「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議(第6回)議事録

1.日時

令和4年8月22日(月曜日)10時00分から12時00分

2.場所

Web会議

3.議題

  1. 教育委員会の機能強化・活性化のための方策等について(ヒアリング等)
  2. その他

4.議事録

【清原座長】  皆様、おはようございます。本日は大変御多用の中、御参集いただきましてどうもありがとうございます。
 ただいまから、「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた調査研究協力者会議、第6回を開催いたします。
 本日は、報道関係者と一般の方向けに、本会議の模様をオンラインにて配信しておりますので、皆様御承知おきください。
 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、事務局より本日の配付資料の確認をお願いいたします。
【伊藤初等中等教育企画課課長補佐】  お手元の議事次第を御覧いただければと思います。資料1として愛知教育大学の御発表資料、資料2として大阪府堺市教育委員会の御発表資料を御用意しております。また、参考資料1から4をおつけしております。
 以上でございます。
【清原座長】  皆様御確認ください。
 それでは、議事に入ります。本日の議事は、1、教育委員会の機能強化・活性化のための方策等について、ヒアリング等をさせていただきます。そして2点目がその他ということとなります。
 本日は、教育委員会事務局の機能強化や、学校を支援する教育委員会の取組の観点から、愛知教育大学教授の風岡様、そして大阪府堺市教育委員会の日渡教育長にヒアリングをさせていただきます。
 本当にお二人には、大変お忙しい時期にもかかわりませず、ヒアリングをお引受けいただきましてどうもありがとうございます。会議を代表して、まず御礼を申し上げます。
 それでは、最初に愛知教育大学の風岡様から御発表をお願いいたしします。
 風岡様、御準備いかがでしょうか。大丈夫ですね。
 それでは、資料1に基づきまして、風岡教授より御説明をいただきます。よろしくお願いいたします。
【愛知教育大学(風岡様)】  おはようございます。愛知教育大学教育ガバナンスキャリアコースの風岡と申します。本日はこのような機会をいただき、ありがとうございます。
 私からは、教育ガバナンスキャリアコースの取組と、教育委員会支援の在り方ということで御説明をさせていただきたいと思います。
 画面の共有をさせていただき、資料2に沿って説明させていただきます。画面、出ていますか。では説明させていただきます。
 まず、教育ガバナンスキャリアコースの概要ということで、本学における学部及び大学院の改革と、ガバナンスキャリアコースを設立するに至った経緯についてお話をさせていただきます。
 学部の改組ということからお話をさせていただきますが、教育支援専門職養成課程という、全国でも初めての課程ではないかと思いますが、この学部の改組に至っては、文部科学省の中教審答申「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」を受けて、2017年度に教育学部に教育支援専門職養成課程として、「心理コース」、「福祉コース」、「教育ガバナンスコース」という形で新たに設置しました。今年度で6年目になります。
 この中で教育ガバナンスコースは、様々な立場の人が協働・協力する学校現場の実現に貢献できる、学校をはじめとする教育事務の調整や企画の立案、事務管理などに精通する資質・能力を養うこと、学校教育に関わる業務を専門的な見地から支援し、情報活用能力やグローバルな視野で活躍するための資質・能力も修得させ、教育機関で活躍できる教育事務職員や、教育に関わる自治体の職員などの養成を目指しているコースです。
 今年度は、先ほどお話ししましたように設置6年目になりますが、卒業した1期生、2期生のうち6割近くが学校事務職員を含む公務員、大学事務職員として就職、活躍をしています。
 こうした背景を受け、大学院改革の必要性としては、「現代的な教育課題に対応する研究能力を有した専門職人材の養成などを目指した改革を行う」こととして、令和2年度に大学院を改組し、教員養成に関しては全て教職大学院に移行し、修士課程に教育支援高度化専攻ということで「臨床心理学コース」と「日本型教育グローバルコース」を設置しています。
 そうした中で、教育行政職員の育成に関しては、愛知県内の地方自治体や関係団体から、「大学のリソースを活用して教育行政の専門性を有する行政職員や学校事務職員の質の向上に関する取組を積極的に行ってほしい」、「地方自治体が抱える喫緊の課題に対応できるような専門性を持った高度の人材育成について、修士レベルで行ってほしい」といった自治体からの要望も高まっていたということがありました。
 こうした要望等を受けて、教育支援高度化専攻の既存の2コースに加えて、令和3年度、昨年度から、次世代型の教育・学校づくりをリードする学校事務職員や自治体職員、大学事務職員等、社会で活躍するミドル人材を受け入れて、学校教育現場での現代的課題の解決を図る実践的応用力を有する者を育成するためのコースを立ち上げて、教育支援高度化専攻を3コースとして現在に至っています。
 これが、大学院と修士課程の全体のイメージ図になります。教職大学院については、学校マネジメントコースをはじめ4つのコースの設定。修士課程については、先ほど話をさせていただいたように臨床心理学コース、日本型教育グローバルコース、教育ガバナンスキャリアコースという3つのコースが設置されています。
 これを見ていただくと分かるかと思いますが、教育ガバナンスキャリアコースにつきましては、教育支援高度化専攻の中のコースの1つとして、入学定員30名のうちの何名かが入学定員となります。
 次に、教育支援高度化専攻の3コースの概要になります。本専攻は、学校をプラットフォームとして教育支援の連携・協働を図るチームとしての学校体制を研究して、教員や自治体職員、学校事務職員が、心理や福祉の専門家や関係機関との協働を図ることによって、教育活動や課題解決に向けた取組を行うことのできる能力の高度化を図ることを目的としています。
 また、「グローバル」コースとあるように、次世代の日本型教育システムを開発・構築して、それを自国で実践・展開できる人材の育成を目指しています。
 そして、この後また説明させていただきますが、自由選択科目というものがあり、教職大学院での開設科目も履修でき、相互履修を保障するといったような工夫もしています。
 次に、育成する人材像についてお話をさせていただきます。
 教育ガバナンスキャリアコースでは、「教育・学校現場での現代的課題の解決を図る実践的応用力を有する者の育成」を目標としています。
自治体の政策や学校経営の基本方針を戦略的に企画・立案でき、教育・学校課題に関わる業務を専門的見地から支援・調整できる資質・能力を養います。
 さらには、様々なスタッフや職員と連携・協力しながらチームとして学校運営を推進していく、チームとしての学校を内外から支える中核スタッフとして、学校、教育行政をマネジメントできる変革型の実践的応用力を備えた教育政策のリーダーとなり得る高度な実践力と教育的な見識に支えられたマネジメント力を有する、教育政策のプロフェッショナルである学校事務職員や教育行政職員の育成を目的としています。
 一般的には、行政職員にはコミュニケーション能力や戦略的プランニングの手法、政策を実現できるマネジメント能力、そしてコスト感覚やプレゼン能力といったことに加えて、新たな価値創造ができるといったようなことが現代においては求められています。さらに、行政職員の強みとしては、異動による複数の業務領域での知見、財務や人事、そして企画、教育分野だけではなくて福祉やまちづくり、研究といったような経験を強みにできるといったことがあると思います。
 そうしたことを踏まえて、本コースでは学校や教育、子ども課題に関する見識や法的な知識を持って、戦略マネジメント、新たな価値創造ができる人材の育成ということを目指しています。この辺りが、これからの行政職員に必要な資質だと考えているということです。
 そのためのカリキュラムとしては、「展開科目」と「実践科目」という考え方をしており、展開科目は更に「教育・学校マネジメントに関する科目」と「教育ガバナンス探究に関する科目」から構成されています。
 教育・学校マネジメントに関する科目では、「教育政策の分析と戦略立案」、「学校のガバナンスとマネジメント」といった、自治体政策や学校経営の基本方針を企画・立案し、マネジメントに関わる業務を支援・調整できる資質・能力を養うことを目的としています。
 また、教育ガバナンス探究に関する科目においては、現代的な教育課題である多文化共生や子どもの権利といったことを取り扱う「多文化共生論」や「教育と子どもの権利論」、それに加えて行政職員に必要となる経済知識やエビデンスベースの思考を身につける「教育における統計分析」といった科目を開設しています。
 実践科目では、自治体・学校でのインターンシップやフィールド調査を行い、課題解決に向けた考察を深め、これらの科目間の有機的な結合を図ることで、学校や現代的な教育課題に関する見識、専門性、実践的応用力を備えて、学校をプラットフォームとして互いに連携・協働し課題解決に当たるマネジメント力や、意思決定のロジックとしての統計的な考え方を育成します。
 また、本コースのカリキュラムの一部は教職大学院における学校マネジメントコースと共通化することで、学校経営専門職と教育・学校を支援する教育支援専門職が共に学べる環境を提供して、両者に必要とされる実践力、マネジメント力を育成することとしています。
 次が、修士課程の3コースのカリキュラム構成です。基盤となる大学独自科目、これは必修となっています。それから、基礎科目として5つの科目の中から選択するという形になっていて、基盤科目はこの中から6単位が必修という形になっています。
 そして実践科目ということで、教育ガバナンスキャリアコースでは、教育マネジメントに関する科目群と、教育ガバナンス探究に関する科目群、そして実践科目から成り立っています。
 さらにゼミ科目として「特別研究Ⅰ・Ⅱ」ということで、後でも触れたいと思いますが、教育ガバナンスキャリアコースで学ぶ学生は社会人の現職の方がほとんどということがあり、実践的な研究をテーマとしている方がほとんどです。そうした中で、こうした修士課程の締めくくりとしての論文作成に向けての制度設計として、この特別研究Ⅰ・Ⅱの中で論文の基礎から授業として行う、そんな体制を整えています。
 次です。これが教育ガバナンスコースのキャリアモデルということで、授業科目はこのようになっています。
 教職大学院との共通科目については、「学校のリーガルマインド」や「学校財務と学校財務のマネジメント」について、一緒に学ぶという科目を設定していることが特徴かと思っています。
 次に、大学院の学びについてですが、1行目にありますように、勤務と両立ができるように夜間開講を基本としており、夜間開講と集中講義形式で授業を開講しています。
