全国的な学力調査に関する専門家会議(令和5年4月20日~)(第2回)議事要旨

1.日時

令和5年6月1日(木曜日)13時~15時

2.場所

Web会議(文部科学省16F1会議室)
※YouTube配信にて公開

3.議題

  1. 令和4年度の学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究の最終報告ついて

4.出席者

委員

耳塚座長、大津座長代理、足羽委員、磯部委員、宇佐美委員、川口委員、斉田委員、貞広委員、佐藤友信委員、佐藤博之委員、柴山委員、垂見委員、土屋委員、中田委員、福沢委員、益川委員、
松谷委員、三浦委員
 

5.議事要旨

令和4年度の学力調査を活用した専門的な課題分析に関する調査研究の最終報告

・資料2に基づき、事務局より令和4年度委託研究の概要についての説明があった。
・資料3に基づき、保護者に対する調査の結果を活用した家庭の社会経済的背景(SES)と学力との関係に関する調査研究について、福岡教育大学より説明があった。
・資料4に基づき、保護者に対する調査の結果を活用した効果的な学校等の取組やコロナ禍における児童生徒の学習環境に関する調査研究について、お茶の水女子大学より説明があった。
・資料5に基づき、経年変化分析調査及び本体調査の結果を活用した学力の経年変化に関する専門的な分析について、東北大学より説明があった。
・各報告について、説明の後、意見交換が行われた。主な意見は以下の通り。

 

〔福岡教育大学の調査研究の発表に対して

【委員】  相関係数の大きさに関する議論の部分は、正答数よりも、多次元IRTの能力推定値を誤差まで含めた形で推定した方が、高い相関値が得られるという意味か。
【川口准教授】  そのとおり。相関係数の値をどう見るかということもあるが、多次元モデルにpvを条件づけたものが一番高い推定値を返してくるという意味である。今回、時間が取れずシミュレーションまではできていないが、過去のシミュレーションの別の研究によると、やはり条件づけたpvが最も母集団の相関係数としては近いものを返す。さらに、他の推定方法を使うと、やや低めの値が出るということは分かっている。
【委員】  例えば、IRTの推定値を使うことによって、実際の正答数よりも均等に広がっているために相関係数が上がっているのか、もしくは、プロジバルバリューということで、推定値に誤差のあることを含めて、その分を希薄化する修正がかかり、相関係数が高くなっているのか。どちらの効果か、現状分かっていることあれば教えていただきたい。
【川口准教授】  一般にこうしたシミュレーション研究では、比較的テストの難易度が均等にばらついているという前提でシミュレーションが組まれてくるが、今回の全国学力・学習状況調査の実データは少し違う。特に悉皆調査は比較的難易度の低い問題が多く、特に多次元モデルで少しシミュレーションと違った結果になってくる。
 特に多次元モデルでこのような差が出るのは、難易度が低い問題が多く、正答率では頭打ちになっているからである。よって、相関係数等を取ったときに、低めの値が出てくるというようなことが考えられる。例えば、英語は比較的問題の難易度がばらついており、経年調査単独の場合、推定方法によらず、比較的同じような値が出てくる。一方で、悉皆調査を組み込んだ多次元モデルの場合は、モデル間の差が出てくる。これには、問題の難易度が大きく影響しているのではないかと今のところ考える。詳しいことは、もう少し研究してみないと分からない。
 
【委員】  6ページで示されている教育支出は、どういったものを指して言っているのか教えていただきたい。例えば、塾での支出、また、それ以外にもあるのか。 
【川口准教授】  調査票の設問は、「学校以外の教育、学習塾や習い事にかける1か月当たりの平均の支出はどれくらいか」となっている。このことから、学習塾を含んでおり、また、例えば、スイミングや音楽などの学習塾以外の習い事の費用も含んでいるということになる。
【委員】  それでは、教育支出が全くないという家庭は、そういった習い事等を全く行っていない、そして、6ページのデータはそういった家庭が増えているということを示しているということでよいか。
【川口准教授】  そのとおり。費用がかかっていない習い事に関しては、ここには含まれていないが、費用がかかる習い事に関しては、行っていない家庭が増えているということになる。

 

