デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議(第4回)議事録

1.日時

令和2年9月23日(水曜日)16時00分~18時30分

2.場所

文部科学省東館13階 13F1~3会議室 ※Web会議での開催

3.議題

  1. デジタル教科書使用の際の留意事項等について
  2. その他

4.出席者

委員

(委員)
青山委員、赤堀委員、石戸委員、片山(敏)委員、片山(弘)委員、加藤委員、河嶌委員、黒川委員、齋藤委員、柴田委員、清水委員、白鳥委員、中川委員、中野委員、東原座長代理、福山委員、堀田座長、宮原委員、森委員
(ヒアリング)
宇津見 義一 日本眼科医会学校保健委員会副委員長
不二門 尚 日本眼科学会評議員
渡辺 弘司 日本医師会常任理事

文部科学省

矢野大臣官房審議官、浅野初等中等教育企画課長、桐生学びの先端技術活用推進室長、佐藤学びの先端技術活用推進室室長補佐、中川初等中等教育局視学委員、大塚情報教育・外国語教育課情報教育振興室室長補佐、小林健康教育・食育課保健対策専門官、神山教科書課長、高見教科書課教科書企画官、度會教科書課課長補佐

5.議事録

デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議(第4回)

令和2年9月23日



【堀田座長】 ただいまから,デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議の第4回会議を開催させていただきます。本日も,皆様お忙しい中御出席いただきましてありがとうございます。今回も新型コロナウイルス感染症の拡大状況を踏まえまして,ウェブ会議方式としております。
はじめに,このたび本検討会議に新たにお二人の委員に就任いただくことになりましたので,事務局から御紹介いただきます。
【神山課長】 それでは御紹介させていただきます。今後,デジタル教科書の制度の在り方や,教材との連携等,議論がさらに本格化することを踏まえまして,お二人の委員に御就任いただくこととなりました。
まず,お一人目ですが,NPO法人CANVAS理事長,慶應義塾大学教授の石戸委員です。教育におけるICT活用の分野に長年携わってきたお立場から,デジタル教科書の今後の在り方について御知見を賜ることができればと思っております。
もうおひと方,一般社団法人日本図書教材協会理事,一般社団法人全国図書教材協議会理事の森委員です。本検討会議において,デジタル教科書とデジタル教材の連携の在り方についても重要な議題となっておりますところ,教材分野に長年携わってきたお立場から御知見を賜ることができればと思っております。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。石戸委員,森委員,何とぞよろしくお願いいたします。後ほど御発言の際,簡単に御挨拶いただければと思います。
本日は,デジタル教科書を使用する際の留意事項等について,ヒアリングを行います。後半では,今後の論点整理に向けた視点について御議論いただきます。
本日のヒアリングにつきましては,柴田委員,清水委員に加えまして,3名に御発表いただきますので御紹介いたします。
まず,日本眼科学会評議員の不二門先生です。よろしくお願いいたします。
【不二門氏】 よろしくお願いします。
【堀田座長】 日本眼科医会学校保健委員会副委員長の宇津見先生です。よろしくお願いいたします。
【宇津見氏】 宇津見です。よろしくお願いいたします。
【堀田座長】 続きまして,日本医師会常任理事の渡辺先生です。本日は少し遅れての御参画とのことですので、後ほど御挨拶いただきます。よろしくお願いいたします。
それでは続きまして,事務局より資料確認をお願いいたします。
【度會課長補佐】 資料につきましては,議事次第にお示しのとおり,資料1から11,参考資料1と2でございます。不足等ございましたら事務局まで御連絡いただけますよう,よろしくお願いいたします。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。では早速,議事に入ります。まずは事務局より報告事項の御説明をお願いいたします。
【度會課長補佐】 資料2を御覧ください。本資料は,「令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」のうち,デジタル教科書の整備率についてお示ししたものでございます。
1ページの左側に調査概要をお示しておりますが,「(2)調査対象」について,デジタル教科書の項目は全国の公立学校を対象に調査を行っております。「(3)調査基準日」については,令和2年3月1日現在で調査を行っております。
右側は,指導者用及び学習者用デジタル教科書の整備率をお示したものでございます。まず,折れ線グラフが,指導者用デジタル教科書の整備率の推移です。令和2年3月現在で56.4%となっています。一方,学習者用デジタル教科書の整備率につきましては,今回初めて調査を行わせていただいており,8.2%という結果になっております。
なお,調査の回答の仕方については,教科や学年を問わず,デジタル教科書を1種類でも使用していれば「整備している」と回答していただくこととなっております。
2ページの表は,学校種別の学習者用デジタル教科書の整備状況をお示ししたものでございます。最下段の赤枠で囲っているところを御覧いただければと存じますが,「整備している」という割合は先ほど申し上げたとおり8.2%です。また,「意向はあるが整理できていない」という割合が25.4%となっております。
3ページの表は,学校種別の,学校における主なICT環境の整備状況等をお示ししたものでございまして,最下段に,デジタル教科書の整備率をお示ししているところでございます。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。この調査は毎年,経年変化を見るため行われているものですが,今回は3月1日付の調査ですので,いわゆるGIGAスクール構想に伴う整備が進む直前の状況になります。とりわけ,指導者用デジタル教科書は順調に整備率が上がっていますが,私たちが今回議論している学習者用デジタル教科書については,これから端末が整備され,それから導入が進むと一般的には考えられますので,今後,この「8.2%」という数字がどのように伸びていくかというところを注視してまいりたいと思います。ありがとうございました。
続きまして,本日の議事について,大きく2点説明いたします。
1点目に,デジタル教科書を使用する際の留意事項について,主に健康面の影響,あるいは保護者の立場からの御意見についてヒアリングをし,その後,質疑応答等いたします。
2点目に,後半では,これまでと同じように,事務局にてまとめていただいている今後の論点整理についての視点を基に,皆様から「さらにこういう視点が必要ではないか」といった御意見をいただく,あるいは深掘りしていただくという形で進めてまいりたいと思います。
まずは事務局より,本日の議事についてもう少し詳しく御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。
【度會課長補佐】 資料3を御覧ください。本日は,先ほど堀田座長からお話があったように,デジタル教科書使用の際の留意事項等について,健康面への影響や,保護者のお立場からの御意見についてヒアリングをさせていただきます。御議論いただきたいポイントとして,まず個別的事項を3点挙げております。一つ目に,参考資料1としてお配りしておりますが,平成30年に「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」を作成したところです。今後,児童生徒1人1台端末環境が整備され,学習者用デジタル教科書の使用が増える場合,家庭学習において使用する場合も含め,さらに留意すべき事項や対応方策は何か,という点を挙げております。
二つ目に,学習者用デジタル教科書の使用は,現在,各教科等の授業時数の2分の1に満たないことを基準として示しておりますところ,仮にこの基準を見直した場合,懸念される影響,その影響を最小限にするための留意事項や対応方策は何か,という点を挙げております。
三つ目に,保護者のお立場を踏まえた上で,学習者用デジタル教科書を使用することについて,今後配慮すべき点は何かという点を挙げております。個別的事項としては以上でございます。
また,本日の会議の後半で御議論いただく総論的事項といたしまして,これまでの会議における主な御意見を踏まえた,今後の論点整理に向けた視点――こちらは本日の資料9でございますが,特に令和6年度に向けた学習者用デジタル教科書の在り方や,教科書制度の在り方に関する各検討事項について御意見をいただきたいと考えております。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。今の事務局の説明につきまして,何か確認しておきたいことがございましたら,御質問いただければと思いますがいかがでしょうか。
特段挙手等ございませんので,本日はこの観点で議論いただきたいと思います。
では,健康面への影響につきまして4名の方々から御発表いただきます。まずは日本眼科学会の不二門先生より,資料4に沿って御発表をお願いいたします。
【不二門氏】 よろしくお願いします。大阪大学の不二門です。私は日本眼科学会の評議員と,日本小児眼科学会の理事を務めるほか,ロービジョン学会の理事長も務めておりますので,そういった観点から,事務局より御説明のあった二つの点についてお話しさせていただきます。
3ページを御覧ください。1点目に,平成26年に文部科学省にて作成された,「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」は非常によくできておりますが,我々の観点からは,「目と学習者用コンピュータの画面との距離を30センチ程度以上離す」ということが非常に重要ですので,留意点として追加したいと考えております。このことについてお話しいたします。
4ページを御覧ください。こちらが,そのガイドブックに載っている図で,良い姿勢で視距離を保ち,画面への映り込みを防止するということが書かれています。目の健康の観点から言うとこれに尽きると思います。
5ページ,6ページを御覧ください。私はこれまで,スマートフォンの使用による目への負担について実験を行ってきました。スマートフォンを見る際の視距離は,書籍を見る際の30センチに比べて20センチ程度と短くなっています。この30センチと20センチでは目に与える影響が大きく異なります。近くを見るときには両方の目が「輻輳」,すなわち寄り目をして,それと同時にピントを合わせる水晶体を膨らませ,ピントを合わせながら両方の目で見るという作業をしないといけません。視距離30センチに比べて,20センチであれば輻輳による調節の努力をたくさんしないといけません。寄り目をたくさんしなければならないのと同時に,水晶体もたくさん膨らまないとピントが合いません。この違いを視線解析によって客観的に調べた様子が,7ページの映像です。
(映像再生)
こちらはスマートフォンを読んでいるときの視線を表しています。赤丸は両眼の視線の中心で,円の大きさは停留時間の長さを示しています。このように,赤丸が文章の上を追いかけているということは,両方の目を使って融像しながら読んでいることを表します。
8ページがこれをグラフ化したものです。赤が右目,青が左目を表しておりますが,ほとんど重なっています。しかし,よく見ると少しずれているところがあります。このずれが,左右の目の視点のずれということになります。
9ページ,10ページを御覧ください。この視点のずれを定量化すると,50センチ,30センチに比べて,20センチは明らかにずれが大きくなっています。要するに,30センチ,50センチであれば,それほど輻輳が大きくないので,しっかり両目が視線を合わせることができるのですが,20センチになると相当な努力を要するので,融像できる範囲の中で一番ずれが大きくなるのです。