 また、まずは1科目から履修してみたいといったニーズに応えるための科目等履修の受入れを行っている授業もあります。このように、実務者の方が学びやすい環境の整備といったことも意識して、取組を進めているということがあります。科目等履修については、入学前に取得した単位は、上限はありますが、入学後に大学院の修得単位として認定されるといったことがあります。
 最後に、今後の展望についてお話をさせていただきたいと思います。
 教育ガバナンスキャリアコースには、現在、令和3年度・令和4年度入学生合わせて12名の院生が在籍しています。入学生の属性については、自治体からの派遣職員が2名、公立小中学校の事務職員が7名、学部からの直進者が2名、民間企業からの入学者が1名です。
 入学定員の確保については、本学は広域の拠点的な役割を果たす教育大学として、子供たちの未来を開くことができる人間性と実践力を身につけた専門職業人の養成を使命としていることがあり、そうしたことから、愛知県内の近隣自治体から、研修制度の一環として職員を派遣していただいているということがあります。今後も、教育行政職員の人材育成の一環として、継続的に本コースへの入学を見込んでいます。
 加えて、本学は愛知県内の全ての市町村の教育委員会と連携協定を締結しているということがありますので、そうした県内の市町村に対して、職員の派遣を積極的に働きかけることも考えています。
 また、自治体からの派遣ではなくて自主的に入学を希望される方については、科目等履修や、今後の検討課題ですが、自治体での研修などをラーニングポイント制として入学時に単位として付与するなど、学びやすい制度設計についての検討を進めることも考えています。
 さらに、現在は教育行政・教育政策の中でも学校教育に比重を置いた教育内容と人材を対象にしていますが、今後は、社会教育関係者など、教育に関わる多様な人々も視野に入れていくとともに、カリキュラムについても社会教育や自治体政策などの領域についての科目の拡充が必要ではないかと考えています。
 また、ここ2年間の入学生の傾向から、学部の直進者もいることから、直進者のニーズの把握と対応についても考えていくということ。そして、そのことを踏まえて本コースのカリキュラムを見ていくと、教育が果たす社会的な役割、教育課題の解決策を考えるような法律や制度を扱う科目と教育現場の課題に取り組む科目が中心になっているわけですが、院生等とのヒアリングでは、教育方法への関心が高いといったこともわかっています。
 今後は、教職大学院との共通科目や相互履修の在り方についても考えていくことも必要になるのではと考えています。
 そしてさらに、最後になりますが、今後、修了生や学部の卒業生、それから自治体教育行政職員や学校事務職員との交流ネットワークを構築することを目的に、今後、研究会等を立ち上げて、共同研究や職員間のネットワーク化を進めて、愛知県内の自治体や学校間の情報共有のハブになるとともに、教育行政職員育成の拠点となることを目指した取組について進めていきたいと考えています。
 以上で、私からの発表を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。
【清原座長】  風岡先生、大変御丁寧な御説明ありがとうございます。国立大学法人愛知教育大学教育学研究科教育支援高度化専攻の「教育ガバナンスキャリアコース」の概要について、御説明をいただきました。
 それは、冒頭確認させていただきますが、参考資料の4にもまとめてございますけれども、私たちの検討、すなわち「令和の日本型学校教育」を推進する地方教育行政の充実に向けた検討の論点案の1番目に、「教育委員会の機能強化・活性化のための方策」を位置づけております。
 この「教育委員会の機能強化・活性化」の中でも、「教育行政職員が求められる資質・能力を着実に身につけるために、どのような方策が考えられるか」として、例えば、「教育に関する専門性の観点からは、職員に対して、教職大学院など大学院での就学の機会を提供したり、学校に派遣して教育現場での経験を積む機会を提供することが重要ではないか」としています。
 このような問題意識から検討を進めている中で、ぜひ、愛知教育大学の実践をお聞かせいただいて、皆様と今後の方向性を深めたいと、このようなことで風岡先生にお願いした次第です。
 それでは早速、皆様から御質問や御意見等いただきたいと思います。御発言をいただく際には挙手ボタンを押していただくか、画面上で挙手いただければ私が指名をさせていただきます。
 なお、本日は用務等のためにカメラ・マイクをオフにして御参加いただいている委員の方もいらっしゃいますが、聞いていただいておりまして、チャット等で質問や御意見を伺いながら進めてまいりますことをお断りいたします。
 それでは皆様、いかがでしょうか。どなたからでも。どうでしょうか。
 それでは、まず村上委員、続いて梶原委員、お願いいたします。
 村上委員、どうぞ。
【村上委員】  東京大学の村上と申します。どうも御発表ありがとうございました。私も大学で教育行政学を担当している教員として、大変参考になりました。
 大変意義深い取組で、我々大学で働いている者にとってもいろいろ参考になるところは多いんですけれども、質問を2つほどさせてください。
 1つは、風岡さん自身が、実務をなさった後に大学に移られて研究・教育に当たられているわけですけれども、大学でOFF-JTとして修士課程という長期間のカリキュラムを学んでもらうことで、どういう変化を学生の皆さんに感じているでしょうか。受講生や修士修了生の方にどういう変化が生じているとお感じになっているかということをお聞きしたいのが1点です。
 もう1点が、スライドの最後のところに「教育方法への関心が高い」というところがあるのですが、これは行政職員が教育現場の素養というのを身につける、管理・指導でいうと指導の面のスキルを身につけるということかと思います。具体的に教えるスキルというよりはその周辺のこと、指導行政事務だと思うんですけれども、これは具体的にどういうことを学生さんが望んでいるのかということを、もう少し詳しく教えていただきたいです。教育課程行政の枠組みのようなことが知りたいのか、授業のやり方のようにより実践的なことを知りたいのか、その辺りの学生さんのニーズということを教えていただければと思います。
 以上、2点質問させていただきます。
【清原座長】  村上委員、ありがとうございます。
 風岡先生、1点目、受講生の変化について、2点目、教育方法への関心の具体的な内容について、お知らせいただければと思います。お願いします。
【愛知教育大学(風岡様)】  村上先生、ありがとうございました。
 最初の点につきましては、私が自己紹介をしなかったということもありますが、もともと私は愛知県の公立小中学校の事務職員として勤務をしており、その後、文部科学省の初等中等教育局参事官付で出向という形で勤務をさせていただき、その後、自治体に戻って教育委員会の指導主事として勤務をしたという、学校事務職員から出発をして、様々なところで勤務をさせていただいたという経験、経歴があります。
 このことを踏まえて、私が学校現場にいるときに感じていたことでもありますが、学校事務という仕事は、目の前の学校という領域の中での改善、子供たちの様子といったところから物事を考えていくということについては長けていることがあると思います。
 一方で、大きな視野での教育政策動向の方向性だとかについては、そうした場に触れないことには、自分からなかなか学ぶようなこともなかったということがありました。
 そうした中で、これも私の経験とかぶってしまうことになりますが、私も働きながら夜間の大学院で教育経営を学ばせていただく中で、教育政策や行政といった大きな視野からの学びの必要性、そのことが文部科学省での勤務や教育委員会の指導主事としての勤務に非常に有効であったと考えていることがありました。
 こうした自分自身の背景もあって、現在まだ修了生は出していませんが、院生の方々の様子を見ていますと、学校現場や自分たちの仲間の中の研究会等では得られないような鳥瞰的な視点だとか、課題解決の方法にしても、様々なビジネス手法等々について大学院といった場で学ぶことができているんじゃないかと思っています。そのことが、修士論文を書いていく研究の中でも、大きな課題設定のところから現場の課題に落とし込んでいく、ブレークスルー的なことができているのではないかと思っています。
 このことが一番大きな変化になっていきますし、こうした学びの経験が現場に戻ったときに、私自身は必要なことではないかと思っています。
 2つ目も今の話と関連しますが、教育委員会派遣の院生の方々は必ずしも教育ということを学んできているわけではなく、卒業した大学の学部も様々ということがあり、まずは教育行政そのものについて基礎的なことから学びたいことや、学校の教育課程、先ほどの話でいうと枠組みのところから、学校ってどんな仕組みで動いていて、何を学んでいるのかという枠組みのところについてもう少し知りたいということがあります。と同時に、それらを学んでいく中で、先生方はどのように授業を行っているのか、学校事務職員の方々との会話の中で、授業をするには何が必要なのかなど、リソースの在り方についても気づくようなことがあったということです。
 そのような観点から村上先生にお答えするとすれば、枠組みの部分から入っていって、今、具体的な学校現場で先生方が行っている授業づくりといった方法論のところになってくるわけですが、そこについても関心領域が広がっているということがあるということです。
 このことは、どういった経験に基づいているかというと、この会議の中でも議論されているように、教育委員会は指導主事と行政からの職員、両方がいて教育行政の仕組みづくりをされていますが、どちらかというと学校教育の部分については指導主事の先生方が主導で進められるケースが多くて、協力したり支援したくても、行政職員の方々は、自分たちにベースとなるような知識がないことに対して負い目を感じているところがあるということです。
 そこを知ることで、より深く関わりながら、行政職員として強みにできるような、先ほど話をしたところでいう、様々な領域での経験だとか、教員ではない人とのつながりを生かした政策づくりができるんじゃないか、そんな問題意識があると、院生の方々との話の中で整理をしているところです。
 以上です。
【清原座長】  ありがとうございます。村上委員、いかがでしょうか。
【村上委員】  ありがとうございます。大変よく分かりました。
【清原座長】  ありがとうございます。
 それでは、次に梶原委員、その次に青木委員、お願いいたします。
 では梶原委員、お願いいたします。
【梶原委員】  風岡先生、お久しぶりでございます。私、ずっとコミュニティ・スクールの関係で一緒に。文科省時代からお世話になりました。本当にありがとうございます。
 すばらしいですね。よく教育再生の実行会議、平成27年5月12日の提言を実行しましたね。まさにチーム学校ですね。すごいと思います
