非常に大事なものになっております。
 次、お願いします。そこで、これは一例になります。CORE Educationというアンダーラインを引いてありますが、CORE Educationというのは、民間の学校支援機関になります。このCORE Educationが、ちょうど2週間前になるんですが、uLearnというイベントを開いておりまして、そこに私は参加させていただいたので、ちょっと写真を撮ってまいりました。
 このCORE Educationというのは非常に大きな団体で、このuLearnといういわゆる教員向けのイベントですね。これを毎年開催しております。その写真にもありますように、見本市のようなものもあれば、先生方が座学で学ぶというところもありますし、交流の場もありますし、シンポジウムのようなものもあります。今回の2023年のuLearnには、全国から教員が600名ちょっと参加したと聞いております。
 次、お願いいたします。これはあるブースなんですけれども、これはあるカンパニー、小さな企業ですけれども、ここがe-asTTleに代わるような評価ツールを開発して、それの宣伝をしているというところになります。いろいろお話をいただいたんですけれども、やはり先ほど申し上げましたように、結果をどうデジタル化していくかというよりは進捗状況をデジタル化して、それを見える化していくというところに力点を置いたシステムをつくったというお話を伺いました。ちょうど10月から発売開始したということをおっしゃっておりました。
 次、お願いいたします。先ほど申し上げましたように、ニュージーランドは一つの検定教科書ということではありませんので、いろいろな団体がいろいろな教材をこうやって紹介しているというところになります。
 次、お願いいたします。これもある学校支援機関の団体がやっているブースなんですけれども、右の写真は、PLDのプロバイダーとして教育省に認証されていますよということを明示しているというところです。認証されていると、無料の研修ですとかプログラムがたくさんありますので、質の保証というところにもこの認証というものがつながっていることになります。
 そして最後、お願いいたします。この写真は、実は左側は国立図書館、右側の写真は教育省のブースになります。民間の支援機関の教員向けのイベントなんですが、教育省をはじめとしてオフィシャルなブースも設けられていますので、たくさんの情報をこういうところに参加して得ることができるという生の姿を見ていただきました。
 私の報告は以上とさせていただきます。ありがとうございました。
【西野総括研究官】  ありがとうございます。それでは、簡単にまとめたいと思いますので、私のスライドに戻していただいてよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 今、御紹介いただいたカナダ、ニュージーランド、いずれも学校主体のカリキュラム開発が進んでいる国ですので、日本やアジアの諸国とはかなり状況が違っております。このスライドでは、2022年に改訂が行われた国の主な内容を御紹介しております。
 その次のスライドからは、特にアジア諸国が取り組んでいる課題をお示ししております。学校カリキュラム支援については、今御紹介いただいたような国については、教育課程全体を学校が開発していくという文化が定着しておりますけれども、アジア諸国ではなかなかそういう全体を開発するという取組は進んできませんでしたので、あるテーマを設けて、ちょうど日本の総合的な学習の時間のように一定の枠組の中で学校が自由に開発できるような領域を設けるというのが、トレンドになっているようです。
 次のスライドもまさにそうでして、特に教科横断的、現代的な諸課題に関わる取組、あるいは体験活動を中心として学校が実際にカリキュラムをつくっていくという取組が、シンガポール、韓国、台湾などで加速しているという状況です。
 最後に、次のスライドをお願いします。コンピテンシー・ベースの教育課程改革が21世紀に進んできたと。では、その次は何なのか、どういう方向性があるのかが見えにくかったんですけれども、コンピテンシー・ベースの教育改革を継承しながら、その中で学習内容の示し方を見直していこうという動きが、この数年の間に加速しているように思われます。今示しているのも、この数年の中に見られる動きです。先ほど御紹介いただいたようなビッグアイデアのような考え方をどう取り入れていくかということで、アジアではシンガポールや韓国が様々な取組をしているということで御紹介させていただきました。またその点についても御質問があれば、お話をしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 それでは続きまして、OECDより資料3を提出していただいております。教育スキル局より御発表をお願いします。
【八田氏】  よろしくお願いいたします。OECD教育スキル局の八田と申します。まず、本日、貴重な機会をいただきましたことを関係の皆様方に御礼申し上げます。
 本日は、私どもこの国際機関として把握しております各国のカリキュラム改革の動向や、私どものカリキュラム分析について御説明申し上げたいと思います。
 では、次のスライドをお願いいたします。まず、私どもの行っておりますEducation2030プロジェクトについて御説明します。これは、東北スクールプロジェクトの経験を契機に、「生徒が未来を生き抜き、世界を形づくっていくためには、どのような知識やスキル、価値観、態度が必要か」また、「教育システムはどういうふうにしてこれらの知識やスキル、態度や価値観を効果的に育成できるか」ということをテーマにしております。
 2015年から第一フェーズが始まっており、ここでは「どのような知識やスキル、態度、価値観が必要か」という、言わばwhatの部分を検討し、成果物として2019年5月にOECD Learning Compass2030をまとめました。2019年以降は、「どうやって育成するか」というHowの検討を進めておりまして、成果物をTeaching Compassとしてまとめる予定となっております。
 この事業では、後に述べますエコシステム・アプローチとして、政府関係者だけでなく教員や生徒、研究者など様々な方々の意見を直接聞きながら検討を進めております。例えば日本とのつながりということで申しますと、日本からニュージーランドに留学している生徒の方の話などから、日本とニュージーランドで体育や数学でどのような違いがあるかなど、いろいろなnarrative、言わば生徒たち自身のお話も聞きながら検討を進めてございます。
 次のスライドをお願いします。本日御説明する内容は御覧の3点になります。次のスライドをお願いします。まず、カリキュラムの定義について御説明します。一般的にはカリキュラムとは、学校での子供たちの学習経験を指すものとして捉えられていますが、私どもとしてはこのカリキュラムの複雑な性格として、1つは包括的な側面、すなわち公的なカリキュラムということに限らず、いわゆる隠れたカリキュラムも含むものであること。また、多層的な側面、教育目標やその内容だけに限らず、指導法であるとか評価についても含み得るものであること。また、動的・総体的で多方面的な側面、すなわち様々な関係者やその相互作用というのが影響するものであること。こういった性格を持つものとして運用してございます。
 次のスライドをお願いします。今申し上げた多層的な側面ということについて補足させていただきます。各国では、この日本の学習指導要領のような主要なカリキュラム文書と、それとは別に付録文書を作成してございます。この図を御覧いただきますと、一番上の教育目標・内容については多くの国で必須の内容として記載されている一方、真ん中から下2つ、教育方法であるとか評価については義務づけではない、任意のものとして位置づけるような場合もあります。すなわち、カリキュラム文書に何をどのように位置づけていくか、記載するかということは国によって異なるという形になります。
 次のスライドをお願いします。もう一つは、カリキュラム分析のアプローチについて御説明させていただきたいと思います。カリキュラム分析は、伝統的に政府文書に公的に書かれた「意図されているカリキュラム」、学級内で実際に行われている「実施されているカリキュラム」、子供たちが実際に習得したことを示す「習得されているカリキュラム」という3部構成のアプローチが取られてきました。
 OECDではこれを基にしつつ、これを拡張する形で多層的かつ様々な関係者間の関わり合いを示したエコシステム・アプローチを開発し、このアプローチを取っている次第でございます。
 このアプローチの中では、右側の図にございますように生徒を中心にしながら、生徒を取り巻く学校や教員、同級生など直接の関係者を水色のミクロシステム、これら関係者の相互関係を黄色のメゾシステム、教育委員会や教員研修など子供たちには直接の影響を与えないんですけれども、ミクロシステムに影響を与えるものをエクゾシステム、マスコミや法制度など子供たちの環境に影響する社会・文化的なイデオロギーなどを一番外側の赤のマクロシステム、そして時間の経過を示す、下にある矢印のクロノシステム、このような形で定義して、カリキュラムに係るいろいろな関連要因を包括的・多面的に分析するという取組を行っております。
