デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議(第3回)議事録

1.日時

令和2年8月25日(火曜日)16時00分~18時30分

2.場所

文部科学省東館13階 13F1~3会議室 ※Web会議での開催

3.議題

  1. 教科書のアクセシビリティ等について
  2. その他

4.出席者

委員

(委員)
青山委員、赤堀委員、片山(敏)委員、片山(弘)委員、加藤委員、河嶌委員、黒川委員、齋藤委員、柴田委員、清水委員、白鳥委員、中川委員、中野委員、東原座長代理、福山委員、堀田座長、宮原委員
(ヒアリング)
市川 裕二 全国特別支援学校長会会長
近藤 武夫 東京大学先端科学技術研究センター准教授
佐々木 しのぶ 浜松市外国人児童生徒教科指導員

文部科学省

矢野大臣官房審議官、浅野初等中等教育企画課長、桐生学びの先端技術活用推進室長、佐藤学びの先端技術活用推進室室長補佐、中川初等中等教育局視学委員、川口特別支援教育課課長補佐、小林男女共同参画共生社会学習・安全課外国人児童生徒教育専門官、神山教科書課長、高見教科書課教科書企画官、季武教科書課課長補佐、度會教科書課課長補佐

5.議事録

デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議(第3回)

令和2年8月25日



【堀田座長】 ただいまから,デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議の第3回会議を開催させていただきます。
本日も,お忙しい中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。今回も新型コロナウイルスの感染状況を踏まえまして,ウェブ会議方式とし,会議の模様はユーチューブの文部科学省公式チャンネルにてライブ配信をしております。
本日は,特別な配慮が必要な児童生徒の教科書のアクセシビリティについて,ヒアリングを行います。その後に委員の皆様方に御意見をいただきます。
今日,御議論をいただくために,中野委員,齋藤委員に加えて3名の方より発表いただきますので,まずはその3名の方の御紹介をさせていただきます。一言だけ御挨拶いただければと思います。
東京大学先端科学技術研究センターの近藤先生です。
【近藤氏】 東京大学の近藤です。東京大学先端科学技術研究センターにおいて,音声教材等教科用特定図書のデータ管理センターというものを行っております。本日はその観点からお話しさせていただければと思います。よろしくお願いします。
【堀田座長】 ありがとうございます。
続きまして,全国特別支援学校長会会長の市川先生,よろしくお願いします。
【市川氏】 全国特別支援学校長会の市川でございます。よろしくお願いいたします。
【堀田座長】 ありがとうございます。
続きまして,外国人児童生徒等について発表いただきます浜松市外国人児童生徒教科指導員の佐々木様でございます。
現在一時的に通信が乱れているようですので,後ほど御発表のときに御挨拶いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
それでは,続きまして,事務局より資料確認をお願いいたします。
【季武課長補佐】 資料につきまして,議事次第に記載の資料1から8までを皆様に事前に送付させていただいております。加えて,委員の皆様へは,机上配布資料も2種類送付しておりますので,もし不足等ございましたら事務局にお知らせいただければと思います。よろしくお願いいたします。
【堀田座長】 ありがとうございました。
それでは,本日の議題に入る前に,この会議で検討すべき論点を整理いたします。
本日が3回目の会議ですけれども,これまでの2回は,どちらかというと総論的な内容について皆様から自由に御発言をいただいたところでございます。それにより論点も数多く出てきておりますので,この多数の論点につきまして,事務局にて短期的な論点と長期的な論点に組み分けていただいております。
この会議では,デジタル教科書の将来像を念頭に置きつつも,まずは令和6年度の次期教科書改訂に向けて実現すべき論点について何らかの方向性を示すことが喫緊の課題ということになります。そのための事項を焦点化しながら議論をしていきたいと思います。
つきましては,総論についていただいた御意見を踏まえ,事務局において今後の検討を進めるに当たっての「論点整理の方向性」を洗い出していただいております。まずは,このことについて事務局から御説明をいただきます。このことについての議論は,ヒアリングを行った後に改めて行いたいと思いますので,まずは資料の説明を事務局にしていただきまして,その資料の内容について質疑のみ取らせていただきます。
では,事務局から,資料1と机上配付資料についての説明をお願いいたします。
【神山課長】 それでは,資料1を御覧ください。
昨日の夕刊でデジタル教科書につきまして新聞報道がなされており,これからの議論にも関わりますので,資料1の説明に入る前に一言だけ申し上げさせていただきます。
記事の中では,「次世代型のデジタル教科書を来年度から実証する」といった話が書かれておりましたが,記事にあるような形での実証研究を現段階で検討しているということはございませんし,また,使用授業時数の基準等につきましても,この会議で御議論いただいた上で今後の方向性を決めていくこととしておりますので,新聞記事が,文部科学省として示した方向性を踏まえて書かれているわけではないということは御承知おきいただければと思います。
それでは,改めまして,資料1を御覧ください。最初に,「総論的事項」と「個別的事項」で分けさせていただいております。
総論的な事項というのは,先ほど座長からも御指摘がございましたように,これまでの2回の会議でいただいた御意見を踏まえて,今後の論点の整理を行っております。後ほど,令和6年度とそれ以降の話を分けて考えつつ議論すべきという記述も出てまいりますけれども,今回の整理だけで十分ということはないかと思いますので,本日いただいた御意見等も踏まえながら,さらに資料の整理をしていきたいと思っております。
2ページ目以降にこれまでの主な御意見と今後の方向性を書かせていただいております。座長とも御相談させていただきながら,例えば制度的あるいは時間的,予算的な視点も踏まえて,今後の論点整理の方向性をお示しさせていただいておりますので,本日のヒアリングを含めまして,個別の論点をお話しいただく際にも,全体像を踏まえながら御議論いただければと考えてございます。
資料の構成といたしましては,枠囲みの中に入っている部分がこれまでいただいた意見で,特に赤字になっておりますのは前回の御意見として追加をしたものとなっております。
枠囲みの下に矢印をつけて青字で書かせていただいているのが,論点整理の方向性の案となっております。(1)の最初の枠囲みの下の青字部分を御覧いただきますと,令和6年度に実現すべきと考えられる事項と,将来的に実現すべきと考えられる事項とを,スケジュールを踏まえて整理をしつつ,特にこの会議では,令和6年度に向けて,現行のデジタル教科書のメリットを十分に生かすために,今後取り組むべき事項を明らかにしてはどうかということを,今まで出た意見を踏まえて書かせていただいております。
スケジュール表を御覧ください。令和6年が次の小学校用教科書の改訂ということになっておりますが,その編集作業等は令和3年から始まるというスケジュールを踏まえて御議論いただく必要があると考えております。
続きまして,「①児童生徒の学びの質を充実させるため、デジタル教科書はどのようにあるべきか」という項目について,青字のところを中心に御説明させていただきます。
3ページの最初の矢印で,デジタル教科書とデジタル教材や,あるいは学習支援システム等との役割分担をきちんと整理した上で,令和6年度に向けて好事例の収集や整理・発信を行うべきではないかということを説明させていただいております。
また,二つ目に,デジタル教科書とデジタル教材との役割分担を整理する際に踏まえていただきたいことといたしまして,デジタル教科書は,教科書制度,例えば検定や無償措置といった制度との関係を考慮する必要があるということを記載しております。一方で,デジタル教材は,相対的に自由度が高くなっておりますので,デジタル教材のほうがより多様で,かつ迅速に教材の提供をすることが期待しやすいという点も踏まえて御議論いただく必要があるのではないかと考えております。
また,三つ目に,デジタル特有の動画や音声をデジタル教科書の一部としてどのように取り入れていくかという点を記載しております。この点につきましては,先ほど申し上げたように,動画や音声というデジタル特有のものを,教科書そのものとしてどう取り入れていくかという御議論をこれまでもいただいておりましたが,先ほど御覧いただいた編集や検定,採択といった教科書のスケジュールや,令和6年の改訂が学習指導要領の改訂を伴わない形での教科書改訂であり,通常比較的小幅な改訂が多いといった状況等を踏まえますと,どのように取り入れられるかという議論は,令和6年度よりも将来的な課題としてはどうかという趣旨のものでございます。その際に,動画をある程度取り入れていくということであれば,デジタル教材とデジタル教科書の役割分担を改めて考える必要があるのではないかと思っております。冒頭にありました令和6年に向けて集中的に検討すべき課題と,令和6年以降の将来的な課題を分けるという意味では,動画や音声等をどのように教科書に取り入れていくかということは将来的な課題と考える方向性を提案しております。
続きまして,四つ目に教科書及び教材におけるデジタルと紙の適切な役割分担について記載しております。紙とデジタルそれぞれの特性に加え,デジタル教科書の導入を円滑に行う必要性,例えば現場における慣れが必要ではないかという御意見がありましたけれども,そうした円滑な導入の必要性や,提供に必要なコストの面も含めて見定める必要があるのではないかと考えております。
五つ目に,日常的にデジタル教科書が活用される環境を醸成し,その効果を実感できるようにしていくために,令和6年度には可能な限り多くの児童生徒がデジタル教科書を使用できるようにすべきではないかという点を,これまでの御意見等も踏まえて書かせていただいております。
また,六つ目に,いただいた御意見の中にもあったクラウドの経由といった話につきましては,後出の「デジタル教科書を家庭でも活用できるようにする」という観点も踏まえて検討してはどうかということを記載しております。
次のページを御覧ください。「②児童生徒の学びの充実に向けて,具体的に検討が必要な点」のうち,1点目の「どのような学習機能や操作機能,学習履歴の把握のための仕組みが必要か」という項目につきましては,本日,特別支援の関係や外国人児童生徒の関係でも御議論いただくところになるかと思いますけれども,標準的に備えるべき機能や仕様等について,より具体的に整理をしていくということを青字部分に書かせていただいております。ビューアーの機能等も含めて御検討いただくことになるかと思っております。
その下には,2点目として,「デジタル教科書とデジタル教材をより広い連携させるにはどのようにすべきか」という点について書いております。
最初の矢印では,文部科学省において行っております「教育データの利活用に関する有識者会議」における議論も踏まえて検討する必要があろうということを記載しております。こちらの有識者会議については,今後担当より報告いただく予定です。
その次の矢印では,先ほど申し上げたように,教材は教科書に比べて自由度が高く,これまでにも教科書に準拠した質の高い教材が多く発行されていることや,デジタル化されることで多様な教材が迅速に提供されやすいということを考慮した上で,従来の教材のノウハウを生かした教材や,デジタルの特性を生かした新しいタイプの教材等,多様な教材が連携しやすくするためには,どういうことがデジタル教科書に求められるのかといったことを整理してはどうかということを記載しております。
次に,「③デジタル教科書の導入による教師の教材作成や校務負担に資する影響」や,教師の資質・能力の向上等の観点です。5ページの最初の青字部分を御覧ください。教員養成や研修における対応をはじめとして教師へのサポートが必要ではないかということ,また,デジタル教科書を可能な限り多くの児童生徒が使用できるようにしながら,事例が増えていくことを通じて,好事例の収集や整理・発信をしていくべきではないかということを書かせていただいております。
続いて,「④障害のある児童生徒や外国人児童生徒等」への対応について,本日の議論の中心でもございますが,青字で記載のとおり,標準的に備えるべき機能や仕様について整理してはどうかとの提案をしております。その際に,ユニバーサルデザインの観点等も踏まえながら,標準的に備えるべき部分と,そこまでではないけれども,有用と考えられる部分とを整理していただくことが必要と考えております。