〔お茶の水女子大学の調査研究の発表に対して〕

【委員】  今回、福岡教育大学、お茶の水女子大学の方で分析され提案されているものが、コロナ禍での学習を強く反映しているものだというふうに認識している。そして、コロナ禍においても児童生徒の学力は下がらなかったということから、頑張っている学校はたくさんある、先生たちはよく頑張ったというような励みとなる発表をしていただいたと思っている。また、今回の報告から、新しい学習指導要領の目指しているものは確かなもので、やはり、子供たちの自尊感情ややる気であるとかの非認知能力の育成や、協働的な学びを目指す授業というのは本当に大事なことだと思った。
 2つ質問がある。1つ目は、発表で言及されていた小中一貫のポートフォリオというのが、学び方に関するところが色濃く出ているようなポートフォリオなのかどうか教えていただきたい。
 2つ目は、スタンダードの考え方について。ここでお話しいただいたスタンダードは、個々の児童生徒が最低限身に付けるべきものを示したものではなく、学校がどのように学びを進めていくか、課題を持たせていくかというような学習活動のスタンダードだと思ったが、そのような理解でよいか。
【冨士原教授】  2点目の授業スタンダードの質問について。教師の授業の流れをスタンダード化しているということを指す。以前によくみられた子供が取り組むスタンダードではなく、教師の授業の流れを示した教師向けのスタンダードが増えている。
 1点目のポートフォリオについては、例えば、小学校の特に総合的な学習の時間のポートフォリオを、そのまま中学校の入学時に持っていき、そして自分たちはどういう学びをしてきたのかを振り返り、キャリア的なものにつなげていくといったものである。学び方の共有というよりは、キャリア的なものを積み上げるといった形。ただ、その中には、もちろん小学校での学び方も入っているので、中学校の教員がそれを見て、小学校での学び方を把握した上で、さらにどういう学びを積み上げていくのかを考えるといった活用をしている。小中の教員が一緒に研修をしたり、ポートフォリオの在り方を学んだりして、ポートフォリオを9年間継続させていくということを教育委員会管轄内で大変強く意識しているという取組があった。
 
【委員】  2点質問がある。1点目は、レジリエントな児童生徒について。こういった子供たちはどういう環境での取組があるのか、大変興味深く伺った。そこで、レジリエントな児童生徒の定義に関わって、膨大な保護者質問紙の中で何か重視した部分があるのか、お伺いしたい。
 2点目は、事例研究の中で、学校・教育委員会に訪問調査またはインタビュー調査等を行っており、大変今後の参考となるデータだったと思う。その中で、学校の中でこういうふうに子供たちの力を伸ばしていこうとして、何かに重点的に取り組む場合には、他の取組にかけるエネルギーを減らすといったことは多分にあるのではないかと思う。様々ある取組の中で、調査対象の学校が特に重点的に行っていた取組が何かについて併せてお知らせいただけると、今後の他の学校での取組の参考になると思い、お伺いしたい。
【浜野教授】  1点目のレジリエントな児童生徒の定義については、福岡教育大学が作成したSESの指標に基づいて、SESが下位25%にありながら、学力が上位25%ということで定義させていただいた。これは操作的な定義にすぎないので、今後もいろんな定義の仕方はあると思う。そして、今回、保護者調査の全ての回答項目について、レジリエントな生徒とそうでない生徒との間の差を見たところ、非常に大きな差が見られたのが、絵本の読み聞かせをしていたということと、子供に対して高い期待を持っているという学歴期待の2点だったということになる。
【冨士原教授】  2点目については、特に重点的に行われている取組としては、子供を自律的な学習者に育てる取組と、教職員集団の同僚性の高さを生み出す環境をどう整えるかの恐らくこの2点に尽きるのではないかと思う。
 