この結果から,客観的に,20センチで見るということは視覚系への負荷が大きいということになるのではないかと考えています。したがって,「20センチで見ることは避け,30センチから50センチで見ましょう」というのは,非常に理にかなっていると考えられます。
11ページを御覧ください。私は斜視を専門にしておりますが,日本人には外斜視の方が多いです。約1.7%ですので,一つのクラスに1人いるかいないか程度ですが,そのうち60%以上が「輻輳不全型」と言って,寄り目が上手にできません。
先ほど言いましたように,近くを見るときには寄り目の努力をしないといけないので,それが上手にできないと目が疲れたり,読書困難が起きたりします。そういう方が一定の割合でいるということは,申し上げておきたいと思います。
12ページ,13ページを御覧ください。
(映像再生)
こちらは間欠性外斜視,すなわち輻輳不全の子供の視線を表しているのですが,左目が外に泳ぎ,視線が左のほうにずれていっているのが分かると思います。左右眼の中心が左にずれるということは,片目で見ている時間が長いということを表しています。
これをグラフ化したものを見ると,30センチのときは赤と青が一致しており,両方の目を合わせて読んでいることがわかりますが,20センチのときは赤と青が分離しており,片目で見ていて両眼視していないことがわかります。すなわち,発達期の子供において,両眼視機能を身につける妨げになるかもしれないということです。したがって,視距離20センチ以下での読書やデジタルデバイスの使用は,両眼視機能の観点でも気をつける必要があります。
14ページ,15ページを御覧ください。2点目に,授業時数の2分の1以上の時間,デジタルデバイスを使用する場合についてお話しいたします。家庭内では連続して長時間使う可能性があるということと,遠隔授業では100%の時間デジタルデバイスを使用することになるということを考えると,視機能への影響があるのではないかという懸念が出てまいります。
16ページを御覧ください。こちらは慶應義塾大学の坪田教授がウェブベースで行った,新型コロナウイルスによって変化した子供の生活実態調査です。小中学生が1日に外で遊ぶ平均時間は,新型コロナウイルス感染症拡大前に比べて,第一波の後の安定期において40%減少しています。一方で,デジタルデバイスの視聴時間が35%増加しています。家の中でデジタルデバイスを見る時間が増え,外遊びが減っているということです。
17ページを御覧ください。こちらは,香港のヤン教授が行った,香港における新型コロナウイルスによって変化した子供の生活実態調査です。2019年12月から2020年7月の6.4か月間にわたって行われました。その間に,近視化が0.44ディオプター、眼軸長の延長も0.23ミリという結果が出ました。後ほど申し上げますが,以前に比べると倍ほど増えており,変化のスピードが速いです。アウトドアタイムも1.5時間から0.5時間と減少していて,平日のテレビやタブレットを含むスクリーンタイムは1.2時間から10時間に増えています。
2015年から2018年の調査では,3年間で1.02ディオプター近視化していますので,6か月に直すと0.17ディオプター近視化しており,今回の0.4ディオプターに比べると半分以下,眼軸長の変化も半分程度です。屋外活動が減ってデジタルデバイスの使用時間が増えたことが,近視化のスピードを増加させた可能性があると結論付けています。
単純な比較はできませんが,私が外来の臨床をやっている中での印象としても,コロナ後に急に近視が進んだ子供が一定数いますので,気をつけなければいけないと思います。
18ページを御覧ください。屋外時間が減っているという話をしましたが,屋外活動は近視の予防に非常に重要だということが最近言われています。1日1時間多く屋外活動をすると13%近視を減少させる作用があると言われております。屋外活動も非常に大切です。
19ページ,20ページを御覧ください。オーストラリアのコホートスタディを引用しております。30センチ未満の距離で読書することと,30分以上持続して読書することが近視になりやすい要因であるとされています。したがって,まとめになりますが,授業時間の2分の1以上をデジタルデバイスで行う場合は,30分に1回,20秒程度,画面から目を離して目を休めることが望まれます。
以上です。御清聴ありがとうございました。
【堀田座長】 不二門先生,大変具体的な,非常に参考になる御説明をありがとうございました。
続きまして,日本眼科医会の宇津見先生より,資料5に沿って御発表をお願いいたします。
【宇津見氏】 よろしくお願いします。日本眼科医会学校保健委員会の副委員長をしております宇津見と申します。ふだんは外来を担当させていただいております。
本日は,デジタル教科書を利用する場合の留意事項について,先ほどの不二門先生の御説明と重複するところもございますが,お話しさせていただきます。
1ページ目の絵は,平成26年に文部科学省が公表した,「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」から引用しています。このガイドブックを作成する際に,私は委員として,眼科の専門の立場から参画させていただきました。
2ページを御覧ください。平成30年12月に文部科学省が公表した「学習者用のデジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」には,指導上の留意点として,デジタル教科書と紙の教科書を適切に組み合わせること,学習者用のデジタル教科書を使用できるのは各教科の授業時数の2分の1未満であること等が記載されております。
3ページを御覧ください。先に申し上げた「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」には,ICT機器の画面の見にくさの原因やその改善方法,さらに児童生徒の姿勢指導の充実等,ICTを円滑に活用するための留意事項について,専門家の知見等が記載されております。
4ページから7ページを御覧ください。ガイドブックには,教室でICT機器を使う際には,外からの光による画面の映り込みの防止のために,カーテンを上手に利用しましょうといったことが記載されております。
また,教室の明るさに関する留意点として,照明環境への配慮を挙げています。5ページ左側の写真のように,反射防止の対策をしている照明や,右側の写真のように,児童生徒の上の照明は点灯し,電子黒板付近は照明を消すといった配慮が考えられます。加えて,6ページの絵のように,反射防止用のフィルターや反射防止用のディスプレイを使うといった配慮も考えられます。
さらに,電子黒板の文字の見やすさへの配慮としては,一般に,明るい背景に濃い文字で表示するポジティブ表示が良いと言われております。コントラストがはっきりしていると見やすいということでございます。
また,日本では,色覚異常を有する子供が,男子は20人に1人,女子は500人に1人いますので,色遣いには十分留意してほしいと考えています。例えば,教科書においても,色目のみで指示等をせず,コントラストに差をつける等の工夫をすると見やすいと思います。色覚異常を有する子供たちの中には,白黒コピーをすると見やすいという場合が多いですので,十分な配慮をいただきたいと思います。
8ページ,9ページを御覧ください。先ほど申し上げたとおり,タブレットPCでは反射が起きやすいため,適当に角度を調整し,反射が起きないように見ていただくことが重要です。例えば,先ほど不二門先生が外斜視の例を挙げられていましたが,姿勢が悪い状態で斜めに見ていますと,右目と左目で映像が変わりますので,非常に目に負担がかかります。
また,タブレットPCの画面への映り込みを防止する使いやすさへの配慮としては,同じ姿勢を長時間続けないということが挙げられます。長時間にわたって電子黒板やタブレットPCの画面を注視しない等,目や体の疲労を軽減するように工夫してほしいと考えています。
ここからは,専門家の立場からコメントさせていただきます。10ページを御覧ください。左側のグラフは,『グラフィック・サイエンス』という冊子から取り上げたのですが,そのベースになるのが,右側にまとめてコメントしております,オーストラリアのブライアン・ホールデン先生が1995年から行った,210万人が参加した145の研究です。
2000年には,近視は世界人口の22.9%だったのですが,右肩上がりに増え,2050年には世界人口の約半数が近視になってしまうと考えられています。
近視が強くなると,「強度近視」と言いまして,眼軸,すなわち目が大きくなることによって,将来的に緑内障等の網膜の病気を起こしやすくなります。マイナス5ディオプトリ以上が強度近視なのですが,2050年には世界人口の9.8%が強度近視になると予想されています。
シンガポールでは,若い男性の近視の割合が,1970年代には26%だったのですが,1990年代末には83%にまで上がっています。注目すべきは,日本やシンガポール,韓国は,約80%以上が近視だと言われているということです。このグラフで見ていただくと,中国や韓国といった東アジアは近視の割合が非常に増えていて,中国では2017年の時点で約55%が近視です。アメリカでは約40%,アフリカでは10%弱となっています。民族差はありますが,世界中で近視がますます増えていくという予想がされています。
近視はほとんどが遺伝だと信じられていましたが,イアン・モーガン先生は,実際は社会的な要因による疾患であると述べています。中国では,3年間にわたって毎日40分間以上多く屋外で過ごした子供は,対照群に比べて近視になりにくかったという研究結果が出ています。先ほどの不二門先生のお話のように,野外活動は近視を抑制する非常に重要な因子であるということです。
11ページを御覧ください。こちらは文科省が,昭和54年と平成27年度の裸眼視力0.3未満の子供を,36年間を経て比較検討した資料です。幼稚園児では2倍増えています。小学生では3.1倍,中学生では1.9倍,高校生では1.4倍と,36年にわたって近視が増えてきているという資料でございます。
12ページを御覧ください。こちらは平成26年度に総務省が発表した,10代のスマートフォンの利用率と利用時間です。利用率については平成24年の36.7%と比較して,平成26年度には68.6%となっています。また,平均利用時間が,平成24年には平日で大体130分でしたが,平成26年度になって141分に増え,休日になるとさらに増えてしまっています。大人について調べた調査でも同様の結果となっています。
13ページ,14ページを御覧ください。こちらは,日本眼科医会が以前から作っているポスターです。近視は,背が高い等と同様に,遺伝的な影響が強いと考えられておりましたが,環境要因の影響がかなり大きいことが分かりました。先ほど申し上げたように,社会的要因ももちろん含まれますが,近業時間が長いほど近視化し,屋外活動が長いほど近視進行が抑制されると言われております。
一般に,近視進行の予防方法としては,長時間の近業作業はしない,眼鏡・コンタクトレンズの過矯正は避ける,すなわち少し強過ぎる眼鏡・コンタクトというのは近視を進めやすくするため避けるということのほか,野外活動・ストレスの軽減等が推奨されております。晴天時の野外活動は,網膜が太陽光線を受けてドーパミンが増え,眼軸長の過進展を抑制するとも言われています。また,ゲーム等は30分以内が望ましいということ,近業作業は30センチ以上離して行うこと等を,不二門先生も仰っていましたが,日本眼科医会では従来推奨しております。
さらに,近くを見るために調節をすることによって毛様体が収縮し,強膜,白目が菲薄化して,目が長くなりやすいとも言われております。
15ページを御覧ください。近視研究会が,学童に向けて提案している近視進行予防の7項目です。1日で2時間は外で遊びましょう,休み時間はできるだけ外で遊びましょう,本は目から30センチ以上離しましょう,背筋を伸ばして良い姿勢で見ましょう,スマートフォン・ゲームなどの近業は,1時間したら5分から10分程度休んで,できるだけ外の景色を見たり,外に出たりしてリフレッシュしましょう,規則正しい生活をして,定期的な眼科の専門医の診察を受けましょう,といったことが言われております。5点目については,近視研究会では実状を踏まえて1時間ごとに休憩としていますが,厳密に言うと,「30分したら休む」とするのが良いと思います。