6ページを御覧ください。「⑤学びの充実のためによりデジタル教科書の使用が増える場合,懸念される影響」について,青字部分に記載しておりますが,健康等への影響の観点で留意すべき事項をさらに整理していただき,その上で,現在の「授業時数の2分の1未満」といった使用基準の扱いを検討していただくという流れになろうかと考えております。
続いて,「⑥デジタル教科書を宿題や家庭学習において使用する場合」について,青字部分で「家庭での使用に当たって留意すべき事項を整理してはどうか」ということを提案しております。その際には,ライセンスの在り方等についても検討していく必要があるのではないかと考えております。
ここまでが言わばデジタル教科書の使い方について述べている部分でして,6ページ下部の(2)からは教科書制度の在り方について述べております。教科書制度の在り方は,これまで,御議論というよりは総論的な意見の中でいただいた部分なので,議論としてはまだ不十分な部分もあるかとは思いますが,今後制度的なことも踏まえながら御議論いただくという趣旨で,青字にて幾つか書かせていただいております。
7ページの①,授業時数の2分の1に満たないことという基準についてどう考えるかという点につきましては,「(1)⑤の児童生徒に与える影響の観点を踏まえつつ検討していくということでよいか」と書かせていただいております。
また,②においては,法令上の「教科用図書」としての位置づけの話を書かせていただいております。一つ目の矢印では,経済的な負担を軽減しながら,可能な限り多くの児童生徒に活用いただくために,特に義務教育段階において,無償給与の対象とする場合にどういった在り方があるのかという視点があろうと考えております。
二つ目の矢印ですけれども,現行の学校教育法では,紙の教科書を前提に,それと同じ内容の電磁的記録がデジタル教科書ということになっておりますが,その位置づけについては,(1)で挙がった様々な論点,特にデジタル教材との役割分担や連携といったことを踏まえながら,どのような位置づけにするかということを考える必要があるのではないかと書かせていただいております。
続いて,③では,検定や採択,供給について述べております。これまでライセンスの考え方に関する御意見をいただいておりましたので,例えば,複数年度使用する教科書もあるといった使用形態や,デジタル教科書の提供コスト等も踏まえて,上記②で述べた法令上の位置づけ等と併せて検討していく必要があるということを書かせていただいております。
以上が,今までの御議論を踏まえて,これから議論していただくときの方向性として整理をしたものですので,御意見をいただく際にも参考にしていただければと思います。
再び1ページを御覧ください。これまで御説明していたのは,最初の「総論的事項」の附属資料でした。次に,「個別的事項」ということで,本日,ヒアリングで御発言をいただくこととしております点について,「こういう視点で御議論いただきたい」というところを書かせていただいております。
一つ目は,障害のある児童生徒の関係です。1点目に,障害のある児童生徒の学びを支援するために,標準的に備えることが望ましい最低限の機能といったものは何かという点を挙げています。この点を考える際には,下に「参考」として機能の例を挙げておりますので,こちらも御参考にしていただければと思っております。
2点目に,現在,特定教科書と呼ばれている点字教科書や拡大教科書,音声教材といったものにつきまして,デジタル教科書に置き換えて使用することが考えられるか,また,どのような場合にデジタル教科書では対応し切れないのかといったところを御議論いただければと考えております。
それと併せまして,現在,発行者に拡大教科書を発行する努力義務が課されておりますが,学習者用デジタル教科書の普及が進んだときにもその制度を維持する必要があるかといった点も,御意見があればいただきたいと思っております。
二つ目は,日本語に通じない児童生徒の関係です。こちらも,標準的に備えることが望ましい最低限の機能について,同様に御議論いただきたいと考えております。
資料1については以上でございますが,もう1点,机上配付資料として,8月20日に開催されました,中央教育審議会の「新しい時代の初等中等教育の在り方特別部会」において,デジタル教科書に関していただいた御意見をまとめたものをお配りしております。未定稿ですので机上配付資料とさせていただいております。
簡単に御紹介をさせていただきます。1点目に,教室における授業という観点からは,紙もデジタルも共に生かしていく,あるいは紙とデジタルの融合を図っていく,そういう授業の文化を豊かにしていくことも,方向性としてあり得るのではないかという御意見がございました。
2点目に,どのような機能や学習履歴の把握のための仕組みが必要かということにつきまして,例えば,教科書の中の演習問題のパートでは,デジタル教科書に演習自体を載せるだけではなく,解答が出てくる,あるいは,どのように解答したのかということを履歴として残せるといった使い方を検討していってはどうかという御意見がございました。
3点目に,具体的な操作方法や活用方法を分かりやすく教員に示していくことが大切だといった御指摘もいただいております。また,4点目に,デジタル教科書の使用が増えたときに懸念される影響をきちんと議論する必要があり,例えば,時間に関しての自己管理能力の醸成も必要だという御指摘や,保護者との連携が必要だという御指摘をいただいております。
また,5点目に,授業時数の在り方について,各教科の特性等も踏まえて検討していただきたいという御意見もいただきました。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。
詳細に説明いただきましたが,改めて確認をしますと,資料1に書いてあることが今回の議論のポイントで,そのうち総論的事項について2ページ以降に詳しく書いてあります。こちらはまだ検討課題の洗い出しと議論が始まったばかりの部分ですので,今回だけで全て解決するということではありません。ただ,多岐にわたる論点をできるだけ,喫緊の課題である直近の話と,将来的な話にうまく区分けしながら御意見をいただきたいということでございます。また,個別的事項につきましては,この後,障害のある児童生徒と日本語に通じない児童生徒の観点でお話をいただくこととなっております。
事務局より提示いただいている論点の整理につきまして,何か御質問等ございましたら,挙手を願いいたします。
現時点では御質問等ないようですので,進めさせていただきます。細かい点については,本日最後にまとめて質疑のお時間を取りますので,そのときに御意見いただければと思います。
なお,補足といたしまして,本日,机上配付となりましたが,今後も中央教育審議会に必要に応じて御報告をして,そちらからも様々な御意見をいただきながら進めてまいりたいと考えております。
それでは,今回の議題である特別な配慮が必要な児童生徒に係る教科書のアクセシビリティにつきまして,現状と課題,今後期待されることについて,御発表や御意見をいただきます。
本日いただく情報提供について,事務局から,方針等に関する説明をお願いいたします。
【季武課長補佐】 まず,本日ヒアリングをさせていただくに当たって,お願いさせていただいた観点について簡単に説明させていただきます。
最初に,障害のある児童生徒について御発表いただきます。障害のある児童生徒については,現行制度上,「教科用特定図書」や「特定教科書」と呼ばれているものを使用することができます。具体的には,点字教科書,拡大教科書,音声教材等というものがあります。点字教科書は教科書を点字化したもの,拡大教科書は教科書を拡大したもので,主に全盲の児童生徒や弱視の児童生徒に活用いただいています。また,音声教材等については,様々な形態がありますが,パソコン等のICT端末を使用することで,教科書の内容を音声で再生できるものとなっております。拡大教科書は各教科書発行者に作成いただいていており,音声教材等は,ボランティア団体や公益財団法人,NPO法人,大学等に作成いただいていおります。
本日,最初に御発表いただく中野委員は,この特定教科書の一種であるPDF版拡大教科書,すなわちPDFで見られるような形態で拡大教科書を提供されています。今回の発表では,特定教科書の全般的な状況を踏まえ,デジタル教科書と特定教科書との関係等について御発表いただきます。
また,次に御発表いただく東京大学の近藤先生は,教科書発行者から提供いただいている教科書のデータを,実際に音声教材等を作成されている団体が活用しやすい形式にして提供する「データ管理機関」の役割を担われています。本日は,音声教材を作成されている観点から御発表をお願いしております。
全国特別支援学校長会の市川先生には,実際に障害のある児童生徒の指導をされているという観点から,今後のデジタル教科書について,どのような点で期待をされているかということについて御発表いただきます。
また,外国人児童生徒についてもヒアリングをさせていただきます。齋藤委員からは,外国人等の日本語に通じない児童生徒への指導について御研究されている観点から,デジタル教科書をどのように有効活用できるのかということについて御発表いただきます。
浜松市外国人児童生徒教科指導員の佐々木先生からは,実際に外国人児童生徒に指導されている観点から,教育現場の実態とデジタル教科書に期待できることについて御発表いただきます。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。
私たちがデジタル教科書の今後の在り方を考えていくときに,実際にどのような場面で,どういうところまで検討されていて,どのように実用されているかについて把握することが非常に重要です。とりわけ,障害のある児童生徒のことや日本語に通じない児童生徒のことは必ずしも日々接することができるわけではありませんので,まずはそうした児童生徒に関して,本日多数情報提供いただくこととなっております。
それでは,最初に,中野委員より,資料2に沿って御発表をお願いいたします。
【中野委員】 お願いいたします。慶應義塾大学の中野泰志です。「障害のある児童生徒にとっての学習者用デジタル教科書の在り方を考える上でのポイント」というタイトルで話題提供をさせていただきます。
はじめに,対象となる児童生徒についてお話しします。特別な配慮を必要とする児童生徒には,大別すると,「障害のある児童生徒」と「日本語に通じない児童生徒」等が考えられます。本報告では,障害のある児童生徒について紹介します。
対象となる障害のある児童生徒については,その種類と程度が学校教育法施行令等に定められています。この定義に該当する義務教育段階の児童生徒は,特別支援学校に約7万2,000人,特別支援学級に約23万6,000人,通級指導教室に約10万9,000人,そして通常の学級に約2,000人在籍しています。特別な配慮を必要とする障害のある児童生徒,つまり特別支援教育の対象となる児童生徒は義務教育段階でも約42万人で,全児童生徒の4.2%を占めておりまして,決して少ない数ではありません。
特別支援教育は,特別支援学校や特別支援学級だけでなく,障害により特別な支援を必要とする子供が在籍する全ての学校において実施されるものです。ここでは詳細は説明いたしませんが,特別支援学校だけでなく,多様な学びの場に子供たちは在籍しています。学校教育法施行令第22条の3に該当する,障害の程度が重度の児童生徒が,通常の学級で学んでいるケースも少なくありません。したがって,特別な配慮を必要とする児童生徒は,全ての学校・学級に在籍することを前提に,学習者用デジタル教科書の配慮内容を考えることが必要不可欠と言えます。
次に,教科書がアクセシブルになることが,障害のある児童生徒にどのような意義を持つのかについて説明します。
紙の教科書は,障害のある児童生徒にとってアクセシブルではありませんでした。例えば,視覚障害があるため点字が必要な児童生徒は,最初,通常の教科書にはアクセスできなかったわけです。そこで,ボランティア等が教科書を点訳していました。牟田口の研究によれば,最初の点字教科書が発行されたのは1909年で,我が国で最初の文部省著作点字教科書が発行されたのは,その20年後の1929年だったとのことです。
点字教科書の登場によって全てが解決されたわけではなく,例えば同じ視覚障害でも,弱視児の中には,点字でも通常の文字でもアクセスすることが困難なケースが出てきました。特にルーペ等の拡大補助具を活用することが困難な子供たちに必要だったのが,文字を拡大した教科書です。点字教科書と同様,最初はボランティア等が手書きで拡大していました。ボランティア等が拡大教科書を作成する際,著作権の許諾申請や費用等の課題がありましたが,2008年に教科書バリアフリー法が成立し,拡大教科書が安定供給されるようになりました。現在,教科書発行者が作成している3種類の拡大教科書と,ボランティアの個別対応で作成している拡大教科書,この4種類の中から選択できるという充実した仕組みが出来上がっています。
