全国的な学力調査に関する専門家会議(令和3年4月8日~)(第5回)議事要旨

1.日時

令和4年3月28日(月曜日)13時~15時

2.場所

Web会議(文部科学省15F1会議室)
※YouTube配信にて公開

3.議題

  1. 令和3年度全国学力・学習状況調査「経年変化分析調査」実施結果及び「保護者に対する調査」結果(速報)について
  2. 令和3年度全国学力・学習状況調査結果の追加分析について
  3. 新型コロナウイルス感染症の影響等に関する調査研究について

4.出席者

委員

耳塚座長、足羽委員、礒部委員、植村委員、宇佐美委員、大津委員、川口委員、肝付委員、斉田委員、貞広委員、佐藤委員、柴山委員、垂見委員、土屋委員、中田委員、益川委員
 

5.議事要旨

議事1: 令和3年度全国学力・学習状況調査「経年変化分析調査」実施結果及び「保護者に対する調査」結果(速報)について

資料1~6、参考資料1に基づき、事務局より報告があった。委員の主な意見は以下のとおり。

【委員】
・今回、経年変化分析調査に関してテクニカルレポートを作成した意義は大きく2つある。まず、テクニカルレポートの理念、目的について説明する。統計法には、「公的統計が国民にとって合理的な意思決定を行う基礎となる重要な情報であること」、それから「公的統計は、適切かつ合理的な方法により、かつ、中立性及び信頼性が確保されるように作成されなければならない」旨が書かれている。令和3年7月に、「全国的な学力調査のCBT化検討ワーキンググループ」による「最終まとめ」が出されたが、そこに書かれている全国学力・学習状況調査の二本柱の方針をふまえると、経年変化分析調査は、学力の経年変化に関する公的な学力統計を担うという役割が期待されている。そのため、適切かつ合理的な方法で中立性及び信頼性を担保するための文書としてテクニカルレポートを作成することが必要であると考えた。
・実際、テクニカルレポートの別冊である資料5「標本抽出方法」は、土屋隆裕委員が中心となって作成されたが、標本調査法に基づき、自ら理論的に設計され、工夫されたサンプリングの具体的な手続きの記録と解説となっている。このテクニカルレポートがあるからこそ、先ほど事務局から報告のあった「保護者に対する調査」も含め、様々な分析結果が国全体としての子供たちの学力状況にあるということが合理的に担保される。
・一方、学力の測定技術の方法から申し上げると、経年変化分析調査では、IRTをベースにした重複テスト分冊法という手続きを採用しており、データの分析にもIRT専用の分析ツールが必要になる。PISAではACER ConQuest、全米学力調査NAEPではPARSCALEという分析ソフトが採用されており、経年変化分析調査では、それがEasyEstimationというソフトウエアを使っている。いずれも、現代の大規模学力調査には必須の分析ツールとされているが、一般の方から見た場合、IRTを採用した重複テスト分冊法も、IRT専用の分析ツールもブラックボックスになる。そのため、分析結果の質保証や信頼性の担保をどうするかという問題が出てくる。その1つの解決手段がテクニカルレポートの作成・公開である。テクニカルレポートを公開し、既に公表されている結果データ等と併せて使っていただければ、第三者による事後検証も可能となる。繰り返しになるが、適切かつ合理的な方法で中立性及び信頼性を担保することができるようになること、これがテクニカルレポートを作成し、公開する一番大きな意義である。
・2つ目は、期待できる波及効果についてである。現在、文部科学省では、教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指して、MEXCBT(文部科学省CBTシステム)の開発に取り組んでいる。その影響もあり、デジタル化された、デジタルアセスメントツールと呼ばれるツール群を採用・開発する自治体も徐々に増えてきていると聞いている。しかし、これらも考えてみれば、学校や保護者にとっては、そのツールの中は高度に技術化されたブラックボックスになっている。経年変化分析調査と同様に品質保証の責任者が曖昧になっている。
・全国学力・学習状況調査における今回のテクニカルレポートの作成とその公開という品質保証の枠組みは、地方自治体等においても事情に合わせて調整して活用できる質保証の枠組みではないかと考える。これから地方自治体でも、民間企業が開発しているデジタルアセスメントツールが活発に採用されていく中、その透明性、品質保証に関する1つのモデルケースになるのではないだろうか。
・テクニカルレポートを開発したことで得られるメリットが3つある。いずれも、PISAのテクニカルレポートをお手本にしたことで得られるメリットではあるが、1つ目は、文書として調査の設計を明らかにすることで、ある特定の人・委託先企業ではなく、行政組織としてノウハウの継承が可能となった。2つ目として、ノウハウの継承だけではなく、今後の技術発展も、その都度テクニカルレポートに書き足していくことが可能となり、今後の技術発展のスタートラインを一般の方々にも示すことができた。3つ目は、当然同じIRTを採用しているため、全国学力・学習状況調査の本体調査をCBT化する際の技術的な基盤となり、参考となるだろう。
・最後に、資料4の最後のページに書いてある「編集委員会」についてだが、このテクニカルレポートは文部科学省総合教育政策局調査企画課学力調査室の編集・発行であり、文部科学省も含め、このメンバー全員の共同執筆でもある。しかし、技術的なところは、いわゆる専門家の責任によって作成されていることを明確にする必要があると考え、このような書き方にした。この「編集委員会」については、PISAのテクニカルレポートと同じく、次回調査の際にはメンバー名を追記もしくは入れ替えていかれるとよい。
 
