新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議(第2回)議事要旨

1.日時

令和元年10月16日(水曜日)15時30分~18時15分

2.場所

文部科学省3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 前回の会議における主な御意見等
  2. 特別支援教育を担う教員の専門性の整理と養成の在り方について
  3. その他

4.出席者

委員

宮﨑主査,岡田主査代理,阿部委員(代理竹下氏),石橋委員,市川委員,一木委員,大出委員,片岡委員,金森委員,川髙委員,木村委員,熊谷委員,竹中委員,田村委員,成澤委員,野口委員,日詰委員,廣瀬委員,佛坂委員,松倉委員,真砂委員,山口委員,山中委員,吉藤委員(代理尾崎氏)

文部科学省

蝦名大臣官房審議官(初等中等教育局担当),俵特別支援教育課長,佐々木特別支援教育企画官,青木初等中等教育局視学官,斎藤特別支援教育課課長補佐

オブザーバー

本後オブザーバー(代理加藤専門官),西牧オブザーバー,梅澤オブザーバー

5.議事要旨

(1)冒頭,宮﨑主査から台風19号の被害へのお悔やみの言葉,事務局から前回(第1回)欠席委員の紹介があった。
(2)前回会議における主な御意見等(資料1)について,事務局から説明があった。
(3)特別支援教育を担う教員の専門性の整理と養成の在り方について,一木委員(資料2-1),廣瀬委員(資料2-2),独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(資料2-3)から発表があり,その後,全体での意見交換が行われた。

(1)の欠席委員の挨拶及び(3)の意見交換の詳細は以下の通り。


(1)前回(第1回)欠席者の紹介と挨拶

【委員】 ちょうど6年前に人口7万の総社市で,障害者の雇用を1,000人雇用するため,180人からスタートして2年前に雇用1,000人を達成。特別支援教育の在り方に全力を傾注し,障害者の方々が将来的に働いて,生きていて良かったという世界を作れるよう,これからも頑張りたい。

【委員】 大学で障害に関するバリアフリーの研究と,学内の障害を持った学生・教職員を支援する「バリアフリー支援室」の室長を兼任。大学にいながら,様々な領域で初等中等教育における特別支援教育の充実の必要性を感じることが多く,是非議論させていただきたい。

【委員】 全日制・定時制・通信制の3課程を有し,生徒数約2,000名,職員数約200名という大規模な高校の校長をしている。校長の他にも,副校長,教頭3名,事務室9名という大きな体制である。普通科高校の中にも様々な課題を抱えた生徒が在籍する中,「新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ」との兼任で本会議にも参加している。是非勉強させていただきたい。

【委員(代理出席者)】株式会社オリィ研究所の責任者で,新規事業も担当。現在,会社として障害者の就労支援に積極的に取り組んでいる中,課題としていつも出てくるのが教育の部分であり,真剣に考える機会が多い。実際に,特別支援学校と協力し,教育の部分を担保しつつ就労につなげる活動をしているところ。勉強しながら様々な意見ができればと思う。


(3)特別支援教育を担う教員の専門性の整理と養成の在り方に関する意見交換

【委員】 小・中・高等学校の教員の養成をする立場にある者として発言。今回,学習指導要領が改訂され,それについて学生にも指導をしているが,通常学級で行う各教科において,特別の支援が必要な幼児童生徒に対して,困難さを見極めたり,手立ての意図を明確にしたり,手立てを工夫する必要があると明示するなど,よく作り込まれている。学生が学習する段階で,自分たちは特別な支援が必要な子供たちに対して指導するのだという認識が形成されるように考えられている。また,特別な支援を必要とする幼児児童生徒の理解に関する科目,本学では「特別支援教育概論」と呼ぶが,それが大学に設置されたことは,幼小中高等学校の教員を目指す者にとって,特別な支援が必要な子供たちが自分たちの指導の範囲であることをまず理解し,その構えを作るという観点で非常に大きな一歩。その上で,手立てなどの基本的な考え方や方法論については,全教科・領域の中で行われる自立活動の考え方で行うべきと考えている。実際に,大学の授業では,テキストとともに,学習指導要領の自立活動の解説を学生に持たせ,自立活動の理念や意義について,具体的な場面を思い浮かべさせながら授業を行っている。各教科の免許状を取得しようとする者にとって,特別支援教育にとって最も大切なことは,自立活動の意義や考え方を深く理解することだと感じている。免許法施行規則第六条の「第四欄」,すなわち,道徳や総合的な学習の時間,生徒指導や教育相談の指導法については,いずれも学生に対して理論と指導法がセットになって組まれている。ところが,特別支援教育の理解に関する科目は,両者が合わさったような形にはなっているが,特に自立活動に関する具体的な指導法のところが時間的に非常に不足している。自立活動の指導法が科目として入っていくと,もっと学生が自信を持って教員として立つことができるのではないか。特に,小中学校の教員を希望する者は,現行制度上,小中学校での通級による指導や,特別支援学級の担当者になることが校務分掌として想定され,場合によっては教員になって1年目,2年目,3年目という段階から,発達障害の子供に対する通級による指導や,特別支援学級,知的障害の教育課程について,実際にカリキュラムを作ったり指導をしたりしていくことになる。その指導法についての学習領域にもう少し時間をかけても良いのではないか。学生が教員になったときに,戸惑うことなく,通常学級,通級による指導,特別支援学級で,より専門性を深めながら指導していくことができるような授業の構成が必要。特別支援教育概論の各大学での指導状況について,学生が教員になるに当たって,特別支援教育についての十分な基礎的科目になっているのか,あるいは,通級による指導や特別支援学級を担当する者としてふさわしい学習内容になっているのかの観点から,精査いただきたい。

【委員】 行政の立場として,冒頭で総社市が最も力を入れているのは障害者雇用政策である旨発言したが,本会議においても「自立」というところに軸足を置いていることが分かり,安心した。特別支援学校を卒業した後の子供たちを,市役所で預かっていくことになるが,圧倒的な引きこもりの多さに困っている。総社市人口7万人のうち,引きこもりは懇切丁寧に数えて417人。これは,発達障害の延長線上にある場合や,特別支援学校の延長線上にある場合など,様々な場合があるが,そこに達しないようにするための教育指針の在り方を更に検討いただきたい。元をたどれば,引きこもりやその環境,社会を作った責任は市長や行政にあり,競争社会を作った我々の責任でもあるが,そうは言っても,引きこもりにならないような指導の在り方について,現状として日本全国で115万人,鳥取と島根県を合わせたよりも多い数が引きこもっている状況に鑑み,御協力を頂きたい。