拡大教科書は見やすいのですが,実態調査をしてみると不満も多いことが分かりました。時間の関係でデータは紹介いたしませんので,後で御覧ください。幾つかデータを示してあります。
要点のみを申し上げますと,弱視児童生徒のニーズに合わせて多様な文字サイズ等の拡大教科書を作成しても,全てのニーズに対応することは困難だということです。そこで,文字サイズ等,柔軟な対応が可能なデジタルへの期待が高まってきたわけです。特に高等学校段階の拡大教科書は,種類が多いことや無償給与の対象ではないことから発行実績が低かったため,デジタルへの期待が高くなってきました。
このような弱視児のニーズに加え,発達障害の児童生徒のニーズも高くなり,特別支援のためのデジタル教材が登場することになりました。特別支援のためのデジタル教材には,主として弱視の児童生徒向けのPDF版拡大図書と,主として発達障害の児童生徒向けの音声教材があります。PDF版拡大図書は,私たち慶應義塾大学が製作・提供しています。音声教材は,日本リハビリテーション協会,東京大学先端科学技術研究センター,NPOエッジ,茨城大学,広島大学,愛媛大学が製作・提供をしています。障害のある児童生徒のニーズは多様であるため,それぞれのニーズに応じた多様なシステムがあるわけです。
続いて,特別支援に必要な機能について紹介します。
学習者用デジタル教科書に搭載されている主な特別支援機能については,第1回目の会議の際,教科書協会から御説明がありましたが,文字色・背景色の変更,振り仮名表示,リフロー表示,機械音声による音声読み上げという機能が紹介されました。
PDF版拡大図書や音声教材には,文字や図形等をピンチ操作で拡大・縮小する機能,文字サイズを変更しても上下のスクロールだけで文章にアクセスできるリフロー表示機能,文字や図形等をハイライトしながら音声で読み上げる機能,ルビをオン/オフする機能,フォント,行間隔,文字間隔,縦書き/横書き等の文書スタイルを変更する機能,メモやラインマーク等の書き込み機能,キーボードや外部スイッチから操作できる代替操作機能,そのほか,ブックマーク,ページジャンプ,辞書機能,コピー機能等があります。
PDF版拡大図書や音声教材はニーズに基づいて開発されているわけですが,このノウハウを学習者用デジタル教科書に反映させることができれば,学習者用デジタル教科書の特別支援機能が充実すると考えられます。
引き続き,PDF版拡大図書や音声教材の利用実態について簡単に説明します。
資料には,慶應義塾大学で提供しているPDF版拡大図書の利用実態調査の概要を示しております。
2019年度は,小学生158人,中学生152人,高校生182人の計492人に対して延べ5,574冊のデジタル教材を提供しました。そのうち,350人から有効回答を得た調査結果を資料には掲載しておきましたので,後ほど御覧ください。様々な観点でデータを収集しております。今年度もこの調査は継続しております。
これまでの調査の結果,PDF版拡大図書の評価は高く,学習効果も高いけれども,紙の拡大教科書や検定済教科書を併用しているケースも多いことが分かっています。この傾向は,PDF版拡大図書の調査研究を開始した2013年当時からあまり変わっていません。デジタルと紙,それぞれのメディアの特徴を踏まえた活用が重要だと考えられます。
次に,障害のある児童生徒に必要となるユーザーインターフェースについて紹介します。
一番重要なことは,ユニバーサルデザインの原則に基づいて閲覧アプリやコンテンツが作成される必要があるということです。もう少し具体的に申し上げると,ブラウザは異なっていて良いけれども,ガイドラインを定め,拡大する際の操作方法等を可能な限り統一し,同じような操作方法で教科書にアクセスできる必要があるということです。
教科書協会からの御説明の際,学習者用デジタル教科書は基本的にHTML5で記述されているということでした。ユーザーインターフェースのガイドラインは,ウェブコンテンツを障害のある人に使いやすくするように定められたウェブアクセシビリティに関するガイドラインであるWCAG等に対応できるように作成することが望ましいと考えられます。
最後に,今後の課題を三つ紹介して話題提供を終わります。
一つ目の課題は,学習者用デジタル教科書では実現できていない機能があるということです。どういう機能かというと,教科書や教材の内容を点字,シンボル,平易な言葉等に変換する機能のほか,教材動画に手話や字幕を挿入するという機能です。これらの機能を実現することは簡単ではないと思いますが,今後,インクルーシブ教育が推進されれば必要になると考えられますので,検討が必要だと思います。
なお,点字教科書には文字だけでなく触図も含まれており,触って理解できるような図の作成が必要不可欠ですし,現状,点字情報端末に表示できるのは文字のみなので,現在の技術では完全なデジタル化は不可能です。そのため,点字の場合,紙とデジタルの併用が必須だと考えられます。
二つ目の課題は,文部科学省検定済教科書以外の教科書のデジタル化です。文部科学省著作教科書や附則9条図書も教科書として利用されているわけですが,これらの教科書の中にはアクセシブルになっていないものがあります。
三つ目の課題は,学習者用デジタル教科書と,ボランティアが作成している特別支援用のデジタル教材との役割分担をどうするかということです。学習者用デジタル教科書が制度化されるまでは,PDF版拡大図書や音声教材は教科書へのアクセスを保障する唯一の方法でした。しかし,学習者用デジタル教科書に特別支援機能が搭載されたため,今後,PDF版拡大図書や音声教材は学習者用デジタル教科書を補完する役割を果たしていくことになると思います。さらに,学習者用デジタル教科書の特別支援機能が充実し,ユニバーサルデザイン化されれば,PDF版拡大図書や音声教材の役割は小さくなるはずです。そうなれば,私たちボランティアには,シンボル,手話,字幕等のまだあまり着手されていない領域を開拓することが期待されることになると考えられます。
以上で話題提供を終わります。御清聴ありがとうございました。
【堀田座長】 中野委員,大変整理された内容,ありがとうございました。大変よく分かりました。
続きまして,東京大学先端科学技術研究センターの近藤先生より,資料3に沿って御発表をお願いいたします。近藤先生,よろしくお願いします。
【近藤氏】 よろしくお願いします。
東京大学先端科学技術研究センターの近藤です。先ほど中野委員から非常に網羅的に大変分かりやすい御説明をしていただきましたので,私からはその周辺的なところについて発表させていただきたいと思います。
まず,質問内容の1点目に,学習者用デジタル教科書に必要と考えられる特別支援機能を挙げております。中野委員がおっしゃいましたように,教科用特定図書等に関しては,現在,様々な団体が個別のニーズに対応した様々な変更・調整の機能を用意しています。
2点目に,障害のある児童生徒が学習者用デジタル教科書を使用することを今後促進していく場合に,留意すべき点やより一層の充実を求める点ということを挙げております。学習者用デジタル教科書を想定するときに,資料を見る,閲覧するということに大きな比重が置かれているように思えますが,実際には,見る,閲覧するということだけではなく,そのことを通じて何らかの教育上の活動に参加をしていきます。例えば図形を描く,作文に近いことを行う等,様々な教育的なアクティビティーが含まれていますので,そのアクティビティーへの参加をどのように保障していくのかということは大きなポイントになると思います。これまで,音声教材等の教科用特定図書の製作は,見る,閲覧するという部分を情報保障していく,アクセシビリティを保障していくということを中心としてやってきておりますので,その周辺的な様々な活動が学習者用のデジタル教科書の活用に当たって含まれていた場合,その活動をどのように保障していくのかということはかなり大きな課題だと思います。
具体的には,例えば,読むことに課題はないものの,学習障害があり書字をすることに大きな課題がある生徒がいたとします。この生徒は,教科書を閲覧する上では課題がありませんので,通常の教科書であろうと学習者用デジタル教科書であろうと,見て閲覧することについては大きな課題がないように見えます。しかし,文章でつづることに課題があるため,鉛筆の使用が困難であることから,キーボード入力を認めず,ペンでつづらなくてはならない活動が,かなり大きな壁になります。さらに,音声入力等,種々の代替的な入力をサポートしていない場合や,クリップボードへのアクセス等を認めていない場合には,その他の周辺的な補助ツールの利用が難しくなってきますので,教育活動への参加が妨げられるという社会的な障壁になってしまいます。
さらに,書字に困難を抱える児童生徒の中には,実際に書字障害があって文字を出力することが非常に難しいという児童生徒もいれば,その周辺領域の障害として,いわゆる巧緻性,鉛筆を扱うことにおける運動障害があるという児童生徒もいます。発達性協調運動障害と言われますけれども,鉛筆等の物を取り扱うことに大きな不器用さがあって,つづりが難しくなっている場合があります。そのような場合,例えば図表やグラフを描いて数学的な学びを行うといった活動が非常に難しくなってきますので,例えば代筆や,キーボード入力のみで図表を描けるといった機能を使用することが,支援の現場ではよくあります。
こういった部分を,今後,デジタル教科書の中でどのように保障していくかという点は,かなりポイントになると思います。
3点目に,障害のある児童生徒が学習者用デジタル教科書を使用することで見込まれる児童生徒への効果を挙げております。こちらも基本的な考え方として,障害のある児童生徒が学習者用のデジタル教科書を使って何らかの成果を上げるという視点よりも,そもそも,ほかの児童生徒に対して提示されている,もしくは提供されている情報や活動に,障害があっても参加できるよう,どのようにアクセスを保障していき,どのように学ぶ権利を保障していくかという考え方になります。効果を上げるという視点よりも,アクセシビリティの保障をどのように担保していくかという視点に立った仕組みが,学習者用のデジタル教科書にも必要になってくるだろうと思います。この点は後ほど触れたいと思います。
4点目に,学習者用のデジタル教科書が普及した際に,引き続き音声教材や拡大教科書,点字教科書等が果たす役割について,どのように考えるかということを挙げています。
この点については,実際に,音声教材や点字,拡大教科書等の教科用特定図書を作っている団体の皆様ともいつも議論している課題です。例えば,中野委員の発表の中にもありましたが,点字教科書,特に点図の部分をどのように代替していくかという点については,かなり大きな課題があるであろうと思います。これをデジタル教科書ですぐに置き換えることができるかについてはかなり課題ですので,何らかの特定図書のようなアプローチが必要になってくると思います。例えば,点図ディスプレイや点字ディスプレイ等を接続すると,その内容がすぐに情報として出力されるようなものがあると理想的だと思いますが,それがどの程度実現されていくのかという点については課題が残ると思います。
また,音声教材について,実際に音声教材を作っている製作団体がどういうことを行っているかについて,簡単に説明させていただきます。5ページを御覧ください。現在出版されている検定済教科書は,非常に様々なレイアウトを採用しています。例えば古文や漢文では,中心の行の両脇に様々なサポートとなる文字情報が記載されているものがある場合もあります。音声教材の場合には,その配置の順番を変更して,音声読み上げ等に対応した文書に再レイアウトしなければなりません。目で見て使うということではなく,読み上げて使うという方法を採りますので,かなり大規模なレイアウトの変更が必要になってきます。これは教科によっても様々です。例えば理科や社会では,中心に本文の情報があり,その周辺に本文の情報を補う様々な情報が非常に自由な配置で配列されておりますので,その配列されているものを学習順に沿って適正に並べ直すということを,各製作団体,ボランティア団体において行っています。非常に多数あるボランティア団体が,様々な考え方もしくは個別の生徒のニーズに合わせた形で再レイアウトしておりますので,私たちデータ管理機関では,できるだけ各団体における再レイアウトの作業が楽になるような元データを作るという役割を担っています。私たちは,研究と実践的な提供の両方を行っておりますので,レイアウトの煩雑さが今後デジタル化によって消えていくのかということについては,非常に注目しております。