 その実行の文書にありますように、事務職員の管理職の負担軽減とか、校長の経営を支える部分を、まさしく大学で研修でということはありがたいことで、よくここまでやれたと感心して、今、御説明をお聞きしていました。
 私どもも本当に大事なのは、どうしても教師の場合は教特法で研修というのをきちんと保障されていましたので、システムですが、この行政事務、学校事務の立場といいますと、なかなか研修という部分が出づらい。特に学校事務は学校で一人職場ということもございまして、そういうことがなかなか理解を得ることができない中で、今言われます、先般も私も8月3日に5ブロックの近畿フォーラムに参加させていただいて、事務職員の先生方に会ってお話をさせていただいたところで、まさしく風岡先生がおっしゃるとおり、学校経営の企画的機能を事務職員の方がいかにつくっていくかということが大事と思っています。
 その中で、学校の中で、校長先生はじめ教頭先生とか教職員の役割分担とともに、学校組織的な部分があるとか、よくここまで、どうして理解をいただいたかと。
 一つは、自治体とか県教委が、ここまで支援がなければ、先生の研修をつくったこの計画が幾ら大学がやろうと思っても、自治体から誰も派遣してくれないと難しゅうございまして、例えば今、非常に定数上厳しい中で、教師を派遣してくれというところで、私も教育センターと大学院研修と両輪に定数を分けていく中で、人はなかなか派遣してくれないという状況です。
 特に今、教員不足、職員不足の中で、なかなか厳しく言われていますけど、そういうとこをどう取り付けたかということを一つお聞きしたいということと、もう一つが、学校教育には教育内容に関する動きと、教育条件に関わる動き、2つあると思うんですが、そこを非常に先生は教育条件に関わる部分で、学校事務組織とか、組織で言いますと教育活動とか研修・研究の部分をきちんと整理していただいてやろうということでございますが、これを大学院と連携しながらということで、事務職員とか行政事務がどんなに見識を学んで帰っても、実践の中で校長先生とか教頭先生、また行政組織がそれを理解していないと、せっかく学んだ知識が生かされないんじゃなかろうかと思いますが、その辺りの啓発とか情報とかを併せて、どういうふうに両輪で行っているかということを聞きたい。
 本当にすごいリカレント教育の、本当に何回も言いますが最初の実行をやったと思って感心しているところでございます。その辺り、先生にお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
【清原座長】  ありがとうございます。2点御質問がありました。自治体との関係、そして、そうした理解を深める取組について、風岡先生、いかがでしょうか。
【愛知教育大学(風岡様)】  梶原先生、ありがとうございました。御無沙汰しております。
 最初に、自治体からどうやって職員の派遣とかを取り付けたかということに関しては、一番大きかったのは、大学に対する教育委員会の信頼ということがあったことは間違いないと思っています。愛知教育大学の県内の教育委員会や教員の養成に関する信頼ということがあると思っております。
 そのことを踏まえて、先ほど学部が先に設置されたという話をさせていただきましたが、学部の授業の中で、自治体の市長や教育長といったリーダーの方々にゲストティーチャーに来ていただき、施策について話をしていただいたり、学生たちと一緒に協議をするという授業を持っており、そうした中で、自治体の長である市長や教育長に、教育行政職員の必要性についての理解を深めてもらうことがありました。あるいは逆に、自治体の長からこうした職員の必要性について御示唆をいただいた、そんなことがありました。
 今、実際に派遣をしていただいている自治体は中核市の自治体から派遣をいただいていますが、先生がおっしゃったように職員の定数上の管理などから、ある程度の規模の自治体からでないと派遣というような形では難しいのではないかということもあり、今後、自治体の行政職員の方々をどのような形で継続的に確保していくのかについては、課題だと思っています。
 一方で、学校事務職員については、御存じのように愛知県にも研究会組織での研修や、自治体での事務職員研修といったような制度ができてきているということがあり、そうした中に本学学部の教育ガバナンスコースと連携した研修講座というものを設けていただくといった取組を進めてきています。
 こうしたつながり、取組の中から、学部の学生と一緒に学んだ学校事務職員の方が、自分たちも大学院で学び直しをしたいということで、自主的に入学をされているといったこともあります。いずれにしても、学生の確保については今後課題だと考えておりますので、色々な意味で御示唆をいただければと思っております。
 それから、今の話とも関連してきますが、校長先生や管理職の方々の理解と、それから、修了した後にどうこれを生かしていくのかについてのご質問かと思いますが、私どもは、学校教育法の改正で学校事務職員の役割がつかさどるに変わったことを踏まえて、現在求められているというよりも、今後求められていく役割を果たしていくためにこうした力が必要じゃないかということで、ある意味希望的にこのコースの設定をしているということがあります。そのため、今後、校長・教頭のマネジメントとしても、先ほどの教職大学院のマネジメントコースとの連携が必要であり、今後、将来校長・管理職になっていく方々と、教育行政職員が一緒に協議したり、政策決定あるいは企画をしていく中で、そのことの有用性について、理解を図りながら進めていくことになると思います。
 現状は、大学院に学びに来ている院生が所属する学校の校長先生方は非常に理解をしていただいており、推薦をしていただいているということがあることから、そうした輪を広げていけるかどうかということになると、個々の事務職員の方々の意識、行動というものがどう変わっていくのかということも大きいのではと思っています。
【清原座長】  ありがとうございます。梶原委員、よろしいでしょうか。
【梶原委員】  ありがとうございます。風岡先生、先ほど言った首長とかのリーダーを講師に招いてやって信頼、これはすごいと思います。
 宮崎大学が、COCのときに全市町村の首長さんが講師になって、我が町の自慢をするというか、政策の取組を学生にしていました。これ、研修に行ったんですけど、まさしくこれと一緒で、首長を逆にそういう立場に立たせて研修に理解を得るというのはいい方法で、参考にさせていただきます。ありがとうございます。
 それとあともう1つ、校長・教頭の理解も共同でやるということは本当に大事かと思っていました。その辺りも両輪で、セルフマネジメント、またチームマネジメント、そしてスクールマネジメントと、段階的に育てていくということはよく理解できました。本当に勉強になりました。風岡先生、ありがとうございます。
【清原座長】  ありがとうございます。
 それでは風岡先生への最後の御質問でございますが、青木委員が今、御発言が難しい環境の中にいらっしゃいますので、事務局で代読をしていただきます。よろしくお願いいたします。
【伊藤初等中等教育企画課課長補佐】  事務局から代読させていただきます。
 御発表ありがとうございました。資料の9枚目の上から3つ目の項目についてお尋ねいたします。
 ラーニングポイント制として、入学時に単位を付与するといった点をお示しになっています。この点について、具体的な方向性が固まっていればお示しいただけますか。
 また、ラーニングポイント制導入後の最低履修年数についてもお考えをお聞かせください。
 最後に、教育ガバナンスキャリアコースの修士論文指導の実際について教えてください。
 以上でございます。よろしくお願いいたします。
【清原座長】  では風岡先生、よろしくお願いいたします。
【愛知教育大学(風岡様)】  青木先生、ありがとうございました。
 最初のラーニングポイント制として入学時に単位を付与するといったことについては、現段階で具体的に制度設計が固まっているわけではないのですが、入学してきている院生の現状として、自治体からの派遣学生を除いた社会人、公務員の方が7名いるわけですが、そのうちの3名が既に入学段階で、長期履修ということで3年、4年での修了を計画しているということがあります。このことから、社会人学生の方が働きながら学ぶことの難しさということがあるのではないかと考えております。
 このラーニングポイント制については、教職大学院での制度設計が参考になるのではと考えているわけですが、先ほどの科目等履修の在り方とともに、そのことについては今後検討していくということになると思います。
 また、科目等履修もそうですが、自治体や教育委員会のニーズを踏まえた研修等々の在り方を共同で開発することで、学校事務職員や教育行政職員の方々のニーズを踏まえた学ぶ機会の提供になるのではないかと考えています。
 2つ目の履修年数ですが、ラーニングポイント制導入後の修業年限については2年とすることに変わりはないと考えています。
 当然ですが、先ほどの科目等履修もですが、このラーニングポイント制についても単位の上限を徹底していくということは必要になってくると思いますし、2年間の中で修士論文の作成に向けた研究に努めていただくことは変わらないと考えています。
 最後に、関連するということで指導の実態についてということがあったと思います。
 青木先生の御指摘のとおり、修士課程、あるいは論文の質の確保については、働きながら学ぶ、現職の方々にとっては時間的な拘束もあり非常に課題だと捉えています。
 コースが目指している、目的や育成する人材像で示すように、現場で学んだことを生かす実践者を育成するという目的から、修士論文の研究内容については実践をテーマにしたものがほとんどだということがあります。
 そういう意味では、実践研究というものをどう修士論文にしていくのかについては、私どもとしてもリサーチ・クエスチョンから目的、結論との整合性、定型フォームといった形だとか、そうしたことについては、意識をして指導をしていく体制をとっています。
 ゼミ科目である特別研究については、1年次は授業科目として設定をして、主査・副査、私のような実務家教員と研究者教員の2名が一緒になって、授業として全員の学生に対して指導に当たるというような体制を組んでおります。また、個々のゼミ生については、随時、研究の進行を確認し、研究方法、進捗状況に応じた指導を行っています。
 そういう中で、テーマを発見させるための研究・学習計画の立案、演習や査読の討論を通しての研究手法、論旨の展開に関する指導、また、研究テーマの焦点化や先行研究や関連文献の検索、リストアップの方法、研究レビュー作成の指導等、そうしたことを年間通して行っています。
 現職の方々の少し研究から離れていた期間をこうした形で埋めていきながら、実践研究と修士論文というものをどう結びつけて考えていくのかということを課題として捉えて指導体制を組んでいるというところです
【清原座長】  ありがとうございました。
 それでは、追加で岩本委員からも御質問があります。
 青木委員、今の風岡先生の御回答に関して、もしコメントがあればチャットでお送りください。
 それでは岩本委員、お願いいたします。