 次のスライドをお願いします。次に、カリキュラムに関する近年の各国の主なトレンドとして、資料に記載の4つの点を順次御説明させていただければと思います。8ページをお願いします。まず、デジタルカリキュラムです。ここではカリキュラム文書のデジタル化について御説明させていただきます。
 カリキュラム文書のデジタル化ということで申しましても、例えばPDFのような形でウェブサイトに掲載して閲覧可能な形にしているような国もあれば、カリキュラム文書についてプラットフォームを作って、授業や教育活動を設計できるようにしているという国もあります。この図は、各国や地域でのカリキュラム調査を行った結果でございまして、一番左の茶色の部分になりますけれども、日本を含め43%の国々がデジタルでカリキュラム文書をPDFなどのタイプで公表していました。他方、この青字の部分がインタラクティブなカリキュラムを準備している国や地域、右側のオレンジのところが実際にそういったインタラクティブなカリキュラムを活用しているところでございました。
 例えば、インタラクティブな国ということで申しますと、右側にあるノルウェーでは、教員がカリキュラム実施に当たって、必要なリソースであるとかガイドラインをオンラインで検索して、その結果を基に授業を組み立てることができる、そういった仕組みを取ってございます。
 次のスライドをお願いします。また、カリキュラムの推進に当たっても、様々なデジタル技術が組み込まれています。その一例として、エストニアではデジタル教科書が用いられていまして、教員はこの中のe-diaryという機能を使うことで、個々の生徒に課題を出して提出状況をフォローしてフィードバックを出したり、あるいは学級単位での課題や個人単位での課題やその進路をマネージしたり、生徒の進捗状況を保護者と共有したりすることができます。この辺りは、日本でも近年デジタル教科書の推進であるとか、GIGAスクール構想をはじめとするICT化の推進などで、様々な新しい姿が出てきているのかなと思います。
 次のスライドをお願いします。次に、コンピテンシー・ベースの学びについて2点御紹介させていただきます。韓国では、この資料の左側にございますけれども、An Educated Personモデルを作成しております。ここでは、全ての国民が尊厳を持って価値ある人生を導き、民主国家の発展に貢献し、人類の繁栄という理念の実現を図るということで、生徒像を作成した上で、そのビジョンを実現するためにこの資料に記載の6つのコンピテンシーを定めております。
 また、先ほど御紹介がありましたけれども、ブリティッシュ・コロンビア州でも生徒像として、The Educated Citizenというモデルを提示するとともに、教科内容、教科別のコンピテンシー、そしてビッグアイデアを3つに分けてカリキュラムを構成してございます。ここでは知識に係るContent Learning Standardsと、理解に係るBig Ideasは区別をして整理されてございます。
 これらの国々の中で特に御留意いただきたい点は、単に特定のコンピテンシーを定義するということではなく、その前提として、望ましい市民像や生徒像を提示していることが重要な点と思ってございます。つまり、カリキュラムをコンピテンシー・ベースにするには、必要なコンピテンシーを定義するにとどまらず、「どのような市民像、あるいは生徒像が必要か」ということを定義した上で、そこに必要なコンピテンシーを定義していく。こういったプロセスを取ることが重要ではないかと考えております。
 次のスライドをお願いします。こちらはブリティッシュ・コロンビア州のビッグアイデアを示した表でございます。カルチャーとかアイデンティティとかパターンといったビッグアイデアが、どんな教科に落とし込まれているのかを一覧できます。
 次のスライドをお願いします。次に、カリキュラムの柔軟性について御説明します。教員や学校に対して、学習内容、目標、指導方法、評価に関する裁量を与え、自由度を増すもの、というのがカリキュラムの柔軟性ということです。
 この点について、PISA2015年のデータで申しますと、日本では90%以上の学校が校長または教員にカリキュラムに係る責任が分配されていると答えております。このグラフの右側のJapanの部分でございます。また、特に、明るいオレンジの部分である校長の占める責任の割合の部分が他国と比較して高いというのは日本の特徴だと思ってございます。こういったことは、教育課程の編成権が各校長にあるという日本の制度的特徴を反映したものかと思いますし、また校長のリーダーシップがカリキュラムの推進上に当たっても大変重要であることを示していると思います。
 裏を返しますと、例えば、もし「どういったコンテンツを優先して学ばせるべきか」といったことについてのキャパシティ・ビルディングが学校に十分に行われていなければ、後に述べますカリキュラム・オーバーロードの一つである認知面のオーバーロードに学校が陥りかねないといったリスクもございます。
 次のスライドをお願いします。最後に、個別最適化カリキュラムのトレンドについて御説明させていただきます。今まで述べたデジタルカリキュラム、教科横断とコンピテンシー・ベースのカリキュラム、柔軟なカリキュラムというこの3つのトレンドは、それぞれ個別化されたカリキュラムを促している要素でもあります。
 この流れからカリキュラムを捉えますと、カリキュラムも従来の直線的で標準化されたものから非線形・循環的なものに、評価も標準化されたテストから他の形のアセスメントで補足されたものに、生徒の役割も、単に教員の指示を聞くというものから、エージェンシーを備えた積極的な参加者に変わっていくということが、このトレンドの中では期待されます。
 次のスライドをお願いします。次に、私どもの行っているカリキュラム分析について御説明させていただきます。OECDでは、この資料の下側にございます緑塗りの報告書をテーマ別に刊行してございます。今一連の6分冊のレポートを順次刊行中で、今までに4冊を刊行しまして、カリキュラム・オーバーロードや、カリキュラムを通じた公正さの確保といったテーマを扱っております。
 今後、残る2冊も刊行予定でございますが、これらのテーマは各国、地域のカリキュラム改革に係る経験に基づいて優先度が高いとされたものでございまして、各国、地域が共通して問題意識を持っている部分かと思っております。
 次のスライドをお願いします。教科別、国別の報告書も作成してございます。こちら御紹介をさせていただきたいのが、上のCurriculum analysisのところの左から3つ目の報告書になります。先週金曜日の13日に数学版のLearning Compassも公表してございます。また、体育のカリキュラム分析についても報告書を作成していたんですけれども、この邦訳版が今月出版されておりますので、御紹介させていただきます。
 国別の報告書については、私どもは各国、地域とのバイの関係でこういった報告書を出させていただいておりますけれども、各国と私どもの連携の形はこうした報告書に限られず、この後に述べます共同研究のような形でも実施をしてございます。
 次のスライドをお願いします。カリキュラム・オーバーロードについて御説明させていただきたいと思います。カリキュラム・オーバーロードは、ともすれば授業時数の問題だけに捉えられることもありますが、それに限られるものではございません。また、教員の過剰な業務量の問題は、このカリキュラム・オーバーロードと同じ問題ではないということです。私どもでは、これを4つの類型で整理をしてございます。
 1つ目はカリキュラム・エクスパンションで、ほかの部分と十分に調整せずに新しいコンテンツを追加していく傾向のこと。2つ目はコンテンツ・オーバーロードで、授業時数に対して過剰な量のコンテンツがある状態のことです。例えば取り扱う題材が多過ぎて、生徒が深い学びに至り得ないような場合を指します。3つ目がパーシーブド・オーバーロードで、教員や生徒がカリキュラムを詰め込み過ぎと感じている状態を指します。こちらは言わば主観面のオーバーロードで、客観的・量的な状況を示すコンテンツ・オーバーロードとは区別をされております。4つ目はカリキュラム・インバランスで、特定の教科が過度に優先されることで、他の教科と不均衡が生じている状態を言います。
 次のスライドをお願いします。カリキュラム・オーバーロードに対応するためのキー・レッスンを御紹介させていただきます。これらは、これまでカリキュラム改革に取り組んできた国や地域から失敗の経験も含めて共有していただいた、言わば実践的なレッスンとなっております。
 1つ目は、学習分野の広さと学習内容の知識の深さとの間に適切なバランスを保つということです。こちら、「1マイルの幅と1インチの深み」と言われますけれども、学習内容を広げ過ぎることで内容の深みを損なうようなことは避け、バランスを保つことが大切であるということです。