また,本文の読み上げだけに限らず,数式を読み上げた音声データをどこまで用意していただけるかという点はかなり大きなところだと思います。製作団体においては,図表の中に含まれている筆算等,全て音声読み上げのデータを用意します。例えば理科であれば,実験のフローの中に表示されている文字データ,説明文章を,全てボランティアが取り出して,音声データや変更可能なテキストデータにしていくという作業を行いますので,こういった作業の部分にどこまで対応していただけるのかということは大きな課題になってくるかと思います。
加えて,様々な製作団体,ボランティア団体は,現在,どのように個々の子供たちの学び方をサポートしていくのかという観点で、教科用特定図書の利用に際してのテクニカルサポートも行っています。そのため,コンテンツの提供だけにとどまらない,学び方のサポートを誰が実現していくのかという点は,かなり大きな課題であると考えています。
次に,コンテンツの中身についてのお話です。10ページを御覧ください。私たちボランティア団体が,どのように教科用特定図書等を製作していくかを考えるに当たり,非常に悩んでいるのが,STEMアクセスの保障についてです。先ほど来申し上げているように,数式やグラフ,図表,場合によってはプログラミングも出てきます。それを音声で使用する子供たちが相当数いるということが分かっておりますので,この部分のアクセシビリティの保障をどのように行っていくかという点は大きな課題です。
また,子供たちが教室場面で学習する際,検定済教科書だけで学ぶということは非常に少ないです。特に中等教育以降になると,教科書以外の様々な教材によって学ぶということが一般的になります。そうすると,教科書以外の部分のアクセシビリティ保障が必要になってきます。例えば副教材,試験問題,解答用紙も,アクセシビリティを保障していかなければなりません。今,学習者用のデジタル教科書についてのみ議論していますが,私たちはこれらを切り離してはいけないと考えています。一貫した学びのアクセシビリティ保障,教材へのアクセシビリティ保障が本来的に存在していて,その流れの中で検定済教科書のアクセシビリティ保障があるということが必要だと思います。
特に,個々の出版社において,学習者用のデジタル教科書のアクセシビリティを保障する作業を行うことになるのであれば,それぞれのデジタル教科書が実際にアクセシビリティを保障できているかどうかをどこが評価するのかということについては,かなり大きな課題になってくるだろうと思います。
加えて,教科書のアクセシビリティが保障されるようになれば,私たちは副教材の保障というところに向かっていきたいと考えているところですが,それらとの一貫性を持ちながら,教科書のアクセシビリティをどう保障していくかということも検討課題であると感じています。
さらに言うと,学習者用デジタル教科書には恐らくドリル的な部分も含まれていくと思いますし,今後の大学入試等,もしくは高校入試等に関連して,試験問題や解答用紙のアクセスの保障も考えていかないといけません。このようなトータルなアクセシビリティ保障をしながら,一貫して学習者用のデジタル教科書のアクセシビリティを考えていくことが必要であり,そのためには何らかの役割を持った機関や機能が必要なのではないかと考えています。
私からの話題提供は以上になりますが,特に最後に申し上げた,各社の,各教材のアクセシビリティを評価していくことは非常に重要だと考えています。あるアクセシビリティ機能が名目として存在しているということと,それが実際に使える形になっているということはかなり異なっています。さらに,ユーザーから,例えば「動画の内容へのアクセスが保障されていない」,「字幕の部分に不備がある」,「ワークシートに不備がある」等の意見が上がってきたときに,どのようにそれを意見として吸収し,次年度等のアクセシビリティ保障に反映していくのか,そういった機能は公的な機関が果たすべきなのか,もしくは出版社の自助努力が良いのかといったことについても,本検討会議でもし御議論いただければ大変ありがたいと思います。単に名目的にこれを満たすべしということではなく,発展的にそこにアクセスできるようにしていくということをぜひ御検討いただけたらありがたいと思います。
以上となります。ありがとうございます。
【堀田座長】 近藤先生,詳しく御説明いただきありがとうございました。デジタル教科書をできるだけアクセシビリティの高いものにしていくと同時に,それをどういう人がどういう負担でやっていくのかという役割分担についても制度設計で考えていかなければいけないということがよく分かりました。
続きまして,全国特別支援学校長会会長の市川先生より,資料4に沿って御発表をお願いいたします。
【市川氏】 市川でございます。よろしくお願いいたします。特別支援学校の立場でお話しいたします。
特別支援学校は,視覚障害,聴覚障害,肢体不自由,さらに知的障害,病弱・虚弱と,非常に幅広く,障害のある児童生徒の学校になります。各障害別の校長会からヒアリングをしました内容についてお話をしていきます。
2ページを御覧ください。視覚障害教育についてです。視覚障害の中にも非常に幅がありますので,それぞれの視点でお話をしていきます。
弱視者の場合には,1点目に,紙の教科書では実現できなかった白黒反転や,見え方に応じて文字サイズと文字フォントを変えることによって,非常に読み速度が高められることができるだろうと考えられます。
2点目に,複雑な専門用語等の漢字については,一時的に拡大表示することで,その漢字の理解を支援できるとともに,音声と併用することによって読み速度の向上が期待できます。
点字使用者の場合には,教科書本文の点字テータがあれば,検索機能を用いて短時間で教科書の中の該当箇所を見つけられるため,学習効率が大幅に高められます。現在の点字教科書は非常に重く,膨大ですので,それを毎日持ち運ぶという負担の軽減が図れます。
次に,視覚障害の中にも中途障害という障害があります。中途障害者の中には,点字も,紙の教科書に書いてあるような墨字も,習得が不十分な場合があります。点字も墨字もこれから学習を進めていくという段階にある中途障害者にとっては,音声で読むことができる音声教科書が必須です。
3ページを御覧ください、聴覚障害教育についてです。現在も指導者用デジタル教科書を活用し,電子黒板等を使った授業が効果を上げていますが,児童生徒一人一人に学習者用のタブレットが準備されることで,さらに有効に活用できると考えています。
また,聴覚障害の学校の中でも,重複障害,具体的に言うと知的障害と聴覚障害が重複している児童生徒が在籍する学級があります。重複障害学級に在籍する児童生徒は,後ほどお話ししますが,文部科学省著作教科書を活用しています。文部科学省著作教科書についても,ぜひデジタル教科書を発行していただくとありがたいです。
さらに,今後,デジタル教科書が充実していくに当たって,教員が読み上げている箇所が手元のタブレットに反映される機能や,児童生徒一人一人が学習者用のタブレットを持った場合には,言葉の辞典や図鑑等がリンクできる機能があるとありがたいと思います。加えて,UDトークという,聴覚障害者とコミュニケーションを図るための,パソコンや携帯電話を使った文字変換ソフトウェアとの連動があると良いという意見もありました。また,全ての文字へのルビ振りや,聴覚障害者には手話を使っている方が非常に多いので,動画機能との関連づけがあるとありがたいです。さらに,タブレットへの書き込みの共有化等,デジタル教科書自体の機能や外部の機能との連携が充実されることを,非常に期待しております。
4ページを御覧ください。知的障害教育の場合についてお話しします。知的障害の子供たちにおいては,既にタブレット端末を使いながら学習するという取組が進んでいます。デジタル教科書がどんどん広がっていきますと,恐らく一人で学習できる可能性もかなり広がっていくだろうと思っていますし,コントラストの調整や映像,ルビ,文字の拡大等により,より内容が理解しやすくなるだろうと思います。ここで申し上げたいのが文部科学省著作教科書についてです。知的障害の児童生徒の場合には,知的障害が比較的軽度で,検定済教科書で学習できる場合には検定済教科書で学びますが,それがなかなか難しい場合には文部科学省著作教科書を使います。こちらの文部科学省著作権教科書のことを,我々は,教科書目録上に星がついているので「星本」と呼んでおります。なお,後ほど出てまいりますが,文部科学省著作教科書でも学習が難しい場合には,学校教育法附則9条に定められる,いわゆる「9条本」と呼ばれる一般図書を使います。先ほど聴覚障害教育に関して述べた際にも申し上げましたが,ぜひ,文部科学省著作教科書のデジタル化を進めていただきたいと思います。
文部科学省著作教科書は,現在,国語,算数・数学,音楽について出版されています。国語において,読み上げ機能や書き込み機能があると,教科書の活用の幅が非常に広がると思います。
算数・数学においては,例えば足し算や引き算等,計算するときに,知的障害教育の場では活動や作業を通して学びますので,タイルが移動する,タイルの形の弁別や仲間分け等で実際に動かすことがデジタルでできる等,活動を通した学習ができる可能性が広がると嬉しく思います。
音楽においては,歌っている箇所の歌詞の色を変えて強調したり,色音符というのはドなら赤,ミなら緑といった色音符を用いた楽譜を使って勉強していますので,そのような視覚化がデジタルできたり,曲のイメージ映像や伴奏のみの映像が入ったりすると非常に良いかと思っています。
5ページを御覧ください。肢体不自由教育についてです。肢体不自由教育の場では,体の不自由な児童生徒や,病院に入院している児童生徒が学んでいます。脳性疾患に伴う物の見え方の困難さが,文字のフォントの変更,拡大,コントラスト等により,軽減されることが期待されます。
また,手指の巧緻性や可動域が非常に限られている児童生徒も多く在席していますが,ページを画面上でめくることができるというのは大変良いことが分かってきました。特に筋ジストロフィー等の児童生徒にとっては,画面を操作して自分で勉強ができるということは非常に良いことだと思っています。
また,先ほど申し上げた,病院等に入院している児童生徒の場合には,ベッド上でも画面に教科書が提示できると,起き上がらなくても安全に勉強が進められます。また,拡大機能を用いることで,画面との距離の調整も細かくならずに済むと考えられます。
6ページを御覧ください。病弱教育,すなわち病気により入院している,もしくは自宅で療養中の児童生徒における教育についてです。この「病弱」については非常に幅が広く,病気によって姿勢保持に制限がある児童生徒,肢体不自由,知的障害を持つ児童生徒等,様々な障害を持つ児童生徒がこの学校で勉強しています。デジタル教科書については,先来申し上げているように,拡大・縮小や音声読み上げ,ハイライト等は非常に有効だろうと思います。
また,病弱の児童生徒の場合には,入院をしていることから,校外学習や実験に参加できない場合が多く,体験が不足しがちになります。デジタル教科書とセットで提供される動画教材等を,体験を補うために活用することができるのではないかと考えられます。
加えて,入院中や自宅療養中に実施する遠隔授業においても,伝えたい情報を教員とやり取りすることが非常に容易になるだろうと思います。
さらに,病院の中で無菌室等に入っている児童生徒もいますが,無菌室の場合は紙の教科書を持ち込むことが非常に難しい場合があります。タブレット端末は消毒が可能なので,消毒したタブレット端末等に入れたデジタル教科書で学習することが可能になるだろうと考えています。
これまで申し上げたことと同じように,病弱特別支援学校でも文部科学省著作教科書を使っている児童生徒が多いので,そのデジタル化はぜひとも必要だと思っています。
一方,7ページでは,デジタル教科書の課題を挙げています。1点目に,眼疾等の障害によっては,拡大・縮小に限界がある等,デジタル教科書の利用が有効な場合と有効ではない場合があります。
2点目に,教科書発行者によって,例えばインターフェースや漢字の練習用の表示等,細かい部分の使い方が異なる場合があります。
3点目に,同時に複数で使用できると非常に効果があるのですが,ライセンスの問題から複数購入する必要があり,予算の制約上難しいです。デジタル教科書は高額ですので,予算の少ない自治体では購入が難しいのではないかと思います。
4点目に,先ほど申し上げた学校教育法附則9条に定める図書は,文部科学省著作教科書でも学ぶことが難しい,知的障害等の重い児童生徒が使う一般図書ですが,こちらについて,デジタル化するかどうかも含めて考えていく必要があると思っています。なぜかと言いますと,一般図書を使用する児童生徒にとっては,紙の教科書の利点もあるからです。紙は,自分たちで触って,様々な使い方をすることができるので,それが全てデジタルになることが良いとは限りません。
5点目に,教員がデジタル教科書を活用した指導をするためには,研修をしっかり行い,教員の意識を変えていく必要あるだろうと考えています。