【委員】
・統計調査の結果の信頼性をどう担保するのかといった時に、結果の数字をいくら見ても、これが信頼性のある結果かどうかということは判断できず、その結果・数値をどういう方法で得たのか、どういう手段を使ったのかを明らかにすることが信頼性を担保すことになる。今回、非常に詳細なテクニカルレポートを公開していただいたということで、結果の信頼性を担保できた。
・資料5「別冊・標本抽出方法」の6ページの一番下に表7「標準誤差」というものがあり、これは設計した時の精度が示されている。正答率に関する標準誤差が大体0.2から0.3という形になっており全国的な結果を見る上では十分な精度が確保できていると考える。ただ、これは設計段階での精度であるため、今後、実際の結果データを分析していく中で、どれぐらいの精度が達成できたのかということも、改めて分析が必要になってくるだろう。
 
【委員】
・これまで、特定の集団や問題の領域、または横断的な分析のみから学力の平均的な水準や変化が論じられるということが少なくなかった。今回、IRTや層化集落抽出法、さらには重複テスト分冊法をはじめとしたデータの収集や分析評価において工夫を行い、測定においてできる限りの信頼性と妥当性を担保した形での経年変化分析が可能になった。調査設計に関して大きな前進があったのだと感じている。
・一方で、このような学力の平均像や個人差、経年変化といった分析評価というものが、基本的には、ある児童の問題への正答確率といった、数理的に表現する統計モデルとしてのIRTモデルと言われていたものを、ある種のバックボーンとして実現している。そのため、個々の問題の正答率を見る場合とは異なっており、調査結果を活用する方々が、結果として必ずしも明解に調査結果を解釈できなくなってしまうといったことも、一面としてはあり得る。そうなってしまうと、調査の意義も半減してしまう。
・先ほど説明があったように、調査分析方法の透明性や事業の継続性、技術の発展、調査結果の有効な活用の促進といった点が本テクニカルレポートの大きな役割であるが、測定や分析に関わる方はもちろん、調査結果を活用する方々にとって起こり得るギャップを埋めていくといった役割が非常に大きいのではないかとも思っている。今後とも調査が継続していく中で本テクニカルレポートがより活用していただけるよう、継続して議論し、改良していくことが大事である。
 
【委員】
・テクニカルレポートは、経年変化分析調査にIRTを導入することを機に、その理論的、技術的な基盤を明確にしたものである。平成19年度から開始された全国学力・学習状況調査の歴史の中でも、時代を画することではないかと評価している。今回の公表をもってテクニカルレポートに関する作業が全て終わりになったというわけではなく、今後も継続的に御検討いただきたい。
 
【委員】
・資料2について、全体として、国語では、前回と比べて大きな変化は見られなかったとのこと、一方、算数・数学で若干向上しているのではないかという報告をいただいたところだが、例えば、3ページにある小学校算数では、確かに学力スコア(図5)のグラフでは、若干、高い方へ移動というのは見られるが、図6を見ると、前回と比べて、上位層が少し増えていることがわかる。これは中学校数学も同じ傾向である。この結果について、上位層と下位層との差が開いたという分析にはならないのか。
 
【事務局】
・この分析結果についてより詳細に御覧いただく場合、表をご覧いただきたい。例えば、25パーセンタイル、中央値、75%パーセンタイルの学力スコアが示されている。これは、25パーセンタイル、つまりいわゆる全体の下位25%に位置する児童生徒の学力スコア、それから75%パーセンタイル、いわゆる全体の上位25%に位置する児童生徒の学力スコアが示されている。上位層と下位層については、表にある結果となっている。
 
