児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議(令和3年度)(第1回) 議事要旨

1.日時

令和3年5月7日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

Web開催

3.議題

  1. コロナ禍における児童生徒の自殺等に関するヒアリング
  2. 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議審議まとめ(項目案)
  3. その他

4.出席者

委員

   新井委員,内野委員,荊尾委員,窪田主査,阪中委員,中馬委員,坪井委員,松本委員

ヒアリング協力者

   和歌山大学教育学部附属三校教育相談コーディネーター,厚生労働省大臣官房参事官(自殺対策担当)

文部科学省

   瀧本初等中等教育局長,蝦名大臣官房審議官(初等中等教育局担当),江口児童生徒課長,鈴木生徒指導室長

5.議事要旨

【主査】 本年度第1回であるが、昨年度から継続して検討してきていることもあるので、そこを説明してから議事に入る。
昨年度第3回の会議では、これまでの取組に関する審議のまとめの検討、コロナ禍での児童生徒の自殺の深刻な状況を踏まえて、今後の具体的な施策の方向性について議論した。
自殺予防については、全ての児童生徒を対象とした心の健康に関する教育・啓発の推進、ハイリスクの児童生徒の早期発見・早期対応、そして、ハイリスクの児童生徒については、関係機関と連携して命を守っていく重要性を再度確認した。それを受け、前回は、ICTを活用した児童生徒のサインの受け止めに関するヒアリングを行い、今回は、主として関係機関との連携・協働、それから、厚労省から自殺対策の全体像とその中での児童生徒を対象とした取組について、ヒアリングを行う。
最初に、和歌山大学教育学部附属三校教育相談コーディネーターから御説明をお願いしたい。
【和歌山大学】 「コロナ禍の学校生活における新たな課題・取組・連携の可能性」について、説明させていただく。
性教育や中学生の自殺予防の対策について研究している。
本日お伝えしたいのは、コロナ禍における学校や児童生徒の状況の変化、教育相談体制・校内連携、地域連携による「命を守る取組」の展望についてである。
まず、コロナ禍における変化について。和歌山大学教育学部の附属学校は、小・中学校が同じ敷地内にあり、特別支援学校が少し離れた場所にあるが、私は三校の教育相談を担当している。
学校におけるコロナ禍の影響としては、学びの多様化、オンライン学習の機会、不登校児童生徒の欠席状況に対する罪悪感の解消が挙げられる。また、社交不安の強い生徒たちは、マスク生活が当たり前になり、とても生きやすくなったという声もある。
大人社会の縮図として、子供たちも影響を受けている。家族が密集化し、格差が生まれ、社会で受けたストレスを家族関係の中で八つ当たりする状況もあり、孤独を感じる子供たち、自傷行為についても聞いている。
また、ネットの使用頻度が上がり、リモートワークの大人社会と休校中の子供社会において、オンライン上での接点が増加した。
加えて、YouTubeの視聴により、年齢不相応な刺激を受け、リアルな家族関係が希薄化して、家にいながらも孤独感を抱えたり、ネットやゲームへの依存傾向も強くなったりした。
毎日通学する当たり前の学校生活が奪われ、校内行事も縮小や中止になった。学校行事が多いときには自殺者が少ないと言われることからしても危機が高まっていると考えられる。さらに、オープンキャンパスの中止により、キャリア選択、将来の希望などに不安を持つ子供たちもいる。新たな対応として、既往症のある家族への配慮でコロナ感染症予防の観点から自主休校を決定する生徒もいるので、学力保障などの対応も急務。
自傷行為に加え、摂食障害の予備軍と思われる食への影響も深刻だ。異性との交遊が活発になり、刺激や居場所を求める生徒もいる。逆に、休校期間中にたっぷり寝て、小学校1年生などは、体が成長した、整ってから入学できたという良い報告もある。
次に、連携体制について。子供を多角的に支援するという視点、家族を取り巻く背景要因に注目することを心がけている。多様な家族にアプローチするためには、教育の場ではありながら、福祉、医療、心理面の支えが必要で、開かれた学校として、子供たちを学校が抱え込まないことがより一層求められている。
また、「チーム学校」として、養護教諭、図書館司書、栄養教諭、スクールカウンセラー(以下SCという。)など、多くの専門職が学校内にいるので、その先生たちから、子供の年齢発達、障害や病気などの専門知識やアドバイスを受け一緒にケース会議を行っている。このように、校内連携をまず充実させることが重要であり、その基盤は信頼関係とリスペクトである。
不登校支援についてもお伝えする。6月の学校再開時には、生活リズムや気持ちを切り替えることができず、登校が難しくなった生徒もいる。その際は、1人1台端末のタブレットを用いて、オンラインで朝の会のみに参加したり、アプリの「ロイロノート」を用いて、担任やクラスの友達とやり取りをしたりすることもあり、作った料理など自宅で行った活動を共有する生徒もいた。また、放課後や夜だけの登校や、制服を着用せずに短時間登校するなど担任や学年集団が柔軟な対応をおこない学校との架け橋が途絶えないように工夫している。
中学生段階では、つらいときに自分の心身の状態を把握したいと、質問してくれることがある。その際は、グループや個別など、その時々に応じた心理教育を行っている。相談室には、気軽に読める漫画付きの専門書等を置いており、一人で学ぶこともでき、安心できる仲間や大人が関わりながら自己理解を深めるように努め、居場所感を学校で保障するよう心がけている。