6点目に,今般,デジタル教科書とセットで提供される動画教材が充実し,分かりやすくなってきましたが,スペックが低いPCだとスムーズに作動しないため,スペックの高いPCを買わなければいけません。こちらも予算の話になってしまいますが,スペックの高いPCを買うに当たって,予算上の課題があるのではないかと思います。
7点目に,デジタル教科書を有効に活用するためには,全ての児童生徒が使える環境が必要です。児童生徒がタブレット端末等を所持して使う環境も必要ですし,デジタル教科書を家庭学習で活用するために,保護者がデジタル教科書を購入しやすくするとともに,Wi-Fiがどこの家庭でもあるわけではないので,デジタル教科書が活用しやすいICT環境を整備することも必要になってくるのではないかと思います。
8ページを御覧ください。最後に,その他の意見・要望を記載しております。まず,今般,保護者から「家庭学習でも使いたい」という要望があります。現在でも販売は可能になっているものの,保護者が購入するに当たっては学校から意見書を出さなくてはいけない場合もありますし,費用負担もあります。家庭学習も含め,どこでも教科書を使って学ぶことができるような改革をどんどん進めてほしいと思っています。
次に,障害の程度や進行によって有効な教科書は異なりますので,検定済教科書,拡大,点字,デジタル教科書も含めて,児童生徒の状況に応じて保護者が購入できるような支援も必要ではないかと考えています。
加えて,図形の操作ができる機能がデジタル教科書とは連携されていない,書き込みできるペンの色が少ない,教科書本文の点字データが,教科書が13冊であれば13個のデータと分かれる等,細かい部分で様々な課題がありますので,より機能が充実するとありがたいと思っています。
さらに,教科書ではございませんが,クリックすると問題集とリンクする機能や,教員が連携した教材開発をできる機能等,デジタル教科書を活用した学習がより充実できるような機能の開発や充実に期待しております。
特別支援学校の意見を集約したところは以上です。ありがとうございました。
【堀田座長】 市川先生,ありがとうございました。様々な大変現実的な御指摘をいただきました。
続きまして,特定教科書の製作団体等から事務局が御意見をヒアリングしておりますので,そのまとめについて,事務局より御報告をお願いいたします。
【季武課長補佐】 資料5に沿って説明をさせていただきます。
今回,特定教科書を作成されている団体,すなわち点字教科書,拡大教科書の作成団体や,音声教材を作成いただいている団体にヒアリングをさせていただきました。ヒアリングの対象は,拡大教科書を製作されている全国拡大教材製作協議会,点字教科書を製作いただいている日本点字図書館,全国視覚障害児童生徒用教科書点訳連絡会,音声教材を製作いただいている日本障害者リハビリテーション協会,東京大学先端科学技術研究センターのAccess Reading事務局,NPO法人エッジ,茨木大学,広島大学,愛媛大学の合計9団体です。いただいた御意見を資料5にまとめさせていただいております。それぞれの団体へのヒアリングの概要や,提出いただいた御意見については,参考として後ろに付しております。
まとめに沿って,簡単ではございますが,いただいた御意見を紹介させていただきます。
まず,質問事項につきましては四つございます。
質問1では,学習者用デジタル教科書に必要と考える特別支援機能について聞いております。
点字教科書であれば基本的に全盲の児童生徒,拡大教科書であれば弱視の児童生徒,音声教材であれば発達障害を持つ児童生徒等,主として利用している児童生徒の障害種が異なっているところではありますが,資料においては「視覚的配慮」,「音声的配慮」,「操作性の配慮」,「その他」としてまとめております。
具体的な機能につきましては,先ほど市川先生からも具体的に御説明いただきましたので,詳細は割愛させていただきますが,様々な観点から御意見をいただいております。
3点目の「操作性の配慮」に関しては,例えば統一的なボタン配置や,デジタル教科書を一度終了してから再起動したときに前回の情報を維持する機能,逆に再起動時にリセットする機能,さらには,押そうとしているボタンがどういう機能を持つものなのか等を音声ガイダンスで紹介する機能があると良いという御指摘もいただきました。
続いて,質問2では,障害のある児童生徒が学習者用デジタル教科書を使用することを今後促進する場合に留意すべき点・より一層の充実を求める点について質問しております。
ここでは,例えば1点目に,紙の教科書とデジタル教科書から,自分に合ったものを選択できることが好ましいという御意見や,逆に,どちらも使わなければならないとなると負担になるのではないかという御意見がありました。2点目に,障害の種類や程度によって必要な利用方法や効果が大きく異なっており,デジタル教科書を使いたいか,紙を使いたいか,どういう機能を使いたいかというところは,児童生徒によって異なるという御意見を多くいただきました。
また,同じく2点目について,全盲の児童生徒の場合,デジタル教科書だとどうしても図形情報を得ることが難しいため,紙媒体の点字教科書が不可欠なのではないかといった御意見をいただきました。
3点目に,現在,音声教材の中にもICTを活用しているものがございますが,学習者用デジタル教科書と音声教材等の教科用特定図書がシームレスに連動できるようにすることも有効なのではないかという御意見をいただきました。
4点目に,学習者用デジタル教科書に備えるべきそれぞれの機能が,本当に効果を持つのかについて実証研究を行っても良いのではないかという御意見もいただいております。
5点目に,本人やその周囲がディスレクシア,識字障害であることを認識せずに,読み書きに困難を抱えている場合が多くあることから,デジタル教科書の機械音声機能の精度が向上するまでは,児童生徒に音声による補助が必要だと分かった時点で,すぐにアクセシブルな音声を使用できる環境にするべきではないかという御意見もございました。
6点目に,家庭でデジタル教科書を使用できるようにすることや,下学年の教科書も使えるようにすることが重要ではないかといった御意見もいただいております。
続きまして,質問3では,障害のある児童生徒が学習者用デジタル教科書を使用することにより見込まれる児童生徒への効果について質問しております。
1点目から3点目を通じて,紙がデジタルになるという道具の変化のみによって学力が上がるものではないけれども,デジタルの活用により教科書へのアクセシビリティが高まることは,児童生徒の本人の力を引き出すことに役立ち,さらに学習意欲や学力の向上につなげることができるのではないかという御意見をいただいております。例えば,音声による補助があることで,これまで読むときにかかっていた時間が半減されれば,その分,繰り返し読めたり,さらにもっと先まで読めたり,効率的な勉強ができたりしますし,視覚障害のある児童生徒の場合には,シームレスな連携が増えることで探索する時間が減り,より学習に充てられる時間を効率化できるのではないかという御意見もいただいているところです。
また,これまでは,ほとんどの児童生徒が紙の教科書を使用している場面で,紙の教科書では学習をしづらい児童生徒だけが違う端末を用いているという状況もありましたが,デジタル教科書の活用が普及することで,障害のある児童生徒の集団同一性が高まり,さらに自己同一性,すなわち自分が何者であるかという他者と区別する概念が形成されることで,主体的・対話的に深く学ぶ児童生徒へと成長できるのではないかといった御意見もいただきました。
最後に,質問4では,学習者用デジタル教科書が普及した際に,引き続き音声教材,拡大教科書,点字教科書等が果たす役割,現在教科用特定図書の製作において課題となっている点を踏まえた今後の製作団体の役割について質問しております。
学習者用デジタル教科書が普及しても,それのみによって全ての児童生徒に対応できるわけではないため,音声教材,拡大教科書,点字教科書等を使って,カバーし切れないニーズに対応していく必要があるのではないかという御意見を多数いただきました。
一方で,現状,こうした教科用特定図書を製作する負担が製作団体へ非常にかかっておりますので,大部分のニーズを学習者用デジタル教科書でカバーできる状況になれば,製作の負担を軽減することで役割分担をしていけるのではないかという御意見もいただきました。
さらに,音声教材の製作団体間でも,より円滑な製作・提供のため,データの作成に向けて作業を分担するということも考えられるのではないかという御意見をいただいたところでございます。
以上になります。
【堀田座長】 ありがとうございました。
これまでにいただいた,障害のある児童生徒における教科書のアクセシビリティに関する四つの情報提供についての質問等がありましたら,挙手をお願いします。
ないようですので,先に進ませていただきます。
続きまして,日本語に通じない児童生徒等につきまして,齋藤委員と佐々木先生から御発表いただきます。
まず,齋藤委員より,資料6に沿って御発表をお願いいたします。
【齋藤委員】 よろしくお願いいたします。東京学芸大学教職大学院の齋藤と申します。私からは,特別の配慮が必要な児童生徒の中でも,日本語に通じない児童生徒の教育において,デジタル教科書・教材の活用がどのような効果を持つ可能性があるのかということを,期待を込めてお話しさせていただきたいと思います。
最初に,外国人児童生徒の学校における教育の状況がどうなっているのかについて,簡単に御紹介させていただきます。2ページのグラフを御覧ください。これは,国内の公立学校における日本語指導が必要な児童生徒等の在籍状況の推移です。平成30年度の調査結果が最新の情報になりますが,平成20年からの10年間で日本語指導が必要な児童生徒は1.5倍に増え,平成30年度には5万1,000人となっています。グラフ中,青いところが外国籍の児童生徒で,緑色のところが日本国籍の児童生徒を示しています。この数字やグラフからもお分かりいただけるように,これまでも日本語指導が必要な児童生徒は増加しておりますし,昨年度来,国全体として外国人人材を積極的に受け入れる状況になっておりますので,今後も増えていくことが見込まれます。
3ページを御覧ください。外国人児童生徒の数が増えていることには,多様化も伴っています。多様化の一つの側面として,彼らの言語文化に関する調査を行った結果がこちらの二つの円グラフになります。左側が外国籍児童生徒の母語の割合と人数になっています。右側は日本国籍の児童生徒が使用頻度の高い言語として選んだ言語の割合になっています。1980年代からは中国残留孤児の御家族やインドシナ難民の来日がありましたが,その後,1990年からは出入国管理及び難民認定法が改正され,定住ビザによって,日系の方であれば, 3世まで日本において様々な職業で生活することができるようになりました。それに伴い,ポルトガル語,スペイン語を使用するブラジル,ペルーからの子供が増えております。最近は,国際結婚も増えているため,フィリピンの方も増えていますし,ネパールの方の増加も非常に目覚ましいと言われています。
こうした多様化の背景として,様々な国から来日するということも挙げられますが,そのほかにも,文化間の移動歴が多様化しています。母国,出身国から日本へというだけではなく,第2の国,第3の国へ移動してから日本へ来るというような子供もいますし,日本生まれ日本育ちの2世も増加しています。それが右側の円グラフの日本国籍児童生徒の中にも多く含まれています。この二つのグラフからは,特定の言語・文化を前提とした支援・教育方法のみでは対応をすることが不可能であると言えるかと思います。
4ページでは,日本語指導が必要な子供たちの学校での受入れ状況をお示ししています。まず,左側の円グラフを御覧ください。こちらは,公立の小・中学校において日本語指導が必要な児童生徒が在籍している学校の割合です。「在籍あり」が30%ですので,3校に1校程度の割合で外国籍あるいは日本国籍で日本語指導が必要な子供がいるということになります。その「在籍あり」の学校における日本語指導が必要な児童生徒の在籍数を示しているのが右側のカラフルな円グラフです。5人以上在籍している学校が30%より少し多いくらいになるかと思います。それ以外は1人から4人しか在籍していないという状況です。一方で,100人以上在籍している学校も全都道府県で13校ございます。こうした状況は,地域における外国人住民の居住状況とも一致しております。集住と散在の二極化と考えることができ,それは自治体や学校による受入れの体制の大きな違いにつながっていますし,学校の指導・支援の有無や指導内容・教育内容,あるいは指導や実践の蓄積の格差というところにも大きく影響が出ています。