【委員】 特別支援学校免許への移行期であった9年前に,筑波大学で特別支援学校の専修免許を取得した。その後,小学校で1年間働いているが,養成段階で言われたことがなかなか現場ではピンとこなかったことを覚えている。特別支援教育が始まったばかりだったこともあるが,今も同じような課題を若手の先生から聞く。理由としては,特別支援学校の免許では小学校でも発達障害の子供への対応が難しいこと,また,養成段階で学んだことと現場の実態とを結び付けて自分で考えることが非常に難しいこと,の二点があるのではないか。現在,私はLITALICOで発達障害のある子供への支援を行っており,8,000人もの子供が来ているが,指導員は800人程度。配属前に養成研修を行ったとしても,配属前の座学は,実践の経験がないとどうしてもピンと来ない。したがって,現状としては,まず指導員のレベルを8段階に分け,各段階で必要なスキルを定義し,日々実践をしながら,養成段階で学んだ言語と同じ言語を使って,スーパーバイザーから定期的かつ個別に,自分の実践に対するフィードバックを受ける形で指導員の育成をしている。この8年間の実践の中で,それが一番効果的かつ,コストエフェクティブであることが分かった。それを踏まえて,御提案が三つ。一点目は,発達障害の専門性という観点で,「免許を新設する」という形ではなく,現行の特別支援学校の免許から,現状の場の連続性や教育内容の連続性に合わせる形で,発達障害を含む特別支援教育免許のような形に変更していけると良いのではないか。その上で,通級による指導と特別支援学級において,特別支援教育免許を,現在は特別支援学校のみ必須となっているところを義務化していくという考え方もあるのではないか。二点目は,養成研修の改善のみでなく,スーパーバイズ体制の構築が非常に重要。座学のみでは成果がないというエビデンスが,特別支援教育の分野では,アメリカの論文で出ている。そうしたエビデンスを考えたときも,養成や研修のみでなく,現場で具体的なスーパーバイズを受ける体制とセットで考えていく必要がある。その場合,スーパーバイザーの配置や育成が肝になってくるため,ただ「背中を見て学べ」ではなく,スーパーバイズの仕方を教えていくことが必要。最後に,養成研修の内容について,話題に出ている通り,障害種についての教育内容,自立活動や各教科に関する内容に加えて,前回もお伝えしたように,行動問題への対応方法を加えてほしい。どうしても行動問題のある子供は体罰や虐待のリスクが高い。そのリスクを減らすための内容を扱っていくことも必要ではないか。養成段階においても,現場研修においても,エビデンスに基づく行動問題の対応については学ぶべき内容であると考える。

【委員】 先ほど発表のあった教育委員会の取組を見ていても,発達障害が大きな項目になっている。私は40年間,児童精神科医としてやってきたが,その仕事の大半は,保護者の先生に対する意見の聞き取りや,具合が悪くなった先生への対応であった。保護者が全て正しいかどうかは分からないが,先生の対応に問題があるところも見受けられた。最近考えていることは,「注意する」「叱る」ことの理由として,障害があると思わないからそうした対応をしてきたのではないかということ。発達障害という概念を使ってみると,その注意の仕方では不適切という子供もおり,私が関係する教育委員会では,「またお前か」「何回言ったらお前は分かるんだ」の二つの発言は発達障害には禁忌と伝えている。これは,教育だけではなく医療や福祉でも余り理解できておらず,最近になって理解されるようになってきたところ。教育の方も変えていかなければならない。先ほど総社市長が発言されたように,引きこもりの3分の1dプラスアルファが発達障害を持った者であるという報告が,厚生労働省科研費の成果として出ており,文部科学省だけではなくて厚生労働省においても,高齢になった人の引きこもりへの対応が喫緊の課題になっている。 特別支援教育の開始以来,非常に上手に対応してくださる先生が確実に増えている一方で,旧態依然とした先生がいるのも事実。もちろん,盲・ろう・身体障害を中心に日本の教育は始まっていて,これらに対して良い教育を行っていく必要はあるが,精神,知的,発達障害についても,余り知られていなかった部分もあり,是非これを正面から捉えてほしい。特別支援教育の障害分類の中になぜ発達障害は含まれないのか。特別支援教育の教員養成課程の中で,発達障害はやっと1科目必須になったが,なぜ継子(ままこ)扱いするのか。発達障害に対応してきている立場としてはこの点を強く感じており,しっかりとやっていかなければ様々なところで問題が起きてしまうのではないかと,他の委員の意見も聞いて考えているところ。

【委員(代理出席者)】 我々の活動の中でも,委員の意見に賛同する部分がある。大学での教育課程や,教員免許,研修など,様々な取組が行われていることは理解しており,大事なことではあるが,学んでいる方たちが,なぜそれを学ばなければならないのかを実感して学んでいるかどうかが重要。特別支援学校を出た方や活動に協力いただいている方も含め,我々の活動を経た方たちは,自分で様々なことを学び始める。その姿を見ていると,やはり「なぜ学ばなければならないか」を理解した上での学びという観点が重要と感じている。そのためには,座学中心ではなく,実際には座学だけではなく様々な研修もされていることと思うが,できれば,将来どのように活動する子供たちに接するのか,課外授業でもっと多く触れ合うことで,子供たちの実態から将来を見た上で,自らが学んでいることがどう生きていくのか,何をやらなければならないのかを実感してもらうような活動があっても良いと考える。