 2つ目は、カリキュラム・デザインの際に焦点化・子供たちの知的挑戦・一貫性を原則とすること。焦点化というのは、質の高く深い学びを保証するために比較的少ない数の題材を取扱うこと。知的挑戦というのは、題材が一人一人の生徒にとって知的にチャレンジングなもので、深い思考と振り返りを可能にするものであること。一貫性とは、子供たちの進歩を促すために論理的な方法で題材が配置されていることです。
 3点目は宿題のオーバーロードを避けることです。授業時間内に内容を終えられなければ、先生方はこれを宿題として課すことがあります。ただ、過剰な量の宿題を出すことで、生徒の自由時間や睡眠時間が減らされると、彼らのウェルビーイングを害することになりかねません。
 4点目は、学校に対してカリキュラム・オーバーロードにつながる地域単位での決定を考慮することです。国立教育政策研究所の発表にありましたニュージーランドですけれども、過去に各学校の裁量を増やしたものの、カリキュラムの実施について各学校間でばらつきが生じたという課題も生じました。学校や地域レベルで「カリキュラムの中で何を優先すべきか」に係るガイダンスが十分にないと、カリキュラム・オーバーロードに陥りかねません。学校の裁量を単に増やすということではなくて、カリキュラムのデザイン、あるいは実施のプロセスを通じて、教師や学校指導者に必要な研修や資料を提供していくことが重要と考えてございます。
 5点目は、生徒のウェルビーイングを再定義する上で喫緊の課題として、カリキュラム・オーバーロードを強調するということです。生徒の成功、ウェルビーイングとは何かということを考えたときに、単に学力だけで捉えるのでは妥当ではありません。例えば日本では特別活動がありますけれども、これを通じて子供がやりがいを見いだしたり居場所をつくるといったことができます。「カリキュラムが多ければ多いほどよい」という考え方から脱却するとともに、過度に学力をフォーカスするのではなくて、「生徒の成功とは何か」を改めて定義し直して、生徒のウェルビーイングを中心に据えて検討を進めることが重要だと考えてございますし、今日のアジェンダはカリキュラムになりますけれども、ウェルビーイングを実現する上では教科指導だけではなくて、日本で言えば生徒指導の充実を図っていくことも大事ではないかと考えてございます。
 次のスライドをお願いします。また、私どもではカリキュラムのデザインに向けて12の原則を示しております。これらの原則はエコシステム・アプローチの一環として、研究者だけでなく、教員や生徒の意見も聞きながら検討したものでございます。
 大別すると4点ございまして、1つ目は教科内のデザイン原則で、教科の中で焦点化や一貫性を持たせること。2つ目は教科横断のデザイン原則。3つ目は社会に開かれたデザイン原則で、実社会とのつながりや交流の機会をつくっていくことや、そのための柔軟性を持っていくこと。4つ目はプロセスに関するデザイン原則で、関係ステークホルダーの参画、あるいはエンゲージメントを認めるものとしていること。
 この4点目について若干補足しますと、例えばカリキュラム段階から教員の関与を進めていくことで、カリキュラムに使われている言葉をよりクリアなものにしたり、文書自体の量を削減することができ、オーナーシップを高めていくことが期待されます。こうした事柄についての実践については、私どもと連携しつつデザイン原則も含めた国内での実践創出に取り組んでいただいている東京学芸大学の荻上先生から、この後、御説明をさせていただきます。
 以上が、雑駁ながら私どもOECDサイドからの御説明になります。御清聴ありがとうございました。
【荻上氏】  ありがとうございます。続きまして、日本OECD共同研究事務局をしております、東京学芸大学、荻上健太郎より御説明をさせていただきます。本日はこのような貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
 次、お願いいたします。日本OECD共同研究は、エージェンシーなどの概念の発端でもあり、現行の学習指導要領や国際的な評価にもつながっております、東日本大震災の復興支援事業、OECD東北スクールにルーツがございます。日本国内の学校などと、異なる国々の学校などが、校種を超えてつながる国際共創によるエコシステム・アプローチにより、カリキュラムや生徒・教師エージェンシー、ウェルビーイングに係る政策形成に貢献することを目的に、学校現場における実践・研究や若手研究者との共同研究などを進めております。東京学芸大学はその事務局として、マルチステークホルダーによる実践研究コミュニティの構築や活動の推進を担っております。
 次、お願いいたします。ここからは実践事例の御説明となります。1つ目は泉大津市立小津中学校の取組です。生徒と先生発によるボトムアップ型の学校改革を進めており、特に生徒主体によるビジョンメーキングから取り組んでいるところに大きな特徴がございます。また、学校の自主性や生徒の主体性を生かしながら、外部のステークホルダーとも連携をして、カリキュラム・デザインや評価にも取り組んでいる学校となります。来月11月には、ポルトガルから来日するチームとビッグアイデアから教科横断で合同授業をするというような取組も予定をしております。
 次、お願いいたします。次は、東京都立立川学園の取組となります。立川学園は特別支援学校の一つでございますが、その聴覚障害部門の先生と生徒による取組となります。国際ワークショップで手話による詩の朗読を演じるところから挑戦が始まり、手話による司会を主体的に参画する、さらにはワークショップの企画自体を生徒が主体的に企画する側になるという形で展開をしている取組となります。
 次、お願いいたします。次はプロジェクト無限大の各種活動からの説明となります。1つ目は新たな形の教員・生徒の学びの創造のためのワークショップとなります。この夏に生徒と先生、大人が一緒になって、探究さらには評価というテーマについて考えるワークショップを行いました。また、カナダの探究学習やエストニアの評価の取組について、小中高の先生方が事例を聞き、海外の事例を模倣するのではなく、質疑のやり取りを通して自分たちの現場でどのように生かせるかを議論する新たな創造への契機をワークショップとしてつくりました。
 2つ目は、FG2Cと呼ばれるOECD Education 2030の教職志望学生チームとの協働となります。将来の担い手となる学生チームの皆さんとの協働を進めているところです。
 3つ目は、研究者コミュニティとの連携となります。若手研究者の研究活動支援や活動環境の整備、プロジェクトに参加する学校との共同研究の促進、カリキュラム分析へ大規模言語モデルを活用する可能性の検討などを、多様な研究者の皆さんのコミュニティを形成しながら進めているところです。
 次、お願いいたします。最後に、今後に向けてとなります。1つ目は、社会に開かれた教育課程に係る実践を深化するため、マルチステークホルダーによるコレクティブ・インパクトの促進とネットワークの拡大を進めてまいります。2つ目は、学校におけるウェルビーイングの向上に向けて、指導と評価の在り方の検討を、エコシステム・アプローチにより進めてまいります。3つ目は、学習指導要領と教員養成、教員研修との一貫性を図るため、FG2Cとの協働や、本学が教員養成フラッグシップ大学であることを生かした一体的取組、ネットワークの活用・展開などを進めてまいります。
 私からの御説明としては以上となります。ご清聴ありがとうございました。
【天笠座長】  本日は、それぞれのお立場から、大変貴重な情報提供を含めまして御発表いただきました。関係の皆様に心よりお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、委員の方から、ただいまの発表に基づきまして御意見をお願いできればと思いますけれども、予定していた時間よりもやはりどうしても発表の方々の力が入っておりましたので、時間的にも随分食ってしまった部分があって、委員の皆様、既にお気づきだと思うんですけれども、1人当たりの時間がおのずからというふうな時刻の中で御発言をお願いできればと思いますので、その点についてどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、例によっていつもの進め方をさせていただきたいと思います。時間は短いかもしれませんけれども、少なくとも全員の方に御発言をお願いできればという心積もりで進めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
 ちょっと事前の打合せもありましたので、まず秋田委員から御発言をいただき、その次に戸ヶ﨑委員に続いていただき、そしてその後、御発言ということでお願いしたいと思っておりますので、まず秋田委員、お願いいたします。
【秋田座長代理】  ありがとうございます。今日の御発表の皆様、本当に充実した内容発表をいただきまして、ありがとうございます。