【委員】
・図6の箱ひげ図を見て、上位層が増えたのではないかという認識をお持ちだと思うが、これは箱ひげ図の特性の問題で、上のひげ部分に対象が1人でもいれば、対象者がいる位置まで伸びてしまう。必ずしも上の層が増えたというわけではなく、得点が高い人が1~2名いれば、箱の上辺があがってしまう図であるため、重要視されないほうがよい。
 
【委員】
・資料2について、PISAやTIMSS等の調査においては、報告書において、特に有意に正答率が変化した問題やサンプル問題が公表されている。今後、経年変化分析調査の実施結果についても、TIMSSのように、サンプル問題を一定程度ピックアップして結果分析の中で示す予定があるのか。
  
【国立教育政策研究所】
・令和3年度の経年調査においては、資料3の実施結果報告書の中で各教科1~2問程度公表している。公表した問題については、次回の調査では使わない。実施結果報告書の中では、公表したそれぞれ設問に関して、回答累計と反応率、分析結果と課題等を悉皆調査と同じような形の分析している。
・次回調査(令和6年度予定)については、基本的には、令和3年度調査と同じ問題を使うということを原則としているが、さらに調査の精度を高める観点から、今後、今回の公表問題だけでなく、ほかの問題についても入れ替えを検討してまいりたい。
 
【委員】
・今回の調査結果について、コロナ禍を挟んでも大きな学力低下が見られなかったということだが、臨時休業期間中、子供たちに対して教師がしっかりと関わっていたと思う。例えば、ある学校では、軽トラックに本をいっぱい乗せて各家庭を回り子供とのコミュニケーションを図ったり、ひとり親家庭で学校へ来られない子供たちを学校へ呼び、給食も用意してその子たちに寄り添った指導を行ったりしていた。コロナ前とコロナ後の学力に変化がない、あるいは少し伸びているという現状の裏には、そういった先生方の努力があったことを改めて感じた。
・そこで見えてきた課題の1つは、「保護者に対する調査」の結果報告の中で御提案いただいたように、社会的経済背景と学力との関係についてしっかり見ていく必要があるということ。今回、松阪市では、臨時休業中、ひとり親家庭やエッセンシャルワーカーの家庭のうち、どうしても家庭で1人になってしまい、御飯が食べられない子供全員を市へ呼び、約680人程度の子供たちに対して、各学校で寄り添った指導を行っていただいた。いわゆる個別の支援が今まで以上にできてきたことが背景にある。今回、「保護者に対する調査」で明らかになってきたことを基に、学力が伸びた学校の具体的な取組などについてしっかり分析していただきたい。
・自分が感じることは、先生方はアイディアマンであるということ。コロナ禍においても様々な工夫をしながら取り組んだ成果が、多少なりとも伸びている要因になるだろう。
 
【委員】
・今回の一番大きなところは、テクニカルレポートという形で整理された点だと思っている。テクニカルレポートが公表されたことの意義は、どれだけ強調しても強調しすぎることはない。
テクニカルレポートとしては、まだ十分でない部分もある。例えば、教科教育の面で、PISAやTIMSSにおけるProficiency Levels(習熟度)のように個々の問題の難易度を示したり、どのような能力を測定しているのかといったことだったりを示していけるとよいと思う。「保護者に対する調査」に関しても、設問の内容やその意図等も記載していければよい。
・一方で、テクニカルレポートが公表されると、使われている技術や資料の読み取りが非常に難しくなってくる。その意味では、今後、様々な面から十分なサポートが必要だろう。情報発信という面でも、それを受け取る方々のリテラシーの向上という面でも、大学教育等を含めて、関連する教育の面においても非常に力を入れていかないといけない。
・普段から申し上げているが、このような大規模学力調査を行うには、それを支える行政機関に対して、人的なサポートをもっと手厚く拡充していかねばならない。
 
【委員】
・「保護者に対する調査」の結果をいろいろと見て、かなり深く質問されていることに驚いたが、これだけ詳細にデータを取っていただくと、様々な分析ができると思う。
・自身の経験から、親がPTA活動等に参加している家庭の子供は、よい子が多いと感じる。その理由の1つとして、親が学校に頻繁に来る機会があるので、家庭と学校の距離やつながりがよい方向に作用しており、結果として、子供が落ち着いて学校に通うことができる、または勉強ができるということにもつながっているのではないか。
・家庭での教育の重要性について、「保護者に対する調査」の設問にもあったが、家庭で、子供と勉強の話や学校生活、日常の話などをたくさんすることがとても大事だろう。その中では、勉強の話だけでなく、家庭でもいじめの問題に関する話をするということがとても大事だと考える。
・子供の成長については、学力とともに体力も大変重要なキーワードだろう。コロナ禍の影響もあるが、今回の質問の中には、体力に関する質問等々がなかったのが残念。
 