【委員】 先ほどの大学の授業に関するお話も大変興味深く伺ったが,神奈川県でも,若手の教員を特別支援学校に短期間で研修に出し,また普通科高校に戻って,得た知見を様々な教育に生かしていくという取組を行っている。免許法の改正により,免許がなければ特別支援学校での教育ができないようにすることでの専門性の担保は良いことではあるが,普通科高校の教員にはまだそうした知見がない者が多い一方で,現実問題として対応が必要な生徒がたくさん入学している。その観点から,特別支援学校の免許所有を条件とせずに,短期間の研修のような形で,普通科高校の中でも知見を広げていく役割を担えるよう,幅を緩めていただきたい。本校では,文部科学省から3年間の指定を受け,定時制・通信制の職員を中心に取り組んだ結果,職員のハードルが変わった。これまでは「困った生徒」とすぐに捉えがちだったところを,「本当に困っているんだな」,「何か困っているんだな。その原因は何かな」というように,本当の意味で職員室内の会話が変わった。この変化に3年間掛かったが,確実に変わっていく。是非,普通科高校の職員を特別支援学校に派遣する機会があると良い旨,学校現場からの実体験を基にお伝えしたい。

【委員(代理出席者)】 2点意見を述べたい。1点目は,教員養成の問題について。「特別支援学校免許」とすることについて,決して異論があるわけではないが,その場合に懸念されるのは,せっかく大学で蓄積してきた視覚,聴覚などの障害種別の教育のレベル,教員の資質など,これまで専門性を持って育ててきたものが薄れていくということになるならば,それは果たしてどうなのかと思う。「特別支援学校免許」となった場合であっても,障害種別で,その分野におけるスペシャリスト,エキスパートを常に意識した教員免許の在り方というものも十分に考慮していただきたい。もう1点は,人事の問題で気になる点。私は50年ほど前に盲学校を出た人間であるが,その頃と違って,今の盲学校等を見ていると,どうしても3年,2年おきに人事で異動してしまう。そうすると,盲学校の先生方でも点字も知らない先生が大半になってしまう。校長会の話を聞いていると,新任の先生には半年内に点字を獲得してもらうという趣旨のことをおっしゃっているが,率直なところ,にわか仕立ての点字獲得であって,点字による生徒の指導力まで身に付けたとは到底言えない現実がある。盲学校の教員として経験豊富な先生方が,人事異動していくことで専門性が蓄積されていかない問題について,どのような形で補償し,専門性を維持・向上させていくかということも,人事の工夫という観点で考えていただくことをお願いしたい。

【委員】 先生方からの御意見を頂き,改めて現行の免許法に基づく養成段階の課題について全体で共有いただけていると思うところ。発達障害のお子さんを含めて,その対応が喫緊の課題であることは,私自身も重々認識しているつもりである。ただ,子供への対応を導き出すためには,子供の理解が必要であり,学校の現場にいる教員としては,どのようなまなざしで子供の理解を深めるか。この点を担うのが自立活動である。勘違いかもしれないが,この場においても,自立活動に関する認識が一律ではないのではないかなと感じるところ。我が国の教育は,障害のある子供たちも基本的に各教科を学ぶことが前提となっており,障害による学びにくさや学校生活を送る上での困難さがあれば,その状態そのものを改善するような指導を並行して行うことで,各教科等の学びの成立を図ろうとするものである。そこに位置付くのが自立活動になる。自立活動の一番のポイントは,子供が見せる姿の背景を探り,その背景にある根源的な課題そのものの改善を通して教科等の学びを支えていくこと。その点において,今回,委員の先生方にも,自立活動の指導力を養成段階で今後一層しっかりと育んでいく必要がある旨,認識を共有いただいていると捉えている。一方で,養成段階でどこまでできるかという課題も,併せて視野に収めていただきたい。先ほどの発表の最後に,求められる内容に関する試案を提示したが,例えば本学では,卒業に要する最低単位数が132単位となっている。特支の場合は,小学校か中学校のいずれかの免許に加えて,特支の免許を取得することが必要で,中には幼稚園の免許もという学生もおり,それだけで140ないし160単位。大学で様々なことを習得できるに越したことはないが,現実的にどこまで目指すかという視点も併せて必要。子供を理解し,適切に指導することは言うほど容易ではない中で,通常の学校の先生方,すなわち,教科書が手元にあって指導に携わる先生方についても,教師研究において,1年目ないし3年目は,明日はどうするというサバイバルの状況に置かれることが指摘されている。その点も含めて議論が展開されればと思う。

( 休憩の後,再開 )

【委員】お三方の御発表の後,たくさんの御意見を頂いた。具体的に御自身で免許を取得し,その後の動きの中で,教員養成の在り方,特にスーパーバイズの重要性,現場での研修の在り方,特に発達障害の行動問題等への対応について御提案があった。また,障害種の問題も出されているわけであるが,いずれにしても,学校現場においてどのような形で養成と一緒に対応ができるか,具体的にそのような研修等をされている取組があれば,是非御発言いただきたい。もう一点,免許制度について考える際に,従来の免許の在り方から専門性が低下し損なわれることのないようにすべきとの意見があり,これについては,具体的に大事な視点として,一番基本的なところとして自立活動が存在するとの意見があった。

【委員】 本学のスポーツ科学部に勤めて3年目,その前は国立特別支援教育総合研究所に9年ほど勤めたが,大学へ出てみて思うのは,特総研のコンテンツの質が非常に高く,これをどう活用していくかが大事と考える。特総研では教員の第1ステージから第3ステージまでのコンテンツを作っているとの報告があったが,大学では教員養成課程の学生にも特総研のコンテンツを見せることがあり,非常に価値が高い。教員養成大学の教員は,特別支援教育の全領域の内容を勉強しなければならない一方で,網羅しているかと言うと,それぞれの専門領域を中心に研究を行っているため,特総研のコンテンツの存在は非常に意味が高い。特に私が所属する私立大学では,国立大学のように附属特別支援学校がなく,実習は地域の公立学校へ行かなければならないため,現場の経験を豊富に得るのに非常に苦労する。学生が座学ではない体験をどう学ぶか,大事な要素であり実際に必要なことであると感じる。さらに,体育の教員を目指す学生が多く,特別支援教育の免許も取ろうとすると,160単位ほどの授業を取らなければならない。それを考えると,特別支援教育の免許は本当に4年間で取るべきものなのか,疑問に感じるところがある。前回の検討では,大学院で取ることとする議論もあったと聞いているが,例えば,特別支援教育の免許を一般の教員免許の上位に位置付け,一般の教員免許を取った上で,更に特別支援教育についてしっかり学んだ人が教える,ということも検討が必要ではないか。もう一点,実際に障害のある子供たちの声を,本会議の中に取り入れていただきたい。委員の中にも障害当事者がいらっしゃるため,この後御発言があると思うが,ある筋疾患の二十歳過ぎの女性は,特別支援学校の卒業時に「勉強がしたかった」というようなことを言っていた。特別支援学校は,障害に対応した教育という意味では非常に質が高いが,教科指導においては弱い部分があり,指導の専門性が必要。私の専門としては,その一つにICTの活用があり,ICTを活用して学習をすることで,自身で学ぶ学び方が可能になる。ICTの観点も教員研修や指導の中身の議論に生かせるとよい。