【岩本委員】  ありがとうございます。時間がない中で。手短に2点だけ。
 1点目が、評価に関してです。育てたい人材像、特にこれから必要な資質・能力というところがあったかと思うんですけども、ここをどうやって、この資質・能力がどの程度身についてきているのかというところの評価に関して、もし何か特徴的なものだとかこだわってされているものがあれば、伺えたらというのが1点目です。
 2点目は、このコースを修了する方のキャリアの支援という部分に関してです。
 派遣以外でも、学部から直結で直進で来られている方だとか、民間から来られている方も中にはいらっしゃるということだったと思うんですけども、そういった方が学んだ後に、どう教育行政のプロフェッショナルとしてキャリアを積んでいくようにできるのかというところの、何か教育委員会だとか、接続とかをされていたりだとか、何かそこら辺の手だてがあるのかということを、もしあれば伺えたらという2点です。
【清原座長】  ありがとうございます。岩本委員から評価について、それからその後のキャリアの支援について御質問いただきました。よろしくお願いします。
【愛知教育大学(風岡様)】  岩本さん、どうも御無沙汰しております。ありがとうございました。
 今のお話の評価の観点、資質・能力が身についたかどうかということでの評価の観点につきましては、これは一般的になりますが、知識・理解、思考・判断、関心・意欲といった観点から、授業の中での発表物やモデル案を、例えば一つの方法としては、お互いでの協議や仕切り、ディベートなどの様子を踏まえて、どのような考察をしているのか、思考を深めたかといったことを評価基準とすることや、法的な知識が身についたかというような、知識・技能といった観点、あるいは学びに向かう意欲や関心といった観点を評価基準として、レポートや発表物から評価をしています。そういう意味では、授業の方法の中で工夫をしているということはあるわけですが、評価の取り方としては大学の一般的な評価の取り方をしているということになるかと思います。
 また、キャリア支援については、学部からの直進者のキャリア支援については、私たちも課題だと思っています。学部から来ている学生たちのキャリアイメージ、自分たちが将来どういう仕事に就きたいのかといったところで考えると、現在来ている学生に限ってですが、1人はさらに学びを深めたいということで大学院博士課程への進学を意識しているということがありますので、それに向けた指導を担当の教員がしています。
 もう1人の方については、教育行政あるいは学校経営というところに関心がある学生ということもあり、実際、進路についても私立学校を意識されていることから、私立学校に就職するにはという形のキャリア支援を意識しながら学ばせています。
 この先どう考えているかについては、私どももまだ、それを継続的に追っていくための在り方については、先ほどの発表でもお話ししましたように、教育行政職や学校事務職員のネットワーク化を念頭に卒業生や自治体等をつないでいく仕組みの中で、今後の方向性について考えていければと思っています。具体的な話でなく申し訳ありません。
【岩本委員】  いえ、どうもありがとうございました。
【清原座長】  岩本委員、よろしいですね。
 先ほど青木委員から、風岡先生の御回答について次のようにメッセージが寄せられています。「ありがとうございます。社会人が学びやすい制度設計に賛同します」ということでございます。
 また、小﨑委員から感想が寄せられております。御紹介します。
 「非常に大切な指摘と実践だと思います。(小﨑委員の)大学の場合でも、この枠取りで理想に近いと思っているのですが、要するに、それを教える人材の確保がとても困っているようです。そこをどうするかが課題になっています」ということです。
 先ほど風岡先生のプロフィールを御紹介いただきましたら、本当に自治体の教育行政、そして文部科学省での取組さらに教育政策に関わられるなど、御自身のご経験を生かして、カリキュラムづくりや教育をされています。だからこそ理論的な学びとともに、実践というところも重視したカリキュラムをつくっていらっしゃるのではないかと、このように思いました。
 本当にお忙しい中、風岡先生、御丁寧に御説明、そして質疑への応答をしていただきまして感謝いたします。皆様、拍手でございます。
【愛知教育大学(風岡様)】  どうもありがとうございました。
【清原座長】  ありがとうございます。
 それでは、これから続きまして、大阪府堺市教育委員会教育長の日渡様から御発表をお願いいたします。
 日渡教育長、御準備よろしいでしょうか。ありがとうございます。お久しぶりでございます。それではよろしくお願いいたします。30分程度で、資料2に基づきまして御説明をいただきます。よろしくお願いいたします。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  皆様、こんにちは。堺の教育長の日渡でございます。今日、大きく2つについてお話をさせていただきますので、内容が盛りだくさんであるということ、それと裾野が広いということで、論点を絞ってお話をさせてください。
 まず、地方行政というのは実施・実現していく行政だと私は考えています。
 中でも教育行政というのは、地方行政の中でも一般行政とは少し異なるわけです。特徴があると捉えています。
 私は議会でよく一般行政と教育行政は違います、という話をしています。
 例えば、道路行政であれば、よい道路を造ることによって、最終的に市民の皆さんが便利だとか、または、いい環境だというふうに心に訴えますが、この道路行政は、市民に直接心に訴えることはできません。「いい道路を造る」という手段を持っているわけです。
 ところが一方、教育行政というのは間に存在するものがありません。市民である子供、子供である市民に直接伝える行政。言い換えると人と人の行政、心と心の行政であるという言い方をしています。ここに最大の特徴と問題があると私は考えています。人と人、心と心の関係であるために、評価が極めて難しい、曖昧であることが課題であると。
 また、直接訴えられるというのが特徴です。例えば、一般行政の土木関係の河川に関する部署は、河川の氾濫から市民の生命と安全を守ることが大きな使命であるわけです。
 例えば、堤防などを造りますが、その堤防で評価されるわけです。それではどのような堤防を造るか。まさか「高さ100メートルの堤防を造ります、絶対安心でしょう」と市民には訴えません。安全ですが実現性がないからです。
 実現性というのが妥当性だと言えますが、この妥当性の重要な要素が予算です。
 行政というのは、施策実現のために内容とそれを担保する予算から説明していこうとします。しかし、教育は「高さ100メートルの堤防を造ります」ということをいっていないかというのが、私の教育行政に対する問題意識です。
 全国の多くの学校を見て回ると、ほとんど「高さ100メートルの堤防を造ります」ということを学校教育目標にしているわけです。理念と提案というのはよく分かりますが、実現と評価を度外視して目標設定をしている。地方教育行政は実施・実現していく行政です。
 教育において実現とは、実現すべき内容の構築と、実現させるシステムの構築、この2つがないと駄目です。内容の構築と、そのシステムの構築であるということです。この両者が構築されないと教育というのは実現されません。大ざっぱに言うと、国の施策と地方の施策の役割は別であるということです。
 ところが現状を見ていくと、国は学習指導要領や教科書という形で内容を構築していますが、地方は自らの役割やシステムづくりではなく、国の役割にあまりにも興味を持ち過ぎていて、そのことばかりに関与することが地方教育行政の仕事であると勘違いしているのではないか。国の施策の優等生であろうとする、というようなことを感じます。言い過ぎかも分かりませんが、そういうふうに見えます。
 もう一回言います。地方教育行政に当たっては、内容の構築と、システムの構築、この両者がしっかりしないと教育の実現というのは難しいということです。
 ここから資料の説明になります。
 これは先日、今、堺の教育委員会がやろうとしていることを議会の各会派に説明した時の資料になります。
 まず、1ページは国における議論です。今、社会ではこのように動いています、だからこういう内容の教育が必要ですと。これは国の施策ですので、これはしっかり説明をする程度で収めています。
 次のページも、これも併せて、国の制度、国は何を問題意識としてこのようなことを考えているのかの説明です。
 3ページは、一方、堺には国共通の課題とは異なる課題もあるという説明です。国共通の課題と地方の課題というのは異なるということです。
 ただ学校は、地方の課題と国共通の課題を分けて認識しません。両者を一体のものとして認識します。どちらかというと国のメッセージのほうが強いために、国共通の課題だけを課題と認識している学校や自治体があるというのが、私の感じることの一つです。
 次のページは、堺の教育行政、これからの学校のあり方の全てを表すビジョンです。「これからの堺の学び」と一つに表現していますが、内容は今までの3ページの中で説明した内容です。それを表すのが、個別最適な学び、協働的な学びです。この個別最適な学び、協働的な学びを実現するために、ピラミッドで表しているのが、システムのことに関してです。これこそが、地方教育行政の仕事ではないかということです。
 まず1つ目は授業の改善です。この内容は、個別最適な学びや協働的な学びを進めるためには、従来の授業方法ではない新たな授業形態を開発しなければいけません。従来の画一的な学び、一斉授業ではない、新たな授業形態を学校や教員が開発する必要があります。新たな授業形態を開発することによって、これからも基本となるであろう一斉授業も、新たな一斉授業に変わっていくだろうということを表しています。
 その新たな授業形態について学校に説明するときが右側の図です。基本は学級集団と学習集団を分けるということです。
 今の日本の学校というのは明治時代から、まず学級をどう編制するかが基本で、この学級集団に対して授業を行っていくわけですが、それはもともと生活集団です。これは学校で児童生徒が社会的、共同的な生活をしていくためには重要な方法ですが、その生活集団に対して授業を一斉に行うことが果たして効果があるのかということです。
 なので、学習集団と生活集団、学級集団を分けても構わない、という話をしています。これが授業の改善です。
 次に、カリキュラムの改善です。私たちはもう長いこと、六・三制の中で、これは小学校のカリキュラム、これが中学校のカリキュラムという言い方で、それは疑いもなく前提としてきました。もちろん、最近それに対して義務教育学校とか、一貫教育という話があるのですが、そういう形ではなくて、義務教育に与えられた9年間のカリキュラムというものをもう一回俯瞰して見ていく必要があるだろうということです。カリキュラムのあり方を9年間で見ていこうということを、学校に対して伝えています。
 そうなってくると、6年用、3年用につくられた学校の施設とか、またはいろんなその配置というものが異なった目で見えてきます。六・三制用につくられた学校というものを9年間で見ていこうということです。