 改めてカリキュラムのこれからの在り方というところで、いわゆる教科だけではなくて、いわゆる認知的な側面と、ヘルスとソシオ・イモーショナルという、日本で言えば知徳体というものの方向という全人的な方向が国際的にも指向されているというところは、一度ちゃんと確認をしたいところであり、そして全体の傾向として、やはり生徒が主体ということは学習などでよく言われるわけですが、それだけではなくて、生徒も参画するとか、コミュニティも参画をして、カリキュラムを開発していくという側面が重視されてきているというところだと考えました。
 そのときに、どうしても、1つは私たちの国はコンピテンシーまでは出していると思うんですけれども、どういう価値というものや、どういうシチズンシップというかどういう姿を求めていくのかということについての議論というものをもう一回深めていくということが必要であろうと一つは思いました。
 また、2つの国の御発表から、授業時数の問題というものがカリキュラムに密接につながるわけですけれども、そこの辺りの柔軟性ということを考えることが、今後、教科横断的な、レリバンスの高い内容を扱っていく上で大事なのではないか。かなり授業時数が、日本の場合は教科書という国定教科書の検定教科書の問題とつながっているんですけれども、もう一度その辺りを柔軟に考えていくということが、今後そのそれぞれの地域の特徴を考えていく上で重要だということを御示唆いただいたのではないかと思います。
 また、教科の内容を深くするために、ビッグアイデアとかキー・コンセプトというものをどう考えるか。日本では見方・考え方というようなエピステミックなというか、認識論的な思考力の在り方というのを議論しているのに対して、似ているんですけれども、ビッグアイデアやキー・コンセプトというのはもう少し内容に焦点が当たったものになっています。この辺りを全ての教科で、どのような形で学習指導要領をより焦点化をして、カリキュラム・オーバーロードにならないような形にしていくのか。この統一感というものや、それをどう学校の先生たちに理解していただくのかということが今後の課題だろうと思いました。
 また、先ほど八田さんからも御指摘がありました。日本はあの表でも出ているように、学校の管理職の、学校カリキュラム・教育課程の責任者は管理職ですからそこに裁量があるわけですけれども、その学校支援というものを、今日のニュージーランドのお話がありましたけれども、どういうふうに県や国が支援していくのかというようなところの、これからの学校裁量のカリキュラムの支援の在り方、研修の在り方ということが重要だと思います。
 早口ですみません。そして、最後にやはり考えなければならないのは、例えばOECDもLearning CompassとPISAの2022をつなげて考えていたり、各国がやはり評価とカリキュラムの在り方というものをセットにし、しかも柔軟なカリキュラム方法、そして生徒たちにもいわゆる数量的なランキングではない、形成的・質的なプロセス評価の教育の仕方というものを各国が議論しています。日本では、どちらかというと先に学習指導要領ありきで、その後評価をどうしますかというのがこれまでの議論でありましたが、この辺りを同時に連携しながら考えていくというような在り方が、これからの動向になるのではないかと思ったというようなところであります。
 本当はもう少し、せっかくであれば田熊さんも来られているので、各教科のリフレーミングというのでしょうか。各教科でビッグアイデア等だけではなくて、やはり授業観を変える学習観、例えば数学観とか歴史観などを、例えばこの間マスのワークショップがありましたけれども、フィックスト・マスからグロース・マスへというような形で、数学そのものの数学観が変わったり、教科観も各国で見直しがされているんじゃないかと思います。もし時間があればその辺り、せっかく御参加いただいていますので、カリキュラム全体のフレームワークがどう変わっているかということと同時に、その各教科のアイデアの内容の精錬と同時に、その教科観をどう変えるストラテジーを持っていらっしゃるのかというようなところを伺えればと思います。
 以上になります。ありがとうございます。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 続きまして、戸ヶ﨑委員、お願いいたします。
【戸ヶ﨑委員】  現場の立場で申し上げていきたいと思います。まず2つの御発表、大変勉強になりました。私からはコメント2つと、質問をさせていただけたらと思います。
 まず1つ目に、このコンピテンシー・ベースでのカリキュラム改善が諸外国においても進んでいるということ、またそれを日々の授業の中にどのように浸透していくかということについては、どの国も悩み、試行錯誤していることを理解いたしました。日本の学習指導要領は、OECDのキー・コンピテンシーに先取りして「生きる力」を提唱して、今の学習指導要領では「生きる力の理念の具体化」として、コンピテンシー・ベースでの教科の目標・内容の整理を行うなど、先取りしてきました。そういう意味で、日本の教育課程の改革は先進的であるなと改めて思いました。ただ、その浸透という部分では、日本でも課題だと思います。
 2つ目に、この課題解決のためには、同様の課題への諸外国の失敗から学ぶことや試行錯誤の知恵をいかにうまく取り入れていくかも大切だと思います。その際注意すべき点として、やはり教育界にある「風土」や、「水」を考えなくてはいけないと思います。「政策波及」について私もこだわっていますが、優れた自治体の実践をそのままほかの自治体で取り入れようとしても、いわゆる水に合わない、風土になじまないということで、機能しなかった例は幾らでもあります。これは、国レベルでも同様だと思います。教育の制度論で言うところの「社会的・制度的文脈に照らす」ということを、学校現場の業界用語では、「水に合う、風土になじまない」と語り継がれています。
 熱帯魚の飼育では、「水替えは一度に全部交換するな」というのは常識です。明確な課題である「水の淀み」は浄化する、つまり真正面から見直す必要があったとしても、水を入れ替え過ぎると、日本型の学校教育のよさまで失われてしまう可能性があります。例えば単純に、フィンランドがいい、カナダがいいということだけではなく、やはり諸外国の知恵などに学びつつ、日本の教育の文脈に照らしてもう一度知恵を絞っていく必要があると思います。
これを前提として、もしお時間があれば回答していただきたいことが2つあります。
まず、福本先生からのニュージーランドの学校支援の取組について、カリキュラム・マネジメントを重視する学習指導要領との関係から大変興味深く拝聴いたしました。私は、今後の学校経営・運営は、いかに自前主義から脱して、外部のリソースを積極的に得ていくかということの必要性を痛感しています。このニュージーランドの学校のニーズに応じてリソースを選択して活用できるという仕組みは大変興味深く感じました。
 教育委員会として、学校のカリキュラム編成や裁量拡大を支援することは大きく3つあると考えています。1つ目は各学校に必要なリソースを準備・提供すること、2つ目は学校が適切な判断ができるように、先ほどの八田さんの言葉にありましたが、校長のキャパシティ・ビルディングの力量形成を図って、足腰の強い学校組織に変えていくこと、3つ目が、各校長の自主的・主体的な判断を尊重していくこと、この3点が重要であろうと考えています。
 また、学校の自走支援を推進するためのポイントは、外部とのマッチングや、コーディネートであり、複雑に絡み合った学校のカリキュラム・マネジメント上の課題を解きほぐして道筋を示して、背中を押していくリソースを提供することは、なかなか困難を伴っていくと思います。こうしたコーディネート機能を担保する仕組み、例えばカリキュラム・コーディネーターのようなものの、養成や研修、あるいは学校独自の取組事例があれば、お聞かせいただけたらと思います。
 次に、八田さんの御発表に関連することで、いわゆるカリキュラム・オーバーロードについては、御発表の中にもありましたが、多義的・複合的であると考えています。教師のワーク・オーバーロードとは一定の距離を置いて、チルドレン・ファーストの精神で臨んでいくことが大切であると考えます。
 これまで学校現場ではなかなか聞かれなかった、この「カリキュラム・オーバーロード」という言葉が最近おどっていますが、これを単に「詰め込み過ぎ」の言い換えとして使われている傾向があると思います。よく人によっては、学習指導要領を「箸の上げ下ろし」まで決めていると批判される方もいらっしゃいますが、これはあくまでも大綱で、教育課程の基準であり、教科の目標や内容も現状はかなりざっくり書かれており、全体として見れば必ずしも「詰め込み過ぎ」には見えません。
 一方で、教科書や教材においては、学習指導要領以上に盛りだくさんの内容が詰め込まれています。子供の学びを豊かにする、経験が少ない教師の指導をアシストする、という教科書側の気持ちの表れかと思いますが、やはり教材の分量が多過ぎる、丁寧過ぎると感じられる側面もあります。