16ページには専門家のコメントを載せています。人間は通常,前方視している場合に,1分間に約20回のまばたきをしますが,ワープロやコンピュータのディスプレイを見ていると,約6回まで減ってしまいます。つまり,まばたきをしないことによって目が乾いてしまうのです。
目の表面の涙液が乾くと,角膜上皮,結膜上皮等の潤いが保てなくなりますから,角膜・結膜の障害も引き起こしやすくなります。近くをずっと凝視していると非常にドライアイになりやすいということを述べています。
17ページ,18ページには,色のバリアフリーについて記載しています。先ほどもお話ししましたが,文字・図等を示すときは,色のみではなく,数字を入れる等の工夫を行うことで,積極的に色覚バリアフリーにすることが望まれます。
色覚に関わる資料が,日本学校保健会のポータルサイトの「眼」の項目や,日本眼科医会の「色覚関連情報」といったウェブページからも御覧いただけますので,御参照ください。
19ページを御覧ください。こちらは「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」から引用しております。1点目に,寝る前に強い光を浴びますと,入眠作用を持つホルモンであるメラトニンが分泌されなくなり,眠りを阻害してしまい,体内時計がおかしくなってしまうことから,寝る前に強い光を浴びないようにしてくださいという注意喚起をしています。
2点目に,LEDから出ているブルーライトが目に影響しているのではないかという議論がありますが,実際には,目の疲れや網膜の障害と関わっているのか,医学的な評価は定まっていないというのが現状だということを挙げています。
3点目に,私は耳鼻科の専門ではございませんが,音に関しまして,学校の授業においてタブレットPCにヘッドホンをつなげて音を聞く場合には,児童生徒の健康面に影響を生じることは少ないと考えられていますが,家庭での利用時間の長さと大音量での使用によっては,騒音性難聴を発病する可能性があり,騒音性難聴が発症すると聴力は回復しないので御注意いただきたいということを述べています。
以上です。御清聴ありがとうございました。
【堀田座長】 宇津見先生,大変詳しい御説明をありがとうございました。
続きまして,日本医師会の渡辺先生より,資料6に沿って御発表をお願いいたします。
【渡辺氏】 日本医師会の渡辺です。このたびは発言の機会を与えていただきありがとうございます。
デジタル教科書は,適切な使用をすれば大変有用なツールだと思いますが,使用の仕方によっては,逆に子供にデメリットも生じるのではないかと思います。本日は,その後者に関する危惧とその対策について述べたいと思います。
1ページを御覧ください。まず,デバイスのスペック,この場合は「どういうタブレット使用設定になっているか」ということが気になります。つまり,メモリにデータを全て入れてネットにつながないのか,クラウドにデータを保存してアクセスするけれども,クラウド以外のところにはアクセスさせないのか,もしくは,ネットフリーにして子供の自主性に任せるのか,これらをどこまで管理されるかということが危惧する点です。
学校の授業に限れば,これまで不二門先生や宇津見先生もお話しされたようなことは,現場の先生方が十分配慮して使用されるだろうと思います。しかし,デバイスがインターネット環境フリーの状態ですと,学校の授業以外,つまり家庭での使用状況によっては,専門家が危惧されるような事態が起こりうると考えております。
したがって,学校医の立場で言えば,本来,授業以外では,教科書や一定の範囲内の教材以外にはアクセスできない設定にすることが望ましいと思います。
2ページを御覧ください。これは先ほど述べました,授業以外の使用を管理できないことを想定したコメントです。先ほどからの報告にもありますように,強い光を発するデバイスを長時間使用した場合の,身体に対する影響については既に多くの報告があります。何度も申し上げますが,授業以外の場では限定した使い方をする,すなわち授業以外の場ではあまり使わないというのが本来望ましいし,そうでなければ,教材以外のものを使わない設定とすることが望まれます。
使用方法や基準が都道府県で一定でない場合,身体的な影響に加え,精神的な影響についても定期的に評価することが望ましいと思います。例えば学校健診の際に,先ほども述べられたような斜視や弱視等の視疾患,運動不足による肥満,さらに成長曲線等による身体的な評価を行い,健康調査票によって睡眠時間,生活リズム等の管理等の検証を行うことが必要ではないかと思います。
デジタル教科書を画一的に,同じ方針で,同じスペックで使用するのであれば,あまり問題にはならないと思いますが,地域差が発生した場合,その差が,体に影響するかどうかを検証する必要があると思います。
3ページに掲載の通り,これまで,小児科医会や,日本医師会では,様々な形でスマートフォンやネット使用の影響に関する啓発を行ってまいりました。先ほど申し上げましたように,これは全て,長時間使用した場合であって,授業中に短時間,それも紙媒体と一緒に使用した場合は,さほど大きな問題にならないのではないかと思います。それは先ほど申し上げたように,学校の先生がきちんと管理されるだろうと思うからです。
そうではない場所,つまり自宅での予習・復習に使用されるに当たって,教科書・教材の閲覧以外に使った場合を危惧しています。細かい内容はポスターに描かれていますが,長時間使用すれば様々な問題が生じるということは以前から指摘してきたことです。
4ページ,5ページは,これまで述べたことを再度繰り返しています。まず,教科書や教材以外の目的で使用される状況であれば,スマートフォンやネット依存により懸念される健康への影響を考える必要があります。児童生徒一人一人の家庭環境が異なる中,デジタルデバイスの扱いを市町村に任せた場合,文科省の作成するガイドラインが学校の授業のみを対象とするものであれば,文科省は学校における使用以外の管理責任を負わないということになります。既に議論されているかもしれませんが,これらの危惧への対応として,メディアリテラシーの教育が必要だと思います。
学校が児童生徒の生活管理を行う必要性についての議論は,例えば生活習慣病における指導に関する議論とよく似ていると思います。肥満は学校給食や学校生活による影響は少なく,家庭の生活習慣に強く依存します。デジタルデバイスの使用管理に関する指導教育も,家庭がすべきと思われるかもしれません。しかし,生活習慣病と異なり,ネット環境に入る手段となるデバイスを与えるのは学校です。そこが生活習慣病とは異なります。したがって,生活習慣病に対する以上の管理者責任が,教育委員会側,もしくは学校側にあるのではないかと思います。
また,デジタル教科書の効果や,先進的に取り組んだ国の検証は実施されていると思いますが,医療者としては,特に子供の健康に対する影響を危惧しています。
デジタルデバイスの過度の使用は生活の乱れにつながるという多くの報告がございますし,脳の発達にも器質的な変化が見られることが示されています。具体的には,ネット依存の期間が長くなるほど,脳神経の脱落が進むということが東北大学の研究で示されております。また,ネット習慣のある小児は,3年後に広範な領域で,脳白質の体積があまり増加しないということも報告されております。
使い方によって有用な機器は多くありますが,逆に使い方を間違えると害が生じるものもあります。デジタルデバイスの使い方によっては害が生じることを十分理解していない児童生徒に使用方法を委ねることに,医療者として危惧を感じております。
デジタル教科書の導入が前提であれば,考え得る問題点を検証し,どのような対応をすべきかという準備が必要です。子供の時間を元に戻すということはできないので,導入してみて,問題が生じれば考えようということは避けるべきだと思います。
6ページを御覧ください。PDCAサイクルという言葉はよく聞かれると思います。業務改善の基本ツールとしてよく使われるもので,プラン,ドゥ,チェックしてアクションするというものです。一方,ここにお示ししましたSDCAサイクルというのは,最初のSがstandardize,標準化という言葉に置き換わっているサイクルです。標準化とは,誰でも,いつでも同じ方法で作業や業務を行うことができる仕組みを作ることであり,マニュアルの徹底や,提供するサービスの質の担保等,業務改善の成果を定着させるためのサイクルです。
このたびのデジタル教科書の導入に際しては,恐らく,PDCAサイクルを用いた問題解決の試みは,既になさっていると思います。しかし,全国の学校に普及するものである以上,地域差は限りなく少なくすべきと考えます。そのため,一律に改善施策を維持向上させるために,SDCAという概念を進めなければならないと思います。標準化させ,かつそれを維持することが重要であり,この標準化により,デジタル教科書導入後の授業の質の維持,もしくは向上につながると考えております。
以上です。御清聴ありがとうございました。
【堀田座長】 渡辺先生,ありがとうございました。
続きまして,柴田委員より,資料7に沿って御発表をお願いいたします。
【柴田委員】 東京福祉大学の柴田でございます。よろしくお願いいたします。私は人間工学を専門としておりますので,その視点に基づいてお話をさせていただきます。
資料の2ページ,3ページの内容に関しましては,これまでに先生方からもお話がありましたので,割愛させていただきます。
4ページを御覧ください。こちらも,3ページと同様「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」の内容になりますが,心身への影響が生じないよう,「児童生徒の状況を確認するよう努めること」と記載されています。そちらに付されている注釈では,下に大きく記載しておりますとおり,「VDT症候群」の症状として,目の症状,肩や首等の体の症状,さらにはイライラ感や不安感といった心の症状等についても確認するように,との専門家からの指摘に触れております。
子供たちがデジタル教科書を使用する際には,タブレット端末を利用することになるかと思います。5ページでは,このタブレット端末の利用による疲労に関して,小学生の児童830名を対象として行った調査の結果を示しています。3人に1人の児童が,目や首,肩等に身体的な疲労を感じているという報告がなされています。
この図では,疲労の訴え率が高い身体の部位に色が塗られていますが,目や首や肩,特に目の疲れを訴えている児童が多いことがわかります。さらに,目の疲れに注目しますと,4年生,5年生,6年生と学年が上がるに従って,目の疲れの訴えが高まるということが報告されております。
6ページは,先ほどから御説明,御紹介いただいております「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」に関することですので,割愛いたします。
7ページ,8ページを御覧ください。こちらは日本人間工学会に設置されております,子どものICT活用委員会が作成し,ウェブで公開しているものから引用しております。基本的には,先ほど御紹介のあった文科省作成のガイドブックと重複しておりますが,例えば太陽光や蛍光灯の映り込みが疲労に通じることから,それを防ぐこと,あるいは姿勢を正しくすること等,実際に教室でICT機器が使われる状況に合わせた留意事項等が紹介されております。
さらに,こちらのサイトでは,子供の学習場面を四つにまとめており,例えば「見る・読む」の項目では,これまでにも出ておりますが,正しい姿勢を取る,十分な視距離を取る,映り込みや画面の明るさに配慮する必要があるといったことが紹介されております。
9ページ,10ページを御覧ください。現在,そしてこれからの学習者用デジタル教科書の活用に当たっては,まず,1人1台端末での利用が拡大していきます。また,学校だけではなく,家庭学習や遠隔教育においても利用が拡大していくことが考えられます。そして,デジタル教科書を利用する際の端末としては,言うまでもなく学習者用コンピュータ,具体的には例えばタブレット端末が使用されることになります。そうした状況を考えますと,デジタル機器を用いて,画面という「近く」のものを「長時間」見る機会が増えるということが予想されます。