【委員】 前半の発表を聞いて,福祉の分野で仕事をしている者にとっても,教育分野でこれだけ丁寧に様々な研修が行われていることを知ることができ,自立活動が肝であることが良く分かった。これまでの意見交換では,「どうやって」「何を」のうち「どうやって」の部分に関しては様々なアイデアが出てきており,それらについては工夫をしていけば良いと思うが,「何を」の部分の議論がこれから深まると良い。引きこもりや発達障害の話題もそうだが,国立のぞみの園で,高齢期の方や強度行動障害の方,矯正施設を退所された方などの様子を見ていると,もっと教育で学んでくればと思うことがたくさんあったことを,メッセージとして受け取っている。それらを自立活動の中でどう取り入れ,どのようなことをやっていくのかについては,時期によって変わると思うが,それらをある程度固めて,教えられる先生方が増えるためにはどうすれば良いか,「何を」という部分も議論する必要がある。手段だけでは後でひっくり返る話になってしまいかねないため,この部分についても議論が必要。その際,引きこもりや,矯正施設退所者の話など,放り出されても学校も困ると思われるため,教育分野で教える内容の整理に当たって,教育,福祉,医療が一緒になって意見を出し合い,何を学校で教えてもらいたいかをまとめていく議論が,一連の流れの中でできると良い。

【委員】 知的障害の子供たちが通う特別支援学校の校長の立場で,研修内容の方向性と養成の方法について発言したい。まず,研修内容の方向性については,自立活動とは「今必要」という意味での自立活動であるが,子供にとって受け身の授業になることもある。子供たちが社会に出たときに幸せに社会参加していくため,合理的配慮の意思表明をする力を身に付けられるような,内容,質を伴った自立活動の研修内容にしてほしい。そうすれば,先ほどの引きこもりなどの問題も減弱するのではないか。もう一つ,研修内容について,先ほど「特別支援学校では勉強がしたかった」という耳の痛い御発言があったが,やはり知的障害の各教科の専門性は弱いと思う。今回の学習指導要領では,例えば,小学部の国語の1段階や2段階,算数の1段階,2段階と細かく丁寧に書いていただいたが,個々の児童の発達の過程との関係で,特に段階の低い児童に関して,児童全体として教科横断的にどう捉えていくか,教科と発達の過程の中で研修内容を深めていくことが必要。また,養成の方法についても,先ほどの委員の意見に賛成で,やはり現場としては即戦力を養成してほしい。そのためには,現在,インターンシップについて,大学によっては希望制として単位認定しているところもあると聞くが,それを悉皆(しっかい)の単位として,一定期間,学習補助員などの形で学校現場に入り,現場経験を積んでから大学を卒業していくようなカリキュラムの設定をしていただきたい。加えて,特総研では丁寧な研修プログラムを作っていただいていて,本校でも受講希望者が多いが,2か月間も必要なのか。現場としては,出す方も能力の高い先生を出すことになるため,非常に厳しい。1か月に縮小しより多くの教員に専門研修を受けさせこととするなど,これからの時代は,幅広く,専門研修を受ける人数を増やす方向で検討いただきたい。あと1点,前回の議論でも話題に出たが,義務標準法の基礎定数の配置の見直しをお願いしたい。現場としては,都道府県の研修センターに出したくても,学校教育法施行令第22条の3に該当する子供たちを抱えており,特に小学部の教員を出すのは非常に厳しい。教員養成の視点も踏まえて基礎定数配置の見直しもお願いしたい。

【委員】 3点お話ししたい。1点目は免許について。先ほど委員から挙がった「特別支援教育免許」の意見に賛成したい。発達障害を含めた免許も必要であると思う。ただ,自立活動をしっかりマスターできるような,より専門的な免許も併せて必要であり,免許の在り方は段階的に考えた方が良い。北海道の場合は,教育実習生が大変増えて,大学と特別支援学校長会とで検討しながら,割り振りをして対応している状況。力のある特別支援学級の先生方も多いため,特に発達障害を含めた「特別支援教育免許」を構想するのであれば,特別支援学級の先生方にも指導に協力いただくことで,小中学校の意識も高まるのではないか。2点目として,現場のスーパーバイザーをどう支えるか。北海道でも,特別支援教育センターを中心に,特別支援学校のコーディネーターの養成等を行い,中核となる人材を育ててきたが,それだけではなかなか賄えないため,最近では市町村の小中学校の先生方の人材育成,専門性の向上を直接行っていく方向になっている。教育相談事業等をやっても,切りがなくなっており,直接小中学校の先生方を育てていく。ただし,市町村間の温度差があると思われるため,それぞれの都道府県でもやれることかもしれないが,理解啓発を更に進めていく必要がある。3点目として,人事について。先ほど委員からもお話があったが,特に視覚や聴覚は県に1校しかない場合も多く,盲学校では37県が1校しかない状況。それぞれの人事は都道府県に任されているが,都道府県だけでは対応し切れないことも考えられる。例えば,北海道では北東北3県との人事交流を行っており,そうした取組をもっと積極的に行ってはどうか。例えば,函館と青森の人事を盲学校同士で入れ替える場合,新幹線で1時間の距離であるため,道内の異動よりも楽かもしれない。そうしたことができそうな地域で,どんどん隣近所でやっていけば,例えば,一回移った後にまた戻ってきて,盲学校あるいはろう学校の専門家として確実に育てて,中心になる人材を作っていく形ができ,より専門的な教育ができるのではないか。