 つまり、「カリキュラム・オーバーロード」と一絡げに語ってしまうのではなく、お話にあったように、授業時数が多いのか、学習指導要領の内容が本当に多いのか、また、教科書の内容がそもそも多いのか、教師の授業力や組織体制の問題なのかなど、実態をよく分析して、次の打ち手を考えていく必要があると強く思っています。この観点から、OECDから見て、実際日本の学習指導要領の内容は他国に比べて本当に過剰と言える状況なのか、そして、教科書・教材との関連を加えて「実施されるカリキュラム」としてはどうなのかを可能な限りで教えていただけるとありがたく思います。
 以上です。
【天笠座長】  石井委員、お願いいたします。
【石井委員】  非常に興味深く、カリキュラム研究、この辺りを専門でやっているものですから、いろいろとめちゃくちゃ勉強になったというところがあるわけですけれども、その上で、大きくちょっと3つぐらいのことをお尋ねできたらと思っています。
 秋田委員、それから戸ヶ﨑委員が質問されたところともちょっと関係するんですけれども、まずでも大前提として、こういった諸外国から学ぶと言ったときには、かなりそれぞれ文脈が違いますので、その辺りをちゃんと踏まえることが大事かなと思うんですね。
 それで言いますと、カナダ、オーストラリア、それから韓国もありますが、それぞれの政策を参照するときに、ここはやはり注意が必要だという辺りを少し示していただくことと、あとは必ずしもそれがうまくいっているわけでは多分なく、特に評価システムに関してはかなり論争的だと思います。そういったところも含めて、少しこういったところは注意が必要ですよということをお示しいただけたらというのがあるわけです。そのときに、その評価のそれこそハイステークス化具合というか、日本だと入試みたいなものがあるので、そのイメージで評価といったものが非常に何か重要だという意味合いがあるんですが、ヨーロッパであるとか、あるいはアメリカだとかにおいては、基本的には資格、高校卒業資格をどうするかとか、それにしてもそれほど入学段階ですごく気を遣うということではないという状況。その中での評価システムであると。
 ですから、丁寧な記述式云々ということは、例えば幼稚園であるとか総合的な学習の時間の評価を考えると大体イメージがつくと思うんですね。やはりそれに近いような形での運用だということを、圧力がそんなにかかっていないということあたりも考えていくことは必要じゃないかなとか、例えばそういった形での文脈を少し教えていただけたらということがあるのと、それと、あとはそのカリキュラムの中身ということで言いますと、今の流れとも関係させれば、なぜビッグアイデアが、カナダ、オーストラリアであるとか欧米圏においてこういった発想が入るのかと言えば、逆に言うとそれぞれ学校ごとにばらばらだからです。だから共通性を担保するときに、これくらい緩やかな枠組みであれば抽象度が非常に高いじゃないですか。それがあるから、もうやったことにできるというふうな、基本的にビッグアイデアというのは緩いそれぞれの各学校ごとがばらばらであることを前提にしたときに、どう統合を図るかという、その中で生まれてきているものだと思うんですね。だから、ビッグアイデアというのは、それで言いますと実は何か新しいものを付け加えるというふうなことではなくて、日本において実装するときもカリキュラムを緩くするものであると捉える発想が重要と思います。
 例えば文学作品の読みということで言えば、ざっくり示された読みの力という目標を達成することができるなら、今扱っている作品を全部扱う必要がないとか、あるいは状況によってはたくさん多読したほうがいいという具合に、その辺の裁量を現場に委ねるということですよね。だから、そういうふうな実は緩くするものだというふうな、自由度を高めるものだというふうな文脈の捉えが重要で、そうしますと、ヨーロッパ圏においてこれが入ることは分かるんですが、なぜ韓国でというのは、私は非常にここに興味があるんですね。
 逆に言うと、韓国はこの間、ひょっとしたらずっと現場裁量を高めてきたこととも関係するのかどうかとか、その辺のところ、ちょっと韓国の文脈はどうなのかという辺りも含めて教えていただけたらということ。
 それからもう一つ、非認知であるとかそういったものの扱いに関して言いますと、確かにバリューのところは重要なんですが、それは学習者像というよりもパーソンであるとかシチズンですよね。つまり人物像。アジアにおいては人物像であり、それでヨーロッパ圏においては市民像なんですね。そういう捉えが重要ではないかと思います。
 ですので、そこを学習者像というふうに言ってしまうとちょっと何か読み取りがずれてしまうのではないかなと。だからこそ、この実際に韓国の例を見てもそうですけれども、今回紹介はされませんでしたが、やはりその態度観点、バリューに関わる部分は世の中、社会に向けて関心なんですね。だから学習への態度というよりも、社会・世界に向かう力という側面がかなり強いと思います。
 さらに言うと、この非認知とか汎用的といったものに関しても、自己調整の部分は確かにone of themとしてありますが、それ以上に市民性であるとか協働性とかをかなり重視したものだと思うんですね。その辺り、日本の文脈であまり読み込み過ぎないことが重要かなと思います。ですから、そういった面でもう少し、先ほど秋田先生からも、内容に即して見たときにかなり教科観自体の問い直しがあるんじゃないかということがありましたが、それは私はすごく重要だと思っていて、そこが、現代社会に必要な学問とは何かという形でのその内容刷新の側面が、世界的にどう展開しているのかということをもう少し教えていただけたらということです。
 あともう1点だけ。学校カリキュラム開発支援といったもののイメージが、それで言いますと多分諸外国と日本とは大分違うと思います。ですから、まさに授業支援じゃなくて、カリキュラム開発の支援とは何なのかというふうなことの、その辺のイメージですね。この辺を教えていただけるといいのかなと。
 少し面白いというか興味深いというか驚いたのは、OECDでのデータで言えば、日本は裁量が結構あるとされているんですが、しかし現場サイドからするとそういう実感がないと思うんですね。これはなぜなのかと。つまり、それはキャパシティ・ビルディングが恐らくうまくいっていないということがあるのかなと思ったりしますし、先ほど戸ヶ﨑先生もおっしゃったようなところで、カリキュラムというか学習指導要領自体は大綱的なんだけれども、そこを見て授業をつくっていない状態があるのかもしれないなとか、そういった具体的な実態に即してこの辺を考えていく必要があるのかなということを思いまして、この辺り、もう本当に意見みたいなものであるので、可能な範囲で教えていただければと思います。
 すみません。長くなりました。以上です。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 それでは、次に奈須委員、お願いしたいと思うんですけれども、その後、順次、冨士原委員、貞広委員、高橋委員、そして市川委員の順にお願いしたいと思いますので、それでは奈須委員、お願いいたします。
【奈須座長代理】  ありがとうございました。既に出ていることですけれども、結局カリキュラム開発の自由度とか裁量権とかいうこと、あるいは柔軟性を高めるという話がやはり圧倒的に大事だということなんだろうと思います。西野先生のおまとめはまさにそういうことで、日本もそちらに向かってきたと思いますけれども、さらに桁違いにそっちに向かう必要があるんだろうなということを思いました。また、それに対してやはりデジタルな学習基盤ということが強力な道具になるんだろうなとも思っています。
 そして、やはり今お話があったことで3つ思っていて、1つは、今、石井先生がおっしゃったハイステークスな評価ということの状況を日本でどう考えていくかという話です。それから、まだ出ていませんが、結局ニュージーランドなんかは典型ですけれども、そろえるという発想があまりないんだと思うんですね。一人一人の発達権、学習権の保証というのは、今僕らが考えている個別最適というような方向で向かっているんだろうと。大枠では同じことができるようになるという学力保証はするんだけれども、それが当座、今この子にとってどんな状態を目指すのかということについては、とても柔軟で緩やかで長期的なんだろうなと思います。この辺をどう考えるかということがあるんだろうなと。個別最適という議論も、その観点からもう一遍見ていく必要があるんだなと思います。
 やはり一番大事なのは、カリキュラムと言っていますが、結局具体には教材ということなんだろうと思うんですね。先ほどのニュージーランドなんかありましたけれども、民間とかいろいろなアクターがそれを支援してくれるというか提供されていて、逆に言えば検定教科書が日本は圧倒的に強いというか支配力があるというところをどう考えるかということだろうと思うんですね。
 もちろん教科書は主たる教材で、それを足場にしつつもいろいろなものが使われて、そしてスクール・ベースドにしていくということが本当はあるんでしょうけれども、どうもそうなっていかないという辺り、デジタルの話も含めて教材環境が大きく変わってきますので、そこの原理的なところをどう考えるかということだろうと思います。