この「近く」と「長時間」という点が特に留意すべきところだと考えております。まず,近くを見ることについては,ガイドラインで示されている「30センチ程度以上」という基準は,守るべき,留意すべき事項だと考えています。
また,10ページ右側のグラフは,中学生74名を対象として,教科書を音読しているときの視距離を測定した結果を示しています。横軸の一番右が紙の教科書を読んでいるときを表しており,一番左が大きいタブレットを用いているとき表しています。大きいタブレットは,紙の教科書とほぼ同じ大きさです。真ん中は,それよりも小さいサイズのタブレットを表しています。
まず,バツ印で示している平均値で考えますと,三つの条件いずれにおいても30センチ以上,さらに言えば35センチ以上になっていますので,この点では,ガイドラインの指針が守られていると言うことができるかもしれません。
ただし,ここで注目すべきは,データの分布を表す箱ひげ図です。水色の箱の真ん中の横線が中央値を表しており,その横線よりも上の箱の部分が25%のデータで,その下が25%のデータです。すなわち,中央値の上下50%のデータが箱の中に含まれております。
さらに,上と下に伸びているひげの部分には,視距離の長い方と短い方それぞれ25%ずつのデータが含まれています。
例えば真ん中の小さいタブレット端末のところを御覧いただくと,箱の一番底の部分が約30センチのところになり,下に伸びているひげが30センチから20センチのところに下がっています。つまり,小さいタブレット端末を使っているときには,約25%の生徒たちが30センチ以下の視距離で用いていたということです。
右側の紙の教科書のところを見ても,継続しての値ではなく測定時の値ではありますが,20センチ程度の非常に短い視距離で見ている場合もあるということが示されています。
11ページから13ページでは,長時間見るということに関して記載しています。まず,学校における授業時間全てにおいて,ずっと端末を見ているわけではないということを挙げています。
タブレット端末を使っている時間は,平均すると14.3分ということが,山本らから報告されています。11ページの図では,それぞれのデータがプロットされています。左側三つが,左から小学校低学年,中学年,高学年を表しており,一番右が中学校での利用時間を表しています。
例えば中学校で見ますと,30分程度使っている例もあることが示されていますが,これは30分間連続して使っていたということではなく,授業時間の中で累積した時間で示しています。ただし,いずれにしても,平均値だけではなく,全体的な時間を見ていく必要があろうかと思っています。
授業の中でずっとタブレット端末を見ているわけではない,と申し上げましたが,それは12ページのイラストで示したように,大型提示装置を見る,黒板を見る,先生の方を見る等,タブレットとの非常に近い距離と比べると遠くを見る状況が含まれることに由来しており,それが目の休憩にもつながるだろうと考えています。
イラストの中で,赤い矢印がタブレットまでの視距離と考えるならば,先生のほう,あるいは黒板を見ているときは数メートル先を見ることになりますので,目の調節力という観点から考えると非常に大きな違いがあると思われます。
長時間見るということに関連する事項として,「まばたきの回数が減る」ということが挙げられます。このことについては先ほど詳しく御説明いただきましたので,ここでは割愛させていただきますが,デジタルデバイスを見るときにはまばたきが減る傾向にあるので,留意する必要があると考えております。
14ページのまとめを御覧ください。まず,授業ではタブレット端末を常に見ているわけではないということ,加えて,タブレット端末,デジタル教科書の使用時間や頻度は,授業の進め方や学習活動に関わるということを挙げています。つまり,一般的なオフィスでのVDT作業とは異なり,近距離の画面を長時間見続けるということは少なく,その利用も断続的な利用であると考えられます。
ただし,先ほど幾つか御説明しましたように,視距離にしても時間にしても,平均だけを見るべきではないという点が大事かと思います。視距離が短くなってしまう児童生徒への指導を行い,また,一度の学習活動が長くならないよう,健康面にも配慮した授業展開とすることが望まれると考えております。
もう一度申し上げますと,教科書の利用は,学習において重要だと思いますので,その上で使い方を考えることが重要だと思っています。
特に最後のところですが,これからは児童生徒自身が,自分の健康について自覚を持ち,リテラシーとして習得した上で学習に取り組める―――例えば,「少し目が疲れたな」と思ったときは目を休める,遠くを見る等の自覚や振る舞いが重要になってくると思います。特に家庭学習では,長時間画面を見てしまうことも予想されますので,こうしたリテラシーは重要となると考えております。
以上となります。
【堀田座長】 柴田委員,ありがとうございました。
それでは,ここまで4人の方々に御発表いただきましたことについて,御質問がある場合には挙手をお願いいたします。
それでは石戸委員,お願いいたします。
【石戸委員】 石戸でございます。非常に分かりやすく御説明いただきありがとうございました。今後の啓蒙に当たって具体的な提案もあり,とても示唆に富んだものであったと思います。
3点質問があります。1点目は,紙とデジタルの違いについてです。先ほど来のプレゼンを聞いていると,「30センチ」というのが重要な理由がよく分かり,それをしっかり推奨していくことが肝要だということを理解いたしました。これは,30センチ離していれば,目への影響は紙もデジタルも同じということでしょうか。併せて,30分以上画面を見続けることは体への影響が大きいとの御発表がありましたが,紙の読書も30分以上続けて行うことは体への影響,近視という観点において推奨できないということなのでしょうか。
それを踏まえて,本と近視の関係も指摘されていましたが,本のときには,どう対処をしていたのでしょうか。紙とデジタルの関係について,その三つを伺いたいと思っているのが1点目です。
2点目に,屋外時間とデジタルとの因果関係は幾つかのプレゼンでデータが示されていてよく分かったのですが,近視とデジタルとの因果関係を示すデータについてもう少し教えていただけるとありがたいと思っています。
最後に3点目ですが,インターネットが脳に良くないというエビデンスがあるというお話がありました。MITやスタンフォードでも,子供たちがいかにネットやパソコンを使って学習するかという研究がなされていました。今,日本は,世界と比べてどちらかというとデジタルの教育での利用が遅れていると認識しています。逆に言うと,世界はもっとデジタルを教育に使っていると思います。
もし,インターネットが脳に悪いというエビデンスがグローバルに認知されているものだとすると,もう少し世界的に抑制が進んでいるはずではないかという気もしています。なぜ世界的にそのエビデンスが広まり,抑制の方向に動いていないのかということについて伺えればと思います。
以上です。よろしくお願いします。
【堀田座長】 ありがとうございました。4人の先生にはそれぞれのお立場からお答えいただきたいと思いますので,ほかの質問がありましたら,まずお伺いしようと思います。中野委員,お願いします。
【中野委員】 私からは,障害のある児童生徒に関連する質問をさせていただきます。不二門先生に御教示いただきたいのですが,障害のある児童生徒の場合,デジタル教科書を使わなければ授業にアクセスすることが非常に難しいというケースがあります。例えば弱視,ロービジョンの子供たちは画面を拡大して見る必要性がありますし,現在,肢体不自由の子供たちの中には,視線入力を使って教材にアクセスしているというケースもあります。
こういったケースは非常に特殊なケースになるかと思いますので,「主治医等から所見があれば,ある程度の時間,あるルールの下に利用しても良い」と考えて良いのかどうか御教示いただきたいです。
また,もう1点,宇津見先生の御発表において,「ポジティブ表示が良い」という御説明をいただいたのですが,中間透光体の混濁や,羞明があるような場合には,ネガティブ表示のほうが良いという研究や実践報告も多いと思います。こういったケースでは,ポジティブではなくネガティブでも良いと考えて良いのかどうか,お教えいただければと思います。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございます。加藤委員,お願いいたします。
【加藤委員】 加藤です。皆様からお話のあった,「30センチ」の基準はとても分かりやすかったのですが,それと少し関連して,文字の大きさについては,何かエビデンスのようなものがあるのでしょうか。もしありましたら教えていただきたいと思います。
【堀田座長】 ありがとうございます。東原委員,お願いいたします。
【東原座長代理】 東原です。私の体験上,画面をスクロールして見る場合と,ページとして切り替えて見る場合で,随分疲れ方が違うように思っており,できるだけスクロール,すなわち上下に動かしながら読むことを避けています。
これに関するエビデンス等,何か研究があるのであれば教えていただければと思います。
【堀田座長】 ありがとうございました。宮原委員,お願いいたします。
【宮原委員】 先ほど来の質問に関連するのですが,年齢や発達段階によって,脳の発達も含めて,影響度などが大きく変わる等のエビデンスがあるのかお聞きしたいと思います。
小学校低学年と中学生では影響が随分違うのではないかと思ったので,年代や成長段階に合わせて区切ったような,身体あるいは脳の発達に対する影響について,何かもし知見があればお教えいただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
【堀田座長】 ありがとうございました。先生方にお答えいただく前に,少しだけこれまでの御発表の内容を整理させていただきます。これから子供たちが授業の中でICT端末を使う割合が増えていくだろうと予想される中で,デジタル教科書というコンテンツを見ることも増えるだろうと考えられます。ただ,これまでの紙の教科書の使用の在り方を考えると,45分,50分の授業の中で画面をずっと見ているということはあまり考えられず,かなり限定的な見方になるだろうという前提がございます。
一方で,本日お示しいただいた先生方の非常にたくさんの健康上の留意点の知見の中には,そもそもネットや端末,あるいはゲームといったこととの因果関係をお話しされている部分もあるかと思います。
本検討会議は,デジタル教科書というコンテンツが学校に導入されていくことについての会議という観点から,その場面にできるだけフォーカスしてお答えいただければ幸いです。
それでは,まず不二門先生,よろしくお願いいたします。
【不二門氏】 不二門です。最初に,紙とデジタルは何が違うかという質問をいただきましたが,デジタルの中でも,スマートフォンとタブレット端末とでは大分違うと思います。スマートフォンは小さいので,正面で見ていないと両眼視しないで片目で見ていることもあります。ただ,デジタル教科書はタブレット端末,画面が大きい状態で使用しますので,サイズとしては本を読むのとそう変わりません。輝度が違う等の違いはあると思うのですが,紙とデジタルの違いは,近視の発症という意味ではそんなに違わないのではないかと,個人的には思っています。
30分以上見ていると,本でも近視化するのかという御質問がありましたが,御紹介したオーストラリアのコホート研究はデジタルデバイスが普及する前の研究なので,本を読む場合でも,30分を超えて持続的に見ることは近視化の要因になり得ると言えます。
また,近視とデジタルの関係については,デジタルの普及が最近起こったばかりなので,長期的な結果は分かりません。ただ,先ほど御紹介した香港の例のように,コロナで家にいる時間が長いとデジタル媒体を見る時間も多く,近視化のスピードが倍ほど速くなったという報告があるので,これから症例を積み重ねないと本当のことは分からないと思いますが,近視化とデジタルの普及には関係があり得ると考えています。
また,中野委員からありました,障害児に対する対応について,私が診ている患者さんでも,昔は黒板をアイフォンで撮って拡大して見ていたという方もいて,デジタル教科書によって非常に学習能率が上がったことを感じました。