 この2つが重要なのですが、そのためには、今までの学校のあり方ではもう対応できませんので、新しいマネジメントが必要となってきます。新しい学校マネジメントを展開していくために、学校群を中心としたマネジメントという発想がでてきます。
 授業の改善、カリキュラムの改善を進めていくためには、より多くのマンパワーを集める必要があろうと。その時に、この少子化の中でマンパワーが先細りする中で、学校ごとに完結する考えを止めて、学校群という形を提案しています。
 小学校・中学校という、その存在は否定できませんし、変えることはできません。我々がこの百数十年ずっと蓄積した教育財産を見直すと、学校群という考え方が出てきます。そこを自立する、独り立ちできる経営体にするためにマネジメントが必要なのですが、マネジメントの資源として、学校群に人事と予算を与える必要があります。学校群単位で新たな形をつくっていこうというものが堺構想の特徴です。これからの学校のあり方の特徴です。
 次のページは、これは三角形の図、ピラミッドを3つに分けた内容です。今、自立する学校に向けて、学校群にマンパワーを集積することによって考え方を変えよう、と考えています。この図にはありませんが、大体1つの学校群ごとに1中・2小から3小で構成されますので、学校群内のマンパワーと施設が1つの経営体という形になってきます。そこには、分散された学校を1つの学校としてみますので、経営体として見ていくときにどうなるだろうということで、例えばキャンパス方式とか分校方式とか、いろんな形態をこの学校群ごとに考えてほしいと考えています。
 しっかりと考える中で、キャンパス方式、または分校方式、または1校方式でもいいよということであればそれは構わないのですが、学校群という形を中心に今後いろいろな発想が出てくると考えています。
 次のページです。これは令和3年度から着手した内容です。あり方を検討する専門の部署を設置し、来年からはモデル校で実施していきます。授業の改善とカリキュラムの改善をモデル校で先行して実施し、今のところの計画では令和7年ぐらいには学校群のスタートができればと考えています。その間に、学校群に人事を渡す、または予算を渡すという制度設計も、ここ2、3年で進めていきます。そのようなことを現在計画しています。
 次のページです。これは学校のあり方と違いますが、どうしても、進める中で、学力とは何だろうという話なのですが。
 それを表したのがこのページです。従来、堺では、「教科の学力」「学びの基礎力」「社会的実践力」というのは同心円状に広がっていくものだという説明を学校にしていました。新しい学習指導要領等の図との整合を合わせるために、今年度から、この俵を積んだものを学校に伝えています。重要なことは、この3つの力を学力と定義した場合に、人と人、心と心といったように、教師が子供たちに直接介入する作業が教育です。
 その時に、従来、教員の経験によるところがあまりにも多過ぎた。「主観的なデータ」と書いていますが、これに対して、客観的なデータも必要だろうということで、EBEM、一般的にはEBPMと言われるのですが、このPをEducationに替えてEBEM、客観的なデータも考えていこうということでやっています。
 そうなってくると、何がエビデンスなのかといったときに、今までずっと行われてきた学力テストのあり方そのものを、エビデンスベースで学校・教員たちに説明をし直し始めているところです。
 テストというと結果を見るというのではなくて、テストで分析することによってスタートになるんだと。例えば病院に行き、「頭が痛い」と言えば、従来であれば、医師の経験から、こういう病気だろうということで薬を処方して、これを飲みなさいとなっていましたが、今は「頭が痛い」と病院に行くと、もちろん、基本的に医者の経験が中心になりますが、それだけではなくて、レントゲンとかCTとかMRIとか、いろんなデータを取り、最終的には医者が経験とデータから判断していきます。そういう世界が今後学校にも出てくるのではないかということです。これについてもモデル校をつくって、今、準備を進めているところです。
ただ、あと一つ言えてくることが、教育におけるエビデンスの捉え方です。今2つ考えていて、1つは認知的なエビデンス、それと非認知的なエビデンスです。
 この2つを同時に教師たちに提供していかないといけないだろうということで、認知的なエビデンスについてはある程度の蓄積がありますが、非認知に対するエビデンスベースでの開発が進んでいませんので、本年度から非認知に対するエビデンスのあり方について研究を開発したところです。
 以上が、堺市の取組になります。学校のシステムそのものを大きく変えていこうと。今の時代に合わせた学校のあり方というものをつくっていかないといけないということが中心になるということになります。
 それでは、あと1つのテーマです。新しい時代に対応する学校管理職マネジメント等の研修プログラムの開発ということですが、これは、1校を1人の校長に任せるというマネジメントは、どうしても人と予算というものに限りがあるので、これを大きく見るために学校群という形をつくっていくわけですが、そうなってくると、1校だけの校長と、それと全体を束ねて見る校長がでてきます。その時、全体を見る校長のマネジメント力は一段高くないといけないというところに課題があると考えています。今年度から学校群を取りまとめる校長のマネジメント能力をいかに上げようかというプログラムの研修の開発に着手をしました。
 イメージですが、例えば1校ごとに校長がいますが、学校群となると複数の校長がいますので、CEOみたいな感じなのかという気がします。それに対して、予算管理するCFOがいたり、教育課程を管理するCOOがいたりというような感じで、管理職のあり方全体を見直す必要が出てきます。
 内容としては、こんな課題認識があります。学校というのは現状の把握が弱いのではないかということです。それと、目標の共有・妥当性が不十分ではないかということです。あと1つが、資源を有効に活用した方策が不十分かもしれないということです。
 こういう課題認識の下に、今やろうとしている調査研究の目的は、教職員の組織運営能力を向上させる。基本になるのは、「企業型から公務員型への転換」という言い方をしています。この企業型から公務員型への転換、少しこのことについて説明していきます。
 これはゼロスタートの研究ではありません。兵庫教育大学大学院の中に、教育行政リーダーコースというのがあります。これは平成27年度の新教育委員会制度のスタートに合わせて準備をして設置した大学院のコースです。
 このコースの重要な科目として、「マネジメント」特論と「リーダーシップ」特論がありますが、これを校長用にどう変えていこうかという内容になります。
 もう少しこの大学院の説明をすると、27年以降、大学院生を受け入れてきまして、今70名を超す修了生がいますが、この中で、修了後に教育長に就任した者、現職の教育長として大学院に入学した者が合計18名います。教える教員側にも5名の現職または過去の教育長の経歴を持つ者がいます。北海道から沖縄まで全国にいる大学院生に対し大学の教員が出向いて授業を行うという形態の大学院です。
 このコースの重要な科目として「マネジメント」特論と「リーダーシップ」特論があります。この科目について、国の委嘱を受けて、校長用に転換する研究というものを7、8年ほどやってきました。その結果、管理職用のマネジメントテキストとリーダーシップテキストとが完成しています。
 そしてこれを、もう少し視点を学校ではなく学級、クラスで見ていく教員マネジメントテキストも今、緒に就いた段階ですが始めました。
 実際に、校長用のテキストは実施されていますので、コロナ前ですが、平成29年度、12地域で延べ2,400人。30年度は延べ2,290人という2,000人を超す校長が1年間でこの研修を受けています。この内容を学校群を束ねる校長用に一段高めようというのが、今年からの研究です。
 内容ですが、「能力開発型テキスト」と書いてありますけれども、知識を伝えるテキストではありません。考え方を学ぶというテキストになっています。言い方としては「応用力を身につける」という内容です。基本的な考え方は、「リーダーというのは成果を出さないといけない存在である」という言い方をしています。成果を出すためには、成果に伴う行動を起こす必要があって、成果に結びつく行動というのは知識と応用力から構成されているであろうと。その知識と応用力は、もちろん経験と学習から成り立ちますが、その知識の内容というのが、例えば財政、生涯学習、特別支援教育等々の知識ということです。
この応用力というものを取り出してテキスト化していったのが下のピラミッドです。この応用力は2つの面から成り立っています。目の前に対する課題をどう認識して、どう打ち手を繰り出していくか、どういう施策を展開するかという「対課題面の力」。それと、組織の長ですので、人や組織をどう動かすかという「対人面の力」、2つから成り立っています。
 対課題面の力を「マネジメント」、対人面の力を「リーダーシップ」と名づけて、テキストをそれぞれ6テキストずつ、12テキストを用意しています。
 学校マネジメントの転換というのがありますが、企業型から公務員型という話をしましたが、学校や教育委員会にマネジメントの発想が必要だと言われたのが平成12年の教育改革国民会議の17の提案からです。その時に、急いで作られたテキストが企業型のテキストを参考にしているのではないかと。
 企業型というのは、リーダーに対して、どうしても目標の設定、ありたい姿をまず出しなさいということが重要視されます。公務員というのはリーダーの描くありたい姿を前面に出すのではなく、公務員ですので、市民がどう思っているかを集大成したものがありたい姿であるべきです。
 そうなると、校長に対して、どういう目標を掲げるかという前に、その地域または校区の中で、市民・地域住民の人たちがどういうありたい姿を描いているかということを把握することが先であるべき、というのが、このテキストの重要なところです。これは簡単なようで難しいです。
 なので、現状の把握が一番だと。そこから把握したものを集大成することが、その学校の教育目標になるべきです。この健全な目標に対して課題と具体策、つまり、教育課程をつくっていこうという発想です。
 ただ、この「ありたい姿」というのが、冒頭の話で言うとどうしても国の施策そのものを持ってきて、コピーすることによって目標だという態度をとります。ここを学校現場、教育現場では乗り越えないといけないと考えています。
 次のページです。内容としては、対症療法から課題解決型に変えること。蓄積した内容、先ほど言いましたEBPMではありませんが、蓄積した経験を繰り出すのではなくて、根本の原因は何なのかということをしっかりと把握した上で目標を設定するということです。
 プログラムの構成ですが、「リーダーシップ」と「マネジメント」から出来上がっていますが、マネジメントの6テキストは、現状把握、目標設定、そして施策展開となっていきますので、6テキストは「情報収集」「分析」「構想」「企画」「実行」「判断」という6つのテキストから構成されています。