次に、虐待について。子供たちは、自分が虐待環境にあると認識していないことが多いため、自分がなぜしんどいのかということに関する心理教育も必要。また、連携機関につなぐ際には、保護者にも配慮し信頼関係を大切に、慎重かつ緊急性を意識して、関係機関との調整を行っている。
また、ストレスなどで友達間のトラブルがあると、手が出てしまう生徒も増えている。その背景には感情コントロールの問題があり、それを学ぶ機会がなかなかない。トラブルにより自分自身も望んでいないのに暴力を振るってしまい、自尊心も低下している生徒が、個別に専門機関からのアドバイスを受けながら、専門家との間での良好な関係を経験することで、結果として家族とも良い関係が保てるようになったケースもある。また、極端な白黒思考が和らいだ生徒もいる。
近年、さみしさや愛着を満たすために、SNSの使用が増え、SNSによるトラブルも生じている。再発防止には、メディアリテラシーに加えて、生徒指導面だけではなく、心理的な支えも重要。その際には、安心感や充足感を増すための心理的や、また、保護者とも協力の上、家庭でも安心感を持てるように、保護者自身の安心や、家庭内の温かい雰囲気づくりを支援している。
また、学校外の連携はチャレンジと言える。そこでも信頼関係とリスペクトを基盤として、まず連携機関による支援の特徴、すなわち、学校側が連携機関につなぐことでどのような支援が可能なのかを把握することが大切。児童生徒が連携機関に出向けない場合は、学校側が連携機関から助言を受ける、もしくは両者間で相談することにより、校内支援が進むこともある。そして、連携の際は、どのような支援を期待して繋ぐのか、誰がキーパーソンになるのかなどを明確にする必要がある。
子供たちのニーズが明確になるのを待つのではなく、切れ目なく、一人で問題を抱えないような支援を心がけている。特に附属小学校・中学校は隣接しているので、人的・物理的にも近い距離での連携が可能。継続的な支援の可能性も重要と考えている。
続いて、地域連携支援による「命を守る取組」の展望についてお伝えする。
和歌山は小さなコミュニティのため、それを生かし、特に附属特別支援学校では、地域の共通課題は、地域の関係機関と連携しながら解決するというケアシステムを築いている。その際、性教育がどの学校・専門機関でも、大きな課題となった。多くの協力者の力もあり、地域包括的な支援モデルに基づき2019年には、100名以上の協力を得て、一冊の書籍を刊行できた。
地域連携により地域課題を解決する経験から、子供たちに対しても大人がためらわずに伝える大切さ、教育の力を実感している。例えば、附属中学校では、昨年度、SDGsの学びから、女子もパンツの制服を生徒会が提案し、採択された。これにより、自己表現をしやすくなったという生徒もいる。
子供たちの性や生きることに関係する成長発達を促すため、2021年3月には、多職種の連携の下に、SOSの発信プロジェクト教育をオリジナルの3部構成で実施し、テレビでも放映された。
中学2年生にワークショップを実施した結果、アンケートでは、SOSの発信プロジェクト実施前は、苦しいときに一人で抱えてしまう生徒が半数であったが、プロジェクトの実施後は、SOSを発信できそうという生徒が86%になり、この教育は必要だという生徒も97.8%となった。プロジェクトに対して、保護者も協力的で、保護者からの支援も受けている。
このSOSの発信プロジェクトの特徴だが3部構成でまずロールモデルとして、メンタル危機を経験した高校2年生がゲストティーチャーとして、附属中学校を訪れ、SOSの出し方の具体的な方法をワークショップで行った。次に、生徒は、精神科医のビデオレターで中学生に必要なメンタルヘルスの知識、「SOSを出す必要性」を学んだ。最後は私が担当し、精神科医の話を受け、自分自身はどのようにSOSを出せるのか、また、友達はどのようにSOSを出しているのか、自分ごととして考える時間とした。140人の2年生を2回に分け、70人ずつでプログラムを実施したところ、生徒からの評価もよく、楽しく参加してくれた。経験者の話、正確な知識、そして、自分ごととしての学びが生徒たちに影響を与えたと考えている。
プロジェクト後、メンタルヘルスの話題が、生徒にとって身近なものとなった。結果として、特に一番しんどい子供たちが激変したように感じている。しんどいときは一人で抱え込まない、我慢しない、そして、iPadに自分のつらいことを書き出すなど、自分なりの方法で伝えてくれる生徒もいる。自分が抱えているものを外に発信する経験が、子供たちに少しずつ浸透してきている。その分、大人にとっては対応の手間がかかるが、喜ばしい影響として、真摯に対応している。
昨年度から、やはり生きづらさを軽減するためには、自分の状態の把握や周囲の友達への理解が不可欠だと考えている。自己理解や他者理解を促すため、グループワークを実施した。昨年度からは、中学校から開始するのでは遅すぎるということで、小学生に対してもワークショップを行い、コミュニケーションが少しずつ豊かにできるように変化もしてきている。
和歌山は小規模のコミュニティなので、若者の声を消さずに大きく育てる温かい風土もある。実は、先ほどのSOSの発信プロジェクトは、高校2年生が発案してくれたものであり、ピアの関係で学びを伝達する屋根瓦方式が採用されている。先輩の話を聞いた後輩が、次回はワークショップの担い手になっていくという形で、聞く側、そして伝える側を次世代に順番につないでいくという方法をとっている。これにより、持続可能な学びが実現できる。今回は他校の高校2年生が来てくれたが、来年度からは、附属中学校の3年生が下の学年に、このSOSの発信プロジェクトを伝えていくというシステムを導入していこうと考えている。また、「コトバのなる木」というLINEアカウントを発案した高校生もいて、このアカウントはストレスチェックとポジティブ変換の機能を備えている。