【委員】 先ほど委員から,「何のために」というポイントと「どのように」というポイントを整理して議論すべきとのお話があり,共感した。私の方から,その二点を合わせた形で話題提供したい。端的に提案を申し上げると,障害を持った先生を増やした方が良い。医療や福祉の分野でも,あるいは刑務所からの地域移行に関しても,当事者の力が非常に注目されている。それは,「何のために」を考えたときに,どうしても当事者以外の人では気付かない面があるからであり,最終的に「何のための教育なのか」を考えたときに,欠かすことのできない視点は当然当事者から得られるものだと考えられる。その意味では,障害を持ったピアワーカーの方や,医療関係者や福祉関係者,あるいは,刑務所からの地域移行をサポートするピアワーカーの方なども,御本人の経験を持った方が非常に活躍しているのが世界の状況である。今回話題に上っている「自立」という概念を考えてみても,やはりロールモデルの存在は欠かせない。加えて,先ほど点字の話もあったが,手話にしても点字にしても,カルチャーとして,教育現場の中に障害を持った方にとっての必要不可欠な文化的資源が根付く必要がある。その意味でも,常態的にある一定数以上,教育を提供する立場のインクルージョンの視点を持つことが必要と言える。ただし,2点ほど留保が必要。1点目は,当事者ならば十分というわけではもちろんないこと。今回議論されているカリキュラムの充実は,当事者性を持った教員においても提供される必要があり,合理的配慮を提供した上で,学ぶ環境を整える必要がある。2点目は,海外の研究において,人数が大事だと言われていること。ピアワーカーが医療現場に一人きりで入ると,燃え尽きや,価値観に飲み込まれてしまって,下手をすると健常者以上に健常者的な価値観を持ってしまったり,「私だってこんなに頑張っているんだからお前も頑張れ」という学習をしてしまったりするピアワーカーもいる。その意味では,ある程度組織のカルチャーを変えるくらいの規模感で,障害を持った方が教育現場に入る必要がある。加えて,先ほど「困った人」ではなくて,「困っている子供だったんだ」という話があったが,これも内部視点と言うか,本人から見て世界がどう見えているのか,当事者の視点を周りに通訳してくれるピアの存在が,障害に対するスティグマを,偏見や差別を教育現場から取り除く上で極めて重要と言える。ちなみにもう一点,虐待についても,虐待を減らす医療施設を実現する上でピアワーカーの存在が極めて重要,かつ,ある程度の人数を達成する必要があることも言われている。今回議論されているテーマの大部分は,障害を持った本人の視点を職員室にもたらすことで,全部解決とは言えなくともかなり先に進めるのではないか。翻って,例えば,私は大学で障害のある学生への支援を行っているが,障害を持った大学生が教育課程上十分に教育実習を受けられるかというと,厳しい現状がある。教員になるプロセス自体の基礎的環境整備や合理的配慮という問題も,是非,議論のテーブルの上に載せていただきたい。

【委員】 今の御意見で思い出したこととして,文部科学省が公表している「障害者活躍推進プラン」の6番目が「障害当事者の教員を増やすこと」であるが,その具体策は今のところ何もないと私は考えている。現在,大学で学んでいる障害当事者は約2万人強と言われているが,この中で,教員養成に係っている,教職課程を取ろうとしている方は極めて少なく,全国で教員になろうと受験している方は,私の調査ではわずか700名程度。これを増やさなければならない。また規模感についても,是非,大学の先生方,教員養成に関わっている方々にも考えていただきたい。全国で最も多く採用している県でも,頑張って3名か4名。この状況に対して,各県必死ではあるものの,そもそも受験生が少ないことが問題として存在している。これは相当考えなければならない。養成の中身と具体的な規模を増やすこととを,同時に考えていくことが必要であり,これはこの場でしか考えられない問題であるため,是非皆さんにも考えていただきたい。

【委員】 特別支援学級と通級による指導で学ぶ子供たちが非常に増加しており,指導する先生も増加していることは,皆さん御存じのとおりと思うが,それだけ期待を担っている教育であると理解している。しかし,特別支援学校と違うところは,特別支援学級や通級による指導の先生は,その学校の中では少数派であること。したがって,自分たちで専門性を磨きたいと思っても,なかなか少人数の中では磨くことができない,研修に参加しようとしても,子供を置いていけない,同じ土壌で特別支援教育のことを話したくても,通常の学級の先生が多い,と言うような現状がある。その中で,専門性を担保するものは特別支援学校教諭の免許になると思うが,特別支援学級の教員の保有率は3割程度である。これを増やしていくために文部科学省でも苦労いただいているが,増えていく現状にない。全特協で行ったアンケートでは,特別支援学級や通級による指導の先生の免許がないために,特別支援学校の免許だと当てはまらないとか,取得に行けない,なかなか教員に勧めにくい,などの意見が校長先生から出てきている。これまで日本では特別支援学校教諭の免許を5種の障害種別でやってきて,その蓄積はとても大きい。一方,新たに自閉症,発達障害等が急増し,必要とされる領域になっていることを踏まえ,それらについての免許や専門性ももう少し明確にしていく必要がある。どのような形になるかは分からないが,発達障害,自閉症について免許は必要だろう。2点目として,専門性に関し,「自立活動が肝」との意見について同意する。自立活動を小中学校の方で理解してもらうのが,なかなか困難な状況にある。平成29年に全特協が行った調査では,特別支援学級を設置している小中学校の校長の4割程度しか自立活動を理解しておらず,残りの6割の校長先生方は,自信がないとの回答結果が出ている。今度の学習指導要領では,小中学校の総則に自立活動という言葉が載ったため,もう少し理解が進むと思うが,6区分27項目,すばらしい内容である一方で,それを小中学校にいかに浸透させていくか。通級や特別支援学級で学んでいない,通常の学級に在籍する支援の必要な子供に対しても,自立活動の考え方で接していってもらうためには,自立活動を広げるための努力,自立活動の内容の更なる整理が必要である。6区分27項目の考え方はすっきりしているが,やはり障害の重いお子さんから,今,通級に通う発達障害のある障害の程度が軽いと言われるお子さんまで全てを網羅するものであるため,自立活動も,もう少し通常の小中学校の方でも使えるようなものにする必要がある。現行の学習指導要領解説書にはLD・ADHDなどが大分入っており、わかりやすくなったが,もう少し取り組んでいく必要がある。3点目は,特別支援教育に関わる人の専門性とは何か。これは全特協でも常に話し合うところであるが,「何が専門性か」の答えはなかなか難しい。特総研の資料の中で,指導者養成研修のカリキュラム設定の要素例が参考資料として出されているが,こうした内容が専門性になってくるのだろう。通常の小中学校の先生の場合,例えば,中学校の数学の教師としての専門性など「何々の教師としての専門性」がある程度出てくる。「特別支援教育を学ぶ者としての専門性」の答えが,もう少し明確になると良い。現在,通級による指導も増えてきている中,心理職が行うことを自分たちがやって,それが専門性と考える向きもある。しかし,やはり私たちは教員であるため,教員としての専門性は,心理職からの助言は受けるが,それとは異なるものがあるのではないか。専門性とは何かの部分を明確にしていくことも大事ではないかと考える。