 具体的なイメージでいうと、例えば校長ならば、その地域の思いをしっかり情報収集し、あわせて国や自治体の思いも情報収集し、そういうものを勘案して、分析した上で構想、つまり学校教育目標を設定していこうということになります。
 目標を設定されると、企画、つまり教育課程をつくっていくということになります。つくられた、企画された教育課程は実行されていきます。それぞれの段階で、校長が進めていくときに必要な応用力はどのようなものかという内容から出来上がっています。
 一方のリーダーシップですけれども、このリーダーシップにつきましては対人、対組織ですので、これは2つのことから出来上がっています。1つが「組織・人事」、あと1つが「理念浸透」です。人に対して、組織に対しては、インプットとアウトプットという言い方ができるかと思います。
 まず1つ目、「組織をみる」。着任した学校で、どんな組織なのかと俯瞰して、組織全体の状況をインプットさせるというテキストです。
 2つ目が、組織の中にはチーム、学年とか校務分掌がありますので、チームのあり方というものをインプットするという見方。最終的には、一人一人を見ていくということで「個人を見る」というプログラムから構成されています。これがインです。
 アウトについては、「理念浸透」という言い方をしていますが、この校長の、リーダーの理念を実行していく組織、もちろん前提は健全な理念です。その理念が浸透していくとなると、まず、リーダーは自分がどのような理念を持っているのかということを理解してもらうというのが、理念浸透の考え方の1つ目のテキストです。自分でも気づかない理念というものに気づいてもらうテキストです。
 2つ目は、その理念を伝えていきますので「対話する力」ということで、一対一でその理念を伝えるための応用力というのが2つ目のテキストです。そして3つ目は、いろんな場で全体に伝える必要がありますので、全体に対して伝えるための応用力という3つのテキストから出来上がっています。
 急ぎながらの説明に終わりましたが、堺で今取り組んでいること、堺はこれからどういうふうに向かうんだということ、その中でどうしても学校の中でマネジメントというのが必要になってきますので、学校のマネジメントの、これからの校長たちにつけたい、リーダーにつけたい内容について説明をさせていただきました。ありがとうございました。
【清原座長】  日渡教育長、大変御丁寧に、実践を踏まえた御説明をいただきましてありがとうございます。
 堺市においては、「学校群を中心としたマネジメント」ということで、改めて校長の役割というのが問い直されている中、兵庫教育大学・教育行政トップリーダーセミナーでの実践を踏まえつつ、校長等の新しい資質・能力向上に関して、特に従来のマネジメントから地域住民の意向、民意を反映した、公共性の高い、学校固有のマネジメントへの転換を図られる研修の取組を御紹介いただきました。
 さて、これから皆様から質疑、あるいは御意見いただきたいと思うのですが、最初に、今、御移動中で自らの御発言ができない小﨑委員から質問が来ておりますので、それを皮切りに、皆様から御発言をいただきたいと思います。
 小﨑委員から、「新たな学校という言葉からイメージされることは、人によって違って当然だと思います。例えば新築なのか、耐震化のような改善なのかによっても、手だても考え方も大きく変わってきます。それを交通整理するのが、堺市さんのような考え方、実践だと思います。
 未来に向かう方向性とやるべきことが明確に整理されていて、大変勉強になりました。
 未来に向かう前に、今できていないことをどうしたらいいのかと逡巡している先生に、どのようなメッセージ、励ましを送っているのか。お話の中にあったEBEMあたりかと思いますが、どのような場で誰がアプローチしているのか、取り組んでいることがあれば教えていただけますと幸いです」ということです。
 日渡教育長、いかがでしょうか。今、目の前の問題に直面して逡巡している校長等への対応でございます。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  行政というのはどこかで新しいものをつくっていきますが、問題は、今あるものと新しい取組のギャップに時間が生じるということは、もうこれは永遠の課題です。
 なので、例えば何年スタートですよといったときに、その発表した時点からどれぐらいの時間をかけてやるかというのが重要です。
 これを段階的にとか、いろんな方法で話をするのですが、堺市では少なくともこの話については、3年にこのメッセージを発表しながら、スタートは7年だというところに、時間をかけて解決しなければいけないということを私は注力したつもりです。それでは来年からやるぞ、制度をつくるぞ、ではないということ。
 その間に制度を少しずつ構築しながら、そして学校も時間をかけて、新しい価値観に段階的に変化していくような手だてが必要かと思います。やることが大きければ大きいほど、準備と移行には時間をかけるべきだと考えます。
【清原座長】  ありがとうございます。新しいことに取り組むときには、しっかりとした説明と、移行のプロセスを大切にすることが重要ということでございます。
 それでは皆様、御発言いただきますときには挙手ボタンか、あるいは挙手をその場でしていただければ指名させていただきます。いかがでしょうか。
 それでは梶原委員、お願いいたします。
【梶原委員】  日渡先生、お久しぶりでございます。大分の梶原でございます。御無沙汰しております。
 先生は玖珠町と同じように、もう言えば全国からいうと極小規模の山間部の五ヶ瀬で、合同授業、また小中連携とか、いろんな特色ある五ヶ瀬の教育を展開して、全国でも先進的な取組をしていただきました。
 それから兵教、大津市、中核市の津市、それから今度は政令市の堺市ということで、本当に今、教育委員会が捉えている極小規模、小規模、大規模の教育長さんを経験されましたけど、その中でまた今日、兵教の部分で、外から見た、客観的に見た経営マネジメントということでいただきましたけど、どうでしょうか、教育長さんの理念として、いろんな規模を経験した中で、いろいろ難しいところはあると思うんですけど、教育長さんが信念と持たれている、教育行政の信念の部分、規模が違ってもこうだというのをお聞きさせていただいたらと、御指導いただけたらと思います。
【清原座長】  梶原委員、ありがとうございます。私も質問を付け足させていただいてよろしいでしょうか。
 私も梶原委員と同じような思いで日渡教育長の御説明を聞いておりました。と申しますのは、日渡教育長は稀有な経歴をお持ちです。すなわち、規模の違う複数の自治体の教育長を経験されてこられています。
 今、梶原委員は現職の教育長として、教育長としての理念について御質問されましたが、私も関係して、複数の自治体の教育長をされるということは、そんなに多くの方が御経験されていないことだと思います。
 私たちの共通のテーマとして、「教育長の在り方」、「教育長のリーダーシップの内容」、あるいは「組織の進め方」について大変重視して検討しているものですから、ぜひ、今日はそういう御報告はなかったのですが、日渡教育長から御経験を踏まえて、教育長として大切にされてこられた理念、そして「令和の日本型学校教育」を進めていく上で、各自治体の教育長としてどのような取組をすることが期待されていて、日渡教育長としてもそのためにどのような取組を、御自身としても、あるいは教育長のネットワークの中でもされているかについても、御紹介いただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  ありがとうございます。とんがった言い方をしていいですか。
【清原座長】  どうぞ、御遠慮なく。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  長く学校とか教育行政にいると、「子供が中心」だとか、「子供が優先」だとか、もうずっと聞いてきました。誰も否定しません。わざわざ言わなくても、誰も否定しないんですよ。そんなことを思っていない人は誰もいないんだけど、何でこんなことを言い続けるんだ、この人たちは、と思って。私自身も含めてですけども。
 「本当か?」と思ってしまうのです。子供を優先するんだよという説明を迂回してしゃべっているような気がして、きれい事にしか聞こえなくなっています。
 我々の事情、いろんな複雑な事情によって、それを最優先にして咀嚼しながら、「これが子供優先だ」という言い方をしていくのですが、もうそろそろいいんじゃないですか。本音で、何が子供優先なのか考えていく必要があるという気がします。
 日本というのは昭和40年代とか50年代、爆発的に右肩上がりのときに、あり余る資源を社会のいろいろなところに投資してきました。その成功体験からどうも抜け出していない。今でも、校舎は新しければいいとか、なんでも新しいものがいいとかということになっていないか、現在の社会がしぼんでいくときに、さらにしぼんでいく社会の中で、右肩上がりの価値観を続けて大丈夫なのだろうかという気がします。今ある資源というものを、または将来資源がどうなっていくかということを、子供たちにしっかりと伝えないといけない。
 教える側の価値観がまだバブル期のままだったりというのはおかしいです。となってくると、地方教育行政の取るべき手段というのは俄然、見え方が違うと思います。その見え方が違うものを開発したいですね。
 国が、文科省が教育の内容等を一生懸命考えておられますが、それは国に対し国民から与えられた課題に対して、満々の努力をもって頑張っておられると思います。それが学習指導要領や教科書です。しかし、また一つは、今後の地方教育行政は未成熟です。この地方教育行政のあり方についても、地方教育行政が真に自立するまで文科省には支援していただきたいのです。
 ところが、まだ地方教育行政のレベルは平成10年の中教審答申時のままです。もっともっと見える形で何かメッセージを発信したり、施策を進めていただきたいと思います。
 そうしないと、今の地方教育行政というのは、国の施策を進めることだけが地方教育行政の力だと思っています。
 地方教育行政が本当の地力をつけた上で、文部科学省の考えている施策とか内容を展開していくと、もっと社会は、この世界は大きく変わるのに、と思っています。国の施策の優等生のシフトから、もっと地力のついた地方教育行政というものにも、協力をいただけるとありがたいですね。その前に、地方教育行政自らが気づかないといけないのですが。
【清原座長】  梶原委員、いかがでしょうか。
【梶原委員】  先生、ありがとうございました。現実に、地方はなかなか違うということですね。いろいろ地方によって違うし、自治体によっても違うし、財政的にも非常に厳しい状況ですので、現実の社会と国の施策をどううまくリンクさせていきながら、活力のある地方にしていかなくちゃならないかと思っております。ありがとうございました、先生。