「コトバのなる木」では自分のストレスが点数で表示され、また、ネガティブな言葉を言われた際、それをポジティブな言葉に変換したLINEの返信が返ってくるシステム。まだ試作品なので、改良を重ねるなら、実用の可能性があると考えている。
よりよく生きる、幸せに生きるということを、教育の分野で子供たちに伝えていく必要がある。それは豊かな包摂社会の創成につながる。そのためには、地域連携が不可欠。
学校現場で、子供たちのしんどさ、実情に合わせた教育の重要性が高まっている。後追いではなく、より予防的・開発的な教育を促進する努力が重要とも認識している。
【主査】 続いて、厚生労働省より御説明をお願いしたい。
【厚労省】 資料3の2ページ目が今年に入ってからの自殺者の状況を示している。昨夏以降、自殺者が前年比で大幅に増加しており、特に女性の自殺者の増加が顕著である。今年に入ってからも、同様に女性を中心に自殺者が増えているという状況が続いており、大変深刻な状況が続いている。
次のページは、昨年の自殺者の状況である。夏以降、自殺者が増え、特に10月は芸能人の自殺報道もあるなど、大幅に増加し、大変深刻な状況となっている。また、資料3の4から7ページ目にかけてだが、小中高生の自殺が非常に増えて、過去最多となっており、大変厳しい状況にある。
次に、資料3の7ページ目が自殺対策の概要。根幹である自殺対策基本法は平成18年に制定され、平成28年に改正されている。第2条の基本理念において、自殺対策は、保健、医療、福祉、教育、労働その他の関連施策との有機的な連携が図られ、総合的に実施されなければならず、福祉部局による対策だけでなく、教育を含む様々な施策が有機的に連携をして、実施されなければいけないという基本理念を示している。
また、第13条では、都道府県自殺対策計画等について、都道府県や市区町村は、それぞれ自殺対策計画を定めることとされている。他の福祉関係の法律では、自治体に計画を定める努力義務が定められているのが一般的だが、この自殺対策基本法においては、努力義務ではなく義務とされている。
それから、17条においては、心の健康の保持に係る教育・啓発の推進等について、学校の役割が明記されており、SOSの出し方教育や、その他の啓発、心の健康の保持に関するものが規定されている。
次に、8ページ目だが、基本法に基づき、5年ごとに「自殺総合対策大綱」を定めている。現在の大綱は、平成29年7月に閣議決定されたもので、基本理念や認識、基本方針、重点施策を定め、特に重点的に実施していくものを示している。
また、日本の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)は、以前は20を超えており、先進国の中でも極めて高い数字であった。この大綱を定めたときが18.5だったが、これを平成38年までに30%以上減少、すなわち、13.0以下にするという目標を立てている。各国、主要な国の自殺死亡率も示しているが、13.0になれば、欧米の国々に近づくことができるということになる。
令和元年は過去最少の自殺者数となり、自殺死亡率も15.7まで下がっていた。しかし、昨年の自殺者数の増加により、16台に上がってしまった。
続いて、9ページ目だが、大綱の中の重点施策は12項目あり、11番目で子供・若者の自殺対策を特出ししている。それ以外の1から10までの項目でも、それぞれ子供に関係する取組にも触れており、様々な対策を講じている。
具体的には、SOSの出し方に関する教育の推進、子供・若者の自殺の調査、教職員に対する自殺対応の普及啓発、学校における心の健康づくり推進体制の整備、児童虐待、不幸にして学校等で自殺・自殺未遂が起きた際の事後対応の仕方、それから子供・若者の自殺対策の推進ということでいじめ対策や、子供への支援の充実ということで困窮家庭における子供への学習支援にも触れている。児童生徒の自殺の原因では、学校問題が一番多いが、家庭問題や健康問題、具体的には、うつ病や精神疾患による自殺も非常に多い。また、児童虐待に関連して、ひとり親家庭の支援も大綱の中に含まれている。
大綱以外にも、座間事件があった後に、再発防止の閣僚会議決定がなされ、それに基づき、SNSの相談事業も進めているところ。
それから10ページ目だが、自殺対策においても、地域における連携を推進していくことが重要。都道府県、市区町村において、様々な機関のネットワークを整備していただき、どこかに相談があれば、悩みの内容に応じて関係機関につなぐ仕組みづくりを進めている。
国では、都道府県あるいは政令市に設置されている地域自殺対策推進センターに対して、情報提供・研修などを行い、このセンターから管内の市区町村に対して支援・助言等を行っている。
また、特に子供は電話での相談が難しい場合もあるので、SNSの相談から、相談内容に応じて地域の関係機関につなぎ、根本的な問題の解決を図ることで、自殺を防止する取組を行っている。
次に11ページだが、都道府県、市区町村は自殺対策計画の策定義務があるが、計画策定の手引を厚生労働省で作成しており、これを参考に、各都道府県、市区町村において計画を作成している。
この手引では、計画の策定に当たり、市区町村長、教育長等の行政トップが責任者となり、庁内の幅広い関係部局が参画し、庁内横断的な体制を整えることが重要であること、それから、計画策定過程において、子供の虐待防止に関するネットワーク、教育委員会、児童相談所など、関係機関のネットワークづくりが重要であることを定めている。
計画策定の流れや体制整備の中で、教育長、あるいは教育委員会が参画する仕組みを例示しており、各自治体において、知事部局のみならず、教育部局も連携して、計画の策定、それに基づく対策の推進を行っていただいている。
続いて、12ページだが、1つの取組例として、長野県では「子どもの自殺危機対応チーム」を設置している。長野県では児童生徒の自殺が非常に多いということで、知事の問題意識により、その指示の下でこうしたチームが設置された。