議事2: 令和3年度全国学力・学習状況調査結果の追加分析について

資料7に基づき、耳塚座長、垂見委員、冨士原委員*より御報告があった。委員の主な意見は以下のとおり。
*分析・活用等ワーキンググループ委員

【委員】
・私の立場からすると、学校がコロナ禍においても様々工夫しながら取り組んだことがわかり、元気をいただいた。具体的な教育活動の工夫については資料内で示されていたとおりで、本校でも同じような取組をした。授業づくりという視点で本校が取り組んだことは3点ある。1点目は、授業時数が限られたため、ポイントを押さえた授業づくりに全校で取り組むこと、2点目は、話すことができにくくなったため、書く活動を重視し、書くことで、お互いの学び合いの活動をすること、3点目は、心と体の一体化を図るような授業づくりを行うことである。本校では、その3つを重点に置き、保護者にも丁寧に説明・周知して、組織的に取り組んだ。
 
【委員】
・先ほどから御意見が出ているが、今回の結果は、学校現場の先生方による多大なる御尽力、御協力、支援があっての成果だと感じる。本県は、臨時休業期間が全国で最も短かったが、それでも先生方は、放課後あるいは夏休みの補習等を使って子供たちに対しての支援を行っていた。その意味で、学校と子供たちがつながっていること、子供たちと先生がつながっていることが学力の大きな基本ベースであるということを、改めて認識した。今回の追加分析の結果が、結果だけでなく、そのような背景を全国にしっかりと発信していただけるような形になればと願っている。
 
【委員】
・コロナ禍の臨時休業を挟んでも学力の低下が見られなかったというのは、非常にありがたいこと。臨時休業中をはじめ、コロナ禍にあっては、「パソコン端末を活用すればリモートによる授業ができるじゃないか」、「集合しなくても学べるじゃないか」、「これからの学びの姿というのは、こうあるべきじゃないか」などという考えや意見が、一時期発せられたり見られたりした。学力低下が見られなかったということによって、学校は不要なのだという議論にはなってほしくない。
・臨時休業で学力への懸念が生じたとき、それが子供たちの課題にならないよう、学校は様々な工夫をし、そして、夏休みの短縮や土曜授業の実施、あるいは行事の精選などによってカリキュラムの遅れを何とか取り戻そうと努めてきた。先ほどお話があったように、この20年ばかり、学力低下が課題となっている中、学校は、これまでずっと学力向上に向けて授業改善を図りながら、様々な工夫をしてきた。こういった取組が、子供たちの学力低下に至らなかったのではないのかと期待を込めて考えている。
・一方で、こういった臨時休業が長引いたことにより、直接コミュニケーションをとる機会や体験の機会が失われ、さらに行事が中止になったり制限されたりすることによって、心の問題や体力の問題が課題になっているのも事実である。暫定的ではあるが、臨時休業期間が長い学校は学力の差が大きいという説明も先ほどあった。個別の学習はまだまだ課題になるのではないだろうか。こうした結果を拝見し、改めて学校の意義や大切さというものを感じさせられた。

議事3:新型コロナウイルス感染症の影響等に関する調査研究について

資料8に基づき、川口委員より御報告があった。委員の主な意見は以下のとおり。

【委員】
・1人1台のタブレットが配布された。昨年度の臨時休業と今年度の休業では、中身が全然違う。双方向授業をしたり、いわゆる宿題という概念を問い直し、個別最適化されたものを課したりしている。そう考えたとき、このデータは、1人1台タブレットの配布によって多少は変わっているだろうか。
 
【委員】
・非常に難しいところ。詳細なデータが存在するわけではないが、自治体によって大きく状況が違うように思われる。1人1台端末は配られたが、それをどう活用するかもオンライン回線の準備状況も、自治体によって差がある。今後、これらの差が子供にどのような影響を与えるのか検討していく必要がある。

 

お問合せ先

総合教育政策局参事官(調査企画担当)付学力調査室

(総合教育政策局参事官(調査企画担当)付学力調査室)