 もう一つちょっとお伺いしたかったのは、そのニュージーランドとかいろいろなところがいろいろなアクターによる自由で柔軟な支援という、教科書制度とは違うようなシステムがあるわけですけれども、経費はどうなっているんだろうなと思うんですね。当然無料という話はないわけで、昔、アメリカの個別化なんかのときも、民間がパッケージを使ったのは学校で結構買っていたわけですよ。その経費はどこがどんなふうに負担するのか。サポートはいろいろあると思うんですけれども、日本は、逆に言えばそこをどかんと財務的に検定教科書にかけているんだと思うんです。その辺りをどう考えるかという話がすごく大事なんだろうなと。
 つまり、カリキュラムがオーバーロードしているかというと、指導要領はあまりオーバーロードしていないと思います。それでもニュージーランドよりは倍ぐらいの量がありますけれどもね。でも、やはり教材のレベルでいろいろな問題があって、そこをスクールベースト・カリキュラムとしてどう考えるかという辺りの戦略をどうしていくかということが課題だなと思いました。
 すみません。以上です。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 続けたいと思うんですけれども、既にそれぞれの委員の方からお尋ねしたいですとか、それぞれのお立場から御意見等々があります。先ほど御発表いただいた方々、最後に一言ずつ、限られた時間で全てということは難しいと思いますけれども、御見解を述べていただくということで、それに備えていただければと思います。限られた時間ですので、12時ちょっと前ぐらいのところからのことになるかと思いますけれども、そういうことで、どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、冨士原委員、お願いいたします。
【冨士原委員】  よろしいでしょうか。私のほうも大変勉強になりました。本当にありがとうございます。
 海外のことは大変疎いもので、もうお時間もないということですし、もう私が伺いたいことや感想ももう既に出尽くしている感はございますので、2点だけ、コメントということではないですけれども、私が一番印象残ったのは、もう秋田委員がおっしゃっていたんですが、やはりカリキュラムに生徒とかコミュニティが参画するということの先進性みたいなものですね。日本でこれがどうかという、転用できるかということですけれども、やはり日本はまだ授業とか活動の主体に子供を据えるというところに、そういう存在というかまだそこにとどまっていて、とどまることがいいのか悪いのかは分からないんですけれども、その点で世界とはかなり違い、開きがあるんだなと感じたのがまず1点目です。
 それにも関わって2点目で知りたいなと思ったところが、やはり日本の学校とか教師は、何をするにも計画を緻密に立てるんですね。カリキュラムもそうですし、1時間の授業でもそうですし、何かの活動するのもそうですし、そういうときにやはり生徒とかコミュニティの人たちを参画させてとなったときに、イメージがあまりわかないと言いますか、そういう意味では、ほかの、今日のカナダとかニュージーランドとかほかの国でもそうですけれども、その計画、学校が何をどこまで計画するのかということを、実態としてあるのかなというのを知りたいと思いました。
 すみません。以上です。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 貞広委員、お願いいたします。
【貞広委員】  ありがとうございます。それぞれ御報告いただいた方、ありがとうございました。3点コメントと、1点質問を申し上げたいと思います。
 まず、1点目です。学生に常々授業で、全人教育というのは日本型教育の特徴ですと教えてきましたけれども、世界でそれがトレンドになっているということを今日確認いたしました。まさに方向性を一にしているということを再度確認できたところです。
 2つ目です。カナダの御報告として、全体のとにかく基盤になっているのは、実は安心できる学習環境だというコメントがあったこともとても印象的でした。これは質的、物理的にということだと思いますし、昨今の問題行動調査の結果も踏まえて、非常に重く受け止めさせていただいたところです。
 3点目です。さはさりながら、どこの国もやはり浸透実装というものに苦慮されていると。こういうフレームがあるからうまくいっているというのではなくて、やはりそこがなかなか難しい。併せて評価の部分も非常に難しく、論争的だということも分かりましたので、やはりここは難しいと言いながらもタックルしていかなければいけないので、浸透実装、そして評価への目配りもしながらつくっていくということが重要であるということを再確認しました。
 その上で、1点、八田さんに御質問です。八田さんのスライドの13枚目、とてもよくまとめられていて、21世紀型カリキュラムの主なトレンドを非常にクリアに整理してくださっています。とても腹落ちもしました。
 その上で、御承知のとおり、先ほど奈須委員からもお話ありましたけれども、日本は、教科書で教えること、教科書を教えることで、先生や学校に関係なくクオリティコントロールしてきたという歴史があります。それも大きく変わらない、変えられないと思うんですけれども、この中で日本の教科書ってどういうふうに変化したり位置づけられたりするのかということを、公式見解じゃなくて八田さんの個人的な御意見でもいいので伺ってみたい。ぜひ伺いたいと思いました。やはり自分の報告でもここの会議で申し上げたんですが、本当に教科書の位置づけってすごく大事だと思ってちょっとこだわっていまして、御質問する次第です。
 以上です。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 高橋委員、お願いいたします。
【高橋委員】  高橋でございます。大変すばらしい御発表、本当にありがとうございました。たくさんコメントというか申し上げたいことはあるんですが、時間も時間ですので1点。デジタルツールとの関係で、私は一番ここが興味がありますので、ここについて少しコメントを申し上げたいなと思っております。
 やはりこのところ、デジタルと言っても本当に多様で多層的ですので、どんなデジタルツールをイメージしているかによってこういった意見も通りにくいんですが、私が感じている最も優れたツールは、僕はそういうツールから教育課程とかカリキュラムが影響を受けるというのはおかしいことだとはずっと思っていましたけれども、やはりそういうツールによる影響はあるだろうと、すごく自分の考えが変わってきています。
 偶然、我が国は半分ぐらいの学校にそうしたビジネスツールが入っておりますので、実はこれを上手に使っていくというのがすごく面白いんだろうなと思っています。たくさん特徴があるんですが、これまでの議論の流れで1点だけ申し上げると、教科書との関係です。新しいそういうツールは、やはりビジネスの世界でもコンピテンシー面接とか、コンピテンシーってすごく重視されておりますので、まずはやってみる、そして非同期で分散で、どこでもいつでも自分のペースで勉強して、仕事していくことを支えるツールになっている、そういったツールで活動していくとき、もう一つ決定的なのは、先ほど少し福本先生がおっしゃっていましたけれども、デジタルツールで進捗状況を把握するという言い方をしていましたけれども、かなり進捗作業状況が把握できるんですよね。
 だから、結局こうしたツールを活用すると、まず先生の説明を聞いて、試してみて、習熟してみて、テストを受けるという過去の学習モデルから、まずやってみて、やってみた後に説明を少し聞いたり自分で見たりしてどんどん身につけていく、そういったことが身についたかついていないかも実は記録が残っているというような状況。
 例えばスマートフォンの利用なんてそうですよね。電源の入れ方だけ説明書がついていて、あとはやりながらだんだんこう説明が出てきて覚えていくみたいな、それが記録としても残っているので、常に適切な助言が提供されるみたいに、今なっているんだなと。
 そういうような学習が、今、スタイルとしてあるんだとしたら、教科書を使って、まずは教師が教えて、それでその後、習熟して確認していくというような、そういうようなモデルから変化していくだろうと、新しいモデルでは、話を聞かなくても、幾らでもまずは試せるんですよね。だから、まず何回でもトライしてみる、何回でもチャレンジできる。その後にできないことや、必要なことだけ説明を友達とかから聞いてみる、体育などを除いて、デジタルの中で成立する学習内容だけですけれども、そういう特徴が出てきたときに、ひょっとしたら教育課程のつくり方とかも影響を受けるんじゃないのかなというふうに、感想として思ったところです。
 私からは以上です。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 市川委員、お願いいたします。