チームは、精神科医、心理士、精神保健福祉士、弁護士、NPO等で構成され、県内に4つの地区チームが設置されており、現時点では、中央のコアチームのみで対応している状況。
学校や市町村では対応が困難なケース、具体的には、自殺未遂歴がある子供、自傷行為の経験がある子供など、非常にリスクの高い子供をどのように支援すればよいかという場合に、コアチームに相談し、それに基づいて支援していくことになる。
対応の流れとしては、まず地域の支援者、学校や市町村などが対応困難な児童生徒がいる場合に、コアチームに支援要請を行う。これを受け、コアチームでは専門的な見地から検討し、助言をする。この助言を基に、学校・市町村などが対象児童生徒あるいは家族に対して支援を行うという流れ。約1年半実施したところ、今まで21件の困難事例があり、今このチームの中で継続的に支援を行っていると聞いている。
最後に、14ページは、児童虐待の対策について。児童福祉司を約2,000人増員し、児童虐待の防止のために取り組んでいるところである。
【主査】 それでは、先に和歌山大学に対する質問、その後、厚生労働省に対する質問を受け付けるという形で進めたい。
【委員】 和歌山大学に質問したい。通常の公立の高校では、教育相談係が置かれており、教員が校務分掌として担当している。そして、スクールカウンセラーが、中学校の場合には週1回定期的に来る。他方で、和歌山大学のような教育相談コーディネーターは、どのような勤務体系で、学校の中でどのように位置づけられていて、教員との連携をどのように取っているのか。
また、SOSの発信プロジェクトについては、学校の授業の中のどのような時間を使って展開したのか。そして、教員がどのようにそこに関わっていたのか。
それから、このプロジェクトにおいて、保護者の協力を得るために、どのような工夫をしたのか。
最後に、SOSを出すときにどこへどのように発信するのかという点について、子供たちにどのように伝えているのか聞きたい。
【和歌山大学】 勤務体系は常勤で学校現場での支援実践と研究を行う立場。今に至る9年間、附属3校で教育相談コーディネーターを行う。役割としては教員と協働し、児童生徒や保護者のカウンセリング、コーディネート、ソーシャルワーカー的な立場で働くこともある。欠席している子供たちをチェックし、放課後にはケース会議などもして、特に担任との情報共有を図っている。対面での情報共有が困難な場合は、メモのやり取りなどで共有を図っている。
次にSOS教育については、特別活動の時間に実施した。管理職の後押しもあり、2年生の学年主任が中心となって、授業の組み立て方について打合せを重ねながら、私から提案した大まかなプロジェクトのラインをもとに、合意を得ながら丁寧に進めた。
また、保護者の協力についてだが、附属学校の育友会は非常に熱心で、普段から学校に訪ねてきていただいているので、コミュニケーションを図るようにしている。
その中で、校内で取り組みたいメンタルヘルスへの知識や、SOS発信教育についても提案し、理解や協力を得られ実施が可能になった。親も共有したいとの声もある。
また、SOSをどこにどのように出すのかという点については、身近な人に言えないときは専門家に頼ってほしいということを伝えている。相談ダイヤルや、手紙で相談できる機関もあるので紹介した。身近な学校内にもスクールカウンセラーがいることや、担任もまず話を聞きたいと思っていることを伝え、どんな形でもいいので、まずは3人以上にチャレンジして声をかけてくださいと伝えている。
【委員】 学校と地域との連携がこのような形で進められている大前提として、長年にわたる様々な信頼関係とリスペクトが地域にあるということがあるのだろうと感じた。その上で、校内でこういう問題が起きたときに、地域の専門家につなぐキーパーソンになるのは、校内では誰になるのか。和歌山大学のようなコーディネーターが、地域の専門家、児童相談所、精神科医につなぐ役目を担うのかということを教えていただきたい。
それから、自殺の背景として精神的・心理的な問題、メンタルヘルスの問題があるということを子供たちが知ることが安心材料になるのではないか。自分が弱いから、自分がみんなから嫌われているからいけないと思っている子供たちからすると、病気だったということを知ることがとても重要ではないかと思う。この点について、今回の説明の中にあったビデオレターや、藤田先生からの説明を通じて子供たちに伝わったというのが、100%近い子供たちの授業評価につながっているのではないかと感じた。
自殺の背景にメンタルヘルスの問題があるということは、この調査研究協力者会議でも課題として発言してきているが、まだまだ理解されていない。先生たちの中で、メンタルヘルスの問題が子供たちの自殺の背景にあるということが既にもう共有されているという地盤があるのか、保護者の間でもそうなっているのかということを聞きたい。
【和歌山大学】 連携のキーパーソンは、現職に就いて9年ですが、当初は管理職、校内コーディネーターと相談の上、窓口を担当することが多かった。
地域連携機関との連携の機会やケースの増加に伴い、校内で情報共有、ケース会議後に、連携のキーパーソンを選定し、担任、主任、管理職も窓口となることがある。
SOS発信プロジェクトのプログラムの内容については、精神科医の先生と、どのような内容のビデオレターを作るのかということも十分に相談した。具体的には、どこまで伝えるのか、伝えることのリスクはないのかについて検討した。内容では、発達障害にも触れている。また、自殺という言葉の使用については、正直なところ躊躇しましたが、曖昧な表現では子供たちには通じない子供たちのほうがいろいろネットで情報を知っているので、正確な知識を伝えるという点を最も重要視した。それを教員と共通認識を地盤にしたことが、今回のポイントと思っている。