【委員】 目が見えず,大学時代に引きこもりをした経験のある者として,一人のロールモデルとして話ができればと思う。年間100泊程度出張し,来月もアフリカに出張するような毎日を送っている。提案はできないが,3点エピソードを御紹介したい。小中高等学校は佐賀の通常の学校に通った。目が見えないと,周りの専門家や先生方から「点字を覚えると良い」「白いつえを突くと良い」「パソコンを覚えられると良い」などと言われたが,僕は「あほか」と思っていた。僕は,点字を覚えてやり取りする相手がいないから困っているのに。僕は白いつえを突いて外出する先やきっかけがないから困っているのに。僕はパソコンを覚えてどんな情報を得たらこのドキドキが止まるか分からないから困っているのに,と。支援や教育のような仕事をしていると,目的と手段がひっくり返ることが多くある。2点目,「自立活動とはこんなことかな」と思った話を共有させていただきたい。皆さんも御存じかもしれないが,北海道にある有名な精神科のソーシャルワーカーの先生が,あるところで講演をした。その後,町の役場の人から連絡があった。「ノイローゼになりそうなので,相談に乗ってくれ」。なぜその役場の人はノイローゼになりそうだったかと言うと,毎日のようにある引きこもりの人から「俺は引きこもりだ。誰か役場の職員で俺と昼飯を食べに行ってほしい。食べに行かないと事件を起こす。」と脅しのような電話がかかってきていたからである。そこで,役場の人は,先生の講演を聴き,先生に引きこもりの人の相手をバトンタッチしてもらいたいと考え,実際に,その引きこもりで長く働いていない人は,先生と直接やり取りをするようになったとのこと。その先生がたまたま,引きこもっている人の家の近所で講演をする機会に恵まれ,引きこもりの人から先生に「一緒にお昼に行ってくれ」と言われたため,ウナギ御飯を食べに行き,ごちそうしたそうである。すると,何が起きたか。引きこもりの彼は,先生にウナギ御飯をおごるために働き始め,「先生,また講演に来てください。そのとき先生におごりたいから,僕はまた働く。」と言ったとのこと。「自立訓練」「就労支援」と言っていると,税金を納めることは大事,自立することは大事,一人暮らしは大事,となる。ただ,人は自分のためよりも誰かのために頑張れる。僕の考える就労支援は,エクセルを打つことも大事だし,税金を納めることも大事だが,おごることって結構楽しい。人は誰かのために頑張れると教えることが,就労支援の仕事ではないか,そして,先の例のおごる機会みたいなことが頑張れるよ,と伝えるのが,教員の仕事ではないかと考えている。もう1点,去年,年間140回ほど講演をしたが,あるとき高校生のお母さんから質問があった。「うちの子は発達障害,不登校,引きこもりだが,仮面ライダーになりたいと言っていて,どうしたら良いか」,僕の専門外だなと思いつつ,「プロダクションで働いたり,グッズ屋で働いたり,多様な働き方がある」と適当にごまかすと,別のお母さんが「はい」と手を挙げた。「うちの子も,小学校の頃から不登校,引きこもり,発達障害を持っていて,仮面ライダーになりたいとずっと言っていた。」と。そのお母さんが「仮面ライダーの中には人が入っているんだよ」と教えてあげたところ,僕はその後を聞いて涙がこぼれた。その子は「今,仮面ライダーの中に入って仕事をしている」と,そのお母さんは答えていた。僕らは,子供が「仮面ライダーになりたい」「ユーチューバーになりたい」と言ったら,笑うか,ばかにするか,なかったことにする。やりたいことを言ってみて,ばかにされたら,もう言わないもの。しかし,その子のお母さんは,仮面ライダーの中に人が入っていると,まるで夢を壊すようなことを言ったけれども,その後,きっと中に入れるようにお手伝いをしたのだと思う。御飯を食べさせ,学校へ行かせ,オーディションへ連れて行ったのだろう。現在は週の半分は仮面ライダーの中に入っていて,二つも副業をしているとのこと。「仮面ライダーの中に人が入っている」と言ってあげられること,「おごることが楽しみだ」と言えることが,僕は,教員の専門性であり,今回議論されている自立活動ではないかと思い,先ほど「何のために」の話題が出ていたことも受けて,共有させていただいた。

【委員】 実際に障害のある社員を雇用して,一緒に働く立場にあり,少し違う立場から感想などをお話しさせていただきたい。まず,実際に会社で社会活動をしている立場で話を聞くと,これだけ様々なことが考えられていたり,様々な視点で物事が語られていることが理解できた一方,自立活動の言葉の定義が不明確だったり,立場によって捉え方が異なるだろうことを強く感じた。その上で,実際に社会に出て働くことを考えたときに,自立活動の定義が社会につながっているのかという観点を,議論の中に加えていただくと良いのではないか。実際,当社の場合は,特別支援学校を卒業して入社する社員や,特別支援教育を受けた後に働く社員が多いが,社会に出た後困っていることとしては,学校の中では何とか自分でできないことをできるように教わるが,一方で,会社に出ると,できないことを克服すること自体が難しかったり,そもそもできないことを克服するのが良いかとなると,そうでもないケースが多かったりする。やはり,できないことを克服するのではなくて,自身を理解し,周囲に説明し,どうやって一緒にやっていくかを考えられることが,社会に出た後,社員が生きていく上で大切になる。あと2点お伝えしたいことがある。1点は,当事者と一緒に仕事をすることは,実はとても多様な視点や価値観を学べること。当社の場合,障害のある社員が7割弱おり,当事者だからこそ分かること,当事者だからこそ説明ができることが多くある。会社として,様々な社会活動をする上で,当事者でないと気付けないようなことも多く,先ほどの御意見にあった「当事者と一緒に働く」「当事者と一緒に何かをする」ことで学ぶ価値が非常に大きいことを実感している。最後に,支援の関わり方について,1点目の話と似てくるが,どうしても「自分で何とかする」「自分で何かをする」という価値観が強い。支援者として,「生徒が何かをできるようにさせてあげなければならない」ことばかりを強く感じるだけでなく,前提として,「生徒が何を考えているか」「何を求めているか」の発想が多少なりとも入ってくると面白いのではないか。