では,右側の折れ線グラフを御覧ください。5万人程度いる日本語指導が必要な児童生徒に対して,日本語の指導を特別な指導として与えている学校の割合を示しています。青が外国籍,赤が日本国籍を表していますが,いずれも80%に達していませんので,20%程度の子供は,日本語が分からなくても基本的には何ら支援を受けられていないという状況です。こうした状況から体制の格差が伺えますが,それを是正するための方策として,遠隔での支援や,そのための学習教材の開発が強く望まれています。
5ページでは,日本語指導が必要な児童生徒に対して支援や指導を行っている学校が,どのように指導しているかというイメージ図を示しています。まず,上の矢印を御覧ください。ピンクのところが在籍学級での学習です。来日した直後から,通常学級に在籍して授業を受けることになります。その中で週に1回から多いところは5回ほど,1週間に1時間から10時間程度の取り出し授業で,日本語の指導や教科面のサポートが行われています。それ以外の時間,すなわち1週間の授業時数が25時間であれば,そのうちの15時間から24時間程度は,通常学級での授業を,意味が分からなくても座って聞いています。さらに,取り出しの日本語指導は,指導を行っている学校・地域・自治体でも,長くとも2年程度が一般的です。また,支援・指導の体制が非常に整っている地域では,来日直後に初期の集中指導が行われている場合もあります。このように,在籍学級では,「サブマージョン」といって,泳げない子を水の中に突き落としてしまっている状態ですし,1年から2年,取り出しの指導を週1回程度受けて,ようやく日常会話と文字の読み書きができるようになったところで指導が終わってしまう場合も多々あります。したがって,通常学級に参加し,周りと同じ教科書を利用するということは,日本語指導が必要な子供にとって非常に大きな困難が伴うものとなっています。
下の図は,取り出しの指導の実施体制を示しています。市区町村・学校によって大きく異なりますが,指導体制が整っている場合には三つのパターンがあります。一つ目は,拠点校に子供たちが集まり,その学校で日本語の指導等を受けるパターンです。二つ目は,特に学校間の距離が非常に大きく,子供が他の学校に通えないような地域で多いのですが,日本語指導の先生が幾つもの学校を回りながら日本語指導する,すなわち巡回指導のパターンです。そして三つ目は,各学校に担当の先生がいて,その先生が指導をするというパターンです。
以上の三つのパターンでは,指導を受ける学ぶ場が違っています。自分の学校で受けられない場合もありますし,先生が巡回してくる場合もありますし,同じ学校の中の別教室で行うという場合もあります。また,頻度・時間も違います。さらに,大きな点としては,担当教員が,日本語教育の専門的な養成を受けて教員になっている場合もあれば,教員になってから初めて日本語指導があることを知り,ゼロからスタートする場合もあります。こうした状況ですので,子供たちの日本語の習熟度も非常に多様ですし,教科学習の場合にも個に応じた支援と理解可能な教材,すなわちアクセシブルな教材が必要になるかと思います。
6ページを御覧ください。先に述べた通り,日本語指導が行われている学校が80%程度ありますが,その学校における日本指導としてどのようなプログラムがあるかということを,こちらの図で示しています。五つほどのプログラムを組み合わせて行います。「日本語基礎」というプログラムが,私たちがイメージしている語学教育のようなものです。来日直後から,平仮名の読み書きや簡単な文,単語を学ぶことになります。それが十分に身につく前から,例えば通常学級で授業を受けた後の教科の補習が取り出しで行われる場合もあります。また,日本語が十分にできるようになるのを待ってから教科学習を始める,というわけにはいかないので,教科と日本語を統合したクロスカリキュラムのような形での教育活動も行われています。それが黄色で囲っているところに示されていますが,こちらの二つのプログラムで教科教育が行われていることになります。来日して6か月目で教科書を使って学ぶ子供もいれば,来日して2年経ってようやく同じ教科書を使って学んでいる子もいます。ですので,日本語の習熟度は,滞日期間ともある程度一致しますが,滞日期間が長くても日本の習熟度が十分でない子供もたくさんいます。母語の力,教科の力,認知面の発達状況等を多面的に捉え,その子供の状態に合わせて,先生方は教科書にルビ振り,リライト,図式化,訳語を付す等の様々な工夫をして利用しています。ただし,これは教師の力量と熱意頼りとなってしまっております。
この後御発表いただく佐々木先生からも,御自身の創意工夫による,デジタル教材を使った非常に興味深い実践を御紹介いただけるかと思います。
7ページでは,日本語指導が必要な子供たちの「教科書」による学習の困難がどういうものかということを,日本語の習熟度との関係から示しています。上の緑色の矢印と黄色・赤の表を御覧ください。来日直後は,音も分かりませんし,文字も言葉も知りません。全て分からない状態です。したがって,語のまとまりも分かりませんので,教科書を見ても何も理解できない状態です。次の段階として,文字と音はある程度一致し,文字を読めるようにはなったものの,単語を通して言葉の意味のまとまり等は捉えられず,一文の意味が捉えられないという状態があります。次の段階として,ピンクのところですが,一文の意味は分かるようになったものの,一文,一文で言われている事柄を関連づけて理解するにはまだ支援が必要という状態があります。そして,一番右側になりますが,表面的な文の意味は一つずつ分かるようになったものの,そこで描かれている,あるいは述べられている事柄を,抽象度を上げて概念化して捉える,あるいは把握的な見方として自分の力にしていくには支援が必要という段階が考えられます。
これを,バイリンガル教育において2言語併用状況にある子供たちの言語能力を捉える枠組みとして,右下にある4象限の図で御紹介させていただきます。カナダのカミンズというバイリンガルの研究者が世界的に広めた概念です。文脈の依存度が横軸で,認知的な必要度が縦軸です。日常的な会話のように,言語以外のジェスチャーや表情,動作,絵図といった視覚情報や,その場面の気温等から得られる情報が多くあるのが左側です。そうした情報が全くない,情報が言語だけという状態が右側になります。また,考える必要性が低いものが上,考えなければいけない活動が下です。来日直後には,日常会話がようやくできるようになっていく期間があります。その日常会話を,左上の「生活言語能力」と呼んでいます。一方で,言語だけで思考することができる力を,右下の「学習言語能力」と呼んでいます。教科学習に参加するためには,この「学習言語能力」が必要だと言われていますが,その力を獲得するにはおおよそ5年から7年かかるとカミンズらは研究の成果で述べており,その後の研究でもおおよそ追認されています。
このように,言葉の力の発達段階によって教科書で学ぶことの困難さも変わっていきますが,適切なケアがなければ,この学習言語能力はなかなか発達しません。生活言語能力は,日常的にシャワーのように言葉を浴びながら,それぞれの場面で使われている意味合いを理解できるので,日本で生活している子は2年程度でおよそ獲得できますが,学習言語能力の獲得は非常に難しさが伴うと言われています。
困難の要因としては,言語以外にも,当該教科の学習経験,知識・技能がこれまでどの程度蓄積されているのかということや,認知面の発達がどうなっているのか,さらに日本語以外の言語の発達状況はどうなのかといったことが挙げられます。他にも,大きな要素としては,例えば小学校高学年以上で来日すると,漢字圏の子供たちは漢字によって理解できる内容が多いです。
8ページでは,子供たちに実際どのような困難があるのかという事例を挙げています。事例1の子供は,小学校低学年のときは「分かった」と思っていたけれども,「9歳の壁」と言われる頃に教科の内容を理解することが困難になりました。それでも,小学校時代は何とか乗り越えましたが,中学生になると先生の話が分からなくなった,と述べています。
こうした中で,デジタル教材に対して期待したいことを,9ページの(1)に記載しています。まず,初期の段階であれば,文字と音の対応関係を学ぶ上で,読み上げとハイライト等の支援が非常に助かると思います。ただし,意味を理解するためには,音と文字の関係だけではなく,言葉のまとまりをどう捉えるか,文と文の関係がどうなっているかを理解する必要があります。教科の用語に関しては,その理解を助ける絵図等にジャンプして行ける機能や,母語訳の機能等があると,非常に大きな助けになるかと思います。
10ページを御覧ください。日本語指導が必要な児童生徒の場合には,日本語ができるようになった先,すなわち言語で思考するということに困難を抱えています。そこをサポートするための,デジタル教科書・教材の機能の有効な利用の仕方を,(2)に示しています。
(3)には,自律的に学ぶためのデジタル教科書・教材の活用について記載しています。この点は,もしかすると特別支援の子供たちへの配慮とは少し異なるかもしれません。
最後に,11ページを御覧ください。検討課題を挙げています。まず,外国人児童生徒等の場合には,どこで,誰が利用するのかということが非常に多様です。取り出し指導での利用なのか,在籍学級での利用なのか,自宅での利用なのか,あるいは地域の日本語支援教室等での利用なのかといったことや,それらの場面において利用可能な制度になっているのか,あるいは,先ほど来お話のあったインターフェースの環境,ICT環境等はどうなっているのかということは非常に大きな問題になるかと思います。
右側にお示ししたように,個に応じたデジタル教科書の活用がとても大事であり,その点は特別支援の児童生徒と同じだと思う一方,大きな違いとしては,その子たちが日本で滞在している間に,困難のありようが違っていくということです。来日直後と,来て1年目と,3年目とでは,どこに困難が感じられるかが大きく違いますので,状況に合わせた活用の仕方が必要だと思います。また,言語の問題や,日本の学校教育を経験していないといった背景から,家庭で保護者の支援を受けることが難しい場合が非常に考えられます。そのため,オンラインで外部の人間がサポートできるような学習システムの早期実現が非常に望まれます。そして,デジタル教科書・教材を活用する先生方には,日本語指導と教科指導に加え,ICを活用できる専門性を持ち合わせていることが求められるため,その養成が大事だと思っています。
以上です。ありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございました。
続きまして,佐々木先生より,資料7に沿った御発表をお願いいたします。
【佐々木氏】 浜松市外国人児童生徒教科指導員の佐々木と申します。私は市内公立中学校で外国人生徒を取り出しで指導しております。その範囲の実践をお話しさせていただきます。よろしくお願いいたします。
2ページを御覧ください。先ほどの齋藤委員の資料にもありましたように,浜松市も日本語指導が必要な子供が年々増加しており,今後ますます在籍学級で学ぶ力をつける支援が求められています。指導は,在籍学級と別教室で連携して行われています。在籍学級では,担任・教科担任による配慮や,母語サポーター,NPO支援者などが,教師の指示や学習理解を補う入り込み指導を行います。別教室での指導は「取り出し指導」と呼ばれ,日本語指導加配教員や私のような教科指導員が,特別な教育課程を編成して教科と日本語の総合学習を実施しています。
3ページを御覧ください。学習の際,子供たちが困難な点として,教科書の漢字が読めないこと等の言語面や,家庭での言語が異なり,保護者のサポートが得られないこと等といった背景が挙げられます。特に日本生まれの子供は,日常会話はあまり問題がないため,学習につまずきがあると気づかれにくく,取りこぼされることがよくあります。
次に,どのように日本語指導が必要な子供の支援をしているかについてお話しします。4ページを御覧ください。まず,「読む」困難に対しては,ルビ振りや区切りにスラッシュを入れる等の工夫をしています。しかし,週1回から2回の限られた指導時間でルビ振りや音読ばかりはできず,国語科では,学習指導書のルビ振り教材を拡大して印刷し,内容理解を進めることが多いです。右のような語や文節で区切った分かち書き教材は,平仮名が続くところの読み誤りを減らし,意味を捉えやすくする助けとなります。
続いて,「内容理解」の困難に対する支援です。5ページを御覧ください。先行学習として,体験活動をしたり,具体物やスライドで画像や動画を提示したりすると,経験や疑問に思ったことを自然と話し出して,対話を通して内容への関心や理解が深まります。
6ページを御覧ください。絵とカードのマッチングは,段階を踏みながら,教科書の語彙や表現に到達させることができます。右は,個の日本語レベルに合わせて,文型や情報を絞って作成したリライト教材です。滞日歴が浅くても母語の力がある生徒に有効で,母語訳を参考にしたり,自ら辞書で調べたりすることで,部分的にではあっても,教科書内容を理解することができます。このように,彼らが紙の教科書を使って自力で学ぶことは難しく,「分かった」,「できた」の実感を持たせるためには,個の実態に合わせた様々な足場かけが必要です。