子供たちの世界が、メンタルヘルスの問題に関してはリアルに先行しているので、教員・学校がより理解を示し、寄り添う必要があり、保護者ももっと理解したいという気持ちを持っているため、親子で、メンタルヘルスの知識を豊かにしていくのは重要と考える。
【主査】 続いて、厚生労働省への質問をお願いしたい。
【委員】 子供の自殺の危険因子の一つとして、虐待の問題も重要と考えている。
虐待は子供たちの心の育ちへ大きな影響を与えるものであり、一番の問題は、心の奥底に、自分には価値がない、人に助けを求めるに値しない人間だという一種のセルフスティグマや、人は結局裏切るから信じられないという思いを植え付け、要するに、援助希求的態度の乏しさに非常に決定的な影響を与えるところにあると考えている。
その中で、「SOSの出し方教育」において、私もSOSを3人の大人には出しましょうと言っているのだが、虐待を受けた子は、最初の1人で失敗すると、もう絶対にその先には進めないという現実がある。多くの子供のSOSの発信先は周囲の友達である。そのため、学校の先生はもちろん、生徒に対するSOSの気づき方や受け止め方に関する教育が実は必要。
それから、SOSを出す先をどうするのかが悩ましい。実際、精神科の臨床場面では、虐待を受けている10代の子供たちが警察にSOSを出したら、警察が親に連絡をし、親を呼び出して叱責して、家に帰った後、さらに親から虐待を受けるという例も日常的に起きている。
そうすると、SOSの受け止め方とか気づき方に関して、教員のみならず、保護者に対しても何らかのメッセージを出していかなければいけない。これを教育でやるのか、福祉でやるのかを今後考えていかなければいけないと思う。
虐待予防が一番大事であるが、メンタルヘルスの問題に大きく影響を与え、周囲から感知されないタイプの虐待は、明らかな虐待ではなく、あなたのためを思えばこそ言っているというような、表面的に見るとむしろ良い親のように見えるケースが結構多い。そのため、なかなか感知されにくい。
こうした保護者にメッセージを発する際、学校の保護者会等を軸にすると、問題を抱えた保護者にはアクセスすることができない。親がメンタルヘルスの問題を抱えている子供たちの方が、リスクが高かったりするが、メンタルヘルスの問題を抱えている保護者にとっては、保護者会は忌避する場所でもあるので、一番問題の多い家庭にアクセスできない。
そうして居場所を失った子供たちは、引きこもりはもちろん、性非行に走る場合もある。あるいは、居場所がない者同士が、非行や犯罪集団の中に入っていく場合もあるので、メンタルヘルスの教育だけではなく、様々な逸脱行動にも視野を広げていかなければいけない。要するに、SOSの出し方教育だけで十分なのかが1つ目。それから、アクセスが困難な保護者に対して、どのようにアクセスし、情報発信するのかが2つ目。そして、3つ目は、居場所のない子供たちに対するサポート体制は、現在の児童生徒の自殺対策の中でどのように位置づけられていて、どのような対策があるのか。この3点について聞きたい。
【厚労省】 まず「SOSの出し方教育」については、御指摘のように、悩んでいる児童生徒がSOSを出して、一人で悩まないようにというところだけに焦点が当たっているのかもしれないが、それだけではなく、周りの児童生徒が、悩んでいる友達がいたらそれに気づいて、話を聞いてあげるなどの教育も含めて行われるが望ましいと考える。
それから、アクセスが難しい家庭に対し、どのようにアプローチするか。これは自殺関係のみならず、生活困窮、ひとり親支援でも同様だが、プッシュ型の情報発信をしていくべきだと言われている。
難しい問題ではあるが、厚生労働省では、文部科学省と共同して、悩んでいる際、スマホで検索すると相談窓口が表示されるといった取組を進めている。検索することが条件にはなるが、相談窓口があるということを周知していけば、悩んでいる方に対して相談先を知らせて、アクセスできるようになるのではないかと考えている。
もう一つは、各自治体でも実施していただいているが、ゲートキーパー研修が重要。主に自治体職員、支援者の方が受講していることが多いが、自治体によっては、一般市民、学生に対して行っているところもある。より幅広い層に、ゲートキーパー研修を受講していただければ、気づきのきっかけになる可能性もあると考えている。
3点目の居場所づくりも、非常に重要な課題と捉えている。厚生労働省としても、地域の自殺対策交付金で居場所づくりを行う自治体に対し、十分の十補助を行うと発信しているが、なかなか手を挙げる自治体がないのが現状。それ以外にも、生活困窮者の自立支援の関係で、学習支援、子供の居場所づくりといったようなことも行っている。
1つの取組で解決する問題ではないが、様々な方面からの居場所づくりを行い、一人でも多くの児童生徒や、あるいは児童生徒に限らず、悩んでいる方を支援し、自殺を防止できればと考えている。今後も、引き続きそういった取組を進めていきたいと考えている。
(資料4及び参考資料1について、事務局から説明があった。)
【委員】 和歌山大学からは、御自身が教育相談コーディネーターであり、常勤スタッフとして学校に入っていると伺った。附属の小・中、特別支援学校で、生徒総数が1,000人ぐらいかと思うが、スクールカウンセラーも別にいるという話であった。
一般的な公立学校では、授業を持たない、教育相談担当の先生もいる。もっと言えば、小学校で生徒指導主事を法的に設置できることとされており設置されていない学校もあるが、中高は必ず設置されている。授業が軽減されず、担任を兼務しながら生徒指導主事を行っているケースがほとんどだ。教育相談担当者が授業軽減されている例は、極めて少ない。ハイリスクな子への関わりや、自殺予防教育を進められたのも、和歌山大学の存在が学校の中にあるということが極めて大きい気がする。施策を展開していくにあたり、それを担うマンパワーをどのように考えるのか。スクールカウンセラーでさえ常勤ではなく、週に1回行っているという状況を考慮すると、学校の中にその担い手をどのようにマンパワーとして位置づけるのかが重要。