【委員】 資料3-1の「日本の特別支援教育の現状」について,追加で法令等における自立活動の位置付け等の資料が入っている。改めて御確認をお願いしたい。

【委員】 重複障害児に対する教育の専門性について申し上げたい。前回の会議で,私から,重複障害児に対する教育の専門性を確保することが必要である旨発言した。その専門性を確保するために,教育免許の細分化,教員養成期間の長期化などの方策も考えられるが,学生にとって,こうした方策はいかがなものかと考える。せっかく特別支援教育に取り組もうとする志の高い学生を,ハードルを上げることで逃がしかねない。と言うのも,ある法科大学院の運営諮問委員を務めているが,法科大学院は様々な理念の下で作った結果,司法試験の志望者が減り,さらに,法科大学院へ行かずに司法試験を受ける予備試験のコースにも学生が流れ,結局,法曹を志望する学生を減らしてしまった。学生に対するハードルを上げてしまうのはいかがなものかと考える。そこで,どうやってこの5障害種をまたがる重複障害に対する教育の専門性を確保するかについては,一方策として,特別支援学校の統合を考えてはどうか。例えば,盲ろう児教育で言えば,盲学校とろう学校を統合する。統合校を一校作り,もちろん,統合と言っても物理的にはそのままで,一つの傘の下で運営を統合すると,そこが拠点となって,盲ろう児教育に取り組もうとする教員や保護者が集まる。そして,盲ろう児教育が専門化して,データが蓄積され,全国に波及していく。そうすると,これから盲ろう児教育に取り組もうとする教員-盲かろうの資格を持った教員だと思われるが,そういう人たちの研修もそこでできるし,先ほどお話があった特総研との重複障害児に対する教育の連携も図ることができる。正に,特別支援教育の下で,特別支援学校がセンター的機能を果たすという意味で,理想的な形になっていくのではないか。したがって,そのようにうまく回っていけば,重複障害児に対する教育を免許で押さえることをしなくても,専門性が確保されていくのではないかと考え,提案としてお話させていただいた。

【委員】 今の免許の仕組みとして,総合免許状化の考え方で整理されたのが約10年前であるが,当時も障害種を超えた「特別支援学校」の名称で対応した。それが,学校の規模の問題まで発展しているところではあるが,今お話があったような学校の統合の考え方などもあわせて,検討いただきたい。

【委員】 二点申し上げる。一点目は,幼小中高の教員養成に係る施策動向の中で,特別支援学校や特別支援学級,通級による指導のそれぞれの教育を担う教員の養成については,十分に議論されていない現状がある。具体的に二点。まず,育成指標に基づく養成研修の一体化が,幼小中高については国レベルで議論がなされ,都道府県レベルで具体化されているのに対し,現状として,特別支援については追いついていないこと。もう一つは,養成段階で何をどこまで培うのかに関し,本日コアカリキュラムの資料をお配りしたが,この検討が,特別支援学校の教員養成については,議論がまだこれからであること。この点を先生方と共有できればと思ったところ。それから,もう一点は,特別支援教育の免許について議論が交わされたが,今後検討していく上で,障害種を超えた共通性と,障害種別の特殊性の二点を念頭に置きながら,どのように専門性を担保するかの議論が大事。加えて,従前の免許については,もれなく教育実習が課されるが,特別支援学校の教育実習先の確保は,制度的な破綻,限界が見えている。私の所属は国立大学であるが,附属学校がない。特別支援学校の免許を出す私立の大学も年々増加する中で,実習先の確保は非常に厳しい状況となっている。したがって,特別支援学級・通級による指導も含め,特別支援教育を担う教師を目指す学生が養成段階で学ぶ中身として何が必要かの議論と,制度としての枠組み,すなわち,免許の形とするのか,免許が実習と連動するのであれば,何らかの資格を検討するのか,両者は分けて検討していくことも必要ではないか。

【委員】 発達障害に関するところは必要性が高い一方,免許制度の議論があったが,この中身をどう付けていくかのところは,やはり十分に議論する必要がある。現在の免許制度は,特別支援学校だけではなく小中高も含めて,学校種ごとに,教科が付いている。ここに例えば,発達障害や言語障害を加えたり,課題別の免許制度にしたりするとなれば,全て組み直しをすることになるし,細分化すると,今度は県で1校のように異動が難しい場合に,学校をどう活性化し新しいものを入れていくかという点で困難さが出てくること,結果的には,充足率が非常に低くなっていくという難しさがある。皆様の御意見を聞いて,免許制度だけにこだわらず,中身をどうやって付けていくかの議論が必要と認識した。また,大学での基本的な理解は大事であるが,教育実習の数週間では,インターンシップ,職場を知るということで終わってしまう。本校では教員200人ほどが在籍する中で,初任者を9人採用した。この中で,サブティーチャーと言うか,現在では助教諭や教諭補の立場はほとんどないと思うが,メインティーチャーを見ながら,声のかけ方や保護者対応の仕方,車いすの押し方などを含めて,細かく習いながら自立していくことになるが,この自立とは違って,半年程度で色んなことを任せられる人から,主担任になるまで3年程度かかる人もいる。一方で,特別支援の枠で採用されても,人不足により通常の小学校に配置されることもあり,その場合は数日で担任を任され,非常に厳しい。私が知っている数人は全員年度途中で退職した。と言うことは,実際の現場でやりながら学んでいく部分もある一方で,基本的なことを教わりながらも,助教諭的な立場で付いて,OJTをしながら覚えていき,どこかで担任になっていくこととするなど,仕組みを考えていく必要がある。やはり,定数改善をしながら,しっかり人を育てていくことが必要であり,免許制度だけの話ではないと言える。今,特別支援学校に来る教員の倍率が落ちている。大学の金銭的な負担や,授業の中身に対する負担について,委員からも意見が出ていたが,私も同様に感じるところ。学校に来た中で,そばで支える人がいながら,独り立ちできるように,ある程度の時間をかけて伸ばしていかなければ,結局実は育たない。生身の一人一人違う状態の方に関わることであり,そこが大事。もう一つ,カウンセリングや教育相談などの「指導実技」に関するものは,実際のケースを通して覚えていく側面があるため,大学の時間数が増えれば現場に行っても万全,とはならない。途中で現職として戻ってきて再確認することの方が,実際には大きいのではないかと,現場を担う者として考えているところ。