障害児においては,拡大という機能は非常に大きなファクターだと思いますし,特別な配慮を必要とする児童生徒においてデジタル教科書の使用時数の基準を超えた活用が認められていることからも,個々の障害の程度によって,使い方をフレキシブルにしていただくという考慮はしていただいて良いかと思います。
また,文字の大きさと近視化の関係では,資料に提示した野原先生の研究における距離の話で申し上げると,大きなフォントのほうが視距離が遠く,小さなフォントのほうが視距離が近いという報告がありますので,小さなフォントにする場合には,距離についてよく考える必要があると思います。
また,年齢による違いについては,近視化について申し上げると,急激に眼軸長が伸びるのは,背が伸びるのと同じ小学生の時期ですので,小学生のほうがより気をつける必要があるかと思います。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。それでは宇津見先生,お願いいたします。
【宇津見氏】 先ほど,白内障の場合や中間透光体に異常がある場合にはポジティブ表示ではないほうが見やすいというお話がありました。白内障はあまり子供には見られませんが,確かに,白内障を発症する年代になると,外から入ってくる光が乱反射しますので,ポジティブ表示が見にくい場合もあります。一方で,ネガティブ表示をすると,コントラストが低くなってしまい,見にくくなってしまいます。つまり,白内障の方は明るくても暗くても見にくいのです。
したがって,学校で児童生徒が見るに当たっては,ポジティブ表示が一般的かと思います。スライドを作成するときに,白をベースに作っている場合と黒をベースに作っている場合がありますが,黒をベースにすると色が分かりにくいという方もたくさんいます。例えば,視覚異常の軽度の方でも,赤と緑が同じように茶色っぽく見えるほか,ベースが暗いと非常に色を判断しにくいという場合もあり,一般的にはポジティブ表示が良いのではないかと思います。
さらに,デジタルと紙との根本的な違いは,例えば300ページある書物のうち200ページ目を開く場合,デジタルをスクロールして見るとなると、ジャンプ機能がなければ非常に目が疲れます。一方で,紙であれば瞬時に開くことができます。このような使い勝手の面に加えて,最も課題となる点は,学校でデジタル媒体を見ている時間は比較的少ないです。特に小学生の場合は非常に少なく,中学生になると増えていきますが,それでもあまり多くはありません。問題は,家に帰ってどのようにデジタル媒体を使っているかということです。家庭での使用は規制ができませんが,学校での学習者用のデジタル教科書の使い方を,家でも同じように守っていただきたいと思います。学校では見る時間が少なくても,家でたくさんスマートフォン等を見ていると,目には非常に刺激になり,視神経が休まりません。
眼科医をしていて一番困るのは,パソコンを使った仕事をしていて目が疲れたという患者さんに,「家に帰ってスマートフォンをたくさん見ていないですか」と聞くと,大体の方が見ていることです。家庭における使用に対する規制は非常に難しいですが,重要な課題だと思います。
また,韓国において,デジタルの教科書の活用による子供の知能の変化に関わる報告があったということを聞いております。韓国ではパソコンを学校が家に貸し出すという制度なのですが,特段規制をしなかった結果,家に帰ってゲームばかりやってしまい,10%程度の子供がインターネット中毒になり,収容所や更生施設もできたとのことです。そのため,夜12時以降はデジタルデバイスでゲームができないように規制をすることになりました。日本ではまだそのようなことは起きていませんが,そのような弊害が起こりうるということも,考慮に入れるべきかと思います。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございます。それでは渡辺先生,お願いいたします。
【渡辺氏】 脳への影響に係るエビデンスについて御質問いただきましたが,出典は『ヒューマンブレインマッピング』という雑誌に,2018年に東北大学の川島隆太教授が報告された,小学校から中学生程度の子供224名について,MRI検査により3年間の脳発達の推移を追ったデータです。その調査により,インターネット習慣が多い小児グループの方が,広範な領域で大脳の白質の体積があまり増加しないという結果が出ました。
外国になぜそういうエビデンスがないのかということについては,正確な理由は分からないのですが,日本はMRIの普及率が世界でも断トツです。極端に言えば,オーストラリアやニュージーランドには数台しかありません。このような検査機器の問題は,一つの理由になるかもしれません。
ただ,正確な理由は,現時点では分かっておりません。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。それでは柴田委員,お願いいたします。
【柴田委員】 柴田でございます。人間工学に関わる観点から回答させていただきます。まず,紙とデジタルの違いに関して,一つはデジタル教科書を使う端末それ自体,学校や自治体によって様々なサイズが考えられるというところが関係するのではないかと思います。すなわち,先ほどもお話がありましたが,端末の画面サイズが小さくなると視距離も短くなる傾向にありますし,逆にサイズが大きくなると視距離も長くなるという傾向がありますので,そうしたタブレットのサイズを気にする必要もあるのではないかと思います。
また,日本と世界の比較に係る話もありました。人間工学では「疲労を軽減する」という観点を重要としますが,例えば近くを長時間見ないようにする,時々画面から目を外して遠くを見るといった点については,日本人間工学会からも,テレワークやオンライン学習が増えている状況に鑑みて,ガイドラインのような指針を出しているほか,IEA―――International Ergonomics Associationという国際的な組織を通じて,デジタルデバイスを使うときの疲労を軽減するための適切な使い方や,適度に休憩を取りましょう等といった指針等が示されているところです。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。大変貴重な情報をたくさん共有いただき,考えが非常に深まりました。
先ほど整理しましたように,タブレット端末で学習者用デジタル教科書を見るという話と,スマートフォンでゲームやネットをするという話は少し異なりますが,私たちがデジタル教科書を推進しようとしている裏で,家に帰ってスマートフォンでゲームをするといったことを助長するようなことがあってはならないということが確認できましたし,そこには様々なデータがあることも分かりました。
お示しいただきましたように,利用の仕方を本人が自覚するというリテラシーの問題と,学習指導として,教師がそういったリテラシーをどのようにきちんと子供たちに教えていくかという問題があるかと思います。教員側が様々な配慮をしていかなければいけないかもしれませんし,デジタル教科書を作成する発行者が様々な配慮をしなければいけないかもしれません。そういったことに関するヒントをたくさんいただいたと思います。本当にありがとうございました。
続きまして,保護者の立場からの御意見に入ります。日本PTA全国協議会の清水委員より,資料8に沿って御説明をお願いいたします。
【清水委員】 公益社団法人日本PTA全国協議会の清水でございます。私からは,保護者という立場で発言させていただきます。
2ページを御覧ください。本日は,デジタル教科書に対して期待すること,懸念すること,今後配慮してほしいことの3点について,簡潔に御報告をさせていただきます。あくまで保護者の立場ですので,専門家でもございませんし,これまでの会議で出た議論と重複するところもあるかもしれませんが,改めて御報告をさせていただければと思います。
4ページ,5ページを御覧ください。デジタル教科書に対して期待することを記載しています。一つ目に,デジタル教材との連携により,文字や写真からは想像できなかったことが,動画や丁寧な解説を見ることで子供たちの理解力が深まると感じています。特に,算数や数学の図形の問題や,英語の発音等においては,非常に効果があると感じております。
二つ目に,学校と家庭のより深い連携や,長期休業中等においてリアルタイムで子供たちの様子を把握し,フォローができるのではないかという点も,保護者といたしましては非常に効果を感じているところでございます。
三つ目に,遠隔教育との組合せ等により,特に中山間地に多く存在する小規模校等において,特定の教科の先生が御不在の場合,地域や学校をまたいだ学びの機会の確保ができるのではないかと考えています。すなわち,一つ学校だけではなく,広域的に,近隣の小規模校同士でネットワークをつなげて教育をすることで,学びの機会が確保できるのではないかという点にも,非常に効果を感じているところでございます。
日本全国,様々な状況があります。今回の発表に当たってお話を伺った中で,長野県の保護者からは,「非常に山間地が多く,小規模校で様々な不便を感じている」という御意見もいただきましたので,記載させていただきました。
7ページ,8ページを御覧ください。デジタル教科書の活用に当たって懸念している点でございます。
1点目に,先ほど多くの先生方から御説明をいただき,改めて理解できた部分ではございますが,保護者の立場からいたしますと,長時間利用することによる,視覚・聴覚の情報の増加で,記憶力や意欲の低下につながるのではないか,それにつながる脳の疲労という点も気になりますし,何より視力・聴力低下等,体に不具合が起きるのではないかという点を非常に懸念しております。
保護者の立場からは,健康面というところが最も気になるところではないかと,今回改めて感じているところでございます。
2点目に,以前もお話しさせていただいたかと思いますが,タブレットの維持管理について,いわゆるセキュリティ対策はもちろん,破損や紛失の際の弁償費用を誰が支払うのかというところも,実際に使わせていただくとなると,気になるところでございます。
3点目に,紙の教科書とデジタル教科書で,実際に子供たちの理解度,いわゆる習熟度の差がどの程度出るのかという点が非常に気になるところですし,それに伴って成績がどのように変移するのか,成績が現状維持のままなのか,マイナスに振れるのか,プラスになるのかといった点も,非常に気になるところです。
10ページ,11ページを御覧ください。今後配慮してほしい点でございます。
1点目に,タブレット等の取扱いについて,教職員の方々や児童生徒,そして我々保護者への十分な説明,事前研修を実施していただき,現場が混乱しないように,現場への段階的な適用に関して十二分に御配慮いただきたいと考えております。
2点目に,障害のある児童生徒については,これまでも触れられているところではございますが,それぞれのニーズに応じた機能―――文字やボタンの大きさ,自動読み上げ等,また,外国人児童生徒について,翻訳機能等の配慮をお願いしたいと思います。
3点目に,家庭学習における各家庭でのネットワーク環境―――ハード面・ソフト面について,国や自治体の予算での御対応をぜひともお願いいたします。
以前もお話しいたしましたが,義務教育段階においては,同じ環境,同じ条件で,全ての児童生徒に平等に勉強していただきたいと思っております。そのような観点でも,各家庭での負担を極力なくしていただくための十分な配慮をお願いしたいと思っております。
御清聴ありがとうございました。以上です。
【堀田座長】 清水委員,ありがとうございました。保護者の立場からいただいた御意見の中には,先ほどの医療的な部分,健康面での留意点につながる部分もございましたが,それ以外の様々なこともございました。
清水委員の御発表につきまして,御質問や御意見等ございましたらよろしくお願いいたします。
では,私から一つだけ質問させていただきます。最後の「配慮してほしい点」において,ハード面・ソフト面の配慮をというお話がありましたが,ここで言うハード面というのは,例えばWi-Fi等,そういった話でしょうか。また,ソフト面というのは,具体的に何を想定されていますでしょうか。