チーム学校という理念の具現化において、関係機関との連携で専門家を投入することは、方向性として重要。ただ、その際に、教育の専門性を持った学校というのをどうやって位置づけるのかが気になる。厚生労働省の地域支援のコアチーム、それから、4つの地域チームに教育関係者が入っていない。つまり、学校は特殊だとは言わないとしても、子供たちが学んでいる学校のありようとか、教育といったものを踏まえ、関係機関との連携をどのように進めていくのかを考えなければならない。学校が何か問題を抱えたときに、外からの関係機関が無策に介入すると、学校と関係機関の連携は難しい。
つまり、連携を進めていく際の問題はマンパワー。連携のキーパーソンをどのように位置づけ、保障していくか。そして、施策を立てた際、それを一体誰がどのように担うのか。
自殺予防教育が浸透していないという指摘もある。1.8%という数字は、実は自殺という言葉を使った教育が1.8%ということ。自殺という言葉を出さずに自殺予防に関する教育を実施している割合はもっと高い。言い換えれば、ぎりぎりの中で学校の先生たちに御尽力いただいている。私は、この方向性で進めていくべきと考えるが、進めていく以上は、担い手を保障しないと、学校現場が疲弊する。そこが非常に懸念だ。学校と関係機関との連携の際の窓口、自殺予防教育を進める際の担い手、それらを誰がどのように担い、どれだけ人的補償があるかを抜きにして進められることではなく、この課題こそが自殺予防教育が普及しない大きな要因の一つと考えている。だからこそ、施策を展開する際に、国がその辺りをどのように担保していくのかが懸念。
【主査】 チーム学校の議論においても、専門職の教員定数化は、今後の検討課題として挙がっている。だから、きちんとそれが機能するためのマンパワーの体制も含め、チーム学校の施策の延長線上というか、目指す方向でもある。先程もICTの活用、関係機関との連携というように、3つ施策として挙げているところで、内外の連携体制の構築という形で、マンパワーのことやシステムのことも含めて打ち出せたらと考えている。
【委員】 ICTの活用が話に出てきたが、最終的には関係機関につなぐのは人であるため、人が非常に重要。そのため、担い手を育てていかなければならず、研修も必要であり、専門職との連携も必須だ。そして、それを誰がどのように担うのか。現状、様々な子供たちの様子を学校で見守っているのは、一人一人の教員ではあるが、業務量が多く、現場の先生たちは疲弊しているのが現実だ。
そのため、人材の担保が非常に重要だ。そして、それらの人材がどれだけの専門的な知識を持ち、どれだけ普及啓発できるのかが重要。
さいたま市においても、専門職を各学校に常勤という形で配置するのはなかなか難しい。SCは中学校、高等学校、中等教育学校には週一日、小学校には二週間に一日、SSWについては小学校に1週間に1日程度というような形になっているので、その方たちと連携する、コアになる人材が必ず必要。
また、自殺予防教育の推進において、自殺という言葉の扱い方、具体的な心理教育の内容について、現場の先生の参考になるものを、今回の審議まとめで提示できればいいのかなと感じた。
【主査】 和歌山大学の取組においては、私達が言及している「下地づくりの教育」を土台として、積み上げていった形で「SOSの出し方教育」が活かされており、そのあたりを具体的に示すことが非常に重要だ。
法においても、心の健康の保持・増進に関わる教育及び啓発と記載されており、その中から「SOSの出し方」のみが特だしされるよりも、包括的な心の健康に関する、保持・増進に関する啓発という体系において、適切に示されるべきではないかと考えている。
【委員】 今、話に挙がった連携のキーパーソンの問題、メンタルヘルスという点を強調した形での自殺予防教育の2点に関して賛成。
それと、第2章で記載されている自殺総合対策大綱と子供の自殺予防が、国の制度として適切に連携しているということを、より明示的にするべき。文部科学省と厚生労働省が同様のことを別々に発信していると、現場の先生が混乱する。特に、私が所属している教育委員会でも、自殺予防教育のことをお話しすると、文部科学省が出している自殺予防教育よりゲートキーパー教育のほうを現場では知っているということもある。
文部科学省が打ち出している自殺予防教育と厚生労働省が打ち出しているゲートキーパー教育の相違点などについて分析したことはないが、自殺対策を国として一体的に推進していると、学校現場の先生方に明確に分かるような審議まとめにしていただきたい。
例えば、厚生労働省の説明の中で、10ページに自殺対策の推進体制という形の図が出ている。これは児童虐待のときでもよく使用される図で、様々な関連機関の連携が必須であることを示しており、こうした図には、大方、学校も含まれていることが多い。しかし、長野県の事例では、コアチームには学校は入っておらず、地域自殺対策計画では、教育委員会が図の中に記載されている。
要するに、例えば、国全体の自殺対策の中で、学校がすべきことは予防教育や子供のSOSの受け止め、その後の家族支援だというように、自殺対策全体の支援の中での学校や教育委員会の位置づけをより明確にすべきで、厚労省と文科省が各々で言うのでなく、全体の中での学校の役割を明確にし、適切に打ち出すべき。その上で、学校が行うべき予防教育は、メンタルヘルス中心の自殺に適切に向き合う教育をすべきだということや、それを担う人的体制の充実がなければ現場が疲弊してしまうということを踏まえた提言ができれば、意義のある提言になると思った。