【市川委員】  御報告ありがとうございました。改めて、世界的な動向と日本の学習指導要領の動きというのは、かなり軌を一にしている。むしろ日本が先進的にやってきたという面もあるということは確認できたと思います。その上で、あまりほかの先生からは出なかったことを、私は2つちょっと伺いたいと思うんです。
 1つは、これはこうしたナショナル・カリキュラムレベルで目指しているところというのと、実際の子供たちの学びの実態ですね。これがどれぐらい各国で一致しているのだろうかということです。
 日本の例を挙げますと、例えば小学校の4年生ぐらいから、大都市圏であれば塾に行く子供というのは非常に多くを占めてきます。そこで行われている学習は時間も長いし、やっていることも、ナショナル・カリキュラムから見ると必ずしも合致していない。でも、それが学習の一つの柱、方向になっているわけです。何のためかというと、もちろん中学受験があるからです。
 それでも小学校では何も受験対応の学習をしているわけではない。学校の中では確かに指導要領にかなり沿っていると言えると思いますが、じゃあ、高校になるとどうかというと、カリキュラムはできるだけ前倒しして教えて、そして3年生になれば演習と俗に言われている大学受験対応の問題練習に充てると。これはもう、日本の高校では公立も私立も含めて決して珍しいことではありません。
 すると、ナショナル・カリキュラムだけを見ていて非常に理想的な方向を打ち出していると言っても、学習者の実態というのは、少なくとも日本では全部ではないにしても、相当少なくない部分がかけ離れているところがある。ほかの国はどうなんだろうと。
 もう一つの問題ですが、教師の裁量についてです。授業方法について、日本は結構裁量が大きいほうだという結果、私も石井先生と同じくちょっとびっくりしたんですけれども、私はこれは年々きつくなっているような気がしています。1つだけ例を挙げますと、例えば、英語であれば、発音とか文法については教師からexplicitに教えてはいけないというのがかなり強く出されている。元をたどれば指導要領になります。総則ではそんなことはうたっていないですが、英語の指導要領になるともうそれの種になるようなことが出ていて、最近ですとそれが教育委員会を通じて調査される。
 英語の授業はオールイングリッシュでという、もう一つの柱ですね。これも現場の先生にとっては相当つらいんですが、一つの授業方法としてすごく強く打ち出されている。ほかの国はどうなんだろうと。こういう特定の指導方法について、国レベルから下りてきて、教育委員会がそれをチェックするというようなことがあるのかどうか。私は教師の裁量が増えているかのような印象を、先ほどの報告からも受けましたし、日本でもそのように見られているかもしれないけれども、実態としてはこの1年、2年、そういう制約が非常に日本ではきつくなっている。教科によりますけれども、そういうことの各国の事情も伺いたいなと思いました。
 以上です。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 そういうことで、私どもそれぞれの立場から、それぞれ意見、御質問という形で申し上げさせていただきました。時間の関係等々もあって一つ一つに応答するというふうなことについては結構かと思いますけれども、今日全体を通しましてお気づきになった点、あるいはこれはやはりコメントしておきたいということについてこれからお願いできればと思います。恐れ入りますけれども、間もなくお約束の12時になりますけれども、全体としましておよそ10分延長ぐらいということで御了解いただいて、今申し上げたことをお願いしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 なお、皆さんのコメント、感想があったので、私も1つ付け加えさせていただきますと、それぞれの方、それぞれ大変貴重な御提案いただいたということで、非常に刺激される部分がたくさんありました。その中で1点だけ申し上げますと、カリキュラム・オーバーロードということに関わってですけれども、御承知のように現在カリキュラム・オーバーロードというのは、いろいろな側面からこれについて改善案を含めて議論が進んでいるところですけれども、改めて思ったことの今日私の立場からするならば、カリキュラムの改善の話と働き方改革のそれというのは少し丁寧に住み分けてこの話を進めていく必要があるんではないかと。何か非常に混線気味のような状況の中で話が進んじゃっているのは、これは両方において、両方というのはこの働き方改革とカリキュラムの教育課程の改善ということですけれども、両方を混線させて進むことによって、共にいい成果が必ずしも待ち受けてないような感じがしまして、もう少しそこら辺のところを交通整理して話を進めることが必要なのかなと、そんな感想を改めてちょっと思った次第です。
 このことはともかくとしまして、それぞれの御発表についてコメントをお願いできればと思うんですけれども、まず、ちょっと順序を逆にさせていただいて、最初OECD関係についてということで、こちらのほうを伺いますと、OECD関係についての質問とかコメントというのは田熊さんが対応していただけるというふうに、こちらのほうでは伝え聞いておりますので、田熊さん、お願いできますでしょうか。
【田熊氏】  ありがとうございます。まず、いろいろ御質問ありがとうございます。
先ほど八田が答えられるところについて2人でやり取りしているので、まず八田から説明してもらって、そこにないところを私から説明してもいいでしょうか。
【天笠座長】  分かりました。じゃあ、八田さん、お願いできますか。
【八田氏】  ありがとうございます。よろしくお願いいたします。
 今、御質問いただいた内容、多岐にわたりますけれども、共通項として幾つかの論点があったと思います。カリキュラムの分量であるとか、教科書・教材との関係、ハイステークステストとの関係について、特に複数の委員から御質問いただいたと思います。時間の制約もありますので、その辺りについてまとめて御説明をさせていただければと思います。
 まず、前提として、カリキュラム・オーバーロードの視点で捉えたときには、学習指導要領、あるいは教科書・教材、また評価といった個々の要素をそれぞれ部分最適で、「この要素についてはこれがいいんだ」と考えるのではなく、実施されるカリキュラム、あるいは習得されたカリキュラム、すなわち「どういうふうに生徒・先生が指導しているか」や「指導要領の狙いにどんな資質・能力があって、それが生徒にちゃんと習得されているのか」といったことについて、要因であるとか影響を多面的・全体的に捉えながら全体最適を考える必要があるというのが、これはEducation2030の参加の国・地域からいただいております。このことを、まず前提としてお伝えをさせていただければと思います。
 その前提を基にお答えさせていただきますと、まずこの日本の学習指導要領全体の分量という点については、中学校で150ページ程度で、その書き方もざっくりと記載をされているかと思います。一方、日本では「教科書の内容を全部指導しなければならない」と捉えられているとも聞いております。これは他国にも共通しますけれども、認知面のオーバーロードとも考えられるのかと思います。
 この点については、カリキュラム以外の教科書や教材がカリキュラムと言わば同視されることで、授業時間内に終わらない内容を宿題に回してしまうと、先ほど申し上げました宿題のオーバーロードにつながっていくものと思います。これが、入試などでハイステークスな評価制度がありますとそれと相まって、「宿題に回して全部指導しなきゃいけないんだ」というふうに捉えられてしまう。こうした現象というのは日本を含むアジアによく見られる現象と思ってございます。これが生徒や教員のウェルビーイングの低下につながりかねないといったことは、私ども、報告書の中で特に強調している点でございます。
 こうした「教科書の内容を全部指導しなければいけない」というこの認知面のオーバーロードについては、日本でも先生のマインドセットを、「教科書を教えなくちゃいけないんだ」ということから、「生徒が学ぶ環境を整えるファシリテーターにしていかない」とといった議論があるというのは、幾つか聞いているところでございます。こういった点については、私ども、先生のマインドセットを変えていくという発想から、変わる環境を整えるという視点に見直していく必要があると考えておりまして、こうした問題意識の下で、この先生方の学校や教室におけるカリキュラム・オーバーロードの対応力も含めまして、今、Teaching Compassというのを国際的なco-creation、共創の中で作成を進めている状況でございます。
 以上となります。
【天笠座長】  どうもありがとうございます。
 田熊さん、いかがですか。加えることありますか。