【清水委員】 ハード面に関してはWi-Fi等といったところになりますし,ソフト面につきましても,例えば,デジタル教材の部分で,保護者に負担のないようにという意味合いで書かせていただきました。
【堀田座長】 ありがとうございました。紙の教科書は,義務教育においては無償給与ですが,ドリルやワークテスト,資料集等のいわゆる教材については保護者負担で購入いただいているところです。この辺りについて,今以上の負担にならないようにということかと理解いたしました。
Wi-Fiについては,GIGAスクール構想により端末が配備され,インターネットに接続することが前提だと考えると,御家庭によっては準備ができていないところもあるなかで,そういった家庭にどのような配慮をしていくかということだと受け止めました。ありがとうございました。
それでは,総合的な討論に入ります。事務局作成の資料9には,今まで皆様から出された御意見と,その中で論点を整理する意味で,「視点」と書いてありますように,今後の論点整理に向けた視点について整理いただいておりますので,まずはこれについて,事務局の神山課長より御説明いただきます。
【神山課長】 それでは説明させていただきます。従来,一つの資料の中で「これまでの意見」と「論点整理に向けた視点」を並べて書いておりましたが,今回,資料9と10に分けて記載しております。
まず,資料10を御覧ください。これまでの会議における主な御意見をまとめたものになっておりまして,2ページ目から,前回の会議で出た意見を赤字で追記しております。
少しかいつまんで御紹介させていただきますと,2ページの②では,前回標準的なインターフェースや機能の必要性について御議論いただき,実証研究やエビデンスを基に議論を進めることが必要といった御意見や,ビューアーの機能やデータ形式との関連等も考えるべきといった御意見のほか,デジタル教材との連携やデジタル教科書の標準化については,技術の発展も踏まえて専門的に検討し,ガイドライン等を取りまとめることが望ましいといった御意見をいただきましたので,こういった方向での検討をしていきたいと考えております。
また,3ページ目から5ページ目の④では,障害のある児童生徒への効果や配慮に関して,特別な配慮を必要とする児童生徒が全ての学校・学級に在籍することを前提に,学習者用デジタル教科書の配慮内容を考えることが必要不可欠といった御意見をいただきました。
また,学習者用デジタル教科書が普及した際の,教科用特定図書等の役割に関して,デジタル教科書が普及すると,特別な配慮を必要とする児童生徒のニーズにある程度は応えられますが,デジタル教科書では応えられない部分を,引き続き音声教材や点字等,音声教材の製作団体にカバーしていただく必要があるといった御意見もいただいております。
また,PDF拡大教科書の関係では,紙の拡大教科書や検定教科書をPDF版拡大教科書と併用しているケースも多いという点から,デジタルと紙,それぞれの特徴を踏まえた活用が重要だという御意見もいただきました。
さらに,外国人児童生徒への効果や配慮も踏まえ,必要と考えられる機能の整理に関して,障害のある児童生徒にニーズのある機能を業界で標準化することも必要ではないかといった御意見や,外国人児童生徒については,ルビ振りや読み上げといった機能によって内容の理解ができ,指導する側の教材の準備の負担軽減等にもつながるといった御意見もいただきました。
最後に,そうした障害のある児童生徒や外国人児童生徒に関して,どのような機能が必要かという共通項を見つけ出し,短期的に対応するものと中長期に対応するもの,デジタル教科書で実現するものとデジタル教材で実現するもの,デバイスで実現するものとそれ以外の制度面で実現するものといった整理をすると良いのではないかという御意見をいただいておりましたので,さらにそのような整理を進めていきたいと考えております。
資料9は,今後の論点整理に向けた視点だけを抜き出して書いたものになっております。中身は前回御覧いただいたものとほとんど同じではございますが,復習を兼ねまして簡単に御紹介いたします。まず,1ページ(1)の一つ目の白丸にございますように,御議論いただくことといたしましては,特に令和6年度に向けて,現行のデジタル教科書のメリットを十分に生かすために今後取り組むべき事項を明らかにしていくということが中心になろうかと考えています。
①では,例えば三つ目の白丸において,デジタル特有の動画や音声をデジタル教科書の一部として取り入れていくことについては,先ほど申しましたような観点から,令和6年度よりもさらに将来的な課題とすることが適当ではないかということを示しております。その次の白丸では,教科書及び教材におけるデジタルと紙の適切な役割分担について,それぞれの特性に加えて,デジタル教科書の導入を円滑に行う必要性や,経費の面などを踏まえながら見定めていく必要があるのではないかということを書かせていただいております。
五つ目の白丸では,令和6年度に,可能な限り多くの児童生徒がデジタル教科書を使用できるようにすべきではないかという視点を入れております。
また,②-1では機能の関係の話,②-2ではデジタル教科書とデジタル教材の連携の話を書いておりますが,②-2の二つ目の白丸では,教材が教科書に比べて相対的に自由度が高く,従来の教材のノウハウを生かした質の高い教材等もあることを踏まえ,多様なデジタル教材が広く,かつ容易にデジタル教科書と連携できるようにするためにはどうすると良いかという視点を書かせていただいております。
次の③では教師の視点について,④では障害のある児童生徒や外国人児童生徒等,特別な配慮が必要な児童生徒の視点について,書かせていただいております。
さらに,⑤では,本日御議論いただいた懸念される健康面等の影響を踏まえ,各教科の授業時数の2分の1未満とする基準の取扱いを検討していく旨記載しております。
また,⑥では,本日も御意見がございました家庭学習において使用する場合について書かせていただいております。
(2)が,教科書制度の在り方に関する項目です。①では,先ほどと同様ですが,授業時数の2分の1に満たないことの基準をどう考えるかということを記載しております。②では,法令上の「教科用図書」としての位置づけの話といたしまして,例えば無償給与制度の在り方や,紙の教科書を前提とし,それと同一の内容であるという現在のデジタル教科書の位置づけ等についてどのように整理するかということを書かせていただいております。③では,検定や採択,あるいは供給といった現行の制度について考えていく必要があるという点に触れております。
私からは以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。いま一度整理しますと,この後の議論では資料9と資料10を使います。資料10には今後も皆様の御発言,あるいはヒアリングの内容等が付け加わっていきます。本日のヒアリングの内容に鑑みると,資料10の5ページの⑤,⑥に関する御意見が,次回までに赤字で書き込まれることになります。こちらはどちらかというと,本検討会議の議論の記録として事務局にまとめていただいているものということになります。それを踏まえて,資料9において論点が整理されております。
本検討会議において検討をした結果,「今後このようにあるべきだ」ということを提言することになりますので,議論の視点に不足がないか,あるいは,この点については考え方に関する議論がまとまってきたのではないかといったことについて,御意見いただければと思っております。
したがって,これから皆様に御発言いただく際には,資料9のどの観点のことについてなのかお示しいただいた上でお話しいただくと,事務局も整理しやすいかと思っております。
それでは黒川委員,お願いいたします。
【黒川委員】 黒川です。本日はありがとうございました。令和6年度の教科書改訂に伴う本格導入に向けて,課題を明らかにする観点から何点か申し上げます。
まず,資料9の(1)①について,発行者の立場から3点申し上げます。
一つ目は導入面についてです。教科書発行者の業界では「完全供給」という言葉があります。「きちんと子供に教科書が届く」ということですが,デジタル教科書になった場合にこの点をどのように保障するかということです。発行者側において,需要数の把握やライセンスの発行,児童生徒ID等の管理システムが必要になってまいります。
また,全国で一斉に1時間目の授業が始まったときに,デジタル教科書への同時アクセスによって,学校や家でネットワークがつながりにくい状況も想定されます。こういったことを,令和6年までの間にきちんと実証的に検証したいと思っています。
二つ目は予算についてです。もし今後,議論が進んで,デジタル教科書が教科用図書として位置づけられた場合,(2)②でも指摘されていますが,デジタル教科書の製作・供給等に関する適切な予算化の検討が必要であろうと思っております。
既に指摘されている様々な課題に教科書発行者が対応するためには,これまでとは異なる予算の検討が必要であろうと考えております。
また,従来の紙の教科書の製作・供給の費用とは別に,継続的な環境整備を前提とした,運用や保守等に係る費用の予算化が必要になりますので,その項目の洗い出しをしておく必要があると思います。
加えて,先ほどの清水委員の御発表にもありました,公的負担への配慮ということに関して,家庭のネットワーク環境整備の在り方を決める必要があるのではないかと思います。公的な支援の在り方については,様々な議論があると思います。持続的な整備支援を行うのか,国や自治体の役割分担をどうするのか,BYOD等の自助的な努力を促すのか等といったことを決めていかないと,前に進んでいかないと考えます。
三つ目に,以上のことについて,授業実践を踏まえた検証の必要性を強く感じます。毎回申し上げておりますが,学習効果や特別支援に対する効果については,まだ十分な実証研究ができていませんので,この点に関する調査が必要だと思っています。
次に,(1)の②-1の標準的に備えるべき機能や仕様等について,具体的に整理したほうが良いのではないかと思っております。先ほどガイドラインに関する議論も出ておりましたが,令和6年度から使用される教科書は,来年度から本格的に編集が始まります。今使っていただいているデジタル教科書も,我々教科書協会においてガイドラインとして整理したものを踏まえて各社が作成したものです。時間との関係もありますが,来年度の編集に向けて,改めて整理をさせていただきたいと考えているところです。私見ではございますが,標準的に備えるべき機能や仕様等について整理を行った上で,他団体等からコメントいただきつつ,様々なオーダーに対して,予算との関係で実現可能なものを整理できると良いのではないかと思っています。
また,②-2のデジタル教材との連携について,教科書と連携するデジタル教材の開発と製作は推進すべきです。それとともに,これまでも議論されている教育データの標準化や学習履歴データの活用等が求められておりますが,その実用に向けては,教科による適性や整合性を含めて実証等を進めていかなければならないと考えております。
先進的には令和6年度に向けて研究を進める一方で,令和6年度から使用する教科書は令和4年度に検定が行われますので,学習履歴データの活用に関しては,令和6年度以降に実現していく課題ではないかと思っております。そこで連携できるものは,教師用なのか児童生徒用なのか,指導上の教材を選択する側なのか,児童生徒の学習活動における選択なのか等といったことが問われるのかなと思います。最終的には両方連携されていくものだとは思っております。
最後に,(1)の⑥,並びに(2)にも言及のあるライセンスについてです。現在,デジタル教科書は,発行者によって使用期間の契約が4年のものもあれば,1年で区切っているものもあります。この点を整理していかなければならないと思います。資料9では,この期間を4年,ないしは紙と同じく半永久的に使えるようにするということを,見直しの課題としていただいているように思いますが,この点について2点申し上げます。
まず,掲載補償金制度の権利制限の範囲を明確化する必要があります。これはリーガルな議論になるので,詳細はまた別の機会になるかと思いますが,デジタル教科書の使用期間のみに認められるのか,紙と同じように半永久的なのか,そしてそれが公衆送信を含めて可能なのかといったことが問題になると思います。