【委員】 自殺予防教育・ハイリスクな子への対応において、キーパーソンとなる人材をどのように確保するか、そして、それを明確にする重要性について、多くの委員から意見があった。審議のまとめ(項目案)にも、第2章の3番において、SOSの出し方に関する教育の実施上の留意事項が記載されている。これは文部科学省が今まで発信してきたことでもあり、SOSの出し方に関する教育において、留意いただきたいことについて記載している項目だと捉えている。この項目において、これらを留意するために学校の先生方に対する教員研修が必要不可欠だと記載した方が、先生方が具体的に学校の中で研修したり、キーパーソンに研修の場が提供されたりということがより進むのではないかと感じた。
【委員】 事務局に聞きたい。参考資料として出された緊急要望で、「児童生徒の自殺統計原票」導入による実効性の高い自殺対策への転換との記載があり、「自殺統計原票」が添付されているが、これは具体的に学校や教育委員会が記入することを前提に作成されているのか。それとも、これは単に一案として議員の方から提案があったのか。これについては、プライバシー・情報管理の観点から、非常に精度の高い情報をここに集約することとなるが、その点に心配ある。ITのアセスメントツールと同様の懸念だが、そのあたりの考え方を教えてほしい。
【事務局】 この緊急要望の提出に関わっているライフリンクの清水代表と直接お会いする機会があり、「自殺統計原票」について伺った。
要するに、自治体における警察や福祉部局、医療機関、そして学校がそれぞれ情報を持っているはずであり、これらの様々な機関が自治体内で情報を持ち寄って、自殺した子供やハイリスクの子供に一体何があったのかを分析し、次の施策につなげていくため、学校や教育委員会も「自殺統計原票」にあるような情報を提供できないだろうかということだった。
実際、学校は自殺があったときに背景調査を行っているので、そこで得られた情報を自治体内で持ち寄るデータの一つとして、集約できないだろうかということだった。その参考としての自殺統計原票の提案であったが、清水代表と話をしてみると、学校としての情報提供は遺族との関係で相当難しく、問題行動調査でも警察が把握している以上の詳細な情報は得られないということは、十分に理解していただいているようだった。
【委員】 「自殺統計原票」の趣旨は理解できたが、どのように意見をまとめていくのかという方向性に疑問がある。子供や家族の情報を学校が把握した場合、それをどこまで本人の了解なく開示していいのかという問題は、虐待問題を考える際と同様、非常に重要な論点だ。
要保護児童対策協議会については、法律で守秘義務の枠が決められており、子供に関わる関係機関が守秘義務の下で子供の情報をやり取りしながら虐待から子供を救うという仕組みになっている。
現在、こうした情報管理の仕組みがないまま、関係機関連携がなされていった場合に、学校、警察、児童相談所間で、子供の情報や家族の情報がどういった形で共有されるのかに懸念がある。
情報を誰が把握して、誰が点検するのか。教員が一方的に考えたものを書かれたら、親による事故情報の点検もできないまま、関係機関に共有されるということが考えられ、そういった共有方法には、難しい問題が絡んでくると考えられる。
情報共有しなくていいということではないが、守秘義務の範囲、情報管理の方法を明確にした上で、情報共有に伴う弊害を検討して、地域連携を図っていくべきと考えている。
【委員】 委員の意見に同感。学校と児童生徒の関係性、学校と保護者との信頼関係を考慮したとき、この原票は学校もしくは教育委員会が記入することを前提としているが、本当に可能なのか。
学校が当事者になる可能性があり、学校問題というものが絡んでくる可能性は少なからずある。その中で、子供の置かれていた状況、家庭状況をどこまで記入できるのか。
第三者委員会の委員を何度か経験したことがあるが、第三者委員会ですら捜査権はなく、実態をつかむのは極めて難しい。そして、第三者委員会として御遺族から情報を得るまでの前提として、信頼関係の構築が不可欠。
もしも自殺事案が起きた際に、学校と保護者との関係性が崩れていた場合に、立ち入って調査をしていくことは、ますます学校と御遺族あるいは保護者との信頼関係を崩壊させる可能性があり、この原票の記入を学校がやれるのだろうかと強く感じる。
現状では、問題行動調査において、子供たちの置かれていた状況が整理されている。それから、以前、匿名で、自殺した子供が置かれていた状況について、学校が分かったところまでは共有してほしいと依頼していた。非常にこの手の情報の扱いは慎重に行ってきたが、この「自殺統計原票」の記入を学校、教育委員会が行うとなった際には、非常に問題があると感じる。
また、先ほど厚労省から紹介のあった長野県の事例において、コアチーム、地区チームの中に、教育関係者が入っていないことが気になった。どのように支援することが子供にとっての最善になるのかを考慮した際、子供たちの学びの場・生活の場である学校や教育現場において、自殺の問題をどのように位置づけていくのかという視点が弱いと感じた。
【主査】 私も第三者委員の経験があるが、そういう点からも、「自殺統計原票」の活用は非常に難しいと考えている。それから、現在、自殺の要因を判断できない場合が半数を占めているというのは、調査不足というよりも、そもそも若年者の自殺の背景要因は簡単に把握できるものではないという、事柄の性質上の問題も絡んでいると考えている。
【委員】 私も同様の考えで、情報が不足しているから自殺の要因を把握できないというよりは、やはり本当に解釈が難しいケースが多いと感じている。
これまで、様々な児童生徒の自殺に関する裁判の意見書を作成する業務に関わってきたが、立場によって真実の見え方は多くある中で、しかも、学校と御遺族とが対立関係にある中で、このような情報がむやみに共有されることは非常に危険で、ましてや限られた解釈の難しい情報をもとに、断定的に実態を把握することについては、危険があると思う。