【田熊氏】  どうもありがとうございます。1点だけ。細部に恐らく共通して一番大切なところは、まず学習観と生徒像と、その市民像・人物像と違うと委員の方がおっしゃられたんですけれども、やはりそこはつながっていて、「こういった市民、こういった人物像の下にこういった生徒像」という捉え方というか、そこの根底にある哲学がOECD諸国ではあります。また、「コンピテンシー・ベース」とOECDが言っていることについて、去年の大臣会合で生徒部会の生徒から御批判を受けました。すなわち、「OECDがコンピテンシー・ベースと言うことで、教育が『単にメモライズする(学習内容をひたすら記憶する)もの』ということではなくなったけれども、でも全体の教育としては、やはり『メディアリテラシーが大事だから今これをやるんだよ』、『AIが出てきたからプログラミングやコーディングが必要』、『いや、これからもっとお金の教育が大事』となっていて、大臣の皆さんや大人が色々と言ってくださるのはうれしいけれども、いつまでたっても私たちは<not enough、十分じゃない>と扱われている」という気持ちを述べられました。今そのコンピテンシー・ベースから先進的に変わっている国では、まさにbeing、まずdoingの主体であるbeing自体を見てほしいという生徒の声を聴く流れが出てきています。
 そうすると、さっきおっしゃっておられたchildren firstといったときでも、これだけ多様な生徒のbeingがあるということを、どういったカリキュラムの中で実現していくのか。そのためのアプローチ自体も、やはり世界観、国家観、学習観、人物像、市民像などの議論なしにカリキュラム議論をすると、カリキュラムも(政策ツールの一つとして)部分最適にしかならないので、結局さっき八田のほうからも申し上げたような形になるのでは、二項対立を超えられない。例えば評価とカリキュラムのalignmentと言ったとき、(E2030会議では)評価は3つのレベルに分けて議論しているのですが、(今日は)それがごっちゃになっているのかなという印象を受けています。
 もう時間ですね。何かライティングでお答えします。日本語が拙くてすみません。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 荻上さん、一言ありますか。
【荻上氏】  天笠先生、ありがとうございます。本日は貴重な機会ありがとうございました。恐らく、今日も出ていましたコミュニティみたいなところを、現場での取組を推進していくのが、この日本OECD共同研究の大事なところかなと思いながら聞かせていただきました。
 すみません。1点、本学の理事副学長の松田からも一言あるかと思いますので、松田先生、一言、よろしければいかがでしょう。お願いいたします。
【松田氏】  すみません。一言だけ。研究の中で特に御紹介した泉大津市立小津中学校の実践は、先生方が御議論いただいていたような、実はカリキュラム自体を地域コミュニティや様々な方が参画して、授業時間を45分で行ったり、あるいは教科融合の内容や授業の在り方自体も全て変えていってしまっている取組です。ですので、そのことだけちょっと補足しておきたいと思います。ありがとうございました。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。
 もう一つのほうにつきまして、下村さん、福本さん、西野さん、簡単にこの順でそれぞれお願いいたします。まず、下村さん、いかがでしょうか。下村先生、いかがでしょうか。
【下村氏】  ありがとうございます。今の議論の中にもありましたように、大前提として、やはり市民像というものがしっかり組み立てられているところは、カナダにおいても特徴かなと思います。
 自分たちの家族やコミュニティや国や世界において責任を果たしていく市民という市民像を大前提としたカリキュラムになっているということ。そのために、各教科の目標や内容はそれを指向したものになっているかと思います。
 また、教材や教科書、使用方法についても幾つか御質問が出たと思うんですが、カナダにおいては多くの場合、教科書の指定等はなされておりません。オンタリオ州は、州による検定制度があるんですけれども、教科書出版会社が出版したものを州教育省が認定して、教科書として使用されています。ただ、使用義務等はなく、教科書は貸与制ですので、教育委員会レベルで決めたものを購入して、必要に応じて生徒に貸し出して使うという形になっています。
 ですので、教員は様々な教材ですとか教科書ですとか、あと、その他リソースを自分で探してきて組み合わせながら、授業を計画しているような形になっています。年度初めに授業計画、教育計画のようなものを学校長に提出をしてレビューを受けてから、その計画に基づいて進めていくという形になっております。
 あと1点……。
【天笠座長】  どうもありがとうございました。あと1点ということで、どうぞ。
【下村氏】  インクルーシブな教育環境であるということも日本との大きな違いかなと思います。また、複式学級も珍しくはございません。学校は社会の多様性を反映した環境にあるべきという考え方のもと、多様な子供たちが一緒に学ぶ教育環境になっているということは付け加えさせていただきます。
 すいません、長くなりまして。以上です。
【天笠座長】  いや、すみません。まだまだいろいろとお伝えいただきたいことがたくさんおありだと拝察しておりますけれども、時間の関係等々あって、どうも申し訳ございません。
 福本先生、いかがですか。
【福本氏】  ありがとうございました。簡単に2点だけ申し上げさせていただきます。
 1点は、ニュージーランドの学校は、外部の力を使うということに全く抵抗がありません。外部に使えるものがあるんだったら、それを使わない手はないという考え方だと思います。特にカリキュラム開発に関しては、ニュージーランドは多く、教員数も非常に少ない学校が多くあります。ですので、他に使える力があるのであれば使いたいというのが前提だと思います。それが1点です。
 もう1点は評価に関して、従来の評価デジタルツールというのは、いかに先生が成績管理とかテストを作るとかいうのを楽にやるかというために開発されていたように思います。でも近年の傾向としては、そこにいかに生徒がコミットできるかというところにシフトしているような気がします。ニュージーランドは、生徒の自己評価というのをとても重視しています。ですので、そこと先生方の評価というのをつなげるというところにシフトしているのではないかなと思いました。
 今日は貴重な機会、ありがとうございました。
【天笠座長】  どうも、どうもありがとうございました。
 西野さん、最後に。
【西野総括研究官】  ありがとうございます。今日御指摘いただいた点をこれからの研究に生かしていきたいと思います。その際、石井先生から御指摘いただいた文脈が違うという点ですね。今日、カナダとニュージーランドについて具体例を紹介させていただきましたのも、やはりいいとこ取りとか一部だけ取り出してみても、その取組の評価できないということから、できるだけその国の文脈に即してお示ししたかったからです。今後もその制度がどういう課題を同時に持っているかということに目を向けながら、調査をしていきたいと思います。
 もう一つ、人間像、市民像というお話が出ました。能力とか価値というのだけを取り出して、それを前面に出していくということの危険性があるのかなと感じました。日本語の全人教育という言葉で訳してよいか分かりませんけれども、whole childということ、子供の全体像を見てその子供を育てていく。そのときに、価値とか能力とかという視点がある、そういう捉えでいいのかなと理解しております。
 最後に、これまでコンピテンシー・ベースの教育改革に注目して諸外国の改訂動向を捉えてきたんですけれども、実はコンピテンシー・ベースで改革をしていくと、内容の構造化、いろいろな内容の学習を通して何を理解しなければならないか。その内容を関連させたり結合したりして、どういう理解につなげなければならないかという、実はコンセプト・ベースの改革でもあったのかなと。そこが見えていなかったんじゃないかなと思っております。今回はコンセプト・ベースのところが非常に見えやすくなってきた。韓国の改訂もその例かなと捉えているところです。ありがとうございました。
【天笠座長】  それぞれの委員の方の御意見、またそこから議論が始まる、あるいは始めたい、それぞれそういうものを提起していただいたんじゃないかと思いますけれども、本日は、申し訳ございませんけれども時間をオーバーしてしまいまして、いろいろと御迷惑かけましたけれども、ここまでということにさせていただきたいと思います。
 次回以降の本有識者検討会では、引き続きヒアリングを行ってまいりますけれども、次回以降の日程については、事務局と相談の上、改めて御連絡いたします。
 この点について、何か事務局のほうから連絡等々ありますか。よろしいですか。
【石田教育課程企画室長】  大丈夫です。
【天笠座長】  それでは、お忙しいところ、どうも今日はありがとうございました。本日は以上をもちまして閉会といたします。
 改めまして、重ねて発表に御尽力いただきました関係の先生方について、改めてお礼を申し上げたいと思います。どうもありがとうございました。
 これで終了させていただきます。
 
―― 了 ――
 

(初等中等教育局教育課程課教育課程企画室)