また,それを支えるのは予算面であり,閲覧を保証するために,サーバーの維持管理費や,OS・ブラウザの更新対応等,様々な費用が必要であることも前提になりますので,その点を指摘させていただきたいと思います。
以上です。
【堀田座長】 貴重な御意見ありがとうございました。それでは森委員,お願いいたします。
【森委員】 日本図書教材協会,及び全国図書教材協議会理事の森と申します。今回から参加させていただきます。学校教材を作る立場,そしてその学校教材を販売している立場から意見を述べさせていただければと思っております。よろしくお願いいたします。
資料9の(1)②-2にあります,デジタル教科書とデジタル教材の連携について申し上げます。
「デジタル教科書になったのだからデジタル教材になるだろう」との前提かとは思いますが,教材を作る立場からすると,現状,教材に関しては一般的に紙が主力でございます。デジタル教科書になったからと言って,教材は全てデジタル教材が良いと言えるのかという議論はあるのではないかと思っております。
また,連携に関して,学校教材は学校の先生の意見を反映して作られているという観点から,デジタル教材についても先生方の御意見・知見を集めて作っていくという視点が必要ではないかと思っております。
加えて,教材制作のの自由度についても触れられていますが,多くの会社が公正に競争できる環境づくりが大変重要だと思っています。したがって,(2)に教科書制度の在り方についての記載がありますが,検定に基づいた教科書制度を維持していただく一方で,教材は現場のニーズを取り入れることができるように,教科書・教材を分けた議論をしていくことが肝要ではないかと思っております。詳細には今後述べさせていただければと思っております。
私からは以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。清水委員,お願いいたします。
【清水委員】 清水です。資料9の(2)①と③について意見を申し上げます。
(2)の①に関しましては,「2分の1に満たない」という基準に収まるか収まらないかということではなく,学びとして望ましいということであれば,基準は必要ないのではないかと考えます。教科書の意義から考えれば,重要な役割を果たしているデジタル教科書は教科書と認識されるべきだと考えますし,この基準は時代とともに変える必要があると考えます。子供たちの学びに必要かということがとにかく大事だと思っております。
③の教科書検定や採択の見直しの必要性に関しては,現行の制度でデジタル教科書の選定が可能であれば,特に見直す必要はないのではないかと考えます。ただ,紙とデジタルの違い,特にセキュリティに関しましては,オンライン授業やWi-Fiの環境下での使用が前提になりますので,新たな制度を考えてなくてはならないのではないかと考えます。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございます。石戸委員,お願いいたします。
【石戸委員】 我々が主宰している超教育協会という団体が,先日デジタル教科書に関わるステートメントを出しました。そこで記載させていただいたことが,資料9の(2)①と②に関することです。まず,デジタル教科書を義務教育段階の全児童生徒に無償給与することと併せて,デジタル教科書の使用は各教科等の授業時数の2分の1未満にするという規定を撤廃することを挙げ,2点目に,全児童生徒が家でもネットを通じた学習ができるよう,コスト負担軽減の政策を講ずることという点を書かせていただきました。
日本経済団体連合会も同じ趣旨の提言をされているのではないかと思います。
本日,前半の御発表を聞いて,非常にポジティブなコメントをいただいたと思っております。具体的には,目への影響については20センチか30センチかという視距離の問題が大きく,タブレットのような大きな端末を使っている限りにおいては,紙と大きく変わりがないということ,また,学校の利用に関してはあまり問題を感じていらっしゃらないということをお聞きできました。また,身体への影響については,海外も含めて,現時点で共通したエビデンスはないということが,専門的な知見から分かったのではないかと思います。
それを踏まえて,私は各教科の授業時数の2分の1という基準が,何を根拠に,何を抑制するために導入した規定なのか,知りたいと思っております。
特段の根拠がないのであれば,早期に見直しするのが良いのではないかと思います。少なくとも,学校におけるデジタル媒体の活用に関しては,「使い過ぎて困っている」という実態ではなく,「活用が進まない」ということが社会的な課題になっており,そのことが,今回のコロナ禍によって,社会にも認知されたのではないかと思います。だからこそ,多額の予算がついてGIGAスクール構想が進んでいるわけですので,まずはしっかりと利活用が進むように後押しすべきなのではないかと考えています。
それに付随して,令和6年度に向けて検討するならば,時間的な制約もある中で,できるだけ多くの子供たちにデジタル教科書を活用して学ぶ環境を早期に実現するために,デジタル教科書の無償給与について検討するのが良いのではないかと考えています。
それ以降に関しては,黒川委員に御提案いただいたように,デジタル教科書はデジタル教材等の様々なデジタルコンテンツと連動して使うことによって,より効果を発揮できるものだと考えていますし,さらにはデジタル教科書を活用して子供たちの学習データを取得することによって,豊かな学びを実現できると思いますので,次の教科書改訂のタイミングにおいては,それを実現するための制度の整備を進めていくのが良いのではないかと考えています。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。中川委員,お願いいたします。
【中川委員】 よろしくお願いします。(1)①に関連して,令和6年度までの論点として「活用実績の把握」を挙げたいと思います。
先日の会議でお話しした,令和元年度の学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究に引き続き,今年度も,実証校を変えて,実証研究授業を開始しましたので,ある程度の効果・影響等に関する検証結果は得られると思います。
ただし,現状,実践の蓄積はほとんど手つかずに近いのではないかと思っています。もちろん,ここで議論されている制度設計も重要ですが,どのように使っているのかという実践を蓄積していくことが,同様に重要であると思っております。
こう言うと,「事例集を作れば良い」という話になりますが,それだけではなくて,実際にどう使っているかということをピックアップすることが重要です。
(1)①には「好事例」という言葉がありますが,何をもって好事例とするのかについても議論が必要だと思いますし,教科によっても違うと思います。
いずれにしても,デジタル教科書が普及しないと活用の実態も見えてきません。先ほどデジタル教科書の導入率が8.2%という実態調査の速報値の話がありましたが,これも,1教科でも導入していればカウントされていると思いますので,今後,教科別・学年別のデータがあると実態の把握に資するのではないかと思っています。そこから議論が発展することにもつながると思いますので,ぜひとも検討いただければと思います。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございます。加藤委員,お願いします。
【加藤委員】 よろしくお願いします。まず,(1)の②について,先ほど黒川委員が機能に関するガイドラインのことをおっしゃっていたので,それに絡めて一つだけ申し上げます。
これまでに,機能のガイドラインに関する意見に加えて使い方に関する意見もあったかと思います。教科書を開いた後の使い方ももちろんなのですが,開く前に,認証を行ったり,教科書を選んだりする場合の使い方についても,議論するタイミングがあればしたほうが良いのではないかと思います。
一つのインターフェースにするということではなく,例えば子供,あるいは学校単位で選んだ全ての教科書が,同じ方法でアクセスできないと使いづらいのではないかと思いますので,将来的にはそのような議論ができると良いのではないかと思いました。
また,先ほど画面との視距離を30センチ離すという話があったところで,文字の大きさのことを質問したのですが,GIGAスクール構想により整備されるパソコンは,大きくても恐らく11インチの後半かと思います。その時にどの程度の文字の大きさになるのかということは,先ほど中川委員が言われた実証研究からも見えてくるのかもしれませんが,大きさを確保するための機能で済むのか,もしくは教科書のレイアウトまで考えて踏み込まなければいけないのかということを,話せる機会があればと思いました。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。中野委員,お願いいたします。
【中野委員】 慶應大学の中野です。3点申し上げます。1点目は,(1)の④についてです。ユニバーサルデザインを目指すことは良いことだと思いますが,そのためには,障害によるニーズの違いや,外国人児童生徒のニーズの違いを明確にすべきだと思います。障害のある児童生徒への対応については,より詳細な検討が必要だということが前回も議論されましたので,ぜひワーキンググループの設置を検討してほしいと思います。
2点目は,(1)の⑤についてです。本日の健康に関する御指摘を踏まえると,デジタル教科書のガイドラインを作成する際に,様々な条件を記述していく必要があるのかと思います。視距離が重要だという御指摘がありましたが,視距離は読みやすい条件を作らないと確保できませんので,文字サイズ,コントラスト,フォント,配色,文字間隔や行間隔等を考える必要がありますし,音声出力は目への負担を軽減するという意味でも重要だと思いますので,そういった配慮についても入れ込む必要があるかと思います。
また,連続使用や夜間使用に関するアラートが出るような機能も,この中に明記していくことが必要だと思います。
3点目は,(1)の⑥についてです。家庭学習用のガイドラインが必要なのではないかと思いました。特に障害のある子供たちの場合,家庭学習でもデジタル教科書を使用するケースが多いと思います。そのため,学校から家庭での学習を指示する際の留意点をまとめる必要があります。
また,障害のある子供たちの場合,教科書だけではなく,日常生活や社会生活を送る際にもデジタルデバイスを使うことが少なくありません。例えば視覚障害の場合はナビゲーションとしても使えますし,聴覚障害の場合は手話や字幕を使うことがあります。そういったことを想定して,教科書だけではなく,トータルなデジタルデバイス利用のガイドラインが必要だと思いました。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。青山委員,お願いします。
【青山委員】 まず,(1)①の5点目や(1)③についてです。日常的にデジタル教科書が活用される環境を,ここでかなり作っていかない限り,デジタル教科書が実際に導入されたときに,教師が効果的に使うことは難しいと思います。現状,導入率は8.2%とのことですが,令和6年の段階で,デジタル教科書を使い出すという方向に相当行かないと,実際にデジタル教科書を一斉に使い始めたときに,結局はどう使って良いのか分からないということが起きてしまうと思っております。
次に,(2)の①についてです。皆様から御指摘のあったように,「授業時数の2分の1」というと,「4時間ある単元であれば,1回おきに2時間使って良いのか」というのが現場の発想です。画面を見続ける時間は教科ごとに違います。例えば社会科であれば,一度情報を得れば,何度も何度も教科書の同じ情報を見続けるということはしませんが,国語であれば,同じ教科書,教材を何度も読み返すので見続ける時間が長くなります。教科によっても教科書の使い方は大きく違うので,先ほど中川委員がおっしゃったように,実証研究において,教科別,学年別の調査をもう少し手厚く行う必要があるのではないかと思っております。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。柴田委員,お願いいたします。