【委員】 自殺予防に係る取組の担い手としてのマンパワーについて、現実的には、教員を増やすというよりも、既に学校にSCやSSWが入っていただいて、非常に大きな力を発揮していただいているので、メンタルヘルスや関係機関との協働・連携も含めて、そうした人材を活用する必要がある。文部科学省もSSWを中学校区に配置するという動きを示していただいているところだが、こうしたSC・SSWなどの専門家の常勤化・定数化を強く願う。
今回の審議のまとめで、課題として、こうしたことは列記できると思う一方、児童生徒課の立場から、施策の方向性としてこれをうたうのは非常に難しいと思うが、今後の施策の一つの柱として、大きな問題意識を持っているということを明記していただきたい。
【委員】 「自殺統計原票」についてだが、学校と児童生徒の関係性や学校と保護者との信頼関係を考慮したとき「自殺統計原票」を学校での調査に導入することは、かなりハードルが高いと思う。
もう一点、学校現場は、個別の対応が必要な子供たちも増加している現状もあるので、子供たちのためにも教員のためにもマンパワーの支援は必要だと感じている。教職員は子供たちのために一所懸命頑張っていると思う。
【委員】 コロナ禍で社会不安が高まり、子供たちの自殺の問題が現実的に非常に深刻な状況になるなど、いろいろな影響が出ている。潜在的な予備軍まで考えれば、非常に深刻な状況だろうと思われる。したがって、審議のまとめの第1章を「コロナ禍における現状と課題」として、「課題」に言及するのみで終わりにしていいのかと思う。
つまり、コロナ禍において、まず学校として何をやるべきなのかという施策の方向性を打ち出しておくことが必要ではないか。3月に文部科学省から通知は出しているのだが、自殺予防に焦点を当てて、コロナ禍の今、何をやればよいのかという施策を打ち出す必要がある。そして、マンパワーの問題等も含め、中長期的に児童生徒の自殺予防に関する方向性を明示するべきではないか。現状の項目案では、コロナ禍で現状を踏まえて今やるべきことが第1章、今後、学校における自殺予防教育の方向性が第2章となっているが、一つはコロナのほうにかなり重点を置いて、今何をやるべきなのか、そして、もう一つは中長期的な取組の方向性を示すという構成にしてはどうか。コロナ対策をもう少し前面に出し、学校現場が見たときに、今何をやるのかということと中長期的な取組がはっきりと分かるように区分けしたほうがよい。
【主査】 具体的に言うと、今、第1章の1は現状と課題、2は施策という構成になっているが、この第1章の2を第2章にしてはどうか、という提案か。
【委員】 その通り。第2章で今やるべきコロナ禍における児童生徒の自殺予防のための取組を、第3章で児童生徒の自殺予防に関する今後の方向性、そしてマンパワーの問題などを盛り込んでいくという形でどうかと思っている。
【委員】 学校における自殺予防の取組の担い手といったときに、現状では、SSWやSCが非常勤の形で配置されている。また、生徒指導主事は中高であれば授業軽減がなされている可能性がある。あとは、養護教諭も担い手であると思う。現状の審議のまとめの項目案では、養護教諭という言葉が出てこないが、学校における自殺予防の取組の担い手として、位置づけを示しておいたほうが良いと思うがどうか。
【委員】 同感。養護教諭が子供のSOSをキャッチすることが多いと思うので、ぜひ入れていただけたらよいと思う。
【委員】 同じく委員の意見に同感。
養護教諭は、職務上、子供たち様々な背景を理解し、小さな変化や心のサインに気づきやすい立場にある。位置づけをすることで、養護教諭の気づきをより校内組織での共有・協働に活かせると思う。
【委員】 養護教諭についての今の意見は本当にその通りであり、もちろん子供たちの心のケアの面でも重要な役割を担っているとは思うが、ただ、コロナ禍において最前線で養護教諭が頑張ってくださっているのは、やはり感染症予防の面で、校内の中心的な役割を担っているので、こうした養護教諭の方たちにさらに大きな負荷がかかっていくことにならないよう、留意が必要だと思う。
【委員】 私も同じ考えである。
今、学級定員を減らすということで、市町村レベルで教員を補充するということを進めているが、なかなか人材が集まらない。
コロナ禍ということで、感染症対策の担い手としての養護教諭が最前線で非常に疲弊している。それから、先生たちも毎日消毒したり、子供と接する中でソーシャルディスタンスを取ったりする必要があり、本当に大変な状況が続いている。
例えば、この自殺予防を担うような包括的な児童生徒支援をする担当になる方がいたら、小・中・高校を問わず、授業軽減をもっとすべきではないか。その際、SSWやSCの時間数を増やすということや、あとは例えば、教員を退職して間もない方が時間講師として、教科の一部を担当する代わりに、他の学校の窓口になるような先生の授業軽減に活かすなどの方法もありえると思う。
小学校などでは、担任、生徒指導主事、教育相談担当を兼任しているという現実もある。だからこそ、時間講師をつけて授業軽減をするなどの手立てを緊急に実施できればよいと思うが、行政的には難しいのだろうとも思う。
【主査】 今後の会議の進め方について、事務局から説明をお願いしたい。
【事務局】 今回、審議のまとめの項目案について議論していただいたので、本日の議論を踏まえた項目について、メール等で次回会議前に委員へ提示したい。加えて、今後、審議のまとめ本文の執筆も進めていただきたいと考えているため、次回の日程とあわせて、あらためて委員に相談したい。
【主査】 それでは、会議を閉会する。

―― 了 ――

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