7ページを御覧ください。昨年度,数回,学習者用デジタル教科書を使わせていただきました。こちらに挙げている機能のおかげで効率よく内容理解に進むことができ,指導する側の教材準備の負担軽減にもなると感じました。さらに,操作が簡単で,子供の自律した学びを支える機能の付加や,指導する側のデジタル教科書を活用した指導方法の研究を行うことによって,さらなる成果につながると思いました。
8ページを御覧ください。まとめといたしまして,デジタル教科書に期待することを記載しています。外国人児童生徒等教育の場で望まれる機能等は,特に,分かち書き,多言語訳あるいは易しい日本語での補説,豊富な動画やアニメーションです。例えば,家庭で子供が漢字や作図を分かるまで繰り返し練習したり,実験や参考資料を調べてみて関心や探究心が広がったりすれば,取り出し指導においても在籍学級につながるより深い学習ができると思います。これまで,日本語での学びを諦めてしまう子が多くいました。しかし,適切な支援環境があれば自信をつけて伸びていく子もたくさん見てまいりました。デジタル教科書の活用により,外国人児童生徒が在籍学級での学びを軸にして自律的に学べるように願います。
以上で私の発表を終わります。御清聴ありがとうございました。
【堀田座長】 佐々木先生,どうもありがとうございました。
齋藤委員と佐々木先生の御発表をいただいたところですが,説明していただいた内容につきましての御質問等ございましたら,挙手をお願いいたします。
質問等はないようですので,自由討議に入ります。
本日,多くの情報提供いただきましたが,期待される機能のほとんどはデジタル教材の機能かと思います。そのデジタル教材とデジタル教科書との連携があれば,特別な配慮を必要とする児童生徒は非常に助かるという御報告を多数いただいたということは,デジタル教科書の在り方を考えるときに,デジタル教材とどのように適切にリンクするかということが何よりも重要なことだという御指摘をいただいたのだと思っております。そのこと自体は,もしかすると少し先の議論になるかもしれませんが,先ほど資料1で事務局から御説明いただきました様々な論点のどの点について御意見されるかということを最初に明示いただいた上で御意見をいただければと思います。
それでは,清水委員,お願いいたします。
【清水委員】 発表をいただきました先生方,ありがとうございました。非常に分かりやすく,様々なことに関する理解ができましたし,まだまだ私自身も不勉強なところがありましたけれども,1点申し上げます。
資料1の7ページ②,特に「経済的な負担」という点について,市川先生からもありましたように,非常に費用負担というところを懸念しております。デジタル教科書・教材について,各家計における経済的な負担というところが非常に一保護者としては気になるところです。義務教育段階では,どのような家庭においても一律的に同じ条件下で同じ内容で教育を受けてほしいと切に思うところでございますので,これから進める中において,特に義務教育課程における費用負担の在り方については,御検討をいただければと考えております。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
続きまして,中野委員,お願いします。
【中野委員】 資料1の1ページ目に,特別支援に関して三つほどポイントを出していただきましたので,その点について意見を述べさせていただきます。
まず,1点目の「標準的に備えることが望ましい機能」について,プレゼンで申し上げたとおり,現在の音声教材やPDF版拡大図書にある機能は,基本的には必要だと思います。
また,2点目の特定図書に置き換えることが可能かどうかという話について,家庭への持ち帰りや既習の教科書を使い続けられる等,紙と同じ環境が整備されれば,拡大教科書に関しては置き換えられる可能性は高いと思います。しかし,プレゼンでも申し上げたように,点字教科書の完全なデジタル化は現時点では不可能なので,紙との併用が必要不可欠だと思います。最も大きな問題点は,触図,触って分かる図をどのように作成するかという製作方法の問題と,触図を表示できる適切なデバイスが現在存在していないという技術的な問題の二つだと考えています。
最後に,3点目の発行者に対する拡大教科書の努力義務に関して,今後の情報処理能力の向上を考えると,学習者用デジタル教科書のアクセシビリティ,ユーザビリティの向上は急務の課題だと認識しています。デジタル教科書のアクセシビリティやユーザビリティを向上させることができれば,紙の拡大教科書の努力義務を課す必要性はないのではないかと個人的には考えています。
なお,紙が必要なケースは一定数あるので,どういうときに紙が必要なのかを明らかにすべきだと思いますし,その上で,紙の必要なケースに関してはボランティア等が協力してサポートしていくという方法を検討していく必要があるのではないかと思います。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
近藤先生,お願いいたします。
【近藤氏】 一言だけ申し上げさせていただければと思います。
以前,「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」の委員をやらせていただいておりましたが,そのときから,基本的なアクセシビリティ,障害のある方のアクセシビリティの内容というのは変わっていないと考えています。その際も申し上げさせていただいたのですが,こうしたデジタル教科書・教材の親委員会に当たる場で,アクセシビリティの課題を明らかにする深い議論というのはかなり難しいところがあります。最終的には,技術的にガイドライン化する等を行って,実際にテクノロジーやデバイスを開発しておられる方々が理解可能な形で出していかないと,結局,実装されないということになってしまいます。詳細な議論を行うために,以前の委員会でも提案させていただきましたが,アクセシビリティの課題を明らかにするワーキングを開催し,テクノロジー面も含めて,専門性を持った方々にしっかり御参加いただいて,かつ,その時点でのアクセシビリティの状況を継続的にウォッチしてリポートする責務がある公的な機能をぜひ設定していただきたいと思います。そこでは技術的に深い議論を行い,かつ実現可能性について現実的な議論ができるということが必要だと思っています。親委員会ではマクロで総花的な議論を行うことが多いため,実装に関わる中身の議論が積み上がりにくいということを以前から非常に心配しております。ぜひ専門性が担保された形で,技術的ガイドライン等の提案ができるようなアクセシビリティワーキングの設立をお願いできればと思います。
【堀田座長】 大変貴重な御意見でございます。本検討会議では,制度の設計の話まで踏み込んでいる関係で大変論点が大きくなっており,具体の実装のところまで細かに詰めることができていないという現実は確かにございますので,私たちも対応を考えたいと思います。貴重な御意見ありがとうございました。
続きまして,宮原委員,お願いいたします。
【宮原委員】 宮原でございます。本日は,大変貴重なお話,ありがとうございました。大変勉強になりました。
資料1の1ページ目(1)の1点目,最低限実装するべき機能という論点の中でも,令和6年までに優先するべきものに関する意見と,6ページ目の⑥にあります家庭学習における論点に関する意見を述べさせていただきたいと思います。
一つ目は,先ほど近藤先生がおっしゃったことに似ておりますが,本日伺いまして,障害のある児童生徒が求めるニーズも様々ですし,日本語指導が必要な児童生徒が求めるニーズも様々だと思いますが,共通項も多くあるのではないかと感じました。もちろん,日本語で通常の教育を受ける児童生徒においても共通で必要な機能もたくさんありますでしょうし,そういった児童でも学習の習熟度のスピードには個人差がありますので,本日教えていただいた様々な機能はそういったところでも使っていけるのだろうと思いました。そういった必要とされている機能を整理して共通項を見つけ出し,短期的に対応するものと中長期的にやるもの,あるいはデジタル教材で行うもの,デジタル教科書で実現するもの,あるいはデバイスで実現するもの,ソフトで実現するもの,それ以外の制度面で実現するものという形で整理をしていくと,少し議論が絞られるのではないかと感じました。
二つ目に,日本語指導を必要とする児童生徒の家庭での学習もそうですが,家庭学習におけるサポートをどのようにしていくかというのは大きな課題だと思っております。現在,端末があっても学校でしか使えず,家庭に持って帰れないという状況もあるかと思います。これをどのように家庭学習につなげていけるかというのは,今後もきちんと議論しなければいけないと深く感じました。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
柴田委員,お願いいたします。
【柴田委員】 東京福祉大学の柴田です。障害のある児童生徒の学習を支援する機能について,本日お話しいただいたいずれも非常に重要だと思いながらお聞きしておりました。ありがとうございます。
そうした機能面での支援を行った上で,実用面での支援も必要になるのではないかと考えておりました。そしてそれは,教師へのサポートということにも関係してくることだと思います。例えば,白黒の反転表示は,重要な機能だと思っております。白背景ではまぶしさを感じるような子供たちが,黒背景にすることで使いやすくなることも考えられます。ただ,実用的な場面を考えると,背景の黒く表示される部分が広くなることで,今度は外光等の映り込みが気になりやすくなるという状況も生まれる可能性がありますし,場合によっては自分の顔が映り込んで見づらくなるということもあるかもしれません。そうしたところから,実際の学習場面において,ICT機器の使い方の視点と併せて,児童生徒が使いやすい機能と状況を柔軟に提供していくことが重要ではないかと考えました。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
黒川委員,お願いいたします。
【黒川委員】 本日はありがとうございました。デジタル教科書を作る側にとっては大変多くの課題を挙げていただき,責任を感じております。
資料1の4ページ②の2点目にございます「標準化」について申し上げます。現行のデジタル教科書については,これまでもお話ししましたように,これまで行ってきた検討会議や活用のガイドライン等を受け,新しい制度に基づいて開発を進めてきました。それが今年の4月から発行されているものです。標準化の観点で言えば,これから本会議で検討される方向性に加え,昨年度より行われている実証研究でのエビデンスを基に,実際にデジタル教科書を使っていただいた上で,具体的な在り方について調整を進めることが最も重要かと思っています。その結果,インターフェースや機能等の標準化に向けた改定や調整を行うことになるかと思いますが,令和6年度という区切りを考えると,初めから標準化ありきで進めることは難しいのではないかとも感じております。この「標準化」をどのように考えるかということをぜひ御検討いただきたいと思っております。
また,本日大変勉強させていただいた特別支援の関係について,デジタル教科書は全ての特別支援に対応できているわけではございません。教科用特定図書のように使用対象や使用方法を限定しているものでもないという限界がございます。ただ,事前に業界のガイドラインを策定して製作に取り組んでおりますので,現時点ではおおむね必要な機能等を搭載しているとは考えております。先ほども申し上げました通り,今後効果・影響等を実証させていただいて,改善項目を明確にさせていただきたいと思っております。
令和6年度に向けては,新たに改善あるいは追加すべき基本項目を明確化するとともに,各機能については,例えば表示の設定方法等,中野委員からも御指摘のあったフォントの種類の制約,色の数や組合せ,音声のスピードや高さのレベル設定等を業界内で標準化するという調整は,比較的可能だと思っております。どこまでできるかということも含めて,業界全体で検討し,取り組んでいきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
【堀田座長】 力強い御意見をありがとうございました。
続きまして,白鳥委員,お願いいたします。
【白鳥委員】 皆様の発表,大変勉強になりました。ありがとうございます。障害の程度や違いによって,望まれる機能性や操作性は本当に様々なのだなということを認識しました。先ほどの近藤先生の御発表にありましたけれども,ガイドライン,指針というところにつきましては,私も非常に必要性を感じております。ガイドラインの情報を基に機能を実現させる難しさという点は,常に身をもって感じておりますので,ガイドラインから一歩踏み込み,機能の仕様まで提示できると,より実現されやすくなるのではないかと思っております。