【委員】  我々、全国の保護者は、子供の学力向上等に非常に心を砕いている中で、様々なヒントをいただけたと思う。また、規則正しい生活習慣といったことは、家庭で子供を育てる中で、自らを律して行わなければならないということもアドバイスいただいたと思う。
 2点質問がある。1点目は学歴期待について、どのように親が子供に学歴を期待しているのかについて、伺いたい。2点目は、絵本の読み聞かせについては、幼児のときでないと無理だと思うが、実際どれぐらいの時期まで行っているのか、データがあれば、伺いたい。
【浜野教授】  1点目の保護者の学歴期待については、「子供にどの学校まで進んでほしいか」に対して、「大学まで」と回答した割合が高かったということになる。
 2点目の絵本の読み聞かせに関しては、質問紙において、「小学校に入学する前の時期にどの程度絵本の読み聞かせをしたか」という頻度を尋ねているものとなる。小学校、中学校の児童生徒は、読み聞かせの時期は過ぎてしまってはいるが、これ以前の29年度の調査のときには、「図書館に一緒に行く」という質問との関連が非常に高かった。今回は、コロナ禍での調査ということもあり、この質問に対してはあまりはっきりとした差が出てこなかったが、読書活動の効果というのは大きいと考えている。
 
【委員】  教育委員会として、本当にご示唆をいただける研究内容であり、また、各市町の教育委員会も多分同様の形で、取り組んでいるのではないかと思う。ただ、特徴的なのは、教育委員会と学校との関係、この辺りの充実というのが一つの成功のきっかけになるのではないかと思う。そこで、学校を教育委員会として支援をしていく、その在り方で何か特徴的なものがあれば教えていただきたい。
【冨士原教授】  特徴的な取組とは違っているかもしれないが、今回訪問したところでは、管理職が教育委員会の指導主事経験者の方が多かったので、教育委員会のことも学校のことも分かり、大変風通しが良いというのが一つの特徴だったと思う。そういった意味では、教育委員会と学校の往還の仕方も重要ではないかと思う。また、自治体の首長が、どれだけ教育委員会を大事にし、手厚い支援を行うか、教育委員会を支援する予算を寄せるかも、大変構造的な重要な問題だと思う。

 

〔東北大学の調査研究の発表に対して〕

【委員】  大変貴重で興味深い分析結果であり、ぜひ継続して実施し、結果をまた拝見できればと思う。
2点質問があり、1点目は、追加分析2の対応づけ、32枚目のところでお伺いしたい。標準偏差が予測法だと少し小さくなっているというのは、重要な結果ではないかと思っている。これは、トゥルースコアに比べて、今回対応付けたスコアというのは極端な値を取らないという回帰効果なのではないかと考えたが、そういう理解でよいか。
 2点目はコメントになるが、一データセットしかないところが、少し気になった。多分分冊内の項目パラメータの変動というのは、かなり年度間で影響すると思うので、その点をシミュレートされると、対応づけの方法の性質について、よりはっきりとした結果になるのではないかと思いながら、伺っていた。
【熊谷准教授】  1点目の標準偏差については、私自身も回帰効果等々が生じているのではないかと考えてはいる。この点については、佐藤先生が開発された最先端の研究手法ということで、この手法の性質等、これから更に調査していく必要があると考える。現段階で、回帰効果だけでこうなっているかどうかについては、断定はできないが、その効果は多少はあるのではないかと思う。
 2点目のデータセットについては、研究時間の関係上、この1データセットだけでの実施が限界だった。あくまでもこの結果については、そういった制約がかかった中での結果ということである。今後、予測能力についてきちんとした研究をしていくのであれば、様々な条件設定や、シミュレーション回数を増やすこと、また実データでの検証等も踏まえて検討を進めていく必要があるのではないかと思う。
【委員】  特に1点目の方は、対応づけされたスコアと真のスコアという基準で仮に見たときに、標準偏差が小さいというのは、普通は不利に働くのではないかという感覚がある。その点も踏まえられるとよいかと思った。
【座長】  委員から何か補足的な説明はあるか。
【委員】  この換算表を、そのまま学校レベルで使うというのは、今の段階では避けた方が良い。あくまでも全体的な大きな全国の集団というレベルで見ておいていただきたいと考えている。複雑な手法のため理論的にまだまだ詰め切れていないためである。
 ただ、経年変化分析調査でも、中学校の数学は、やはり全体的に右方向に動いており、全国の悉皆の方のデータをさらに入れても同じような動きはしているということなので、経年変化で見ても、悉皆の方で見ても、子供たちの数学の学力が若干上がっていると言えるだろうと考える。

 
 

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