【柴田委員】 柴田です。資料9の(1)の⑤,⑥にあります,健康面についてです。本日発表させていただきましたので,申し上げたいことの結論としては同じですが,やはり実証を踏まえた,実践的な状況に合わせて考えていくことが必要だろうと思っています。
また,「健康面に留意する」という視点を,まず学校の先生方に御理解いただき,そしてそれが授業の中での指導によって子供たちに伝わり,さらには保護者の方にも適切に説明をすることによって,学校としても,デジタル教科書を使うに当たっての子供たちに対する配慮につながると思いますので,そうした重要性も感じました。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございます。白鳥委員,お願いいたします。
【白鳥委員】 よろしくお願いいたします。資料9の(1)の⑥についてです。家庭での利用に当たっては,利用場所と利用端末を選ばないデジタル教科書環境が必要だと考えております。特に,緊急事態宣言を伴う休校や,特別支援の観点からも,家庭でのデジタル教科書の利用が望まれているというお話も伺いますので,令和6年度に向けては,インターネット上で全てのデジタル教科書が配信されていることが望まれるのではないかと考えておりますし,一般的なウェブサービスのように,いつでも使いたいときに使えるような利用環境が必要だと思っています。
一方,学習者用端末を自宅に持ち帰れるのかという問題がまだ残っていると思っております。地域,学校,自治体によってはまだ持ち帰りを認めていないところもあると思いますが,今後,家庭にある端末を使いたい等といったBYODの話は上がってくるのではないかと思っております。
こうした中で,本日の御発表の中でもありましたスマートフォンに関して,当社のデータではございますが,当社がデジタル教科書を配信しているプラットフォームでは,既にスマートフォンでの利用がございます。御利用者のうち,10%程度の方がスマートフォンから利用されております。今年度から提供しているので,経年比較はできませんが,特に,緊急事態宣言等による休校期間中には,利用者の15%程度はスマートフォンから利用していたという実態もございます。
ただ,誤解がないように申し上げますと,スマートフォンを学校で配備される学習端末に代えて使っていただきたいという意味ではなく,学校から端末を持ち帰れないという状況や,御家庭にパソコンやタブレット端末がないという状況においてデジタル教科書を活用したいというときに活用する場合もあるということです。実態としてスマートフォンでの利用がありますので,今後,中長期的にデジタル教材の利用が増えたり,高校生が使うことが増えたりといったことを考えますと,スマートフォンを用いたデジタル教科書の利用についても,その使用時間や使用方法,リテラシー教育等について,速やかに指針等を示すことが望まれるものと考えております。
以上になります。
【堀田座長】 ありがとうございます。齋藤委員,お願いいたします。
【齋藤委員】 齋藤です。よろしくお願いします。外国人児童生徒に関しても触れられているということ自体,うれしく思いながら,皆様の議論をお聞きしておりました。何点か申し上げます。
1点目に,資料9の(1)の②-1において,機能としてどういうものが必要かということを整理してはどうかとの提案がございますが,中野委員のお話や前回のヒアリングのお話をお聞きすると,障害のある子供たちに対するデジタル教材の機能を十分に活用すれば,外国人児童生徒の学習においては非常に大きな助けになると考えます。
外国人児童生徒特有の困難に対する機能としては,翻訳機能が挙げられるかと思うのですが,翻訳機能の付加が現在のデジタル教科書の制度の中で実現可能なのかどうかについては議論が必要だと思われます。それを解決する一つの方策として,先ほど来,皆様からもお話のあったデジタル教材において,翻訳機能を持つものを開発することを推進していく仕組みや予算的な措置,あるいはデイジー教材等のようにNPO団体等の方々の力を借りることが可能になる仕組みが必要なのではないかと思っています。
2点目に,(1)の③にあります,先生方の研修に関わる点についてです。今お話しした,障害のある子供たちへの機能を,外国人児童生徒にとって有効な方法で利用するには,先生方の力量を形成していくことが必要だと考えます。
前回お話しさせていただきましたが,外国人の子供たちの場合は,来日期間が延びれば日本語の力も伸びていきます。それと同時に,もともとその子たちが母国で培ってきた認知的な側面や,教科についての知識・技能も,日本語を介して発揮できるようになっていきます。そうすると,子供たちの学習参加の状況も変わっていきますので,それを先生方がきちんと見取って,その状況に合った形でデジタル教科書・教材の機能をうまく活用していくということが求められます。そうした研修を十分に行わなければ,本来ある子供の力を発揮するには,この機能は使用しないほうが良いという場面でも,あまりにも様々な機能を使い過ぎて,子供たちが学ぶ力,伸びるはずの力を抑えてしまう可能性が出てきます。したがって,教師の研修は非常に重要だと思います。
3点目に,教師の研修と関連づけて御検討いただきたいと思うことなのですが,先ほど,障害のある子供の御家庭にもガイドブックが必要ではないかというお話が,中野委員からございました。外国人の子供の保護者の場合は,まず日本の学校システムについて十分な理解をしていない可能性があります。また,デジタル教科書の利用方法等について伝達しようとしても,日本語では十分に理解できない可能性があります。加えて,家庭によって状況が大きく違うというお話もありましたが,外国人児童生徒の御家庭は経済的に困窮している場合も多く,夜,保護者が家庭におらず仕事に行っていて,子供が1人で自宅にいるという場合もあります。
そのように考えますと,本日まさに話題に上っていた健康面での配慮も含め,家庭でデジタル教科書をどのように使っていくかということを,外国人の保護者にも十分理解してもらえるような方法でのガイドブックの作成や,教師からの伝達が必要になると思います。
【堀田座長】 ありがとうございます。片山敏郎委員,お願いいたします。
【片山(敏)委員】 現場にいる者として,本日は大変大事な知見を得たと思っています。現場で徹底していくためには,現場に対して影響力のある形で,令和6年に向けて文科省から指針を出すべきだと思っております。
本当は,保健の学習指導要領の中に,「30センチ離す」,「30分使用したら休む」という趣旨が分かるような文言や,家庭でのゲームの時間を減らすといった文言を明記できると良いのではないかと思いますが,令和6年には間に合いませんので,教育の情報化の手引やガイドライン等,何らかの形で位置づけていただくと,教育委員会としても指導の根拠ができると思います。この点をぜひお願いいたします。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
それでは最後に,座長代理の東原委員,お願いいたします。
【東原座長代理】 本日は健康面から,先生方や子供たちにどのようなメッセージを伝えるべきなのかということを,非常に明確にお示しいただき,大変ありがたい機会だったと思います。
資料9を拝見しますと,様々な課題に関して,大体,大きな方向が見えてきたように感じておりますが,本日,黒川委員や石戸委員が御指摘された部分に関しての検討が,もう少し具体的に進まなければならないと思いました。
具体的に申し上げますと,(2)の②にあります,無償給与に関わるところです。これまで様々な実証研究等々やってきましたが,一体どこにどのような経費が必要で,それが今までの紙の教科書とデジタル教科書の場合に何が違うのかということを,作る場合のこと,流通のこと,配信,保守,メンテナンス等,様々な観点で検討する必要がございます。一度きれいに整理して,無償給与が本当に可能なのか不可能なのか,可能にするにはどうしたら良いのかということを,一度集中的に検討する機会を設けられたら良いのではないかと思いました。
以上でございます。
【堀田座長】 貴重な意見をありがとうございました。
それでは,石戸委員に御質問いただきました,授業時数の2分の1という基準の設定意図につきまして,神山課長からお答えいただければと思います。お願いします。
【神山課長】 石戸委員から御指摘のあった2分の1の基準でございますが,デジタル教科書を紙の教科書に代えて使用できるという制度を導入した際には,まだ,それほどデジタル媒体を活用して授業をするということが普及していたわけではございませんでした。そういった状況や,定量的なエビデンスがない中で,健康に対する不安を御意見としていただいておりましたので,段階的に,慎重に導入を始める観点から,2分の1の基準を定めておりました。
まさに本日のような,医学的な見地も含めた御意見を踏まえて,2分の1の基準の在り方を見直していく必要があれば,今後見直していくということだと考えております。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございます。当時の「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」において座長を務めておりました私からも補足をさせていただきます。デジタル教科書を制度化するに当たり,健康面に対する強い懸念が意見としてございました。また,紙の教科書を無償給与しており,全ての児童生徒が紙の教科書を使用しているという現実から考えたときに,「2分の1」という数字はともかく,「デジタルも使って良い」という形にすることが,当時可能な最大限のことだったと思っております。
しかし,今回のコロナ禍のこともあり,本日は基準を撤廃しても良いのではないかという御意見が多く出ておりました。そのような方向に向かっているのは,教育の情報化,あるいはデジタル化が随分進んできて,社会に認知されてきているということかと思います。貴重な御意見を多くいただきましたので,基準については前向きに検討していきたいと思います。
本日は,特にヒアリングで医学的な見地からの御意見をたくさんいただき,本当にありがとうございました。子供たちが健康に留意するというリテラシーを身につけておくべきということや,それが指導内容としてどのようにあるべきかということについて,一定程度はっきりしたと思います。課題としては,全ての教育委員会において,クラウドベースでの使用環境の整備が行われるのか,あるいは持ち帰りも前提にした環境整備が行われるのかということが挙げられます。通信環境の不備によりうまくデジタル教科書を供給できない,あるいは持ち帰りが認められないのでスマートフォンで見るほかなく,そのために目が悪くなるような状況で利用してしまうといったことになりかねないという御指摘もありました。このようなことについて,GIGAスクール構想で整備されていく環境が,各教育委員会において十分な形で整備・活用されていく体制が取られていくことを期待しますし,今後そのような方向で議論を進めていくことになろうかと思っております。
最後になりますが,次回以降のスケジュールにつきまして,事務局より資料11に沿って御説明いただきます。
【度會課長補佐】 次回以降のスケジュールでございますが,次回の第5回が,10月27日(火曜日)の16時から18時を予定しており,議題は「教材連携の在り方について」等です。その次の第6回が,11月13日(金曜日)の10時から12時を予定しており,議題は「教科書制度の在り方について」等を予定しております。
次回の会議も本日と同様にウェブ会議方式とさせていただくかどうかにつきましては,改めて御連絡させていただきます。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございます。中央教育審議会の答申等との兼ね合いもあり,このようなスケジュールとなっております。引き続き御協力をお願いいたします。
これをもちまして本日の会議を閉会とさせていただきます。本日もありがとうございました。

―― 了 ――

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