【清原座長】  ありがとうございます。私も、先ほど日渡教育長が「地域住民の意向、民意を反映した」というところをすごく強調されたところは、国の学習指導要領や様々なガイドラインを基にしながらも、地域の実情に応じて、地方教育行政を構築していく力を持たなければいけないということです。それが、EBEMという提案にもなったのだと受け止めさせていただきました。ありがとうございます。
 それでは、吉田市長の手が挙がっております。よろしく御発言をお願いします。
【吉田委員】  全国市長会の社会文教委員長を務めております埼玉県本庄市の市長の吉田でございます。
 今、日渡教育長さんのいろいろなお話を聞いている中で、質問という形でお考えをお聞かせいただきたいと思いましたので、発言をさせていただきます。
 先ほどのお答えの中で、まさにそうだよなと思いながらも、なかなかジレンマがある部分があると私自身感じているのは、地方行政としては子供たちに、教育の場というのは、常に将来の社会を担っていくお子さんのために、できれば最先端のものであるとか、環境であるとか、あるいは教育内容もそうですけど、実は全国市長会も子供たちへの1人1台タブレットの実現とか、かなり力を入れてきたんです。諸外国に比べても、大変そういった教育環境の設備が遅れている、これじゃいかんだろうということで、かなり力を入れてきたつもりではあるんです。
 そういうツールなんかも新しくして、どんどん最先端のものをやる。学校の施設等も、これからの新しい学びの時代に合った形につくり上げていく。これ、実は予算もかかります。少子化でございます。したがって、学校の統廃合なんかも必要になっている時代です。
 先生が一番冒頭に、100メートルの高さの堤防を造るということと同じことをやっているのではないかというお話を聞いたときに、私も、自治体としてはちゃんとお金もかけなきゃいけないし、文科省もしっかりそれをやっていただかなければならないし、しかし、これからのありようを考えたときに、予算的な配分も、私としては教育にはできる限り予算をつけるべきだと思っているんですけども、いろんな面で自治体の行政の中でジレンマもございます。
 こういう子供たちの教育環境、施設・設備、整備をしていく中で、これからの将来的な状況を見据えた上で先生が今お感じになっていらっしゃること、まさに先ほどおっしゃった100メートルの堤防というのは、具体的にどういうものを指すのか、どういうところが過剰なのか、もう少しその辺のところを深掘りしたお答えをいただけるとありがたいかと思っております。ぜひ御所見をお聞かせください。お願いいたします。
【清原座長】  ありがとうございます。私たちは、「地方教育行政における市長と教育長の最適な連携」というのも課題にしておりまして、今、市長の1人として吉田市長から御質問がありました。
 日渡教育長、いかがでしょうか。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  100メートルの堤防というのは大げさに言っただけであって、学校が「100メートルの堤防を造りますよ」という学校教育目標にしていませんかと、皮肉を込めて話をしました。
 できっこないことを言う。でも、それはできないでしょうという評価をしないのは、予算と人事がついていないから、達成できるできないの評価ができないのです。言いたい放題の目標設定をしています。100メートルだから大丈夫でしょう、という議論をしています。
 そうではなくてEBPMであれば、この川はこういうデータがあるので、氾濫を防ぐために17.5メートルの高さの堤防を3キロにわたって造ろうと。そういう学校教育目標の設定理由と説明が学校は欠けていますよね、ということを言いたかったのです。
 そのために重要なことは、人と予算を学校の権限としない限り、100メートルの堤防を造りますという学校教育目標を掲げる学校は、未来永劫言い続けますよ、ということを言いたかったのです。
あと1つは、自治体として限られた予算の中でどう配分するかという問題です。私は、教育からの首長への予算配分のアピールが弱いような気がします。
 予算はもっといっぱいあったほうがいいぞと。それは誰しもそうですが、この経済縮小期いわゆる成熟期において予算は限られている。そうなってくると、自治体の中でどう配分するかという話になってきます。この重要性を説くのはあくまでも、もちろん首長さんにも訴えてほしいのですが、重要なのは実は学校現場なのです。学校が市民と直接、子供や保護者と接する中で、教育は重要なんだと。学校教育がこのようにしてこの町に還元されるのだという思いに立たない限りは、この配分は先細りしていくわけです。
 なので、卵か鶏かの話になりますけれども、私は、まずアピールから始めようと。アピールから始めるだけではなく、ちゃんと説明できる内容で。学校でやっていることが地域社会に如何に短期また長期にかけて還元されるかということの説明と、実際にそのような学校教育を実践することが必要です。
スタートは、学校のあり方を変えない限りは、この悪循環は断ち切れないと考えています。
【清原座長】  吉田市長、いかがでしょうか。
【吉田委員】  私自身、先生は恐らくいろいろなところの地方行政の教育長をやられている中で、様々な現場の実態を見ながら、今、いろいろな面で理論構築をされていらっしゃるんだろうと思うんです。
 私は、実は今、上澄みの部分しか聞かされてないような気がしておりまして、何て言いますか、学校を起点とした、校長なり教職員なり生徒・児童の考えに基づいたところからのあるべき方針なり方向性をベースにして、その上で自治体が予算配分等を考えていくような、そういうパラダイムチェンジみたいなものをしっかりやっていこうよという訴えとして捉えてよろしいんでしょうか。その辺をもう少し。
【清原座長】  日渡教育長、どうぞ。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  私たちが学校教育を展開する中で、吉田委員から「場」という話がありましたが、この学校という場の捉え方は明治以来変わっていないんですね。変わっていったのは場を取り巻く環境だけです。言い方を変えると明治期に最適な場のままそこに存在していて、現在の最適な場ではない。
 それを、明治の人口3,000万のときの場、今1億2,000万のときの場と捉えることができる。しかし、この動かせないものをどうしていくかと考えると、私たちは、変えられないものを今の時代に向かって変えるときに、私は統廃合という考え方を持っていません。150年にわたり国民から受け継いだこの場を、いかに有効的に考えるか、を考えたいのです。そうすると群というのが出てくるのです。そうすると、1つの学校群の中で4校とか5校とかいう学校のキャンパスが資源として校長達の目の前に広がっていく。私たちは長いこと、全ての学校に音楽室、理科室、図工室をつくるということが重要であるという考え方だったのですが、これを群で考えると、例えば音楽はあそこでしようとか、理科の授業はあそこでしようとか。それだけでも予算という資源は少なく済みます。自治体内の予算の再配分の前に、教育内の予算の捉え方が変わる。
【清原座長】  吉田市長、いかがですか。
【吉田委員】  時間がない中で、一言。これは意識を非常に変えていかないと駄目だと。まさに学校現場の先生方が、私たちのところにもプールが欲しい、体育館が欲しい、何が欲しいという、各学校にフルスペックでいろんなものが必要だという意識が非常に強い状況がある。
 これを変えていくというのは、どういうところから変えていったらいいか、それをずばり、日渡先生にお話しいただきたいと思います。お考えをお聞かせください。
【清原座長】  日渡教育長、もう一言だけどうぞ。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  それが、堺における学校群の提案です。だから、学校というものを単体で見るのではなくて、我々の目の前に実際に広がっている134校のキャンパスで見ていこうという発想に過ぎません。
【清原座長】  学校が多い政令指定都市ゆえに、学校群という発想で乗り越えていこうという御提案を今検討されているということですね。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  小さな自治体であれば、一つの自治体を一つの学校群と捉えてもいいですね。それぞれの自治体の規模に合わせた学校群の数があればいいと思います。
【清原座長】  小さな自治体でも学校群。学校群一つでということですね。大きな自治体であれば複数の学校群でということで、単体の学校で考えない発想を今日は御提案いただいたということでございます。ありがとうございます。
 それでは、この後、本日、風岡先生、そして日渡教育長に問題提起いただいたことを含めまして、日渡教育長への御質問等も続けていただきつつ、総合的に、教育長、教育委員会、事務局職員の資質・能力向上に関することについての御意見もありましたら、御遠慮なく、残る時間で御発言いただければと思います。
 それでは、まず岩本委員、その次に戸ヶ﨑委員でお願いいたします。
 では岩本委員、お願いします。
【岩本委員】  日渡先生、ありがとうございました。大変刺激的な話で、かなり刺激を受けたんですけども、質問が2つあって、どちらも学校群に関するところです。もう、この発想自体が、私は今後を考えたときに非常に重要な概念であったりとか、問題提起だと受け止めました。
 そこで伺いたいのが、1つ目は人・物・金の裁量権を移譲していくというか、教育委員会が持っていたものをより学校群に移譲していくような話なのかと思うのですが、ここら辺の具体的な、今の段階での例えばイメージですね、私は特に、お金もそうですし人の部分、人事のところを、学校群にどういった形で裁量権を持たせていくのかというようなところを、これは教育委員会と学校の関係性だとか在り方にとても関わるところだろうと思いましたので、そこを具体的な、今の段階での案とかイメージがあればお伺いしたいというのが1つ目です。
 2つ目は、この学校群を統括する統括校長みたいなものをイメージされているのかと、お話を伺いながら聞いていました。
 こういったものを統括する校長の、恐らくカリキュラムなんかも一校一校の校長がカリキュラムを編成する権限ではなく、この学校群を統括するような校長が、ある種カリキュラムをうまく調整というか再編する中で、効率的・効果的な運用をしていくようなイメージなのかと思ったんですけど、この統括校長の権限みたいなものを今の段階ではどのように考えられているのか。それは、もう今、制度を変えなくてもできるものなのかどうかが、私は全く考えたことがなかった発想でしたので、統括の校長の部分で、またイメージがあればお伺いできればという2点です。
【清原座長】  学校群に関連して、1点目、校長の裁量権の問題、2点目、統括校長の役割について、日渡教育長、お願いいたします。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  結論から言うと、今後3年間のモデル校の中で、どういう制度がいいかというのが落ち着いていくと思います。それは現場と議論しながらモデル校の中で試行していきたいと思います。きっと、学校群ごとにひとつのカリキュラムということが想像されます。複数校でやるという意味は、ちゃんとしたカリキュラムをつくろうよ、そのために人を集めようよとか、そういうことになってくるわけです。人材の集積になってくるわけですので。