標準化を一気に進めることは難しいと思ってはおりますが,先ほど中野委員からの御発表の中に,ウェブアクセシビリティに関する標準仕様というお話がありました。こちらについては,ガイドラインに加えて達成基準等も整備されていますので,アクセシビリティの機能性や評価を知る上では分かりやすいものではないかと思っています。HTML5ベースのデジタル教科書であれば,参考になる部分も多いかと思っています。ビューアーの共通のアクセシビリティに関する要件として,まずはミニマムな操作性,機能性を備えるとの話であれば,その検討のきっかけになるものではないかと考えております。
ただし,ウェブのアクセシビリティを主としていますので,デジタル教科書や教科特性についてはあまり加味されておりません。したがって,そのまま標準化して使いましょうという話ではないと思っていますので,そういうものをベースにし,先ほどありました評価や意見の反映ができる仕組みと併せて,ガイドラインや指針としていくのが良いのではないかと思っております。
以上でございます。
【堀田座長】 ありがとうございました。
加藤委員,お願いいたします。
【加藤委員】 大変勉強になりました。ありがとうございました。
「標準的に備えることが望ましい最低限の機能」を,教科書の範囲で考えるのか,必須の教材として提供するのかということをきちんと決めていかなくてはならないのだろうと思っております。加えて,本日の話をお聞きし,各教材ないしは前回の話で出てきた追加の教材について,アクセシビリティをどのように確保していくのかということが非常に重要で,かつ難しい問題だと思いました。教材については,ビューアー側から何らかのインターフェースを用意しておかないと,その教材を作る側の開発コストが非常に上がってしまい,そのために,結局,アクセシビリティを確保していない教材が教科書にどんどん付されていってしまうということも起きてしまうのではないかと感じております。こういった点についても考えていかなければならないのではないかと思いました。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございます。
続きまして,河嶌委員,お願いいたします。
【河嶌委員】 柏市教育委員会の河嶌でございます。各発表をしていただいた先生方,ありがとうございました。資料1の3ページにありますデジタル教材について申し上げます。まず,特別支援教育関係について,本市においても特別支援教室在籍児童生徒数は年々増加しており,約10年前と比べ4倍増となっています。特に,自閉症、情緒障害の児童生徒の増加が著しくなっております。現状,特別支援学級は1学級8人で編成されており,各学級につき8台のタブレットを配置し授業で活用しています。8人の子ども達に1人の学級担任が係わっていますが,障害内容の多様な子どもの指導に苦慮しています。現在,担任がフリーソフトやデイジー教科書等を活用し,子ども達の学習意欲の向上や集中力の継続を図っていますが,特別支援学級の個々の子ども達の活動を即時評価し,次の問題へとつなげてくれるようなデジタル教材の提供が望まれます。
次に,齋藤委員,佐々木先生から御発表いただいた,日本語が通じない児童生徒への支援についてです。本市では,現在74名の日本語指導を要する児童生徒が在籍しており,有償ボランティアの方々による取り出し指導を受けています。指導内容は日本語基礎と教科指導です。日本語指導も必要ですが,子ども達の母国での学習背景が様々なため、未習内容に大きな差があります。個々が自由に学び直しできるようなデジタル教材の提供が望まれます。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございました。
続きまして,片山敏郎委員,お願いします。
【片山(敏)委員】 本日はありがとうございました。教科書は,どの児童生徒にも使用されるという点で,文化の源になるのではないかと考えたときに,現在,GIGAスクール構想により目指している「個別最適な学び」を,デジタル教科書を作成する上でもしっかりと方針の柱に示すと良いのではないかと思いました。アクセシビリティを柱にするということです。
特別な配慮を必要とする児童生徒のニーズは,私たちが一般に想像している以上に多様であるという実態が明らかになり,教科書というよりも,主に将来的な課題として整理された動画等のデジタル教材に求められる部分が大きいのではないかと思います。それでも,デジタル教科書の範囲でできそうなところ,例えば字幕や手話等,一部についてのみでも,実装していくことは必要だと思っています。
また,ボランティア団体の方々の知見が非常にたくさんあるということですので,そこをいかに整理して,どのように教科書発行者に還元していくのか,その連携を図ることができると,実装にまでつながっていくのではないかと思いました。
大変勉強になりました。ありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございます。
片山弘喜委員,お願いいたします。
【片山(弘)委員】 本日はどうもありがとうございました。資料1の1ページ「個別的事項」にあります「標準的に備えることが望ましい最低限の機能」について,お話を通じて具体的に考えておりました。同ページの「参考」に書いてある例については,ほとんどが「最低限の機能」に当てはまるのではないかと考えながらお聞きしていたところですが,この機能は現状のデジタル教科書において既に具現化されているものではないかと感じました。ただ,これらの機能が全て入っているデジタル教科書であっても,実際の使用者からの意見や実証研究により改善等を行って,標準化していく必要があるのではないかと思います。
以上です。
【堀田座長】 ありがとうございます。
続いて,中川委員,お願いいたします。
【中川委員】 本日の御発表,大変勉強になりました。ありがとうございました。資料1に記載のある「最低限」というキーワードについて2点申し上げます。
1点目に,前回の会議において,デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業について報告をさせていただきましたが,その中で,特別な配慮を必要とする児童にとって,特に音声読み上げ機能や試行錯誤ができる機能等が学習内容の理解に役立ったという回答を得ることができました。今後,さらに多くの学校で広く使っていただき,そこからより多くのデータを収集する必要があることを実感しました。
本日の御発表から,非常に多岐にわたる機能等が必要だということがよく分かりました。ただ,現実問題としては,誰がどこまで負担するのかということにも直結しますので,議論がさらに必要だと思いました。
2点目に,最低限何を備えるべきか,ということについて,この「最低限」という言葉が,「それだけ実装すれば良い」というように独り歩きしないように留意する必要はあるかと思いました。
以上です。ありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございました。
それでは,東原座長代理,よろしくお願いいたします。
【東原座長代理】 中野委員や近藤先生とは過去にも御一緒させていただく機会があり,デジタル教科書の在り方を考える中で特別支援のことを勉強させていただいておりましたが,本日,とても整理した形で御説明してくださり,何が大切であるかということが非常によく分かりました。
本検討会議においてもう少し議論しなければいけないと思ったのは,近藤先生の御指摘事項でございます。
資料1においては,論点が整理されつつあり,デジタル教科書に標準的に備えるべき機能や仕様やデジタル教材との連携等を,今後整理していくということが書かれています。それが本当に実現するためには,実装に当たっての技術や,様々なものの発展に合わせたガイドラインの修正の仕組みが必要かと思います。あるいは,あるデジタル教科書がそのガイドラインに沿っているかどうかを,検定ほどではなくとも,チェックして丸をつける,マル適マークをつける等,うまく動いていくための仕組みを検討できると良いのではないかと考えています。現在,教科書協会がございますけれども,あえて「デジタル」を頭につけた「デジタル教科書協会」等,何らかの団体を設立していくことも広い意味での制度に関する検討の一つかもしれません。以上のようなことを,もう少しこの会議において検討できると良いのではないかと思いました。
今回は検討しておりませんが,今後,クラウド等による配信が行われることになれば,その点についても誰が管理するのか等を考えなくてはなりません。デジタル教科書それ自体を現場で活用するための制度以外の業務の仕組みについても,きちんと検討を進めていかなくてはならないのではないかと感じました。
どうもありがとうございました。
【堀田座長】 ありがとうございました。大変貴重なまとめをいただきました。
座長として一言だけ申し上げます。本日お配りしている,資料1をまとめるに当たっては,事務局とじっくりと議論いたしました。本日の情報提供も併せてよく分かることは,デジタル教科書あるいは教科書のデジタル化,それに伴うデジタル教材との連携,この辺りに対して大変期待が大きいということでございます。本日は特別支援が必要な児童生徒や日本語に通じない児童生徒といった切り口で多くの情報をいただきましたが,必ずしもこうした児童生徒だけの問題ではなく,通常学級にいる児童生徒全てに対して,どのようにアクセシビリティを高めるかという観点で,非常に貴重な御意見をいただいたと思います。
これを現実にするためには,以前から言われておりますが,コンテンツとしての教科書,すなわち教科書の中身の話と,デジタルによって教科書と教材がどのようにリンクするかという点が重要です。データの標準化等の議論ともつながりますが,その具体について考えて実装していくためには,教科書と教材が機能でつながっていくことに鑑みると,機能を考えるための技術的な部分,とりわけ,加藤委員もおっしゃったように,ビューアーの機能のようなところをどのぐらい標準装備できるのか等,データ形式の話も具体的に詰めていかなければいけないのではないかと思います。黒川委員もおっしゃったとおり,今のところ,業界団体やボランティアの方に非常に御負担いただいているわけですので,こういうことについて誰がどこまでやっていくのかという役割分担を考えなければいけないと私も考えております。東原座長代理がまさに先ほどおっしゃったように,制度改正は大事ですが,それとはまた別に,業務負担をどうするかということについても,近い未来と少し先の未来を切り分けながら,技術的なことと,質保証された教科書の在り方のようなことを制度によってうまく担保しながらやっていかなければいけないということがよく分かりました。
したがいまして,相変わらず論点は多くございますが,まずは具体的にできるところから少しずつ整理していくという形で進めてまいりたいと思いますし,近藤先生から先ほど御指摘いただいた,具体的な,特に技術的なところの整理を急いで,実装をはじめ,そして中川委員もおっしゃったように,まずもっと使っていただくということ,加えて,黒川委員もおっしゃったように,それによって効果・影響を実証していくということを,少しサイクルを早めて進めていく必要があると思いました。理念的なことだけを議論していて先に進まないということになっては困りますので,この辺りを具体的にやっていくように,改めて事務局と相談してまいりたいと思います。
それでは,最後に,次回以降のスケジュールにつきまして,事務局より,資料8に沿って説明をお願いいたします。
【季武課長補佐】 次回以降のスケジュールを説明させていただきます。
第4回は,9月23日(水曜日)16時から開催させていただく予定としております。議題が「デジタル教科書使用の際の留意事項についてヒアリング・意見交換」であり,健康影響等,デジタル教科書が児童生徒に与える影響や使用に当たっての留意事項についてヒアリングを行い,意見交換させていただく予定でございます。
また,第5回につきましては,10月27日(火曜日)16時からを予定しております。
以上でございます。よろしくお願いします。
【堀田座長】 ありがとうございました。
今後の予定は今御説明のあったとおりですが,同時に,中央教育審議会においては答申に向けた取りまとめが行われておりますので,そちらとも調整を図りながら検討を進めてまいりたいと思います。
本日はこれでお開きとさせていただきます。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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