【委員】 先ほどの特別支援学校の統合化に関しては,群馬県ではまだであるが,全国的には盲ろうや知肢病など,5種障害の特別支援学校も存在しているところ。また,障害者の職員に関しては,知的障害の場合,職員としては起用できないところもあるが,本校の一例を紹介したい。本校の食品製造コースに3年間所属し,卒業した後,夜間で2年ほど学び,調理師の免許を取得。一般企業での勤務を経て,現在は学校と本人との雇用関係の下,本校の講師として勤務している。なかなか知的障害の子供たちに関しては,障害者雇用は難しいところがあるが,本人の適性に合った部分でしっかり学んできており,現在本人は子供たちから「講師」「先生」と呼ばれている。在学している子供たちとの関係も非常に良く,当事者として,近い距離にある。子供たちの場づくりという観点も必要。また,養成課程に関する議論も進められてきたが,私は専門性の部分の外枠として,私立の連合会と群馬県の状況について集約してきたため,この場で共有したい。群馬県では,知的障害の特別支援学校の部主事と学校の中核となる教員の育成,人事異動の活発化,小中学部については,免許状保有率は高いが,高等部の場合は,高校からの異動もあり,保有率が下がっていること,臨時的,任用教員が免許法認定講習をすぐに受講できない状況などが課題となっている。肢体不自由の方の集約としては,現状として,専門性の高い教員の配置に関し,保護者の期待があるため,新転任者の特別支援教育免許状の取得を積極的に働きかけている。教員の異動については,長く肢体不自由教育に関わってきた教員が異動していくと,なかなか代わりの先生がおらず,難しい状況にある。教員の健康状態について,学校・寄宿舎での生活における介助等,一日に何度も生徒を抱き上げる場面があり,男性・女性問わず,慢性的な腰痛に悩まされている教員が多い。また,中には健康上の理由から,介助できない教職員もおり,更に負担が大きくなってきて,日頃から休憩時間にストレッチ等を行いつつ,講師を招いての腰痛予防の研修を行っている状況もあり,一層健康管理に努めなければならない状況。このように,教職員は現場で非常に厳しい状況にあり,専門性については,こうした状況も含んだ中でフォローをしていくことが必要である。課題としては,教員が日々の授業を通じて,自立的に学ぶことができるような専門性向上の体制を強化するため,専門職,理学療法士,言語聴覚士等の学校への配置や,日常的・継続的に連携が取れる体制の構築などの希望が出ている。私どもとしても,教師の専門性とは,教員の養成段階から形成されるというよりは,現場において教師としての実践を積み,自主研修を積むことで成り立つものではないかと考える。専門レベルは,どの企業で採用になっても,限界における専門性が求められることからすれば,教師の適不適の者がいて当然と言えば当然と言える。「専門職」と呼ばれる職業は,常に自主研修が求められる。日常における自主研修が専門性の維持・発展につながる基本である。また,専門職でありながら,その処遇は十分とは言えない。実は,私立の特別支援学校は,公立の2分の1程度で運営がなされていることもあり,教師が専門職に就きたいと情熱を持って勤務しても,その情熱が次第に薄れ,教員採用試験を受けて公立学校に移行していくケースもある。私立は異動しない特別支援学校である一方で,経済的な事情もあって,なかなか定着できていない。教師の質向上には,待遇の改善は必要。魅力ある職業に就き,子供への愛情と職場への情熱を維持するためには,それなりの収入源が確保されることが必要ではないか。

【委員】 先ほどから出ている教員免許については,やはり発達障害等を含む自閉症等にも対応した,何かしらの特別支援教育全般に関する免許を検討する必要があると考えるが,同時に,障害種の専門性の継承も一緒に考えていくことが大切。2点目として,各学校で現職の先生方が研修を受け,現場で成長して専門性を高めていく過程には,段階があると考えられる。若手や初任の方等は,先ほども出ていたが,教員間でOJT等により現場で助言しながら育ってもらうことが必要。また,ミドルリーダーとなると,例えば,富山県の場合,「特別指導者招へい講座」が35年続いている。これは,1年間,同じ大学のあるお一人の先生に,年間10回,10日間来ていただき,その講座に特別支援学校から二十数名が受講する。受講時間は,大学での2.7単位ほどになり,1年間通して同じ先生から教えを頂いて,最終的にちょっとした研究論文を出すこともある。その研修を受けたミドルの方は,本当に自覚が出てきて,リーダーとして育ててくれている。学校が活性化するし,県全体の特別支援教育も底上げされていると感じているこの35年間である。やはり,年代に応じて段階的に育てる必要があると考えている。

【委員】 養成の在り方について,様々な御意見があった。ただ,ハードルを上げると人がいなくなる問題もあり,どうするかを考えていかなければならない。同時に,学校現場に入ってからの研修の在り方についても,きちっと分けて整理をしたいところ。委員から紹介があった,学校のスタッフとして知的障害の方を雇用していくことは,とても大事な視点。どのような学校の中身にしていくかは,専門家だけいれば良い話ではなくて,自分たちの育てた子供たちをどう学校の中で雇用していくかという点も,同時に考えていかなければならない課題として提起していただいた。

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(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課企画調査係)