 そうなってくると、1校ごとのマネジメントと複数校のマネジメントでは当然違うだろうと。その時に、寄り合い所帯ではなくて、自然発生的にリーダーが必要となってくるのだろうということを見越して、そのリーダーに必要な資質・能力を育成するためのプログラムを、今年度から開発に着手したということになります。
 イメージとしてはCEOなんでしょうね。予算に対してはCFOがいて、カリキュラムに対してはCOOがいるというような感じで、全体と各分野ごとに特化した、何というか、リーダー集団が出てくるのではないかという気がします。
 人事に関して、私のイメージの中ではいろいろと着陸した地点はありますが、私がしゃべってしまうと学校の発想に蓋をしてしまいますので、学校現場の発想に期待します。全ての教職員がこのことを理解していただいた後でいろんな意見が出てくるという、3年後、2年後に期待をしています。
【清原座長】  岩本委員、いかがですか。
【岩本委員】  分かりました。また今後も期待しています。
 1つだけ、先ほど言ったCEO、CFOというのは、私も勉強不足ですけども、管理職の中で、統括校長とそれ以外で、例えば財務とか予算を統括するような専門的な管理職だとか、カリキュラムにより重点を置いた管理職、副校長なのか、という役割を分化させて、学校群をチームで経営していくというイメージで。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  これはもうイメージの世界です。だから、どういうモデルとして着陸するかというのは分かりません。
 私の今のイメージでは、全体を見るCEOとか、予算のことを担当するCFOがいたり、またカリキュラムを担当するCOOがいたり、そんな、統括しながらも担当を少し分けて。
 そうなってくると当然、学校の分掌のあり方もがらりと変わってくるし、もちろん重要なことは、私たち教育委員会も従来の学校に対する、指導・支援する教育委員会の姿から、新しい学校に対する教育委員会の組織のあり方、がらりと数年後には変わっていくのではないかという予想は立ちます。
【岩本委員】  ありがとうございました。
【清原座長】  関連して、1点確認させてください。堺市においては、コミュニティ・スクールは導入されているでしょうか。あるいは小中一貫のカリキュラムというのは実践されているでしょうか。いかがでしょう。
【大阪府堺市教育委員会(日渡様)】  まずコミュニティ・スクールですが、座長に言われると恥ずかしいのですが、細々というか、やってきていたことはありました。しかし、根本的に見直す必要があります。私はこの構想を実現するために、最終的に重要なことが、コミュニティ・スクールだと考えています。
 それは、学校というのは健全な学校教育目標とカリキュラムを実行していかなければいけません。その健全性の評価を今はひとえに教育委員会に評価の判断を委ねているわけです。
 それを私は、その健全性は地域住民から担保されるべきだと考えていますので、そういうことを担保する仕組みとしてのコミュニティ・スクールが必要だと。
 そういった意味では、今、全国で行われているコミュニティ・スクールとは色合いがずいぶん変わる可能性があると考えています。
【清原座長】  ありがとうございました。
 それでは戸ヶ﨑委員、どうぞ御発言をお願いいたします。
【戸ヶ﨑座長代理】  もう時間が厳しいのかと思いますので、もしよろしければ資料提出だけという形でさせていただくか、もしくは次回……。
【清原座長】  ポイントを、どうぞ、次回にお時間ありますけれど、今日のところで、せっかくでございますので。
【戸ヶ﨑座長代理】  5分以上になってしまうことがあったらお許しいただいてよろしいですか。
【清原座長】  はい。よろしいですか、皆様。せっかくですので御発言をお願いいたします。
【戸ヶ﨑座長代理】  先ほどの御発表も含めて大きく2点ほど、意見をさせていただければと思います。
 1点目は、指導主事や教育行政職のスキルアップという観点からです。教育委員会の機能強化の際には、学校現場を日々指導・助言する指導主事の、学校現場からの信頼に足るだけの指導力を身につけるということも不可欠になります。指導主事が全くいないとか、また、いても1人だけという自治体も全国には少なくない中で、「令和の日本型学校教育」の実現に向けた日々の授業改善を支援する体制づくりは急務です。
 また、基礎自治体の指導主事が参加する研修の多くは都道府県教育委員会が主催していますが、その多くが行政説明のような内容になっているのが実情ではないかと思います。今後は管理職希望者が年々減少する中にあって、指導主事を対象とした研修もまた、個別最適な学びや協働的な学びが実現できるようなものにしていく必要があると思います。さらに、学校事務職員や養護教諭など、一人職への指導助言、中学校の美術や技術・家庭科など多くの学校に1人しか配置されていない教科の指導主事の確保と育成については、以前から大きな課題となっています。それぞれの職に合わせた適切な指導助言ができるように、自治体間を超えた広域での指導主事の養成や確保が強く望まれると考えております。その意味から、先ほどの愛知教育大学の教育ガバナンスコースの実例のように、教育行政のプロとしての資質・能力を有して、学校現場を理解しつつ、課題に応じた政策立案ができる人材を、ここはぜひという思いがあり申し上げますが、地域ごとに配置できるように、任命権者はそのキャリアの扱いについて努め、計画的にやっていく必要があると考えています。
 また、基礎自治体としては、教育行政の課題をどのように捉えているのか、その課題を解決するためにどのような人材が必要なのかなど、教育行政職の在り方を考えていく必要があると思います。つまるところ、職員を採用する自治体の「教育意思」と「組織作りまで含めた人材育成の方針」が非常に重要になるものと考えております。教育に関わる行政職にも指導主事にも、自治体が明確な課題意識を持って、OJTを含め必要に応じた独自の研修等も実施していく必要もあると思っています。なお、本市においては、教育行政のプロとして、これまでも複数人の採用をしておりますが、令和3年度からは、指導主事発令をして、それぞれの分野で学校への指導・助言も行っています。
 2点目は、学校運営の支援のために教育委員会が果たすべき役割についてです。まず、海外の文献でも指摘されていることとして、「校長と教職員との関係が、教職員と児童生徒との関係を左右することは往々にしてある」、すなわち、校長と教師との関係は、教師と子供との関係を映す鏡であるということが掲げられています。つまり、校長が教職員に対して上から目線で指示しているような学校では、教室でも教師主導の授業が展開される傾向にあるということですが、私はこれに加えて、さらにその淵源にあるものとして、教育委員会と校長との関係がこれらの鏡であることを指摘しておきたいと思っています。すなわち、教育委員会、校長、教師、子供というこの4者のそれぞれの間のコミュニケーションを双方向でボトムアップのものにしていくことによって、これからの時代に必要となる資質・能力を子供たちが身につけることができる学校文化が醸成されていくのではないかと思います。
 次に、校長や、大規模校を除く学校での教頭は、一人職であり、校長会や教頭会といった自主的な組織や、教育委員会との関わりの中で、こうした者同士の学び合い、いわゆる「ピア・レビュー」が起こるような仕掛けを意図的に設定する必要があります。管理職を、「自分が全て答えを持っていなければならない」、「間違えてはならない」、「教育委員会から怒られないように」といった呪縛から開放し、弱みや過ちも含めて自らをさらけ出し学び合えるようにするためには、心理的安全性を確保した上での、共同で振り返れる機会が重要になります。こうしたことが実現できるように、ファシリテーター、またメンターとしての役割も、これからの教育委員会には求められるのではないでしょうか。
 また、これまで繰り返し述べていますが、学校が躊躇なく自走できるように支援することが、教育委員会の重要な役割だろうと考えています。その辺が可能になることが、先ほどの日渡教育長の御説明とも共通すると思いますが、PBLとEBPM、堺市でいうところのEBEM、本市ではEIPPと呼んでいますが、その考え方を取り入れた、「主体的な学校マネジメントの推進」の基盤づくりにもなると考えております。
 最後に、さらに、様々な教育改革によって学校に新たな取組が求められている中で、学校には、それを実現する人的・財政的・組織的なリソースがまだまだ足りていません。学校の自前主義を真に脱して、「社会に開かれた教育課程」を実現するためには、学校裁量予算など現場主体での改革や、昨年度、本市でも実施しました、クラウドファンディングなどの独自の財源確保策を通じて、「教育委員会がプロフィットセンターとなる」ための取組も必要になってくると考え、こうした考え方を横展開していくことも大事だと思います。
 長くなりましたが以上でございます。
【清原座長】  ありがとうございます。
 それでは、堺市教育長の日渡様には大変、私たちに刺激的な御提案、そして、質疑に丁寧に対応いただきましたことを感謝します。皆様、拍手でございます。日渡教育長、どうもありがとうございます。
 それでは、予定の時間を少し超えてしまいましたけれども、本日は、教育委員会事務局職員の資質・能力の向上、そして学校においては校長の取組などについて……今、村上委員、手が挙がりました。一言よろしいですか。大丈夫ですか。
【村上委員】  いえ、そのつもりがなかったので。申し訳ありません。
【清原座長】  分かりました。
 それでは私の話に戻りますが、学校においては、学校長の役割についても日渡教育長から御提案がありまして、私たちとしては、地方教育行政を推進していく様々な主体の資質・能力向上について、そしてその在り方について意見交換をすることができました。
 今後も引き続き、この課題は私たちの会議にとって重要な課題でございますので、検討を継続していきたいと思います。
 それでは、事務局からの連絡事項をお願いします。
【伊藤初等中等教育企画課課長補佐】  次回の検討会につきましては、9月16日、金曜日、13時からを予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
【清原座長】  それでは、予定の時間を超過いたしまして失礼いたしました。
 皆様の活発で熱心な意見交換に感謝し、本日御協力いただきました愛知教育大学の風岡先生、そして堺市教育委員会の日渡教育長に感謝を申し上げまして、本日を閉会とさせていただきます。どうも皆様、ありがとうございました。残暑厳しき折、とにかくお体を大切にしてください。ありがとうございます。
  
―― 了 ――

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